「精神共有(マインド・シェア)……?」
 クライスが屋上で口に出した、「マジックワンドとしての最大の能力」。その具体的な名称が、これだった。
「ああ。簡潔に言えば、私をお前の精神の中に取り込むんだ」
「いや、簡潔にって言われてもどうにもピンと来ないんだけど……二重人格とか、そんな感じになるのか?」
「違うな。――ひとまず、精力が二倍になる」
「マジで!?」
「嘘だ」
 …………。
「お前、真面目な話なんだろこれ!?」
「そう思うんだったらそんなに過剰に反応するな。――何だ? 最近精力が足りんのか?」
「違うわい!!」
 何でこんなにその手のネタが好きなんだよ、こいつ……


この翼、大空へ広げた日
SCENE 15  「確かなる想いの行き先」


「二重人格……近いと言ったら近いかもしれんな。細かく言えば違うのだが、悪質なものがない二重人格、と言うべきだろうか。体は雄真だが、精神は雄真の精神と私の精神、二つが同時に展開するんだ」
「いや、結局全然意味がわからないんだけど」
「よし、具体例を挙げてやろう。例えば、マインド・シェアの状態で、お前は右を見て、お前から右側の視界を頭に入れるとする。が、体内の私の精神は左を見て、お前から左側の視界を頭に入れる。――どうなると思う?」
「――俺の頭には、左右両方の視界が同時に頭に入ってくるってことか?」
「その通り。つまり、同時に展開しているんだ、私とお前の精神がな」
 そ、その通りって……何だよ、その技……!?
「具体例その二。戦闘中、お前は詠唱に百パーセント意識を傾けるとする。その間、注意は散漫になるよな?」
「まあ、な」
 未熟な俺だ。詠唱に意識向けたら回りが見えなくなるのは未だに日常茶飯事だったりもする。
「ところがその間私の精神は前方の視界を確認し、位置的な危険を確認する。お前の足を動かして、詠唱に専念するお前を位置的に安全な位置に移動させる。お前は詠唱しているから、私が移動・回避させた瞬間に魔法を放つことも可能になる。これもつまり、精神の同時の展開」
「…………」
 だんだんと頭が理解してきた、クライスの言う「精神の同時の展開」。でも、これって……
「凄過ぎないか? 本当にただ、それだけなのか?」
「ああ、メリットならもう一つあるぞ」
 まだメリットがあるのか!?
「私の本来の役目は何だか知ってるか?」
「いや、本来の役目、って……マジックワンドなんだから、主の魔法の補助、だろ?」
「その通り。マスターは、自らが契約したマジックワンドを介して、魔力のコントロールを行うものだ。――その私が体内にいたら、どうなると思う?」
「……もしかして」
「体内にある、隅から隅までの魔力の絶対なるコントロールが可能になる。結果として詠唱の部分破棄などの有利な展開に持ち込める。お前がどれだけ道を究めて私との相性を完璧にしたとしても、それはコントロールの力が百パーセントになるだけ。マインド・シェアの状態は……そうだな、大体百五十パーセント位だろうか」
「凄ぇ……」
 何だよ、この技……ほぼ無敵、完璧な技じゃんかよ……
「ちなみにお前、似たような現象を一度引き出したことがあること、承知しているか?」
「――え? 似たような……って、俺が一度もう、これに近いことをやってるってことか?」
「ああ。――月邑家で、後枢隆彦と戦った時のこと、覚えてるか?」
 月邑家での後枢隆彦との戦い。――雫ちゃんの婚約者だった奴で、酷い奴で、俺達と戦闘になって、仲間の話によれば俺が倒したっていう話。でも俺自身、倒した時の記憶が……
「……まさか」
「奴を倒した時、更には戦闘の記憶、無いだろう。――あの時気を失ってる間のお前の肉体を操作していたの、私だ」
「ええええええ!?」
 あの時の俺が倒したってのはクライスがやってくれたのか!?
「無意識の内にマインド・シェアを発動させたんだ。契約もしていなかったのにある意味奇跡の中の奇跡だな。――こちらとしては相当焦ったぞ? 発動させたお前は気を失うし、怪しまれるわけにもいかん。なので強引な方法で終わらせてすぐにお前に精神を返したんだ」
「マジですか……」
 あの時のことは深くは考えないようにしてたけど、意外なところに答えがあった。俄かには信じられないような答えだけど、でも、そう言われると筋が通る。
「話がそれたな。――無論デメリットもある」
「――ああ、そう、そこを聞いておきたかったんだ」
 世の中そう上手くいくわけないよな。
「王道で悪いが、長い時間帯使えるものじゃない。元々人間には一つの精神しか存在しない。その人間の体内に無理矢理もう一つ、精神を植えつけるんだ。結果、元々あった精神――つまりお前の精神に対する負担はかなり大きい。使用時間を間違えれば――精神崩壊、再起不能だ。制限時間内だったとしても使用後しばらくはろくに動くこともままならん」
「…………」
 アッサリと言ってくれるけど、精神崩壊って……怖すぎだぞ……
「その、制限時間って、どの位なんだ?」
「訓練次第で伸びるものではあるが……今のお前だったら、五、六分が限度だろうな。しかもそれはギリギリの時間。万が一使用するとしても、出来れば三分程度に抑えたいところだ」
「五、六分が限界で、出来れば三分……」
「よくあるヒーロー物の宿命と同じだな。最強に近いものが手に入るが、地上にいられるのは三分、ってわけだ」
「……三分」
 あの光線を出す巨大化ヒーローは確実に三分で倒せるけど、そう上手くいく保証はないだろうな……
「私からの説明は、こんなところだ。お前が使いたいというのなら、明日からでもやり方を伝授してやる。お前が決めていい」
「…………」
「――本音を言えば、私としては複雑な心境だ」
「そう……なのか?」
「何が楽しくて、自らのマスターを窮地に追い込まなければならない?」
「……あ」
 まあ、説明の限り、危険な技みたいだしな。
「正直なことを言えば、お前が私をワンド化して契約した時も私としては反対だったんだ。――お前には魔力の暴走の可能性というのがどうしてもまだ残っている。いつ何処で、何がきっかけでマインド・シェアが発動して、お前が壊れてしまうかもわからない状態だった。――もっと経験を積ませてから私を持たせるべきだった、とあの頃は思っていた」
「……今は?」
「そうだな。――お前の心意気次第で、私の不安など吹き消してくれそうな気がしている」
 俺の心意気次第で、か。
「だからお前が決めろ。私はお前の決断に、どこまでもついていく。――お前を壊させたりは、しないさ」
 俺に選択肢があるのなら。俺に一瞬でも、誰かを守る力が出来るのならば。――もう誰も、失わないで済むのなら。
「教えてくれないか、その技。――使いたい。今の俺に、必要なんだ」


「な……」
「ちょ、ちょっと雄真、しっかりしなさいよ!? 我が名はクライスって、アンタ……!?」
 誰もがその手を止めて雄真と盛原の動向に注目してしまう。特に雄真の。――仲間達の動揺は無理もない話しである。一見したら雄真がおかしくなったようにしか受け取れない。
「フ、その歳でマインド・シェアを使いこなすとは思わなかったな。だがワンドの方が主導権を握るものなのかな?」
「我が主は今回が初めてなものでな。気分が落ち着くまでは私が「表」に出ているだけだ」
「成る程。――どちらにしろ大したものだ。驚いたよ」
「お褒めの言葉、光栄だ。だが――」
 だが雄真はその様子を気にする雰囲気を見せず、冷静に盛原と対峙し続ける。バァン、と不意に激しい音が響く。その瞬間――
「油断をするのは、いささか失礼に当たるとは思わないのか?」
「――!!」
 雄真は既に、盛原の真正面で身構えていた。更に一瞬右腕を淡く光らせると、そのままその右腕で直接攻撃に入った。
「くっ!!」
 ズバァン!!――瞬時に繰り出された盛原の応対の魔法と衝突し、二人の間合いは再び開く。
「移動術からの……レジストの……ダイレクトアタックだと……?」
 盛原の表情から、少しずつ、余裕が薄れ始めていた。雄真が先ほど右腕に纏ったのは、レジストだったのだ。――レジストのダイレクトアタック。レジストとは、相手の攻撃魔法から身を守る、つまり相手の魔力を緩和――言い換えれば、魔法にダメージを与えるものなのだ。つまりレジストを直接相手に攻撃として当てれば、相手の魔力にダメージを与えることが出来る。それが、レジストのダイレクトアタックである。
 無論、誰にでも扱える技ではない。この技が使えるのは――
「ほう、驚くか。――言い忘れていたが、我が主は御薙の正式な後継者でな。才能だけならば現当主よりも上だ」
 そう。御薙の血を持つ人間にしか扱えない技なのである。
「成る程、そして君がその先代から仕えるマジックワンドというわけか。――危ないところだったな。後五年後……いや三年後だったとしたら」
「我々の圧勝だ。間違いなくな」
 どれだけマインド・シェアで絶大な力を駆使出来るようになったとしても、そこにはやはり雄真の実力不足が少なからず響いていた。もしも三年後、この先雄真が魔法使いとして三年間経験を積んだ後の対戦だったらその分の経験がプラスされることにより、雄真が完全に優勢だったのである。もしも、の話ではあるが。
「雄真……くん……」
 ふと気付くと、雄真の傍には春姫がいた。ちょうど間合いを開いた箇所の近くにいたせいか。
「心配かけて済まない、春姫。貴行を困惑させるつもりは微塵もなかったんだがな」
 チラリと顔を向けて軽く笑う雄真の顔も、声も雄真なのに、口調は確実にクライスのもの。
「だが信じてもらえないか、我々を。貴行を、仲間達を悲しませるような結果にはせん。それは我が主――雄真の誓いでもある。この戦い、必ず勝利してみせる」
 そこまで言い切ると、再び雄真は再び厳しい面持ちで盛原と対峙。――そこで春姫は気付いた。雄真が醸し出している気迫。何度か感じたことがある。クライスが、厳しい口調になると感じられた、あの気迫。それが今雄真から、全面に押し出されているのである。
(本当に、クライスが……)
 それはつまり、今雄真の体内にいるのはクライスであることの証明。証拠のない証明。いつでも雄真の傍にいた春姫だからこそいち早く感じ取れた証明であった。
「――ベルトゥス・イルム」
「――エダ・クル・フェンブル!」
 そしてやはり再び始まる盛原と雄真との戦闘。――それを封切りに、止まりかけていた周囲の戦闘も再び開始される。
(迷ってなんかいられない……雄真くんを、信じなきゃ……!!)
 春姫も迷いを振り切り、目の前の敵との戦闘を再び開始する。――雄真と盛原を取り囲むように、周囲での戦闘は続いていた。
「ライルス・テラ・アダファルス・レイ!」
「させんよ!――ベルトゥス・ミラアクア!」
 二人の実力はほぼ互角であった。――正確に言えば盛原の方が上かもしれない。雄真はクライスとのマインド・シェアの状態で五分なのである。そういう意味では盛原の方が上だろう。
 だが優勢はほんの少しではあったが、雄真(とクライス)の方が優勢であった。実力は互角でも、レジストのダイレクトアタック等、御薙の血筋独特の力を使用してくる雄真の動きは、盛原には予測し辛かった。確かに楓奈に魔法を教えた――つまりあの楓奈の接近戦用の魔法も教えた盛原は、接近戦にも慣れている。だがアトランダムな動きを見せ、一般的な接近戦用の魔法とは似て異なる雄真の魔法を盛原は掴みそこねていた。
 このような戦況、つまり雄真が少なからず優勢に持ち込めているのは、やはりクライスの力が大きい。鈴莉と共に過ごした期間に得た経験は絶大なるものである。
「――カルティエ・エル・アダファルス!」
 再び初級魔法により、短時間で巨大な火炎球を作り放つ雄真。
「同じ手は食わんよ!」
 盛原はそれに対し、早めの相殺魔法。盛原から離れた箇所でぶつかり合い、二つの魔法が消える。
「――誰が、同じ手だと?」
「――っ!!」
 が、次の瞬間、既に雄真は盛原の右側に間合いをつめていた。
(あの火炎球は……囮か……!!)
 ズバァン!――何度目になるだろうか、激しい衝突音と共に、再び間合いが開く二人。
「成る程、詰めが甘いのは、それをカバーするだけの実力があるからか」
「フ、言ってくれるな」
 二人とも精神的に余裕があるのは、経験豊富なせいだろうか。――と、そこで雄真が大きく息を吹く。
「さてと。――どうやら我が主が大分この状態に慣れたようだ。そろそろ交代といかせてもらおうか」
「ほう、あの少年がか?」
「おっと、勘違いされては困る。あくまで表立って語る人格が変わるだけで、実力は変わらん。気を抜いたが最後、貴殿の負けだ」
「――ご忠告、痛み入るよ」
 ズバァン!――そして再び、激しい衝突が始まった。


 不思議な感覚だった。俺でいて、まるで俺じゃないような感覚。戦闘中に、切羽詰った状況なのに不謹慎かもしれないが、俺は何か夢を見ているような、ふわふわした、そんな感じだった。
「――カルティエ・オグル・ケイツ!」
 無意識の内に知らない詠唱をしている俺。俺の意思で俺の知らないことをする俺。――まあ、答えを出せば全部クライスの知識のお陰なんだけどな。マインド・シェアってのは知識も共有出来るらしい。
 全てをひっくるめて、有り得ない自分の実力と戦闘状況に、問題なくついていける俺がいた。――クライスが言った「交代」をしたお陰で感覚が更にハッキリしてくる。
 ズバァン!――何度目かわからない接近戦での衝突。
「まだ……だっ!」
「っ!!」
 ズバァン!――間合いが離れてしまう前に、俺は空いていた左手をかざして速攻で攻撃魔法を放つ。お陰で普通よりも更に間合いが開く。――少しはダメージになっているんだろうか。それすら俺にはわからない。
「大したものだよ、少年……で、もういいのかな?」
 その口調を聞く限りでは、盛原教授の呼吸は多少は乱れているようだった。――それは俺もなんだけどな。
「俺は、負けるわけにはいかないんだよ……強くなるって決めたんだよ……俺を守ってくれた、楓奈の為にも……!!」
「そうか、楓奈の為か。――楓奈は随分と君に懐いていたようだな」
 確かにそうだろう。客観的に見ればそうだ。育ててくれた盛原教授よりも、ほんのわずかな時間一緒だった俺達を選んでくれたくらいだ、懐いていたって言ったらそうだろう。――でも。
「楓奈は……あんたにだって、十分懐いてた」
「ほう? 私は、裏切られた身なんだがな?」
「楓奈が、好きであんたのこと、裏切ったとでも思ってるのかよ……楓奈は、あんたのこと、裏切りたくなんてなかった」
「何を根拠に。それは君が楓奈に選ばれたからこそ言える、綺麗事ではないのかな?」
「楓奈は言ってた。自分にとって、「教授」は本当に大切な人だって。自分だけには、本当に優しかったって。自分にとって……父親のようなものだって、そう言ってたんだよ!!」
「…………」
「世間を知らない楓奈にとって、俺達に出会うまではあんただけが信頼出来る人で、あんただけが心のより所で、あんただけが家族で……あんたが、尊敬する父親だったんだ!! ずっと一緒にいて、共に生きてきて、自分を育ててくれた、自分には優しかった、父親を誰が裏切りたいなんて思うかよ!! 楓奈が俺達とあんたとの間でどれだけ悩んだか、わかってんのかよっ!!」
「……楓奈が……君達と私の間で、か……」
「あんたにとって、楓奈って何だったんだよ!? その辺の研究員の奴らなんかとは全然違うんだろ!? 優しくしてたんだろ!? 育ててきたんだろ!? 家族だったんじゃないのかよ!? 何でだよ、何で、楓奈をっ……!!」
「――私が楓奈を「殺した」理由が知りたいか、少年」
「っ……!!」
 その声は、どこまでも落ち着いていて、俺の耳に届く。
「君の言う通りだよ。――私にとって、楓奈は娘同然だった。私とて楓奈を失いたいとは思わなかった。とても大切だったさ」
「なら……何でだっ!!」
「決まっている。――父親として、親を裏切る娘に罪と罰を与えただけだ!!」
 な……んだって……!? そんな、そんな理由で……楓奈は……父親同然の人に……っ!!
「――貴様あああぁぁぁぁっ!!」
 ズバァン!!――俺は精一杯の力を込めて宙を駆け、強引に接近戦に持ち込む。もう何も考えられない。今は何も考えたくない。ただ目の前にいる、この人を倒すだけ。その先に何があるとか、過去に何があったとか、もうどうでもいい。ただ、奴を倒す。それ、だけ。
「っうっ……!!」
 バァン!!――今まで五分の相殺でお互い同じ距離後方に吹き飛ばされ間合いが開いていたが、初めて俺の攻撃の方が押したらしく、相手がそのままスライドする。
「……恐ろ、しいな、少年……ここへ来て……威力を上げてくるとは……」
 口調がたどたどしい。思った通り、確実に相手に響いているようだった。――だけど、
「っ……はあっ、はっ……」
 正直、俺の方も辛いものがあった。今の一撃で相当な魔力を使っちまった。それに……
「っ!?」
 ドクン、と大きく心臓を揺さぶられるような感覚。――マインド・シェアの限界が近かった。
(雄真、あと一発が限界だ。次で決めるしかない)
 俺の頭に直接響くクライスの思考。――わかってる。今の俺はお前の知識借りてるんだ。だから――ラスト一撃、何をすればいいかもわかってるさ。
 俺がやれる最後の一撃、それは。
「ディ・アムレスト」
 俺は前方に手をかざし、レジストを展開、あらためて利き腕の右腕にそのレジストを纏う。
「アリア・メイア・キャリバー!!」
 詠唱を終えた瞬間、俺の右腕のレジストが、純白に変色する。俺の右腕は、炎のような純白のレジストに包まれだした。
「――!?」
 その純白を見た瞬間、盛原教授の表情が驚愕のものに変わる。無理もない。流石に知らないだろうな。
 「プリフィケーション・レジスト」――それが、この純白のレジストの名前。通常のレジストのダイレクトアタックは、属にゲームでいう「MP(マジックポイント)」にダメージを与えるのに対し、このレジストはもっと根源的な――「魔法使いとしての才能」そのものにダメージを与えるものだ。つまり、魔法使いを、魔法使いではなくす、常識では考えられない技。人から魔力を浄化する、禁断のレジスト。御薙の血筋に伝わる、禁断の技――らしい。俺もマインド・シェアの状態だから多分わかるんだろうけど。
「成る程……体力が限界なのか、マインド・シェアが限界なのか……いずれにせよ、最後の一勝負というわけか。どんな技かはわからないが、おそらく御薙特有、禁じ手のような技だろう?」
 無論、相手にも俺が限界なのはモロバレ。
「しかし少年、君はまだ未熟のようだ。おそらくその技、キープし続けるだけで精一杯だろう? その位置から私にその技を当てられることが出来るのかな?」
 相手の言う通りだった。正直、このレジスト、このままの威力でキープし続けるだけで俺は精一杯だった。先ほどのぶつかり合いのせいで、俺と盛原教授の間合いは結構な距離がある。俺が間合いを詰める間、盛原教授が黙っているわけじゃない。無論俺に攻撃をしかけてくる。それをかわして俺はこの技を盛原教授にぶつけなきゃならない。かろうじて移動術は使えそうなものの、果たしてそれでどれだけいけるか。――でも。
「出来る、出来ないじゃない……やらなきゃ、ならないんだよ!!」
 俺が、ここで勝たなきゃ、この先へは進めない。
「いい答えだ、少年! いくぞ!!」
 盛原教授が数個の魔法球を俺に向かって放ってくる。俺は足に力を込めて、移動術で回避しつつ前進を――しようとした、その時だった。
「――え……!?」
 ヒュン!!――その風きり音と共に、俺の左右を、盛原教授が放った魔法球と同じ数の風の刃が通り抜け、そのまま一つ狂わずその魔法球とぶつかり合い、相殺された。
「そのまま行って!! 援護するから!! 私が、守ってあげるから!!」
 その聞き覚えのある声に後押しされ、俺は俺の後ろのその「有り得ないはずの存在」を確かめることなく、ただ一直線に、盛原教授へ向かって移動する。
 ズバン、ズガン、バァン、ズバァン!――その間にも繰り出される盛原教授の魔法は、俺の後方から放たれている風の魔法で、確実に相殺される。風が、風の魔法が――「彼女」が、俺を守ってくれた。そして――
「うおおおおおっっっ!!!」
 ズバアァァァン!!――激しい衝突音、同時に広がる目が眩むほどの光。――俺は盛原教授に、プリフィケーション・レジストをヒットさせた……


<最終回予告>

「楓奈には、自分の意思というのが欠けてた……そういうことですか?」

あの日、少年達は、風の少女に出会った。
純粋無垢に笑う少女と、彼らは友達になった。

「俺、やっぱりあなたのこと、許せません」

あの日、少年達は、風の少女を失った。
優しかったあの笑顔を、彼らは守りきれなかった。

「そっか……でも、あんなところで何を?」
「お墓参り、だそうですよ」

そして、少年達は、戦いに勝利した。
真相が、この作られた物語が明るみになった時、

「私も……姉様を亡くしているから、命を賭けて大切な者の為に動く人間のことはなんとなくわかるのだ」

――彼らは、何を思い、何を感じるだろうか。

次回、「この翼、大空へ広げた日」
LAST SCENE  「約束の翼」

「待ってるの」
「待ってる……?」
「うん、約束したんだ、一緒に遊ぼうって」

物語は幕を閉じる。
――抱えきれない程の切なさと、痛い位の優しさを、彼らの心に刻み付けて。



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