「きっと、将来――」

 それは、約束。

 あの日の遠い、約束。

 未だ果たせていなかった、約束。

 君は、見ていてくれているだろうか。

 長らく待たせてしまった。

 でも、最後の約束も、これで無事果たせそうだ。

 君は、待っていてくれているだろうか。

 やっぱり――長らく待たせてしまった。

 でも、もう終わりだ。

 これで私も……君の、元へ――


この翼、大空へ広げた日
LAST SCENE  「約束の翼」


「くうっ……!!」
 バシュッ、と大きな閃光が走ったと思うと、いつの間にか俺は右手にクライスを持っていた。
「お疲れだ、雄真」
 そのクライスの言葉。――マインド・シェアが解除されたらしい。全身にまったくもって力が入らない。これが反動ってやつか……
「しかし、大したものだ、お前は」
「? どういうことだよ?」
「七分三十五秒。――今回、マインド・シェアをしていた時間だ」
「七分三十五秒……って、ええ!? おい、ちょっ、確か今の俺だと五、六分が限界って話じゃなかったっけ!?」
 大丈夫なのかよ俺!? 何処かおかしくなってるんじゃないか!? 左手がクライスになってるとか!!
「安心しろ、問題ない。ただ単に、今の戦闘中にお前がマインド・シェアに慣れた。だから扱える時間が伸びただけだ。――色々考えてはいたが、ここまで短時間で慣れるとは流石に予想外だったぞ」
 何処か楽しそうに嬉しそうにそう俺に告げてくるクライス。まあ、結果オーライかもな。
「……と、そんなことよりも」
 俺はいうことを利かない体を奮い立たせ、無理矢理後ろを振り向く。
「お待たせ……雄真くん」
 そこには、見覚えのある水色の魔法服。背中から、なんとも不思議なんだが、風が形を作り、翼となって生えている。
「ちょっと遅く、なっちゃったね。遅れて――ごめん」
 やがてその翼もシュッ、と消え、目に涙を浮かべながらもいつもの笑顔を見せてくれるのは、やっぱり――楓奈なわけで。
「まったくだぜ。……友達としては、合格ラインギリギリ」
 そんな強がりな台詞を言う俺も多分、目に涙が浮かんでそうで。
「ふふっ、そっか。――次は、絶対に、遅れないからね?」
「うん。絶対、だぞ」
 一生懸命に笑う俺達の声は次第に、涙声になっていくわけで。
「雄真くん! 楓奈ちゃん!」
 と、そこへ飛び込む春姫の声。それを封切りに、俺を中心に全員が駆けて集まる。――いつの間にか皆は自分の相手には勝利して、俺と盛原教授との一騎打ちを見守っていてくれたみたいだった。
「楓奈ぁ、何してたのよ、もう!! 心配したんだからねぇ!! 死んじゃったかと思ってたんだからぁ!!」
「うん、ごめん、杏璃ちゃん。本当に、ごめん」
 と、顔面涙ボロボロで楓奈に抱きつく柊。
「柊、お前泣き過ぎ」
「な、泣いてなんかないわよぉ、馬鹿雄真っ!!」
 いやお前それで泣いてなかったら普段の顔は一体何の部類に入るんだよ。――でもまあ、ここで柊が大げさに泣いてくれたお陰で、気分が落ち着いた。俺は泣かずに済みそうだ。ある意味助かったぜ、柊。
「でも――楓奈、お前どうして……?」
 そう、落ち着いて疑問に出てくるのはどう考えてもそれだ。正直、俺達の中で、楓奈は既に死んでしまったと――盛原教授に、殺されてしまったと思っていた。しかもさっきの戦いの中で、盛原教授自ら殺した、とも言っていた。ところが目の前の楓奈は元気に立っている。これは、一体どういうことだ?
「うん、それなんだけど――」
 と、楓奈が口を開いたその時――ドゴオォン、と大きく壁が崩れるような音。
「!!」
 ハッとして音のした方向を見ると、瓦礫の中から盛原教授がゆっくりとこちらへ向かって歩き出し――
「――がはっ……」
 そして――数歩歩いた所で、血を吐いて、倒れた。
「教授っ!!」
 いち早く楓奈が俺達の輪から離れ、盛原教授の元へ駆け寄っていく。その後に続く仲間達。
「雄真くん、大丈夫?」
「俺の肩を貸そう、雄真殿。つかまるといい」
「サンキュ、二人とも」
 で、体の自由が利かない俺は、右を春姫、左を信哉に支えられる形で、なんとか遅れて後に続いた。
「教授っ! しっかりして下さい、教授っ!」
「楓奈か……これは、違うんだ」
「え……?」
 違う? 何が、違うんだ……?
「安心してくれ。この血は、先ほど少年に喰らったダメージが直接的な原因じゃない。――私は病気持ちでな。元々、もう長くなかったんだよ」
「そ、そんなこと……今まで、一度も言ったことなかったじゃないですか! どうして……!? それに……どうして、私を助けたんですか!?」
「え?」
 楓奈を……助けた?
「裏切り者には死……例外のない、ルールだったのに! 私は、教授を裏切ったのに! どうして私を殺さないで――しかも時間が経過すれば傷が癒えるようにまで!」
 な……ちょっと待て、どういうことだよ……? この人、楓奈を殺すどころか、あの後戦っておいて、楓奈を助けたのか!?
「あんなことしても、雄真くん達が教授と戦えば、私は雄真くん達を助ける為に教授に歯向かうこと位、わかってたじゃないですか! それなのに、どうして……!?」
 話にイマイチついていけないが、なんとなく楓奈の疑問はわかった。――楓奈はあの日俺と春姫を転送魔法で逃がした後、盛原教授と戦って、負けた。「裏切り者には死」が、ここでのルールだったので、盛原教授を裏切る結果になった楓奈は、自分はもう殺されるものだと思っていた。ところが、盛原教授は楓奈を殺さなかった。それどころか治療までして、俺達の戦いに間に合うように仕向けた。わざわざ自分を不利になるように追い込んだんだ。確かに疑問だ。
「――そっくり、だったんだ」
「そっくり……?」
 楓奈の問い詰めにも盛原教授は落ち着いた口調で返していく。
「ああ。覚えているかな? 数日前、君が好きだった場所で、最近の様子の違いを指摘した時、君は笑って、友達が出来たからだ、と答えてくれただろう?」
「……はい。でも、それが……?」
「そっくりだったんだ、あの時の笑顔が……麻由子(まゆこ)に……私の妻に……君の母親に、な」
「え……!?」
 盛原教授の奥さんが、楓奈の母親……ってまさかこの人、楓奈の……本当の、父親……!?
「麻由子に出会ったのは、私がまだ魔法研究者として、駆け出しの頃だ」
 軽く息を吹くと、盛原教授は少し遠い目をして、懐かしむように、語り始めた。
「その頃の私はまだ属に言う「ヒヨッコ」でな……とある有名な研究者の研究所の雑用として働いていた。彼もまたマッド・サイエンティストと呼ばれるような人間でな。裏で研究用の為の人身売買など平気でしていた。――その頃の私はそのことの善悪など気にも留めていなかったよ。ただ純粋にレベルの高い魔法の研究に携わりたい。それだけだった。そんな時に、麻由子は、研究材料としてその研究所にやって来た。麻由子は、魔属性過剰性だったんだ」
 魔属性過剰性……恵理香ちゃんの持つ病気と同じだ。本来一つしかないはずの得意属性が全てになって暴走してしまうという体質のことを指している。
「今ですら研究が進んでいない病気、無論その頃など更に進んではいなかった。症例も珍しかったからな。彼女が研究所へやって来た理由は簡単だったよ。――生活に困っていた麻由子の家族が、麻由子を売り飛ばしたんだ」
「――っ」
 誰もが顔をしかめたり、背けたり、敵意を見せたり、とにかくいい顔にはならない。聞いていて、あまり気分のいい話じゃない。
「雑用係だった私は、彼女の食事の世話などを担当するようになった。そして初めて彼女に食事を持っていった時、驚いたよ。――彼女は、笑っていたんだ」
 その様子を本当に思い出しているのか、盛原教授の顔が少し、笑顔になる。
「普通、その手の人間は悲しみに暮れていたり、絶望を通り過ぎ表情がなくなっていたりするものだが、彼女は笑っていたんだ。そして食事を持ってきた私に「ありがとう」とお礼まで告げてきたのさ。私も最初は単なる強がりかと思っていたが――いつまで経っても彼女のその態度は変わらなかった。強がりなんかじゃなく、本当に彼女は、ただ純粋に笑顔で食事を運んだ私にお礼を告げていただけだったんだ」
 盛原教授の言いたいことはもっともだ。信頼すべき家族に売り飛ばされ、実験の材料とされてしまう。普通精神は壊れ、食事を持ってきてくれた人にありがとう、どころじゃない。
「疑問に思った私はある日、何故笑顔でいられるのか、と尋ねてみた。すると彼女はこう答えたよ。「自分が犠牲になることで、家族が皆幸せになれる。これほど嬉しいことはない」とな。笑顔で、そう答えられた。驚いたし、呆れたよ。この女、普通の神経じゃない、とな。だが――彼女に興味が沸いてしまったのも、事実だった。――それから、彼女の世話をする度に、色々な話をした。彼女は私のつまらない話もちゃんと聞いてくれた。笑顔で聞いてくれた。一人で生きていた私はそれが本当に嬉しくてな。気付けば……彼女に、心弾かれていた。わかるかな? 私は――研究用のモルモットに、恋をしたんだ」
 そう告げる瀕死の盛原教授の顔は――笑顔は、ただ純粋無垢な、少年のようだった。 
「――やがて我々は、人としての当たり前の幸せを求めて、研究所を逃げ出した。無論簡単に逃げられるわけじゃない。そもそも違法行為をしてまで研究をしていたところだ。関係者が逃げ、もし内部のことが漏れてしまったら研究所側としてはまずい。奴らは我々を血眼になって探した。逃亡生活は、決して楽なものじゃなかった。だが――幸せだったよ。ほんの短い間だったが、麻由子と共に過ごしたあの頃が、何よりも幸せだった」
「…………」
 言葉を無くし、ただ盛原教授の話を受け止める楓奈。いや、楓奈だけじゃない。俺達もただ言葉なく、彼の言葉に耳を傾けるだけになっていた。
「やがて彼女はそのお腹に子供を宿した。その時、二人で決めたんだ。彼女は魔属性過剰性、そして私の得意属性は風。生まれてくる子供はきっと風の魔属性特質性だから――名前の何処かに「風」という文字を使おう、とな」
「――!!」
 そうか……楓奈の「楓」には、風の文字が使われてる。
「だが……運悪く、出産を間近に控えた麻由子は病気になってしまってな。我々は逃亡中の身、迂闊に病院にも行けず……そもそも病院へ入院する費用などもなく――彼女は子供を無事出産して間もなく、息を引き取った」
 盛原教授の顔が、いつになく悲しそうな顔になる。過去のこととは言え、思い出すのも辛い話なんだろう。
「私は自分の未熟さを呪ったよ。もしももっと自分が優秀な研究者で、魔属性過剰性に関しての研究をもっと進めていれば、魔属性過剰性の全てを解明していれば、追手に追われることもなかったかもしれない。彼女は、麻由子は、死なずに済んだかもしれない。その自責の念に囚われ続け――心に誓ったんだ。彼女が残してくれた子供は、必ずこの手で守ろうとな。風の魔属性特質性のその赤ん坊を、必ず守っていくとな。それが、麻由子との約束でもあった」
 段々、話が見えてきた。繋がってきた。この人は、俺達が考えていたような人じゃ、ない……
「魔属性特質性のその子を守る為に何が必要か。答えは簡単だった。――魔属性過剰性に関しての研究をこの手で終わらせること。謎を解明させること。全てが解明されれば生まれてきた子供は、特別な存在ではなくなる。裏社会の研究者達に狙われることもなくなる」
「だから……教授はずっと、魔属性特質性の研究を……」
「その通りさ。――私は研究に全てを注いだ。自分の子供に父親だと名乗る資格も持たぬ程にな。――やがて時が過ぎ、いつしか本当の目的も忘れ、ただ研究者としての欲望に刈られ研究を推し進めていた時、君の笑顔を見た、というわけさ」
「……教授……っ……」
「そこへ来て初めて自分の愚かさに気付いたよ。私は何をしていたんだろう、とな。――だが私に後悔をしている時間はなかった。病が進行していた私に残された時間は短い。だから私はその短い期間で、君に足りなかった唯一のものを、伝えると決めた」
「私に……足りなかったもの……?」
「君は優秀だった。私が教えたことはスポンジのように吸収していく。無論、風の魔属性特質性だから魔法の才能もかなりのもの。直接会話する人間が私だけだった君は、私の命令に背くことなどなかった。私の命令が絶対だった。素直な、とてもいい子に育った。だが、そこが問題だった。――わかるかな?」
「楓奈には、自分の意思というのが欠けてた……そういうことですか?」
「その通りだよ少年。――このまま私がこの世を去ったら、自分の意思が無い彼女はどうなってしまうのか? 間違いなくまともには生きてはゆけまい。それは私が麻由子に誓った、必ず守るという約束が果たせなくなる。だから私は考えた。自らの命を差し出してでも、楓奈が……自らの意思を手に入れる為の方法をな」
「そんなっ……それじゃ、それじゃ教授は……わざと私が教授を裏切るように……!?」
「絶対だった私の命令を、自分が、自分の手だけで手に入れた大切な物の為に背く。それだけ強い意志があれば、立派に生きていけるだろう?――ふふっ……流石にそこの少年がマインド・シェアまで使ってくるとは思わんかったがな……楓奈が到着するまでは私は負けるわけにもいかなかった。焦ったよ」
 そう。この物語は、全て盛原教授のシナリオ通りだった。楓奈が一人立ち出来るように仕向けた――娘を愛する一人の父親の、シナリオ通りだったんだ。
「少年……確か、小日向君だったか……」
「……はい」
「私は……出来る限りのことをしたつもりだ……後のことを……楓奈のことを、君に、君達に託したい……頼んでも、構わないだろうか?」
「…………」
「雄真……くん……?」
 この人は……この人は……!!
「俺、やっぱりあなたのこと、許せません」
「……別に許して欲しいとは思っていないさ。だが……理由を尋ねても、いいかな?」
「他に方法なんていくらだってあったはずです。それこそ楓奈に父親だと名乗って、掛け替えのない、親子としての生活を伝えることだって出来た。それをあなたは、こんな楓奈が悲しむ方法を選んだ。確かに楓奈が自分の意思を強く持つことは出来る。でも……でもやっぱり、こんな方法、納得出来ない」
「……だろう、な……」
「……でも」
 俺が今から言おうとしている言葉。――それはもうとっくの昔に出ていた答え。
「でも、あなたに頼まれなくても、楓奈は俺達の大切な友達で、仲間です。――俺からはそれだけ、あなたに伝えておきます」
「雄真くん……」
 友達だから助けにきた。友達だから一緒に戦った。友達だから、ずっとずっと大切にする。誰に批判されても構わない。楓奈は俺達の大切な友達なんだ。――そんなこと、頼まれなくたって。
「ありがとう、小日向君。――楓奈……いい友達を、持ったな」
「……はい……」
 止まっていた楓奈の涙が、再び頬を流れていた。――と、俺がそれに気付いたその時。
「――っ!! ゴホッ、ゴホッ!!」
「!? 教授、しっかりして下さいっ!! もう喋らないで!!」
 再び盛原教授が、むせるように……血を、吐いた。
「いや……もう何をしても手遅れさ。――楓奈」
「……はい」
「許してくれ、とは言わん。でも……今まで、済まなかった。君を守っていくと、君が生まれたあの日、心に、麻由子に誓ったはずなのに……君を不幸にしていたのは紛れも無い、この私だった。小日向君の、言う通りだよ……叶うことならば、父親として、君と一緒の時間を、過ごしたかった……過ごせば、良かった……」
「っ!! 教授っ……!!」
 楓奈が両手で包みこむように盛原教授の手を取ると、力無く、盛原教授も握り返している。
「なあ、楓奈……今までまともなこと一つ頼めなかった私から君への、これが最後の「命令」だ」
「教授……!?」
 盛原教授は大きく息をフーッ、と吐いた。そして……
「幸せに……なってくれ」
「っ……!!」
「一人の年頃の女性として……有り触れた、至極当たり前の生活を、幸せを……過ごしていってくれ……これが、私から君への……最後の、命令だ……」
「そんな……お願いです教授、最後だなんて……最後だなんて……嫌です……!!」
「君の風の翼は……私と麻由子の、希望の象徴なんだ……その翼を広げられる君なら……あの日、翼を空に広げられた君なら……掛け替えのない仲間がいる君なら……必ず出来る、ことだから……」
「教授っ……!! 私は、私、は……っ!! まだ、教授が、いないと駄目なんです!! だから、だからっ!!」
「楓奈」
 俺は未だ上手く動かない体を何とか動かし、楓奈の肩に手を重ねる。
「雄真……くん……」
「言ってあげるんだ」
「!!」
「言ってあげるんだ、約束してあげるんだ。――盛原教授のことが好きなら、大切に想うなら、言うんだ」
 ここでもしも言えないままだったら、楓奈は一生そのことを後悔することになる。それは避けなければいけない。避けさせてあげないと、いけないから。
「……約束……します。教授の最後の命令……必ず、守ります……!!」
 涙声だったが、それでも楓奈ははっきりとした口調で、そう言い切った。――盛原教授の顔が、安心した笑顔に変わる。
「ありがとう……楓奈……」
 その一言の瞬間が、盛原教授の今までの中で、一番の笑顔のような気が、俺はした。
「……私は……いや……私と、麻由子は……ずっと君を……見守って、いるから……君の幸せを……願って、いる……か……」
 そして――盛原教授が、ゆっくりと、その目を閉じていった。
「……教授……?」
 穏やかな顔の盛原教授は――楓奈の呼びかけにもう応えることはなくて――
「教授……教授……教授っ……」
 どれだけその手を楓奈が強く握っても――もう握り返してくれることは、二度となかった。
「教授ーーーーーっ!!!」
 講堂に楓奈の叫びが響き渡る。――それが、俺達の戦いが、幕を閉じた、瞬間となった。


「本当、金輪際勘弁して下さいよ、鈴莉先輩」
 一人の男が、まるで独り言のように愚痴り始めた。
「何が「強制捜査、明日まで引き伸ばしておいてくれる〜?」ですか、もう……上司説得するのにどれだけ苦労したと思ってるんですか?」
「いいじゃないの、私と雅幸(まさゆき)くんの仲じゃない」
 その愚痴を横で笑顔で流しているのは鈴莉。
「それに、誰のお陰で郁(かおる)ちゃんと結婚出来たのかしら〜?」
「あー、はいはい、またそれですか……」
 雅幸、と呼ばれた男の方は諦めの表情でため息をついた。――彼の名前は浜野 雅幸(はまの まさゆき)。魔法協会の人間であり、鈴莉の学生時代の後輩である。学生時代、最初は片思いだった女性と鈴莉、音羽、大義らの計らいで相思相愛になり、卒業後結婚。お陰でこの歳になっても鈴莉には頭が上がらないちょっと哀れな男でもある。
 さて、今日は雄真達と盛原との戦いの翌日。魔法協会が、盛原の研究所の強制捜査に、鈴莉が付き添う形。――要は、元々は昨日だった強制捜査を鈴莉が無理矢理引き伸ばしてもらった形が、昨日なのである。
「ハハハ、まあいいではないか。――支部長とやらになったと聞いたぞ? やりたい放題なんだろう?」
「あのなあ、支部長だからって何も一番偉いわけじゃ――って、あれ? クライス?」
「久しいな、浜野雅幸」
「ああ、久しぶり……あれ? でも今、クライスは――」
「鈴莉の息子、雄真についている。――のだが、鈴莉がお前に会うと聞いて、久々に話がしてみたくてな。無理を言って鈴莉に持ってもらってるんだ」
 クライスが、鈴莉の右手に握られていた。今は鈴莉のワンドではないので、腰に張り付いている、というのが無理な結果である。
「いや、最初気付かなかった」
「まあ、無理もないな。そもそも数年前は鈴莉がこうして当たり前のように私を持っていたんだしな」
「そうだよな。でも、そっか、息子さんか……あそこの丘にいるのが?」
 チラリ、と雅幸が視線を向けた先、少し離れた所に、丘になっている箇所があり、そこに雄真達は集まって何かをしていた。
「ええ、雄真くんとその仲間達」
「そっか……でも、あんなところで何を?」
「お墓参り、だそうですよ」
 そう雅幸の質問に答えたのは、鈴莉でもクライスでもなく――
「あれ、君……聖ちゃん?」
「ご無沙汰してます、浜野さん」
 軽く頭を下げてお辞儀をしたのは、聖だった。
「先日も、父と母の墓参りに来て来て下さっていたとお伺いしました。ありがとうございます」
「いや、いいんだよ。沙玖那先輩には随分とお世話になったし。この程度で恩が少しでも返せるならお安い御用さ。――でも、しばらく見ない間に、綺麗になったね、聖ちゃん」
「ありがとうございます」
 と、ありきたりな会話をしている二人を遠巻きに、何やらコソコソと会話をする一人と一本が。
「……鈴莉先輩? クライス?」
「聞いたかしら、クライス?」
「ああ聞いたぞ鈴莉。――今のは、完全に聖をナンパしていたな」
「え――」
「『でも、しばらく見ない間に、綺麗になったね、聖ちゃん。この後僕と一緒に一杯どうだい?』」
「最低だな。酔わせてどうにかするつもりか」
「いや、あの二人とも、その」
「男って権力を持つと直ぐに愛人を作りたがるものなのよね〜 あ〜やだやだ」
「安心しろ鈴莉、雄真はあのような男にしないように私がちゃんと見張っておいてやろう」
「別に僕は何もそんなつもりで――」
「ここはちゃんと郁ちゃんに報告しておくべきよね、クライス?」
「うむ。録音しておいて正解だったな。さっきの音声を早速送るべきだ」
「ちょっと待って二人とも!? いや違うから!! 普通に誉めただけじゃないですか!! というか郁にそういうこと吹き込むのマジで止めて下さいよ!? 鵜呑みにして何するかわかんないこと二人なら知ってるでしょ!?」
「軽いジョークじゃない」「軽いジョークじゃないか」
「なら何故鈴莉先輩はあからさまに携帯電話を取り出してるんですか!?」
 過去、彼らに何があったのかは――想像に任せることにする。
「でも聖ちゃん、雄真くん達と一緒にいるんじゃなかったかしら?」
「そのつもり、だったんですけど……私もこちらでもう「見守る側」かな、と思いまして」
「見守る側、か……」
 三人は、何処となく、その丘で中心になっている、雄真を見ていた。
「――僕らの頃は、あの位置には大義先輩が」
「私の時に、あそこには蒼也が」
「そして今は、雄真くんが。――時代が移っても、何処かで伝わり続けていくものがあるのかもしれないわね」
 今は「見守る側」になった三人は、そのまましばらく雄真達の様子を眺めていた。――自分達の頃を、思い出しながら。


「小日向さん、そういえば今日はマジックワンドは……?」
「クライス? ああ、母さんに預けてある。何でもあっちに知り合いがいるらしくて、久々に会いたいんだと」
 俺は母さん達がいる方向を促しながら、そう上条さんに説明した。
「でも……学校サボるのって、なんとなく気が引けちゃう……」
 真面目さんな春姫はどうしてもそこが引っかかるようだ。――今日は平日。学校は普通にやっているので、先生、聖さんと一緒に魔法協会の強制捜査の現場に一緒に立ち入らせてもらうことにした俺達は無論学校へは行けないわけで。すももなんかには、
「兄さんが、ついに不良の権化に!?」
 などとよくわからない言い回しで心配されてしまった(ここへ来てるのは魔法関連の仲間達のみ)。
「大丈夫ですよ、授業の一日や二日♪」
「……そりゃ小雪さんは三年生でもうほぼ自由登校だからいいですよ」
「ふむ、では雄真殿、ここは「大丈夫だよ●び太く〜ん」と言うべきだろうか」
「信哉お前その知識何処で手に入れた!?」
 らしくもない。何を出すつもりだ。――ちなみに小雪さんの自由登校とは卒業を控えた三年生は三学期ほとんど学校へ来ることはないことから発生しているものだ。――とは言っても占い研究会・Oasisでの占いコーナーの為に小雪さんはほぼ毎日学校に足を運んでいるらしいが。
「――うん、こんな感じでいいかな」
 と、そこで中心で黙々と作業を続けていた楓奈が事実上の完成を告げた。
「はい、楓奈」
「ありがとう、杏璃ちゃん」
 柊が手に持っていた花束を楓奈に渡すと、楓奈はしゃがんでそれをゆっくりと供え、手を合わせ、目を瞑る。
 要は、俺達は盛原教授の墓を作っていたのだ。――盛原教授との戦いが終わった後、偶々、本当に偶然だったが、研究所の裏手にあったこの丘で、俺が一つの小さな、手製の墓――「MAYUKO MORIHARA」と書かれた、盛原教授の奥さんで、楓奈の母親の墓を見つけた。
 確認してみたが、楓奈もその存在を知らなかった。きっと人知れず盛原教授が作ったもので、誰にも見つからないように日々手を合わせていたんだろう。――だから俺達は、その墓の横に、盛原教授の墓を作ることにした。
「――大した男だったな、盛原とやら」
「伊吹?」
 偶々俺の右隣にいた伊吹が、楓奈には聞こえない程度の声で、口を開いた。
「お主、盛原のことが許せない――そう申しておったな?」
「ああ、うん」
 盛原教授を俺が許せない理由。彼は自らの命が短いことを悟り、その命と引き換えに、わざと楓奈と対峙して、楓奈に自らの意思、というのを持たせた。少しの間でも、敵として対峙してしまったこと、おそらく楓奈は悲しんでいるに違いない。それに、俺達が楓奈に教えられるのは、共有出来るのは、あくまで「友情」であって、「家族」じゃない。家族として愛すことが出来たのは、家族を教えられたのは、盛原教授だけだったのに、彼はそれをしなかった。――俺はその強引な手口がどうしても許せなかった。
「私は盛原の気持ち、わからないでもない」
「そうなのか?」
「おそらく盛原は、我々が考えている以上に、お主のことを信用しておったのだろう。楓奈を変えたお主をな。自分が父親として名乗るよりも、心を開かせた我々との絆を確実なものにしたかったのではないか?」
「…………」
 伊吹の指摘に、俺は言葉を失う。
「私も……姉様を亡くしているから、命を賭けて大切な者の為に動く人間のことはなんとなくわかるのだ。それに――お主が考えている以上に、きっと楓奈には盛原の父親としての愛情、伝わっているぞ」
「盛原教授の、父親としての愛情、か……」
 俺がそう呟くと、楓奈がスクッ、と立ち上がる。
「お待たせみんな。それじゃ、もう行こう?」
「えっ? もういいのか?」
「うん、大丈夫。また来るね、って約束したから。――お父さんと、お母さんに」
 お父さんと、お母さん。――ずっと「教授」だった呼び方が、変わっていた。それは伊吹の言う通り、きっと楓奈に盛原教授の想いが、父親としての愛情が、通じた証拠であって。
「そっか。それじゃまた今度、みんなで来ような」
「ありがとう、雄真くん」
 その言葉を封切りに、俺達は歩き出す。――俺はさり気なく最後尾に回り、離れる前にもう一度、ゆっくりと振り返る。

『後のことを……楓奈のことを、君に、君達に託したい』

 思い出すのは、盛原教授の、俺への頼みごと。あの時は、遠回しな返事しか出来なかったけど。
「約束しますよ、盛原教授。あなたの娘さんは、俺達が必ず守る。だから、安心して眠って下さい」
 俺はそう呟くと、みんなの後を早足で追った。


「昔々、あるところにお爺さんとお婆さんがいました。――ある日、二人は白い子犬を捨てられていたのを見つけます。二人はその子犬を可哀想に思い、拾って我が子当然に可愛がって育てました」
 あれからしばらく経った青空の園にて。俺は子供達と遊びに来たすもも、春姫らの付き添いで日曜日にも関わらずこうしてやって来ている所存。
「そして、しばらく経ったある日のことでした。シロは、畑の土を掘りながら、「ここ掘れワンワン」と鳴き始めたのです」
 そして走り回されて疲れて休んだベンチの隣では、クライスが昔話をしていた。「花咲か爺さん」だろうか。
「お爺さんは驚きました。――『い、犬が喋った!?』」
「うおおおぃぃぃ!! そう来るかお前!!」
「インコやオウムが言語を喋れるのは、人間と舌の構造が似ているからだと聞く。よくペットの番組で我が家の犬が「ご飯」と言いますとかあるが、どう聞いても無理があるだろう」
「んな説明はいらねぇー!! 真面目に話せよ!?」
 油断していた。こいつの昔話はロクなもんじゃなかった。
「かぐや姫は月へ帰るので、NASAにロケットを借りに行きました」
「その時代NASA無えええぇぇぇぇ!!」
 ふっと見ると、子供達もクライスの話が要所要所ジョークなのがわかっているようで、笑って楽しんでいた。――まあ、わかってるなら、いい……のか?
「いや、悪ぃな、小日向君、わざわざ子供達の為に。もう魔法教師じゃねえのに」
 と、そう言いながら笑顔で近付いてくる人が一人。
「阿東(あとう)さん。――いいんですよ、みんなも俺も、子供達が好きで来てるんですから」
「そう言ってもらえると助かる。若いのに立派なもんだ」
 この男の人は、阿東 英志(あとう えいじ)さん。――草笛さんの代わりということで、今青空の園の園長の代理を務めている。年齢は三十台前半で、何処かのヤクザの組の若頭のような風貌、口調なのだが、話してみると物凄い良い人で、家事万能で何より子煩悩。孤児院の先生にはもってこいの人だったりする。母さんの知り合いらしいのだが――どういうルートの知り合いなのかはやっぱり微妙に怖くて聞けない俺がいたりした。
 で、母さんの知り合いだからだろうか、魔法の腕も抜群。結果として、魔法も基礎から教えられるので、俺の魔法教師もお役御免となったのだった。――子供達にはただ純粋に好かれてしまったので、こうして時折遊びに来る形にはなってしまったが。
「でもやっぱ阿東さんも凄いですよね。来てまだそんなに日にちが経ったわけじゃないのに、もう子供達バッチリ懐いてるじゃないですか」
「ま、子供は元より好きな性分だしな。それに――前いた人の育て方も、良かったんだろ」
「…………」
 前いた人――草笛さん。あの人は、確かに恵理香ちゃんを手渡して、お金を受け取ろうとしていたが、それも結局青空の園の為だった。あの人は、純粋にここを、子供達を、愛していたんだ。
 今草笛さんがどうしてるのかは、母さんは教えてくれなかった。でも、母さんは一言だけこう言った。

『罪は――いつかは、償えるものよ。それが、『裁き』だから』

 きっと今は無理でも、いつかは再び、青空の園の園長として、子供達と接することが出来るようになる。――そう、信じて止まない。
「――あれ?」
 と、そんなことを思っていると、ふと目に留まる風景。入り口の門に寄りかかり、外の道を眺めている女の子が一人。――恵理香ちゃんだ。
「恵理香ちゃん、どうした? 何か外にあった?」
 気になった俺は、近付いて、素直に尋ねてみることにする。すると――
「待ってるの」
「待ってる……?」
「うん、約束したんだ、一緒に遊ぼうって」
 俺にそう言いながらも、視線を動かすことがない恵理香ちゃん。――約束? 待ってる?
「――あっ」
 と、俺が考える間もなく、恵理香ちゃんの表情が変わる。視線を追いかけると、向こう側から歩いてくる、一人の女の子。俺達を見つけると、いつもの優しい笑顔に変わり、小走りで近付いてきた。
「こんにちは、恵理香ちゃん、それに雄真くん」
「こんにちは、楓奈お姉ちゃん」
 楓奈お姉ちゃん、か。
「――いつの間にそんなに仲良くなったんだよ、楓奈?」
「えっと……五日と二時間十五分前位前だよ?」
「あ、いや、そういう意味じゃなくて」
 素だよな、楓奈。――指摘してあげるのも友情なんだろうか。悩む。
「お姉ちゃん、今日は何して遊んでくれる?」
「そうだね……とりあえず、みんなのところ、行こっか。――ほら、雄真くんも」
「おう」
 楓奈に促されて、手を繋いで歩く楓奈と恵理香ちゃんの後を追う。――その楓奈の後姿に、もう陰りや傷跡や悲しみは見えない。
 彼女は、失った。――今まで傍にいて、彼女を支えていた、掛け替えの無い人を。大切な物を。
 彼女は、手に入れた。――これから共に歩いていける、掛け替えの無い人達を。――大切な、物を。
 そして彼女は――それを二度と失うことはないだろう。いや、共に歩く仲間達が、失わせやしないだろう。
 楓奈は生きていく。俺達という、仲間と共にこれからも幸せに生きていく。――それが楓奈が父親と交わした、最後の命令であり――約束、だから……


「この翼、大空へ広げた日」最後までお付き合い頂き、ありがとうございます。
筆者のワークレットと申します。
最終回に至って、最後にあとがきという形を取らせて頂きたいと思います。

『コンセプト』
とにかく、前作「ハチと月の魔法使い」の続編、というものを書きたかったんです(笑)。
前作で特に明かされずに終わった雄真のトランス状態(=マインド・シェア)、
それから聖の戦闘能力、既存キャラクター(鈴莉・音羽など)との繋がり。
それを絡めたオリジナルストーリー、というのが基本でした。
前作は物語の長さそのものも気にして書きましたが、今回は多少その辺りを緩めたので
気が付けば前作の二倍の長さに(笑)。それでも結構削ったんですけどね、エピソードとか。

『オリジナルキャラクターに関して』
・瑞波 楓奈
メインヒロイン。――の割りにプロローグの頭の後、Scene6でやっと正式に登場するも
Scene11で死亡したと見せかけ、その後最終回まで出番無し。
おそらく感情移入し辛いヒロインだったのではないでしょうか(汗)。
盛原の言いなりから雄真達の仲間へ、ということで純粋を基本とした性格。
なので場合よっては天然さんにもなってみたり(Scene7、8を参照)。
作品内で盛原がスポンジのように吸収していく、と発言したように、学習能力が高く、
元々風の魔属性特質性ということもあり、魔法使いとしては鈴莉、伊吹とも変わらないレベル。
風の翼を広げたらもしかしてそれ以上かも……?

その他設定では盛原の研究所にいない時は一人暮らしをしており、炊事洗濯等の家事も完璧。
特に料理は和食、家庭の味っぽいのが得意。肉じゃがとか鯖の味噌煮とか。
カットされたエピソードで、Oasisで(何故か)杏璃と料理対決をしてその上手さに
全員が目を丸くする、というのがありました。

筆者としましては、可愛らしい系統のキャラなので、特に春姫と被らないようにするのが
難しかったですかね。口調も似てますし。
率直に言えば、書いてて楽しかったですよ。――癒された感じが(笑)。

・盛原 征二
教授。――ボスなのにギリギリまで本名が出てこない人(笑)。
基本的にはいい人ですね。楓奈を想うがゆえにの今回の行動でした。
前回の悪役である後枢がただの悪役だったので、今回は実は……的な要素を盛り込もうと。
――騙されて頂けたでしょうか?(笑)

・草笛 美土里
青空の園の園長さん。盛原教授とは逆で、いい人だけど色々問題を抱えていて、
でも雄真達が助けてあげますよみたいな感じに仕上げておいて壮大な裏切りをかます人(笑)。
――でもいい人なんですよ! 何だかんだで一番報われない人ですけど(汗)。

ちなみに如月に関しての設定は特にありません。キャンセルが得意な位でしょうか。

・竹原 恵理香
青空の園の孤児。魔属性過剰性という体質の持ち主。
もっと物語に深く関わるのかなと思わせてそこまでは関わってきません。あっさり助けられてみたり(笑)。

初期設定では年齢は中学生位で、実は楓奈の妹という設定でした。楓奈とのダブルヒロイン。
エピローグでは、姉妹で仲良く暮らしていく……みたいなシーンで終わりにしようかと。
ですが、構想を練っていると、明らかに楓奈の方が深く雄真達と関わることになり、
恵理香の存在は相当薄いものでした。……ので、結局現在のサブキャラの形に収まっています。
ラスト、楓奈と手を繋いで……というのは、上記設定の名残です。

・沙玖那 聖
初登場は前作「ハチと月の魔法使い」。――前作ではかなり端っこのサブキャラでしたが、
今回はかなり目立ってます。そもそもあの頃から将来的に目立つキャラという予定で書いてましたけど(笑)。
そもそもが筆者のお気に入りキャラですからね。そりゃ格好よく出てきます。――出過ぎですかね?(笑)
信哉の進化系のような独特の戦闘スタイルも大体今回で説明出来ました。
また今作で過去のことにもチラリチラリと触れてます。最終的には彼女の学生時代のSSも書きたいですね。
物凄い長くなると思いますが(汗)。

・クライス
雄真のマジックワンド。原作の設定を使ってなんとか背かないようにオリジナルの設定を入れた結果が彼。
そもそも鈴莉のワンドで、色々あって指輪になって……といった話は物話としては一応通ってるかな、と。
物語の中で「クライス」は鈴莉が格好いいからつけた、という設定ですが、
筆者としてもそんな理由での名前ですね(笑)。格好よくて結構ありそうな感じにしたかったんです。

ヒーロー、ボケ、ツッコミ、全てが可能の万能キャラ。ワンドとしても一流。
そういう意味で、色々な箇所でまだ未熟な雄真を支えるキャラですね。
最初雄真と契約した当初は、雄真をマスターとして見ておらず、あくまで鈴莉の息子であり、そしてその鈴莉の息子を育て、守るのが自分の役目である、という心持でいましたが、雄真と共にいることで次第に雄真そのものを認め始め、Scene12で雄真の決意を聞いてからは完全に雄真をマスターとして認め、自らの過去、そしてマインド・シェアを彼に託す、という設定です。

初期設定ではもっと大人というか、本当に未熟な雄真を支えるだけのワンドでした。
笑いを取る、と言っても大人のジョークで、軽く雄真をからかう位で。
――ですが、私の書く雄真が相当のツッコミキャラなので、身近に絶えず居る彼はどうしてもボケの回数が増えてしまい、結果として真面目なシーン以外はボケっぱなし(?)の実にメリハリの利くキャラになりました。
ボケのシーン、そして反対の真面目なシーン。両方とも書いてて非常に楽しかったですね。
聖と共に、お気に入りキャラです。

『ストーリーに関して』
メインテーマは大きくはないにしろ、しいて挙げるならばScene11での盛原での台詞
「大切な物、全てを欠かさずは守れない」
という点でしょうか。
新しく出来た仲間と育ててくれた人の狭間で悩む楓奈。
楓奈の将来と、自らの命や研究等の狭間で悩んだ盛原。
恵理香一人の幸せと、それ以外の子供達との狭間で悩んだ美土里。
大切な物を計りにかけなきゃいけない時に直面した三人をの思惑を中心に物語は進みます。

前作「ハチと月の魔法使い」でハチとヒロインだった雫は最終的に別れて終わってしまい、
何だかノーマルエンドみたいな形になってしまったので、今回はヒロインは残して終わろうと決めていました。
その結果が今回のエピローグになっています。微妙にベストエンドではないかもしれませんが、
まあその辺りは勘弁して下さい。この形が一番まとまったかな、と私は思っていますので(笑)。

それから主人公である雄真の成長。
コンセプトで語った種明かしという点も混じってしまうのですが、このまま話を続けるの当たり、
彼の成長というものは避けて通れないかと。「はぴねす!」本編では結局魔法使いとしてはほとんど成長しないまま終わってしまっているので、今後のことも考えて多少の成長を加えました。
ある程度の山場の乗り越えて手に入れた必殺技。一定時間しか強くなれない。
――主人公らしいですよね?(笑)

『最後に』
続編として連載させて頂いて数ヶ月。
書いていて、私はまだまだ未熟だったなあ、というのが正直な気持ちであります(笑)。
それでも、とても楽しい期間を過ごさせて頂きました。

一応次回作の予告も残しておきますが……書くかどうかは未定です。
万が一鬼のように感想とかお声とかあったら意欲が高まって書くでしょうけど、
私の作品にはないでしょうからねえ(笑)。
更にオリジナルが濃くなりそうですし。どちらにしろしばらくはゆっくりしたいと思います。

では最後にご挨拶。
最後まで読んで下さった方、BBSで感想を下さった方、
そして何よりこうして私の作品を掲載して下さったてるさん。
本当にありがとうございました。
簡単ですが、私からの感謝の言葉とさせていただきます。

それではまた会える日があればその日まで、ごきげんよう。


<次回作予告>

「小日向雄真さん……会いたかった……!!」
「会いたかったって……ちょっ……ええええええ!?」

春の日が近付き、またそれは三学期が終わりに近づいていたことを意味していたある日。
一人の美少女の、感激の抱擁から、再び物語の幕は上がろうとしていた。

「成長したな雄真。私は賛成だぞ? 男は一途であればいいってものじゃないさ」
「勝手に俺を成長させるなよ!? てか普通一途じゃなきゃ駄目だろ!?」

新しく出来た相棒はいざ、という時以外はやっぱり頼りにならなくて。

「わ……私だって、雄真くんとあんなことやこんなこと、したもん!」
「ははは春姫さん!? 何を仰ってるんですかこんな場所で!?」

愛しい恋人は、やっぱり独占欲が強い焼きもち焼きで。

「あら、私も雄真さんとあんなことやこんなこと……」
「してません!!」

「安心して下さい兄さん、わたしは伊吹ちゃんに嫁ぎます♪」
「とっ嫁げるわけないだろう!! 何を言ってくるのだ!!」
「や〜ん、禁断の愛? 音羽さんも混ざりたい〜」
「……もう、勝手に言ってて下さい」

「それでは、解説の上条信哉さん、お願いします」
「信哉!? お前そこで何してる!?」
「任されよ雄真殿。解説者として公平な判断を下すつもりだ」
「そういう話じゃねえぇぇぇ!!」

「ねえ、ゆうま〜、どうしちゃったのよ? そんなに逃げなくたっていいじゃないの〜」
「どうかしちゃったのはお前だよ柊! たっ、頼むから落ち着いてくれ!!」
「小日向殿、杏璃様を頼みます……」
「頼んでくるなよ!?」
「小日向雄真の理性、残り三十パーセント」
「お前はそこで勝手に判断してんじゃねえクライス!!」

信頼すべき仲間達は――暴走気味で。

「あたしかい? あたしは誘拐犯さ。……通りすがりのね」

「駄目だクリスっ! その餓鬼、やべえぞ!!」

「そ、そんな……そんなこと言われたら、パパ……泣いちゃうじゃないかぁぁ」
「…………」
「いいか坊主。――生きていく為には、時にこういう苦労が必要なんだ」
「……はあ」

「っ! もしかして……『氷炎のナナセ』……!?」

「あははっ、この私にまっかせなさ〜い! どんな悩みも一刀両断!」
「いえ、あの、それはまずいんじゃ……」

「言うなれば――『魔法使い狩りの夜』ですか、ね」

「私の翼は――皆の為に、あるんだよ?」

そして――そんな彼らに囲まれて、始まる物語。

「あなたが掴んでるのは、私の手だけじゃない!! 私が掴んでるのは、あなたの手だけじゃない!!
沢山の……沢山の想い、大切な人の想い、掴んでるんだから!!」

笑いと涙の物語が、春を間近に控えた瑞穂坂に、再び舞い降りる……


"Workret" Presents Next "Happiness!!" SS
「彼と彼女の理想郷」


「…………」
「……何の様だ?」
「あなたと同じ。――墓前に花を供えに来たのよ」
「それなら俺に用件はないんだな、御薙」
「頼みごとがあって来――」
「断る。――俺はもう現役じゃない」
「内容位聞いてくれてもいいじゃないの」
「あんたが俺に頼む位の話だ。軽い話じゃあるまい。
――あんたが嫌いなわけじゃないし、何よりあんたには義理があるが――
それとこれとは別だ。わかるだろう? 世の中には、語り継いでいってはいけないものがある。
俺の名前をこれ以上、歴史に刻むつもりはない」
「――『ART』のシステムの流用が確認されたの」
「…………」
「あなたの力が必要なのよ。力を貸して。――ゼロ」

こうご期待。
(あくまで構想の段階であって詳細は未定です)


(以上のあとがき、次回作予告は2007/9/24、完結時に書いたものです)

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