「うーん、やっぱり朝食はゆったりと優雅に食すものだな、うん」 今日は日曜日。いつもよりも遅くに起きて、いつもよりもゆったりとしたペースで朝食を食べる俺。――やっぱりこの後学校へ行くのと行かないとでは全然気分が違う。うん、美味い。 「――今日は春姫とのデートも久々にないしな。何して過ごそうかなー」 つい独り言で呟いてしまう。――そう、今日は久々の完全フリーの日だった。デートの日は気分は確かにルンルンだが(言い方古いか?)こんなにのんびりはしてられない。 「よーし、それじゃ今日はこの前駅前で引っ掛けた女でも呼んで一発楽しむとでもしますかね!」 そうそう、この前駅前で――って、何だそれ!? 「兄さん……幻滅です、そんなことしてたなんて……姫ちゃんが聞いたらどれだけ悲しむか」 と、そこに都合悪くすももが。随分冷たい目で俺を見ていた。 「ちょっ、待てすもも! 今のは俺じゃないぞ!」 「でも、そこには兄さんしかいないじゃないですか」 「違う! 今は俺じゃなくて、俺の後ろから――」 うん? 俺の後ろから?――ハッとして後ろを振り向くと…… 「ハハハ、どうだ、似てたか?」 「やっぱりお前かクライス〜〜〜!!」 犯人は、俺の声真似をしていたクライスだった。 「そう怒るな。軽いジョークじゃないか。スキンシップスキンシップ」 「何処がだよ!? すももなんて思いっきり信じてたぞ!?」 マスターをなんだと思ってるんだよ、こいつは。 「――とにかく、早く食べて支度して下さいね、兄さん」 「へ? 支度? 何で?」 何の支度だ? 俺今日は用事は特に無いぞ? 「何で、って……青空の園へ行くからに決まってるじゃないですか」 「いや決まってるって、いつ決まったんだよ? 俺あそこには月・水・金の約束だから今日は行く日じゃないぞ?」 「ですから、魔法教師抜きで、子供達と遊びに行くんです。お散歩した後、公園で遊ぶ約束をこの前したんですよ。姫ちゃんも一緒です」 成る程、だから今日は春姫駄目だったのか。――いや、でも。 「にしても、俺は何も聞いてないぞ? しかも魔法抜きなら別に俺は行かなくても――」 「いや、その、すまないな雄真。――私が約束してしまった」 「クライスが!?」 「ああ、昨日お前が入浴中にすももに相談されてな。『小さな子供達にお話をしてあげたいんですけど、どんな感じの話がいいでしょうか?』って聞いてくるから、つい『それなら私がやってやろうか?』と応えてしまった。――私一人で歩いて青空の園へ行ければいいのだが、そういうわけにもいかんだろう」 「というわけで、早めに支度して下さいね、兄さん♪」 「…………」 マスターを何だと思ってるんだよ、こいつは……本当に。
この翼、大空へ広げた日 SCENE
6 「風の少女」
「――お爺さんとお婆さんが桃を切ってみると、なんと中から赤ん坊が出てきました」 春姫と合流し、青空の園へ小さな子供達を迎えに行き、その足で散歩、辿り着いた公園にて。遊具で遊ぶ子、ボールで遊ぶ子。 そして俺が座っているベンチの隣のベンチでは、クライスが数名の子供達相手に昔話をしていた。桃太郎のようだ。 「お爺さんとお婆さんはその子を桃から生まれたので桃太郎と名付けました。そしたら桃太郎は言いました。――『いや、桃から生まれたからって桃太郎って、面白味の欠片もねえな』」 「うおおぃぃ待てクライス!!」 「? 何だ雄真?」 「何だじゃない!! なんだその生意気な桃太郎!! やり直し!!」 「仕方ないな。――お爺さんとお婆さんが桃を切ってみると、なんと中から赤ん坊が出てきました」 何を言い出すのかと思いきや、まったく。 「赤ん坊が出てきたお爺さんとお婆さんはビックリ。桃から子供が出てくるなんてありえません。二人は学会に発表することにしました」 「待てー!! またおかしくなってるぞ!?」 「ありえんだろう、桃から子供など」 「いや確かにありえないけど!! そんなリアルな話を子供にするな!! 桃太郎はもう禁止だ!!」 俺のワンドは夢も希望もないのか!? 「浦島太郎は助けた亀に連れられて竜宮城に行こうとしましたが――息が続きませんでした」 「だから夢も希望も失うような話をするなー!!」 「馬鹿者、酸素ボンベを持たせるほうがよほど夢も希望もない」 「そういう意味じゃないわい!! ええい、もう昔話禁止!!」 どうだ、これならもう変な話は出来まい!! 「それなら、雄真と春姫の馴れ初めの話でも」 「なぬぅ!?」 「学校の屋上で想いを確かめあった二人は、保健室へ行きました。そこで二人は――」 「のわー!! ストップストップ、何処まで知ってるんだお前!?」 何がそこで二人はだ!! 良い子のみんなに語れないシーンに突入しちゃうじゃないかよ!? 「何処まで、って……ほぼ全部知ってるぞ」 「マジで!?」 「それはそうだろう。指輪としてお前と一緒に行動していたわけだからな」 な、あの時の記憶もあるのか!? 「ちなみに、二回目は初デートの後雄真の部屋で、三回目は春姫の寮で――」 「わーわーわー!! やめいやめいやめい!! というかお願いだから勘弁して下さい!!」 自分のマジックワンドに手を合わせて懇願するマスター。――情けないぜ俺。 「ハハハ、わかったわかった、ジョークだから気にするな。――さてと、それじゃ真面目に話をしてやるか」 やっと真面目に昔話を始めるクライス。――心臓に悪い。この前の格好いいクライスは何処へやら。とても同一の人格とは思えない。 「…………」 と、落ち着いた俺の視線の先にいるのは、他の子数人と一緒に縄跳びをしていた恵理香ちゃん。この前の金曜日のことをつい思い出してしまう。草笛さんによるとあれ以降は特に変化もないし体に支障をきたしているわけでもないらしいので、とりあえず大丈夫だと思うが、不安は拭いきれない。 魔属性過剰性という名前の病気であることはわかっているものの、それが一体どんな病気だかわからないのも歯痒い。伊吹や小雪さんに聞いてみたがわからないと言われたし、先生に相談してみようかと思ったら丁度良く出張中。携帯に電話したら電源切ってあるし、本人は週明けまで帰ってこないらしい。――というわけで、俺は何処か悶々とした気分のままだったりした。せめて病気のことが詳しくわかれば。誰か他に知り合いで魔法で凄い人は…… 「…………」 いや、一人思い当たる人はいる。何か困ったことがあったら、とも言ってくれた。――でもなあ、だからと言って簡単に電話していいものだろうか? あまり良くないことだって本人も言ってたし。――でも知りたいし…… 「――よし、駄目元で電話してみよう」 俺は携帯電話を取り出して、先日登録したばかりの番号にダイヤルする。――しばらくコール音が続いたので今は出れないのかな、と思っていると、 『―ーもしもし?』 あっ、出てくれた。 「あ、俺です。小日向です。――今、大丈夫ですか?」 『ええ、大丈夫よ。――ふふ、早速頼ってくれるのね』 「あ、その……まあ、はい」 何処となく楽しそうな聖さんの声。――良かった、迷惑とかではなさそうだ。 『それで、何の用かしら?』 「はい、ちょっと魔法関連のことでお聞きしたいことが」 『聞きたいこと?』 「はい。――聖さん、魔属性過剰性って病気、ご存知ですか?」 『…………』 受話器の先の沈黙。やっぱり知らないのかな、と思っていると、 『――ねえ小日向くん。どうしてその病気のこと、私に聞こうって思ったの?』 少し間を置いての聖さんの返事は、質問返しだった。 「えっと、それが――」 俺は聖さんに、大まかに金曜日の出来事を説明する。 「――それで、せめてどういう病気だか知っておきたいな、と思ったんですけど、俺の周囲に知ってる人がいないし、先生は出張中だし――で、聖さんは知ってないかな、と思ったんです」 『そう……』 何となく、何かを考えこんでいるような聖さん。――俺、何かまずいこと聞いたのか? 『小日向くん、その後、その子は?』 「あ、とりあえずは元気ですよ。今日も他の子達と一緒なんですが、普通に遊んでます」 『? 今、その子と一緒なの?』 「ええ、その他大勢とすももと春姫も一緒です」 『――小日向くん、今何処にいるの?』 「へ? 何処に、って……瑞穂坂第三公園ですけど」 『わかった、今からそっちに行くわ。丁度瑞穂坂に行く日だったし、ついでに。十分で着くと思うから』 「いや、あの、着くと思うからって、はい?」 何かよくわからないうちにどんどん話が進んでいる気が。 『詳しい話は着いてからするわ。――それじゃ、また後で』 「あっ、ちょっ――」 ツーツーツー。――バッチリ電話は切れていた。どういうことだろう? 直接会う必要があるってことか? そんなに――重大な病気なんだろうか? 無邪気に遊ぶ恵理香ちゃんを見て、ただ俺は大事に至らない話であることを願うだけだった。
「あーあ、でもちょっとショックだな、沙玖那さんのこと隠してたの」 丁寧語を使って電話をしていた俺が気になったらしく、春姫がやってきて事情を尋ねてきたので、説明をした結果の感想がこれだった。――そういえば、春姫に聖さんのこと言うの忘れてた。 「いや別に隠してたわけじゃないって。偶々言うの忘れてただけ」 「でも雄真くん、前例があるから」 「前例?」 何かしたっけか俺? 「最初にOasisで沙玖那さんに会った時も、見惚れてたもん、雄真くん」 「ぶっ」 未だにそこを引っ張りますか春姫さん!?――いや確かに聖さんは綺麗だし、この前初めて普通に笑ってるところを見てちょっとドキッとしたりもしたけど……なんて言えるわけがない俺。 「――何か今、後ろめたいことがあるよ、みたいな顔してる」 「気のせいだって気のせい!」 すいません、微妙に気のせいじゃないです。――というか心の奥底で一瞬考えたことを察してくるのは本当に凄いというか怖いというか。 「ハハハ、その程度で勘弁してやってくれないか、神坂春姫」 と、そこで仲裁に入ってくれたのは昔話も一段落中のクライス。 「男というのは馬鹿な生き物でな。どれだけ一途に思う相手がいても、美しい女性がいたら見てしまうものさ。そうだな、女性が可愛らしいアクセサリーとか、そういった類のものについ目が行ってしまうのと同じだと思ってくれればいい。ま、強引な比較対照だがな。――それに」 一瞬間合いを置いて、クライスが続ける。 「それに――貴行が好きになった小日向雄真という男は、その程度の男ではあるまい。もてる要素は持っているが勿体無いかな、それの使い方を知らず、未だに貴行一途の純粋な奴だよ」 「あ……」 一瞬何かを悟ったような春姫の目。――そして笑顔になる。 「ふふふ、ごめん雄真くん。ちょっと意地悪だったね、私」 「いや、いいよ。気にして無いから」 というよりも、クライスの言葉がくすぐったいのでそれどころじゃない。――変わったマジックワンドだよ、本当に。 「そうだよね。私を助けてくれて、私が好きになった男の子は、誰よりも私に幸せをくれる人だから」 「春姫……」 春姫を目が合う。離れない視線。近付く距離。目をそっと閉じる春姫。そして―― 「ごめんなさい、待たせたかしら?」 「ぬおっ!?」「きゃあっ!?」 聖さんのその声に瞬時に間合いを取る俺達。あ、危ないところだったぞ…… 「というか、随分ベタな展開だな」 「お前が言うなよクライス!!」 俺とクライスのやり取りに「?」マークを出す聖さん。――落ち着け、落ち着くんだ俺。 「あの……お久しぶりです、沙玖那さん」 「ええ、神坂さんも」 一足先に気持ちを落ち着かせた春姫が聖さんと挨拶を交わしている。助かります。――と、挨拶が終わると聖さんはすももが面倒を見ている子供達の一角を見ていた。そして、 「あの子よね? あの縄跳びをしていて、カチューシャをしている女の子が、問題の子なのよね?」 と、一発で何の説明もしてないのに恵理香ちゃんを当てた。 「――どうしてわかるんですか?」 「うん……なんとなく、わかるのよ、色々とね」 そう言いながら聖さんもベンチに腰掛ける。ベンチは左から春姫、俺、立てかけてるクライス、聖さんの順番になっていた。 「魔力を持つ人間には、それぞれ得意属性があるって知ってるかしら?」 聖さんが切り出した話は、一見すると病気とは何の関連も無さそうな話だった。 「得意……属性?」 「ええ。攻撃魔法って、実際に炎や氷を出すわけじゃなくて、自分の魔力をそういった類のものに変化させているわけでしょう?」 確かに、炎の魔法を放っても実際そこら中が燃えてしまうということはない。無論限りなく近づけてあるのでそれに程近い効果は得ることは出来る(雷の魔法で電流を流すとか)。でもそれは完全に同じものではないのだ。 「魔法使いはね、そうやって変化させて放つ魔法の中に必ず一つ、自分が得意とする属性があるのよ。判別方法は色々あるけど、特に意識しないで放つ攻撃魔法で一番出易いのが自分の得意属性だと思えばいいわ」 「――知ってたか、春姫?」 「ううん……初めて聞いた」 春姫が知らないってことは俺も知らなくて当然か。 「知らないのも無理はないわ。学校では教えてないことだもの。詳しくは知らないけど、そういうのを意識して勉強してしまうと下手にバランスが崩れて将来魔力の効率が悪くなってしまう可能性があるから、っていうのを聞いたことがあるわ。――あ、二人位の年齢になるともう関係なくなるから、それは安心して」 いや俺は魔法の勉強は始めたばっかりなんですけど、大丈夫なんだろうか? 「月邑家での戦いを見た感じだと、小日向くんも神坂さんも、得意属性は「炎」だと思うわ」 確かにそう言われるとそんな感じがする。――切羽詰った時に出す攻撃魔法は俺は必ず炎に具現化されてるし、春姫の攻撃魔法もソプラノから炎を出してる魔法を一番多く見ている。 「ちなみに、私は「光」」 そう言うと聖さんは軽く手をかざす。すると小さな魔法陣が生まれ、その先に光の玉が生まれた。 「さてここからが本題。魔属性過剰性という病気はね、とても珍しい病気で全ての属性が得意属性になってしまう病気なの」 「全ての属性が……?」 成る程、だから今までの説明があったのか。 「そう。元より一つしかないはずの得意属性が大量にある。体内で反発しあうそれらは、不意なきっかけで暴走を開始する」 「暴走……じゃあ、それが」 「ええ。――貴方達が体験した金曜日の事件。おそらく初めて魔法を使ったことで体内の魔力の流れに衝動が走ったんでしょうね」 そういうことか……実感はないが、色々な意味で凄いものらしいな。――で、肝心なのはここから。 「それで、その病気の治療法ってあるんですか?」 出来ることならその不安から解放してあげたい。本人が知ってしまう前に。 「――残念ながら治療法、というのはないわね。病気とは名ばかりで、一種の体質だから、薬でどう、手術でどう、とかではないの」 「…………」 治療法がない。それじゃ恵理香ちゃんはずっとそのままなのか? 「そんな暗い顔しないで。手の打ち様がないものでもないわ。あくまで体内の魔力のコントロールの話だから、これから魔法を勉強していけば将来的には十分コントロール出来るようになると思う。――これは私がこの病気に詳しい理由になるんだけど、私が二人と同じ歳の頃、友達にいたの」 「えっ、魔属性過剰性の人が、ですか?」 「ええ。彼女、何度か暴走はあったけど、最終的にはコントロール出来るようになって今は普通に暮らしてるわ。――駅前の「Rainbow
Color」ってお店、知らないかしら?」 「あ、はい、知ってます! それじゃ、あそこの店長さんが――」 「そう。私の高校の頃の友達。彼女、普段はほとんど魔力を抑えてるけど、本気を出したら物凄い魔力が出せるわ」 駅前のRainbow
Color……俺、知らないんだけど、という視線をさり気なく春姫に送ってみる。 「オリジナルデザインの魔法関連のアクセサリーを売ってるの。魔法関連の小物ってどうしても性能重視でデザインとかを考えてないのが多いけど、あそこのお店は可愛いデザインのが沢山置いてあって女の子の中でも凄い人気なんだよ? 雄真くんも、今度一緒に行ってみよう?」 「へえ……そっか、んじゃ今度行ってみるか」 悲しいかな準のお陰で駅前ファッション関連のお店には男の割りには随分詳しい俺だが、流石に魔法関連となると準も行かないからな。春姫と一緒に行ったことがなければ知る由もない。 「あの子を見た限りだと今の状態は全然大丈夫そうね。最悪危ない状態だったらどうにかするつもりだったけど、その必要はなさそうだわ」 成る程、だからこうしてわざわざ足を運んでくれたのか。ありがたい。――でも、どうにかする、というのはあまり考えたくないな。 「このまま恵理香ちゃんに魔法を使わせて大丈夫ですかね?」 「今後もよほどのことが無ければ簡単には暴走しないと思うから、今のまま特に気にしないでも大丈夫。むしろ魔法を使って魔力が体内を流れることに慣れさせたほうがいいわ。それにあの子の暴走、キャンセルをかけられた人が近くにいたんでしょう?」 「ええ、まあ」 「なら大丈夫。――本人には一応内緒にしておいたほうがいいけどね。そういうことを知るのはもっと成長してからのほうがいいわ。私からはこんなところかしら」 「わざわざありがとうございました、聖さん」 俺と春姫は軽くお辞儀をしてお礼を言う。――正直助かった。心のモヤも晴れたし、何より思っていた以上に酷い病気でもなかった。本当にわざわざ来てくれた聖さんには感謝だ。 「気にしなくていいわ。電話でも言ったけど、今日は瑞穂坂に来る予定があったから、ついでだったし、それに――」 と、そこまで言い切ったところで、不意に聖さんがスッとベンチから立ち上がる。 「――小日向くん、神坂さん。子供達を一箇所に集めて」 「え……? 聖さん?」 いきなり真剣な面持ちに変わる聖さん。急に何を言い出すんだ? 「結界を張られたわ」 「結界?」 「この公園にね。――誰もこの公園に入ってこれないように。それに私達が――公園から、出られないように」 「――!?」 どういう……ことだ……? 結界? 「二人とも、早く」 「あ……は、はい! 春姫!」 「うん。――すももちゃん!」 意味がわからないまま、俺達は急いですももの所へ行き、子供達を一箇所に集め、集合する。聖さんは俺達が集合したのを確認すると、 「この場所から、動かないように。いいわね」 と言い、俺達を庇うように数メートル先に出て、公園の入り口の方を見ている。そしてその公園の入り口から、二人の男の人が入ってくる。 「春姫……」 「うん。――二人とも、魔法使い」 そう。入ってきた二人の男は、魔法使いだった。 「私達に、何か御用でしょうか?」 先に口を開いたのは聖さん。――初めて会った時に聞いた、あのクールな口調だ。 「我々の用件は一つだ。お嬢さんが庇っている後ろの子供達を渡せ。素直に渡してくれればお嬢さんと高校生位の子供達には手を出さない」 つまり……青空の園の小さい子供達が目当てってことか。――嫌な予感がする。 「…………」 チラリ、と恵理香ちゃんの方を見てしまう。まさか……まさか。 「断る、と申し上げた場合は?」 「無論、力付くでだ。――これが我々の実力だ」 そう言って、その人達が見せたのは―― 「っ!? 二人ともClass
Bだって……!?」 そう、二人が見せてきたのはClass
Bの証明書。相当のやり手だ。それが二人。 「そうですか。――それなら安心しました」 ところが聖さんはその言葉を聞くと、少し笑みを零しながらそう言い出した。 「――何? お嬢さん、何を言って……」 「他に何か手段があるのなら困るところでしたが、そちらが力付くしか手段がないのなら私も力付くで応対すればいいだけのこと。あなた方程度の実力でしたら、十分な勝機がありますから」 聖さんの口から出た言葉は、明らかなる挑発だった。 「言わせておけば――面白い、そこまで言うならば仕方が無い」 無論そんなこと言われて黙っている相手ではなく、二人とも背中からワンドを取り出した。――まずくないか? 聖さんが強いって言っても、Class
Bを二人も相手にするんだぞ? 「聖さん! 俺も春姫も手伝います!」 正当に考えてこれが一番妥当な方法だった。俺はともかく春姫はClass
B。一対一ならば十分にやり合える。こちらが完全に有利になるはず。――が、 「ありがとう。――でも、二人は子供達を」 「でも――」 「大丈夫。――自慢じゃないけど、私初対面の相手には強いの」 そう言って優しく笑う聖さん。――いやでも。 「いいからやらせておけ雄真」 「クライス……?」 「あいつだって何も考えてないわけじゃない。一人でやることにそれなりの理由があるんだろう。――それにな、「瑞穂坂の聖騎士」の実力を拝むいい機会だ。よく見ておけ」 「クライスは……聖さんの実力、知ってるのか?」 「多少な」 多少って。どういう意味だよ? 「雄真くん、沙玖那さんとクライスを信じよう? 危なくなったらすぐに出れるように準備をしておけば」 「……うん……そうだな。それに……」 俺はクルッと後ろを振り返り、少ししゃがむ。 「みんな、大丈夫だからな。俺と春姫とあのお姉さんで、みんなのことは絶対守るから。だから、安心してていいぞ」 子供達を守る。子供達を不安にさせない。子供達のそばにいてやる。――何より重要なことじゃないか。 「兄さん……」 「無論お前もだよすもも。何があっても絶対守るからな」 そう言って、不安そうなすももの頭を笑顔でクシャクシャと撫でてやる。――そうだ、聖さんを信じて、俺に出来ることを精一杯やればいい。 俺はあらためてクライスを持ち直すと再び聖さんがいるほうへと振り返る。 「ネスト・リム」 聖さんが自らの胸に手をあててそう呟くと、パッと聖さんの体が光る。そしてその光が収まると―― 「うわ……」 聖さんは純白の魔法服を身に纏っていた。白い服に白いマント。――続いて聖さんが腰の辺りから取り出したのは…… 「えっ」 「な……」 聖さんが腰の辺りから取り出したのは、剣だった。西洋とかで出てくる、あの剣。少し細身の剣だ。純白の魔法服で剣を持つその姿は、まさに「聖騎士」だった。言葉の由来がわかった気がする。 「おいおいお嬢さん、どういうつもりだ? ワンドじゃなくて剣で俺達に勝とうってのか?」 「ご想像にお任せします」 「チッ、腹立つ女だな……構わねえ、やっちまえ!」 同時に詠唱を開始する二人組。その様子を微動せずに伺うだけの聖さん。どうして何もしないんだよ――と考えてる間に、詠唱が終わり、二人組が魔法を放つ。 「…………」 だが聖さんは表情一つ変えず、その魔法をギリギリまでひきつけると、スッと紙一重でかわす。相殺でもなくレジストでもなく、身体能力だけであっさりとかわしてしまう。 ズバァン!――続いて放たれる魔法。 「…………」 そしてその魔法も身体能力だけでかわす聖さん。――その状態が連続して続き始めた。 「うわ……」 緊張感のない俺の感想だが、本当に凄い。聖さんのその動きは何かの舞を見ているように華麗で見惚れてしまう動き。――時折移動する瞬間に聖さんの足元がパッと光るのは気のせいだろうか? 「雄真、更に付け加えてやろうか?」 「クライス?」 「聖はな、ただ闇雲に避けてるんじゃないんだぞ」 「――え?」 どういう意味だ? 「次自分が何処へ動くかによって相手が次に放ってくる魔法のタイプが何かも考え、最終的にまったくこちらまで相手の攻撃が届かないような展開に持ち込んでいるんだ。要は、あの短時間でその判断をしながらあの速度で動いている」 「な……」 そんなことが可能なのか? 二人同時に、しかもClass
Bの魔法使いが放つ魔法をレジストと相殺抜きでかわしているのに、そこまで計算して動いてるだって? そんなの頭に入れてたら次動ける場所なんて限られてくる。それを聖さんはあの速度の中、余裕を持ってこなしているのか? 「凄い……」 それは横にいた春姫も感じたようで、呟くように感想が漏れていた。――その間にも見事な動きで相手の魔法をかわす聖さん。 「チッ、ちょこまかちょこまかと! こいつで終わりだ!」 そして相手が苛立ち始め、大技を放ったその時だった。 「…………」 今まで主に左右の動きだけでかわしていた聖さんのステップが変わる。見間違えじゃなく聖さんの右足が地面についた瞬間にバシュッ! と光り、初めて大きく相手に向かって前進。――大技を放つことで相手の一人に隙が出来たのだ。 魔法が当たらないギリギリのラインを、軽く宙を舞うように前進する聖さんは、今まで片手で持っていたその剣を両手に持ち直し――そのまま、相手の上空から振り下ろした。 「な――にぃ!?」 ガキィン!――俺達ですら予想外の動き、無論相手も予想外。魔法による攻撃でもないのでレジストでも防げず、攻撃魔法を放ったばかりなので魔法を放つことも出来ず、相手は持っていたワンドを横にして聖さんの剣を防いだ。最早それだけでも奇跡の防御かもしれない。それほどに聖さんの動きは早く、そして美しかった。 だが、相手の抵抗もそこまでだった。 「クレイム・ウォール」 聖さんは、未だ着地する前、相手にワンドで塞がれた瞬間に、既に詠唱を開始していた。――聖さんの詠唱と共に、聖さんの剣に光が集まっていく。細身だったその剣は、瞬く間に光の大剣へと変化した。 「う――うわああぁぁぁぁっ!?」 ズバアァァン!!――迸る光の波動がワンドで行っていた相手のガードを押し切り、そのまま吹き飛ばす。――吹き飛ばされた相手はそのまま倒れ、ピクリとも動かなくなった。一撃だ。 「…………」 そして、そのまま聖さんの視線が――残ったもう一人へと向けられる。 「ク……クソッ!! ふざけやがって!!」 残ったもう一人が再び攻撃を開始してきた。さっきとは魔法のタイプが少し違う。威力を抑え、逆に効果範囲を広げてきていた。――明らかに聖さんの接近を避ける為だった。確かにここまで激しく爆発やらなんやらされたら流石にかわしながらは近づけそうにない。 「シャルヴァーナ・リクスト・メイア」 聖さんも接近を諦めたのか、再び剣を片手に持ち替え、もう一方の手をかざし、魔法陣を作り、相手の魔法に対して魔法による相殺を開始。――相手が範囲を重点に置いた魔法を使ってきているので、それを相殺していくことで段々と聖さんと相手の姿が爆発の煙やらなんやらで見えなくなってきた。 そして、その状態が三分ほど続いたその時、不意に魔法の打ち合いがピタリと止まる。少しずつ晴れてくる視界。そして、見えてきたその光景は―― 「ば……馬鹿な……何故だ……!?」 相手の魔法使いの喉下に、聖さんが剣を当てて、微塵でも動いたらアウト、という状態に追い込んでいた。――相手の台詞じゃないけど、何故、いつの間に、どうやってだ……!? 「き、貴様、どうやって……あの場所で魔法を放っていたはず……!!」 「――魔法を放つのは、私じゃないわ。私が作った魔法陣に過ぎない」 そう。聖さんが先ほどまで魔法を放っていたと思われていた箇所には、聖さんが作り出した魔法陣だけが浮かび上がっていた。 「魔法陣の遠隔操作。あの場所から魔法が放たれていたらあなたは私があそこにいると思うはず。だから私は多少遠回りをして、あなたに近付いた。ただそれだけ」 いや、ただそれだけ、って…… 「――なあ春姫、そんな簡単に出来ることなのか、あれ?」 「ううん……魔法陣を出しておいてその場から離れる、しかも本人は移動しながら魔法を放つなんて、そんな簡単に出来ることじゃないと思う。少なくとも、私は聞いたことないから……」 「だよな……」 レベルというか何というか、最早住む世界が違うと言えばいいんだろうか? そんなことを考えずにはいられない程の技だ。 「――貴方達が何者で、何の目的かとか、そんなことはどうでもいいわ」 相手の喉に剣をピタリとつけた状態のまま、聖さんが語りだす。 「私からの忠告は一つ。――手を引きなさい。命が惜しければね。あの子達の後ろにいるのは私だけじゃない。御薙と式守がついているわ」 「な……き、聞いてない……」 御薙、式守の名前が出た瞬間、相手の顔が驚愕、恐怖の表情に変わる。やはり魔法関連者にとってその名は絶大らしい。 「それに、あえて言わせてもらうと――今の戦い、私は本気を出してないから」 「っ……!?」 ほ、本気じゃなかったのか。いやそんな予感はしてたけど。 「雇い主に伝えなさい。――これ以上余計なことをするのなら、こちらから動かせてもらう、御薙と式守が黙っていない、とね。――行きなさい」 聖さんがそう言い切ると、相手は二、三歩後ずさり、気を失った方を抱え、逃げるように走り去って行った。 「やった……」 そしてそいつらが居なくなると同時に、息を大きく吐き、緊張を解す俺。危ないところだった、もし聖さんがいなかったら――なんて思っていたら、 「待って。――まだ終わってない」 「――え?」 聖さんにその場に留まるように制止させられる。――終わって、ない? 「結界が消えないわ。――これを作り出した人間は、あの二人組じゃない」 聖さんがそう言って、再び公園の入り口を見出した、その時だった。 「えっ――」 「な……!?」 ビュゥゥゥゥゥ。――突然公園内に吹き荒れる突風。俺達はつい腕で些細なガードをして視界を狭くしてしまう。そして、風が収まり、視界を元に戻した時…… 「……え……いつの、間に……?」 一人の少女が、公園内に立っていた。ちょうど聖さんと対面するような形で数メートル向こうに立っていた。歳は俺と同じ位だろうか。薄い水色の魔法服を着ている。つまり魔法使いだ。 「…………」 そしてその分かり易い外見的特長よりも俺が一番に感じたこと。――顔に、表情がない。まるで何の心も持ち合わせていないような、何も感じていないような、そんな表情だった。 「成る程? あなたが今回の「黒幕」になるのかしら?」 そんな俺の心境など無論知るはずもなく、聖さんが口を開いた。だが相手はその問いかけに答えることはなく、 「ウェンリィア・ミスティア」 代わりに詠唱を開始していた。その二言で、彼女の両腕が風の力――竜巻って言ったほうが近いかもしれない――に覆われた。そして次の瞬間。 「えっ!?」 彼女は、聖さんの後ろに立っていた。早いなんてものじゃない。まったく見えなかった。――その状態から、先ほど風を纏った腕で、直接聖さんに攻撃を仕掛ける。 「っ……!!」 バァン!!――彼女の攻撃を瞬時の判断で剣で防いだ聖さんは、その体制のまま、数メートル、スライドしてしまう。それ程までに相手の攻撃は強烈だった。 「――雄真、春姫」 「クライス……?」 「いつでも出れる準備をしておけ。――可能性は十分にある」 クライスのその短い一言にドキリ、としてしまう。――そう、先ほどの戦いとは違う。見て瞬時に分かった。聖さんに余裕がないのだ。さっきの戦い、聖さんは全て身体能力だけで相手の攻撃をかわしていた。だが今の防御には聖さんは剣を使った。つまり、あれ程までに早いと感じていた聖さんの速度を、相手は越えていたのだ。 バァン!!――休む間も無く続く相手の攻撃。押されつつ必死のガードが続く聖さん。そしてそれが何度目の聖さんのガードだろうか、という時。防戦一方だった聖さんが、ついに行動に出る。 「シャルヴァーナ・クレイム・ブラストっ!!」 ガードし、相手が離れた瞬間、詠唱しながら剣を地面に突き刺すような仕草。――と同時に、聖さんを中心に百八十度全部の方向に光の波動が走る。 「――っ」 後ろ向きの状態から攻撃に出られるとは思っていなかったらしく、相手も不意をつかれ、聖さんと数メートルの間合いが再び開いた。 「何処の誰か知らないけど……仕方ないわね……」 バシュッ!!――聖さんがそう言い切ると、再び足元が激しく光り、今度は聖さんの方から動き出す。 「!!」 バァン!!――再びぶつかり合う二人の攻撃。だが先ほどまでとは違う点があった。それは聖さんの速度。先ほどまで防戦一方だったのに、今は五分。相手の速度が落ちたわけじゃなく、明らかに聖さんの速度が上がっていた。 「何だ……これ……」 こんなことがあるんだろうか? 魔法使い同士の激しい接近戦の連続。時折消えるようなスピードで動く二人。目で追うのがやっとの俺。――全てを忘れ、何処か客観的立場で見入ってしまっていた。 ズバァン!――その接近戦がどれだけ続いただろうか。不意に二人の距離が開く。 「エルザ・シャルヴァーナ・リアス・スレイヴ」 聖さんの詠唱。その手に持っていた剣に一気に光が集まる。先ほどよりも、今まででより激しく、聖さんの剣は光の大剣へと変化する。 「はああああああっ!!」 そしてその剣を振り下ろすと、激しい光の波動が一気に相手へと襲い掛かった。 「ミスティア・ネイド・アルエーズ」 相手も無論黙って見ていたわけじゃなく、聖さんが詠唱していたのと同時に詠唱を開始。前方に魔法陣を繰り出し、激しい風の魔法を放つ。ぶつかり合う二つの魔法。威力は同程度だったようで、丁度相殺される。 だが――驚くべきは、ここからだった。 「っ!?」 無表情だった相手の顔が、初めて表情を変える。――驚きの表情。そう、お互いの魔法が相殺された瞬間、既に聖さんが彼女の後ろに回りこんでいたのだ。 ズバァン!――地面から振り上げるように光の大剣を振るう聖さん。相手も反応は出来たものの、完璧なるガードには間に合わず、吹き飛ばされる。――初めて、明確なるダメージというものが入った。数メートル吹き飛ばされた所で受身を取り、体制を立て直す相手。 「私よりも早いなんて……あなた、普通の人ですか……?」 初めて、詠唱以外で口を開いた。その台詞からしても、聖さんの速度によほど驚いていたらしい。確かに相手も早いが、それよりも聖さんは早かった。おそらく自分の速度に絶大なる自信があったのだろう。 「私から言わせれば、あなたに言われたくはないわ」 そしてそう言い返す聖さん。――俺から言わせたら二人とも尋常じゃないですよ、はい。 「――彼らに対して本気ではなかった、というのは本当だったみたいですね。――確かに、あなたのレベルの人が、私が勝てない相手が他にもついているというのなら私達に勝ち目はなさそうです。――撤退します」 そう言い切ると、彼女はクルリと背を向け、ゆっくりと公園を後にしていく。俺達もその後姿をただ眺めていたのだが、 「ふう……もう大丈夫よ。結界が溶けたわ」 その聖さんの台詞で、やっと終わったことを実感出来た。子供達をすももに任せ、俺達は聖さんの元へ。 「大丈夫ですか? 何処かダメージとか……」 「ええ。ちょっと疲れたけど、目立った外傷を受けたわけじゃないわ」 そう言って笑いかけてくる聖さん。――思い出しても驚愕の連続だった。腰から取り出したのは剣。信じられない移動速度。激しい接近戦。 「凄い……ですね。不謹慎ながら思わず見惚れてました、今回の戦い」 それは横の春姫も同様だったようで、「私も」といった感じでうん、と頷いている。 「言ったでしょう? 初対面の相手には強い、って」 確かに。あの戦闘スタイルは予想外だ。何も知らない相手からしたら不意を衝かれてアウト。まさに今回そうだったし。――これが「瑞穂坂の聖騎士」の実力か…… 「勘違いしないで欲しいんだけど、基本的に私は魔法使いなのよ?」 「え?」 「例えば――この剣。「リディア」って言う名前の、マジックワンドよ」 いや剣ですけど。どう見ても――ってそういえば信哉の奴はワンドといいつつ木刀だったっけか。 「あくまで剣と同じ振る舞いで使えるだけで、剣としての能力はないの。――物、切れないのよ? これ」 そう言いながら素手で刃の部分――だと思っていた箇所をポンポンと触る聖さん。確かに手がそれで切れたりするという様子はない。 「私の移動術も、光の魔法の一種。きっと相手のあの子の移動術も風の魔法の一種よ」 相手のあの子。――その言葉にハッとする。相手。つまり、俺達を襲ってきた相手。 「――何が目的だったんでしょうか、あいつら」 「そうね。――あまり考えたくはないけど」 そう言いながら、俺達はつい恵理香ちゃんを見てしまう。いやそう決まったわけじゃないけど……でも。 「もし……もしそうだったとして、そんな狙う理由なんかがあるんでしょうか?」 「――珍しい病気、というのは確かにそう。ただ、だから狙うっていうのは私もわからないわ。例えば彼女をさらったところで何か金銭的に利益になるとか、そんなことはありえない」 一般的に考えればそうだろうな。病気なんだし。 「一応脅しは十分にしておいたし、孤児院に軽く結界を張っておけばそう簡単にやられることもないと思うけど……早めに御薙先生に相談しておいた方が良さそうね」 「はい。――先生、週明けには帰ってきますから、その時に私と雄真くんで」 「ええ。お願いね」 まあ確かにあの脅しと先生と伊吹を中心に俺達がつけばそう簡単なことでやられたりはしないだろう。最後の手段では草笛さんもいることだし。――でも。 「――雄真くん?」 「ん? ああ、そうだな。早めの先生に言わないとな」 でも、俺はもう一つ気になったことがあった。――二人組の後に出てきたあの子。歳は俺達と同じ位だった。それなのに、少なくともそういうことに手を染めている。何も感じないような、何も無いような、あの表情で。 俺はそのことが、どうしても頭から離れなかった。
<次回予告>
「――雄真お前、魔法の授業よりも熱心に見えるのは、私の気のせいか?」 「な……なにをおっしゃいますかクライスさん!? 僕は魔法も赤字特売も全力投球ですよ!?」
スーパーのタイムサービス。 それは一部を除く、一般家庭の、庶民の、強い味方。
「困りました……これでは私の百一体タマちゃん大行進の計画が……」 「いらん計画に俺達を巻き込まないで下さい!!」
天然と計算の両方を持ち合わせた、ツッコミどころ満載の占い大好き魔法使い。 彼女の名前は高峰小雪。 彼女が一度現れれば雄真のツッコミが途絶えることなく冴え渡る。
――あれ? 雄真くん? 魔属性過剰性とかその辺りは、どうしたの?
次回、「この翼、大空へ広げた日」 SCENE
7 「友達は戦友」
「――さしずめ、娘を想う父親の気分か?」 「ははっ、よくわからないけど、そういうもんかもな」
お楽しみに。
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