「式守伊吹だ。宜しく頼もう」
「伊吹ちゃんの助手で、小日向すももです。宜しくお願いしまーす♪」
 仲間同伴第二回。今日の同伴者は伊吹とすももの仲良し(?)コンビ。伊吹は何と言っても式守家次期当主。魔法関連でこれ程頼りになる仲間もいない――のだが……
「――えと、式守先生、非常に気になることが一つあるのですが」
「しょっぱなからお主が私に質問してどうする、小日向雄真」
 呆れ顔の伊吹。気持ちはわからんでもない。いやしかし、ここはハッキリさせておかないと。
「あのですね、どうしてお宅の助手の方、メイド服なんでしょうか」
 式守先生の助手のすももさんが、何故かメイド服でそこにいらっしゃいました。フリフリのとっても可愛らしいやつ。いらっしゃいませご主人様とかいうあれだ。――何処でその服手に入れた、我が妹。
「? 何か問題あるのか? すももの話によれば、先生の助手というのは基本ああいう格好するものらしいではないか」
「いや違うから!! 絶対違うから!!」
 全国の教師の皆様、本当にごめんなさい。兄が代わってお詫び申し上げます。
「? どうしたんですか、お二人とも。授業、始めないんですか?」
 と、コソコソ話している俺達が気になったのか、多分メイド服が着たかっただけであろうすももが話しかけてくる。
「いや、何でもない。始めるか」
 というか何を今言おうと既に手遅れなのを察したので、授業を始めることにする。
「うむ。――すもも、例のものを配ってくれ」
「了解です、伊吹ちゃん」
 伊吹に促されてすももが配っているのは、数枚のプリントがホッチキスでひとまとめにしてあるもの。
「あれ、何だ?」
「夕べのうちに用意しておいたものだ。私が幼少の頃、魔法の学習に使っていたものだ」
 成る程、初心者には自分が初心者の頃に使っていたものを、か。――すももが配り終わって数セット余っていたので俺も一つ貰って見てみる。
「それでは始めるぞ。――今日は呪文詠唱の三段式について」
「あー、三段式かぁ」
 そうそう、難しいんだよなこれ。二段式まではなんとかなるんだけど、三段式になると――
「――って待て伊吹!! お前今何を教えようとしてる!?」
「今申したばかりではないか。呪文詠唱の三段式についてだが」
「おかしいだろそれ!? 俺がこの前授業で習ったばっかだぞ!?」
「そう……なのか?」
 不思議そうな顔をする伊吹。――まさか。
「私は物心つく前から二段式は出来ていたからな、初めて習ったのは詠唱の三段式についてだったんだが……」
「あー、そう、ですか……」
 ああ人選ミス。優秀過ぎても駄目だとは思わなかった。


この翼、大空へ広げた日
SCENE 4  「瑞穂坂の聖騎士」


「――人気あるな、すももは」
 沢山の小さな子供達に囲まれながら道を歩くメイドさんすもも。メイドさんの格好ってだけで目立つはずなのに、ああして子供達と歩いていると何故か違和感がなくなるから不思議だ。
 さて、現在時刻は夕方前。――結局伊吹が用意したファイルはレベルが高過ぎて使い物にならなかったので、先生が作ったカリキュラムを元に今日も授業をなんとか完了。
 で、授業終了後、すももの希望により、魔法云々関係なく、小さな子供達を集めて商店街を散歩していたのである。小さくて可愛いもの大好きっ子のすももと、甘えたい盛りの子供達。優しいお姉さんのすももは子供達に大人気であった。
「…………」
 で、俺の横には随分怪訝な表情をする伊吹先生が。
「どうした伊吹? お前もメイド服が羨ましいか?」
「そんなわけなかろう! 馬鹿かお主は!」
 いやでも結構似合うと思うけどな。顔は元々可愛らしい方だし……等と言うと間違いなく殴られそうなので言わない俺。
「――やはり、お主は気付いておらぬか」
「えっ? 気付くって、何にだ?」
 急に何処か真剣な面持ちになって少々小声で話しかけてくる伊吹に、少し戸惑う。
「あの孤児院……私とお主以外から魔力を感じたぞ。――しかも二つ」
「え……?」
 青空の園で魔力を俺達以外から感じた……?
「どういう……ことだ?」
「可能性は二つある。――まず一つ目は以前のお主のように、絶大なる才能を持っていながらも魔法使いを目指していないが為にその魔力が見え隠れする程度、という場合。そしてもう一つは、魔法を使えるのにも関わらず、その魔力を隠して使えないというフリをしている場合。――どちらにしろ非常にわかり辛いものだったからな、何処の誰がそれを出しているかまではわからぬし、今挙げたどちらの理由かもわからぬが……」
「それでも……二人、魔力を持っている人間が……?」
「おるだろうな、あの孤児院に。――あまり深く気にすることでもないかもしれぬが、我々と違い毎回顔を出しているお主には一応伝えておこうと思ってな」
「ふむ……」
 俺みたいに才能を持っていながらも魔法の道に行っていない人間か、それとも――故意に隠している人間か。
「――まあ、今考えてもどうにもならないか」
 もし本当にそのことで何かあったらまた考えよう。いざとなったら草笛さんに聞いてみるのもいいかもしれない。――と、その時だった。
「ねーねー、どうしてこっちのお姉ちゃんは晴れてるに傘持ってるの?」
 すももの取り巻き……もとい、周囲にいた子供のうち一人の女の子がこちらへやって来ていた。伊吹のワンドであるビサイムが気になったらしい。――確かに、傍から見たら傘だからな、ただの。
「これは私のマジックワンドだから、正確には傘ではないぞ」
「ふーん、傘なのに傘じゃないなんて、変なのー。あっ、だから模様とか形とか変なの?」
「ぶっ」
 へ、変って。
「私のクマさんの傘、可愛いんだよ! 今度見せてあげるね!」
「あ、ああ、今度な」
「うん!」
 そう言うとその子はまたすももの近くに戻っていく。俺は内心を悟られないように対応出来たと思う。――だが……
「伊吹様。――あの子供、殴り飛ばしても宜しいでしょうか」
「うおおおぃぃ待てビサイム!! 物騒なことを言うな!!」
 言われた張本人……人でいいのか? まあ、とにかくプライドの高いビサイムは当然怒り心頭なわけで。
「私のことを何だと思っているのですかあの子供は! 私は式守家に伝わる由緒正しきワンドの一つ! その私を変などと……!!」
「ハハハ、まあそう怒るな、ビサイムとやら」
 と、そこで宥めに入ったのは、同じくワンドであるクライス。
「貴行の気持ちはわかる。だがな、相手は子供ではないか。式守家の由緒正しきワンドがその程度のことで目くじらを立てているようならば、主の名前に傷が付くのではないか?」
「…………」
 数秒訪れる沈黙。そして、
「伊吹様。――取り乱したこと、お許し下さいませ」
「うむ、気にはしておらぬ」
 ビサイムが折れた。
「大人だな、クライス」
「そうでもないさ。客観的な立場だからわかっただけかもしれん」
 そうやって謙遜するあたりも十分に大人だよ。――と、そこにまた別の子が。
「先生、それが先生の杖?」
 と、ちょうど会話をしていたクライスを見てその子が言ってきた。
「ああ、そうだよ。名前はクライス」
 俺はその子の前にクライスを出してまじまじと見させてやる。――すると、
「……なんか、微妙」
「……はい?」
「もっとさあ、格好いい杖持ってないの? 杖のくせに短いし、よーく見ないと先の宝石わからないし。それじゃ何かの部品みたい」
「ハハハ、部品か」
 確かにクライスは他の仲間のワンドに比べると少々短い。宝石も指輪の時の大きさのままだから小さな子供からしたら見辛いだろう。
「でもな、先生はこれしか持って無いんだよ。これが先生の、大事な杖だから」
「ふーん。……私はもっと可愛いの持とうっと!」
 そう言うとその子も再びすももの周囲に紛れていく。
「――雄真」
「うん? どうしたクライス?」
 そしてその子がすももの周囲に紛れると同時にクライスがやけに真剣な声で語りかけてきた。何事だ? とか思ったら、
「お前、あれだ。――あの子供、殴り飛ばしてこい」
「おいいぃぃぃお前もかクライス!!」
 さっきの格好いいクライスは何処へ!?
「微妙って何だ、微妙って。物には限度ってものがあるぞ。いいか、世の中軽量化、コンパクト化が進んでいるだろうが。私はそういう意味では最先端だぞ? それを微妙とは何事だ、微妙とは」
「待てい!! お前さっき自分で言ってただろうがビサイムに!! ワンドとして主の名前に傷を付けていいのか!?」
「だからお前が直接殴れと言ってるんだ。私自身が殴らなければ私の責任ではない」
 クライスは大人だった。……頭のいい大人も嫌だなおい!!
 そして――ちょうどその時だった。
「――え?」
 大人気ないクライスと揉めていた俺。その様子を呆れ顔で見ていた伊吹。そして一人で大勢の面倒を見ていたすもも。――三人も付いていながら、あまりにも迂闊だった。
 キイイィィィィッ。――激しく道路に響き渡るブレーキ音。猛スピードで走っていた車。そしてその車の前で唖然としている小さな子供。見覚えはある。無論、俺達が連れていた青空の園の子供達の中の一人だ。誰かと追いかけっこしていたのだろうか。ちょっと躓いて道路に出てしまったのだろうか。誰かとぶつかった拍子に出てしまったのだろうか。
 わからない。わからないけど、その子の身に、車が――生命の危機が、迫っていた。
「くっ――!!」
 全てがスローモーションに見える。無意識の内に動き出す俺の体。でも何処かでわかってる。――この位置からじゃ到底間に合わない。……それでも俺は動く。スローモーションで近付く車。そして――
「えっ……?」
 同時に気付く。――反対側の歩道から、一人の女の人が飛び出している。その人は俺よりも早く車の前にたどり着くと、同時に子供を抱えこみ、転げるようにこちら側の歩道へ。
 凄い反応速度だ……などと感じている間に、俺の中のスローモーションは終わっていた。走り去っていく車。――女の人は子供をゆっくりと立たせると、
「大丈夫?」
 と、その子と同じ視線になるようにしゃがみ込み、優しい笑顔で尋ねている。
「――うん」
 子供の方も、いまいち現実味がないらしく、返事が遅れている。――でもその様子だと、本当に怪我とかはしてなさそうだ。
「そう、よかった。――道路に迂闊に出ちゃ駄目、気をつけるのよ?」
「うん、ありがとう、お姉ちゃん!」
 その子は笑顔でお礼を言うと、一緒だった他の子供達の元へ走っていく。――その姿を見届けると、女の人は自分の服を軽く叩き、スクッと立ち上がる。
 俺は驚いていた。その人の反応速度、まるでアクション映画見たいな光景にも確かに驚いていた。――でも、一番驚いたのは……
「あの……聖、さん……?」
 その人の顔に、見覚えがあったからだった。――心の何処かで、もう二度と見ることがないかもしれないと覚悟を決めていた内の一人。
「――貴方達は……」
 その女の人も、そこで初めてその子供達を連れていたのが俺達だと気付いたらしく、驚きの表情を見せる。
 女の人は――沙玖那 聖(さくな ひじり)さん、その人だった。


 沙玖那聖さん。――去年、クリスマス前に起きた月邑家での事件で知り合った内の一人。月邑家に仕えていた魔法使いの人で、月邑家当主が亡くなることでその身に危険が及ぶであろう雫ちゃんを守る為に雫ちゃんと共に、瑞穂坂から、俺達の前から姿を消した人。――だから俺は、もうこの先会うことが無くても仕方が無いと何処かで思っていた。
 だが聖さんは今こうして俺達の前にいる。一体どういうことなんだろう?――ちなみにここはOasis。一度子供達を青空の園まで送り届けた後、ゆっくり話をする為にここへやってきたのだ。
「――こうしてお会いするのは、数週間ぶりになりますね」
 先にそう告げたのは聖さん。――と、ちょっと本題から離れるけど気になることが。
「あの聖さん、ちょっといいですか?」
「? 何でしょうか?」
「その……俺達に、丁寧語使わなくてもいいですよ、別に」
 そう。あの事件の時は聖さんは丁寧語しか使っていなかった。だから俺はすももや小雪さんと同じで誰にでも丁寧語で話すタイプの人なんだと思っていた。――ところがさっき子供を助けた時、聖さんはその子に丁寧語は使っていなかった。それは一般の人と同じく、相手によって普通に使い分けている証拠。
 ならば、俺達にまでわざわざ丁寧語を使ってもらう必要はない。――俺の表情を汲み取ってくれたのか、フッと聖さんが優しい笑顔になる。
「そう。それなら、そうさせてもらうわ。――ありがとう」
 今ならなんとなくわかる。――この人の最初のイメージは無表情で冷たい感じだったけど、本当はそうじゃない。聖さんは、自分が認めた人以外には心を完全に閉ざす。だから初めての人にそういう態度を取るんだ。逆に心を許した人には普通に話すし、普通に笑う。自惚れかもしれないが、だからこうして今なら俺達にも自然に笑ってくれるのだろう。
「それで――その、どうして聖さんは、今ここに?」
 別れた時の様子では、この先俺達に会うことすら許されない感じだったはず。
「――簡単に言えば、事後処理かしら」
「事後処理……?」
「ええ。――藤次様は、年明けを迎える前に亡くなったわ」
 月邑藤次。――月村家の当主で、雫ちゃんの父親の名前だ。
「亡くなったことで、月村家本家が持っていた各権利のいくつかは分家のいくつかに分けられたわ。その辺りの分配処理、引継ぎ等がもう少し必要なの。――無論お嬢様をそこに連れていくわけにはいかないから、使者という形で私が」
「――随分面倒なんですね、色々」
「それはお主が一般人だからそう思うだけだ。――家柄の人間というのは、そういうことを色々持ち合わせていて当然なのだぞ」
 伊吹が軽いため息をつきながら補足してくる。――言い忘れていたが、伊吹とすもももそのまま一緒にいる。
「本当のことを言えば、今こうして貴方達に会うのは、あまりいいことじゃないわ。――でも私は貴方達を信じている。――複雑よね」
 そう言うと、聖さんは少し苦笑した。――やっぱり、会っちゃいけないのか。でも……
「あの……それで、雫ちゃんは……?」
 でも、ずっと気になっていたこと。――雫ちゃんは、元気でいるのか。
「心配しないで。――藤次様が亡くなってしばらくは落ち込んでいたけど、今はもう大丈夫。お世話になっている人もいい人だから、元気に暮らしてるわ」
「そうですか……良かった……」
 良かった。本当に良かった。――確認する手段がなかっただけに、本当に安心した。
「それで……そっちの、皆さんは?」
 聖さんの問いかけ。「皆さん」というよりも、とりあえずは。――俺は携帯を取り出して、この前偶々撮った写真を聖さんに見せる。
「これは……」
 その写真の中には、数人の友人。その中には――赤いマフラーを巻いている、ハチ。雫ちゃんからのクリスマスプレゼントを首に巻いているハチがいた。
「今やあいつを外で見かける時、そのマフラーをしていない時はないです」
 実際の所はわからないが、俺が見る限りでは、ハチの中で雫ちゃんとのことはいい形で心に留まっているようだった。変に引きずるわけでもない、忘れてしまうわけでもない。やっぱり毎日馬鹿なハチだが、あの事件はハチの中でしっかりとしたものに整理されているようだった。
 聖さんはしばらくその写真を眺めていたが、やがて俺に携帯を返すと、再び優しい笑顔になる。
「――貴方達に会えて、本当に良かったわ」
「聖さん……」
「あのことは、本当は私一人でどうにかしようとしていたの。でも私一人じゃ、あんな結果に持ち込むことは到底出来なかったわ。――本当に、ありがとう」
「いいんですよ。――友達の為、でしたから」
「兄さんは、友達の為でしたらナイアガラの滝へでも飛び込む人ですから。ですから、何かお困りの時は遠慮なく頼って下さい♪」
「――それは誉めてもらっているんでしょうか、すももさん」
「誉めてるかどうかはともかく、実際誰かの為に見境無く突っ走る男だろう、お主は」
 二人からの指摘。ただ単に馬鹿だと言われてる気がしないでもない。――と、その様子を見ていた聖さんはクスリ、と軽く笑うと自分の鞄からメモ帳らしきものを取り出して何かを書き込むとそのページを破り、俺に差し出してきた。
「小日向くん、受け取ってもらえるかしら?」
「――これは?」
「私の携帯電話の番号よ。あの時のお礼……ってわけじゃないけど、私はそれなりに力のある人に知り合いが少しいるから、力になれる時があるかもしれない。何か困ったことがあったら、連絡してくれて構わないわ」
 ありがたい話だ。話、だけど……
「いいんですか? だって聖さんと雫ちゃんは、まだ俺達には……」
「確かに、本来ならあまりいいことじゃないわ。お嬢様を危険にさらすような真似をしているんだもの。それでも……こうしておきたいな、って思ったの。それに……」
 そう言うと、聖さんは一区切り置き、再び口を開いた。
「それに……再び正式な形で再会出来る時の為に」
「……わかりました。ありがたく受け取っておきます」
 正式な再会の為。――そう言われてしまうと断る理由がなくなってしまう。
「ハチには内緒にしておきますから、ご安心を」
「ありがとう。……せめて彼と雫、手紙のやり取り位させてあげられるといいのだけど」
「そうですね……って、あれ?」
「? どうかしたかしら?」
「呼び捨て……なんですね、雫ちゃんのこと」
 今まで必ず「お嬢様」だった雫ちゃんの呼び方が、今呼び捨てになっていた。――と、その指摘にも聖さんはクスリと笑う。
「昔はそう呼んでいたの。――彼女とは、私が正式に月邑家に仕える前から付き合いがあったから。今も、「もうお嬢様じゃなくなったから」元に戻して欲しい、って言われてるけど、この事後処理が終わるまでは一応お嬢様、って呼ぶわ。それが終われば希望通り戻すつもりよ」
 そのことを語る様子が、まるで自分の妹のことを語っているように見える。――大切にしてるんだな、雫ちゃんのこと。ますます安心。
「それじゃ、私はそろそろ」
 そう言って、聖さんが席を立ちかけたその時だった。
「あら! あらあらあらあら〜!」
 不意に聞こえてきた獲物を見つけた時に発する(?)その声に、俺はため息をつく。――あの声で近付いてくる時はハッキリ言ってロクな事が無い。一人で来たら来たで「今丁度人手が足りないの、手伝っていってくれないかな〜♪」と無理矢理こき使われ、春姫と来たら来たで「最近はどうなの?」と根掘り葉掘り聞かれ。さてすももと伊吹と一緒の今日は何を言われるのかな、と思っていると。
「や〜ん、聖ちゃんじゃない! 久しぶり〜!!」
 驚くことに、ターゲットは俺でもすももでもなく、聖さんだった。
「お久しぶりです、音羽さん」
「お久しぶりです……ってことは、二人は知り合い!?」
 い、意外な所に繋がりがあった。
「そうね、言ってなかったかしら。――私ね、瑞穂坂の魔法科のOGなの。その頃、Oasisにも行っていたから、その時に」
「凄かったんだから聖ちゃんは〜! 顔も可愛いし、成績も抜群! 「瑞穂坂の聖騎士」って言われててね、学園でも有名だったのよね」
「昔の話です」
 少し恥ずかしそうな聖さん。にしても……
「魔法使いなのに……聖「騎士」なんですか?」
 騎士って、あれだよな。剣とか盾とか。
「私、魔法の使い方が少し人とは違っていたから、そう呼ばれてたんだと思うわ」
 想像がつかないが、なんとなく凄い人であったことは再確認させられた感じだ。
「でも、本当に久しぶりよね〜! もう何年位になるかしら?」
「そうですね……もう卒業して四年経ちました。次の春で五年です」
「そんなに経つんだ……ね、ね、蒼也(そうや)くんは元気?」
「ご心配なく、元気ですよ。彼も忙しい身ですけど、ちゃんと暇を見つけて会ってますし……あれでしたら、今度二人であらためて来ますよ」
「本当? ふふ、楽しみ〜!」
 昔話に花を咲かせるかーさんと聖さん。――と、そこでかーさんの視線が俺へと向けられる。
「その様子だと、雄真くんは聖ちゃんのこと、覚えてなかったのね」
「――へ? 覚えてないって?」
 意味がわからない。その言い方だと、もっと昔からの知り合いみたいな言い方だけど。
「ごめんなさいね小日向くん。――本当はね、五年前に一度会ってるの、小日向くんにも、すももちゃんにも」
「え……ええっ!?」「え……ええっ!?」
 同時に驚く俺とすもも。――五年前に会ってる!? 聖さんと!?
「一度音羽さんに夕飯をご馳走になったことがあって、小日向くんの家に行ったの。その時に」
「…………」
 覚えてない。全然覚えて無いぞ俺!
「あの、もしかして聖さんって、今とその頃と髪型って同じですか?」
 ところがすももは何か思い当たる節があるようで、髪型のことを尋ね始めた。
「ええ。私ほとんど髪型は変えないから、多分今と同じだったと思うわ」
「思い出しました! 確か一緒にコロッケ作ってくれましたよね!」
「ええ、そう。――よかった、覚えててくれたのね」
 すっかり思い出したようで、感激中のすもも。
「それで? お主は何も思い出さんのか、小日向?」
「う……」
 そしてすっかり忘れてしまって、面目ない俺。
「ふふ、大丈夫よ小日向くん。気にして無いから。一度だけだったし」
「――そう言ってもらえると助かります」
 ふぅ、嫌な汗かいたぞ。
 ――しかし、こうしてみると、俺は実に魔法関連の知り合いというか、そいういうのに恵まれてるなあ、と思う。――俺も頑張らないと、な。


<次回予告>

「そっか。――よし、一回深呼吸してみようか。そしたら、もう一度チャレンジしてみよう」
「うん、先生」

失敗にめげず、仲間同伴授業第三回に挑む雄真。
――果たして、一番頼りになるのは誰なのか? 雄真の威厳は?

「雄真、私が思うに選曲に問題があると思うぞ、それは。もっと心が和むような――」
「絶対そういう問題じゃない!! 歌うこと自体に問題アリだ!!」

彼に三度目の正直という言葉は通用するのか?
無事に終わってくれるのか、それとも、やっぱり!?

次回、「この翼、大空へ広げた日」
SCENE 5  「幸せになれなかった魔法」

「柊、しっかりしろ、柊っ!!」

お楽しみに。



NEXT (Scene 5)

BACK (SS index)