「おかしい」
 男は、大真面目な顔で語り出した。
「だってそうだろ? 日本は侍の発生の地だ。日本人は皆、侍魂を持っているんだろう? なのに蓋を開けたら誰もちょんまげを結ってないじゃないか! 刀も持ってないし、鎧兜でもない。そんなことでいいのか日本人よ!」
「もーっ、一体いつの時代の話をしてるの? 日本はもう誰も鎧兜なんて装備してその辺歩いてないの。今は、日の丸の鉢巻をつけて、竹やりを持って、「天皇陛下、バンザーイ!」って」
 バァンパァン!!
「ぐおっ」「あたっ」
 気持ちのいい音が二発、連続で鳴り響く。
「いつまでつまらん漫才をしてるんだ、お前ら」
 よくわからないやり取りをしていた男女に、降りかかってきたのは――
「ハリセン!?」
「それ、私が持たせたんです。いつもいつも竹刀とか木刀とかじゃ、痛いだろうな、って。ハリセンっていい音がするけどあまり痛くないでしょう? 叩く側もスッキリするし」
 やけに巨大なハリセンを持つ女に、その横でそう苦笑しながら説明する女。
「……武器を捨てさせる、というルートはなかったわけ?」
「その……これが、精一杯の譲歩という話になりまして」
 あはは、と目を反らして乾いた笑いを見せた。
「まったく……僕は陽平(ようへい)君とは違ってMじゃないから、叩かれても快感は得られないってのに」
「何さり気なくそこで俺をM扱いしてるんですか!! 別に俺はカティさんに叩かれて快感は得ません!」
「じゃあじゃあ、美奈(みな)ちゃんに叩かれたら快感なの?」
「誰がいいとかそういう問題じゃありません!! 誰でも嫌です!!」
 陽平、と呼ばれた男が激しくツッコミを入れる。
「お前達、少し静かにしていろ。連絡が取れ次第、直ぐに出発だ」
 と、更に一人の男が冷静にそれでも厳しくその場を収める。
「しかし、あれだね。観光の時間はどれ位取れるかね?」
「無論ゼロ分だ」
「……即答かい」
 はぁ、と先ほどからテンションが高い男がオーバーに肩を落とす。
「仕方ないですよ。私達は、遊びに来たんじゃないんですから」
「いや、でもちょっと位いいじゃないか。折角なんだし、旅行の思い出をだね」
「そうそう、美奈ちゃんは真面目なんだよねー。……陽平と、まったりラブラブのチャンスなのに」
「それは――その、ええっと」
 パァン!!
「痛っ!――っていうか何で今のシチュエーションで殴られるの俺なんですか!?」
「最終的に悪いのはお前だから」
「Mだから」
「ハリセンフェチ?」
「そこの二人は黙ってて下さい。っていうかハリセンフェチて」
 …………。
「なあなあ、お土産位は流石にいいんじゃないか?」
「ふむ。――最終的判断を下すのは俺じゃないが、空港で帰りに買う位だったらいいだろうな」
「ホントに? それならわたしも買っていこっかな」
「そうですね、なら私も」
「遊びじゃないんだ。程々にだぞ」
「わかってるって。――いやー俺、キーホルダー前から欲しかったんだよね」
「? わざわざ買うのが……キーホルダー、何ですか?」
「有名だろ、キーホルダー。「努力」とか「根性」とか「バナナニヌネノ」とか」
「思いっきり日本を誤解してますね。……っていうか最後の何ですか?」
「ニッポンチャチャチャ、ニッポン――」
「すいません俺が悪かったです」
「? 陽平くん、今のどういう意味なの?」
「丸い地球は玉手箱、ってことだよ、美奈ちゃん」
「補足止めて下さい。――っていうか日本人の美奈が知らないのに何であんたら知ってるんですか」
「陽平君がMだから」
「陽平が、ハリセンフェチだから」
「お願いだから前後の繋がり考えての発言をお願いします及びいつまでも同じネタを引っ張るのも控えて下さい」
「息継ぎしようぜ、陽平君」
「ほっといて下さい……」
「――お前達、その辺にしておけ。来たぞ」
 促す方から、更に一人の女性。――合計で、七人の集団になる。
「お待たせしたわね。――直ぐに出発。目的地へ直行するわ」
「オーケイ」
「了解しました」
「ふふっ、腕がなる。今から楽しみだ」
「さーて、ガンガンいっちゃおっか!」
「頑張ろうね、陽平くん」
「おう」
 そしてその七人は、力強い足取りでその場を後にしたのだった。


彼と彼女の理想郷
SCENE 30  「言葉にしてくれなきゃ、伝わらない」


「やっと本性を見せたな」
 高台から、スタッ、スタッと降りてくる琴理に向かい、俺はそう言い放つ。――何処となくスカートを気にしながら降りて来ているのは、多分気のせいじゃないだろう、うん。
「お前こそ、よくもまあ一人でノコノコ歩いているな。一番弱い癖に」
「弱かったら来ないとか、そういう問題じゃない」
 ちなみに一番弱いという根本的な箇所は否定は出来ないのは痛い。
「俺は、俺達はすももと姫瑠を、妹と、友達を、大切な仲間達を助けにきた。――弱いから何も出来ないなんてそんなのはゴメンだ。俺は、大切なものをこの手で守ると、決めたんだ」
 俺と琴理の視線がぶつかり合う。――威圧とかそういうのは感じない。琴理はまるで俺の考えを探るような目つきだ。
「一つ聞く。――姫瑠は、お前にとってわざわざ助けるような存在なのか?」
「何?」
「姫瑠が、お前に何をしてくれた? 突然やって来て、お前達の関係を混乱させて、更にはお前の妹を危険な目に合わせる原因を作ってしまったんだぞ? すももを助けたいというのはわかる。だが、姫瑠は助けるべき価値ある人間なのか?」
「価値とかそういう問題じゃない」
 俺は迷わず返答する。――俺にとっての、姫瑠という存在。
「確かにお前の言う通りかもしれない。いきなりアメリカからやって来て、勝手に婚約者になって、色々俺の無許可で騒ぎを起こして俺を巻き込んで。大変じゃなかったって言ったら嘘になる。――でも、あいつはもう俺の、俺達の仲間だ。そうやってつまんないきっかけで騒ぎ起こして、皆で笑い合える中に、あいつはもう混ざってた。あいつと居る時間が、心地いいって感じる俺が、もういるんだ。俺達と一緒にいるのが、当たり前になってた。友達なんだ。仲間なんだ。大切なんだよ。――大切な人間を助けるのに、価値とか、そんなの気になんかしない。大切だから助ける。――それだけに決まってるだろ!!」
「大切……」
 俺の言葉を最後まで聞くと、琴理はふーっ、とゆっくりと息を吹く。
「なるほどな。――何となくそんな気はしていたが、お前はお前。……お前は、神坂春姫とは違うんだな」
「春姫とは……違う? どういう意味だ!」
「同じ質問をぶつけてやったんだ。お前にとって姫瑠は助けるべき価値のある人間なのか、と。――いともあっさりと思い悩んでくれたぞ?」
「っ!?」
 まさか……まさか、それって……!!
「本来なら、お前達と姫瑠を完全に決別させるのが目的だったんだが……まあ神坂春姫、一人を戦力から外しただけでもよしとしておくよ」
「そうか……そういう、ことかよ……!!」
 あの最初の作戦会議の時、春姫は時間ギリギリでやって来て、明らかに様子がおかしかった。今思えば琴理と遭遇し、今のように色々言われ、精神的に追い込まれてしまい、そして――あの発言をしてしまったんだ。
「…………」
「どうした? 怒らないのか?」
 挑発的な笑みで俺を見る琴理。――だが。
「お前に対して頭にこないって言ったら嘘になるけど、でもそれは言い訳に過ぎない」
「……?」
「お前はただ普通に質問してきただけだ。その質問に揺らいだ春姫がいけなかったし――そんな状態になるまで何もしなかった俺が悪い」
 そう。気持ちさえしっかりしてれば、さっきの俺のような受け答えが出来たはずだ。でも春姫は出来なかった。――それは、もう最初から追い詰められていたからであって。
「だからお前にそれを怒っても仕方ない。俺は、お前にそれに関して怒ってはいけない」
「…………」
 俺は「それに関して」琴理に怒りをぶつけてはいけない。……だけど。
「でも、俺はお前に対して怒り心頭だ。姫瑠の気持ちを、何もわかってないお前にな」
「姫瑠の気持ち、だと……? ふん、まるでお前は何もかもわかっているような口ぶりだな」
「わかるさ。少なくとも、お前よりは今のあいつの気持ちはわかる。――お前が何もわかってないだけだ!」
 俺はそのままクライスを持ち直し、身構える。
「――やるつもりか」
「約束したんだよ、姫瑠と。――お前を止めるってな。お前を助けてやるってな」
「私を、助ける……」
 そのまま琴理も、手にしていた青い拳銃――信哉の話では、あれが琴理のワンドらしい――を持ち、身構える。
「私を助けるつもりなら、私の復讐に手を貸すべきじゃないのか?」
「そういうつまらないこといつまでも言ってるお前の根性を叩き直してやるって言ってるんだよ!」
 琴理が魔力を高めていく。俺も精神を集中させる。
「覚悟しろよ!! 必ず姫瑠の前に引っ張り出して、謝らせてやるからな!!」
「ふん、お前に出来るのならな!!」
 そしてそのまま、俺と琴理の一騎打ちが――始まろうと、していた。


「イレイン・ギル・アルマイン!」
「プロステ・ルトン・ガ・ヒル!」
 ババババァン!!――連続してぶつかり合う二人、タカと光山の激しい攻撃魔法。
「ダルディ・ジェ・ギル・ギバース!」
「ピケル・ネルソ・ハエル!」
 前回の戦いでは、冷静さを失ったタカが光山に圧倒される形となったが、現在タカは冷静に戦闘に集中していた。結果、一進一退の攻防が続いていたのである。
「成る程。パートナーを失くしたショックからは立ち直れたのか」
「あんたのその手にはもう乗らねえ。それに――そもそも、パートナー云々の前に、これは俺の、俺だけの戦いだ!」
 バァン、バァン、ズバァン!――予断を許さぬ激しい攻撃のぶつかり合いが続く。
「それに――あんた、このまま俺と真正面からぶつかり合いしてていいのかい?」
「うん? どういう意味だい?」
「純粋な攻撃力だったら俺には勝てない――そう言ったのは、あんた本人だぜ」
 ギュワァン!!――不意に走る音と共に、タカが連続して放っていた魔法弾の一つが、うねりを起こし、巨大化し、一気に威力を上げる。
「っ……!!」
 その他の魔法弾は全て相殺したものの、その威力の上がった魔法弾だけは相殺出来ず、急いでガードに切り替えるものの、光山はダメージを負う。
「先制点は俺だな。――このままいくぜ!」
 勢いに乗ろうとするタカが、追い討ちをかけるように連続での攻撃。――だが。
「このままいく?――何処へ一体いくつもりだい、君は」
「――っ!?」
 バシュッ!!――タカの死角から、高速の魔法波動によるレーザーが走る。
「伊達や酔狂で僕はナンバーズのトップに立てたわけじゃない。君はもうちょっと僕の実力を知っていると思っていたが、残念だよ。――馬鹿にしてもらっては、困る」
 バシュッ、バシュッ、バシュッ!!――まるで周囲を誰かに取り囲まれているかのように、全方位からの連続での鋭い魔法波動に、タカは翻弄される。
(レベルが高え……なんつーコントロールしてやがる……!!)
 一定以上離れた箇所から、ある一箇所、とある個人目掛けて全方位からの連続での攻撃。威力、命中力、速度、全てが申し分ないレベルでの攻撃が続く。――タカは、痛い程に光山の実力を思い知っていた。馬鹿にしていたつもりはなかった。だが、それ以上のレベルで、光山は攻撃を仕掛けてきたのだ。
「僕のこの魔法は結構な奥の手でね。全方位から攻撃することで、敵の動きを制限し、最終的には相手の動きを正確にコントロール出来る。つまり、君が次に何処へ動くかも手に取るようにわかるのさ」
 光山の説明の間も、無論攻撃は続き――
「――二秒後、君はそこから右に二歩の箇所で、足を止める」
「っ……!!」
 宣告され、そこを避けようかともしたが――最早そこ以外に逃げ場所が無い状態。光山の言う通りになってしまう。
「そしてこの魔法は、相手が足を止めた時点で、終わりになるのさ」
 バシュウゥゥゥゥン!!――瞬間、タカが足を止めたその場所に、一気に魔法波動が嵐の如く降り注ぐ。最早逃げ場など何処にもない状態。
「終わりだ、タカ」
 勝ち誇った笑みを浮かべ、そう告げる光山。――この技からはもう抜け出せない。彼自身、勝利を確信した、その時だった。
「馬鹿にしてんのは……テメエ、だろうがっ……!!」
「――!?」
 ギュワン!!――降り注ぐ魔法波動の嵐の中から、逆に巨大な魔法球が一つ抜け出し、光山に向かって飛んできていた。
(まさか……防御を捨て、攻撃に出たのか……!? あの状態から……!?)
 連続での爆発で視界も悪く、真実は光山には解りかねたものの、ひとまずその飛んできた魔法球を回避する。――だが。
「っ!?」
 回避した場所、足元に巨大な燃えるような赤い魔法陣が生まれ、周囲の温度が一気に上昇。そして、
「がっ……!!」
 バァァン!!――光山が反応するよりも早く、激しく爆発。ろくにガードも出来ないまま、吹き飛ばされる。
「ハッ……テメエが、ああいう状況下で……回避に出ることくらい、いくらでも予測出来るんだよ……!! テメエの、性格なんざ……お見通し、ってわけだ……!!」
 光山がダウンすることでタカへの連続攻撃も止み、視界が晴れる。そこには息も絶え絶えの状態で、それでも挑発的な笑みを浮かべるタカの姿。――要は、光山の予測通り、防御を捨て、反撃に出たのである。このまま防御をしていても自分は勝てない。ならばいっその事、という賭けである。
 光山の性格を踏まえての、タカの危険な賭けは見事な程に成功した。自らがノックアウトされる寸前で、光山にダメージを与えることが出来たのだから。
「はっ、はあっ、はっ……この、体力馬鹿め……!!」
「へっ……そいつは、誉め言葉かよ……?」
 フラフラの状態で立ち上がり、冷静さを失い、タカと対峙する光山。彼自身、予想外の体力を奪われていた。
(っ……やべえ、相当きちまってるぜ、これ……)
 だが――あえて比べた場合、ダメージが大きいのはタカの方だった。捨て身で攻撃に出ている間、直接喰らってしまった攻撃の数があまりにも多過ぎた。
 次が、勝負。――それが、タカと光山、両者の考えであった。お互い力を振り絞り、ワンドを握り直し、身構える。
「タカ。――素直に認めよう。君にここまで苦戦させられるとは思わなかった。僕の予想外だ」
「へっ、俺ももうちょい簡単に倒すつもりだったんだがな」
「お互い、次が最後。そうだな」
「ああ、悔しいけどそうだよ」
「こういう時、勝負を決めるのは――なんだと思う?」
「興味ねえ。あんたを倒した後、ゆっくり考えるさ」
「その必要はない。今教えてやろう。こういう時、勝負を決めるのは――勝利に対する、執着心だ」
 光山はポケットから何かのリモコンを取り出し、スイッチを押す。すると、
「――な」
 ザザッ、と三人程ISONEの下級兵が現れ、タカを取り囲むように、陣形を作る。
「勝利に対する執着心。――卑怯と言われても構わない。勝てれば、それでいい」
「くっ……!! テメエ、何処まで腐ってやがる……!!」
 下級兵一人一人の実力は大したことはない。タカ一人でも十分に相手に出来る。だがそれはタカの状態が普通だったらの話。現在彼は限界ギリギリの状態でそこに立っている。たとえ光山も同じように限界ギリギリであったとしても、四対一で戦えるような状態ではない。
「今度こそ、終わりだ、タカ。――さようなら」
 パッ、と光山が合図を出して、下級兵達が一気にタカに攻撃を仕掛けようとした――その瞬間。
「!?」
 バシュッ!!――光山の横を、タカの横を、鋭い魔法波動が三本、通り過ぎていく。
「な……」
 ドサドサドサッ。――瞬く間に、やられていく下級兵達。
「誰……だ……?」
 光山とタカの視線が、ゆっくりと動く。魔法波動が放たれたその場所に、ゆっくりと動く。――二人の目に、映し出されたのは。
「卑怯と言われても構わない。ならば――今から私とタカのツーマンセルで、あなたと勝負しても構いませんよね、隊長?」
「クリ……ス……!?」
 凛々しい姿でそこに立っていたのは、他でもない。――MASAWA MAGICナンバーズ五番手、クリスティア=ローラルド……クリスであった。
「タカ!! Bウイング!!」
「っ!!」
 動揺を抑えるかのようにクリスが叫ぶ。"Bウイング"とは二人が編み出したフォーメーションの一つ。その言葉を耳にした瞬間、既にタカの体は自然と動いていた。既に体に感覚が染み付いているのだ。
「はああああっ!!」
「おおおおおっ!!」
 全てを忘れるかのように、二人は動く。タカも最後の力を振り絞り、全力での攻撃。――結果、
「ぐ……うおおおおっ……!!」
 ドォォォン、と言う決め手となる激しい爆発音と共に、光山が吹き飛ばされる。やがて晴れてくる視界。少し離れた場所で倒れている光山は――明らかに、戦闘続行は不可能だった。
「…………」
 訪れる沈黙。その場に立ち尽くす二人。
「クリス……お前、どうして――」
 タカがどうしてここに、と言いかけたその途中で――クリスの体が、揺らぎ、崩れていく。
「クリスっ!!」
 間一髪の所で、タカはクリスを抱き抱えるように支える。
「ごめん……なさい……急に、全然、力、入らなくなった」
「お前、何してんだよこんなとこで!! 戦闘どころか、出歩くことだって無理なはずだろうが!!」
「ええ……だから、薬で無理矢理痛みとか、その他もろもろを押さえつけてきたの。――今の状態からするに、薬の効き目、ギリギリセーフだったみたいね」
 力なく、クリスは笑う。
「笑ってる場合かよ!! 何がセーフだよ、全然セーフじゃねえよ!! 何でそこまで無茶するんだよ!! 俺達に任せてくれれば何の問題もねえよ!! そんなに俺が信じられねえかよ!!」
「勘違いしないで。あなたが信じられないわけじゃない。あなたのことは信じてる。――信じてるに、決まってるじゃない」
「なら――」
「嫌だった」
 タカの言葉を、クリスのその短い言葉が遮った。――どういう意味だ、という表情にタカがなる。
「嫌だったから。タカに、一人で解決されちゃうのって、嫌だったのよ」
「な……んだよ、それ……」
「コンビ組むようになって、ずっと二人で頑張ってきたじゃない。色々あったけど、どんなにキツイ戦闘でも、二人で戦って、二人で勝ってきたじゃない。なのに、タカは一人で戦おうとしてる。一人で勝とうとしてる。――それが、嫌だったの。私一人、置いていかれるような気がして、凄い嫌だったの」
「クリス、お前……」
「置いていかれたくなかった。これからも、どんな時でも二人で戦っていけるって、証明したかった。――ただ、それだけ」
「――馬鹿、野郎……!!」
 タカは「抱き抱えるように」だったクリスの体を、そのまま引き寄せ、抱き締めた。
「俺が、お前を置いていくわけ、ねえだろうが……!! んなことも、わかんねえのかよ……!!」
「わからないわよ、口で言ってくれなきゃ……言葉にしてくれなきゃ、伝わらない」
 タカは、無意識の内にクリスを抱き締める手の力を、少し強めていた。――そして、
「俺は、お前を置いていったりしない。これからも、どんな時でも二人で戦っていくよ。約束する」
「……ありがと」
 そう、力強く宣言した。――宣言が終わっても、二人の体は離れないまま。
「ねえタカ。――もう一つ、確認したいことがあるんだけど」
「……何だよ」
「ナンバーズとして、これからも一緒に戦っていくってことはわかった。――でも、「それ以外」の時は?」
「…………」
「それ以外の時の……あなたにとっての、私、は……?」
 曖昧なようで、何を言っているのかが直ぐにわかる言葉。――タカは、軽くため息をつく。
「――今こうして、お前を一向に離さない時点で、わかんねえのかよ」
「わからないわよ。それこそ――言葉にしてくれなきゃ、絶対に」
 生まれる沈黙。長いようで短いその数秒の後に、タカは口を開いた。
「――好き、だ」
「……もう一回、言って……」
「好きだよ、お前のこと。男として――ずっとずっと、好きだった」
 その言葉と同時に、更に抱き締める手の力が、強くなる。そして……
「私も……ずっとずっと、好きだった……!!」
 少しだけ涙声で、でもはっきりとした口調で、クリスはそう答えた。
「……ねえ、タカ」
「うん?」
「二人とも、もうボロボロよね」
「ああ、そうだな」
「でも……最後にもうひと頑張りだけ、してみない?」
「……仕方ねえな」
 やはり、曖昧な言葉。――でも、この時の二人は、お互い何をすべきか、相手が何をしたいのか、言わずとも伝わっていた。
 顔を上げるクリス。絡み合う視線。近付く距離。ゆっくりと目を閉じる。そして――


 ――二人は、口付けを、交わしたのだった。


<次回予告>

「俺だ。――あれの使用準備を始めろ。今から俺も行く」

加速する戦いの中、動き出す敵本体。
磯根泰明の思惑とは、果たして。

「どうした! その程度で姫瑠を助けるとかつまらないことをよくも偉そうな顔で言える!」
「ぐ……!!」

ついに激突、雄真対琴理。
実力不足から、苦戦を余儀なくされる雄真だったが……

「だからって、復讐なんて、姫瑠に復讐なんて間違ってる!! 
あいつはお前の事情なんて何も知らなかった!! 何も知らないまま、お前の友達になった!! 
ただ純粋に、お前を親友として見ていた!! 裏表無く、お前を大切な存在として想ってたんだ!!」

叫ぶ雄真。それは姫瑠の為であり、――琴理の為。
想いは琴理に届くのか、それとも――

次回、「彼と彼女の理想郷」
SCENE 31  「その想いすら乗り越えて」

「勝ちなよ、雄真くん。――でないと、この沖永舞依さんが、承知しないぞ?」

お楽しみに。


NEXT (Scene 31)

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