「そうだ、一応話しておこうか、何故僕がこんな行動に出たのかを。何も知らないまま死ぬのは流石に納得いかないにも程があるだろう?」 普段と何も変わらない口調で、光山はそう語り出した。刺々しい感じも、あざ笑う感じも、壊れた様子もない。普段と本当に同じ。――逆に、それがクリスの恐怖を誘っていた。 「僕は日本人で、当然両親も日本人だが、タカのように成人してからアメリカに渡ったわけじゃない。僕がアメリカに渡ったのは、まだ六歳の頃。両親に連れられてだ」 淡々と語る光山を前に横たわるクリスは、意識を失わないようにするので精一杯だった。震える手を傷口に当て、かろうじて治癒魔法を使ってはみるものの、そもそも魔力そのものが上手くコントロール出来ない程の状態。ほんの少し、自分の「死期」を遅めているに過ぎなかった。 光山も、治癒魔法を使うクリスを止めようとしない。間に合わないことが計算済みなのだ。 「アメリカに渡って少しして、両親は魔法関連の会社を設立した。そうだね、僕は姫瑠お嬢様と似たような境遇だったんだ。経営は順調だった。――あの日までは」 そこで少し光山は、遠い目をする。 「僕が十二歳の頃だ。両親の経営する魔法関連の会社の手の届く範囲内に、当時業績を伸ばし始めていた同じく魔法関連の会社の支社が出来た。共存を望んだ両親は、真っ先に提携を申し出た。――だが、相手の会社はあっさりと断ってきた。それだけじゃない。友好的に提携を申し出た両親の会社を潰すのが目的かの如く、顧客を奪い、支社を新たに建て、ルートを潰し……最終的に、両親が作った会社は、あっけない程に簡単に潰れてしまったよ。両親は、失意のままに自殺した」 光山の話は、頭に入ってくる。だが同時に、クリスの視界は、次第にぼやけ始めていた。 「僕の両親の会社を倒産に追い込んだ会社の名前は、僕の両親を自殺に追い込んだ会社の名前は、MASAWA
MAGICと言った。――十二歳の僕は誓った。必ず、この手で復讐してやると。大切な人を奪われた悲しみを、痛いほどに叩き込んでやろうと」 少しだけ口調が厳しくなる。光山の本音が垣間見えるようだった。 「社長はよく言うだろう? 「私は他人に恨まれても仕方のないことを時にしてきた。誰かに復讐されても仕方のない存在だ」と。笑わせてくれるよ。そんなことを言いながら、きっと心の中では油断している。そんなこと起こりえないと思っている。――だから僕がやってやるのさ。あの男の、覚悟の上だという復讐をね」 「だ……から、姫瑠……お嬢様、を……?」 喋るのも辛いクリスだったが――そうでもしないと、意識が無くなりそうなのだ。 「ああそうだよ。誘拐の案をISONEに持ちかけたのは僕さ。――もっとも、そんな生ぬるい方法だけで終わりにするつもりは微塵もないけどね」 そう言いながら、光山がフッ、と笑う。――その時だった。 「リーダー!」 「っ!」 クリスの耳に、聞き覚えのある――というより、馴染みの声。今最も聞きたい声であり――最も、聞いてはいけない、聞きたくなかった声でもあった。 「案外早かったな、タカ」 「お嬢様は無事保護を依頼しました。これで俺らも――」 何の問題もなく攻撃に出れます、と言おうとした所で、タカの視界に――予想など当然出来ないものが入る。 「クリ……ス……?」 それは、血を流し、息も絶え絶えに横たわる、パートナーの姿だった。――最初何かの幻かとも思ったが、現実だとわかると、急いで駆け寄る。 「クリスっ!! どうしたんだ!?」 「タカ……駄目……逃げ……て……」 「逃げる!? どういう――」 どういうことだ、と言おうとして、タカは気付く。――重症のクリス、つまりは部下を目の前にして、特に何の処置も反応も、光山からはない。更には敵の気配もないのに、息も絶え絶えにクリスが継げてくることは「逃げて」。 「良かったなクリス。最も信頼すべきパートナーに、最後の時を看取ってもらえて」 そして――聞こえてくる、決定的な一言。 「あんたが……やったのか……?」 ゆっくりと立ち上がり、振り返り再び視界に入るその姿。表情も何一つ、普段と変わらない。 「そうだな。――状況からして、そうなるだろう。僕が撃った」 「寝返ったのか……!? 俺達を騙してたのか……!? ISONEに、お嬢様も、俺らの命も、売ったってのか……!?」 「何を言ってるんだタカ。――僕はMASAWA
MAGICに、忠誠を誓ったことなど、一度もないさ」 その瞬間、タカの中で、何かが弾けた。 「――貴様あああぁぁぁぁぁ!!」
彼と彼女の理想郷 SCENE 21 「Light and shadow in the
night」
「沙耶、急ぐぞ! 一秒も無駄には出来ぬ!」 「はい!」 主である伊吹の命令に従い、伊吹を一人残し、上条兄妹は目的の為に瑞穂坂の街を疾走していた。彼らに伊吹が与えた任務は、この夜の戦いを大きく左右する、重要な内容だった。 自分達の為に楯になっている伊吹の為にも、失敗は許されない。友の為にも失敗は許されない。その想いを胸に、二人は走り続けていた。――その時だった。 「兄様っ!!」 「っ!?」 ババババァン!!――不意に前方で小さな爆発が何度も起こる。止むを得ず二人の足が止まる。 「またあの手の者共か……!!」 見れば、前方からは数名の魔法使い。先ほど伊吹と共に遭遇した時に数いた者と同じ格好。属に言うISONEの下級兵、である。 切り抜けるしかない。――そう二人が決意すると。 「残念だけど、お二人さんにはここでストップしてもらうぜぇ」 声がした。――その声がした方向を見ると、屋根の上に、一人の男。 「俺の名前はボルト。ISONEの雇われの魔法使いだ。金貰っている以上、任務は果たす。テメエらにはここで終わりになってもらう」 瞬時、信哉と沙耶の作戦が止むを得ず切り替わる。――ボルトと名乗るその男、明らかに目の前の下級兵とはレベルが違う。単純に強行突破、では進めそうにない。ある程度の時間を割かなければ逆に危険だった。 「沙耶」 「はい」 だからといって必要以上に時間を取られるわけにもいかない。出来る限り時間を掛けてはいけない。その想いと共に、二人は身構える。 「おおっと、勘違いすんな。テメエらの相手はまだ俺じゃねえ。俺は疲れるのが嫌いでね。まずは雑魚と十分に遊んで、タップリと疲れてもらおうか。――おい!」 ボルトが合図を出すと、二人の後方からもゆっくりと下級兵達が近付いてくる。 「く……!!」 これはマズイかもしれない――そう思った、その瞬間。 「がはぁ!」 「ぐえっ!?」 「ぬわあっ!!」 「ぎゃあ!!」 「どはぁ!!」 後方から近付いてきていたISONE下級兵の小隊が一気に混乱に陥る。悲鳴を上げ、間もほぼない感覚で次々とノックアウトされていく。そのあまりにも早く、微塵のズレもない奇襲に、 「な……んだ、と……!?」 後方からの小隊は、呆気なく全滅していた。ボルトは無論、信哉、沙耶の二人も驚愕の光景である。――そして直後、信哉と沙耶の二人の背中ごしにスタッ、と誰かが空中から着地する音がする。 「二人とも、無事でよかった」 まるで戦闘の緊張を感じさせないその優しい声。無論聞き覚えのある声。 「瑞波殿!」 「楓奈さん!」 雄真陣営、鈴莉、伊吹と肩を並べる、最強の一角――楓奈である。要は、雄真が鈴莉に相談した直後、鈴莉の指示の元、既に動き出していたのだ。 「手短に聞くね。――明らかに二人共、何か目的があって動いているように見えた」 「その通りだ。伊吹様の指示で――恐らく、この度の戦闘が大きく左右する」 「わかった。――二人共、目の前の数人だけを倒して、強引に突破して。残った人達、それからあの屋根の人は私が抑える」 「宜しくお願い致します、楓奈さん」 背中越しのまま、短い会話は終わる。 「行くぞ、沙耶!!」 「はい!!」 同時に信哉、沙耶の二人は正面の強引な突破に突入。そして―― 「あなたの相手は、私」 「っ!?」 気付けば、既に楓奈は屋根の上に移動、ボルトと対峙していた。 (なんなんだ、この餓鬼は……!? 移動が早過ぎる……!?) だが、その速度以上に、ボルトが楓奈に対して感じている恐怖。――楓奈からは、気迫が何も感じられない。一定以上の実力者であれば、戦闘時、それなりのオーラが垣間見えるものであり、それを上手く利用するのが威圧である。 先ほどの下級兵の小隊撃破からしても、楓奈の実力が一定以上であることはボルトからして見ても確実。だが楓奈からはそれ相応の気迫がまったく感じられない。自分を見つめる表情は無表情。 「へ、へ……まいったぜ。お嬢ちゃん何者だ? 俺もそれなりに色々な経験してきたけど、お嬢ちゃんみたいな奴ぁ――」 「私が誰とか、あなたが誰とか、どうでもいい」 ヒュン! 「――消えて」 「!?」 ズバァン!――瞬時に懐に潜り込んだ楓奈の、激しい竜巻を纏った右腕のストレートがボルトを襲う。 ボルトは会話から楓奈のことを探ろうとした。彼も自身が言い掛けたようにそれなりの経験者、少しでも楓奈のオーラを感じ取れれば何か違う。そう思っていた。 彼の考えは間違いではなかった。――つまりは、楓奈がそれすらも許さなかったのである。 ヒュン!――再び微かに起こる風きり音。 「ぐっ……!?」 バァン!――体勢を立て直す暇を与えぬように、楓奈は連続での接近戦を続ける。 (何だ、何だこの餓鬼っ……!? 何でこんな精神してんだ……!? 餓鬼の心意気じゃねえぜぇ……!?) その連続でのぶつかり合いの最中も、楓奈の表情、心は微塵も乱れない。客観的に見れば残酷とも受け取れるその無表情での戦い。 以前の楓奈の物語をご存知ならば――戦闘時、感情を薄め、抑揚を無くす戦い方は単なる楓奈の癖だ、と思われるかもしれない。確かにあながちそれは間違いではない。楓奈は自然とこの戦い方を使うことが出来る。 だがある意味一つの高等技術であるこの戦い方、実際の所楓奈は「会得」して使用しているのだ。彼女に伝授したのは他でもない、彼女の実の父親――裏社会の天才、盛原教授だった。 楓奈は、決して威圧が使えないわけではない。 「ミスティア・ネイド・アルエーズ」 間合いが一定以上開くと、楓奈は接近戦から瞬時に遠距離攻撃へと切り替え。竜巻を称した魔法波動がその短い詠唱で生まれ、またその短い詠唱から生まれたとは思えない威力でボルトを襲う。 「く……くそおおおぉぉぉぉぉ!!」 バァァァァァン!!――体勢を立て直す暇をほとんど与えられなかったボルトは、楓奈の攻撃を防ぎきれるわけもなく、ダイレクトに喰らい、吹き飛ばされる。 「はっ、はぁっ、はっ……テメエら、この餓鬼だ! この餓鬼を集中攻撃だ!」 見れば既に信哉と沙耶は強行突破した後。下級兵達は信哉達を追えばいいのか更なる他の行動に移ればいいのか、判断に迷っていた所で指示を受ける。――だが。 「死にたくなければ、来ない方がいい」 「!?」 楓奈が軽く首を傾け、戦闘位置である屋根の上から、下級兵達に向かい、そう告げる。瞬間、パッと下級兵達はほとんど動きを取らなくなる。 「どうしたっ!! 俺の命令だぜぇ!? 動け!!」 「……っ」 下級兵達は、何もボルトの命令に従いたくないわけではない。――体が、言うことを利かないのだ。 そう。楓奈は、威圧が使えないわけではない。――使い所を、知っているのである。必要以上の戦闘を瞬時に避ける為に、一瞬の威圧で、楓奈は下級兵達の動きを遮ったのだ。 普段、穏やかで、優しいその一人の少女の登場により――その場の戦局は、大きく揺らぎ始めていたのだった。
「フフフ、中々しぶといですね、お嬢さん」 目の前の少し細身の男――名を「ロイ」と名乗った――は、微笑を浮かべながら、そう告げる。 「…………」 対峙していたのは小雪。――小雪はかなりの所まで追い詰められていた。 目の前のロイと名乗る男との一対一なら、負けはしない。小雪にはその自信があった。だが、戦闘場所となったこの空き地、小雪の敵はロイだけでなく、二人から少々離れたところで、二人を円状に囲むようにISONEの下級兵。 つまりは、圧倒的な数、更には逃げ場のない戦いに、小雪は苦戦を強いられていたのである。突破口が見つからない。 実際の所、やろうと思えば一気にこの戦線から離脱することは可能だった。タマちゃんの爆発プラス自らの魔法で撹乱、移動をすればおそらく逃げ切れるだろう。だがここで自分が逃げた時、残った目の前の集団がその分他の誰かのところへ行くことになってしまう。それを避ける為に、小雪はギリギリの所まで粘っていたのである。 だが、それも後持ってほんの数分。――覚悟を決めなければならない、と思った……その時だった。 「!?」 ギュワン!!――という音と共に、パッとフラッシュが起こる。一瞬目を奪われ、再び目を開けると、目の前に一人の女性。細身で、身長は小雪と同じ位、年齢は小雪よりも少し上だろうか。……知らない女性である。 「おや? そこのお嬢さんのお知り合いの方ですか?」 「いいえ」 「では、何故このような場所に?」 「それをあなたに言う必要はありません。――でも」 不意に、その女の左腕――正確には、左腕に装備されている、小型の円形のシールドが、赤く何かの紋章を描いて光る。 「アルティス・レイト」 更に右手をロイの方に向け、二言のみの詠唱。――だがその二言の短い詠唱とは裏腹に女の前に出来た魔法陣は大きく精密で、そこから問答無用で高威力の火炎放射がロイに向かって放たれる。 「くっ……!?」 バァン!――油断をしていたロイが、完全には防ぎきれず喰らってしまい、女、小雪との間合いが開く。 女は更に手を緩めることなく、今度はシールドを装着していた左腕を掲げる。次の瞬間。 「え……?」 小雪は自分の目を疑った。――シールドから軽くカチャリ、と音を立てて姿を見せた細い筒のような物から、連続しての魔法波動。バシュッ、バシュッ、バシュッ……と、次々とその細い筒――実際には銃口なのだろう――から、赤い魔法波動が撃たれている。 「ぐわあ!!」 「ごはぁ!!」 「うわああ!?」 「ぎゃあ!!」 そして一人、また一人と円状に取り囲んでいたISONEの下級兵達が倒れていく。ほんの数秒間の間で、下級兵達は全員戦闘不能となっていた。 「――でも、少なくともあなたがたの味方ではありませんので」 そこで女はやっと先ほどの「でも」の続きを口にした。――あまりに一瞬での出来事に、ロイは驚愕の表情。 「何者です……!? 普通の方ではないですね……!?」 「言いましたよね? あなたに言う必要はないと」 「っ……!! いいでしょう、ならば力付くでも!!」 ロイが詠唱を開始すると、彼の目の前には巨大な氷の塊が。 「フフフ、これでも喰らえ!!」 ギュン、とロイの元を離れ、女に向かって射出される巨大な氷の塊。 「…………」 だが女は表情一つ変えず、今度は腰の辺りから何かの柄の様なものを取り出す。女は取り出した何かの柄を持って身構えると、その柄からビィィン、と青い光が射出され、そのままその柄から離れることなく止まる。 要は、属に「ビームサーベル」と呼ばれそうな物を、女は手にしたのである。 「……な」 バシャン!!――女はその青いビームサーベルで飛んできた氷の塊を一刀両断。氷は粉々に砕け、何の害もない代物に変化した。 「その武器……先ほどの狙撃といい……まさか、まさかアナタは――!!」 「余計な時間を過ごすのはあまり好きではないんです。終わりにしましょう」 ダッ、と素早い移動で女はロイに接近すると、 「ぎゃああ!!」 ヴァン!!――という音をたてて、そのままビームサーベルで一刀両断。一撃でノックアウトとした。 「…………」 小雪は困惑していた。無論目の前の女に、である。――助けてもらったことは事実。だがあまりにもその女――正確には、その女の戦闘方法、魔法が異質である。ビームサーベル、シールドに装着されていたライフルもそうだが、実を言えば、小雪は最初の詠唱での魔法の時点で、違和感を感じていた。 単純な所を言えば、あまりにも詠唱が無い。今の戦闘、女が見せた攻撃方法は三種類。使った順番に魔法陣を出しての火炎放射、シールドからの連続でのレーザー砲、そしてビームサーベル。全て魔法を使った武器のはずだが、詠唱は最初の火炎放射、しかも二言だけ。威力からしても、有り得ない現象である。 更に言えば、根本的にその女の魔法は「普通ではない」。自分達が使っている魔法とは、魔法の質が違う。根本的な質が、「何か」が違うのだ。 スッ、と女は小雪の方に振り返る。女の左腕の楯が淡く光った。 「……っ」 次の瞬間、小雪の受けていたダメージがスッ、と消える。――治癒魔法だった。無論、詠唱も無く、その魔法も何かが違う、と感じてはいる。 「あの――」 「余計なことをしてくれましたね」 小雪の質問を遮るように女が口を開いた。 「もう少し、落ち着いた状態でいてくれれば、色々都合いい展開に持ち込めたかもしれないのに」 「……何の話ですか?」 「ですが、もう起きてしまったものは仕方ありません。表立って行動出来ない理由の一つに私の個人的な事情があるのも事実ですし。――ですので、今回の件、後はあなた方にお任せ致します」 小雪の言葉を再び遮り、一方的に話す女。――小雪からしてみれば、一体何の話をしているのだがサッパリである。 「今回、ここであなたを助けたのは私の個人的事情により責任持って動けそうに無いことへのせめてもの謝罪だと思って下さい。――それでは、ご武運を祈っています」 そう言い切ると、女は小雪に再び背中を見せ、その場を後にしていく。 結局最後までわけがわからない。――だが。 「……そういえば」 あの女に会ったことがあるわけではないが、誰かに似ている気がする。あの面影は―― 「まさか……そんなわけ、ありませんよね」 一瞬出来た「ありえない」仮説を頭から離し、小雪もその場を後にするのだった。
「うおおおおおおぉぉぉ!!」 バァン、バァン、ズバァン!!――激しい魔法同士の衝突音が響き渡る。――公園では、タカと光山の一騎打ちが始まっていた。 「ダルディ・ジェ・ギル・ギバース!!」 怒り心頭、無我夢中で光山に攻撃を仕掛けるタカ。 「アラン・ルトン・ハエル」 あくまでも表情を崩さず、冷静に対処する光山。――彼も伊達にナンバーズのトップになれたわけではない。実力は相当の男である。 バァン、バァン、ズバァン!!――再び激しい魔法同士の衝突音。 「テメエ……俺をからかってるのか!? 何で相殺しかしてこねえ!!」 そう。先ほどから光山は自分から攻撃に出ることはなく、あくまでタカの攻撃魔法に対しての相殺をするのみだったのだ。 「僕は君とは違うからさ、タカ。僕は確実な戦い方が好きなんだ」 「どういう意味だ!!」 「僕の戦い方はともかく……君はこのままでいいのかい? 死に行くパートナーの、傍にいてやらなくて」 「っ――テメエぇぇぇぇ!!」 挑発され、再び怒り心頭で攻撃を仕掛けるタカ。 「タカ。――君の一撃一撃の攻撃力は目を見張るものがある。単純に魔法の威力、という点のみならば僕は君には敵わない。――だが君は少々冷静さを失い易い」 「――っ!!」 光山の言う通り、「冷静さを失った」タカの死角から、鋭い魔法球での攻撃が入る。 「挑発一つで、これ程までに隙だらけになるとはね。――クリスとのツーマンセルは素晴らしいが、逆に言えば彼女の居ない君など、ナンバーズの資格もないと僕は思っている」 「!! クソッ……!!」 挑発により、隙だらけとなりまさに光山の思う壺となってしまったタカは、連続での攻撃に翻弄され、 「がっ……!!」 バァン、という大きな衝撃音と共にモロにダメージを喰らい、吹き飛ばされる。 「言っただろう? 僕は確実な戦い方が好きだと。わかってもらえたかな? わかってもらえた所で――終わりに、しよう」 ビィィン、と一気に光山が魔力を集めだす。ダメージを喰らってしまっているタカは、明らかなる対応の遅れ。――まずい、何とかしないと、と思ったその矢先。 「エスパルーダ・シャロ・ダ・ラージェ!」 何処からともなく聞こえてくる詠唱と同時に、氷の魔法波動が躊躇いもなく光山を狙っていた。 「っ!!」 流石の光山も予想外の展開らしく、タカへの攻撃準備を急遽取りやめ、回避、防御に専念せざるを得なくなった。 「おいおい、こんな所で仲間割れかい? この一大事に。――でもま、話としては中々面白い展開じゃないのさ」 そして、その場にゆっくりと現れる人影。 「……お前……どうして……!?」 タカには、その顔は見覚えがあった。 「――誰だい、君は?」 そして光山はその顔には見覚えがなかった。――光山の問いかけに、現れた人影はニヤリと笑う。 「あたしかい? あたしは誘拐犯さ。――死にぞこないのね」 躊躇いなくそう言いながら現れたのは、「氷炎のナナセ」――七瀬香澄、その人だった。
<次回予告>
「氷炎のナナセ……テメエ、何で、ここに……!?」
タカとクリスのピンチに現れたのは、香澄だった。 何故彼女がここにいるのか? 彼女の真意は?
「学園内は、関係者以外は立ち入り禁止なんだけど?」 「!?」
要所要所では、盛り返しを見せる雄真陣営。 だが敵の進行は止まらず、ついには学園にまで――!?
「確かに。――勘違いするな、決して俺は君を馬鹿にしているわけじゃない。 君の実力は認めているんだ。――君は素晴らしい『素材』になれる」 「素材、だと……!? どういう意味だ」
激しくなる戦闘の中に、垣間見えるキーワード。 彼らの目的は、果たして……
次回、「彼と彼女の理想郷」 SCENE
22 「純粋なる戦士達へ」
「さてと、大ボスさん?――始めましょうか、真相解明を」
お楽しみに。 |