『雄真さん。時間がないので、簡潔に言いますね』
 その小雪さんからの電話は、日も暮れ、リビングで寛いでいた俺に突如かかってきた。――明らかにいつもの雰囲気とは違う、真面目な口調に焦りを感じる。
『真沢さんは、近くにおられますか?』
「あ、ああ、はい。一緒にリビングにいますが」
『ご自宅にいるんですね。――早急に、そこを離れ、何処か違う場所で匿ってください』
「!? ちょっ、どういう意味ですか!?」
『伊吹さん達にだけはなんとか私の方から連絡します。後の判断は、雄真さんにお任せします』
『姉さん、アカン! まだ来るで!!』
「まさか……小雪さん、誰かに襲われて――!?」
 そう俺が言いかけた瞬間、電話の向こうで、微かにだが、明らかに爆発音が響く。
「小雪さん!!」
『っ……私は大丈夫です。ですから、雄真さんは真沢さんを。――急いで!』
『逃がしはしませんよ!! これでも喰らいたまえ!!』
 ピッ。
「っ!! 小雪さん、小雪さんっ!!」
 だが――既に、電話は切られた後だった。明らかに、戦闘中であること音を、俺の耳に残して。
「雄真くん……?」
 テレビを見ていた姫瑠が、怪訝な表情で俺を見る。
「…………」
 落ち着け。俺はどうすべきだ? 小雪さんが戦闘中なのは間違いない。誰かに襲われている。だから、俺に姫瑠を隠せ、と連絡してきた。姫瑠の身に、危険を感じたからだ。……電話口から聞こえる小雪さんの声は、真剣そのものだった。いつでも緩いあの喋り方の小雪さんだが、そんな緩さは今、微塵も感じられなかった。それだけ、切羽詰っているのだ。
 だから――小雪さんを助けにいくのか?
「……違う、よな」
 そうじゃない。……姫瑠を安全な場所に連れていくのが優先だ。小雪さんもそれを望んでいる。何より、小雪さんを信じるしかない。小雪さんの実力を疑っちゃいけない。
「姫瑠。――急いで、魔法服に着替えて、外に出れる準備、してくれ」
「――!!」
 ならば、出来る限り急いで事を起こし――出来る限り早く、小雪さんを助けにいける状況を作るしかない。
 事態を察した姫瑠が身支度の為に階段を駆け上がる。続いて俺も準備をする。

 ――長い長い夜が、眠れない夜が……姫瑠にとって、最悪の夜が、始まろうと、していた。


彼と彼女の理想郷
SCENE 20  「魔法使い狩りの夜」


「小日向君! お嬢様!」
 俺と姫瑠が支度を終え、再びリビングに戻ってくるのとほぼ同時に、小日向家の玄関から入ってきたのは、ナンバーズの三名――光山さん、タカさん、クリスさんだった。
「二人とも、その格好は……」
「はい、さっき実は」
 俺は三人に、先ほどの小雪さんからの電話を手短に説明する。
「……そういうことか」
「やっぱり、三人とも――」
「ああ。――ISONEの連中が、暴挙にも近い行動に出始めた。恐らく、姫瑠お嬢様と特に近しい魔法使いの人間を無差別に襲うつもりだ」
「っ……!?」
 姫瑠の顔が歪む。瞬時に、自分のせいで、という想いが過ぎったのだろう。
「大丈夫だ、姫瑠。――そう簡単に、負けるもんかよ」
「雄真くんの言う通りです、お嬢様。――その為の、我々なのです」
「……っ!」
 パン、と姫瑠は自分の両手で頬を叩く。一瞬にして気持ちを取り戻したようだ。
「それで、二人はこれから僕らが来なければ、どうするつもりだったんだい?」
「学園に行くつもりでした」
「学園? 通っている?」
「はい。――さっき電話で御薙先生に相談したら、匿ってくれると」
 母さんに電話で相談したのはナンバーズの人達が我が家へやってくる、ほんの直前のことだった。細かい話をする前に、母さんは、
「学園へいらっしゃい。細かい話はそこでしましょう」
 と直ぐに切羽詰まっているのを察してそう言ってくれたのだ。
「小日向君を疑うわけじゃないが、その先生と、学園は信頼出来るかい?」
「学園の魔法でのセキュリティは相当高い、というのを聞いたことがあります。御薙先生は日本でもトップクラスの実力者ですし……何より、俺の実の母親です」
「実の……母親……?」
 三人が疑問顔になるのも無理はない。この人達からしたら、俺の母親はどう考えてもかーさんだ。
「……細かい話をしている場合じゃないな。小日向君を信じよう」
 だがそれも一瞬で、直ぐに納得してもらえたようだった。
「タカ。――君は小日向君とお嬢様を、その学園まで送り届けるんだ。無事学園に到着次第、タカは僕たちのところへ」
「了解」
「クリスは僕と、ISONEの細かい動向を調べよう」
「はい」
「よし。二人とも、絶対に気を抜くな。――行くぞ!!」
 かくして、俺達はタカさんと一緒に学園へ向かい出したのだった。


 伊吹が小雪から連絡を受けたのは、(伊吹こそ知らないが)小雪が雄真に連絡を入れた、直後のことだった。
「私は小雪の元へ行く。そなたらは、先ほど説明したように」
「はい、伊吹様」
「心得ております」
 式守の屋敷を出て、小走りで移動。伊吹達は、そこで二手に別れる段取りだった。各自の行動を再確認した――その時だった。
「とりあえずは三匹発見、か」
 その声に三人が振り向くと、そこには六名の人間が。その中心には、年齢は三十台半ばから後半位だろうか、随分と体格のいい男。
「……何者だ」
「磯根 泰明(いそね やすあき)。ISONE MAGICの社長だ」
「ISONE……!」
「ああそうさ。言うなれば、君達から見て敵のボスだ。――ついてないな君達。真沢姫瑠に関わったばかりに、ここでボロボロになるんだからな」
 ザッ、と伊吹達三人、ISONE側、泰明を除く、彼の部下と思われる五名が身構える。
「安心しろ、殺しはしない。――雑魚を殺すほどつまらんものはないからな」
 そう言い放ち、ハッ、と挑発の笑みを泰明は浮かべる。
「――信哉、沙耶、ここは私が一人で食い止める。そなたらは、作戦通りに動け」
「しかし伊吹様、この数では」
「行くのだ! 手遅れになる前に!」
「っ!!」
 その命令と共に、信哉、沙耶の二人が走り出す。
「追え」
 見逃す泰明ではなく、その一言で三人を囲んでいた内、二名が信哉と沙耶を追おうとする。
「がはぁ!!」
「ぐわあ!!」
 だが――次の瞬間、追おうとした二名は、一気に吹き飛ばされる。生半可な人間では、何が起きたのか、誰が何をしたのか、微塵もわからない。
 伊吹の瞬時の攻撃は、それほど静かに、鋭く発動した。
「雑魚だのボロボロだの言いたいことを申してくれたようだが……貴様等、私を誰だと思っている?」
「――!?」
 その場の空気が、一気にズドン、と重くなる。吹き飛ばされた者含め、泰明の部下達は瞬時に数歩下がってしまう。
「式守の名を、甘くみるなよ。――貴様等など、私一人で十分だ。雑魚呼ばわりしたこと、存分に後悔するがいいわ」
 銀髪の少女は、その幼き見た目に反し――まるで鬼のような威圧感を醸し出していた。
「……ほお」
 軽く怯える部下を他所に、泰明はその威圧を受け、ニヤリと笑う。
「成る程、確かに雑魚ではなさそうだ。面白い。――名前を聞こうか」
「式守伊吹」
「式守伊吹……覚えておこう」
「フン、忘れたくても忘れられぬようにしてやるわ! 後悔と共に一生その胸に刻み込むがよい!」


「お嬢様、それじゃ俺はここで」
 学園敷地内に入ると同時に、タカさんがそう姫瑠に告げる。
「ええ。――タカさんも、気をつけて」
「ご心配なく。――雄真、お嬢様を頼むぜ」
「はい」
 そう言うと、タカさんは小走りでその場を去る。直ぐに視界から見えなくなった。
「行こう、姫瑠」
「うん」
 魔法科校舎に入り、二人で魔法科専用の職員室に入る。
「失礼します」
「はい、どうぞ。――二人とも、こっちへ。詳しい話を聞かせて頂戴」
 出迎えてくれた母さんに付いて行き、接客用のソファーまで行くと、
「よっ、お二人さん」
「……成梓先生?」
 先にソファーに座っていたのは、俺達のクラスの副担任でもある成梓先生だった。
「どうして成梓先生が?」
「世の中の教師にはね、宿直っていう制度があるの。ま、こういう時に私が宿直で学園に残ってたのも何かの意味がきっとあるんでしょ、ってわけで話、聞いてあげるわ」
「ありがとうございます」
 無論のことだが、成梓先生も相当の実力者だ。助けてくれるのはとてもありがたい。
 ――そこから俺と姫瑠は、母さんと成梓先生に手短に経緯を説明した。
「成る程。――細かいことを調べるのは後にして、真沢さんは学園、というよりもこの職員室で匿った方がいいわね」
「すみません。ご迷惑おかけします」
「いいのいいの。生徒の為の学園、先生なんだから」
 そう言って笑いかけてくれる成梓先生。その笑顔に少しホッとする。
「ただ――御薙先生?」
「ええ。ここで全員が固まっている必要はないわね。私は、表に出て動くわ。――ちょっと個人的に引っかかることもあるの」
「わかりました。なら私はこちらからの警戒を強めます。連絡手段は――」
 テキパキと色々決めていく母さんと成梓先生。――と、
「それから、雄真くん」
「え? あ、はい」
 いきなり呼ばれた。何だ?
「雄真くんは、私についてきてくれるかしら」
「……母さんに?」
 予想外の言葉だった。流石にこのままここでジッとしているのは嫌だったが、母さんと行動を共にするとは思ってもみなかった。
「俺個人としては構わないんですが――正直、足手まといになる気が」
 今の俺では、母さんとは天と地程の差がある。母さんが単独で動くなら、かなりの範囲のことが出来るはずだ。俺が一緒ではそれも上手く動けないだろう。
「大丈夫、最近は雄真くんも頑張ってるじゃない」
「いやまあ、頑張っては確かにいますが」
「それに――確認出来る人は、一人でも多い方がいいわ」
「確認出来る人……?」
 何を言ってるかさっぱりわからない。確認しようとすると、
「――どういう意味だ、鈴莉」
 先に確認を取る声。――クライスだ。って、まさか、母さんが一緒に確認の為に同行して欲しいのは、もしかして。
「何でかしらね。――嫌な予感がするのよ」
「…………」
 訪れる一瞬の沈黙。そして、
「雄真、行くぞ。――鈴莉に付いていけ」
「……わかった」
 クライスの一言。何処か逆らい難い、真面目な雰囲気の言葉だった。
「ごめんなさいね。実のところ、あなたも雄真くんを私に同行させるのは反対でしょう?」
「まあな。雄真はお前の無茶にとてもじゃないが同行出来るレベルじゃないからな。――お前の心配が、杞憂であることを祈るばかりだ」
「そうね、私もそうであって欲しいわ」
 そう言い切ると、母さんはスクッ、と立ち上がる。俺もそれに続く。
「それじゃ茜ちゃん、後はお願いね」
「ええ。――でも御薙先生?」
「? 何かしら」
「私はもう「茜ちゃん」じゃなくて、「成梓先生」ですよ?」
 その成梓先生の言葉に、母さんは苦笑する。――そうか、成梓先生、瑞穂坂のOGだっけな。学生時代、母さんの生徒だったことになるのか。
「ごめんなさい。どうしても昔の癖が出ちゃうのよ」
「ま、いいですけどね。先生には弟共々、お世話になりましたし」
 そう言って、母さんと成梓先生はフフフ、と軽く笑い合う。
「さ、真沢さん。ボーっとしてても仕方ないわ。お茶でも飲みながら、雑談でもしましょ」
「あ……はい」
 促されるままに、姫瑠はお茶をすする。――こういう時、成梓先生みたいな人は本当に助かる。
「雄真くん、行くわよ」
「はい」
 一方の俺は母さんに促され、職員室を共に後にする。
「雄真くん」
 ――後にする直前で、姫瑠に呼び止められる。振り向いて見た姫瑠の表情から、姫瑠が何を、どんなことを言いたいか直ぐにわかる。
「いつか、お前に言ったよな」
「……え?」
 だから、そんな余計なことを言われる前に、俺は先に言葉を出した。
「俺達の仲間の武勇伝、聞かせてやるって。――結局まだ話してないけど、今夜、身を持ってお前に知らしめてやるよ、俺の仲間達の武勇伝」
「雄真くん……」
「だから、期待して待ってろ。この程度で、負けたりするもんかよ」
 そう。――俺達は、この程度で負けない。負けるわけがない。負けるわけにはいかない。
「――ありがとう、雄真くん」
 俺の意思を汲み取ってくれたのか、姫瑠が優しい笑顔になった。
「気をつけてね。――信じて、待ってるからね!」
「ああ!」
 こうして俺は、母さんと一緒に瑞穂坂学園を後にした。


「いやいや、お互いお疲れ様でしたねえ」
 Oasisから続く道。本日終業後、最後まで残っていた杏璃と舞依は、途中まで一緒に帰ることになった。
「ホント、最近忙しい日増えましたよね。表の方にももう一人位バイト、欲しいですよ」
「別に仕事が嫌いってわけじゃないんだけどさ。っていうか好きでパティシエールになったんだし。ただこうして毎日ケーキ、ケーキ、ケーキの生活を送っていて、一体いつになったら私にも彼氏が出来るのかしら、とか思うと……ガックリ」
 舞依はその場でオーバーにガックリ、と項垂れた。
「ええい、こうなったら杏璃ちゃん、一緒に一人身のまま、人生を突き進むのよ! 男が何よ! 女の幸せは結婚だけじゃない!」
「勝手にあたしを巻き込まないで下さい! というか舞依さんまだ全然若いじゃないですか! 諦める年齢じゃないですよ」
「そんなこと言ってられるのも今だけ今だけ。私も杏璃ちゃん位の歳の頃そんな風に思ってたけど、気付けばあっと言う間にこの歳だもん。――だからあんたも早めに男見つけておいた方がいいわよ」
「あたしはまだいいです、そういうの。自分の魔法の特訓とかで手一杯だし」
「えー、杏璃ちゃん人気あるんだから結構選り取りみどりじゃん」
「それとこれとは別です!」
「でもさ、実際どういうのが好みなの? やっぱ雄真くんみたいな子?」
 その発言の瞬間、杏璃はその場でスッ転びそうになる。
「な、な、な、なんであんなスケコマシ!」
「おーおー、わかり易く動揺してるねえ。破れた初恋?」
「ちちち違いますっ!! 別にあたし雄真をそんな風に見たことありません!」
「そうかなあ。私は杏璃ちゃんには彼みたいな子がピッタリだと思うんだけど。――ま、今はもう手遅れだけど」
「あたしのことは放っておいて下さい!」
 と、そんなやり取りをしていると、杏璃の携帯が鳴り出した。
「? 雄真から?」
「おっ、不倫の誘いかな?」
「舞依さん!!――もしもし?」
 舞依を牽制しつつ、電話に出ると――
『杏璃か! 今何処にいる!?』
「何よ、そんなに焦ったような感じで。――今Oasisからの帰りだけど?」
『っ、外なのか……いいか、気をつけろ!! 多分このままだと』
「あ、杏璃ちゃん、その、あれ」
 電話越しに聞こえてくる雄真の声と同時に、聞こえてくる舞依の困惑したような声。――ふっと周囲を見渡してみると、
「……っ」
 既に数名の魔法使いと思しき人間が、扇方の陣形で、杏璃達を半ば囲んでいた。
「雄真、もういいわ」
『杏璃! もういいとかじゃなくて』
「違う。――雄真の言いたいこと、よくわかったから」
 ピッ。――携帯を切り、ポケットに仕舞うと、杏璃はパエリアを取り出し、身構える。
「舞依さん。ここから舞依さんのマンションまで、走って何分ですか?」
「大よそ、三分四十五秒」
「お願いします。――ここはあたしが何とかしますから」
「……わかった。よくわかんないんだけど……その、気をつけて」
「ありがとうございます。大丈夫ですから」
 それだけ会話を交わすと、ダダダッ、と舞依がその場から駆け出していく。
「なんだ、アタイのところはたった一人か」
 取り囲んでいる人達の向こうで、声がした。――見れば、髪を赤と紫に染めた女がスタスタとやってくる。
「あんた、誰よ」
「アタイはウィリア。ISONEの雇われ魔法使い」
「ISONE……アンタらね、姫瑠を狙ってる、っていうのは」
「らしいね。でもアタイはそんなのはどうでもいい。アタイ自身が楽しめれば、なんでもいい」
 ニヤリ、と笑うと同時にスッ、と取り囲んでいた人間の内、場所を空けるように数名が動く。数メートルの間合いを置いて、杏璃とウィリアと名乗るその女は対峙する形となった。
「まあでも一人だろうが女だろうが容赦はしないよ。やれと言われた以上、思う存分にやらせてもらうからね。ジワリジワリといたぶるだけいたぶって、ボロボロになった頃、こいつらの「玩具」にでもしてあげるからね。――ああ、ゾクゾクする!」
 戦い――よりも、それ以上の「何か」に快感を求めているその女は、傍から見ても、異様。気味の悪さか、杏璃の背中を、一筋の汗が流れた。
「ふん、誰がアンタみたいな変態の好き勝手にさせるのよ! 馬鹿にしないでよね!」
 だが精神が揺るいだわけではない。杏璃は一気に魔力を集中し出す。――ウィリアは余裕の表情でそれを見ている。
「オン・エルメサス・ルク・ゼオートラス・アルクサス・ディオーラ・ギガントス・イオラ!!」
 放たれる杏璃の攻撃魔法。一気にウィリアに襲い掛かる。
「ハッ、威力は悪くなさそうだけどね、真正面切ってこんなの撃って来たって――」
 特に身構えることなく、余裕の体勢でその魔法を見守るウィリア。彼女は、この程度なら、防ぐ自信が余裕であった。……だが。
「ディア・ダ・オル・アムギア!」
 その声は、明らかに杏璃がいる位置とは別の位置から聞こえた。
「!?」
 次の瞬間、わずかな時間ではあったが、ウィリアの両手両足がツタのようなもので身動きが制限される。
「くうっ!!」
 ズバァン!!――結果として、ウィリアは真正面から杏璃の攻撃を直接喰らってしまっていた。
「容赦はしない。――その言葉、あなたにもそのまま送ります」
 その言葉と共に姿を現したのは――春姫だった。そのまま杏璃の横に行き、スッと身構える。――要は、春姫の存在を確認しての、あえての真正面からの攻撃だったのだ。
「雄真くんから、電話貰ったの。そしたら近くに杏璃ちゃんの魔力の感じがして」
「あたしは雄真から電話貰った瞬間に遭遇」
「頑張ろう、杏璃ちゃん。――きっと他でも戦闘が起こってる。私達みたいに上手く誰かと合流出来てない人もいるかもしれない。私達二人だから」
「さっさと片付けるってことよね。――オッケー、あたし達の力、見せ付けてやりましょ!」
 杏璃も、あらためて身構える。実力は勿論のこと、コンビネーションという点でも相当のレベルを持つ二人の共同戦線。――怒りをあらわにしたのは無論ウィリアである。
「やってくれたね……!! 貴様等、ただじゃおかないよ……!!」
「ただじゃおかないのはアンタの方よっ!」
「卑劣な手段を取ってくる以上、覚悟してもらいますから!」


「――各地で、少しずつ戦闘が開始されているみたいですね」
「ああ。――行動が早いな」
 光山とクリスは、小日向家を後にし、一旦とある公園に辿り着いた。気を巡らしてみれば、クリスの言う通り、少しずつ各地で魔力の衝突を感じる。つまり、戦闘が起こっているのだ。
「一つ一つの箇所に向かいますか? それとも、一気に大元を探すか」
「…………」
 クリスの問いかけに、光山は目を軽く閉じ、何かを考える様子を見せる。
「――クリス」
 だがそれも一瞬で、再び目を開き、口を開いた。
「ここに伝わってくる感じでもわかるが――小日向君の友人達の実力は中々のものだ。ISONEの下級兵では数人、束になってやっと相手になる位だろう」
「そうですね。私もそう思います」
「現在、姫瑠お嬢様はセキュリティの高い場所にて保護されている。おそらくレベルの高い人間が近くに護衛についている可能性が高い。更には我々ナンバーズの存在。総合すれば、断然有利なのは我々だ。――ハッキリ言えば、ISONEの勝機は相当薄い」
「ええ、仰る通りです。でも、それが……?」
「逆に考えるんだ。鉄壁の状態を誇るMASAWA陣営に、ISONE側が勝つにはどうしたらいいのか」
 バァン!――不意に、二人のいる公園に銃声が鳴り響く。
「答えは、案外簡単なものさ。――内部から、切り崩していけばいい」
 クリスが、その銃声を出して飛び出した弾丸が自らの体を貫いたと気付いたのは、
「残念だよクリス。――僕はもう少し、君達の「隊長」のままでいたかった」
 光山が、信頼すべき自らの部隊の隊長が、自分を拳銃で撃ったと気付いたのは、
「が……はっ」
 吐血し、体に力が入らなくなり、立っていられなくなり、倒れた感覚がした、その時だった。
「お別れだ、クリス。君は優秀な部下だったよ。僕を恨みたければ好きなだけ恨むといい。――天国で、ゆっくりとね」
 そう横たわるクリスに告げる光山の表情は穏やかで、普段と何も変わらない。唯一の違いと言えば――その手に、拳銃が握られていること位だった。
「さてと。――魔法使い狩りの夜の、始まりだ!」


<次回予告>

「クリ……ス……?」

撃たれたクリス。本性を見せ始める光山。
集められた戦力は、内部の混乱から、削られ始める。

「兄様っ!!」
「っ!?」

散らばる仲間達に、容赦なく襲い掛かる敵。
一人、また一人と、追い詰められていくだけなのか? 仲間達の運命は?

「何者です……!? 普通の方ではないですね……!?」
「言いましたよね? あなたに言う必要はないと」

そして争いは、更なる人の波紋を呼ぶ――

次回、「彼と彼女の理想郷」
SCENE 21  「Light and shadow in the night」

「言っただろう? 僕は確実な戦い方が好きだと。わかってもらえたかな?
わかってもらえた所で――終わりに、しよう」

お楽しみに。


NEXT (Scene 21)

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