『嘘、だろ……?』
『出来れば俺も嘘であって欲しいけどさ……本当のことなんだよ、これは』
『どうして……!? どうして今日まで何も言ってくれなかったんだよ!? あんた、最初からわかってたんだろ!? どうしてっ!?』
『俺も完璧な人間じゃないからさ。……お前と一緒に居る時間が心地よくて、言い辛かった』
『っ……!!』
『……悪かった』
『謝って欲しくなんてないよ!! あたしは謝って欲しいんじゃないよ!! 謝る……謝る位なら――!!』
『俺だって、お前に謝る位なら……もっと、長く生きたいさ。ずっとお前と一緒に生きていきたかったさ。でも無理っぽいわ、もう』
『……何で……何で……!!』
『…………』
『……嫌だ……嫌だよ……! あんたと会えて……あんたと一緒に生きられて……あたし、折角一人じゃなくなったんだよ……? あんたが居なくなったら……あんたが死んじまったら……またあたし一人ぼっちだよ……そんなの、嫌だよっ……!!』
『勘違いすんなって』
『……?』
『俺が死んでも、お前は一人にならないよ。お前が望めば、お前が自分からちゃんと望めば、もう一人になんてならないで済むさ。だから、一人ぼっちだなんて思うなよ。――そこに俺が居れないのは、ちょっと心苦しいけどさ』
『う……あっ……ああああああっ!!』
『ごめん。――ごめんな』

「っ!?」
 ガバッ。――唐突に目が覚めて、体を起こすと、見慣れた景色が目に入る。
「……夢、か」
 体は汗だくだった。そして――
「……あ」
 その目からは、涙が零れていた。
「やれやれ……もう直ぐ八年になるってのに、まだあの時の夢を見るのかい、あたしは」
 そう自分に言い聞かせ、涙を拭い、苦笑するのだった。


彼と彼女の理想郷
SCENE 18  「さよならの誓い」


「……う、ん……」
 心地よい温もりの中で、姫瑠は目を覚ました。
「あ、れ……? 私……」
 曖昧な記憶を辿ってみても、いつ自分がベッドで横になったか、等の記憶がまったくない。それ以前に、この部屋に見覚えがない。お世話になっている小日向家ではないのだ。
「確か私……公園で、変な人達に襲われて……助けてもらって……?」
 それ以降の記憶がなかった。
「……とりあえず、起きなきゃ」
 ベッドから起きて、ドアを開ける。――コーヒーと、パンの焼ける、いい匂いがした。
「ん? ああ、目が覚めたのかい」
 そう言いながら、キッチンで作業しつつ、軽く振り向いた人は――昨日、助けてくれた女だった。
「あの……私……」
「まったく、だからやめとけって言ったのさ。あんな所で気絶するとはね。――そのまま放置するわけにもいかなかったから、とりあえずあたしの家に運んだのさ」
「あ……その、ありがとうございました」
「ん。――腹も減ってるだろ? あたしもこれから朝ご飯だから、ついでにあんたも食べていきな」
「いえ、その、そこまでご迷惑をかけるわけには」
 ぐ〜。
「…………」
「あ――その、これは、その」
 ぐ〜。――後押しするように、二回目の音が鳴る。
「あはははっ、正直でいいねえ」
「その……すいません。ご馳走になります」
「ん。――ったく、最初から素直にそう言っておけばいいのさ。もう出来るから、そこに座って待ってな」
 姫瑠はおとなしく、指定されたテーブルに設置してある椅子に座る。
「あの……私、真沢姫瑠、っていいます」
「ああそうか、自己紹介してなかったねえ。――あたしは七瀬 香澄(ななせ かすみ)」
「七瀬さん――」
「ああ、あたしのことは香澄、でいいよ。ナナセ、って言うのは仕事柄でよく使ったり呼ばれたりしてる名前なんでね、プライベートで用件のある人には基本下の名前で呼んでもらうようにしてる」
 そう言いながら、香澄はテーブルの上に自分と姫瑠の二人分の朝食をテキパキと運ぶ。コーヒー、食パン、ベーコンエッグ、サラダ。――有り触れたメニューだが、姫瑠は空腹の胃の前に心が満ちた気がしていた。
「それじゃ、食べながらでも聞かせてもらおうかね」
「……え?」
「え、じゃないよ。あんたがあんな辺鄙な所でぶっ倒れるまで魔法の練習をしてた理由さ。何か結構な事情があるんだろ? 助けてここまでしてやってんだ、その位聞く権利はあるんじゃないかい?」
「あ……はい、実は……」


「ふーん、男めぐって五番勝負ねえ……」
 可能な範囲内で現状のあらましを姫瑠は香澄に説明した。既に朝食も終え、テーブルの上には空の皿が並んでいる。
「はい。――彼……雄真くんに、私の想いが遊びじゃないって証明したくて」
「あはははっ、随分な青春してるじゃないのさ。――ああ、馬鹿にしてるんじゃないよ? ドラマや漫画みたいな話で、興味あり、ちょっとだけ羨ましくもあり、ってところさ」
 笑いながら、香澄は自分と姫瑠のコーヒーカップに、お代わりのコーヒーを注ぐ。
「でも、その肝心の雄真って男も、随分な女たらしだねえ。よくそんな関係をキープするもんだ」
「本人無意識なんですけどね」
 今頃、雄真はクシャミをしてないだろうか、とふと姫瑠は思った。
「ま、でも人間は完璧じゃないからねえ。女たらし以外のことを聞く限りでは、いい男だよ、多分。普通夜道、帰り二人っきりでそんなに臭い台詞、中々真顔で言えるもんじゃないさ」
 ちなみに姫瑠は、つい香澄にその他の経緯も説明してしまっていた。今の香澄の指摘点は、ダンス対決後の帰り道の話である。
「それに、聞く限りの性格なら、別にその五番勝負の魔法対決? 勝たなくても、きっとあんたのこと真剣に考えてくれるさ」
「そう……でしょうか」
「ああ。間違いなく、あんたの気持ちが真剣だって痛いほどに感じてるはずさ。――まあでも、客観的なことを言えば、アンタがその坊やと結ばれちまうのがドラマチックで面白いけど、実際どの辺りまで考えてくれるかはわからないけどね」
「ですよ、ね……」
 客観的に見ても、自分は不利。――言われて、あらためて姫瑠は感じてしまう。
「――馬鹿だねえ」
「えっ?」
「可能性があるのに諦めてどうするのさ。一パーセントでも可能性があるなら、本気でその坊やが好きなら、全力でやりな。結果坊やが振り向いてくれなくたって、あんたの為になるさ」
「私の……為」
 そこで姫瑠は気付く。――春姫との雄真の奪い合い。断然負ける可能性の方が高い。そして負けたら、それで終わり。それだけだと思っていた。というよりも、負けても自分の為に何かがある、なんて考えてもいなかった。
「自分が大切だと思った人との時間は、その場だけだったとしても、かならず自分の為に、経験になる。――勝っても負けても、決して無駄にはならないよ」
「香澄さん……」
 口調こそ荒いものの、香澄の言葉は優しく、姫瑠の心を落ち着かせ、更に元気付けた。
「ありがとうございます。――私、頑張れます」
「ん。そうしな。――でないと、あたしが助けてやった意味がない」
 そう言って、二人で軽く笑い合った。
「さてと、それじゃ支度して、行こうか」
「ええ、お世話になりました――って、『行こうか』?」
 明らかに一緒に行きましょう、といったニュアンスの言葉だった。――姫瑠の疑問に、香澄はニヤリと笑う。
「見てみたくなったのさ。あんたの惚れた、その雄真って坊やの顔をね」


 ――姫瑠から電話があったのは、午前十時をちょっと過ぎた頃だった。

『姫瑠っ!? 無事なのか!? 大丈夫か!? 誰かに襲われたとかないのか!?』
『あ……うん、大丈夫。親切な人に偶々会って、お世話になったから』
『そっか……よかった……』
『……ごめんなさい。心配、かけて』
『とりあえずいいよ……無事なら。細かい話は、後ですればいい』
『うん……ありがと。――それで、今日土曜日で、学園は半日で終わりでしょ?』
『ああ、そうだけど……』
『授業終わったら、Oasisに行っててくれないかな? そこで待ち合わせ』
『構わないけど……何でわざわざ?』
『会わせたい人がいるの。――正確には、その人が雄真くんに会ってみたいって』

 そんなこんなで、現在昼時、混雑ピークのOasisの入り口前。俺はこうして姫瑠を待っていた。……いや、正確には俺だけじゃなくて、
「兄様、やはりご無理はなさらないほうが――」
「くっ、心配いらんぞ沙耶。俺は真沢殿の前で腹を切って詫びなければ!!」
「お前はマゾか!? 切腹したら死ぬだろ!?」
「雄真殿、俺の屍を越えてくれ!! 雄真殿なら出来る!!」
「いいから死ぬことから外れろー!!」
 姫瑠行方不明に随分責任を感じている信哉と、身を案じてついてきた上条さん。
「ったく、ナンバーズの面目丸つぶれじゃねえか、これじゃ」
「まったくだわ。我ながら情けないわよね。……社長の首吊りを止めるのが精一杯だったなんて」
「…………」
 それから、ナンバーズを代表して、タカさんとクリスさん。……姫瑠のパパさんに何があったのかは聞くのが怖いので聞かないことにしよう、うん。
「それでも、姫瑠ちゃんが無事なら、わたしはなによりです」
 そして琴理ちゃん。――以上の中々揃わなさそうな不思議メンバーで姫瑠をOasis前で待っていた。
「にしても……俺に会いたいってのもどういうことなんだろな」
 偶々姫瑠の世話を一晩焼いてくれた人が、何故にピンポイントで俺に会いたいのかがイマイチわからなかったりもする。
「雄真さんと、過去に特別な関係にあったのではないでしょうか」
「いや、そうそうそんな人が俺にいるとは思えない――の前に、いつからそこに」
 無論小雪さんである。呼んでねえ。
「男性は、一夜限りの肉体関係なら忘れてしまうものなのではないんですか?」
「何ですかその俺が手馴れてますみたいな勢いの質問!? というか肉体関係って決定してるんですね!?」
「そうやって、私とのあの夜も忘れてしまうんですよね……クスン」
「何もねえええええ!!」
 ――そんな馬鹿なやり取りをしていると。
「あっ、姫瑠ちゃんです」
 琴理ちゃんの声。――姫瑠が、女の人と一緒にこちらへ向かってきている。
「案の定、美人な方ですね」
「何でその台詞を言いながら横目で俺を見ますか小雪さん」
 知らない人だから。初対面だから。――まあ、確かに美人だ。見た感じ二十五歳前後位か? 長身で、スタイルも相当いい方だろう。
「な……んだ……と……!?」
 などと軽く思っていると、横で信哉がワナワナと震えながら驚愕の表情を浮かべている。
「あの……皆さん、ご心配おかけしました」
 と、信哉に注意を向けていると、既に俺達の目前に到着していた姫瑠が、そう言いながら頭を下げる。
「姫瑠。――電話でも言ったけど、とにかく無事で良かった」
「雄真くん……ごめんね」
「いや。――俺も、悪かったし。だから、俺も謝るわ。――ごめんな、遊びだなんて言っちゃって」
「……うん」
 そこで姫瑠は初めて笑ってくれた。――良かった。
「お嬢様。――誰かに襲われたとか、そういった類のことは」
「あ、その……タカさんとクリスさんが心配しているような人達には遭遇してないから大丈夫。……変な不良グループには会っちゃったけど、その時助けてくれたのが、こちらの七瀬香澄さん」
「そうでしたか……ありがとうございました。お嬢様の父であり、社長に代わり、お礼申しあげます」
「いいっていいって。偶々だからねえ」
 と、クリスさんが頭を下げているのをその七瀬香澄さんが笑って止めようとしていると――
「貴様……そのような戯言をよくも抜け抜けと!!」
「信哉?」
 信哉が鬼のような形相でその七瀬さんを睨みつけていた。
「ああ、あの時の坊や。――へえ、大したもんだ。昨日の今日なのに、そこまで回復してるとはね」
「兄様、御気を静めて下さい! 傷口に障ります!」
 必死に信哉を止める上条さん。――何だこれは? どういうことだ?
「雄真殿! この女だ! 俺は昨日、この女と一戦交えたのだ!」
「……はい?」
 信哉が、姫瑠を助けてくれた人と一戦交えた……?
「奴の通り名は『氷炎のナナセ』! 俺はこの女に真沢殿に関して訪ねられたので疑問を持ち、追求した結果戦闘になったのだ! この女は、真沢殿を狙う刺客だ!」
「え……?」
 驚く姫瑠。いや姫瑠だけじゃない。その場にいる誰もがよくわからない、といった表情に。
「いや、でも、だってこの人、姫瑠を助けてくれてここまで送ってくれてるぞ?」
「あーあー、そこの坊やの言ってることはホントだから。あたしは一応職業はフリーの魔法使いでね、『氷炎のナナセ』で業界じゃ通ってる。で、昨日姫瑠のことをそこの坊やに聞いて、戦闘になった」
「……えーと」
 本人が肯定してしまいました。――何だ? 姫瑠を狙っていたのがこの人で、姫瑠を助けてくれたのがこの人で……はい!?
「つまり、姫瑠お嬢様の誘拐を狙っていた。――そう考えて、いいのかしら?」
「ま、そういうことになるかねえ」
 クリスさんがザッ、と一歩前に出てそう問いかける。
「依頼主は誰だ? ISONEの上か?」
「それは流石に企業秘密さ。クライアントの情報は流さない」
 続けてタカさんも一歩前に出る。
「――ちょっと離れてろ、お前ら」
 タカさんの俺達への警告。何を意味するかは十分にわかる。
「おいおい、こんなところでドンパチするつもりかい? 目立つねえ」
「構わねえ。そんなに時間はかからない」
「へえ。――言ってくれる、面白い」
 その瞬間、周囲の空気が一気にドン、と重くなる。狭い範囲内で、三人の気迫がぶつかり合っている。――タカさん、クリスさんはともかく、七瀬さんも多分相当の人だ。
 一触即発――と思っていたが。
「待って!!」
 割り込んだのは姫瑠だった。
「香澄さんは悪い人じゃない! 私を助けてくれたし、今日朝話もしたけど、絶対にタカさんやクリスさんが思ってるような悪い人じゃない!」
「お嬢様。――お嬢様が何を話したのか知らないですけど、でもこの女がお嬢様を誘拐しようとしていたって言われちまった以上、俺らはそれを見過ごすわけにはいかないんですよ」
「ま、最もな理由だね。――姫瑠、あんたもう少し人を疑うってことを覚えた方がいいんじゃないかい?」
 姫瑠はタカさんと七瀬さんに咎められる。――何だか変な光景だ。タカさんはともかく何で七瀬さんまで。――もしかして、この人、本当に……?
「あの……」
 と、そこで意外な人物が更に割り込んできた。――上条さんだ。
「私は、兄様に手傷を負わせた行為そのものは、許し難いことだと思いますし、許せません。でも……私も、その方自身は、悪い方ではないような気がするのです」
「上条さんまで。――何で?」
「兄様を探しに学園に入る前に、私はこの方とお遭いしています。その時、私に布の小袋を手渡して、早く行くように促して下さいました。あの時は意味がわかりませんでしたけど、今思えば怪我をした兄様を気遣って下さっていたんだと思います。事実、布の小袋には――治療用の薬が入っていました」
「…………」
 その意見に、誰もが押し黙ってしまう。タカさんは勿論、あれ程怒り心頭だった信哉までも。
「……お嬢様、落ち着いて聞いて下さい」
 と、そこで口を開いたのはクリスさん。
「確かに、この方はいい人なのかもしれません。事実お嬢様を不良グループからも助けてくれましたし。ですが、だからと言って何もせずにこの方を解放するわけにはいきません」
「でも」
「我々だけに被害が被るのならそれでも構いません。社長やあなたの命令の結果、我々だけに被害が被るのなら私達ナンバーズの実力不足ということでしょう。でも――この方を無条件に解放した結果、雄真くん達に更なる迷惑がかかる可能性があります。――それを見過ごせ、と?」
「…………」
 姫瑠が押し黙る。――客観的に言えば、クリスさんの言う通りだ。でも。
「クリスさん。――俺達のことは構いませんから、姫瑠の好きにさせてやってもらえないですか?」
「雄真くん! これはあなたが考えているような軽い話じゃないのよ?」
「わかってます。――でも、俺達と姫瑠で何か線を引いて、区切るようなことは出来ればして欲しくないんです。俺達は、姫瑠を大切な仲間だと、友達だと思ってます。現にだからこうして信哉も命がけで戦った。信哉だけじゃない。その場に他の誰がいても、姫瑠の為に戦ったと思います」
「……甘いな、お前。綺麗事だけじゃ生きていけねえぞ?」
「タカさん。――わかってます。でも、綺麗事で行ける範囲内は、行きたいじゃないですか」
「ハッ、言ってくれる。――面白えよお前、ホントに」
 タカさんは軽く笑う。呆れ顔のような、それでいて嬉しそうに。
「……へえ」
 と、そこでスタスタと俺の目前に迫ってくるのは、姫瑠を助けた姫瑠誘拐犯、七瀬香澄さん。
「あんたが噂の「雄真くん」か」
「い……いやその、何の噂だか知りませんが」
 そう言うと、更に接近、じっと俺の目を見てくる。――正直、美人なので物凄い恥かしい。
「やっぱり、過去に何かあった方なんですね」
「違うって言ってるじゃないですか小雪さん!」
 などというやり取りの後。
「――ああ、うん」
「?」
「まだまだ未熟だけど……でも、いい目してるよ、坊や。気に入った」
 そう言って、笑いかけると、再び先ほどにいた位置に戻る。――何だ? 何なんだおい?
「雄真くん」
 と、クリスさんが俺を呼ぶ。
「あなたが、そこまで言うのならば――彼女の処遇は、あなたが決めて」
「……え?」
「あなたの心意気、見せてもらうから。――条件として、何もしない、というのはなし。必ず何か処置を施すこと」
 クリスさんの目つきは真剣だ。――多分、俺は試されているんだろう。
「…………」
 でも……どうしたらいい? 姫瑠を誘拐しようとした人、姫瑠を助けてくれた人。――実際、確かに今までの傾向からして、この人は悪い人じゃない気がする。だけど、この人を無条件に解放して、また姫瑠が狙われたら? そう考えると、確かに「何もしない」というのは駄目だ。あれはクリスさんなりのおまけだったんだろう。
「おや! おやおやおや〜! そこにいらっしゃるのは小日向の雄真くんじゃあ〜りませんか」
 ――と真剣に考え出した矢先に余計な人が。というか、
「偶々みたいな言い方してるけど、俺がここにいるって知ってるでしょ、かーさん……」
 姫瑠とここで合流するって話はしてあるわけだし。というか、物凄い嫌な予感がするんですが。
「で? 一体何の――」
「おねが〜い! 人手が足りないの! 手伝ってくれないかな〜? バイト代弾むから!」
 やっぱりか。やっぱりそれか。何故こんな時に……とは思ったが、「バイト代弾む」という気になるフレーズ。このフレーズが入るということは、余程人がいない時という証拠。予定外のパニックで、かーさんも苦肉の策なんだろう。
「いやでも俺、今……あ」


「――で、とりあえずは罰としてタダ働きしていけ、と」
 カチャカチャカチャカチャ。
「いえ、その、はい、とりあえず思い当たることがそれしかなくて」
 ジャー、バシャバシャバシャ。
「ったく、もうちょっと頭捻ったらどうなんだい? あたしは何処の食い逃げ犯なのさ」
 カチャカチャカチャカチャ。
「いえ、その……すいません」
 ジャー、バシャバシャバシャ。……皿をひたすらに洗う音と共に会話は続く。場所はOasis厨房、流し台。切羽詰ってしまった俺は、香澄さん(と、名前で呼べと言われた)への処置として、人材不足のOasisの無償での手伝いを命じてしまった。
「というか、それを命じた人間が一緒に作業してるってのもあたしにはよくわからない」
「そういう運命なんです、俺……」
 で、何故か俺も一緒に(俺はバイト代出るからな!)。二人は並んで皿洗い真っ最中。
「気にするな、七瀬香澄とやら。――我が主は、こう見えても結構なMでな」
「違う!! 断じて違う!!」
「おっ、あたし達案外相性合うかもねえ。あたしは結構なSだ」
「聞いてないです!!」
「雄真、そういうのも一度体験しておいた方がいいぞ」
「何その人生の教訓みたいな言い方!?」
「あたしは雄真だったら一回位だったら抱かれても構わないけど?」
「そこはそこで普通にそういうこと言わないで下さい!!」
 そんな会話しつつも、二人は皿洗い真っ最中。
「こら新入り、喋ってないでさっさと皿を洗え〜!」
「あー、すいません……って、舞依さん?」
 通りすがりにちょっかいを出してきたのは、パティシエールの舞依さんだった。
「でも舞依さんってこの辺で作業しましたっけ? 普段あっちでケーキ作ってますよね?」
 見れば舞依さんは、明らかにケーキとは無縁の作業をしている最中だった。
「私だってそうしてたいわよ。でも忙しくてそれどころじゃないの。一人であっちもこっちもやらないと。病気だとか怪我だとか子供が急にだとか知らないけど、出勤してる方はたまらないってのよ。あーあ、これなら私も休めばよかったわ」
 成る程、緊急の休みが重なった結果なのか。実際舞依さんは本気で忙しそうだった。
「だからかい、ここの厨房が辺に慌しいのは」
「そゆこと。――真面目な話、二人とも頑張ってね。手が空いたら他にも仕事沢山あるから」
「わかりました」
 舞依さんは再び忙しそうに仕事に戻っていった。
「…………」
 カチャカチャカチャカチャ。――そして俺達は再び皿洗い。
「…………」
 ジャー、バシャバシャバシャ。――特に会話もなくなり、黙々と皿洗いをする二人。
「…………」
 カチャカチャカチャカチャ。――そんな状態が、
「…………」
 ジャー、バシャバシャバシャ。――十分は経過しただろうか、という時だった。
「……あ〜〜〜〜っ!! じれったい!! もう見てられない!!」
「え? あ、ちょっ!」
 急に大声を出したかと思うと、香澄さんが皿洗いを止め、ズンズンと調理台の方へ。何をする気だ、と思っていると。
「あんたねえ、一つ一つの作業の能率が悪過ぎなんだよ! そんなだからいつまで経っても厨房が落ち着かないんじゃないか!」
「は、はい」
 いきなり調理担当の一人に駄目出しを開始し始めた。――な、何だこの光景は?
「野菜一つ切るのもそう! 包丁貸してみ!」
「あ、どうぞ」
 ズダダダダダダダダダ!!
「早っ!?」
 香澄さんの包丁裁きの速度は最早尋常じゃなかった。あんな速度で包丁動かす人見たことない。
「ほら、見惚れてないでその間にフライパンに油! さっさと暖めておく!!」
「は、はいっ!」
 先ほどまで包丁を握っていた調理担当の人を助手に回すかの如く香澄さんは動いていく。
「…………」
 ジャー、バシャバシャバシャ。――残された俺は皿洗い。一人になってしまいました。

 ……更に、三十分後。

「香澄さん、オーダー入ります! 和風ハンバーグ単品で一、ランチBセットが二、チャーハン一、ミートソース一です!」
「あいよ!――ミートソースとハンバーグはそっち! こっちでランチとチャーハンやるよ!」
「はい!」「はい!」
 ウェイトレスがとりあえず香澄さんにオーダーを通し、そこから厨房が動くという形に変化していた。つまり調理担当を仕切っているのが香澄さんになってしまった。何故だ。
「…………」
 カチャカチャカチャカチャ。――ちなみに俺は皿洗い真っ最中。
「雄真、雄真」
 と、そんな俺に小声で話しかけてくる奴が。バイトで普通に仕事していた杏璃だ。
「杏璃。――どうした?」
「あの人、雄真が連れてきたんでしょ? 何者なのよ」
「いや、姫瑠の誘拐犯で恩人」
「はあ? 意味わかんないわよ?」
 いや実際の所俺もよくわからないんだってば。
「何処かのレストランか何かで働いてた人じゃないの? 正直、今日の人数は駄目かと思ったけど、あの人のお陰で一気にスムーズに動き出したわ」
「いや、職業はフリーの魔法使いだって言ってた」
「……ますますわけがわからないじゃない」
 それは俺もだっての。
「とりあえず仕事戻れよ杏璃。まだ忙しいだろ」
「そうね……いい、後でちゃんと説明しなさいよ」
「あー、わかったわかった」
 俺が把握し切れていたらな。

 ……更に、一時間後。

「オーダー入ります! カレーライス、チャーシュー麺、チャーハンが一ずつ、ケーキセットが三です!」
「はいよ!――やけにさっきからケーキセットが出るね……音羽、ケーキの在庫チェック!」
「はい、只今!」
 …………。
「大変、もうちょっとで無くなっちゃう〜!」
「やっぱりね。――舞依、あんたケーキの方に戻りな」
「私はそれの方が楽でいいけど、厨房回らなくならない?」
「それはこっちで何とかする。昼食ピークも過ぎておやつ時、ケーキが少ない方が怖い」
「そっか、そうかもね」
「それじゃ頼むよ。――いいかい、本気出してきな!」
「アイアイサー! この私に任せなさい!」
 ……とまあこんな感じで、香澄さんは調理担当だけでなくOasisスタッフ全体をまとめ始めていた。あんたは店長か。かーさんも気付けば香澄さんのサブに回っている。どういうことだ。
「雄真! 雄真こっち!」
 気付けば雄真も香澄さんのサブに――
「って俺!? は、はい!!」
 ずーっと皿洗いしていて存在を忘れられていたと思っていたら、しっかり認識されていたらしい。
「あんたの知り合いに、料理が作れる人間は?」
「料理、ですか。一応何人かいます」
「呼べるだけ呼びな。一人でも多く戦力が欲しい」
「わかりました」
「それからあんた、ウェイターの経験は?」
「あ、一応あります」
「なら今から表出な。表が怪しくなってきてる」
「構いませんが、皿洗いは?」
「大丈夫、姫瑠を使う」
 ああ、あらたな犠牲者が。――と思っている間にも香澄さんは素早く店の外にいた姫瑠を引っ張ってきた。
「姫瑠、あんたちょっとここで皿洗いな」
「はい、わかりました」
「言っておくけど、皿洗いだからって気を抜いたりするんじゃないよ? 仕事の派手地味は関係ない。誰かが手を抜いたら終わり。ここに入る以上、あんたもOasisを支える重要な人間の一人だ。それを誇りに思い、胸張って頑張りな!」
「はい!」
 やる気を見せる姫瑠。皿洗いというどうでもよさ気な仕事に対するモチベーション低下を香澄さんはいきなり防いだ。……凄いなこの人。実際店長とかそういうのに向いているのかもしれない。
「あんたはさっさと表に出る!」
「あ、は、はい!」

 ……更に更に、一時間後。

「はっ、はっ……な、何なんだこの込み具合は……」
 昼食時を過ぎたはずのOasisだったが、空くということを知らず、お客は増える一方。外にも行列が出来ている。未だかつてここまで混んでいるOasisを俺は見たことがあっただろうか。――原因は大体わかっている。チラホラお客の話を耳にする限りでは、今日のOasisの料理は普段よりも一味違い、凄い美味しいらしい。それが噂を呼び、今のような状態になっているようだった。
「香澄さ〜ん! オーダー入ります!」
「あいよ! その前にこれ二十三番!」
 そして多分、現在このOasisを完全に仕切っているあの人が普段よりも料理を一味変え美味しくしたんだろう。思い当たる節はそれ以外にないのだ。
「雄真っ、そこ終わったら二十番テーブルにお冷とメニューお願い!」
「おう!――十七番テーブル、オッケーです!」
「お待たせ致しました、こちらへどうぞ!」
 更に更に、その臨時店長の命令により、戦力となりそうな俺の知り合いは呼べるだけ呼んだ。現在フロアには杏璃含む既存スタッフ二名、俺、姫瑠(ついに皿洗いは琴理ちゃんに交代した)。調理担当の増援に春姫、楓奈、上条さん。ケーキ担当舞依さんのサポートにすもも。更には準が状況に応じてフロアと調理を行き来するオールラウンダーと化している。客観的に見れば十分過ぎるほどの人をかき集めたのだが、それでも全員が必死になって動かないといけないという超多忙な状態になっていた。
「何だか、知らない間にOasis、随分可愛い女の子が増えたねえ」
 そんなことを言う男の客も当然多い。確かに仰る通り、今日普段Oasisのスタッフじゃない人間は目に見える範囲でもあからさまに男なのは俺だけで(あからさまじゃなければ男はもう一人いるが)、後は見た目レベルの高い子ばかり。ついでに言えば臨時店長も美人だし。
 で、可愛い&美人ばかりで、これだけ鬼のように混雑してると、
「お嬢ちゃん、見ない顔だけど、制服良く似合ってるねえ」
「キャッ! ちょっ、何するんですか!?」
「いいじゃねえか、ちょっと位」
 なんてセクハラなオッサンが出没してしまうわけで。――さてどのような方法で追い出してやろうか、と思いつつそのオッサンに俺が接近しようとすると、
「……あ」
 ズン、ズン、ズンと俺の横を勢いよく通り過ぎていく人が。――臨時店長香澄さんだった。まさか。
「お客様、失礼致します」
「……ん?」
 丁寧な言葉で香澄さんはそう告げると、
「え? お、おい、何するんだ!!」
 グイ、とそのセクハラ親父の襟元を掴み、無理矢理立たせ、入り口まで引きずっていく。そして、
「ぐあっ」
 ポイ、とまるでゴミ袋を投げるようにそのセクハラ親父を外に放り投げてしまった。
「金はいらないよ。その代わり、二度とこの店に足を踏み入れるんじゃない」
 そう厳しい口調で告げると、そのままズンズンと店に戻っていく。――店に戻った香澄さんには、一部始終を目撃していたお客様から盛大な拍手が送られていた。軽く会釈してその拍手に答えると、香澄さんは再び厨房内へ戻っていった。格好よ過ぎなんですけど。 
 あの人本当に実際何者なんだろうか。

 ……そして、時刻はあっと言う間に過ぎて。

「は〜い、みんなお疲れ様〜!!」
 かーさんの一言。――無事、本日の閉店時間を迎えた。その瞬間、その場に座り込む者、周囲とハイタッチする者、それどころか抱き合う者まで出てきた。仕事をやり遂げた達成感で俺達は一杯だった。ここにいるスタッフ全員が戦友だ。未だかつでOasisでバイトしてこんな感覚に陥ったことなど当然なかった。汗をかくってこんなに素晴らしかったのか。
「……しかし、疲れた……」
 かく言う俺も周囲数人とハイタッチした後、その辺の椅子にバタン、と座り込んでしまった。前半こそ皿洗いオンリーだったものの、後半は店を駆け回っていた。
「はい、全員席についたかい? 賄いの時間だよ」
「え?――あ」
 と、そんな疲労者だらけのフロアに香澄さんを中心に、厨房スタッフが厨房から料理を運んできた。一人一人の目の前に配られた料理は、皿に山盛りになったチャーハンだった。「賄い」――こんな展開もバイトをしていて初だ。
「おかわりも出来るようにしてあるからね。好きなだけ食べな!」
 香澄さんのその一言で、全員が一気にチャーハンを食べ始める。
「うお、超美味い!」
 一口食べた瞬間感じた。滅茶苦茶美味い。当然空腹というのもあるだろうけど、それ以上に普通のチャーハンとは格が違う。
 ふと周囲を見れば全員同じ感想のようで、驚きの表情と共にバクバク食べている。
「横で見る限りでは、普通に作ってるだけだったのに……?」
「うん……特に目新しい感じの作り方じゃなかったよね」
 横で手伝っていた春姫と楓奈の感想はこれだった。やはりというか何というか、香澄さんがメインで作ったらしい。
「あっはは、どうだどうだ。チャーハンはあたしの一番の得意料理なんだ。そんなに簡単に謎は解けないだろうねえ」
 一方で、その様子にとても満足な香澄さん。――確かに自信満々なだけの味だ。これならあれだけ今日Oasisが混むのも頷ける気がする。
 ――やがて大量に作ってあったおかわり分もすっかり無くなり、スタッフ全員で片付けを開始し出した頃。
「それじゃ雄真、姫瑠。あたしはそろそろ行くよ」
「え?」
「え、じゃないだろ。あたしはそもそも罰でここでタダ働きしてたんだ。流石にもういいだろ」
「あ……」
 そうか、すっかり忘れていた。俺の命令でこの人ここで今日働いてたんだ。何だか、俺達の仲間で、当たり前のような気がしてしまっていた。
 逆に言えば――この人は、もう俺達の仲間でも、おかしくはないのだ。同じ空気で生きていける人だ。
「香澄さん……その」
 何かを言いたげな姫瑠。――香澄さんは、優しい笑顔になる。
「安心しなよ。――流石に、もうあんたを誘拐しようとかそんなことは思わないさ」
「でも、それならこれから」
「ん。――この街にも居辛くなるだろうからね。しばらく旅にでも出るさ。これでも金は結構持ってるんでね」
「香澄さん……」
 でも、香澄さんは去っていく。言葉が見つからない。何て言えばいいんだろう。この人に、俺は何を言えばいいんだろう。
「香澄ちゃん、良かったらOasisに就職しない? 待遇良くしちゃう〜!」
「そうだよ、おいでよ香澄さん。どう考えても天職だって」
「あははっ、そうだね、考えておくよ」
 事情を知らないかーさん、舞依さんらスタッフに香澄さんは別れの挨拶を済ませていく。そして、
「姫瑠」
 最後に再び、俺と姫瑠の元へ。
「頑張るんだよ。――あんたの頑張りは、何かしらの形で報われる」
「――はい!」
 姫瑠の返事を聞くと、香澄さんは迷うことなく、俺達に背中を見せ、去っていく。
「香澄さん!」
 気付けば、俺は香澄さんを呼び止めていた。――何故だろう。何だろう、この感覚。そう、不安だ。何が……『不安』なんだろう?
「また……会えます、よね?」
 そう尋ねていた。――聞いておきたかった。聞いておかないと、いけない気がした。確認しないと……物凄い、不安だった。理由はわからないけど、何かが俺を不安にさせていた。
「そうだね。――生きていれば、また会えるさ」
 香澄さんはそう言うと、振り返ることなく、手を振りながらOasisを後にした。
「……姫瑠」
 やがて香澄さんの背中は見えなくなる。俺は並んで見えなくなるまで見送っていた姫瑠に、告げる。
「春姫との対決、第五回戦が終わったら」
「……終わった、ら?」
「話がある。大事な話だ」
 話をしよう。姫瑠を引き止めると決めた俺の為に、今の時間を幸せに感じている姫瑠の為に。そんな姫瑠にエールを送ってくれた、香澄さんの為に――


 夜。――華やかな大通りからは外れた、人気の少ない道。
「いい加減、出てきたらどうだい?」
 香澄がそう言うと、ザッザッ、と香澄の周囲を囲む人影。その数七。
「世話が焼けるねえ。わざわざ人踊りの少ない道に入らないと行動に出ないだなんてさ」
「氷炎のナナセ、我々が依頼した誘拐の件はどうなっている? 何の連絡もないが」
「ああ、あれかい? 悪いけどキャンセルさせてもらうよ。やる気がなくなった」
「それが、どういう意味だかわかってて言っているのか?」
「勿論。――だからわざわざ七人も用意したんだろ? まったく、あたし一人処分するのにそこまで人用意するとはねえ」
 香澄を囲む七人は、既に臨戦態勢に入っている。流石の『氷炎のナナセ』でも多勢に無勢の数。
「考え直すつもりは」
「ないね」
「殺される、とわかっていてもか」
「ああ」
 香澄は全ての質問に即答だった。まるで怯えている様子も見られない。
「あんたらはあたしのことを何も知らないからそんな脅しが出来るのさ」
「……何?」
「あたしは、死ぬことは怖くない。あの世に、あっちに会いたい人がいるんでね。あたしはずっと、死に場所を探してきた。あたしのつまんない命、あいつらの為に使えるのなら、本望だって思っちまったのさ」
 そう言いながら、香澄も背中からワンドを取り出す。
「悪いね、雄真、姫瑠。生きてたら会えるだろうけど――あたし、もう死ぬよ。だからもう会えないや。悔いはない。死ぬ前に、面白いもの見せてもらったからね。――あんたらに、出会えてよかったよ。お礼に、あたしの命、あんたらにあげるからさ、頑張んな、色々とさ」
 ビィィィン。――魔力を集中し出す。空気の流れが変わっていく。
「勿論、ただじゃ死なないよ。――さあおいで、道連れになりたい奴からね!!」


<次回予告>

「そうね、思ってる。――あなたと二人なら、負けることはない」
『そういうことだ。そんなに心配すんなって』

大切な人を想うということ。
喜びも不安も、きっと消えることはなくて。

「雄真くん、キターーーー!!」

大切な人達がいるということ。
至極当たり前のようで、でもそれはとても貴重なことで。

「春姫、姫瑠。――俺さ、二人の為に」

そして雄真は、あらためて一つの決意を固める――

次回、「彼と彼女の理想郷」
SCENE 19  「寄せてはかえす波のように」

「宜しければ、場所を移しませんか?」

お楽しみに。


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