空を見上げれば、夕暮れが近付いていることがわかった。――上条沙耶は、そのことを確認すると読んでいた本――ファッション雑誌をを棚に戻し、学園への道を再び歩き出した。……要は、信哉は結局一人では相当時間がかかってしまうだろう、という伊吹との同意見により、最初から程ほどの時間で迎えにいってあげるつもりだったのだ。 勿論、あまり早く行くとそれはそれで信哉が機嫌を損ねてしまうかもしれない。なので、駅前にて時間を潰していたのであった。 (私も……同世代の方々に少しは近付いているんでしょうか) 先ほどまで入っていた本屋のことを振り返って沙耶は思う。一昔前までは、時間潰しとは言え、立ち読みでファッション雑誌を読むなど考えられなかった。主である伊吹の計画が発端とは言え、今の学園に転入し、春以降、新たな友人達が出来たおかげで、自分は少しずつだが変わっている。その事実が恥かしくもあり、嬉しくもあった。 そんなことを思いながら、学園の前につくと―― 「……?」 学園の前に、一人の女性。知らない人だが、見れば相当の美人。感慨深げに、校舎を見上げている。何となく、その光景に見入ってしまっていると―― 「…………」 沙耶の視線に気付いたのか、その女が、チラリ、と沙耶の方を見る。 「あ……あの、その」 何て弁明しようか、と考えていると、女は軽く笑う。――「気にしなくていい」。そう、言っているような笑顔だった。 「――あたしは、こういう学校とか、そういうのに通ったこと、ほとんどなくてねえ」 「……?」 女は、視線を学園の校舎に戻すと、不意に語り出した。 「だからつい思っちゃったのさ。あたしでも、ちゃんと学校に通ったりとかしてたら、あんな風に臭い台詞真顔で言えるようになったのかな、ってさ」 当然、何のことを言っているのか、沙耶にはわからない。――そんな沙耶の表情を汲み取ると、フッと優しい笑顔になり、 「……え? あの」 沙耶の手を掴み、その手に無理矢理何かを握らせた。――布の、小袋だった。 「早く行ってやりな。――あたしが言うのもあれだけど、あまり長い間放置するのは可哀相だ」 そう言うと、沙耶の横をすり抜け、女は去っていった。――何だかさっぱりわからない。 「…………」 とりあえず止まっていても仕方が無いので、沙耶は信哉を探しに、学園の敷地内へ入る。しばらく歩き回り、途方も無い方向性も考えて、校舎から離れた箇所も探していると―― 「……え?」 信哉は、いた。 「兄……様?」 信哉は、いた。――ボロボロの姿で、建物の壁に背中を預け、だらりと手足をさせた状態で座っていたのだ。 「兄様っ!?」 やっとの思いで現状を認識し、信哉の下へ駆け寄る。 「……沙耶……か……?」 「兄様、これは一体どういうことなのです!? しっかりなさって下さい!」 「雄真殿に……伝え……真沢殿の身が……危……険……」 「兄様、兄様っ!?」 信哉はかろうじてそれだけを口にすると、それ以上は何も発しなくなった。 「兄様ーーーーーっ!!」 そして、沙耶の悲しい叫びが、学園の敷地内に、響いたのだった。
彼と彼女の理想郷 SCENE
17 「その女、誘拐犯につき」
「……あー」 俺は先ほどから我が家のリビングをウロウロウロウロ。 「もう、ちょっとは落ち着いたら、雄真くん。姫瑠ちゃんだって、そんなに怒ってないわよ。それに、ちゃんと話して謝れば許してくれる」 「わかってる、わかってるんだけど、実際ちゃんとするまではどうしても」 かーさんが宥めてくれるが、どうしても俺は落ち着かない。 ――そう、俺は今日の昼休み、姫瑠に対しての失態を誤ろうと必死だった。あの後昼休み姿を探したけど見つからなかったし、授業が終わったらパッといなくなっちゃうし、完全にチャンスを逃していたのだ。放課後探し回ろうとも思ったが、当ても無く探すよりかは家で待機して待った方が確実だろう、という考えに辿り着き、今に至る。 いい機会だから、順序良く、落ち着いて話し合おう。出来れば今後のことも話し合いたい。――まあこれは出来れば、だけれど。とにかく今は姫瑠に謝って、俺達の距離を元に戻すことが最優先。 「……あー」 そして俺は、姫瑠が帰ってくるのを待ちながら、我が家のリビングをひたすらウロウロウロウロ。 「……ウロウロしていても、姫瑠が早く帰ってくるわけじゃないだろう。ここは男らしく、ドシン、とソファーに身を委ね、葉巻を咥えてだな」 「お前は更に関係を拗らせたいのか!?」 「イメージチェンジだイメージチェンジ。葉巻を咥えたまま姫瑠にダンディにこう言うんだ。『今夜、お前とドンドコドン』」 「意味がわからねえ!?」 何だ葉巻って。何だ今夜ドンドコドンって。いや意味はわかるが全然ダンディじゃない。――ツッコミを入れて疲れた俺は、ソファーに座る。 「…………」 ……もしかして、今の余計なボケも、俺を落ち着かせる為、なんだろうか。そんなことに、座ってから気付く。 「はい、雄真くん」 と、俺が座るのを待っていたかのように、かーさんがテーブルの上にお茶を持って来てくれた。 「ありがとう」 一口飲むと、更に少しだけ、心が落ち着いた気がした。――とその時。 「っ!!」 俺の携帯電話が鳴る。――急いで手に取り、ディスプレイの名前を確認すると…… 「……伊吹?」 「式守伊吹」と表示されている。――珍しい、電話をかけてきているのは伊吹だった。 「もしもし」 『小日向か』 声のトーンが、少々重い。……嫌な予感がする。 「ああ。――どうした? 珍しいな、お前が俺に電話なんて」 『……信哉が、やられた』 「……え?」 信哉が……やられた……? 「っ!? 信哉が、やられたって……どういうことだ!?」 『真沢姫瑠を追っている人間と遭遇、一対一の戦闘になったらしい。歯が立たなかったようだ』 「……な……」 姫瑠を追っている人間……つまり、「ISONE
MAGIC」の刺客と戦って、だって……!? 「大丈夫なのか!? 酷いのか、その、怪我とか」 『それなりにダメージは深いが、安心しろ。しばらく安静にしていればよくなる。――どちらかと言えば見つけた沙耶の方が取り乱しておる』 「上条さんが見つけたのか……」 どんな気持ちだろう。家族を、大切な人を、ボロボロの姿で発見するというのは……どれだけ、痛いだろう。 「……すまない」 『お主が謝ることではないわ。それに、私に謝ることでもない』 「ああ……そうなんだけどな」 でも、謝らないと気が済まなかった。 『それよりも、真沢姫瑠は今そこにおるのか?』 「っ!! そうだ、姫瑠がまだ帰ってきてねえ!!」 『な――それを早く言わぬか馬鹿者!』 マズイ。相手は信哉がまったく歯が立たないような実力者。単独で行動してしまっている、姫瑠は相当危険な状態だ。 『いいか、この電話を切って急いで真沢姫瑠に電話をしろ!』 「っ――それが出来るならとっくの昔にしてるんだよ」 『どういうことだ?』 「色々あって、今日ちょっと揉めちゃってさ、さっきから電話もしてるんだけど、電源切ってるみたいで出てくれないんだ」 『よりによってこんな時に……!! ええい、お主は他の者共に全員連絡を取れ! 私も今から探しにいく!』 「悪い! 俺も連絡したら直ぐに探す!!」 ピッ。――伊吹との電話を終わらせると、順番に俺の仲間達へ一人一人電話をしていく。 「姫瑠……無事でいてくれよ……!!」 それは、本当に切実なる願いだった。
「――坊やの心意気に免じて何も聞かなかったのはいいけど、詰まっちまったねえ」 『氷炎のナナセ』は一人ぼやきながら日が暮れかけている道を歩いていた。――信哉との戦闘後、姫瑠の情報を何も聞かないでその場を去った。その行為そのものは自分自身納得しているのだが、結果として情報は何も得られず、更に言えば警戒されていること間違いなし。随分とやり辛い状態になってしまっていた。 「流石にこんな時間に出歩いちゃいない、か」 このまま歩いていても仕方ない。今日は帰って、また明日動こう。そう気持ちを切り替えて、自宅への道へと方向転換。さて晩御飯は何を食べようか、などと適当なことを考えていると…… 「……うん?」 通り道にある、ちょっと寂れた公園。何気なく目を向けてみると、一人の人影。目はいい方だ、とちょっと目を凝らして見てみると、年頃の少女。 「――って、おいおいおいおい、アリなのかいこんなパターン」 更に目を凝らして見てみると、そこに居たのは他でもない、自分が探しているターゲット――姫瑠だった。――あたしも運がいいねえ、などと思ってはみたが、 「……もしかして、何かの罠じゃないだろうね」 あえて自分の視界に入れ、誘き寄せて捕らえるつもりかもしれない。――そう思った彼女は、遠巻きに様子を見てみることにした。 「どうでもいいけど、何してんだい、あの娘」 とりあえず、気を周囲に巡らせてみたが、周囲に誰かが隠れている様子は感じられない。あらためて姫瑠の様子を観察してみると、マジックワンドを持ち、何かをしている様子。 「魔法の……練習?」 見る限り、それ以外の行為をしているようには見えない。――こんな時間に、こんな場所で、一人で? わけがわからない、とちょっと呆気に取られていると―― 「――!!」 人の気配を感じた。スッ、と更に見つかり辛い場所に移動し、様子を伺う。――見れば、少々砕けた雰囲気の若者――属に「不良」と呼ばれてしまいそうな――のグループ、十名ほどが姫瑠が一人でいる公園に入っていく。入り口に二名、見張りを置くと、若者達は姫瑠を取り囲んでいく。 「――何か用ですか」 「こんなところで一人で何してるんだい? よかったら、俺らが家まで送ってあげようか」 「結構です。放っておいて下さい」 「そんなこと言わないでさあ。あ、そうだ、あれなら俺達と何処か遊びにいかない? 楽しいぜ」 「結構だって言ってるじゃないですか。あなた達みたいな人達に関わってる暇ないんです!」 「いいから行こうぜ!」 「キャッ! 何するんですか、離して――」 「おい、口塞げ! 騒がれると厄介だ!」 多勢に無勢、数名の男達に掴まれ、姫瑠はズルズルと連れていかれそうになる。魔法を使おうにも口を塞がれ、手を掴まれているのでワンドも持てず。 まずい、何とかしないと――と姫瑠が策を一生懸命練っていた、その時。 「ぐあっ!」「ぐほぉ!」 ドサドサッ。――入り口で見張りをしていた男二人が、大の字になって気絶して倒れていた。代わりに入り口には、一人の女。女――『氷炎のナナセ』は呆れ顔でその様子を見ていた。 「ったく、あんたらみたいな馬鹿な連中がいるから、口ばっか達者なジジイやババアに『今時の若いもんは』なんてくだらないこと言われちまうのさ」 正直、『氷炎のナナセ』としてはここで簡単に自分の姿をさらしてしまいたくもなかったし、余計な出来事や人間にあまり関わりたくもなかったが、ここで彼らに姫瑠を連れ去られてしまうのは困る。考えた結果の、苦肉の策だった。 「だ、誰だテメエ!」 「あたしかい?――あたしは誘拐犯さ。……通りすがりのね」 ニヤリ、と挑発的な笑み。一体この女、何を言っているんだ――という表情に、全員がなる。無理もない話である。自己紹介で自分は誘拐犯だ、と言う人間は普通はいない。 「別に性欲を我慢しろとは言わないさ。若いんだ、有り余って当たり前だよ。でもね、発散したいなら発散したいで、そういう夜の店で金払ってやってきな。その辺の関係ない女襲ってんじゃないよ、このカス共が」 「くっ、このアマ!」 「おい、待て」 若者グループのリーダー格の男が今にも襲いかかりそうだった一人を止めると、ゆっくりと『氷炎のナナセ』に近付く。 「威勢がいいねえ、お姉さん」 「あんたらがチキンなだけだろ?」 「その威勢のよさ、いつまで持つか、楽しみだなあ」 男が合図を出す。姫瑠を抑えるのに三名を残し、残り五名で『氷炎のナナセ』の周囲を取り囲む。 「十人相手に一人じゃ、ちょっと足りないところだったんだ。お姉さん凄い美人じゃん」 へっへっへ、と怪しげな笑いを見せる男達。一方の『氷炎のナナセ』は微動だにしない。 「おやおや、ここへ来て怖気づいたかぁ?」 ポン、と一人の男が、『氷炎のナナセ』の肩に手を乗せた――その時。 「がほっ!?」 『氷炎のナナセ』はその手を掴み、一気に引き寄せ、腹部に膝蹴りを一発入れ、 「ごはあぁ!!」 少し前かがみになった男の顔に、ハイキック。――二秒で一人がノックアウト。 「こ、こいつ! 喧嘩慣れしてやがるぞ!」 残り四人のうち、リーダー格を残した三人が同時に襲い掛かるが―― 「ぶはぁ!!」 「ぎゃはあ!!」 「ぐああ!!」 ――各一人二秒、合計六秒での三人ノックアウト。 「だらしないね。女一人に喧嘩も出来ないのかい?」 「クソッ、馬鹿にしやがって!」 リーダー格の男はそう吐き捨てると、背中から何かを取り出す。 「……あんた、魔法使いだったのかい?」 男が取り出したのは、マジックワンドだったのだ。 「ああそうだよ! 俺は魔法使い。何とClassはAだ!」 「へえ、そりゃ凄い」 軽く馬鹿にしたような口調で『氷炎のナナセ』は答える。――彼女がClass
A相手にも動じない理由は二つ。一つは、彼女自身が強者を相手にすることをまったく恐れないこと。そしてもう一つ。目の前のClass
Aの男からは、Class
Aの実力分の魔力、オーラは感じられず、持っているワンドも初歩的な品――つまり、ハッタリであることがバレバレだったのである。 「へっ、一般人に使うのはどうしようかと思ってたんだがな、こうなったら仕方ねえ! 思い知れ!」 一方の男は、目の前の女が、『氷炎のナナセ』――レベルの高い魔法使いであることを知らない。魔法を見せて、軽く脅せば何とかなるだろう。そんな浅はかな考えからの行動だった。 だが――それは、大きな間違いだった。 「!?」 魔法を放とうとするが、放てない。それどころか、体が動かない。――男は、その場で硬直してしまう。 「おや、どうしたんだい? 見せておくれよ、あんたの凄い魔法」 「な、な、何だ、これ……!? 何だよ、おいっ!?」 目の前には、挑発的な笑みの女がいるだけ。なのに、急に体が動かなくなる。――威圧され、行動を制限されていること自体に、男は未だ気付いていないのだ。 「見せてくれないなら、あたしが見せてあげようか」 その一言を放った瞬間、『氷炎のナナセ』の周囲の空気の流れが変わる。――そこで、やっと男は気付く。目の前にいる女は、普通じゃない。只者ではない、と。大きな間違いである、と。 「お、お前、一体……!?」 だが時既に遅し。 「説明したじゃないか。通りすがりの誘拐犯だって」 一歩一歩、ゆっくりと『氷炎のナナセ』は男に近付いていく。 「や、やめろ、こっちに来るな!」 威圧され硬直したままの男は、逃げることが出来ない。 「最初の威勢はどうしたんだい? そこの娘と一緒にあたしもどうにかするつもりなんだろ?」 「あ……あ……あああ……っ……!?」 ドサッ。――男が倒れる。 「……情けないねえ。まだ何もしてないじゃないのさ」 ……結局、『氷炎のナナセ』の威圧に耐え切れなかったのである。――はぁ、と意識のなくなった男にため息を投げかけると―― 「ひいっ!?」 『氷炎のナナセ』は姫瑠を拘束している三名をジロリ、と睨む。 「一分以内に、気絶してる奴ら含めて、あたしとそこのお嬢ちゃんの視界から消えな」 「は、はいっ、只今!」 サササッ、と残った三名は姫瑠から離れ、倒れている男達を運び出す。 「残り十五秒」 「ひいいいいい!?」 ……などというやり取りをしている間に、男達は消え、公園には『氷炎のナナセ』と姫瑠、二人だけになる。 「あの……助けていただいて、ありがとうございました」 「まったくだよ。――第一、お嬢ちゃんもお嬢ちゃんさ。こんな時間にこんな所で一人で。襲ってくれって言ってるようなもんさ」 「……すみません。後は、一人で大丈夫です」 「ま、いいけどね。あたしも偶々助けただけだからさ」 姫瑠はペコリ、と頭を下げると再びマジックワンドを手に持った。そして―― 「……何してんだい、お嬢ちゃん。まさかとは思うけど――」 「もう、一人で大丈夫ですから」 そう告げる姫瑠は、明らかに魔法の練習の続きをしようとしていた。 「あんた人の話聞いてたのかい? それともそんなにあんな馬鹿な連中に襲って欲しいのかい? いいから今日はやめて帰りな。大体お嬢ちゃん、もうほとんど魔力も残ってないだろ?」 実を言えば『氷炎のナナセ』が見つける随分前から、姫瑠はこの公園で魔法の練習をしていた。ほとんど魔力など残っていないのである。代わりに彼女が持ち合わせているのは疲労ばかり。 「わかってます。全部わかってます」 それでも姫瑠は、練習を止める様子を見せない。 「でも、時間がないんです」 「……時間?」 「私の気持ちが、想いが本物だって証明するには、絶対に勝たなきゃいけないんです……それしかないんです……私には、私にはもう、これしかないんです! こうするしか、方法がないんです!」 「…………」
『……おーい、お嬢ちゃん、俺の話聞いてた? もうやめときなって。ボロボロじゃん』 『ああもう、五月蝿いんだよ……!! 大体助けて欲しいなんて言った覚えもないし、恩着せがましいこと言ってくるんじゃないよ!!』 『いや別に感謝して欲しくて助けたわけじゃないから。俺が勝手に助けただけだから』 『だったら放っておけばいいだろ!? あたしが何しようとあたしの勝手だよ!』 『そりゃそうなんだけどさ……いやほら、何でそんなに切羽詰ってこんな所で魔法の特訓せなあかんのかと』 『……あたしには、もうこれしかないんだ』 『……へ?』 『あたしには、あたしにはもうこれしかないんだよ! こうするしか、もう方法がないんだよ!』
「…………」 『氷炎のナナセ』が少々思い耽っている間に、気づけば姫瑠は本当に魔法の練習を再開していた。 「うっ……!」 バシュッ!――だが数秒後、不意に大きなフラッシュ。疲労からか、姫瑠は自らの魔法すらコントロール出来なくなり、軽く暴発させてしまったのだ。 「……っ……」 そしてそこで魔力を使い切り、前述したような身体の疲労も重なり、フラリ、と倒れてしまう。 「って――おおっと」 ガシッ。――寸での所で気付いた『氷炎のナナセ』は慌てて姫瑠の体を抱き抱える。……既に、姫瑠の意識はなくなっていた。 「ミッション・コンプリート」 そう呟く。そう、彼女の目的は姫瑠の誘拐。今ターゲットである姫瑠は気絶。意識なくもたれ掛かっている。まさに誘拐して下さいと言わんばかりだ。このまま連れていってしまえば、それで終わり。 「……困ったねえ」 そう、終わりなのだが――その一言が、先ほどの「ミッション・コンプリート」よりもかなり現実味を帯びた一言になっていた。 「はぁ……」 何とも言えないため息が、寂れた公園に、静かに響き渡るのだった。
<次回予告>
「確か私……公園で、変な人達に襲われて……助けてもらって……?」
そして翌朝のこと。 目を覚ました姫瑠。だが視界に広がるのは、見覚えのない景色で。
「奴の通り名は『氷炎のナナセ』! 俺はこの女に真沢殿に関して訪ねられたので疑問を持ち、 追求した結果戦闘になったのだ! この女は、真沢殿を狙う刺客だ!」 「え……?」
ついに遭遇、雄真と『氷炎のナナセ』。 果たしてその時雄真は、そして相手が選んだ行動とは!?
「――ああ、うん」 「?」 「まだまだ未熟だけど……でも、いい目してるよ、坊や。気に入った」
そしてその結果巻き起こる、予想外の騒動。 それは――
次回、「彼と彼女の理想郷」 SCENE
18 「さよならの誓い」
「あんたらはあたしのことを何も知らないからそんな脅しが出来るのさ」 「……何?」
お楽しみに。 |