「――でね、駅を降りて右手に見えるお店でね……」 「ホントにー? いいなあ、私もそういうの興味ある」 ――ダンス対決翌日の朝の登校時。俺の前方では準、すもも、姫瑠が女の子トーク全開で仲良く歩いていた。 「…………」 数歩遅れて続く俺から見て、昨日のことがあったせいか、姫瑠の雰囲気が少しだけ――具体的に何処がどう、って聞かれると困るけど――何か変わったような気がする。何て言うか……自然体になったというか。 「何となく、今日からは色々上手く行くような、そんな気がするな」 「ハハハ、そうか。――まあ我が主のナチュラルな女たらし成分のおかげだな」 「……もうちょっと違う言い方出来ませんかクライスさん」 っていうか俺は女たらしの自覚が……いや、だからクライス曰くナチュラルになのか。――と、そんな俺の視線に気付いたのか、姫瑠が振り返る。 「どうしたの雄真くん。――あ、もしかして、私と手を繋いで登校したい、とか? もう、言ってくれればいいのに!」 と、スタスタと歩み寄ってきて当たり前のように俺の手を取ろうとするので急いで回避。 「もう、恥かしがりやなんだから……あ、そうだ。口で言うのが恥かしいなら、手の甲をこつん、って合わせるのが手を繋ぎたい意思の合図にしよう?」 「何そこで一人純愛ストーリー奏でようとしてるんだよ!」 俺がツッコミを入れると、軽く笑って姫瑠は再び前方に戻り、すももと女の子トークを再開。――と入れ替わりに、さり気なく準が俺の横に並んだ。 「? どうした?」 「雄真、昨日姫瑠ちゃんと何かあった?」 「何かあった……って、どういう意味だ?」 「一皮剥けたっていうか……昨日よりも可愛らしくなってる気がするもの」 鋭いなおい。 「俺は知らないし、仮に何かあったとして何故俺が関わってると決め付ける」 「女の感ね」 「そうか、ならお前は男だから嘘――うおぅ!? いきなり鞄で殴ろうとしてくるんじゃねえ! 間違ったことは言ってないだろ!」 「だとしても、言っていいことと悪いことが世の中あるのよ」 「……ったく」 しかし、準もあっさり気付いたか……どうやら俺の気のせいではないらしい。確かにパッと見、昨日までの姫瑠と大きな変化はないのだが。 「お前に知ってもらうことで、心の方に余裕が出来たんだろう。本人も無意識の内にな」 「心の方に余裕、か」 成る程、上手い表現だった。――これで、今度こそ、少しは落ち着いてくれるかな、姫瑠も。 ――などと考えていると、校門前に到着。春姫との合流地点だった。それはつまり春姫と姫瑠が朝、初めて顔を合わせる場所でもある。 要約すれば――戦場なのだ。先日も――
『雄真くん……私、別れるなんて出来そうにない! 私は雄真くんが居ないともう生きていけないの! 絶対に離れないから!!』 『何目を潤ませて紛らわしい台詞言ってるんだよ!! ここで別れたってどうせ教室で会うだろ!?』 『そんなの残酷じゃない! 雄真くん、はっきりして! 私と姫瑠、どっちを取るの!?』 『両方お前じゃん!?』
なんてことがあって、まあその後春姫が爆発するわ、俺はいい見世物になるわ。朝からウンザリな日だった。さて今日は何が起こるのかな、と思っていると…… 「おっと、朝の私の独占タイムは残念ながら終了か」 と、そう言いながら俺と春姫を置いていくように姫瑠が数歩先に出て、くるっと振り向いた。 「それじゃ、また後でね、雄真くん。待ってるから。――あんまり待たせると、窓開けて雄真くん大好きって叫んじゃうからね」 「やめい!! マジでやめい!!」 俺がツッコミを入れると、あははっ、と笑いながら姫瑠は行ってしまった。――特に激しい衝突とかそういうのがなかった。何だか拍子抜けだ。――で、 「雄真くん……姫瑠さんと何か、あったの?」 横の春姫は思いっきり俺に疑いの目を向けてきてたりするわけで。――姫瑠、お前落ち着いたら落ち着いたで俺を苦しめるんだなオイ!!
彼と彼女の理想郷 SCENE 7 「Little love
confession」
「……うーん」 やがて放課後。どうも一日しっくりこないまま終わってしまいそうだ。――無論姫瑠のことだ。具体的に、大きく何かが変わってるわけじゃない。わざとらしいアプローチは相変わらずだし、あからさまに春姫に対抗心を燃やすのも相変わらずだったし、その延長戦で二人で火花を飛ばしあうのも相変わらずだったのだが……何かが違う。 他の友人達もそれは感じたようで、二時限目の後の休み時間には 「雄真、姫瑠と何かあったの?」 と柊に聞かれ、三時限目の後の休み時間には 「あの……小日向さんと真沢さん、何かあったんでしょうか」 と上条さんに聞かれ、更に更に昼休みには 「雄真殿、もう直ぐ熊が冬眠から覚める頃だろう。次の休みに共に熊狩りにでも出ないか?」 と信哉に誘われ――いやこれは全然関係ないな。……とにかく仲間内にも姫瑠の微妙な変化は伝わっているようで。 「それじゃ雄真くん、急いで行ってくるから、下駄箱でね」 「あ、おう」 と、春姫が急いで教室を出て行く。――今日は放課後、行きつけのカフェで行われている苺スイーツのフェアに一緒にいく約束をしていて、少々職員室に用件があった春姫とは下駄箱での待ち合わせだった。――わざわざ下駄箱にしなくても教室で待ってるよ、と言ったのだが、 「場所を変えた方が……その、デートの待ち合わせみたいで、嬉しいから」 とか言われた日にはもうそれに従ってしまう俺がいるわけで。 「雄真、台詞を間違えるなよ? 春姫が来たら、「俺も今来たとこ」って言うんだぞ?」 「――そこまで無理してベタベタな展開を作り上げる必要性もない気がするぞ俺」 とか言いつつも何だかんだで俺のテンションは上がり気味だった。いや言わないけどさ。 「ふーん、これから春姫とデートなんだー」 と、そんな時俺の背中からちょっと探るような口調が聞こえてきた。――まあ当然姫瑠だ。 「いいなー、私も雄真くんと苺のスイーツ、食べに行きたいなー」 「――流石にこれは妥協しないからな。明らかにデートになるし。何言って来ても二人っきりで苺のスイーツ食べに行くとかは駄目」 っていうか春姫のことだ、二人っきりじゃなくても嫉妬してくる可能性あるし。 「よし、今度苺大福を買ってきてやろう。それで我慢してくれ」 「……あっそう、そうやって子供扱いして誤魔化すんだ。それならいいもん、今日二人の後こっそりつけ回すから」 「な……ちょっ、待てお前、それ卑怯だぞ!?」 そんなことされたら春姫の機嫌がまた悪くなってまた余計な問題が起きて拗れるだけじゃん!!……とか思っていると、 「あははっ、流石に冗談だって。――確かに雄真くんが春姫とデートするのは悔しいけど、でも私、雄真くんには嫌われたくないから、嫌な女にはなりたくないから。それにね、今日は準と駅前で遊ぶ約束してるの。だから、どっちにしても無理だから。だから安心して」 と、姫瑠が笑いかけてくる。――いや本気でやりかねないからな、姫瑠なら。助かった……と言うべきなのか? 「私はね、正門で待ち合わせなの。だから、下駄箱まで一緒に行こう?」 「ああ、まあそれなら」 既に鞄を持っていた姫瑠と共に、俺も自分の鞄を持って、下駄箱へ。靴を履き替えて、お別れの時間。 「それじゃ雄真くん、また小日向家でね」 「おう、そっちも楽しんでこいよ」 俺がそう告げると、姫瑠は歩き出す。――が、 「雄真くん」 三、四歩進んだところで、不意にこちらに振り返り、俺の名前を呼んだ。――その瞬間の姫瑠の不思議な笑顔に、何故かドキリとする。 「私――雄真くんのことが、好き」 「……え?」 俺のことが好き……って、 「お前、何を今更――」 「私は……真沢姫瑠は、小日向雄真くんに、恋を、しました」 そんなの言わなくたって知ってるよ、という言葉を遮られてしまい――更にはその姫瑠の何とも言えない雰囲気に、俺は言葉を失っていた。 「勿論、雄真くんには春姫がいて、雄真くんにとって春姫はとても大切な存在で、春姫にとっても雄真くんは本当に大切な存在で、春姫は可愛い素敵な女の子で、後からやって来た――ううん、正確には早くに出会い過ぎた、そして再会が遅すぎた私には、もう勝算なんてほんの一欠けらしかない」 何が……何が、言いたいんだよ、姫瑠……? 「でもね、私、諦めない。一パーセントでも可能性がある限り、頑張るって、決めたからね」 そんなの、以前から、散々言ってきたことだろ? どうして、今この場で? 「私は、雄真くんのことが好き。大好き。嘘じゃないからね? 胸張って、何度だって言えるから。――それじゃね!」 「――あっ」 気付けば、姫瑠は笑顔で手を振って走り出していた。――俺はただ、呆然とその後姿を見送ることしか出来なかった…… 姫瑠、お前……本当に、どうしちゃったんだよ……?
「はぁ、はぁ、はぁ……はは、あははっ」 全力でダッシュして到着した校門前。準はまだ来ていない。私は、息を整えながらも、つい笑ってしまった。 「雄真くん、驚いてたなあ……」 驚くのも無理はないだろう。私が雄真くんのことが好きだなんて、日本に来てからもずっと伝え続けてきたようなものだ。あらためて、あんな雰囲気で伝えたらそれは驚くと思う。私は雄真くんが好き。そんなの、確認するまでもなかった。 でも――言いたかった。言っておきたかった。どうしてだろう? 「……ああ、そっか」 そこで気付く。私、雄真くんのことが好きだからだ。――言ってることが矛盾してるな私。でも、それ以上にいい表現が見つからない。 私は、雄真くんが好きだから、好きだと伝えた。たったそれだけのこと……のはず。なのに……伝えることで、口に出すことで、心の何かが、変化を見せていた。 「真沢姫瑠は、小日向雄真くんに、恋をした、か」 自分で言った言葉を、思い起こしてみる。同時に、少し心臓の鼓動が早くなった気がした。 「まいったなぁ……日に日に、雄真くんが大きくなっていくよ」 私は、そこで大きく息を吹く。――準が来るまでに、落ち着いておかなくちゃ。 雄真くん。――大好き、だからね? 本当に、私、あなたのことが、大好きだからね。
春姫との放課後デートを堪能し、寮まで送り届けた後、我が家への帰り道。一人になると……どうしても、下駄箱での姫瑠とのやり取りを思い出してしまう。
『私――雄真くんのことが、好き』
そんなことはわかってる。好きだからアプローチしてくるんだろうし、好きだから春姫に対抗意識を燃やすんだろうし。あらためて言う必要のあることだったのか? しかもあんな場所で、あんな……穏やかな表情で。 「念の為に確認なんだけど、クライスは理由とか、わかるか?」 「ふむ。――まあ、大体の予測はつくな」 「……マジですか」 「というか……私に言わせれば、あれだけの経緯があったにも関わらず理由がわからんお前が信じられんのだが。わざとじゃあるまいな?」 「すいません、素です……」 これはあれか。俺だけがわかってないパターンか。 「ここでクライスに理由を尋ねるってのはタブーなんだろうな」 「まあな。お前自身が自分の力で気付かなくては何の意味もない話だ」 やっぱりか。――つい俺は軽くため息をついてしまう。どうもこういう話は俺は駄目だな。 「……姫瑠、か」 あらためて、姫瑠のことを俺自身がどう思っているのか、ちょっと整理してみることにした。――再開した当初こそよくわからない暴走箇所も沢山あって何だよコイツ、と思う時の方が多かった。でも少しずつわかっていった本当の姫瑠は、一生懸命で優しくて少しだけ繊細な、普通の女の子だった。――いや、普通じゃない。一人きりの孤独と戦ってきた、寂しさを抱える女の子でもあった。 「――あ」 そこで俺は気付く。三学期終了後、俺が最終的に春姫を選んでしまうのは無論間違いないのだが、そうなると姫瑠はどうなってしまうのか。――結論を言えば、彼女はアメリカに帰ってしまう。そういう約束で、一ヶ月俺の家に居候しているのだから。 だが……本当にそれでいいんだろうか? 昨日俺は、姫瑠が日本に来たがっていた本当の理由を知ってしまった。俺が春姫を選び、そのまま姫瑠がアメリカに帰ると、結局姫瑠は元の生活に戻るだけになってしまう。また姫瑠は一人ぼっちになってしまうのだ。そんな終わり方でいいんだろうか。 同情で姫瑠は選べない。さっきも考えたように、俺は春姫を選ぶ。でもその上で、姫瑠の問題も解決出来る方法はないんだろうか? 姫瑠さえ望んでくれるなら、俺は姫瑠を見捨てたくは無い。本当の意味で、彼女の理想郷を作る手伝いをしてやりたい。――幸せになる権利は、誰にだってあるのだから。 「……まあ、春姫には怒られるかもしれないけど」 もうちょっとしたら色々確認してみよう。姫瑠の家のこととか、本人の気持ちとか。……と、決意を固めた時だった。 「あ、兄さん」 その声に振り返ると、すももがトテトテとこちらに向かって軽く走ってきた。――どうでもいいが相変わらず移動が遅いなすももは。 「お前も今帰りなのか?」 「はい、今日はちょっと本屋さんの方に用事がありまして、ついでに色々見て回ってたんです」 「そっか」 俺達は並んで、我が家へと再び歩き出す。 「なあ、すももはさ」 「はい、何でしょう?」 「……いいや、何でもない」 「?」 すももに姫瑠のことを聞いてみようかと思ったが、なんとなく憚られた。他の人に意見を求めるのは、もう少し、俺一人で考えてまとまってからにするか。――そんなことを、思った時だった。 「――っ!?」 不意にドン、と俺に圧し掛かってくる威圧感。何の前触れもなく俺を襲うその感覚に、一気に俺の体は硬直してしまう。――何だ、誰だ、何処から――!! 「雄真っ!!」 「!!――ディ・アムレスト!!」 クライスの呼びかけで一瞬硬直が溶けた俺は、無我夢中でレジストを展開させた。直後に俺を襲う、高速な魔法球。 「くうっ……!!」 バァン!!――レジストのおかげで大したダメージはなかったものの、その衝撃で俺は数メートル、吹き飛ばされてしまった。 「に、兄さん……!?」 その声にハッとすると、すももが何が起こったのかわからない、といった様子で唖然としている。よかった、すももに怪我はない。すももには……? 「っ!! すもも、逃げろ!!」 「え? え?」 馬鹿野郎俺、安心してる場合じゃない! 今一番危険なのは俺じゃない、魔法が使えないすももだ! 「早くっ!! 今すぐだ、走れっ!!」 「で、でも、兄さんが!!」 「俺は大丈夫だ! このままお前がここにいたら、お前も巻き添えになる!!」 「そんな……に、兄さんを置いてなんて……」 「いいから行け!! 急げ!!」 「っ!!」 異常事態を察したすももが、その場から走り出す。一緒に逃げる、というのはあまりにもすももが危険過ぎる。誰が何故俺達を襲ってくるのかは検討もつかないが、俺がこの場で食い止めるしか、方法がない。 すももが走り出す。と同時に、俺の視界に入り、ゆっくりと近付いてくる、二人の人。 「あの程度でこんなに焦ってくれるとはな。もっと凄え奴を想像してたんだが、大したことねえのか」 「まだわからないわ。油断は禁物」 はっきりと俺の視界に映る二人の人。一人は若い男の人でバンダナを鉢巻状にして頭に巻いている、ちょっとくだけた感じの人、もう一人は若い女の人で、金髪で目の色も違う、恐らくは外国人だ。男の人とは違い、身だしなみもきちんとしている。――無論俺には見覚えがない。襲われる理由もないはず。 「お前が「コヒナタ」だな?」 「な――何で俺の名前を……あんたら何者だ! 何で俺を攻撃してきた? 悪いけど俺はあんたらに襲われる筋合いなんて」 「なら、一応自己紹介しておくか。――『ナンバーズ』NO.W、瀬良孝之だ」 「同じく、『ナンバーズ』NO.X、クリスティア=ローラルド」 「ナンバーズ……!?」 そんな自己紹介されても、結局のところ俺には何もわからない。多分あの『ナンバーズ』に意味があるんだろうけど、聞いたこと無い。……宝くじじゃあるまいし。 「とぼけたフリとかは結構よ? あれだけのことやらかしてくれたんだもの、『ナンバーズ』を知らないわけがないわ」 「ったく、テメエがやらかしてくれたせいで、俺達どれだけ苦労したと思ってんだ? カーナビは壊れるわ、タイヤはパンクするわ、エンジンはいきなり止まるわ、その度に修理してきた挙句車ごと爆破されちまうしよ。その後は公共の交通機関だったんだが、田舎なんてバス二時間に一本しか来ねんだぞ? 待ってる間に雨降ってくるわそんなバス亭に限って屋根がないわ」 「――タカ、そういう話は別にいらないから」 女の人の方が呆れ顔で軽くため息をついた。 「とにかくだ、テメエが大人しく従ってくれるってんなら、こっちも強引な手段には出ないで済むんだが?」 つまり、脅迫だ。――俺は、覚悟を決める。 「ふざけんな」 「――何?」 「いきなり攻撃してきて、わけのわからない名前出されて、身に覚えの無い話をされて、大人しく従え、なんて勝手なこと言う奴らの言うことに素直に従うほど、俺は落ちぶれちゃいない」 自分が不利なのはわかってる。でもこんなの、納得出来るわけがない。 「そう。――残念ながら、交渉決裂ね」 そう言い放った瞬間、再び俺を鋭い威圧感が襲う。――痛い位にわかる。目の前にいる二人は、相当のレベルの使い手なんだろう。 「どうするクリス、あれなら二手に別れるか? 逃げたのが一人いたみたいだろ」 「な――」 「とりあえず、彼をどうにかしましょ。私達をバラバラにする相手の作戦かもしれない。逃げた方は、彼を抑えてからでも十分間に合うわ」 「…………」 奴らの話が終始何の話だかわからなかったが、今一つだけわかる、とても大きな事実。――俺がこいつらに負けた場合、すももが狙われる。すももが危険な目に遭う。そんなのは許されない。そんなのを――許すわけにはいかない。 「――クライス」 俺は背中のクライスを手に持ち、前方に構える。 「何時まで経っても、一人じゃ何も出来ない、弱くて、情けないマスターで、本当にごめん」 「……私に言いたいのは、謝罪だけか?」 「違う。――頼みがある」 それは、今の俺に出来る唯一のことで―― 「使わせて欲しい。お前の力を貸して欲しいんだ」 尚且つ、今の俺に出来る、最大の技。 「使うということが、どういうことか、わかっているか?」 「わかってる。――理由とか、言いたいこととか、色々あるけど、そんなことよりも一つだけ。――すももを、守りたい」 だってあれは――俺が、俺自身が、大切な人を守る為に手に入れた力だから。 「ここですももが傷ついたら、俺はすももを傷つけた奴よりも、守りきれなかった自分がきっと許せない」 「……ふむ」 「頼むクライス。――俺に、すももを、大切な家族を、守れるだけの力を貸してくれ。説教なら後でいくらでも受けるから」 「わかった。――いいだろう、今回だけ許可する」 「悪い、助かる」 「気にするな。――お前の理由はもっともだし、何より私個人としても相手のやり方は少々気に食わなかったところだ」 クライスの許可が下りると同時に、俺は詠唱を開始する。 「リライズ・ディメンティオン・オン・レイズ」 俺の詠唱が開始されると同時に、俺の足元に魔法陣が生まれ―― 「ディ・アムレスト・ウェルファン」 少しずつ、俺を不思議な光が包んでいく。 「チェイン・ソフェアス・エスタリク――」 次第に俺を覆う、心臓が揺さぶられるような衝動。一気に苦しくなる。――二回目とは言え、慣れない。 でも――俺は、戦える。大切なものが守れるなら、俺は――!! 「アルザーク・ゼンレイン・オル・アダファルス!!」
<次回予告>
「どうしたの!? 変な人に襲われた、とか!?」 「兄さんが……にいさんがぁ……!! わたしだけ、わたしっ……」
突如として破られてしまう平穏。 何故、彼らは雄真を狙うのか?
「――気付くのが、遅い」 「な――っ!?」
決死の思いでマインド・シェアを発動させる雄真。 二対一の戦い、雄真の勝機は? 彼らの実力は?
「姫瑠、もういいから」 「雄真くん、でもっ」
そして、戦いの先にあるもの。それは――
次回、「彼と彼女の理想郷」 SCENE
8 「グッバイロンリーデイズ」
「わかってる。その為に「彼女に」わざわざ来てもらってるんだ」
お楽しみに。 |