「とおくと〜お〜く〜どこまでもとおく〜♪」 アコースティックギターの音と共に、その歌声は車内に響き渡った。――が、 「はいはい、流れる川とかどうでもいいから、現実逃避は終わりにしたら?」 という一声でバッサリと止まってしまった。 「――っていうか何でお前この歌知ってるんだよ。いや知ってる俺もあれだけど」 「いい歌じゃない。二人の定め知らぬ川は――」 「やめよう。歌はよくないな。何かマズイ気がする。権利とか」 「――は? 権利……?」 疑問顔のクリスを他所に、タカは持っていたギターを後ろの座席に追いやった。 ――カーナビ故障から数日。話し合った結果、地図を買う位はいいんじゃないかという妥協案に達した二人は大人しく本屋で地図を購入。お陰で現在地が何処だかわからない、ということはなくなったのだが―― 「おう、地図によるとこの道を右に曲がると三百メートル先あたりからみかん畑があるぞ」 「いいわよ、ヤケクソになっていちいち報告してこなくても。――っていうかこんな夜更けにみかん畑に行って何しようってのよ」 以前として、「目的地」は見つからぬまま。クリスが言ったように、本日も夜遅くまで走行中だった。 「そういえばタカは日本に戻ってくるの、何年ぶりなの?」 「んー……十八の頃に出たっきりだから、もう七年か」 「そんなに? 親御さん心配してるんじゃないの?」 「してねえよ。結構喧嘩染みて飛び出しちまったからなぁ」 「そんなこと言ったって心配するのが親よ。――任務終わったら、寄って顔出していきなさいよ」 「やだよ、面倒臭え」 「怖いなら、私も一緒に行ってあげるから」 「馬鹿かお前、何が楽しくて仕事場の同僚と一緒に実家に帰らなきゃならねえ? 普通そういうので連れて行くとしたら彼女とか恋人とか、そういう類の人だろ。お前連れてった時点で確実にお袋は婚約の報告だと思っちまうぞ」 「私が……恋人になるわけ?」 「どう考えたってそうだろ。おふくろにしつこく聞かれるぜ? 『何処で知り合ったの? 彼女の何処が好きなの?』ってな」 「で、それを――どう答えるわけ?」 「俺も一生懸命最初は否定するんだけどな、全然おふくろが相手にしてくれないから仕方なくある程度の質問には答えてやるわけよ。向こうでの職場で知り合った。仕事上一緒に組んで仕事しなきゃいけなくなって、全然俺と考え方とか違う癖になんとなく根っ子っていうか、根底にあるものは凄い似てる奴で、お節介で人の世話をいらねえって言ってるのに焼こうとしてきて、いらないって思うけどそのお節介がそこそこ心地よかったり出来て、知らない間に傍にいるのが当たり前になってて、近くに居てくれると安心出来る奴、で……?」 「…………」 や、やばい、何を口走ってるんだ俺。――タカは一生懸命脳内を整理整頓、精神統一を図ろうとした。ちなみに余談だが、二人はそういう間柄では「まだ」なかった。 「……えーと、タカ、その、つまりね、私」 「いやーしかし今日はいい天気だなおい! 澄み切った暗黒の空!」 「――いい天気なのに暗黒の空なのはどうなのよ」 照れが入る二人、強引なタカの話題転換。――車内はなんともいえない空気が漂っていた。――と、そんな時だった。 「――ん?」 「あら……こんなところで何かしら」 道の先には、警察官が四人。この車に止まるように合図を出していた。 「――何でしょうか?」 大人しく車を近くで止め、クリスは顔だけ車から出してそう尋ねた。 「すみませんね。実はこの近辺にコンビニ強盗犯が逃走中でして。疑っているようで申し訳ないですが、車内のチェックをさせてもらえませんか?」 「そうですか、そういうことでしたら。――タカ」 「へいへい」 二人はシートベルトを外し、車を降りた――その時だった。 「――アイゲラ・レンディー・クェンザ」 「――っ!?」 ドォン!!――同時に開始された四人の警察官の「詠唱」により、地雷式の魔法が発動、激しい爆発が起こる。 「任務完了」 先ほどクリスに話しかけた警察官が、そうニヤリと笑いながら呟いた。――が、その直後。 「へえ……テメエらの任務は、その辺適当に爆発させりゃ終わりなのか。随分楽でいいなオイ」 「それとも、まさかとは思うけど、今ので私達を「始末」したつもりだったのかしら?」 「――!?」 その声にハッとすると、丁度四人を挟み撃ちにするような立ち位置に、タカとクリスは立っていた。その様子からに、先ほどの爆発のダメージはまるで見られない。 「少なからずこういうやり方で消そうってんだ、俺達が何者だかは重々承知済みってことか」 「となると、私達「ナンバーズ」も随分と舐められたものね」 「まあいいけどな。今から嫌ってほどに俺達の実力を思い知らせてやるだけだし」 「そうね。――ああ、安心してくれる? 聞きたいことがあるから、「殺したりは」しないから」 その言葉を封切りに、鋭い威圧が四人を襲う。急いで身構える四人。躊躇なく戦闘は開始された。 単純な計算で行くならば、二対四。どう考えても一人で二人を相手にしなければならないタカとクリスが不利である。――だが、戦況は次第にタカとクリスが襲ってきた四人を追い詰め始めていた。無論個々の能力の差というのも理由の一つだが、更なる理由にタカとクリスのコンビネーションの良さがあった。闇雲に目の前の敵と戦うのではなく、時折戦闘相手をチェンジしたり、時折同時に同じ相手を攻撃したり、時折相手のサポートに回ったりと、無駄のない動きは二人の戦力指数を確実に上げていたのである。 そしてわずか数分で、二人は襲ってきた四人を追い詰める形となった。 「さて、と。俺らの実力も判明した所で、あらためて洗いざらい語ってもらうかね」 そう言って、タカが数歩歩み寄った時だった。四人の内、一人が何か球体の物を取り出し、ガッ、と握りつぶした。――その瞬間。 「――っ!!」 パッ、と激しい閃光が走る。一瞬視界を奪われるタカとクリス。二人が再び目を開けると―― 「――チッ」 四人の姿は無く――タカの舌打ちだけが虚しく響いた。 「使い捨ての転送魔法が込められた道具ね。――敵ながらいい品持ってるわ」 「安くはねえだろうな。――ったく、こっちは備品節約がモットーにされちまってるのに、羨ましい限りだぜ」 二人は緊張を解き、ふぅ、と息を吐いた。 「にしても――こうもあからさまに行動に出られるとは、な」 「そうね。隊長が私達をわざわざよこしたのもわかるわね、今なら」 「でも、俺達を狙ってきた、ってことは……」 「向こうも見つけてはいない」 「だな。――早目に見つけないと、洒落じゃ済まなくなってくるな」 「ええ。早速――」 と、そこでクリスの台詞が不意に止まってしまう。 「? おい、どうしたよ?」 「ねえ……あれ」 「うん? あれって――」 クリスが促す先にあったのは、最初の爆発でバッチリ大破していた一台の車。――無論、二人が移動に使っていた車であった。 「うおおおぉぃぃ!! マジですか!? まさかこの先は徒歩で行けと!?」 「はは……あはは……」 一つの叫びと、一つの乾いた笑いが、深夜の田舎道に、悲しく響き渡ったのだった。
彼と彼女の理想郷 SCENE 5 「IT'S
HOLIDAY」
日曜日。それは最愛の彼女、春姫とデートだったり、そうじゃない日は遅くまでゴロゴロしたり、とにかく俺にとっては癒しの一日だ。――だが。 「はい、全員せいれ〜つ! 番号!」 「一!」 「二!」 「…………」 気付けば早朝から叩き起こされ、気付けば朝食を無理矢理食わされ、気付けばここに整列されられていた。何だこれは。――余談だが今日の日曜日は後者、デートじゃなく俺の中では遅くまでゴロゴロデーの予定だったはず。 「あ〜! 兄さん、どうして返事しないんですか?」 と、俺に詰め寄ってくるのは隊員番号一番のすもも。 「そうだよ雄真くん、こういうのは始めが肝心なんだから!」 と、俺に詰め寄ってくるのは隊員番号二番の姫瑠。――何するのか知らないけど何をしたとしても何故俺よりも彼女の方が番号が上なんでしょうか。大きな疑問だ。 「わかった、雄真くん「ツンデレ」に目覚めたんでしょ!」 と、よくわからない結論を導き出すのは隊長のかーさん。――何だその結論。 「つんでれ、って確か、ツンツンしてるんだけど内面は照れている、っていう性格のことですよね?」 「雄真くん、ツンデレ好きなの? 私もやろうかなー。――べ、別に好きでこの家に来たんじゃないんだからね! 雄真くんのお父さんが勝手に婚約者に決めちゃったから、仕方なく来たんだから!」 「いやいつ俺がツンデレ好きだと」 「に、兄さんが起きてくれないと朝食が片付かないから、仕方なく起こしてあげてるんですからね!」 「いや、だからいつ俺が」 「い、家にジャガイモとひき肉とパン粉があったから、仕方なくコロッケを揚げてあげたんだから! 雄真くんのためじゃないんだからね〜」 「ええい黙れお前ら!! 俺は別にツンデレ好きじゃないって言ってるだろ!!」 何ですかこの愉快なツンデレ一家。っていうか親が息子にツンデレって。 「とにかく、何故に今こうして並んで点呼取ってるのか、要説明!」 「ふふっ、今日はね、小日向家総出で家事を行いたいと思いま〜す」 「何でまた総出……?」 大晦日の大掃除じゃあるまいし。 「もう直ぐ四月、季節の変わり目でしょ? 一度ドパーン! って掃除とかしておきたかったのよね〜」 「それで、いつがいいかって話になった時、男手が必要ってことで、兄さんがいる今日になったんです」 また余談だが、今日は春姫は急用が出来たとのことで俺が在宅に至る。 「大丈夫、微力だけど私だって頑張るから、そんなに時間もかからないで終わるよ、きっと」 と、姫瑠が俺に言ってくる傍らで、かーさんが姫瑠にはわからないように、俺に軽くウインクしてきた。 「――あ」 そのウインクで気付いた。――このイベントは、かーさんとすももが姫瑠の為に用意したイベントだ。先日の買い物係志願以降も、積極的に手伝いを志願し、小日向家に馴染もうとする姫瑠。でも姫瑠はお嬢様なので家事に関しては無知に近い。そんな姫瑠が少しでも色々楽しく覚えられるようにと用意されたイベントなのだ。何でも楽しく、がかーさんの、小日向家のモットーだから、わざわざこんなに大事にしてるんだろう。 「しょうがねえなあ、もう」 そういう風に仕向けられていては、俺としては参加せざるを得ない。ホントにしょうがねえなあ、もう。 「それじゃ、最初の分担を発表しま〜す! すももちゃんは二階の掃除から、私は一階の掃除から。雄真くんはお庭の掃除から、姫瑠ちゃんは洗濯物をお庭に干すところから。各自終わったらかーさんに報告。その際に次の仕事を指示しま〜す。では各自、仕事開始!」
「冬は雑草があまり伸びないから夏に比べて楽でいいなあ」 庭掃除担当となった俺はついそんなことを呟いていた。――夏の草むしりは地獄だ。きっと今年の夏も俺がやる羽目になるんだろうな。 「むむむ……」 傍らでは姫瑠が洗濯物と格闘していた。かーさんから干し方のレクチャーは受けたものの、かーさんのように綺麗に干せないのが納得いかないらしく、何度もやり直していた。 「姫瑠ー、無理すんなよ? かーさんは主婦歴もう長いから、ベテランだからあんなに素早く綺麗に出来るんだ。初めてで真似しようったって難しいぞ?」 「うん……わかってるんだけど、やっぱりちゃんとやりたいから」 ――先日の買い物の時も思ったけど、ちょっと失礼な言い方になるけど姫瑠は意外な程に真面目だ。最初の俺への滅茶苦茶な態度しかイメージになかっただけに、驚きだった。 「あ、雄真くんのTシャツ」 真面目というか、一生懸命というか、 「今度は雄真くんの靴下」 一生懸命というか、真っ直ぐというか、 「あ……ゆ、雄真くんの、パンツ……どうしよう、匂いとか確認した方がいいかな……?」 「何処の変態だお前は!?」 「だ、だって、ちゃんと洗濯されてるかどうかの確認を」 「何であえてパンツでやるんだよ!?」 なんというか、なんというか。――何を思ってたか俺も忘れちまったわ、今ので。 「でも、こういう風景っていいよね。朝、庭で物干し竿に洗濯物を干すって。日本の家庭、って感じがして」 「そうか? 俺はほぼ毎日見かける光景だから言われてもピンと来ないけどな。逆に俺はお金持ちの人達の暮らしの方に興味あるな。毎日何して過ごしてんだろ、とか。少なくともこういう風景はない生活なんだろ?」 「そうだね。確かに窓から見える景色に物干し竿は見えないけど、特別なことをしてたわけじゃないよ? 勉強したり、本を読んだり、音楽を聴いたり。やってることは普通」 「そっか」 まあ、実際はそういう感じなんだろうな。 「そういえば雄真くん、私と春姫の対決、第二回戦の内容決まったんだよ」 「……あー」 嫌なことを思い出させてくれるな、姫瑠め…… 「で? 何になったわけ?」 それでもまあ、一応確認はしないと気になるので確認はしてみた。すると―― 「ダンス対決」 「……はい? ダンス対決?」 意外な内容なものが出てきた。 「ダンス、って……ダンス?」 「うん、踊りだね」 「それで……対決? どうやってやるわけ?」 「細かい規定はなし、お互い自分が一番得意とするダンスを披露して、より多くの観客の評価を得た方が勝ち。今度閉店後のOasisを一日だけダンスホールにしてついでにダンスパーティも開くって」 まあ、あそこのお店のチーフ、お祭りごと大好きだから平気で許可するだろうな。――かーさんだけど。 「……って、もしや」 春姫は今日何処かで特訓とかしてるのかもしれない。ダンスをしてたなんて話は聞いたことないから、春姫のことだ、勝負するとなれば最低限の練習はしてくるはず。何だか急遽予定が入ったような素振りだったからな。負けたくないんだろうな、本当に。――うん? 「なあ、姫瑠はダンスの練習とか、しなくていいのか?」 そういう意味じゃ、姫瑠も猛練習とかしてもおかしくはない、と思った俺はそう訪ねてみた。すると、姫瑠はえっへっへ、と満面の笑み、自信に満ち溢れた顔になる。 「実はね、私特技がダンスなの! クジ引いてダンス対決になった時、ラッキー! って思っちゃった」 その様子からして、結構な自信があるようだ。 「アメリカでやってたのか?」 「うん。――何ていうのかな、音楽と一体になれる感覚っていうか、そういうのがズン、って心に嵌る瞬間があって、凄い気持ちいいの! それに、ダンスは一人でも出来るし」 「へえ……」 本当にダンスが好きなんだろう、姫瑠はそう嬉しそうに俺に説明してくれた。――こりゃ第二回戦は姫瑠が有利かもな。 「雄真くん、姫瑠ちゃん、そっちはどう〜?」 と、一階リビングからかーさんの声が聞こえた。 「あー、もうちょっと」 「私もです」 「オッケー、終わったらこっちの手伝い、お願いね」 イカンイカン、つい姫瑠との話の方に意識が傾きかけてた。さっさと庭の掃除を終わらせ―― 「――あれ?」 ――ようとして、不意に気になることが頭を過ぎった。
『それに、ダンスは一人でも出来るし』
さっきの姫瑠の、何気ない一言。言われた瞬間は特に何も感じなかったけど、今冷静になってその言葉の意味を考えてみると、まるで姫瑠は……ずっと一人ぼっちだったみたいな言い方だ。 「? どうしたの雄真くん――あ、私の下着の色が、気になる? そうだね、確かめるのには洗濯物を見るのが手っ取り早いもんねー」 「ばっ、違うわ!! っていうかお前も一緒に普通に並べて干すんじゃないよ!! 意識して俺にわからないような所に干せよ!!」 「気にならないんだー、この不健全」 「結論が極端なんだよ!!」 ガンガンか無反応かどっちかってどうなんだろう……って、そんなことを考えてたんじゃなくて!! 「……まあ、いいか」 今の姫瑠の楽しそうな顔を見てると、そんな疑問はあっさりと、何処かへ吹き飛んでしまったのだった。
その後も、午前中を通して総出の掃除は続いた。洗濯物を干す、庭の掃除という比較的仕事量の少なめだった俺と姫瑠は一足早く終わらせ、家の中に合流。それぞれかーさん、すももに一人ずつ援護としてついて掃除した。――のに何故か俺の部屋だけ全員集まりやがって、 「ふふっ、姫瑠ちゃん、すももちゃん、決してベッドの下とか、机の引き出しの奥とか、本棚の上とかは漁っちゃだめよ〜?」 「え……やややっぱりにに兄さんもそういうのを持ってたり持ってなかったり夜な夜な楽しんでたり!?」 「……何ですかそのあからさまに何かありますよみたいな前提トーク」 「そうだぞ音羽、我が主はそんなところには隠していない。――最近はDVDにデータ化してだな」 「やってねえ!? そういうリアルな嘘をつくなお前!!」 「雄真くん、私、信じてるから。最後にはきっと雄真くんは私のところへ帰ってきてくれるって」 「何処まで話大きくして膨らましてるんだよそこ!!」 ――などとどの辺りが具体的に掃除だったのか詳細に説明して欲しい展開が待っていた。……一応説明しておくと、ハチが持ち込んできてたのは随分前にあいつに返したから、今はこの部屋にその手のものはない。 そんなこんなで掃除は終了。現在は午後一時半、全員リビングに集まって昼食開始だ。テーブルに多めのおにぎりと簡単なおかずが並べられる。――我が家の掃除デーのシンプルな定番メニューだったりする。 「あっ、音羽さんのおにぎり、美味しい〜!」 と、満面の笑みでおにぎりを頬張っているのは姫瑠。 「あら! でもたかがおにぎりに流石に大げさよ、姫瑠ちゃん」 「ホントですよ! アメリカに暮らしてると、こういう美味しいおにぎりは中々食べられないですから」 成る程、確かにお米はあってもおにぎり、更には家庭の熟練の味がするおにぎり、というのは手に入り辛いかもしれない。 流れで、そこからはアメリカと日本のお互いの生活の話へ。俺達はアメリカで暮らしたことは勿論ないので新鮮で、姫瑠はずっと日本を離れていたので新鮮で、色々と盛り上がっていった。食事の話、テレビの話、本の話、学園の話、勉強の話―― 「――そういえば、魔法の……って言うより、魔法使いのシステムとかは日本と同じなのか? ほら、Classとかそういうやつ」 と、向こうの魔法のことが気になった俺は、そんなことを訪ねてみた。 「大体は同じだと思うよ。転入手続きをアメリカで取った時に説明は受けたけど、そんな感じだったと思う。私もClassは持ってるし」 「へえ……なら姫瑠はClass何になるんだ?」 と、不意に聞いただけだったのだが。 「私? 日本に来る一週間前にClass
Aに合格した」 普通にそう答えられてしまった――って、 「マジで!? Class
A!?」 「? 兄さん、それって凄いんですか?」 魔法に関しての知識がないすももとかーさんは驚く俺が不思議なようだ。 「Class
Bの時点で学生で取るのはかなりの難易度。俺達の年齢で合格出来る奴なんてそうそういるもんじゃない……ウチの学園でAを持ってるのは多分小雪さんだけじゃないかな」 あのほんわか小悪魔さん、何だかんだで実力は洒落にならんからな。 「で、持ってないけど実力で十分なものがあるのが伊吹、楓奈」 伊吹は式守家の人間なんだ、Classとかは無関係の世界だろう。楓奈は魔属性特質性で偏りはあるものの実力の高さは前回の事件で実証済み。――まあ、今挙げた三人は血筋あるからな……で、 「それから、俺と同学年で合格確実と言われてるのが春姫」 一ヵ月後に迫った試験での合格率は九割五分。持っているのとほぼ同じだろう。 「つまり、結論を言えば、姫瑠はウチの学園の魔法科でも多分五本の指に入る」 何で俺の周りには本当に魔法関連で凄い奴しか現れないんだろうか。――と、すももとかーさんは俺の説明に納得したらしく、「お〜」と姫瑠に対して尊敬の眼差しを見せているものの、当の姫瑠は少々不満顔。 「春姫はやっぱりレベル高いんだ」 やっぱり理由はそこか。 「雄真くんとの手を離さない魔法のキャンセルを受けた時にもしかしてー、って思ってたけど……悔しいなあ、もう」 「――俺としては、あんなシンプルなキャンセルの詠唱で実力を見抜いてる時点で驚きなんですが」 本物ですよこの人。色々な意味で恐るべしアメリカ帰りのプリンセス。 「よし、折角魔法が有名な学園に行ってるんだもん、魔法も頑張ろうっと。魔法で春姫に負けたらそれこそ言い訳出来ないから」 と、直ぐにやる気を漲らせる姫瑠。――何でもすぐにやる気が出せるのは凄いな。 「感心してないで、私個人としては見習ってもらいたいがな」 「――俺個人としては人の心を的確に読むのをやめて欲しいんですが」 ま、確かにクライスの言う通りだ。俺も試験近いし。 「雄真くんは、魔法はどうなの?」 と、俺も決意を固めていると、姫瑠にそう聞かれた。 「俺? 言い訳がましいけど俺は本格的に始めてまだ日が浅いんでな。授業の他に特訓して何とか追い付こうとしてるところ」 「特訓か……今度、一緒にやってみよう? 私、一人でずっとやってきたから、色々な特訓方法知ってるから、雄真くんのプラスになるもの教えられるかもしれないし」 「ホントか? ありがたいな、出来れば頼むよ」 と、素直に姫瑠の好意に甘えようとすると―― 「やった! 雄真くんと公式にいちゃつく権利ゲット!」 ――よくわからない方向にいきなり話が流れていた。 「雄真くんからお願いされちゃった♪ ――『俺……姫瑠と二人っきりで、魔法の練習がしたいな……そう、恋という名の魔法の』『雄真くん……嬉しい!』――そして抱き合う二人の想いは頂点に達するのであった」 「うおおおいぃぃぃ!! 何勝手に頂点に持って行ってるんだよお前!?」 しかも中身が偉く古臭い。 「大丈夫、春姫には内緒にしておくから」 「お前それさえ言えばいいと思ってるだろ! そういう問題じゃないから!」 「うーん……確かにそうかも。春姫に内緒にしてても、縮まった二人の距離は次第に春姫にはばれちゃう。察した春姫は雄真くんを人気のない崖へと呼び出して、問い詰めるの。最初そ知らぬ振りをする雄真くんも、最後には全てを告白。『ごめん春姫、俺、春姫と別れて姫瑠と一緒に生きていくよ』『そんな……それなら』『春姫……?』『あなたを殺して、私も死ぬわ!』――グサッ」 あ、俺刺された。――っておい!! 「――雄真くん、明日から制服の下に雑誌、仕込んでおこう」 「どんな結論だよお前!? しかも長いよ!! っていうかそういう話じゃないから!!」 「ハハハ、わかってないな雄真。嫉妬した女に刺されるというのは男の名誉だ」 「その手の話のお前の基準も間違ってるよ!!」 段々何の話だかわからなくなっていた、その時だった。 「――真沢姫瑠、真面目な話、一度我々の特訓に付き合ってみてくれないか?」 「クライス……?」 不意に、クライスが真面目モードに突入した。声のトーンが違うのですぐわかる。 「姫瑠は雄真の魔法をほとんど知らないだろう? 客観的に見た意見というのは参考になる。貴行が行っていた特訓というのも興味があるし、貴行の実力にも少々興味があるのでな」 「うん、いいよ。私に出来ることなら。その代わり、雄真くんとクライスも意見、あったら」 「ああ、私でよければ。――雄真?」 「え? あ、ああ、それは構わないんだけど……」 そう、それは構わないんだが、その、何だ。 「春姫には私が話を入れよう。お前からは言い辛いだろう?」 「あー、うん。頼むわ」 俺の懸念している箇所もバッチリフォローされて、最早言うことなし。――相変わらず俺は置いてきぼりのマスターだった。 ――その後はまた楽しい団欒の時間に戻っていた。俺も普通に会話に加わっていたが…… 「…………」 何でだろう。また――不意に、姫瑠の言葉が頭を過ぎった。
『私、一人でずっとやってきたから、色々な特訓方法知ってるから、雄真くんのプラスになるもの教えられるかもしれないし』
――まただ。また姫瑠は一人で、と言った。何でだろう? 俺の考え過ぎだろうか? かーさん、すももと楽しく笑う姫瑠。その笑顔の奥底に、何を持っているのかは――今の俺には、何もわからないのだった。
<次回予告>
「――しっかし、当日になっても何となくピンと来ないな、ダンス対決って」
やってきました第二回戦、ダンス対決。 今度こそは、まともな勝負……なのか!?
「それならさ、私とチークダンス、踊ろう?」 「いや「それならさ」の意味がわからないから!」
雄真の為に踊る二人のプリンセス。 オールマイティの春姫、ダンスが得意だと言う姫瑠、二人の実力とは?
「――ここでお前のもう一押しであの格好で抱かせてくれるかもわからんのに」
そしてそのダンスを目にした雄真は、無事でいられるのか!?
次回、「彼と彼女の理想郷」 SCENE
6 「彼と彼女の理想郷」
「――姫瑠らしいとかそうじゃないとか、よくわからないけど」 「……え?」
――揺れ動き始める二つの想い。 それは、本当の物語の始まりなのか、それとも。
お楽しみに。 |