(注意)
 本作は、PCゲーム「はぴねす!」の神坂春姫END後の世界観を元に描かれています。
 ご了承の上、お読み下さい。



 月明かり。

 優しくおぼろげなその光を感じる。

 目を閉じ、想いを馳せる。

 答えは出ている。

 ――いや、違う。

 答えは、一つしかない。

 選ぶことなど出来ない。

 だから、信じてみる。

 ――何を?

 自分の決めた道を?

 それとも――

 ――奇跡、を?

 月よ、導いて欲しい。

 そして――教えて欲しい。

 自分が今、目指さなくてはいけないものを。

 自分が今、本当に見なくてはいけないものを。


「そういえば、もう直ぐクリスマスよね」
 いつも春姫との二人きりに久々に準とハチが加わった帰り道、準がそう切り出した。
「ねえ雄真、今年もOasisって借りられるのかしら?」
「大丈夫だろ。っていうか放っておいてもかーさんが予定入れるさ」
 お祭りごと好きだしな、あの人。
「今年も、ってことは……去年も何かやったのかな?」
「あ、そうか、春姫は知らないんだよな。毎年クリスマスは、閉店後のOasisを借り切ってパーティやってるんだよ。俺、かーさん、すもも、準、ハチ、Oasisのスタッフで」
 俺が瑞穂坂学園に入学する前から、かーさんがOasisのチーフだったこともあって、クリスマスになるとOasisでパーティをしていた。
「でもそうなると今年は一気に人数が増えるな」
「そうねー、春姫ちゃんに杏璃ちゃん、小雪さんに伊吹ちゃん、信哉君に沙耶ちゃん」
 準が指折り数える。
「あ、私もお呼ばれしてもらっていいのかな?」
「当然じゃないか姫ちゃん! 姫ちゃんが望むならたとえ火の中水の中!」
 火の中水の中って……クリスマスに何をするつもりなんだ、ハチ。
「それじゃ、今年の二十三日は、決まりね」
「あれ、何で二十三なんだよ準、別に二十四でも――」
「馬鹿ねハチ、イブは雄真と春姫ちゃんが二人っきりで過ごしたいに決まってるじゃないの」
「う……」
「あ……」
 途端に赤面してしまう。チラッと春姫の顔を見ると、春姫も同様。
「付き合い始めて初めてのクリスマスなのよ? そのくらい気を回しなさいよ、ハチ」
「かぁ〜〜〜っ! 羨ましいじゃねえかこの野郎〜〜 俺もイブに可愛い彼女とイチャイチャラブラブしてえ〜〜〜っ!」
「あらハチ、水臭いわね、目の前にこんなに可愛い子がい・る・の・に♪」
 準が人差し指を唇に当て、可愛らしいポーズをとってハチに迫る。
「だああっ、お前は男だろうが、お・と・こ!」
「もう、連れないんだから……」
 相変わらずのやり取りだ。
「しかしよ、どうして雄真には姫ちゃんみたいな可愛〜い彼女が出来るのに、俺には出来ねえんだ?」
 ハチが両腕を組んで真剣に悩み始めた。それは多分、
「そういう疑問に達するあたりじゃないか?」
「? それってどういう意味だよ、雄真」
「言葉のままの意味だよ」
 俺の言葉の意味が浸透したらしく、横で春姫が「あはは……」と苦笑している。
「……わかった、わかったぞ雄真! 俺があまりに完璧すぎるからだな! 『ああっ、あの人格好いい! でもでも、あれだけ格好いいと、きっと素敵な彼女がいるに違いないわ……』そうだ、そうに決まってる! く〜〜っ、どうして今までそのことに気付かなかったんだ!」
 いや、もっと他に気付くべきことがあるぞ、ハチ。
「もう、そんなに彼女が欲しいなら、背中に「彼女募集中」っていう旗でも背負ってれば?」
「そうか……そうだな! よ〜〜し、今日早速家に帰ったら作るぜ!」
 作るのかよ。――まあ、こうして準の冗談を真に受けるあたりは、憎めなくていい奴なんだけどな。――そんないつものやり取りをしていた時だった。
「……あれ?」
「? どうかしたの、雄真くん」
「いや、ほら……」
 俺の視線の先、校門のあたりに、何やらこちらの様子をチラチラ伺ってきている女の子が一人。制服からしても、下級生――つまり一年生だろう。
 ハッキリとした顔立ち、小柄な感じはチラリと見えただけだが、まさに「可愛い」と表現するのにピッタリな雰囲気だ。
「あたし達の誰かに、何か用でもあるのかしら?」
 俺と春姫が話してると、準とハチも気付いたらしい。
「む……わかったぞ雄真!」
 ハチの目が、キラリと光った(ような気がした)。
「わかった、って……何がだよ?」
「決まってるじゃないか! あの子は、この俺を待っているんだよ!」
「ええっ、ハチ、あの子に何か恨まれることでもしたの!?」
「何で極端にそういう方向に持っていくんだよ! あの子はなあ……俺に、愛の告白をする為にあそこで待っているんだよ!」

「高溝先輩!」
「ん……何だい?」
「実は……入学した当初から、ずっと好きでした! 私と……その、お付き合いしていただけませんか?」
「君の気持ちは嬉しいよ。でも……俺なんかで、いいのかな?」
「はい! 私、高溝先輩じゃないと、駄目なんです!」
「そうか……よしわかった、さあ、俺の胸に飛び込んでおいで!!」

「それはないな」「それはないわね」「それはないんじゃ……」
「何で三人同時に否定する! しかも姫ちゃんまで……!!」
 ハチがいつもの調子でオイオイと泣き出した。
「――でも実際、何だろうな?」
「準さんのファン、ってことは考えられないかな?」
「ふむ……」
 確かにありそうな話だ。準は男女問わず、人気は高い。
「もしかしたら……雄真のファン、って可能性もあるんじゃない?」
「え……え〜〜〜っ!!」
 準の一言に途端に春姫がうろたえだしてしまった。
「ゆ、雄真くん、その……実は雄真くんにも、ファンクラブがあったり、とか……」
「ないない! 第一、その……俺と春姫が付き合ってること、案外、有名だと思うから……」
「あ……」
 思い起こせば春。俺と春姫が付き合うことになった翌日、既に学校中に俺と春姫の噂は広がっていたのだった。そのことを考えれば、もう学園内に俺と春姫の仲を知らない人間はほぼいない、と考えてしまってもいいだろう。
「いいわ。あたしが代表して聞いてきてあげる」
 準が、俺達よりも数歩先に出て歩き出した。俺達も後を追うように歩き出す。
「こんにちは」
「え!? あ、あの、こんにちは……」
 その子は突然準に話しかけられて少し驚いたようだが、律義に頭をしっかりと下げて挨拶をした。その手にはマジックワンド。どうやら魔法科の生徒らしい。――柄の先が三日月の形をしているのが目を引く、綺麗なマジックワンドだ。
「ね、あたし達の誰かに、何か用なのかしら?」
「え、えっと、その、あの……」
 途端に赤くなって動揺し出した。最初はそのままモジモジしていたのだが、やがて意を決したように、鞄から何かを取り出した。
「た……高溝先輩!」
 ハチの前に立って、その手にしていたものをハチに差し出す。――可愛い便箋に入った、手紙だ。
「こ、これ……読んで下さい、お願いします!」
 呆気に取られている俺達を他所に、ハチに無理矢理手紙を渡すと、その子は……
「そ、それじゃ……失礼します!」
 一礼すると、逃げるように走り去っていってしまった。――って、
「こ、これって……」
「ももも、もしかして……」
「高溝くんへの……ラブレター……?」
 …………。

「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」

 この時、まだ俺は知る由も無かった。
 このハチへの手紙が、クリスマス前に俺達に降りかかる、小さな笑いと涙の物語の幕開けであることに。


ハチと月の魔法使い
〜The after story of "Happiness!"〜


「――ちょっと、いつまで石化してるのよ、ハチ!」
 何があったって、もらった本人が一番驚いたらしく、その場で石化してしまったのだった。


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