「おーす」
「お早うございます」
「おはよー」
 朝、いつもの合流地点。――なのだが。
「……ハチは?」
 そこにいたのは準一人のみ。ハチの姿はなかった。
「あたしとの合流地点にはいなかったわ。だから先に来たんだけど。……今日は、来ないかもね」
「…………」
 昨日の内に、事のあらましを知っていた準には全て説明しておいた。その上での予想だろう。……何だかんだで、ガラスのハートの持ち主だからな。
 ちなみに流石に隠しきれなくなったのですももには全部説明した。当然隠蔽していたことを責められ、物凄いむくれられた。俺の晩飯のおかずが残念なことになった。……陰険な復讐だと思うのは俺だけでしょうか。準には復讐しないのですか妹よ。
「……先に、行くか」
 待っていても仕方がない。そう思って二人を促し行こうとすると。
「おおーい! 待ってくれー!!」
 聞き覚えのある大きな声。……ハチだった。
「はっ、はっ……悪い悪い、寝坊したんだ」
 息こそ切らしてるが、いつもの笑顔で、俺達と合流した。……いつもの、笑顔。
「止せハチ、相手はきっともう三十代だ。中学生だなんて嘘だ」
「お前は何を想像してそのツッコミを俺に入れてるんだ雄真ぁぁぁぁ!!」
「ハチさん……中学生とかリアルです……まだ兄さんのように同世代以上の方にして欲しいです」
「退かないでくれすももちゃぁぁぁん!! 事実無根だぁぁぁ!!」
「というか「まだ」兄さんのようにってどうよお前!?」
 だから俺達は――「いつも通り」の応対をする。
「俺が寝坊をしたのはもっと違う理由だ!!」
「ハチ。……人形は喋らないって、わかるか?」
「いい加減にしろ貴様ああああ!! 俺が寝坊したのはだな、深夜の通販番組を見ていたからだ!! そこで俺は素晴らしい物を見つけてしまった!! 何だと思う!?」
「しかしもう七月か。夏だよなー」
「そうねー、毎年徐々に徐々に平均気温が上がってるわよねー」
「環境破壊の影響ですね……地球を大切にしないといけませんよね」
「聞け貴様らあああああ!!」
 そんな、いつも通りの四人。そんな、いつも通りの朝。
 そんな、いつも通りの日が――また、始まった。……まるで、何もなかったかのように。 



ハチと小日向雄真魔術師団
LAST SCENE  「ハチと小日向雄真魔術師団」




「いただきまーす」
 パン、と目の前で合掌し、割り箸を手に法條院深羽は目の前のラーメンをすすり始めた。――昼食時、Oasisにて。
「深羽さんって、ラーメンお好きですよね。Oasisで食べる日はラーメンをよく注文してます」
 同じテーブルにいた親友の粂藍沙がそう尋ねて来る。
「好き……うん、好きは好きなんだけど、なんていうか、ウチで食事のメニューとして出てこないからさ、ラーメン。恋しくなるんだ」
「やっぱり深羽ちゃん家位になると、ラーメンがご飯に出てこないんですね……わたしの家では出前とか時折ありますから。――伊吹ちゃんもそうですか?」
 やはり同じくテーブルを囲んでいたすもも。
「まあ確かに食事の席には出てこないが、そもそもあまり食す機会がないから、法條院のように恋しくなったりはせぬな」
 そして同じく伊吹。――以上の四人でのOasisの昼食である。
「偏見だと思うんだよねー。普通にさ、食事会でドレス着てラーメン食べてもいいと思うんだけど。美味しいラーメンは物凄い美味しいじゃん? 美月さんが作るラーメンとかプロ級だし。豚骨で何日もダシとか取ってるし」
「錫盛さん、本当に何でも出来る人なんですね」
「うん、あの人才能有り過ぎ。この前一緒にゲーセン行ったら太鼓ゲーム滅茶苦茶上手かった」
 メイドの格好のままで太鼓ゲームで高得点を出して注目を浴びている姿が容易に想像出来る三人だった。
「法條院、以前から思っておったのだが、お主本当にあやつが従者でよいのか? 確かに魔法使いとしては相当の実力なのはわかるが」
「いいに決まってるじゃん。寧ろ他の人が従者とか今更考えられない。美月さんが従者じゃなきゃ私法條院の家継がないから」
 訝しげな伊吹に対し、深羽はハッキリと言い切る。
「深羽さん、お家継がれるんですね」
「? そうだけど……どしたのよ藍沙っち。前からそんなのわかってたじゃん」
「いえ、以前は多分継ぐんじゃないかな、とか継がなきゃ駄目なんだと思う、とか何処か曖昧な部分を残した言い方が多かったです。でも今の深羽さん、何処かハッキリと継ぐ、と決めている感じでした」
 藍沙に指摘され、深羽も自分の心境の変化をあらためて感じる。
「うん。結構曖昧な部分今まであったけど、ちゃんと家継ごう、その為に魔法使いとして自分を磨こうって決めたんだ」
 深羽の心境の変化。「自分は法條院家の跡取りだから、継がなきゃいけない」という気持ちから、「法條院家の跡取りとして、恥じない様に家を継ごう」というものに、ここ最近は変わっていた。自分の中に芽生えたその気持ちは大きくしっかりとした物。
「何か切欠でもあったのか?」
「んー、切欠って程じゃないけど、ちょっとねー」
 晴れやかな笑顔でそう答える深羽。――藍沙が直ぐに気付く。
「成る程。雄真さんに刺激を受けた結果なんですね、深羽さん」
「ぶっ」
 藍沙の指摘に、含んでいた水を深羽は吹きかける。
「ちょ、何でそういう結論に達するかな!?」
「何でって、今の深羽さんの表情からするに、です」
 嬉しそうに指摘する藍沙、顔を赤くして動揺する深羽。――藍沙の指摘が合っていると証明しているような物である。
「深羽ちゃん、兄さんと何かあったんですか? はっ、もしや深羽ちゃんまで、兄さんと――」
「ちっ、違うんだってすももちゃん、確かに雄真センパイと一緒に二人で買い物した時に色々話聞いて貰って雄真センパイの話も聞いて影響受けたけどでもそれは最終的には私の決断であってああでも雄真センパイ無関係ってわけじゃなくて格好いいからそのつまり」
「深羽ちゃん……兄さんと二人でお出かけする間柄だったんですね……全然知りませんでした……」
「ああっ!?」
 動揺が加速する深羽、かなり疑いの目で見るすもも、その様子を楽しそうに見守る藍沙、呆れ顔で見る伊吹。――何だかんだで、微笑ましい光景であった。
「でも――こうして思うと、MAGICIAN'S MATCH、参加出来てよかったなって思う」
「雄真さんに出会えたからですか?」「兄さんと関係が持てたからですか?」
「いやそこの素敵なハーモニーいらないから。特にすももちゃん素で怖いから。――雄真センパイもそうだけど、でもそれだけじゃなくて、色々な人、味方だけじゃなくて敵のチームにもいたし、それぞれが色々な想いとか生き方とか抱えて生きてるんだなー、って思って。私が法條院として生まれた意味も、ちゃんと自分で見つけなきゃな、って思えた。惰性で生きてちゃ駄目だな、って痛感した」
「それぞれが色々な想いと生き方を抱えてる、か……」
 伊吹が少しだけ遠い目をする。
「人の人生に重い軽いは生まれながらの差はやっぱりあるけど、でもそんなのその人の生き方次第でいくらでもかわる。そう思ったから、私も頑張ってみようって思うんだ」
「わあ……深羽ちゃん、凄いですね、凄い格好良いです」
「ありがと」
 気付けば雄真のことを追求していたすももも、深羽の言葉に感心していた。
「ま、とりあえずは今の学園生活をエンジョイして立派に卒業することかな。大学にも行くし」
「私も大学には進むつもりです。最も魔法科ではないので、深羽さんとは違う学科になってしまいますが」
「藍沙っちは保母さんになるんだもんねー」
「はい、魔法使いの保母さんになるのが私の夢ですから」
 そんな風に将来の夢を語りながら、その日の昼食の時間は過ぎていったのだった。


「でさー、そいつ言いやがってよ」
「マジでー?」
 カン。――男子二人の内一人が、廊下を歩きながら飲んでいた飲料水の缶を飲み終わったらしく、当たり前のようにその辺りに置いて歩いて行く。
「…………」
 それを目撃した「彼女」はその空になっていた缶を広い、
「ぐえっ」
 パコン!――その無造作に置いていった方の男子の頭目掛けて投げた。見事にクリーンヒット。
「痛っ、誰だ!」
「ここは缶捨て場じゃないんだけど? 無造作に扱うなら、こちらも無造作に扱うだけ」
 缶を投げたのは――「鬼の風紀委員長」、梨巳可菜美である。
「口で言えよ口で! 投げてくること――」
「は? 当たり前のことも出来ない人間に言葉が通じるの?」
 ジロリ。――空気が一瞬にしてその睨みで凍りつく。
「っ! す、すいませんでした!」
 可菜美の威圧感に負け、男子二人組は缶を持って小走りでその場を去った。姿が見えなくなるまで可菜美は睨みを効かせる。
(相変わらず怖いわねー、梨巳さんって)
(凄えよな、普通あそこまでやらないって)
 そんな小声が遠巻きに飛び交うが、気にする可菜美ではない。気にしないからこそ色々な意味で可菜美は有名になってしまったのだから。無名だったころ「正当防衛」で魔法で吹き飛ばしたのも一度や二度ではなかった。
「……お前、知らない奴には相変わらずなのな」
 でも――昔の可菜美とは、違う点が一つ。
「悪い? 別に知ってる人でも同じことをしてたら同じことをするけど?」
 彼女を掛け替えのない仲間として見る人達が出来た、ということ。――無論、今話しかけて来た武ノ塚敏もその一人である。
「言いたいことはわかるけどさ、でも最初の一言位は気持ち穏やかにしても」
「何? うふふふとか笑いながら注意すればいいの? ギリギリまで感情を抑えて最後の最後で薄笑いを浮かべながら刺せばいいの? 何処の神坂さんなのよ」
「……薄々思ってたんだけど、お前神坂さん好きじゃないだろ」
「別に。ただ男だったら彼女には選びたくないわね」
 包み隠さず言い切る可菜美に、敏は苦笑するしかない。
「まあでも、厳しく注意することも大事だけど、同じ位笑うことも大事よ。怒ってばかりじゃ表情に変に染み着くし、楽しい時にも笑えなくなるしね」
 そんな二人に口を挟む声。振り返ってみれば、
「成梓先生」
 偶然通りかかったか、茜の姿があった。
「勿論私は梨巳さんが怒ってばかりの子だなんて思ってないわ。仲間達といる時のあなたの笑顔は本当に輝いてるしね。信じた人を想う強さを知ってる、素敵な女の子」
 真っ直ぐに可菜美の目を見て茜は言い切る。本当にそう感じているということを疑いようがない表情だった。
「でもね梨巳さん、今まさに青春真っ直中の歳なんだから、もう少し明るく物事が考えられるともっと素敵になれるわ、きっと。例えばほら、恋をしてみるとか」
 私薄笑いはちょっと、とつい言いかける可菜美と、言いかけたな、というのがわかった敏がそこにいたり。
「人間だから、色々な感情が表に出るわ。怒っている瞬間、悲しい瞬間、楽しい瞬間、優しく誰かを想う瞬間。その一つ一つを大切に。無駄な時間なんてないんだから」
「――わかっています」
 ハッキリと想いを伝えてくる茜に対し、可菜美もハッキリと返事をした。
「この瞬間が、今一瞬の全てが大切だっていうこと、私なりにわかっています。傍に誰かがいてくれること、私に優しい言葉をかけてくれる人がいること、信じられる人がいるということ。そんな人達と、自分が同じ時間を共有しているということ。――掛け替えのない、事実です」
「そう。わかってるならいいわ。余計なお世話だったわね」
「そんなことありません。私のこと、そういう風に見てくれる先生の方って、あまり多くいませんから。言葉を頂けるだけで、凄い嬉しいですから。――ありがとうございます」
 可菜美がお礼を言うと、茜も満足気に、でも優しい笑顔のままで去って行った。
「……お前、相変わらずこういう時に照れってないんだな。普通照れ入るぞ」
 横にいる俺の方がその言葉聞いてて照れるよ、と敏は思う。――可菜美は何処までも無理のない澄まし顔。
「悪かったわね、普通じゃなくて。――自分の考えを表に出す度に照れてたら何も出来ないじゃない」
「そうなんだけどな」
「感情は溜めこむ為にあるんじゃないわ。伝えたい想いは、表に出さなきゃ意味ないじゃない」
「……ホント、変わったよな、お前」
 敏は苦笑する。――思えば屋上で可菜美の過去を聞いてからだろうか。敏は近くなった距離を感じていた。彼女の相方として戦った時間は、とても大きな物だった。気付けば、近くにいる時に生まれるこの独特な空気が居心地良いと感じるようになっていた。
「俺MAGICIAN'S MATCH、参加出来て良かったよ。お前と一緒に参加出来て、良かった」
「――何よ、急に」
「わかんねえ。ただ何となく今言いたくなっただけだ。伝えたい想い、表に出さなきゃ意味ないんだろ?」
 その言葉に、可菜美は軽くため息。ため息……なのだが、何処か嬉しそうな表情に見えたのは、敏の目の錯覚なのだろうか。
「確かに出さなきゃ意味ないけど、前後の空気の流れを読む位しなさい。繋がりある会話をしなきゃそれはそれで意味がない。――成梓先生じゃないけど、恋でもしてみたら? いい練習になるんじゃないの?」
「恋ねえ」
「私の知り合いに、神坂春姫さんっていう素敵な女の子がいるの。紹介しましょうか?」
「待てお前俺をどうしたいんだ」
「あなたをどうにかしたいんじゃないわ。雄真の身を案じてのことよ。私は琴理を応援するってこの前決めたの」
「俺の身も案じろよ!?」
 そんな会話をしつつ、二人は教室に戻る。――傍らから見ても、近くなったであろう距離を感じさせながら。


「やっぱさー、プールもいいけどちゃんと海行こうよ海ー」
「当然水着は新しくするよね?」
「去年行ったあのキャンプ場、絶対穴場だよな! 今年もあそこだろ」
「何処でもいい、何処でもいいから今年こそは彼女作るぞおおお!!」
 瑞穂坂学園、三年B組の教室の休み時間。一学期の終わりも徐々に近付いて来た、即ち夏休みが近付いて来たということで、その話題で盛り上がる生徒があちらこちらに見られた。
「…………」
 そんな教室の中、窓際の席で土倉恰来は頬杖をついて外の景色を眺めていた。ただ何となく、である。――教室のざわめきなど、随分前から一切気にならないのが癖になっていた。
「恰来は、夏休みは楽しみじゃないのかしら?」
「――友香」
 そんな彼の意識を現実に呼び戻す声。気付けば相沢友香が自分の席の直ぐ近くまで来ていた。
「夏休み……か。毎年特に何をするわけでもなかったからな」
「でも、今年は違うでしょう?」
「今年?」
「ほら……その、折角、こういう風に……だし?」
 少し頬を染めて、上目使いで友香は切り出す。
「ああ、そうか。そうだな。――今年は大学受験の為の勉強があったな」
 ズルッ。
「流石だな友香は。みんなが浮かれてるのにちゃんとそういうことを考えて……どうかしたか?」
「素なのね、本気で言ってたのね……」
 芸人顔負けの転倒をしそうになるのをギリギリで堪え、友香は立ち上がる。――相変わらず油断が出来ない相手だ、という想いが同時に過ぎった。
「そうじゃなくてね、恰来、ほら、私達折角……その、こういう関係になれての、初めての長いお休みじゃない? 色々計画が出来ると思うの」
「…………」
 …………。
「……あ」
 今ですか気付いたの今ですかそうですか、とツッコミを入れたくなるのを必死に友香は堪えた。
「ごめん。どうしても、そういうのが疎いな、俺」
「大丈夫。私も恰来に慣れて行くし、恰来も私に慣れていけばいいんだから」
 優しい笑顔で友香は言う。――恰来が、安らぎを覚える笑顔だった。
「そうだな。友香となら一緒にいるだけで楽しいし幸せだけど、いい機会だから二人で色々な所に行ってみたいな」
「っ……そうやって、さり気なく織り交ぜてくるの、ずるくないかしら」
「?」
 友香の言葉の意味が、恰来にはわからない。――恰来にとっては、本音の、当たり前の言葉だったから。友香は顔を更に赤くしつつため息。
「それとは別に、また小日向雄真魔術師団のメンバーとも何処か行けたらいいな」
「それこそきっと大丈夫よ。あのメンバーで何もないわけないわ。全員で優勝記念旅行、とかあるかもしれないし」
「ああ、そうだな。――小日向雄真魔術師団、か」
 恰来の視線が、ふっと友香が話しかける前の状態――外を眺める状態に戻った。夏の到来を予感させる雲一つない青空が、瑞穂坂学園を包んでいた。
「俺は、この二ヶ月のこと、一生忘れない」
「……恰来」
「沢山の出会いと、言葉と、想い。全てが輝いていた。俺の知らない光を放ってた。俺を、変えてくれた。……一生忘れない」
「そうね。私も――あなたに出会わせてくれたこの二ヶ月のことを、一生忘れない」
 そう言って、二人で笑いあう。――ついこの前まではなかった新しい幸せが、そこにはあった。
「夏休み、か。……今年は忙しくてあっと言う間に過ぎそうだな」
「ええ。MAGICIAN'S MATCHに負けない位の思い出の夏休みにしましょう?」
 やがてチャイムが鳴り、友香が自分の席に戻り、授業が始まった。――恰来が授業をあまり聞かないのは初めてというわけではなかったが、夏休み、友や最愛の人との予定を練るのが理由で、というのは初めてであった。


「……ふぅ、大体こんなもんか」
 松永庵司は行っていた作業がひと段落したので手を休め、休憩することにした。……するとそこに。
「松永さん松永さん松永さーん!」
 聞き覚えのある元気一杯の声が。相変わらずの呼び方に庵司もつい笑ってしまう。
「松永さーん……って、あっ! 作業中でした? ごめんなさい!」
「いやいいよ、丁度休憩しようと思ってたから。どうかした?」
「はいこれ、お裾分けのたい焼きです! 暖かい内にどうぞ!」
 そう言って、野々村夕菜が庵司に紙袋を手渡す。中身はたい焼きが二個、まだ湯気が出ていた。
「ありがとう、貰っちゃっていいの?」
「はい、わたし他にも今川焼きとたこ焼きと石焼き芋も貰ったんで、たい焼きは松永さんに」
「え? いやあの何でそんなに貰ってるの?」
「わたしもよくわからないんですけど、でもあっちに用事があって顔を出してたそれぞれのお店の店長さんに挨拶したらくれました。皆さん気前がいいですよね〜」
「……いや、それ多分違……まあいいや」
 夕菜は商店街の人気者である。いつでも笑顔のその表情に加え、客観的な素材の可愛らしさ、分け隔てない優しさ、微笑ましい天然加減。本人は気づいていないがそれ故の結果であろうことは簡単に察することが出来た。特に食べ物をあげると嬉しそうな顔をするのもまたプラスになっている。自分も食べ物関係の店だったら色々試食とかあげていたかもしれない、と庵司ですら思う程。
「ご予約のお仕事ですか?」
 夕菜が作業台を見て訪ねて来る。
「いや、あれは仕事じゃない。ちょっとプライベートでどうしても――」
 ピリリリリ。――不意に庵司の携帯電話が鳴った。
「あ、ちょっとごめん」
 メールらしく、電話を開いて確認。
「……はぁ」
 直後――ため息を、ついた。
「? どうかしたんですか?」
「いや……シフォンケーキ焼いたんですけど持っていっていいですか、というメールが」
「屑葉ちゃんですか?」
「あー、うん。――なんつーか、頻繁に来たがるのはどうかと思うわけよ俺は。いや嫌いって言ってるわけじゃないんだけどさ、でも若い娘さんが何処の馬の骨かもわからない男の所にさ」
「シフォンケーキ、美味しそうだね、遊びにおいで……っと」
「まあ確かに? 俺はおやっさんとのこともあったし、無関係じゃないし、あの時色々言ったけど、でもそれとこれとは……って野々村さん何してんの?」
「屑葉ちゃんに折角だからおいで、ってメールしました」
「……はい? いやその……え?」
 とっさのことで呆気に取られてしまう。何で返事してるのいやそもそもいつ番号交換する程仲良くなったの、と庵司が徐々に答えをまとめていると――
「こんにちは」
「いやあの来るの早すぎじゃね!?」
 そこには笑顔で店に入ってくる屑葉の姿があった。――落ち着け、落ち着け俺。冷静さを失ったら終わりだ。
「えーと、野々村さんはいつ屑葉と仲良くなったわけ?」
「あの……私、破壊の衝動に飲み込まれてる時、野々村さんと戦ったじゃないですか。その時の謝罪に行った時に」
「あー、うん……そう」
 夕菜の性格からするに当時の屑葉がしたことなどまったく気にはしていないであろうし、そうやって謝りに来る健気な屑葉のことが気に入り、あっと言う間に仲良くなれるであろう。――まあ、これは仕方ない。
「……じゃあさ、野々村さんがおいで、っていうメールをしたら直ぐに登場したのは何故?」
「あっ、あのメール、松永さんのお店の前で送ったんです」
「……出すタイミング明らかにおかしくね?」
 庵司の意見は最もであった。普通ならば出発する前に訪ねるべきであろう。……最も、
「あの……迷惑、でしたか? 来たら」
 屑葉に全然その庵司の考えが通じていなかったりする。
「いやその、君が来ることが迷惑って言ってるわけじゃなくてさ、俺が今回論点にしてるのは――」
「良かった。――あっ、今日のシフォンケーキ、凄く良く出来たんです! お茶入れますから、キッチンお借りしますね」
「あの俺の話最後までっていうか何で俺の家のキッチンの位置とか把握してんのっていうかおーい」
 足取りも軽やかに、屑葉が奥へ消えた。――何だあいつ。ここまできたらもうわざとだろ。俺馬鹿にされてますよね? 怒っていいの? 他の人もそう思うよね?
「いい子ですよね、屑葉ちゃん」
「今の一連の流れの何処を見たらその感想にたどり着くんでしょうかね」
 結局どうにもならないまま、屑葉が三人分の紅茶を煎れて戻って来た。――流されるがままに、おやつの時間が始まる。
「あの……味、どうですか?」
「え? ああ、うん、美味いんじゃないかな」
「良かった」
 嬉しそうな笑顔を浮かべる屑葉。いや味はいいんだ味は。
「今回で、コツを覚えたんです。気に入って貰えたなら、作りがいがあります」
「……いやその」
 もう屑葉の中で次回が決定していた。これはいかん……と、庵司は話題を変えることにする。
「――そういえば前から気になってたんだけど、野々村さんって営業中でも結構出歩いてるよね? 店とか大丈夫なの?」
「あっ、お客さん感知用の魔法とかお友達に編み出して貰ってるんで、大丈夫です」
「ふーん……」
 話題転換、十数秒で終了の危機。――もっと違う話にすればよかった。
「でも、やっぱり駄目かなー、って思うこともあるんです。バイトさん雇おうかな、って悩むこともあるんですけど。――屑葉ちゃん、ウチでバイトしてみない?」
「私……ですか? バイト、したことないからちょっと自信ないです」
「大丈夫だよ屑葉ちゃんなら。ね、松永さん?」
「――へっ?」
「大丈夫……ですか?――あの、どう思いますか? 私、松永さんのお店の隣のお店でのアルバイト」
「…………」
 何故俺に聞くかな。っていうか聞き方おかしいだろ。何故俺の店の隣のお店と言う。普通に野々村さんの店って言えよ。
「まあ……その、いいんじゃないの? うん」
 でもその想いを口には出せない庵司であった。――何だ俺。本当に駄目駄目だな俺。どうしろってんだ本当に。
「あっ、そういえば作業中のお仕事、大丈夫ですか?」
 店に入った時にしていた様子を思い出した様で、夕菜がそう庵司に訪ねる。
「いやだからあれ仕事じゃねえんだ」
「えっ、そうなんですか?」
「ああ。――丁度いいか。ちょっと待ってろ」
 庵司は立ち上がり、作業台に戻り折り畳まれた黒い衣類を一枚持って戻ってくる。
「ほれ」
「え……私に、ですか?」
 そしてそれをそのまま屑葉に手渡した。屑葉がそれを広げてみると、
「これ……ドレス……?」
 ワンピース型のドレスだった。派手ではないが、決して地味でもなく、まさに屑葉向け、といった所。
「正確には魔法服だ。破壊の衝動を乗り越えた人間向けに調整してある。――おやっさんの形見の魔法服、作り直したんだ」
「あ……」
「俺が持ってても仕方ないだろ、もう。ならお前が着た方がおやっさんも喜ぶってな。――ま、俺が作ったモンだからな。性能はあってもデザインは気に入らないかもしれないけど。嫌だったら野々村さんに相談すれば――」
「……嬉しい」
「屑葉?」
「嬉しいです、凄い嬉しいです! ありがとうございます、私大切に着ます!」
「あー、いや、そこまで喜ばなくてもいいって」
 目を潤ませ、でも満面の笑みでそう告げてくる屑葉に庵司は苦笑するしかなくなる。
「…………」
「? あの……?」
「ん?――いや、何でもない」
 笑顔の屑葉を見て庵司は思う。――何だかんだで、嫌いじゃないんだろうな、この笑顔……と。
(おやっさん。……今あんた、どんな気持ちだ?)
 それはやはり、返ることのない問い。
(あんたのことだ、俺が振り回されてるこの状況見て、ニヤニヤ笑ってるんだろ?――幸せそうなこいつの顔見て、嬉しそうに笑ってるんだろ?)
 目の前には、戦いの末、守り抜いた純粋な笑顔。
(正直、俺は大変だ。大変だけど……でも、今のこの状況が「当たり前」になってくれるなら、それはそれでいいさ)
 その笑顔は、自分が心から尊敬した人が何処までも守りたいと願っていた、愛しさの象徴。
(安心してくれな、おやっさん。もしもこいつにまた何かあるようなら、面倒臭いけど――俺がどうにかしてやるからさ)
 そしてその想いは、その人から受け継いだ、とても大きな――決意。


 偶然か必然か、屋上には誰もいなかった。
「……ふぅ」
 ため息を一つ洩らしつつ、ハチは一人の屋上を進み、柵にもたれかかった。
 いつも通りに過ごすと決めた。今までと何も変わらない自分でいようと決めた。一番近しい友人達は、その想いをきっと汲んでくれたのだろう、何も変わらないで接してくれていた。本当にありがたかった。
 でも――心に出来た大きな穴が、それで埋まるわけではなかった。自分が原因で出来た傷が、それで塞がるわけではなかった。
「……結局俺は、こういう運命なんだろうなあ」
 呟く言葉は空気と混じり空へと溶けていく。――どれだけいつも通りでいても、一人になればやはり思い出してしまう。
 雫は普通に今日は学園に来ているだろうか。
 自分のことなど忘れて、楽しく笑っていてくれているだろうか。元気で居てくれているだろうか。
 気になる。気にし出してしまえばキリが無くなる。
 でも――もう、自分は雫には会えない。たとえこの学園の何処かに居るのがわかっていても、会うことは許されない。
 何処かですれ違っても、話しかけることも出来ない。
 雫とは――自分が大好きになった女の子とは、もう無関係になってしまったのだから。
「……フォルカニカ・ボウイス・アーミュロウ」
 そして気付けばハチは、無意識の内にその呪文を唱え始めていた。
「イレ・エイト・リート・エンプル」
 それはあの日、後枢の誘拐事件発覚の日、雫と共に逃げ切った後、雫が唱えた呪文。
「アイアリース・イシ・シクツ・シンクラウン」
 あの日一度だけ、雫の口から聞いただけの呪文を、
「トックスル・ハット・ピタセート」
 ハチは一人、屋上で詠唱する。
「メイ・グレット・ヨウバンソ・エルメンス」
 覚えているはずのない、覚えられるはずもない呪文を、ハチは最後まで唱え切った。奇跡だろうか。ハチ本人もどうしてこれを覚えていたのか、口に出すことが出来たのか、わからない。もう一度唱えてみせろと言われたらもう無理かもしれない。でも確かに――この瞬間、ハチは詠唱を完璧に終えていた。
 雫は言った。この呪文は、願いの魔法であると。何か大切なことを願いながら詠唱をすると、叶うと。
「もしも……もしも、願いが叶うなら」
 それはあの日、雫に尋ねられても答えられなかった問い。――でも、今は。
「もしも願いが叶うなら……今、雫ちゃんに会いたい」
 溢れんばかりの願いを、ハチは口にする。
「会いたいよ、雫ちゃん。――君に、会いたい」
 誰に届くはずもない願いを口に出したその時だった。――ピリリリリ。
「電話……雄真?」
 それは朝、何も変わらないと決めた自分の意思を汲んでくれた友の一人からの電話だった。そのまま通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『よう。盛大に屋上でたそがれてんな、お前』
「!? 見てたのか!? 何処にいるんだ!?」
『ま、俺のことは兎も角。――お前に一個、言い忘れたことがあった』
「俺に……言い忘れたこと?」
『ああ。俺も内容聞いてもよくわからないんだが、お前に言えば伝わるっていうから、伝えるよ』
 何を言っているのかよくわからない。大人しくハチは次の雄真の言葉を待つことにした。
『お前に対しての試験、救済措置があるそうだ』
「俺に対しての試験……って、もしかして二時間以内のあれのことか!? 救済措置!?」
『一度しか言わないからな。よく聞けよ』
 ハチの問いには答えず、雄真は言葉を続ける。
『救済の方法は、「願いの魔法」の完全詠唱、だそうだ。一字一句間違えずに詠唱してみせろ、と。自分のことを大切に想ってくれているなら可能だ、と』
「っ!? そ、それって」
『俺からは以上だ。じゃ、切るからな』
 一方的な説明を終え、雄真は通話を切った。――でも、最後の雄真の言葉など、ハチの耳には届いていない。
 救済措置。――内容は、願いの魔法の完全詠唱。
 無意識の内であったが、ハチは詠唱を先ほど完全にこなした。――もしもこれで条件がクリアとなっているのならば。
「…………」
 携帯電話をポケットに仕舞い、ゆっくりと振り返る。一歩、また一歩。そして百八十度振り返った時、
「雫……ちゃん……」
 視線の先に――雫は、立っていた。
「高溝先輩。――私、先輩のこと、凄い嫌いになりました」
「……うん」
「もう会いたくなかったから、何もかも終わりにしたかったから、無理難題を押しつけました」
「……うん」
「願いの魔法なんて絶対覚えてないと思ったから、救済措置って言いつつも結局無理で絶望に落ちればいいって思いました。そんな悪い女の子に、私はなりました」
「……うん」
「そんな私でも――まだ、会いたいと思いますか?」
 雫からの問いかけ。――何を言われても、どんな前置きがあろうとも、ハチの答えは一つだけ。
「会いたい……!! 会いたかった……!!」
「そうですか。――でももう私、簡単には騙されません」
「雫ちゃん……?」
「私、先輩のこと嫌いなままです。もう生理的に嫌です。そんな私を振り向かせるのって、大変ですよ?」
「大変でも、いい! どんな努力だってしてみせる!」
「もしかしたら、こういう風に勿体ぶって言ってるだけで、もう二度と振り返らないかもしれませんよ?」
「それでもいい……いや良くないけどでも頑張る!! 頑張ってみせる!!」
「――どうして、ですか?」
 至極最もな雫の問い。――やはり、答えなど決まっている。
「君のことが……雫ちゃんのことが、大好きだからだ!!」
 迷いのない宣言がその場の空気を突き抜ける。
「……そうですか」
 数秒の沈黙の後、雫は再び口を開いた。
「それじゃ……それじゃ、頑張ってもう一度、私を振り向かせて下さいね?」
「……それって」
「――待ってますから。またあなたに、ときめけるようになれる日を」
「!!」
 そうハッキリと告げると、雫は穏やかな笑みを残し、屋上を後にした。
「雫ちゃん……雫ちゃん……俺……俺……!!」
 込み上げて来る想いが、言葉にならない。
 喜びか、愛しさか、他の感情か、その全てか。――色々な物が、ハチの心を過ぎった。
 ハチは空を見上げ、大きく息を吸った。
「雫ちゃあああああああん!! 大好きだあああああああ!!」
 そして、ありったけの声で、今自分が出せるありったけの想いを、叫んだ。
 二度と届くはずのなかった想いを。
 もう一度だけ、届くかもしれない想いを。


「屋上で大声で叫ぶとか本当に他の生徒に迷惑なんだけど。風紀委員として逮捕に行っていいかしら」
「気持ちはわかるけど勘弁してやってくれ可菜美……」
 呆れ顔で屋上を見上げ、でも誰かが止めないと本気で行ってしまいそうな可菜美に俺は速攻でツッコミ。……毎回止めてるからあれだけど、実際止めなかったらどうなるんだろうか。まあ怖くて試せないのだが。
 さてここは校庭。――偶然か必然か、ハチと雫ちゃんのやり取りを、仲間達全員で離れたここから見守る形となっていた。何の打ち合わせもないのに、何故か全員がここにいて、この形になっていた。どうしてかはわからないが……でも何となく俺達らしい。
「ったく、何処までも世話の焼ける奴だよ、ホントに」
「そうね。結局面倒見ないといけないし――面倒見ちゃうんだから」
「それはお互い様だけどな」
 俺の隣には、俺とは違う距離ででも結局俺と同じであいつを見守ってきたもう一人の親友が。
「高溝くんと月邑さん、これから上手くやっていけるのかしら?」
「大丈夫だよ相沢さん。――ここまでくれば、もう大丈夫」
「小日向くんがそう言うなら大丈夫だろうけど……でも、断言出来るのは何故かしら? 高溝くんは兎も角、月邑さんだって」
「雫ちゃんだって、本当に駄目なら、あそこでハチのこと待ったりなんてしてないさ」
 雫ちゃんは、最後まで見守っていた。ハチが「願いの魔法」を唱え終わる、その瞬間まで。もしも、ハチが唱え切れなくたって――きっと、雫ちゃんは。
「何となくだけど、わかるんだよあいつのことだから。わかりたくもないけどさ。……大丈夫だって、わかるんだよ」
 にしても相沢さんは貴重だな。春姫とかと同じで純粋にハチを心配してくれてる。……だって他のメンバーなんて。
「しずくちゃああああぁぁんんだいすきだあああああぁぁん」
「あはははっ、似てる似てる!! そっくりじゃん杏璃!」
「そうですね、そっくり過ぎて撃ち殺したくなります」
 怪しい物まねをする杏璃、それを見て馬鹿ウケする姫瑠、そっくりだと撃ち殺したくなる位嫌いな琴理とか。どんなだお前ら。何の為にここへ来た。
「杏璃ちゃん……高溝くんだって色々あったけど頑張ったんだし……小日向雄真魔術師団の仲間なんだから……」
「何言ってるのよ春姫、ハチは小日向雄真魔術師団じゃないわよ。だってハチ魔法使いじゃないし」
 滅茶苦茶言い出す杏璃。……まあでも。
「何となくわかるな、俺もあいつは小日向雄真魔術師団じゃない感じだよ。俺達の輪の中にはいるけどさ」
「雄真くんまで……」
 あいつは仲間だし、友達だけど、一緒に戦うとか、そういう仲間じゃない。同じ輪にはいるけど、小日向雄真魔術師団のメンバーか、と言われると何か違う。……どうやって表現したらいいかな。えーと。
「じゃあ、小日向雄真魔術師団とおまけでハチ、でよくない?」
「それ語呂悪くないか姫瑠」
「語呂を良くする為には消せばいいじゃない存在を」
「可菜美さんそれ無限ループっス」
 結局まとまらないじゃないか……と思っていると。
「語呂を良くするなら、「ハチと小日向雄真魔術師団」ならどうかな?」
 そんな楓奈の一声。……ハチと小日向雄真魔術師団、か。
「うん、何かしっくりくるな、それ」
「ハチの名前が先ってのが気になるけど、確かにピッタリかも」
 他の皆も、異論はなさそうだった。
「ねえ、今度みんなでお出かけしない? ハチと小日向雄真魔術師団、全員で」
「柚賀さん?」
「誰主催、とかじゃなくて、みんなで考えて、みんなで一緒に。きっと、楽しいなんて言葉じゃ足りない位の凄い時間になれる」
 楽しいなんて言葉じゃ足りない、か。――そうだろうな。このメンバーじゃ、楽しいなんて言葉じゃ足りない。これだけ素敵な仲間が集まってるんだ。楽しいなんて言葉じゃ説明し切れないな。
「よし、それじゃ折角全員いるんだし、ある程度の計画を――」
「雫ちゃあああああああん!! 大好きだあああああああ!!」
 俺の発案の言葉を、本日二回目の屋上からの叫びが遮った。まったく同じ勢いと言葉だった。――何て言うか、その、あの。
「? 八輔くん、どうして言い直したのかな?」
「いや……あれ、言い直したとかじゃないと思う……」
 疑問顔の楓奈だが、俺にはわかる。――単純に、浮かれて馬鹿になっただけだ、あいつ。
「――なあ、準」
「言わなくていいわよ。どうせ止めたくなったんでしょ、親友」
「うん」
 俺達は呆れ顔で、ハチのいる屋上を見上げたのだった。



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