「全員大人しくしてろ! 余計なことをしやがる奴は痛い目にあうぞ!」
 MAGICIAN'S MATCH決勝戦会場、一般観客席、瑞穂坂学園側。満席となっていたこの応援席を、私設部隊と思われる魔法使いの部隊が取り囲んでいた。人数と罵声等の勢いで強引な掌握をする。
 応援席にいる人間達は突然のことにどうすることも出来ず、ただ大人しく従うことしか出来なかった。学園の生徒達も多く、女生徒の中には泣き出してしまう者まで。
「大人しくしてろって言ってるだろうが! 殴られたいのか!」
 その泣き出した女生徒達に更に怒声を浴びせ威圧をかける男。――ビュン。
「黙ってれば危害は加えないって言ってるだろうが、ビービー泣いてるんじゃ――痛っ!?」
 パコン!――怒鳴っている途中で、後頭部に何かがぶつかる。直後、カランカランという音が足下から。見れば、ビールの空き缶が転がっていた。つまり頭にぶつかったのもこれ。
「ふ……ふざけんな誰がやりやがった!! 舐めてるのかぁ!!」
 明らかに観客席から狙われて投げられた物である。当然怒り心頭になる男。――だが。
「あーあ、折角さっきまで美味かったのに、どっかの馬鹿共のせいで酒が一気に不味くなっちまった」
 その空き缶を投げた人物は、その男よりも遥かに高く――怒り心頭だった。ふらり、と立ち上がり、
「責任取ってくれるんだろうね。あたしのビール、不味くした責任をさ」
 戸惑いも躊躇いもなく、その男に向かってそう言い放った。――七瀬香澄、その人である。
「お前か、これを投げたのは……!! 痛い目に合わないとわからないらしいな!! お前だけじゃないぞ、連帯責任でお前の周りの人間も辛い目に合わせてやろう!!」
 男は怒りを隠さずに、マジックワンドを持ち身構える。
「ふーん。「クリムゾン・タワー」か」
「!? どうしてお前、我々の組織名を」
「前の仕事してる頃から胡散臭い私設部隊だとは思ってたけど、金の為にここまでするか。何の為の魔法なんだか、ったく。――ま、昔のあたしも際どい所だったけどさ」
 だが香澄はその男の罵声に怯むことなくそう言いながら階段を下り、徐々に男に近づいて行く。
「おい、貴様――」
「痛い目に合わせる? 周りの奴らも傷つける? 言いたいこと言ってくれるじゃないのさ」
 パチン。――二本のワンドを繋ぎ合わせ一本にし、グルングルン風車のように回すいつもの癖を見せながら、香澄は男の目前に辿り着く。
「あんたらこそ、無抵抗の人間に指一本でも触れてみ? もしもここにいる瑞穂坂の一般の人間が一人でも傷ついたら――あんた殺すよ?」
「!?」
 最後の「殺す」を言われた瞬間、男の体を信じられない位の威圧感が襲った。頭の中を、実際に殺されるイメージが過ぎった。
(な……何だこの女……!? 普通じゃない……っ!!)
 人数も揃え、布陣も完璧。行動に出てしまえば完全に有利なはずなのに、その威圧に完全に怯えた。呑まれてしまったのだ。――焦りが、男を襲う。
「西巻(にしまき)さん! た、大変なんです!」
 と、そこへ私設部隊の男が一人、焦った様子で駆け寄って来た。その焦りっぷりからして、男と香澄のやり取りには気付いていない様子。
「な……何だ、俺は今この女を――」
「向こうで、メイドの集団が暴れて手がつけられないんです!」
 メイドの集団が暴れている。……一瞬、耳を疑うような言葉に、男も困惑する。
「ば……馬鹿野郎、その位力尽くでどうにかしろ!! 俺はこっちが――」
「違うんです! 俺達も力尽くでどうにかしようと思ったら、全員魔法使いで、反撃に出られたんです!」
「……は? メイドの集団……だろ!?」
「た、確かに見た目は全員メイドなんですが、個々の能力は明らかに俺達より断然上です! 特にリーダー格で指揮とってる女が異常で、何人束になっても勝てない! このままじゃあいつらに全滅させられます!」
 言っていることはわかるが、頭がついてこない内容の報告に男の焦りが増す。――そして。
「……あの」
「っ、何だ、俺は今――」
「つまらない物ですけど、ぜひどうぞ♪」
 コロコロ。――隙だらけになっていた男の背中に、何かが入れられた。
「!? おい、今何を入れた――」
「折角の決勝戦ですし、花火でも打ち上げようかと思いまして。――タマちゃん」
「自分で言うのもあれやけど、汚い花火やで〜」
 ずっどーん!!
「ぎゃああああ!!」「ぐぎゃああ!!」
 ドサドサッ。――背中に入ったタマちゃんが見事に爆発、入れられた当人とメイド集団のことを報告に来ていた人間がノックアウトとなる。
「ははっ、いいねえ大胆で。やるじゃない」
 しっかりと間合いを取ってその様子を見ていた香澄は、軽い拍手を小雪に送る。
「ふふっ、この手の人達に容赦とか手加減とかいりませんしね」
「まったくだ。――さて、美月もあっちで暴れ出したことだし、あたしも行くとするか。小雪、一応あたしは一般客に被害が出るような戦いもミスもしないつもりだけど万が一のことを考えてあんたは客席の護衛を頼んでいいかい?」
「お任せ下さい。攻撃の方、お願いします」
「それこそ任せな。こういう時にああいう奴らを料理するのはチャーハンと同じ位得意さ。――さあ、反撃開始だよ!」 



ハチと小日向雄真魔術師団
SCENE 74  「愛されている、ということ」




「どういうことだ……貴様ら、どうやってこの中に入って来た……!?」
 最前線、杏璃・沙耶ペアの前に増援として現れた嘉田達幸、矢鞘時祢の二名の姿は、敵側からしても予想外の展開だったようで、驚きを隠せない。
「あなた達と同じ方法よ。律儀に並んで順番に転送してるから、二個程拝借したの」
「拝借したって、そんなに簡単に――」
「会場の様子がおかしくなって、速攻で調べたら直ぐに何処で動いてるかわかったからな。悪いけど五人掛かりでボコらせてもらった。時祢のセクシーヴォイスで建物の陰におびき寄せてな」
「方法は言わなくていいわよ!!」
 焦ってツッコミを入れる辺り、事実らしい。
「時祢……アンタ、セクシーボイスって」
「私だって好きでやったんじゃないわよ!! ただ、達幸がこの方法がベストだって言うから、達幸の作戦が外れることなんてないし、何よりじゃんけんで負けちゃったんだもん、仕方ないじゃない!!」
「本当は五人全員分欲しかったんだが、まあ二個でも仕方ない所だ。で、代表して俺と時祢が瑞穂坂側から転送して入って来た、ってわけだ。外三人は危ないかもしれないがシェリアがいれば大丈夫だろ」
「成る程、アンタが考えそうなことね……にしても、自分の彼女に何させてんのよ、達幸……」
「馬鹿野郎、演技だからさせてるに決まってるだろ。本物の時祢のセクシーヴォイスは俺の胸の中だけだ」
「☆▲×%$#@!!」
 時祢、顔面から火山噴火の如く赤面。
「目を閉じればいつだって脳内でリピート再生出来るんだぜ?」
「そんな自慢もしなくていいわよ!!」
「アンタ達、あたし達を助けに来たの? それともバカップル加減を自慢しに来たの、どっちなのよ……」
「当然両方だ」
「迷わず断言!?」
 緊張感のないやり取りに、痺れを切らしたのは当然敵側である。
「フン、時間稼ぎのつもりか? そんなことをしても無駄だ、まともに戦えるのはそっちは既に二人、直ぐに終わりにしてやる!」
 攻撃態勢に入る敵。――だが、まったくそれに動じない男が一人。
「何だ、ばれてたか、時間稼ぎ。――ま、でもこの位稼げれば十分だろ」
「――何?」
 直後、敵四人の足元それぞれに、魔法陣が浮かび上がる。
「悪いな。そっちが手を休めてくれてる間に何もしない程、俺は馬鹿じゃなくてな」
「ぐ……時限式の、トラップだと……!? 詠唱抜き、あの会話の最中にか……!?」
 トラップ魔法が発動し、瞬く間に敵全員の行動範囲が制限される。――敵が驚くのも無理はない話である。四人分のトラップ魔法を時間を懸けているとはいえ詠唱抜き、更に本人は普通の会話を中心になってし続けていた。そう簡単に出来ることではない。
 嘉田達幸。――何処か掴み所のない、アイウォッシュ・フロム・セカンドフロアーズのリーダーは、魔法使いとしても十分に一流の素質の持ち主なのだ。
「今だ、行くぞ時祢! セクシーヴォイスアタックだ!」
「勝手に人の魔法に変な技の名前つけないでよ!!」
 行動を制限され、更に精神的に動揺が走る敵を見逃す手などない。――アタッカーである時祢が全力で攻撃魔法を放っていく。
「ぎゃあ!」
「ごはあ!」
「ぐわ!」
「ぶへっ!」
 ズバババァン!――更に達幸のサポートも加わり、敵四人は一気にアウトに。視界から消える。
「ま、ざっとこんなもんでしょ」
「そうだな。――二人とも、大丈夫か?」
「正直、助かったわ……ありがとう、二人共」
「ありがとうございます」
 実際、杏璃と沙耶にしてみれば、「助かった」の一言に尽きるシチュエーションであった。この二人が来なければ間違いなくアウトになっていたし、ここがアウトになれば小日向雄真魔術師団の陣形が全体的に崩れ、チームそのものがピンチに陥っていたであろう。
「気にしなくていいわよ。こんなやり方で負けられちゃ、あなた達に負けた私達だって悔しいじゃない?」
「そういうことだ。こうなった以上、俺達は全力でお前らの味方だ」
 当たり前のように告げる二人。少し誇らしげなその笑顔は、とても頼もしい物だった。
「二人とも、少し休んでろよ。後は俺達でどうにかする」
「ちょ……そんなの無理に決まってるじゃない! 放送聞いてたでしょ!? どんどん敵が追加されてる、戦力が一人でも必要でしょ!? 休んでなんていられないわ!」
「気持ちはわかるけど、今の状態じゃ無理よ、二人共。休んで、回復したらもう一度参戦すればいい」
「でも――!!」
「安心しろよ、杏璃。――小日向雄真魔術師団、愛されてるぜ、お前らが思ってる以上にな」
「……え?」
 意味がわからない。それは沙耶も同じなようで、疑問顔で達幸を見る。
「行動に移したのは紙一重で俺達が一番だったけどな。――似たようなこと考える奴が、他にもいたってことだよ」
「それって――」


「陣形を崩すな! 落ち着いて行動しろ、敵は一人だ!」
 ズバァン、バァン、ドォン、ズガァン!――鳴り止まぬ攻撃音、弾ける魔法波動の残骸。
「ミスティア・ネイド・アルエーズ・フライ」
 ズゴォォォォン!!――激しく迸る風の魔法。
「ぎゃああ!」
「隊長、一人やられました!」
「焦るな! 援軍が直ぐに来る、接近戦に注意していろ!」
 最後方は一番の激戦区になり始めていた。総大将であるハチ狙いで後方にどんどん転送されて来る私設部隊の面々、それをたった一人で抑え続ける楓奈。今も六対一という余りにも過酷なシチュエーションを強いられていた。
「……っ……」
 出来れば移動して合流を図りたいが、失敗する可能性があり、また現状での失敗は致命傷を意味していた。一旦ここを落ち着かせない限り移動は出来ない。でも数に押され、一人では抑えるだけで精一杯。
 流石の楓奈でも、徐々に疲れが出始めていた。
「いいか、今の隊列をキープだ! 敵は強いが、体勢さえ崩さなければ勝てる!」
 相手のリーダー格の男の声が走る。統率は取れており、楓奈一人に対しての陣形は完璧な物だった。――そう、楓奈「一人」に対してならば。
「よし、いいぞ! このまま徐々に行動を制限させるぞ! 左翼から牽制!」
「ふーん、調子ええみたいやけど、後ろは警戒しなくてええの?」
「大丈夫だ、後ろに敵がいないのは確認済みだ、後ろから来るのは援軍だけ……で……?」
「クイーンズ・ケットス・スイッチ・オフト!」
 ズバシュゥン!
「がはっ!?」
「リーダー!? 一体何が――」
「真霧ちゃん、そのまま右に突貫! 挨拶とか宣言とかいらんよ!」
「ナレーションが必要なんですね、わかります!」
「それもいらんわ!! ええから突貫!!」
「あ、はい!――はああああああっ!!」
 ズバァァン!――余計な一言でワンテンポ遅れたものの、更に後方から右翼へと奇襲。あれ程綺麗に出来ていた陣形がリーダー格の男のアウト、右翼の混乱で一気に総崩れとなる。
「やっほー、無事でよかったわ、流石やね楓奈ちゃん」
「この数をたった一人で相手にしているなんて……凄いですね」
 そのままダッ、とダッシュで楓奈の左右に合流する二人。――政苞学園選抜チーム、ブレイブナイツより涼陽奈、東雅真霧の二人である。
「陽奈ちゃん……そっか、外で何とかバリアストーンと転送用のアイテムを奪って瑞穂坂側から」
「そゆこと。みんなで観戦に来てたら何だか急に騒がしくなってな、ウチらは直ぐに行動に出たんよ。で、二個だけ何とか奪取出来てな、ウチのリーダーがウチら二人が行けって」
「東雅真霧、本日は瑞穂坂の、小日向雄真魔術師団の為にこの力を奮うつもりで参りました!」
 楓奈にとっては予想外、そして何よりもかなりの大きな増援である。
「二人共、本当にありがとう。――このままここを落ち着かせたら、他のメンバーとの合流を目指すから」
 この二人のレベルが高いのは楓奈も記憶していた。大きな戦力として数えて、作戦を与えても間違いないであろうことが先ほどの戦いで確実にわかった。
「おっけー、作戦は楓奈ちゃんに任せるで。真霧ちゃんもええよな?」
「御意に!」


「琴理っ、大丈夫か!?」
「ああ、何とか……な。ふふっ、ミッコと一緒に練習しておいてよかったよ」
 周囲にいた敵を一気に殲滅した直後、ふらついて倒れかけた琴理を俺は急いで抱き抱えた。
 ――謎のアナウンスが流れて、状況もしっかり把握出来ないまま、俺達は否応無しに戦闘に巻き込まれた。明らかに相手は学園の生徒じゃない、何処かの魔法使いの部隊。
 四対二と数としても圧倒的に不利だった中、状況を打開する為に琴理は強引に限界を超えた。
 琴理が使ったのは「移動術」。聖さんや楓奈が得意とするあれだ。琴理は今までも似たような技は使っていたがあれは簡易的な移動術であり、一瞬だけ速度を上げるもので聖さんや楓奈のようにその速度を維持し続けるものではなかった。で、前々から練習していた本格的な移動術を初めて実戦で使ったというわけだ。
 ただ使っただけならよかった。ただ琴理の使用目的は不利な状況の打破。まだ完成して間もなく、体も慣れきってない中、使い続けてしまった。結果としてその速度からの攻撃、俺とのコンビネーションはかなり強力になり敵は退けられたものの、反動が来て倒れかけて急いで俺が支えた、というわけだ。
「とりあえずここは一旦離れよう。幸いフィールドだから隠れられそうな場所はあるしな」
「ああ」
 琴理を支えながら俺は琴理が一時的に休めそうな個所を探して移動。
「……逆にお前に迷惑をかけてるな、私。まだまだだな」
 と、移動の最中にそんなことを言ってきた。
「迷惑なんてとんでもない話だろ……お前の頑張りがなかったらさっきの戦いもどうなってたかわからなかった」
「「どうなってたかわからなかった」、じゃ駄目なんだ」
「……琴理?」
「私はこっちに戻って来て、お前の為に戦うって決めて来たんだ。お前を助けるって決めて来たんだ。いつだって、どんな時だって」
「お前――」
「私、もっと強くなるから。この手で、ちゃんとお前の為に戦えるように、もっともっと強くなるから。絶対に強くなるから。だから――」
「――ああもうっ!」
 ガバッ。――気付けば俺は琴理を正面から抱き締めていた。
「雄真……?」
「お前、そんなに俺を駄目男にしたいのか?」
「違う、そういうことを言ってるんじゃ」
「ならそんなに背負うなよ。お前が俺の為に戦いたいってんなら、俺だってお前の為に戦いたいに決まってるだろ」
「……それは」
「完璧なんて目指すなよな。俺がピンチな時はお前が守ってくれて、お前がピンチの時は俺が守る。それでいいじゃん。俺にだって見せ場、作らせろよ。俺達、パートナーだろ?」
「……うん」
「なら一緒に戦うぞ。俺はお前に守られたいんじゃない。お前と一緒に戦いたいんだ」
 琴理を抱き締める腕の力を、少しだけ強めた。――腕の中の俺に身を預ける健気な存在が、愛しかった。
「……本当にまだまだだな、私。お前なら、そういう風に考えてるってわかってたはずなのに」
 そう言って琴理は少しだけ笑うと、俺に抱き締められてるだけの状態から、琴理も腕を伸ばし俺に抱き付く形に変わる。
「ありがとう。そう言ってくれるお前の為にも、やっぱり私、強くなるよ」
「俺も、そう言ってくれるお前の為にももっと強くなるさ」
 そう言って、二人で目を合わせて、軽く笑った。――そう、お互い強くなればいい。どっちかが強い、どっちかが守るじゃなくて、二人で強くなればそれでいいんだ。パートナーって、そういうものじゃないか。
「なあ、雄真」
「うん?」
 俺が返事をすると、琴理は俺の背中に回していた手を、俺の頭と首の後ろへずらし、俺を引き寄せ、
「っ」
 そのまま――キスを、してきた。重なり合う俺と琴理の唇。
「――っておい琴理!?」
 気付いて離れた時にはもう手遅れ。完全にしてしまった後。……やってしまいましたよ俺。久々にやってしまいました。春姫がいなくてセーフ――じゃなくてだな!!
「親愛なる者への、愛情の証だろ?」
「でっ、でもなあ」
「そんなに気にしないでくれ、私がしたかっただけだから。……まあその、一応私のファースト・キスだったりはするが」
「んなこと言われて気にしないで済ませられるかよ!?」
 琴理のファースト・キス、ゲットだぜ!!……って違う。駄目だろ俺。
「――それでいいのさ、雄真」
「クライス……?」
「ハーレムキングと言えども、現実問題出会って直ぐに色々やったりドーン! みたいになるわけじゃない。こうしてゆっくりと愛を育んでだな」
「何の話をしちゃってますかお前はそこで!?」
 と、定番のボケツッコミが走った時だった。
「――探せ! まだまだその辺に瑞穂坂の生徒がいるはずだ!」
「っ!」
 明らかに小日向雄真魔術師団の殲滅を狙っているような会話が。
「アナウンスにあったように、敵がどんどん追加されてるのか……!!」
 さっき四人倒したばかりなのに、遭遇が早過ぎる。機械的なアナウンスが告げるように、どんどん敵が追加されているということ。……かなりマズイ。今遭遇したら、それこそ……!!
「希望を捨てるなよ、雄真、琴理。外にも頼れる人間が来ているはずだ。奴らなら必ず今の状況を打破してくれる。信じて、それまで持ちこたえるんだ」
「クライス……そうだよな」
「現状、戦闘は厳しい。出来る限り気配を殺して耐えるしかない。――琴理、貴行ならその手の魔法が」
「ああ。その位なら今でも出来る」
 ボウッ、と一瞬俺達の周囲の空気が変わる感覚。琴理の気配を殺す為の魔法だろう。後はこれでどれだけ持つか。琴理が回復するまで持つか。
「…………」
 いざとなったら、俺一人ででも戦わなくちゃいけない。――覚悟を決めた、その時だった。
「!?」
「な……っ!?」
 不意にズドン、という物凄い重い威圧感が走った。恐らく学生レベルじゃない、相当の実力者の。徐々に、確実にこちらへ近づいて来ている。――そして。
「!?――ぐは!!」
「ぎゃあ!?」
「ぐほぉ!?」
「ぬわっ!?」
 ――そして、響き渡る悲鳴。連続で聞こえてくるそれは、明らかに短時間に連続でアウトにされているのを伝えてきていた。恐らくは先ほど聞こえて来た敵の部隊だろう。……敵をアウトにさせている、ということは。
「――警戒、解いて大丈夫だと思います。周囲の敵は殲滅しておきましたから」
 そんな言葉と共に、俺達の前に姿を現したのは、
「え……千縞さん!?」
 聖・華能生魔道士軍代表、そして華能生尊氏の従者である千縞青芭さんだった。試合前後で会話した時にはなかった謎の模様が右目と右腕の回りに現れている。あれがクライスや小雪さんが言っていた神道の力の証拠だろうか。
「お久しぶりです、小日向雄真さん。我が馬鹿主の命により、あなたの救援に参りました」
 相変わらず淡々と語る千縞さん。――って、
「救援……?」
「――成る程な」
「クライス?」
「先ほど言ったばかりだろう? 外の人間が必ず状況を打破してくれる、とな。敵とて転送装置とバリアストーンの所持でこちらへ来ているのであれば」
「そうか、それさえ敵から奪ってしまえば」
「こちらからも中に救援が送れる、ということさ」
「仰る通りです。それで私が中へ。必ず小日向雄真さんはお守りしろと」
 実にありがたい話だ。あの時聞いた話では千縞さんは相当の実力者。さっきの威圧だけでもかなりの物だ。俺達にも希望が見え始めた。……のはいいんだが、俺としては少し気になることが。
「あのさ、一つ聞いてもいい?」
「ええ、どうぞ」
「さっきから会話の端々に「小日向雄真さんを守る」、つまりやたらと俺個人がフィーチャリングされてる気がするんだけどそれって気のせい?」
「気のせいじゃありません。それが主の命令なので」

『フハハハハ!! よいか青芭、必ず小日向殿をお守りするのだ!! お前の力は今は大切な物を守る為にある力となった!! 愛すべき人を、未来の夫をその手で守ってくるがよい!!』

「とのことで」
「いやとのことで、じゃなくてもしかしてあの姉弟まだ千縞さんと俺を結婚させるつもりなわけ!?」
「いえ、あの馬鹿姉弟とその両親もですが」
「淡々と増えてるし!?」
 両親もて。家族揃ってあんな感じなのか華能生家。
「ですので、後は小日向さんの意思次第です。私としてはお世話になっているし忠誠を誓っている身、従う他ありませんから。身も心も捧げる覚悟は既に」
「しなくて大丈夫だから!!」
「我が主も、美少女ならいつでも抱く覚悟が」
「ないですよクライスさん!!」
「私も……その、雄真だったら、構わないからな?」
「さり気なく対抗意識燃やすのも止しましょうね琴理さん!!」
 どいつもこいつも表情一つ変えずに言ってくる辺りある意味怖い。特に千縞さんは発言一つでマジで結婚する羽目になりそうだ……気をつけねば。
「――それで、今回護衛するに辺り、尊氏様の命令によりいくつか小日向さんに確認したいことがあるのですが」
「俺に確認したいこと? その言い方からするに千縞さんじゃなくて華能生尊氏の方が?」
「はい。構いませんか?」
「うん、それは構わないけど」
 助けて貰う身だ、そちらの動きに合わせる位のことはしなければ。相手は戦闘のプロみたいだしな。
「ではまず一つ目。――小日向さん、お付き合いしている女性の方がいらっしゃいますか?」
「へ? ああ、いるけど」
 何の質問だこれ?
「一般人の方ですか?」
「うん、そうだけど……あの?」
「そうですか……一般人の方なら襲撃はしないでおきます」
「はい!?」
 今何かとても物騒な発言を耳にしてしまったんですが。襲撃とか。
「続きまして。――好みの女性の外見、スタイルに関してですが」
「いやあのさ、この質問って」
「千縞青芭、スタイルならば我が主はやはりボーダーラインとしてバストサイズは最低でも八十は欲しい所だ」
「俺の背中勝手に決めて勝手に語るな!!」
「最低八十……私はセーフですね、わかりました」
「何が!? ねえ何が!? っていうかこの質問何!? 護衛に関する質問じゃないの!?」
「尊氏様が確認しておけと仰るので。私も今別に確認することでもないとは思うのですが」
 余程あいつは俺と千縞さんを結婚させたいらしい。
「では最後になりますが、親しくなった女性はどのようにお呼びになってますか?」
「……その質問をしてくるということは」
「名前で呼び合うようになってこいと」
 …………。
「……もしもさ、もしもだよ? 断るとどうなる?」
「泣きます。――尊氏様が、目の前で」

『うおおおおおおお!! すまああん、すまない青芭ぁぁぁ!! この私がああ、不甲斐無いばかりにいいいい!! 小日向殿、せめて、せめてこの私の命と引換にいいいいい青芭のことおおおおおぉぉぉぉ!!』

「多分信じられない位面倒なことになりますけど」
「……うん、俺も何となく想像ついた。大して関わり合いないのに」
 わかり易い奴だったからな、色々な意味で。
「まあ、呼ぶ位構わないから、呼ぶよ……」
「では、呼び捨て、「ちゃん」「たん」のどれかで」
「……とりあえず「たん」は無理」
 どんな阿呆だ。「たん」て。
「何かそこまで親しくもなってないのにいきなり呼び捨てもなあ……「ちゃん」かな」
「承知しました、ではそれで。私は立場上「様」になります、ご了承下さい」
「何かもうお好きにどうぞ……」
 救援に来て貰ってるのに余計に疲れるのは気のせいじゃないだろうな。何故だ。
「それでは参りましょう。一応私はあの程度のレベルなら六、七人位なら同時に相手に出来るとは思いますが、それでも同じ場所に止まり続けるのは危険ですから。――お連れの方は大丈夫ですか?」
「私は大丈夫だ。お前らが馬鹿な話をしている間に大分回復してきた」
「本当にすいません琴理さん」
 とりあえずおかしくなる前に俺が謝っておいた。何故俺が謝らなきゃいけないんだろうとか考えたら負けだ、うん。
「真面目な話、二人共急ごう。これで俺達は三人、特に千縞さん……青芭ちゃんの存在はこちらにとっては大きい。他のメンバーが心配だ」
「ああ」「ええ」
 大きな戦力、希望を貰った俺達は、勝利を目指して、再び動き出すのだった。


「メルギ・パル・ファイ・シュターン・ジスディア・イルモンド!」
「シャイア・ワットル!」
「サンズ・ニア・プレイジャム・アウト!」
 交差するように織り交ざるように飛び交う三人の魔法。順番に可菜美、敏、姫瑠。――最前線一歩手前中央部分にいた三人も、否応無しに私設部隊との戦闘に巻き込まれていた。
「決勝戦キツイだろうなって思ってたけどこんなにキツイなんて思ってなかったぞ畜生っ!」
「余計なこと喋る余裕があるなら戦闘に集中しなさい! 三人の連携は取れてる、このままなら負けない!」
「頑張ろう、絶対にこんなことで負けられない!」
 いつもの可菜美と敏のツーマンセルに姫瑠を加えた即興のスリーマンセルだったが、思った以上に綺麗に機能していた。この辺りは姫瑠の柔軟性、敏の援護の上手さが光っているせいである。
「クソッ、こいつらただの餓鬼のクセに!!」
 数は三対四で私設部隊の方が一人多かったが、そもそもの才能、連携の上手さが光り、優勢なのは瑞穂坂側になりつつあった。
「あ? ウチのお嬢様に向かって「ただの餓鬼」とはいい度胸してんなコラァ」
 そして――決定打が、撃たれる。
「あの子達、ただの餓鬼じゃないわよ? それが見抜けないあなた達が間抜けなだけよ」
「――っ!?」
 ズガァァァン!!――まるで前もって台本に描かれていたかのような綺麗な連携攻撃が決まり、敵が一気に二人アウトになる。
「けっ、ぬるいな。普通の私設部隊ってこんなもんか?」
「ご無事で何よりです、お嬢様。お友達の方々も」
「タカさん、クリスさん!」
 MASAWA MAGIC、ナンバーズよりタカ、クリスの二人である。
「真沢さんの……知り合い?」
「うん、ウチのパパの会社の特殊部隊の人。実力は確かっていうより凄いから」
「つーか、父親の会社に特殊部隊の人がいるとか凄いな……」
 初対面の可菜美と敏は驚きを隠せない。無理もない話ではあるが。
「三人共、この場は私達が抑えますから、今の内に出来るだけ体力の回復を。外の様子、中の様子からしてまだ何かあるかわからない」
「ついでによく見ておけよ、お友達二名。ツーマンセルって何なのかってのを教えてやるぜ」
 あらためて残った敵とタカ・クリスの二人が対峙するような形になる。
「貴様ら、何者だ……!?」
「MASAWA MAGIC特殊魔法使い部隊『ナンバーズ』NO.V、瀬良孝之」
「同じく『ナンバーズ』NO.W、クリスティア=ローラルド」
「MASAWA MAGIC……!?」
「いい機会だから教えてやるよ。お前ら、どうせ力尽くでどうにか出来るって思ってたんだろ?――テメエらみたいなのがどれだけ集まっても、力なんざ言えねえんだよ」
「圧倒的不利を覆してこそ、本当の力。――思い知るといいわ、自分達の弱さをね」
 その言葉を封切りに、戦闘の火蓋が再び切って落とされた。
「ティマリィ・アームラス!」
「ジェ・イレイン・クォーツ!」
 見事なツーマンセルで、一気に敵を追い詰めていくタカとクリス。
「凄え……何だあの人達……」
「私達のツーマンセルなんて、あれに比べるとお遊戯レベルね……」
 流石にお遊戯レベルは大げさだが――それでも、敏と可菜美の目に映るタカとクリスのツーマンセルは自分達よりも確実に上、相当の物であることが感じ取れた。無駄一つない動き、何の合図もなしに取れるあまりにも精密な連携。
 必要以上に鑑賞する余裕もなく、気付けば敵は既にアウトにされていた。
「はい終了。――あらためましてお嬢様、ご無事で何よりっス」
「社長の命令で、事態の収束及びお嬢様の護衛に参りました。――社長の方には陽平(ようへい)くんと美奈子(みなこ)がついてますのでその辺りはご心配なく」
「うん、ありがと、二人共」
 ザッ、と綺麗に並び、姫瑠にそう挨拶する二人。当たり前の笑顔で応対する姫瑠。
「……凄え」
「…………」
 その光景もまた、敏と可菜美の目には新鮮であった。――姫瑠がお嬢様であることは知ってはいたが、いざ実際に目の前にすると驚きである。
「――雄真はどうして神坂さんを選んだのかしら? 真沢さん、性格も凄い良い人だし、心底雄真を好きでいるし、ああしてお金もあるし。二択だったら真沢さんじゃないの?」
「いやお前その結論は極端だろ……」
 そんな小声での会話を他所に、タカとクリスの状況の説明は続いていた。
「外は外で戦闘が激しくなってます。全滅させりゃ戦闘は収集するでしょうけど、時間がかかりすぎる」
「見る限り、相手側が欲しいのは試合での勝利という結果。つまり逆に言えばこの状況下でも瑞穂坂学園が試合に勝利してしまえば事態は一気に収束に向かいます。――ですので、私達はこのフィールド内で敵総大将を一気に狙います」
「お嬢様とお友達は戦闘は無理にしなくて大丈夫なんですが、このまま俺らについて来て貰えますか。ここで待機よりもその方が守り易いです」
「そういうことなら。――二人共、それでいい?」
「ええ、私は異論はないわ。いざという時戦う位の体力はまだ全然残っているし」
「俺も同じだ」
「オーケーです。――んじゃ、行きましょうかね」
 タカ、クリスを先頭に、五人の集団は、一気にフィールドを前進し出したのだった。


 ズガァァン!!――激しい爆発音が辺りに響く。
「ぎゃあっ!」
 同時に耳に届く悲鳴は、その人間がアウトになったことを察するには十分の物だった。
「とりあえず、周囲にいた敵は今ので全部か……友香、大丈夫か?」
「ええ……元気一杯、ってわけじゃないけど、ダメージは多くない。大丈夫よ」
 さてこちら、小日向雄真魔術師団最前線より、土倉恰来と相沢友香お二人である。敵私設部隊の第一波を二人で何とか撃退した所である。
「考えたくはないけれど……最悪の事態が起こってるみたいね」
「ああ……このまま闇雲に戦ってたらアウトになって終わりだ。今の内に次の行動に出ないとマズイな」
 頭の回転は速い二人である。冷静に今の状況を認め、次の行動について考えていた。――ズバババァン!!
「っ!?」
「クソッ、次の行動に関して考える暇も与えるつもりはないってことか……!!」
 迸る鋭い魔法波動を前に、後退しつつ再び戦闘態勢を取る二人。――直後、二人の前に姿を見せたのは。
「あなたは……!!」
 先ほどと同じ数名の私設部隊の人間と一緒に出て来た中に、唯一見覚えのある顔。
「やはり、ただ鍛えただけでは勝てなかった……致し方ないということか」
 許久藤学園選抜監督である、黒山であった。――試合前に挨拶に来ていたのを、二人とも覚えていたのだ。
「学園の先生、監督が率先してこの戦闘を促してるなんて……!!」
「フン、大人は君達のように夢だけを見ては生きてはいけないんだよ!!」
「だからって、現実を見た結果がこれだって言いたいんですか!? こんなやり方っ!!」
「なら教えてやろう、その現実に君達が抱いている夢など簡単に押し潰されてしまうということをな!!」
 友香と黒山の激しい言葉のぶつけ合い。決して分かり合えないその言葉達は、激しく衝突しては散っていくだけ。
「――よせ、友香」
 そして、そんな衝突の横で、静かな怒りを溜めこんでいたのは――恰来であった。
「俺はあんたみたいな人間が大嫌いだ」
「…………」
「自分の考えで生きて行くのはいい。自分の考えを貫き通したいのもいい。俺も似たような物だ。――だがそんな人間が、偉そうに教壇に立って人に物事を指図するようなことをするな。他人のことをわかろうともしない癖に、偉そうに人に指示を出すな。そんな奴に限って、必要以上に俺に対して余計なことを言ってくる。今までだってそうだった。資格がない人間に限って、偉そうなことをダラダラと言ってくる。俺をわかろうとするわけじゃなく、力で俺を抑えようとしてくる」
 口調こそ淡々としていたものだったが、その言葉の裏に込められた怒りは、確実に見え隠れしていた。――そして、
「もう一度言う、俺はあんたみたいな人間が大嫌いだ。――捻り潰す」
「――っ!?」
 最後のその一言で、まるで心臓を貫かれたような細く、鋭い威圧が黒山を襲う。一瞬、ほんの一瞬だったが、正にそれは「恐怖」を感じさせるものだった。
「くっ、餓鬼の癖に……!! ならいいだろう、思い知らせてやる、お前の嫌いな大人の人間の手口というのをな!」
 両者がザッ、と身構えた、その時。
「なら――折角ですから、それは大人の私がお受けしましょうか? 黒山先生?」
 その声は、友香と恰来の後ろから聞こえて来た。ザッ、ザッと力強い足取りで、二人を守るように前に出る。
「成梓先生!」
 悠然と立ちはだかるその人――瑞穂坂学園教師、小日向雄真魔術師団監督、成梓茜である。
「土倉くん。あなたの言いたいことはわかるわ。そういう人間がいないわけじゃない。残念ながら結構な割合で存在しているのが現状かもしれない。……でもね」
 茜は軽く振り向き、優しい笑顔を恰来に向ける。
「教師として、理想の姿を目指して頑張っている人間だって、きっと少なくはないわ。私は少なくともそういう教師でありたいと思う。あなた達を守れる存在でありたいと思うから。だから――信じることを、諦めないで」
「……成梓先生」
 恰来は一度気分を落ち着かせるが為のように、大きく息を吹く。――感じる茜の存在は優しく大きな物であった。
「御薙先生と式守さんを一か所に置いて抑えている所を見ると、御薙と式守さえ押さえていれば瑞穂坂は怖くない。……そんな風にお考えなんですよね?」
「…………」
「心外ですね。これからは成梓の名前も覚えておいて下さいね?――まあ、既に今回に関して言えば手遅れですけど」
 穏やかな口調とは裏腹に、高まっていく茜の魔力、気迫。ビリビリと伝わる威圧感。
「約束通り、素晴らしい決勝戦にしましょう? 黒山先生」
 圧倒的存在感を放つ茜。――だが黒山もそれに怯むことはなかった。
「……私も伊達や酔狂で魔法科の教師になったわけではない。成梓だったか、若さ故の勢いだろうが、君のようにまだ若い人間にまだ私……は……?」
 言いつつも黒山の脳裏に何かが引っかかった。成梓。――成梓?
「っ!? 成梓……何処かで聞いたことがある名前だと思っていたが、まさか……あの成梓の娘……!?」
「流石教師、ご存知なんですね父のこと。……でもご安心下さい。父の「本当の才能」を受け継いでるのは弟の方で、私は魔力云々の基礎的な物しか受け継いでませんから。――最も」
 ギュウウウウン、と一気に茜の前に大きな魔法陣が展開される。
「――あなたみたいな最低な人間を捻り潰すだけなら、私か受け継いだ物だけでも十分過ぎるけど、ね」
「……っ!!」
 ズバァァァァン!!――放射される激しい魔法波動。それを封切りに、再び戦いの幕が開いたのであった。


<次回予告>

「あのドーム、不自然な魔法の層で包まれてるの、わかるか?」
「ええ。――恐らくあれのせいで、試合会場のフィールドも相手側に有利な何かが起きているはず」
「そこまでわかってるなら早い。――俺と君で、あの魔法の層、壊そう。
あの中が落ち着けば全体的に収束に向かう速度が上がるはずだ」

内も外も尚続く激しい戦い!
数々の協力者の力、果たして現状の打開案とは?

「申し遅れました。――法條院家次期当主、法條院深羽様が従者、錫盛美月」
「法條院……」
「観念して頂けるのであれば、メイドとして会場中央まで安全にご案内致しますが、如何致しますか?」

各々が、各々の力を駆使し、決着へと事を運んでいく。
各々が、各々の想いを胸に抱えて。

「ふぅ……どうしても何だかんだで出しゃばらなきゃいけないのよね。そういう運命なのかしら」
「嫌ならそこで座っておればよい。私一人でどうにでもなる」

そして――ついに、試合が動く……!?

次回、「ハチと小日向雄真魔術師団」
SCENE 75 「揺るぐことのない想い」

「わかっています」
「なら――!!」
「それでも――守りたいんです、私達に芽生えた、この気持ち。四人で決めた、この想いを」

お楽しみに。



NEXT (Scene 75)  

BACK (SS index)