「ちょっと……何が起こってるの……!?」
 突如試合会場全体に響き渡るサイレン。当然ここ、瑞穂坂学園側の招待席にもその音は届いていた。ただ事ではないのは明らか。――個室状になっている特別招待席で観戦していた鈴莉は立ち上がり、会場の様子を確かめる。離れたこの位置からでも一般観客席を含め、動揺が大きく走っているのがわかった。
「御薙、お主は念の為にここに居ろ。私が様子を見てくる」
 同じく特別招待席にいた伊吹が立ち上がり、そう鈴莉に告げる。――今までは一般観客席の最前席で他の友人達と観戦していた伊吹だったが、今回に限り「スポンサーの関係者」という理由により招待され、渋々こちらで観戦していた所だった。
「式守さん、くれぐれも気をつけて。何かわかったら直ぐに連絡を頂戴」
「ふん、この程度のこと私一人で――と言いたい所だが、範囲が広過ぎるか。手遅れになるのは不本意だ、言う通りにしよう。お主も警戒を怠るなよ」
 伊吹がそのまま席を離れようとした――その時だった。
「その必要はないですよ、御薙鈴莉さん、式守伊吹さん」
「!?」
 ザザザッ、と部屋になだれ込んでくる人間、数は六。見た目、雰囲気からしても魔法使い。レベルも低くはなかった。
「お二人には、試合終了までここで大人しくして頂きます」
「……どういうことかしら?」
「この試合会場は、我々が乗っ取らせて頂きました。許久藤学園の勝利の為に」
 その言葉で、鈴莉と伊吹は直ぐに全ての意味を察する。
「貴様ら……結果を捻じ曲げて優勝という肩書を手に入れるつもりか!!」
「この試合会場全体は勿論、実際に選手がいるフィールドにも特殊な結界を張りました。アナウンス、記録係も既にジャック済みです。試合後は、許久藤学園の勝利という事実だけが残ります。余計な証拠は何一つ残らない」
 手際が良かった。――そう感じた鈴莉の脳裏に、もう一つの結論が浮かぶ。
「その様子からして、今までにされてきた妨害――時間差の選手洗脳、総大将の誘拐もあなた達ね」
「ええ。瑞穂坂には何とかして負けて貰いたかった。我々の優勝の為に」
「でも私達は負けなかった。決勝戦まで来てしまった。結果、最後の手段を選んだ。……そういうことね?」
「仰る通りです。あれらの時点で既に敗北してくれていれば、我々はこんなことをする必要もなかったんですがね。これは最後にして最大の手段。――我々は優勝する。許久藤の名を全国に轟かせ、協会の一角にその名を置き、この国の魔法の歴史に革命を起こすのです」
「ふん、何が革命だ。瑞穂坂を、式守を舐めるな。貴様らの革命など、今この場で貴様らごと消し飛ばしてくれるわ」
 伊吹はそのままビサイムを手に取り、身構えようとした。――が、
「止めた方がいいですよ。応援に来ている方々が傷つくのは、不本意でしょう」
「……何だと?」
「そろそろ包囲網も完成した頃でしょう。外を見てみるといいです」
 そう言われ、伊吹と鈴莉は警戒を怠ることなく、今一度外に視線を向ける。
「あれは……!!」
 その先には、先ほどまではいなかった明らかに統率されていると思われる魔法使いの部隊が、瑞穂坂の観客席を取り囲んでいた。人数も少なくはない。
「あなた方が余計なことをすると、無抵抗の一般観客が残念なことになってしまいます。それでも良ければ、暴れて頂いて結構」
「貴様ら……!!」
 怒りに震える伊吹。――だが、横にいる鈴莉同様、手の打ち様がない状態に既にされていた。
「さあ、一緒に決勝戦の観戦でもしましょう。許久藤学園の優勝への道のりを、この目で見届けようじゃありませんか」 



ハチと小日向雄真魔術師団
SCENE 73  「最大の栄光の為の最低の悪意」




「ちょ……何このサイレン……?」
 小日向雄真魔術師団、最後方。法條院深羽、月邑雫、粂藍沙の三人に総大将であるハチ。――突然鳴り響くサイレンに、四人は大小あれど驚きを隠せない。
「何かのエラーとかアクシデント……?」
「だとしたら、決勝戦はどうなってしまうんでしょうか? 中止、延期?」
「うーん、とりあえずアナウンス待とうか。何かしら連絡あるっしょ」
 深羽の意見が最もだったので、四人はそのままその場でアナウンスを待つことにした。――だが、直後会場に響くアナウンスは、四人の想像を遥かに超える内容の物だった。
『許久藤学園、増援部隊追加ノオ知ラセデス。フィールド内ニ三十名追加シマス。数ガ多イノデ氏名ハ省略シマス』
「え……!?」
 誰しもが、自分の耳を疑った。――アナウンスは今までの女性のアナウンスとは打って変わり、機械で作られたような声。そして何より問題なのはその内容。
「増援部隊って……ちょ、え、何!?」
 無論、MAGICIAN'S MATCHにそんなルールはない。アクシデントにしては内容がおかし過ぎる。
「どど、どうしましょう!? 何が起きてるんでしょう!?」
「わからない……とりあえず、落ち着いて次のアナウンスを待ってみよう?」
「うん……雫の案が妥当だと私も思う」
 パニックになる藍沙を宥めるのと、自分の精神状態を冷静な物に持っていく努力だけで、雫も深羽も精一杯だった。――実際、どうしていいかわからない。
 その場に待機し、次の変化を待っていた、その時。――変化は、最悪の方向で起きる。
「――え?」
 バシュゥン!――そんな音が響いたかと思うと、気付けば自分達を扇状に取り囲む、見覚えのない大人達が。見た目からして全員魔法使い。
「っ!!」
 しまった、という想いが直ぐに深羽と雫の脳裏を過る。同時に浸透する「増援部隊」の意味。――直ぐに応対の体勢に入ろうとするが、それよりも一段階早く、相手側は攻撃態勢に入っていた。――ズバァン!
「っ……って、あ!!」
 そして――その相手側よりも更に一段階早く、攻撃態勢に入っていた人物の先制攻撃で、戦いの火蓋が切って落とされる。
「四人とも、まだダメージはない?」
「瑞波さん!」
 楓奈である。
「ここは私が食い止めるから、四人はそのまま前線へ上がって。真正面を進めばそう時間もかからないで屑葉ちゃんと合流出来るはず。屑葉ちゃんと合流しても、そのまま進み続けて、他の人との合流を続けて。――急いで! ここを押さえたら、私も直ぐに追いかけるから!」
「わ……わかりました!」
 楓奈に促され、早足で四人はこの場を後にする。
 増援部隊のアナウンスを耳にした時点で、楓奈は直ぐに大よそのことを察していた。これは何かのアクシデントではなく、相手チームの大きな策略。
 ここまで大がかりな策略を仕掛けてくる理由は簡単、優勝。優勝すれば色々な功績が学園にもたらされる。だから今までも色々なことをされてきた。今回はその集大成であろうこと。
 つまり、具体的なことを言えば、どんな方法を使っても、決勝戦で勝利した、という結果が相手の目的。
 決勝戦に勝つ、すなわち相手の総大将を倒す。――真っ先に狙われるのは、よってハチ。
 ここまで大がかりな仕掛けを用意してくるのだ、当然最後方近くに転送出来るような仕掛けも用意してあるだろう。よって、最後方、総大将とその護衛三人はあまりにも危険だ。――その結論に瞬時に達した楓奈は即、最後方へ下がって来たのである。
(相手のレベル、高い……学園の人間じゃなく、学園が雇った私設部隊……)
 そして更に直ぐに相手の実力も感じ取る。――相手は皆、戦闘に適した魔法使い。今この場にいるのは六人だが、何処となく連携も取れていそうな雰囲気も感じ取っていた。――生半可な戦い方では、数で負けてしまうだろう。
「こんなやり方、許すわけにはいかない。――容赦、しない」
 抑揚を抑えたその奥に、小さな、でも確実な怒り。――翼を広げ、全力で戦うことを決意する。
 一対六の、厳しい、覚悟の戦いが幕を開けたのだった。


「増援部隊……成る程、そういうことであったか……!!」
 フィールド、中央よりも少し前線、左サイド。突如現れた四人の魔法使いの存在に、信哉・春姫の二人は状況を察した。戦闘態勢に入る二人を、四人がやはり扇状に囲む。
「急いで中央の方に移動して、合流を目指した方がいいかも。何があるかわからないから、少ない人数で動くのは危険」
「うむ。だが――どちらにしろ、今この現状は片付けない限りどうにも出来そうにないな」
 敵のレベルは、決して低くはないことを二人は感じ取っていた。気を抜いたり、一つ間違えたら呆気なく追い込まれ、負けてしまうであろうことも。
「おい、女の方、随分といい女だぞ」
「よし、あの女は俺がやるぜ」
「おい、ズリーぞ、俺が最初に目をつけてたんだ!」
「馬鹿野郎、ここは年上の俺に譲れお前ら」
 相手は四対二で余裕があると判断したか、そんな会話をしていた。
「神坂殿。――本来ならば、決勝戦という舞台で、純粋なる勝利の為の凌ぎ合いの為に使うはずの技であったが」
「ええ。――見せつけてあげましょう、私達の力、瑞穂坂の力」
 だからこそ、尚更負けられない。――二人の答えは一致した。横に並んでいた状態から、素早く前が信哉、後ろが春姫というフォーメーションに切り替える。
「風神の太刀ィィィィィ!!」
「っ、来るぞ!」
 直ぐに信哉は風神雷神を振りかざし、走り出す。
「ディ・ソル・アダファルス!」
 信哉が走り出した直後、春姫の短い詠唱。――信哉が向かっている前方に、バスケットボール位の大きさの風の塊が生まれる。
「貫けぇぇぇ!! 風神列破(ふうじんれっぱ)ァァァァ!!」
 信哉はそれに向かって風神雷神を突き刺すように突貫。風神雷神に貫かれることでその風の塊は崩れ、そのまま風神雷神に纏われた。――つまり、一時的に威力が底上げされた風神雷神の完成である。
 この二人の合作技が編み出されたのは決勝戦前の合宿時。基礎を伝授したのは瑞穂坂の聖騎士・沙玖那聖である。そもそもワンドに魔法を受け取り威力を上げるというのは聖がツーマンセル時、得意としている技。聖は信哉と春姫を見て、やってみる価値があると判断、基礎を伝授したのだ。
 無論現段階で信哉が聖と同じ勢いで扱えるか、と言えばそれは否である。会得を開始してはいそうですか、で簡単にマスター出来るものではなく、聖とは違い纏える時間も短く、纏える威力も多くなく、更に言えば風神雷神のワンドの属性の関係により纏える属性も限られている。
 だが逆に言えば、そのルールさえ守れば今の信哉にも可能。そしてその信哉のサポートに入っているのは春姫。サポートや魔力のコントロール力に優れる彼女は、今の信哉が扱えるピンポイントの量をピンポイントの場所に放つことが出来たのだ。
「うおおおおおおおっ!!」
「ぐ……っ!?」
 勢いを殺すことなく、突貫する信哉。一番近くにいた敵にまずはターゲットを絞る。
 ――やはり聖と同じく接近戦が可能な信哉であるが、今の彼では聖と比べてしまえば断然聖の方が上、ということにはなる。前述した魔力のコントロールもそうであるし、聖には光の移動術もある。そして何より聖と信哉の経験の差というのは現時点ではかなり大きい。
 だが、そんな現段階の信哉でも、聖よりも有利な点が一つ。
「馬鹿な、こいつ俺の攻撃をワンドで弾いた――!?」
「もらったぁぁぁぁ!!」
 ワンドである風神雷神に備わる、圧倒的な防御力である。多少の攻撃ならワンドの勢いだけで殺すことが出来る為、強引な突貫が可能なのだ。――ズバァン!
「がはぁ!!」
 案の定、真正面からの攻撃をかわすことなく強引に突破されると思っていなかった敵の一人は、普段よりも威力を上げられている風神の太刀により、綺麗にノックアウトする。
「調子に乗るなよ! 背中ががら空きだぜ!」
 残りの敵三人も直ぐに体勢を立て直し、その内の一人が信哉の死角、真後ろから攻撃をする。が――バシュゥン!
「!?」
 信哉は振り返ることはなくとも、彼の背中にレジストが展開、見事に攻撃をガードする。
(まさか……女の方か!? あの位置から!?)
 そう、信哉のレジストを展開させたのは、離れた位置でサポートに徹していた春姫。一定以上距離が離れた相手の背中にレジスト。中々出来る技ではないが、それでも春姫の実力合ってこそ、成功させていたのだ。
「くっ、とりあえずあの女を――」
「!! 馬鹿野郎、その木刀のガキから目を離すな!!」
「背中ががら空きなのは貴様の方だあああああ!!」
 ズバババァン!!――背中のガードを春姫に任せていた信哉は、既に動いていた。
「がはぁ!!」
 春姫に気を取られ、隙が出来た敵に突貫。見事な威力重視の攻撃で、確実にノックアウトへ持ち込む。
 実を言えば信哉と春姫のこの案は、一種の賭けでもあった。いくら春姫のサポートがあるとはいえ一人で四人の中へ突貫は余りにも危険。
 相手側の油断もあった。だが――揺るがない強い精神力が戦闘を優勢に導いた。そう言っても過言ではなかっただろう。
「神坂殿!」
「ええ!」
 勢いを殺してはいけない。――その判断の下、止まることなく戦闘を続行する。二対二という人数的に互角の状況になり、今の二人に負ける要素は見当たらなかった。
「ぐはぁ!!」
「ぐ……ぎゃああ!!」
 ズガァン!!――見事な連携プレーで、そのまま残りの二人もアウトに持ち込む。――MAGICIAN'S MATCHというイベントの上で生まれたツーマンセルだったが、このコンビも連携のレベルは中々の所まで上がってきていた。
「神坂殿、参ろう」
「ええ、他の皆も戦闘を強要されてるかもしれない。急ぎましょう!」
 二人がその場を離れようとした――その時。……ガサガサッ!
「!?」
 後方から、草を踏む音。再び警戒し、二人は身構えるが――
「あれは――」
「加々美さん!」
 息も絶え絶えになりつつも、走ってこちらに向かってくる加々美三津子の姿だった。直ぐに二人は駆け寄る。
「加々美殿、無事か!?」
「大丈夫!? 怪我とか――」
「うん……何、とか……はっ、はあっ……」
 春姫が軽く体を支えると、呼吸を整え、三津子はしっかりと立つ。
「ありがとう、もう大丈夫。――どう見ても生徒じゃない敵三人に囲まれて、何とか撒いてきたの。何発か喰らったけど、バリアストーンが壊れるほどじゃなかったみたい。……琴理ちゃんと、移動術の練習しておいて、よかった」
 この辺りは、素直に三津子の機動力の高さを褒めるべきシチュエーションである。
「二人は……」
「先ほど四人に囲まれたが、何とか撃退した所だ」
「私達が戦った相手も、学生じゃなかったと思う」
「そうなんだ……どうなっちゃってるんだろう」
「いくつか予測は立てられるが、どれもあまり良い予測とは言えぬな」
「何にしろ、他の皆が心配だわ。急いで合流を目指しましょう!」
「うん!」
 三津子を加え、改めて移動を開始しようとした、その時だった。――ビーッ、ビーッ、ビーッ。
「!?」
「また……サイレン……!!」
 嫌な緊張が三人を襲う。――そして、
『許久藤学園、増援部隊追加ノオ知ラセデス。フィールド内ニ十五名追加シマス。数ガ多イノデ氏名ハ省略シマス』
「……な……!?」
 知らせるアナウンス内容は、彼らの窮地を更に追い込む物であった。
「そんな……更に十五人追加って……!?」
「さっき戦ったレベルの人達が追加され続けたら、どんなに頑張っても……!!」
「く……大人しく負けろとでも言うのか……!?」
 負けるわけにはいかない。だが――想いと現実の厳しいぶつかり合いが、始まっていた。


「はあっ、はあっ、はあっ……こんな所で、やられるなんて冗談じゃないわよ……!!」
 最前線、苦戦を強いられていたのは、杏璃・沙耶ペアであった。最前線の為、通常の試合の状態の時から既に激しい戦闘をこなしていたにも関わらず、ここへ来て予想外の敵。
 試合中に一般生徒を退け、直後策略による敵の第一波を退けたが、休む暇もなく第二波との戦闘に強制的に突入。体力、魔力共に圧倒的不利な状態での戦闘は、呆気なく二人を窮地に追い込んだ。
「沙耶……沙耶は、後……」
「私も……もうあまり、余力はありません……」
 杏璃の横の沙耶も、既に肩で息をしている状態。
「柊さん、ここは――」
「後退はしないわよ、沙耶」
 沙耶が全てを言い切る前に、杏璃は沙耶の言葉を遮る。
「ですが、ここで戦い続けても」
「あたし達が下がれば、あたし達が戦ってた相手が別へ行くわ。特に前線にいる人達の。友香と土倉だって戦ってるはずよ。迷惑なんてかけられないわ!」
「柊さん……」
「やるわよ、沙耶。こいつらを倒して、みんなが合流するまで絶対に持ちこたえる!」
 気力が減ることのない杏璃。
「へへ、粋がるのはいいけど、もうボロボロだな! とっとと片付けるぜ!」
「ふん、返り討ちにしてあげるわよ! まだまだ負けない!」
 だが――現実が杏璃を襲う。
「喰らえ!!」
「――っ!!」
 体が、ついて来ない。――自分の思い通りに、魔力のコントロールが出来ない。
「柊さん……くっ……!」
「沙耶……っ!!」
 それは沙耶とてほぼ同じこと。フォローに回りたくても、自分自身でもう精一杯の状態。
(嫌だ……嫌だ、こんな所で、こんなやり方で、負けるなんて……!!)
 滲み出る悔しさ、迫り来る敵の魔法。もう一人の自分が、何処かで覚悟を決めた――その時だった。
「そうはタコのカルパッチョォォォォ!!」
「!?」
 ズバシュゥン!!――杏璃、沙耶の前に突如展開されたレジストが、敵からの攻撃を完璧に防いだ。更には、
「タイム・ブレイルド・レヴォン!」
 ズバァン!!――杏璃、沙耶の横を飛んでいく、魔法の矢。正に的確な牽制攻撃となり、不意を突かれた敵は後退を余儀なくされる。
「ねえ、もしかしてそのタコの何とか、って」
「あの日言われてからずっと使ってみたかったんだ。自分で使ってみるとヤバイぜこれ。格好よ過ぎるだろ。お前も使っていいぜ」
「遠慮するわよ……」
 そんな緊張感の無い会話が、杏璃と沙耶の後ろから聞こえてきた。その会話をしていた二人は、杏璃と沙耶を守るかのように、二人の前に立つ。
「二人共……どうして……!?」
 その二人の姿は、杏璃と沙耶が予想だにしないシルエット。
「随分と苦戦してるじゃない、杏璃? それでも一歩も退かないってのはあなたらしいけど」
「何だかやたらと面白い展開になってるじゃねえか。俺達も混ぜろよ」
 そして、絶望へと追い込まれ始めていた小日向雄真魔術師団にとっての、希望の光の一つでもあった。――直後、会場にアナウンスが走る。
『小日向雄真魔術師団、増援部隊追加ノオ知ラセデス。フィールド内ニ名追加シマス。三年生、嘉田達幸クン。三年生、矢鞘時祢サン。繰リ返シマス、小日向雄真魔術師団、増援部隊追加ノオ知ラセデス――』
 やはり今までと同じように機械の声によるアナウンスだったが――内容は今までとは百八十度違う物。
「始めようぜ。あんたらの決勝戦が増援追加からだって言うなら、俺達の決勝戦は、今これからだ」
「汚い手を使うなら、同じ手を使って返すだけ。簡単でいいでしょ?」
 アイウォッシュ・フロム・セカンドフロアーズより、嘉田達幸、矢鞘時祢の二名――参戦。


<次回予告>

「全員大人しくしてろ! 余計なことをしやがる奴は痛い目にあうぞ!」

完璧に敷かれてしまった瑞穂坂学園への包囲網!
人質は観客に来ていた瑞穂坂の人間全員!?

「本当は五人全員分欲しかったんだが、まあ二個でも仕方ない所だ。で、代表して俺と時祢が瑞穂坂側から
転送して入って来た、ってわけだ。外三人は危ないかもしれないがシェリアがいれば大丈夫だろ」
「成る程、アンタが考えそうなことね……にしても、自分の彼女に何させてんのよ、達幸……」

許されない非道なる手段。
その手段に立ち向かう為に手を貸してくれる新たな仲間と共に、小日向雄真魔術師団は戦いを挑む。

「アナウンスにあったように、敵がどんどん追加されてるのか……!!」
 「希望を捨てるなよ、雄真、琴理。外にも頼れる人間が来ているはずだ。
奴らなら必ず今の状況を打破してくれる。信じて、それまで持ちこたえるんだ」

果たして小日向雄真魔術師団の、試合の行方は!?
そして雄真はどうするのか!?

次回、「ハチと小日向雄真魔術師団」
SCENE 74 「愛されている、ということ」

「なら――折角ですから、それは大人の私がお受けしましょうか? 黒山先生?」
 「成梓先生!」

お楽しみに。



NEXT (Scene 74)  

BACK (SS index)