「――高柳(たかやなぎ)理事長」
 MAGICIAN'S MATCH決勝戦会場、許久藤学園側関係者控室。
「黒山か」
「そろそろ試合開始です。閲覧用の席へ」
「そうか」
 許久藤学園選抜チームの監督・黒山進に促され、許久藤学園理事長――名前を高柳という――が立ちあがり、移動を始める。
「生徒達の具合はどうだ?」
「徹底した指導を行ってきました。学生のレベルではありません」
 黒山がファイル形式の資料を高柳に手渡す。――許久藤学園選抜の選手データだった。
「Class Aが一人、Class Bが十人。呂穂崎史織を始め、育成には成功しています」
「こいつには随分と金を使った。Class A位になっていなければ困る。いやこいつだけじゃない、差はあれどどいつもこいつも大金を使ってかき集めた奴らだ。優秀でなければ困る。――勝って貰わなければ困る」
「はい。――ですが」
「不安要素でもあるのか?」
「瑞穂坂の力は、我々の予想を超えています」
 もう一つ手に持っていたファイル形式の資料も、黒山は高柳に手渡した。――こちらは瑞穂坂学園選抜、小日向雄真魔術師団の選手データであった。
「出場してくると思われる人間は最低でもClass C、その他Class Aが二人、Bが七人、Bの一部は法條院家の娘等既にA並の実力者も含まれています。更に特別枠に至っては」
「Class未所持か。――Class云々の世界で生きていないタイプか」
「恐らくは。……流石に、ここまで揃えられると」
「勝てると断言出来ない、と言いたいわけか。――フン、何処までも癪に障る」
 呆れた顔で高柳はそう吐き捨てた。
「式守が出場不可なら勝てる、そう言ったのは君だったな? だからこそ手を回してスポンサーの制度を見直させたはずなんだがな」
「…………」
 黒山の顔が、苦虫を噛み潰したような顔になる。
「まあいい。君が言っていた「最後の手段」の準備も出来ているんだろう?」
「それは滞りなく」
「私に恥だけはかかせるなよ」
「……はい」
 その後は特に目立った会話もなく、二人の姿も表へと消えて行ったのであった。 



ハチと小日向雄真魔術師団
SCENE 72  「こちらにあって、相手に無い物」




「よっと」
 バシュゥン!――試合フィールドへの転送完了。全員の移動が完了して少ししたらいよいよ決勝戦、試合開始だ。
「流石にフィールドが特別仕様……ってことはないか」
 配置こそ違うものの、風景は今までの試合の時と左程変わらない。――おかげで慣れがあるせいか、緊張も大きくはしないで済む。この位の緊張感が丁度いい。
「っと」
 バシュゥン!――琴理が転送されてきた。もう直ぐ転送も全員分完了するだろう。
「決勝戦、か。泣いても笑ってもこれが最後。――相手もそれ相応の実力だ」
「あー、見せて貰った資料、凄かったよなあ」
 Class AとかClass Bとかずらり。まあウチも似たような物なんだが。相手にして初めてわかる恐ろしさ?
「この前、姫瑠と一緒に楓奈と昼食を食べた時にも少し話をしたんだが、一番凄いのは呂穂崎史織らしい」
 呂穂崎史織。――代表選手として、挨拶に来ていた子だ。
「一年で既にClass Bを取得、その後も成績を伸ばし続け、三年でClass A。許久藤ではかなりの有名人だとか」
「一年でClass B、三年でAで有名人……それって」
「何だただのヤンデレか」
「クライスさん決して春姫はヤンデレではないんですよ!」
 ……多分だけど。
「違うのか? なら落としていいぞ。あれはレベル高い」
「その極端な結論も止めい!」
「……実際、あの女とはどういう関係なんだ?」
「本当に今回は何もないんだマジで信じてくれ琴理!」
 未だに何故に二回も笑いかけてくれたのかは不明。過去のことをどれだけ思い出しても彼女のことは記憶にない。絶対に会ったことない。
「さて、あとちょっとか。――なあ雄真」
「うん?」
「ちょっと、向こう向いててくれないか? 向いたらそのままの体勢で」
「? 何だよ、急に」
「いいから」
 理由はわからないが、とりあえず琴理に言われた通り、琴理に背中を向けた状態で待機。――すると直後、
「……っと」
「!?」
 琴理に後ろから抱きつかれた。ぎゅーっと。思いっきり。
「琴理、え、おい!?」
「そのまま、もうちょっとだけ」
 ぎゅーっと。――それから約十秒後、琴理は俺から離れる。
「……あの、そのさ」
「一回、やってみたかったんだ」
「えっ?」
「よく姫瑠が抱きついてるだろ? その時必ず凄い気持ち良さそうな、安心しきった顔をしてるから、余程リラックス出来るんだろうな、って思って。試合前にやっておきたかったんだ」
「…………」
 来ました。穏やかモード、戦闘モードに続き極まれに出てくる琴理の第三のモード、乙女モード(命名者・俺)。口調は戦闘モードなのにやること言うことがやたらと可愛い。
「うん、リラックス……とは違うけど、気持ちが軽くなれた。――勝手にやっておいてあれだが、ありがとう」
「ああ……その、うん」
 本当に嬉しそうにそうお礼を言われてしまうと何か言いたくても言えないじゃないか畜生。
「あっ、私だけじゃ不公平だから……その、お前がやりたい、って言うなら、私は構わないぞ?」
「っ……い、いや、俺は止めておく」
 今やったら帰ってこれない。試合とかどうでもよくなりそうなので止めておく。――琴理さん乙女モードやばいっす。マジやばいっす。
「雄真」
 未だドキドキが終わらない俺を琴理が呼ぶ。――見れば、握り拳の状態で、俺の方に右手を突き出している。
「私は、お前のせいで負けたとか苦戦したとか、絶対に言わせないようにする。精一杯の、いやそれ以上の戦いを、してみせる」
「……琴理」
 強く、揺るがないその目。――俺も、ゆっくりと自分の右手を突き出す。
「俺も、俺のせいで琴理の足を引っ張ったとか、絶対に言わせない。俺は瑞穂坂選抜の一人、お前のパートナーだ。それ相応の、そしてそれ以上の活躍を、目指す」
 やがて、二人の拳がコツン、とぶつかり合う。――直後、試合開始のサイレンがフィールドに鳴り響いた。
「行くぞ!」
「おう!」
 決勝戦の、MAGICIAN'S MATCH最大の激戦となる試合に、ついに俺は足を踏み入れたのだった。


「――決勝戦、か」
 こちら、小日向雄真魔術師団最前線の内の一組、土倉恰来&相沢友香ペア。試合開始のサイレンが鳴り響き、移動を開始した直後。不意に恰来が呟いた。
「恰来?」
「これで終わりか、と思うと少しだけ残念かもしれない。――何だかんだで、本当に心底、心置きなく戦えるのはこの決勝戦が初めてかもしれないから」
 少しだけ遠くを見るような目で前を見て、恰来はそう口にする。
「――決勝戦が終わって、終わるのはMAGICIAN'S MATCHだけ」
「友香?」
「何も、私達の生活が終わるわけじゃないわ。それこそ、MAGICIAN'S MATCHが終わったとしても、私達は小日向雄真魔術師団なんだから。寂しく感じる必要なんて」
「そうか。――そうだよ、な。……どうしても昔の癖が抜けないな」
「大丈夫。焦ることなんてないわ。――みんなも、私も、傍にいるから」
 優しく笑いかけてくれる友香の姿に、恰来はもう以前の恐怖を感じない。――傍にいる、か。
「――小日向は将来、どうなるのかな」
「え?」
「あいつは、俺の知らないもっともっと高い世界へ行く人間だと思う。そんな気が、以前からしてたから」
「知らない世界、高い世界……そうね。私も、小日向くんは将来、凄い人になれると思うわ。……でも、きっといつまでも、私達の知ってる小日向くんだとも思う」
「ははっ、言われてみるとそんな気もする」
 だからこその、小日向雄真だろう。――その結論は、二人とも口に出さずとも同じだった。
「将来小日向が名家の当主とかになったら、傘下の魔法使いにでもなるかな」
「それいいわね! 私達で、小日向くんを盛り立てましょう」
「正に小日向雄真魔術師団、だ」
 そう言って、二人で軽く笑い合う。――笑い合ったのだが。
「……あ」
 友香は不意に思う。今の発言、よくよく考えてみると将来雄真が名家を設立する→今から何年も先、立派な大人に誰もがなっている→その時まで二人はまだ一緒→既に結婚――
(って何考えてるの私、今はそんなことを考えてる場合じゃないのに!)
 ぶんぶん、と頭を振って気持ちを切り替える。
「? どうした、友香」
「べ、別に何でもないのよ? お味噌汁毎日作りますとかどうでもいいの!」
「は……?」
 さっぱり意味がわからない恰来である。――そんな時だった。
「っ!!」「っ!!」
 敵の気配を感じた。顔を見合わせ、ほんの一瞬、一秒にも満たない時間のアイ・コンタクト。――それだけの時間で、二人の意思、行動を確認。
「アグアス・エイデュール・ゼラ!」
「オーガスト・プリス!」
 ズバァン!――恰来の先制攻撃魔法が、友香のサポートの付加を受け、飛んで行く。アイ・コンタクトだけの確認だったが、二人の意思は完璧に通じ合っていた。
 その速さ、相手――二人組だったが、流石に反応が遅れ、ガードに徹するしかなくなる。その押され気味の状態、言わばチャンスを二人は逃さない。
「オーガスト・ザンダー・ディバクション!」
「ゼラ・クルームス!」
 迷いのない攻撃手入れ替えは更に相手の動揺を誘い、優勢に持ち込む。――二人のツーマンセルの意思疎通の力は、相当の所まで来ていた。色々な物を乗り越えて手に入れた絆は大きく強く。
(大丈夫……勝てる、二人なら……勝てる!)
 揺るがない信頼は、二人を、二人以上の戦闘指数にする。――数々いるペアの中で、最前線の内の一組にこのペアが選ばれているのは偶々ではない。コンビネーションが必要とされるこの試合形式、実力以上にツーマンセルならば意思疎通率が重視される場合があるからだ。二人の意思疎通率は、小日向雄真魔術師団でも相当のレベル。
 堅実な、確実な戦いは、勝利への確実な一歩に繋がり始めていた。


「……最前線の二組、ぶつかり合い始まったみたいだな」
「そうね」
 こちら、小日向雄真魔術師団、梨巳可菜美&武ノ塚敏ペア。――試合が開始して数分経過しただろうか。ハッキリとした波動ではないが、それでもツートップの杏璃&沙耶、土倉恰来&相沢友香、両ペアが交戦に入ったことが感じ取れた。
「……お前、緊張とかは無さそうだな」
「そうね、特にないわ。確かに決勝戦、一番重要な試合だけど試合内容に特別なルールが付加されるわけじゃないし。やることはいつも通り」
 澄まし顔でそう答える辺り、実際にそう思っているであろうことが察せられた。
「何? 可愛らしく緊張しろとでも言いたいの?」
「へ?」

『安心しなさい。試合前に人っていう字を掌に三人書いて飲むのを三百回位やったから。九百人は飲み込んだわ。手が震えてるのも緊張のせいじゃない。飲み過ぎの副作用』

「……いや、今のままでお願いします」
 緊張する可菜美、残念ながら可愛くはなかったが、物凄い傍にいて不安になりそうだった。――どう考えても今の頼りになる可菜美の方がいいよ、と思う敏である。
「私達も交戦まで時間の問題。気を抜かないように」
「ああ、それはわかってる」
 冷静な面持ちのまま徐々に歩を進める可菜美、そして――
「……もしかして、緊張してるわけ?」
「……あー、その」
 その後につく敏は、少々緊張していた。――可菜美、ため息。
「しっかりしなさい。実戦じゃないから、死ぬわけじゃないんだから」
「そりゃそうだけどな」
「いいわ、それじゃこうしましょう。――この試合、勝てたら高溝を好きなだけ殴らせてあげる」
「お前それで俺が頑張るとでも!?」
「ええ」
「普通に肯定してるし!!」
 そんな敏のツッコミが入った、わずか数秒後。
「――っ! 来るっ!」
「!!」
 ズバババッ!!――前方から高密度の衝撃波が二人目掛けて高速で地を這って来る。
「ジスティア・レプス・ユール!」
 バァァン!!――可菜美の攻撃魔法により相殺、激しい爆発が起こる。視界が晴れた先には、
「二人か……!」
 敵の姿が二名。かなりのレベルであることは先の攻撃魔法、対峙して感じ取れる存在感からしても明らかだった。
「可菜美、どうす――」
「あなたはただ私のサポートに徹してくれれば――いつも通りにしてくれれば、それだけでいい」
 どうする、と尋ねかけていた敏の言葉を遮って、可菜美は口を開いた。
「あなたが私の後ろで、いつも通りにしてくれれば、私は簡単には負けない。――信じてる」
 一瞬、ふっと優しく敏に笑いかけ、可菜美はそのまま敏の前に出て身構える。――「信じてる」。その可菜美の言葉が敏の心に大きく響き、同時に残っていた緊張感も消し飛ばしてくれていた。
 ズバァン!!――そのまま、再びの激しい魔法のぶつかり合いで戦いの幕が開く。
(っ……レベルが高い……!)
 それは前で真正面から攻撃をぶつけ合う可菜美が直ぐに感じたこと。――相手のレベルが、二人とも高い。攻撃関係の才能が高い可菜美、敏をサポートに置いて自分は攻撃に専念しているから十分なぶつかり合いが出来ているものの、一対一だったら少し考えないと場合によっては呆気なく負けてしまうかもしれない。――そんな答えが簡単に察せられる程、相手の実力は高かった。
(相手……ヤバイかもな……!)
 それは後ろでサポートに徹している敏も感じている感覚だった。――結構な割合でごり押しで勝てる程の攻撃力を持つ可菜美だが、今回はそんなものは通じないであろうこと。
 お互い一歩も引かない、激しいぶつかり合いが続く。
(……何かしら、この違和感)(……何だ、この違和感)
 そんな中、ほんの一握りだが、可菜美と敏は違和感を感じていた。今までの戦いとは何か、少しだけ違う。自分達に何か問題があるわけじゃない。そうなると敵――!?
「サンズ・ニア・プレイジャム・スリード!」
「っ!!」
 ズバババババァン!!――そんな状況の中、不意に迸る激しく強力な電撃系統の魔法球。
「私はそのまま右側を相手するから、左側お願い!」
「真沢さん!」
 後方から一気に前線に上がって来た姫瑠の合流であった。言葉の通り、そのまま正面を見て右側にいた方の敵と対峙する。結果、可菜美は左側にいた敵に専念、更に敏はサポートのまま、つまり三対二の戦いにチェンジ。
 どれだけ相手のレベルが高くても、Class Aの姫瑠の増援を加えた三人が二人組を相手に負けることはなかった。姫瑠が一人をアウトにし、そのまま可菜美も一人をアウト。
「やった!」
 そのままその場で三人は軽くハイタッチ。
「でも真沢さん、どうして? 前線に上がるには早くないか?」
「私も考えたけど、でもまだ後方には楓奈も柚賀さんもいるから、私は先に援護に上がった方がいいかな、って。決勝戦だし、様子見とかいらないと思うから」
「そうね。実際助かったわ。相手のレベルが高かったから、あのまま勝てたとしても結構な時間と魔力を消費したはず」
 相手のレベルが高かった、か。――敏は不意に、戦闘中に感じていた違和感を思い出す。
「私、とりあえずはこのまま二人と前進して、場合によっては杏璃達、もしくは相沢さん達の援護に行く。一番激しい所の援護に行けばその分こちらの戦力が減る可能性が少なくなる」
「そうね、私もその考えが妥当だと思う」
 そして合流した三人は、そのまま前進――
「――あっ!」
 ――しようとした所で、敏が声を上げる。
「? どしたの武ノ塚くん」
「思い付いたのね、ついに高溝を不幸のどん底に落とす方法を」
「いやお前じゃあるまいし絶えずそんなこと考えないから!?」
「私だって嫌よ絶えず高溝のこと考えるなんて」
「あははっ、確かにそれは嫌かも。――それで、実際どしたの?」
「俺さ、さっきの戦闘中、凄い違和感感じてたんだよ、何かこう今までの戦いとは違うっていうかしっくり来ないっていうか」
「そう――敏もだったのね」
「あ、やっぱりお前もか」
 可菜美、少しだけ驚きの顔を見せ、でも納得のいった顔に。
「それでさ、思った。――多分、この戦い、俺達なら勝てる」
「考えるのはいいけど油断は禁物よ。相手の実力は――」
「そうじゃなくてさ可菜美」
 可菜美の注意を敏は遮る。――そして出て来た答え。
「相手チーム――チームワーク、ないんだ」
「……!!」
 そしてその答えに、直ぐに可菜美は合点がいく。
「何かおかしいなおかしいな、って思ってたんだけど、やっとわかった。――今戦ってた二人組、連携プレーとか全然なかった。それぞれが個別で戦ってる感じだったんだよ。今まで戦ってた相手チームは、どんなペアであれペアはペア、少なからず連携、コンビプレイとかあったけど今回は一切なかった。それが今までと違ったんだ」
「あ……言われてみれば確かにそうだったかも。私の参戦は少しだけだったけど、そんな気はする」
 敏の説明に、姫瑠も合点がいく。
「つまり、連携やチームプレイに重点を置く俺達なら、実力的にも負けない」
「成る程、ね。――個々の実力だけで這いあがって来たチームなのね、敵は」
 チームの連携力の強さは圧倒的に上。その事実は、三人に大きな気持ちのプラスをもたらした。
「それじゃ、見せつけてあげようよ! 小日向雄真魔術師団の、本当の強さ!」
 姫瑠の一声で指揮も上がり、三人は前進を再開するのだった。


「案の定、劣勢か」
 高柳が吐き捨てる。――試合は、少しずつ、ほんの少しずつであったが、瑞穂坂学園側に優勢になり始めていた。
 思えば試合前から何処かそんな気はしていた。瑞穂坂学園とはそういう学園、チームであろうことは何処かでもう察していた。だから高柳が驚く様子はなかった。
「今日、この場で潰すことにしておいて正解だったな。これ以上瑞穂坂に好きなようにされては、私の今後に非常に厄介になるな」
 フン、と今度は軽く鼻で笑う。――そのまま携帯電話を取り出し、コール。
『もしもし』
「黒山か。――勝利を決定付けろ」
『!?』
「わからないか? 実行してしまえ、と言っているんだ」
『し、しかしまだ試合時間も十分に残されてますし、ここからなら』
「君の言い訳なら聞き飽きた。それに、試合を見るのにも飽きた」
『…………』
「何を躊躇う必要がある? 成功すれば、君の功績だ。それとも――今この場で、私に消し飛ばされてしまいたいか」
『っ!!』
「わかるな。――実行しろ。命令だ」
『はい。直ぐに迎えにあがります』
「ああ」
 ピッ。――携帯電話を切り、背もたれに体を預ける。
「フッ、楽しませてくれよ、瑞穂坂学園。ここからが、本当の試合開始だ。――精々、死なないようにな」
 直後、会場全体にブザーが鳴り響きだした。――まるで悪魔の降臨を告げる鐘の音のように、その音は大きく大きく、会場に響いたのだった。


<次回予告>

「ちょっと……何が起こってるの……!?」
 「御薙、お主は念の為にここに居ろ。私が様子を見てくる」

緊急事態発生。
最後の試合で、最低凶悪な策略が瑞穂坂学園を襲う!

「ですが、ここで戦い続けても」
「あたし達が下がれば、あたし達が戦ってた相手が別へ行くわ。特に前線にいる人達の。
友香と土倉だって戦ってるはずよ。迷惑なんてかけられないわ!」

否応無しに巻き込まれていく小日向雄真魔術師団。
各々の強き想いを胸に、戦いを挑むが――

「さっき戦ったレベルの人達が追加され続けたら、どんなに頑張っても……!!」
「く……大人しく負けろとでも言うのか……!?」

果たして決勝戦の行方は!?
非道なる手段に、対抗する手立てはあるのか?

次回、「ハチと小日向雄真魔術師団」
SCENE 73 「最大の栄光の為の最低の悪意」

「さあ、一緒に決勝戦の観戦でもしましょう。
許久藤学園の優勝への道のりを、この目で見届けようじゃありませんか」

お楽しみに。



NEXT (Scene 73)  

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