ピピピピピピ――カチッ。
「んーっ……っと」
 目覚まし時計のアラームを止めて体を起こし、軽く体をほぐし、ベッドから降りる。
「うおっ、いい天気だな」
 カーテンを引いてみれば見事な晴天だった。まさに決勝戦日和か。――そう、今日はついにMAGICIAN'S MATCH決勝戦。色々あったが、今日で全てが決まるのだ。
 俺は着替えを済ませ、リビングへと下りて行く。
「お早う、すもも」
「あっ、お早うございます、兄さん」
 廊下ですももに出会った。
「今朝は早いんですね?」
「まあな。流石に今日の為に早めに寝たし」
 寝不足、ましてや寝坊など洒落にならん。
「……一応確認したいんですが」
「決して春姫を蔑ろにした結果ではないぞ」
 段々慣れて来た。――いいのか慣れるような話で。
「すもも、俺も確認したいんだが」
「はい、何でしょう?」
「早起きすると春姫を蔑ろにしているのではないかと疑われるのなら、これが寝坊とかだと」
「兄さん……結局他の女の方と」
 やっぱりか。
「……つまり、すももに起こして貰う位の俺でいなさい、と?」
「だらしないです兄さん。姫ちゃんの彼氏なら、もっと規則正しい生活を送って下さい」
「理不尽だー!! 何だこの理不尽な妹ー!!」
 どんな行動選んでもマイナスじゃないか。最早俺にどうしろと。
「ほらほら、朝から元気が良いのはいいけど、こんな所で体力を使いきらないようにね」
「お早うございます、お母さん」
「お早う、かーさん」
 つーか俺は好きでやってるんじゃない。……そのまま三人で、朝食スタート。
「でも、ついに決勝戦ね! 頑張ってね雄真くん、かーさんも精一杯応援しに行くから」
「うん、ありがとう……ってあれ? 応援しに来る? Oasisは?」
「臨時休業にしてもらったの、アンケート取ったら応援に行きたいって人があまりにも多過ぎて〜」
 自営業かよ。
「ちなみに、祝賀会の準備が前日の内に終わってるから。もしも負けちゃったら準備台無し」
「わかってる。絶対勝つさ」
 最早俺達の目には勝利しか見えていない。負けなど考えもしない。
「うんうん、その意気その意気。――本当は、勝っても負けてもいいから、悔いの残らないように、精一杯ね?」
「うん」
 負けてもいいだなんて思わないけど――でも、何が起きても悔いだけは残さない。 



ハチと小日向雄真魔術師団
SCENE 71  「決勝戦! 小日向雄真魔術師団」




「おおお……」
 決勝戦の会場は、既に相当の人で溢れていた。甲子園の決勝戦並だ。一般の観客から魔法協会の人、また話によれば各企業のスカウト等、俺の予想を超える種類の人達がここに来ているようだ。
「学園の生徒も、普通科魔法科問わず応援に来てるみたい。来る人数の調査・調整を先生達に頼まれたって、他の役員が泣いてたわ」
「相沢さん。そっか……普通科もか」
 大きなイベントだもんな。いくら学科が違うとはいえ、優勝して欲しいに決まってる。
(俺も……何か少しずれてたら、あっちで応援してたのかな)
 一年前は、まだ普通科だったもんな。――だからこそ、逆に気合が入る。俺は代表選手としてここにいるんだ。その名に恥じない試合をしなければいけない。
「よしっ」
 早めに到着した俺達は、会場の空気に慣れる為、緊張を解す為に外で軽い柔軟体操等をそれぞれがしていた。俺も適度に体をほぐす。……その時だった。
「ほらほら、恥ずかしがらないで行こうって、ね」
「ちょっと、わかったから、行くから背中押さないでよミッコ!」
 そんな声がこちらに近づいてくるのに気付いた。見ればそこには、
「仁科さんに……加々美さん?」
 加々美さんに背中を押され、半強制的にこちらへやって来る仁科さんが。
「どうしたの? 二人とも、俺に用事?」
「麻貴ちゃんが、どうしても小日向くんに話があるって」
 仁科さんの肩に手を置いて、笑顔で加々美さんがそう言ってきた。――仁科さんが、俺に話?
「その……小日向君。お礼が言いたくて」
「お礼? 俺に?」
「ええ。――決勝戦、出場メンバーに選ばれてるのは、あなたのおかげだと思うから。どうもありがとう」
 仁科さんは、そう言って俺に頭を下げて来た。――自分で言っているように、仁科さんは決勝戦、出場メンバーに選ばれている。細かい補足をすれば準決勝にも出場していた。
「ちょ、頭とか下げなくてもいいって!」
「でも――」
「出場メンバーに選ばれたのは、仁科さん本人が頑張って来たからじゃないか」
 あの土倉スパイ疑惑騒動を巻き起こした仁科さんは、あれ以後以前から持っていた性格の刺々しい部分が随分と丸くなり、メンバーに溶け込もうと必死になっていた。今までそういうことをしたことがなかったのだろう、不慣れで不器用さが丸出しだったが、でも一生懸命さはしっかりと伝わり、少しずつ、でも確実にメンバーに溶け込んで来ていた。
 実力的にも自分が、自分だけが、という想いが無くなったのもプラスだったのだろう、成梓先生曰く以前よりも随分バランスの取れたレベルの高い魔法使いになれたとか。その結果のスタメンだ。――仁科さんが、自分で本当に頑張って勝ち取った出場枠なのだ。俺のおかげとかそんなんじゃない。
「でも、みんなが、そのみんなの中心にいた小日向君がいなかったら、今の私はなかったから」
「……仁科さん」
「頑張りましょう、決勝戦」
 仁科さんは、恥ずかしいのか顔を少し赤くしながらも、でも俺に手を出して握手を求めて来た。――俺に、それを断る理由はなかった。
「うん。お互い精一杯頑張ろう」
 握手を交わし、二、三度手を上下させると、仁科さんはやっぱり恥ずかしかったのか直ぐにいなくなる。その背中を、加々美さんと一緒に見送る形になった。
「麻貴ちゃん、照れちゃって可愛いでしょ?」
「変わったよな、仁科さん。――でも、良かった」
 俺と相沢さんが頑張ったことが、正しかったと改めて実感出来たようで、嬉しい。
「そういえば、加々美さん随分仁科さんと仲良くなったんだね。麻貴ちゃんって呼んでるし、仁科さんもミッコ、ってあだ名で呼んでた」
 騒動当時仁科さんのことを聞いた時は、あまり親しくはしてなかった、って言ってたのが思い出された。
「うん。あの騒動以来、頑張ってるのを見て、色々助けてあげてたら」
「へえ……」
 以前の仁科さんを考えたら、あんな風に加々美さんをあだ名で呼ぶっていうのはとても新鮮だ。
「あっ、小日向くんも私のことミッコ、って呼びたい?」
「へっ?」
「私もほら……もう何番目かわからないけど、希望なら小日向くんのお嫁さんになるよ?」
「あのですね」
 楽しそうにそう言ってくる。――思い出した。この人偶にダークネスだった。つーか何番目って。言いたいことはわかるが違え。
「でも、本当に小日向くんならいいよ、ミッコで。こういうのって切欠が難しかったりするけど、逆にふっと思った時だと思うし」
「まあ、それはそうか」
 そう言われてしまうと、拒む理由も無くなってしまう。
「うん、それじゃ俺もそう呼ばせて貰うよ」
「わかった。それじゃ私は……うん、決めた。ゆーくんって呼ぶ」
「……はい?」
 ゆーくん? もしかして「ゆうま」の「ゆう」?
「今更普通に雄真くん、とかあれかな、って。ちょっと一人位捻った呼び方しても面白いかも、って思ったから。私も三津子→ミッコ、だから」
「うん……まあ、別にそこまで変な名前じゃないから構わないって言ったら構わないけど」
「それじゃ、決まり。――決勝戦、私も出場出来て、本当に良かった。頑張ろうね、ゆーくん」
「うん」
 仁科さんの時と同じように、握手。握手が終わると、また後でね、と笑顔で軽く手を振って仁科さんが行った方向へと軽く走って行った。――ミッコ、か。
「下着は水色、スリーサイズは八十四、五十九、八十三」
「クライスさんそういう情報を声に出して再確認するのはどうかと思いますがね!!」
 まあその、何だ。――可愛いけどさ。ゆーくんとかくすぐったいけど。
「ゆーくん……ミッコ……ゆーくん……ミッコ……ゆーくん……ふふっ」
「春姫さんいつからそこに!?」
 最後笑ってる意味がわからない。……わかるけどわからない。
 ――さて、その後、色々な人が激励に来てくれた。
「みんな、最後まで瑞穂坂学園の代表として、胸を張って、誇らしく、頑張って」
 母さん――御薙先生。
「試合中の酒、あんたらの活躍で上手い味にしてくれるんだろ? してくれたらその分、あんたらにとびきりの上手い物、食わせてあげるからさ」
 香澄さん。
「頑張ってね、小日向雄真ハーレム団!」
「チーム名ここへきて違え!?」
 舞依さん(リラックスさせてくれる為だと信じたい)。
「小日向君、決勝戦まで導いてくれてありがとう。私、この場にいることを感謝するわ。――メイドで良かった」
「最後のメイド関係ねえ!?」
「何を言っているの? メイドじゃなかったら私、小日向君に副応援団長に指名されなかったわ。フフフ」
「あなたが勝手にあれはやりだしたんでしょうがああああ!!」
 錫盛さんと、応援団のメイドの皆さん。
「雄真さん、これを」
「これを……って、これタマちゃんじゃないですか」
「試合中、寂しくなったらこれを見て私を思い出して下さいね?」
「いりません。つーかどんな状況ですか試合中寂しくなるとか」
「でもそう言いつつこっそりポケットに仕舞う雄真さんなのでありました」
「事実無根のナレーションを勝手につけないで下さい!!」
「クスン……やっぱり、夜の営みに必要な物でないと受け取って下さらないんですね」
「阿呆かあああああ!!」
 小雪さん。――何だか半分以上の人が応援じゃなくて俺を弄りに来ているだけのような気もするが。
 また予想外の所ではこんな人達も激励に来てくれた。
「よう雄真、随分頑張ってるみたいじゃねえか」
「え……タカさんにクリスさん!?」
「久しぶりね。お嬢様共々、元気そうで何より」
 タカさん――瀬良孝之(せら たかゆき)さんとクリスさん――クリスティア=ローラルドさんは、姫瑠のパパさんが経営する会社、MASAWA MAGICに所属する魔法使いの特殊部隊、通称「ナンバーズ」に所属する人だ。姫瑠の騒動の時に知り合い、お世話になった。
 姫瑠も二人が来たことに直ぐに気付き、俺の所へ駆け寄って来る。
「二人とも、わざわざアメリカから応援に来たの?」
「んー、申し訳ねえけどけど半々ってとこです」
「半々……ですか?」
「社長が日本で仕事があるから、三日前から来日してるの。今回はそれの護衛。――最も、社長は半ば強引にこの時期に日本での仕事を詰め込んでたみたいだから、最初から決勝まで来たら応援に来るつもりだったみたいだけど」
「え……じゃあ、もしかして……」
 タカさんとクリスさんが、ほぼ同時に観客席のとある方向を促す。俺と姫瑠が視線を動かす。――観客席なのでその距離は開いていたが、確実に目が合った。
「姫瑠ぅぅぅぅぅ!! パパだぞおおぉぉぉぉぉ!!」
「ぶっ」「ぶっ」
 直後パパさんは叫び、俺と姫瑠は吹いた。
「頑張れ姫瑠ぅぅぅ!! パパは、パパは精一杯姫瑠の為にここで応援するぞぉぉぉぉ!!」
 他にもナンバーズの人がいるようで、左右で恥かしそうに姫瑠のパパさんを宥めていた。
「穴ガアッタラ入リタイ」
 そして試合前に姫瑠のテンションはガタ落ちした。言語がやけに片言になってた。――本人は単純に応援に来ているつもりなのだろうが、明らかに姫瑠にはマイナスだ。……でも。
「……親子だよなあ。よく似てるよ、二人」
「何処が!?」
「ああやって回り見ないで叫ぶ所。お前もよく叫ぶじゃん、雄真くーん、大好きー、とか」
「うっ」
 痛い所を突かれたようで、姫瑠が言葉に詰まる。――その様子を見て、タカさんとクリスさんが笑った。
「それじゃ、私達はこれで。お嬢様、雄真くん、健闘を祈ってます」
「頑張れよ。ここまで来たんだ、優勝しとけ」
「ありがとうございます」「どうもありがとう」
 二人はそのまま、観客席の方へ戻って行った。
 そんなこんなで、色々な激励を俺達は貰っていた。リラックス出来たし、何より俺達を応援しているから来てくれていることは、痛い程わかる。お陰でより気持ちが引き締まった。
 さてそろそろ一度控え室に戻り、最終ミーティングか……と思っていると。
「成梓先生、監督の成梓先生はいらっしゃいますか?」
 そんな声。見ればスーツ姿の四十台位かと思われる男の人が、一人の女の子と一緒に尋ねて来ていた。
「成梓は私ですが?」
「どうも始めまして。私、許久藤(きょくとう)学園の監督をしております、黒山進(くろやま すすむ)といいます。こちらは生徒代表で」
「呂穂崎史織(ろほさき しおり)です」
 許久藤学園。――決勝戦の、相手だ。そのチームの監督と代表選手てわけか。
「成梓茜です。――すみません、わざわざ足を運んで頂けるなんて」
「いやいや、そちらは前回の優勝チーム、言わばチャンピオンですからね、こちらから挨拶に向かうのは当然のこと。――どちらが勝っても、素晴らしい決勝戦になるように」
「ええ、当然です」
 そんなお互いの健闘を祈る挨拶を簡単に交わすのを見ていると、ふっと相手の監督と一緒に来ていた代表選手の子に目が行く。背筋を伸ばし、表情一つ変えずそこで立っている姿は独特の空気感を漂わせていた。真面目そうな感じというか。
「しかし流石に代表選手、顔もスタイルも実にレベルが高いではないか」
「クライスさん多分魔法関連で彼女は代表選手なわけでですね、そういう意味合いでの代表で来ているわけではないと思いますよ俺は」
 まあその、ここから見てもわかる位、可愛い女の子だけどさ。――そんな感じでずっと見ていたのが原因なのか、
「……?」
「――あ」
 少しだけ首を動かし、俺の方にその子は視線を向けてきた。さて何て言い訳しようか、と思っていると、
「(ニコッ)」
「っ」
 気にしなくていいよ、という意味合いだろうか。俺に笑ってみせてくれた。――無表情でも可愛かったのでその笑顔のまあ可愛いこと。
「それでは、我々はこれで」
 そういうしている間に、成梓先生と相手側の先生の話は終わったようだ。促され、代表の女の子も一緒に戻っていく。――戻っていく前に、俺にもう一度だけ笑ってみせてくれて。
「――で? あの女はいつ落とした女だ? ん?」
「初対面ですよクライスさん!!」
 実際流石に今回は初対面だ。何で笑ってくれたかなんてわかるか。っていうか意味があるって決めるな。
「雄真くん。雄真くんにはああやって可愛く笑っていたらいいのかな? ふふっ、ふふっ、うふふふふふっ」
「うおおおおお落ち着け春姫ぃぃぃ!!」
 黒春姫発動再び。うふふふふふとかマジ怖い。
 そんなこんなで、とても決勝戦前とは思えないいつもの(?)空気の中、俺達は最終ミーティングの為に一度控え室へと戻るのだった。


「あ……おかえりー、史織」
 さてこちら、許久藤学園の控室――が近くにある廊下の一角。
「どうだったんだ、瑞穂坂ってのは。噂通りか?」
「うん。凄いレベルが高い。よくぞ自然にあそこまでのメンバーが揃うな、って思う」
「そうなんだ……」
 廊下の一角、端に近いその場所には、戻って来た呂穂崎史織を含め、四人の人影。
「……やっぱりさ、勝っちゃう……のかな、私達」
 一人目、名前は織部ユカ(おりべ)。
「――だろう、な。多分……いや、絶対勝つんだろうな」
 二人目、唯一の男子で名前は桂馬英(けいま すぐる)。
「それでもう直ぐ……終わっちゃうんだよね……」
 三人目、小見山広子(こみやま ひろこ)。
「うん。決勝戦が終われば、MAGICIAN'S MATCHはお終い。普段の生活に戻る」
 そして四人目、呂穂崎史織。
「……わたし、MAGICIAN'S MATCH、参加して良かった」
「広子?」
「辛いこと、痛いこと、大変なことばっかりだったけど、でもここに来れば、三人に会えたから。MAGICIAN'S MATCHの時間になれば、三人に会えたから。ユカちゃんと史織ちゃんと英くんがいたから、わたし頑張ってこれた」
「……小宮山」
「三人共、ありがとう……本当に、どうも、ありがとう……っ」
「広子、もう……こんな時に泣かないの」
「そうだよ、私達友達じゃん!」
「……友達、か」
 泣きだした広子を軽く抱きしめるようにあやす史織、元気よく励ますユカ、そして「友達」という言葉を感慨深げに噛みしめる英。
「ね、ね、決勝戦終わったら、四人で遊びに行こうよ! お疲れ会、みたいな感じでさ!」
「ユカちゃん……」
「……うん、そうだね。行こうよ。そんな風に遊びに行くことなんて、今までなかったし。……考えたこともなかったし」
「そうだな。――友達だし、な。当たり前だよな」
 友達――その言葉は、四人にとって重く深く、大切な響きだった。
「――どんな結果に、どんな終わり方になったとしても、私達、友達だよ。だから……いざという時は」
「うん、わかってるって」
「わたしも、皆が一緒なら怖くないから」
「ああ」
 四人は、意思を確かめ合うように、お互いの目を見る。――信頼と、揺ぎ無い想いが、感じ取れた。
「行こう」
 そのまま四人は、許久藤学園の控室へと戻って行くのだった。


「それでは、最終ミーティングを始めたいと思います」
 楓奈のその言葉から、俺達の試合前最終ミーティングは始まった。
「相手チームの許久藤学園ですが、先日成梓先生からお話がありましたように最近数年で力をつけてきた学園の様です。私達瑞穂坂における式守、法條院、先の準決勝における政苞学園の東雅のような名家ありきの学園ではなく、全国から優秀な人達を集め、育てるという魔法科に置ける進学校として有名とのことです」
 先日でのミーティングのおさらいを楓奈は続ける。
「相手チームメンバーの個々の能力も高く、バランスの取れたチームだと思います。特別な方法を取られる可能性は低く、真正面からのぶつかり合いになると予測されます。――今までの私達の成果が、一番発揮されるシチュエーションです」
 今まではトリッキーな戦いだったり、こちらがメンバー入れ替えだったりで、完全に真正面から……というのは、最初の頃以来となるのか。確かに、実力が物を言う戦いだ。
「出場メンバーも、先日発表した通りです」
 メンバー自体は、先の準決勝と同じ。ポジションも大きな変更はない。
「それじゃ、成梓先生」
 楓奈が最後の言葉を、と成梓先生を促すと、先生は軽く笑う。
「私からはもう今更特にないかな。試合内容に関して必要なことは瑞波さんが全部言ってくれたし。――だから、有り触れた言葉しかもう送れないけど」
 パッ、と力強い目で、俺達全員を先生は見る。
「精一杯、悔いの無い試合をね。泣いても笑ってもこれが最後。――私は笑って皆を迎える準備をして待っているから、そのつもりで頑張るように!」
「はい!」
 チームの結束力も、今までにない、最高の所まで来ている。
「やっとお前に、あの時のお礼が言えそうだ。――勝つぞ、絶対に、な」
 土倉。
「大丈夫、勝てるわ。今までだって、みんなで勝ってきたじゃない」
 相沢さん。
「ふっふーん、あたし達の名前、最高の所まで轟かせてあげましょ!」
 杏璃。
「私も……精一杯、頑張ります……!」
 沙耶ちゃん。
「ここまで来て負けるのも気分が悪いわ。――なら、勝つしかない」
 可菜美。
「頑張れば、勝てる。ここにいると、そんな気がしてくるよ」
 武ノ塚。
「お前の名前に――チーム名の為に相応しい勝利の為に、だな」
 琴理。
「このような所で負ける為に、俺は自らを鍛えているのではない。我が力、勝利の為に」
 信哉。
「みんなが、自分の持てる力で、精一杯の頑張りをすれば、必ず」
 春姫。
「絶対勝てるよ。ここにいるみんなの気持ちで、負けるなんて有り得ない」
 姫瑠。
「私も戦える。みんなと一緒に。――きっと、勝てる」
 柚賀さん。
「ここまでの私達に、無駄なんてない。みんながいるから、大丈夫」
 楓奈。
「法條院と、小日向雄真魔術師団の名に懸けて、精一杯頑張ります!」
 深羽ちゃん。
「信じてます。小日向雄真魔術師団には、ハッピーエンドが来てくれるって」
 雫ちゃん。
「私も、陰ながら全力で頑張ります! みなさんと一緒に、精一杯っ!」
 藍沙ちゃん。
 皆の気持ちが、一つになっている。姿形では見えないその絆を、今この時、とても大きく感じる。それは他のメンバーも同じだろう。
「ね、ね、最後に円陣組もうよ! 気合入れるやつ!」
 姫瑠だ。――特に異論のある人はおらず、出場する、しない関係なくメンバーが円になり、そこに成梓先生も加わり、準備万端。
「雄真、掛け声はアンタがかけなさいよ」
「ちょ、待て杏璃、何故に俺が」
 杏璃の促しで、全員の視線が俺に集まった。
「何の為の小日向雄真魔術師団なのよ。嫌なら今から高溝変態魔術師団に変える? その場で私は脱退するけど」
「可菜美さんその結論極端過ぎませんか」
 可菜美の一言、俺のツッコミに皆が笑う。――ハチは泣いてたけど。
「いいじゃないか、雄真」
「クライス?」
「ここまで来て、その程度のことに躊躇していてどうする。――格好良く決めてみせろ」
 そして、俺の相棒の純粋なる後押し。――そうだな、今更そんなことに躊躇したって、仕方ないな。俺だってメンバーなんだ。俺が言ったって、いいじゃないか。
 皆の目を見る。視線を動かし、全員と目を合わせる。――覚悟が、決まる。
「小日向雄真魔術師団、行くぞ!!」
「おおーっ!!」
 小日向雄真魔術師団、MAGICIAN'S MATCH決勝戦――出陣。


<次回予告>

「――決勝戦、か」
 「恰来?」
「これで終わりか、と思うと少しだけ残念かもしれない。――何だかんだで、本当に心底、
心置きなく戦えるのはこの決勝戦が初めてかもしれないから」

試合開始のベルが鳴る!
各々の想い、覚悟を抱え、決勝戦がスタート!

「私はそのまま右側を相手するから、左側お願い!」
「真沢さん!」

相手も一流、こちらも一流、激しい攻防は避けられないか!?
果たして先手を取るのはどちらか!

「私は、お前のせいで負けたとか苦戦したとか、絶対に言わせないようにする。
精一杯の、いやそれ以上の戦いを、してみせる」
「……琴理」

そして、我らが小日向雄真の活躍はいかに!?

次回、「ハチと小日向雄真魔術師団」
SCENE 72 「こちらにあって、相手に無い物」

「フッ、楽しませてくれよ、瑞穂坂学園。ここからが、本当の試合開始だ。――精々、死なないようにな」

お楽しみに。



NEXT (Scene 72)  

BACK (SS index)