ブロロロロ――キイッ。……店の外で、大型バイクの停まる音がする。直後、店に入ってくる人影。
「聖ちゃん、いらっしゃーい」
 その人影を、ほんわかとした声と笑顔が出迎える。
「ごめんなさい、夕菜。営業中なのに」
「大丈夫だよ聖ちゃん、冬子ちゃんもいるし」
「……何でその質問に対する返答があたしがいるから大丈夫、なのよ」
「冬子もありがとう、わざわざスケジュール空けてくれて」
「あたしは偶々。ピンポイントで暇な時期狙われたのかと思った位」
 場所は瑞穂坂駅前商店街、Rainbow Color。野々村夕菜と静渕冬子が、沙玖那聖を出迎える形になっていた。――要は、聖が二人に会って話したいことがある、とお願いした結果が今である。
「そういえば聖ちゃん、MAGICIAN'S MATCHの合宿に参加してるんだって?」
「ええ、茜さんに頼まれて。断る理由もなかったし」
「わたし達もやったよね、合宿! 思い出すな〜、みんなで作ったカレー」
「……真っ先に思い出すの、そこなんだ、やっぱり」
「ま、夕菜らしいけど。っていうか何でそんなに食べてばっかりなのに全然太らないのよ。あたしからしたら異世界の生き物」
「うーんとねえ、コツは食べ過ぎないことかなあ」
 …………。
「聞いたあたしが馬鹿だった」
「というよりも、夕菜はあれで食べ過ぎないようにしてるのね……」
「? ? ?」
 呆れ顔の二人、何故二人が呆れ顔なのかわからない夕菜(天然)。
「とにかく、決勝戦はみんなで応援に行こうね! さつきちゃんも謙太くんも行くって言ってたし、冬子ちゃんも行くでしょ?」
「行かないと茜さんに何言われるかわからないしね。――それじゃ聖、本題入ってくれる?」
「来月の新作ドーナツとデパートでやる全国駅弁大会と隣の駅下りて直ぐのところに出来る新しいケーキ屋さんと●ンパンマンのあんこを桜あんこに変えたら一体彼はどうなってしまうのか! について?」
「あんたの本題じゃない」
「……しかも最後何?」
「聖、ツッコミ入れたら負け」
 …………。
「――実は、二人に手伝って欲しいことがあるの」
「あたし達……二人に?」
「何でも言ってくれていいよ、聖ちゃん。食べることでも食べないことでも」
 笑顔でそう答える夕菜に対し、冬子は少し怪訝な表情になる。
「……どういうこと? 聖があたしと夕菜二人にって。どれだけの大事?」
 ここに集められた二人は、聖も含め学園生時代「四天王」と呼ばれる程飛び抜けた実力の持ち主。冬子に関しては魔法以外でも何でもかなりの高レベルでこなせるが、夕菜も一緒に呼んでいるということは、明らかに魔法絡みの戦力欲しさであるということ。
 一人でも十分何でもこなせる聖が、あえてこの二人を戦力として欲しがっている。余程のことである、と冬子は考えたのである。
「確かに、大げさって言ったら大げさかもしれない。私一人でもやろうと思えばやれるとは思う。でもこの件に関しては、失敗は絶対に許されないから。どうしても、戦力が必要なの」
 直後、聖の口から語られる、その理由とは―― 



ハチと小日向雄真魔術師団
SCENE 67  「俺とお前と男のパッション」




「諸君、よくぞ集まってくれた!」
 そんな高らかな宣言のような言葉でこの集まりは始まった。――何もこれから何か改革を起こす為の有志が集まりましたとかそんなわけじゃない。場所は瑞穂坂学園敷地内、小日向雄真魔術師団合宿所、男子部屋。発言者、高溝八輔。
 まあその、何だ。――ハチが、一人で異様な雰囲気を醸し出しているだけだったのだ。
「いや集まるも何も、俺普通に部屋に戻ってきただけなんだけど」
「違うぜ武ノ塚、お前は無意識の内に今回のこのシークレットミッションの魅力に惹かれてここへやって来てしまったのさ!! お前は感じられないのか、このパッションを! フィールザパッション!!」
 多分意味もわからずパッションと叫ぶハチを見て軽く呆れ顔の武ノ塚。
「俺、教室に用事があるからちょっと出る」
「待てい土倉、これから話を始めるって言ってるだろうが!!」
「……ロリコンの話ならわからないぞ、俺」
「お前はいい加減俺=ロリコンのイメージを外せええええ!!」
 真顔で普通に部屋を出ようとする土倉。というかハチ=ロリコンはあながち間違いではないはずなんだが。
「お前らにとっても、信じられない位の凄い話なんだぞ!! ビッグチャンス!!」
 乗り気じゃない二人を何とか説得し、部屋に座らせるハチ。――ちなみに男子部屋にはハチ、俺、武ノ塚、土倉の四人。
「男子全員……いや上条がいないか。あいつはいいのか?」
「フッ、信哉にはまだ早いぜ」
 早いというか興味が間違いなくないだろうなというか。
「小日向は何の話だか知ってるのか?」
「一応な。――正直俺は乗り気じゃないけど、一応聞いてやってくれ」
 やっとのことで、話を聞く体勢が出来上がる。
「諸君、まずはこれを見て欲しい」
 ハチが少し大きめの紙をバッ、と広げる。
「これは……この合宿周辺の地図、か……?」
「その通りだ。そして諸君、この場所に注目して欲しい」
 バッ、とハチが指を指した箇所には、赤いペンで印が書かれている。
「そこに何かあるのか?」
「ああ、俺達のパッションがある!!」
 案の定パッションの意味もわからず雰囲気だけで使ってるなこいつ。
「土倉、この赤い点の一番近くにある部屋、何だかわかるか?」
 促され、土倉が地図をあらためて見る。
「部屋……っていうよりか、この合宿所の浴場か……?」
「その通りだ! それを踏まえた上でもう一度この赤い印を見てくれ!」
 一応武ノ塚と土倉の視線が赤い印に向く。
「何と……その位置に、外部から浴場の中を覗ける穴を、俺は発見してしまったのだああああ!!」
 ……一瞬訪れる静寂。唖然とした表情の武ノ塚と土倉。
「……マジで、か?」
 先に口を動かしたのは武ノ塚だった。未だその表情からは何処かハチの言葉は信じていない様子。……だけど。
「いや、俺ハチに連れられて確認したけど、覗けるというのはマジ。しかも結構ハッキリと」
 そう。俺が休憩時間にハチに見せられたものはここからの景色というか何と言うか。建物の設計ミスなのかどうかはわからないが、確かにそこに穴は空いており、上手い具合に浴場の中を外から見れるようになっていた。微かに見えます所じゃなく、実際にハッキリと。
「この合宿所、浴場は一つしかなく、時間帯によって男子と女子は分けて入っている。俺の言いたいことがわかるか、武ノ塚!」
「……女子の入浴姿が、こっそり見れる?」
「パッション!」
 多分「その通り」っていう勢いで今こいつパッションって言った。何語だ。
「風呂……入浴……つまり、女子は全員裸! バスタオルもなく、一糸纏わぬ生まれたままの姿で……お、お、おおおおお!!」
「…………」
 先走って興奮するハチ。冷静な面持ちで見つめる俺達。
「さ、更に生徒達の入浴が終わった後には大人の入浴タイム……つまり、成梓先生、聖さん、錫盛さんの大人のパ、パパパパパッショォォォンン!!」
「…………」
 更に興奮度を上げていくハチ。冷静な面持ちな俺達。――気持ちは、わからないでもないのだが。
「というわけで今夜決行でいいな、勇者達よ!」
「いや、俺は遠慮するわ」
「パッション!?」
 ハチ、驚愕のパッション。最初にお断りを入れたのは武ノ塚。
「いやさ、気持ちはわかるし、物凄い興味あるし見たいけど、お前それ明らかに死亡フラグだろ。俺あのメンバー相手に無事に覗きが出来るとは思えないんだけど。しかもお前成梓先生相手とか」
 まあその、最もな意見だった。あのメンバー相手に俺も覗きがまともにさせてもらえるとは思えない。ましてや成梓先生と聖さんと錫盛さん相手とかどんな方法を使っても無理な気がする。
「武ノ塚、お前のパッションはその程度だったか……くっ、こうなったら俺達三人で」
「――いや、俺も遠慮する」
「パッション!?」
 続いて土倉。
「俺も興味がないとは言わないが、ただこっそり女子の入浴姿を見て興奮して、次の日何食わぬ顔で会えるのか? やりきれない気持ちにならないのか? 罪悪感に襲われないか? 決勝戦を前にそんなことが理由で結束力を低下させるつもりはない」
 そして土倉はメンバーに対して誠実だった。……余談だが、一番表情を変えないで次の日会えるのは土倉のような気もするが。
「土倉め、良い子ちゃんになりやがって! もういいお前ら! 後で後悔したって知らないからな! なあ雄真」
「いや待て、俺も辞退するからな」
「パッショショション!?」
 最早パッションとも言ってねえ。
「主な理由は武ノ塚と同じ。土倉の意見も最もだと思うし。行きたいならお前一人で行けって。流石にチクったりはしないからさ」
 というわけで、俺も冷静な面持ちで武ノ塚と土倉と一緒にハチを見る。――ハチ、わなわなと震えだす。
「お……お前ら……それでも男か!? お前らの魂のパッションはその程度か!? 裸だぞ!? 普通は見れないぞ!? 一生の思い出になるぞ!?」
「まあ確かに一生の思い出にはなるだろうけど」
 失敗しても一生の思い出になるだろうな。
「ハッ、わかったよわかったよ、お前らもまだまだお子ちゃまだってことがな! 俺のように絶えず可愛い女の子の為にアンテナを張り巡らせて女の子の為に生きている俺とは住む世界が違うってことがな!」
「――その言い方は聞き捨てならんな、高溝八輔」
 と、クライスが口を挟んで来た。
「貴行、自らにどれだけの自信があるか知らないが、我が主小日向雄真に比べたら貴行の女好きなど所詮ガラクタ。雄真の方が余程女を見ている」
「何ィ!?」
「いやクライスさん、勝手に話作って自慢しないで頂けますか」
 別に女の子が嫌いとは言わないがこいつの言い方は何分誤解を招く。
「よし、なら貴行が果たしてどれだけ女を見ているかテストしてやろう。今から私がする質問に正確に答えられたら雄真は同行してやる」
「望む所だあああ!!」
「いやクライスさん、勝手に人を賭けの材料にしないで頂けますか」
 それが主に対する態度ですか。
「問題。――小日向雄真魔術師団のメンバーである三年C組加々美三津子の一番着用確率が高い下着の色とスリーサイズを答えよ」
「加々美さんだと!? え、えっと……下着の色……!?」
「ぶっ」「ぶっ」
 思わず吹く俺と武ノ塚。何だその問題。――そして何の違和感もなく受け止め真剣に考えるハチ。……十秒後。
「ブー、時間切れ。正解は……そうだな、土倉恰来、頼みがある」
「? 俺にか? 何だ?」
「悪いが、高溝八輔を抑えておいてくれ。奴に知る権利などない。もしも知りたければ後で雄真に聞いてくれ。協力してくれた礼で無料で教えてやろう」
「何ぃ!? 俺に正解発表はないのか!? そのパッション邪道だぁ!!」
 いやお前だけなんだけどなパッションパッション言ってるの。
「とりあえずわかった(ガシッ)」
「ぐわっ、土倉何をする、離せ!!」
「武ノ塚敏、貴行は証人として正解を雄真と共に聞いておけ」
「……ああ、わかった」
「……いやクライス、その前に俺から質問」
「? 何だ?」
「何でお前、加々美さんのその……下着の色とか、スリーサイズとか知ってるんだ……?」
 確かに二年の頃同じクラスだったし今も小日向雄真魔術師団で会うがそこまでの交流はない。
「逆に何故雄真は知ろうとしないんだ? 見落とし気味だがあの娘、結構な美少女だぞ? スポーツマンだから体も引き締まっていて理想的なプロポーションだ」
「あー、確かに俺のクラスでも加々美好きって奴そこそこいるわ。普段は結構ほんわか系統だけどいざっていう時は凄い行動力あるし」
「ああ、それは俺も何となくわかる。去年同じクラスだったし」
 思い浮かべてみればあの笑顔は結構な癒し系統だ。十分美少女と例えていいだろう。――って、
「そうじゃなくて何故に俺のワンドが俺の知らない加々美さんの下着の色を知ってるんだって話になるんだが」
「あの娘の特徴は、やはり運動能力の高さだろう。琴理と共に簡易移動術の練習をよくしているな。――あれは良い傾向だ。決して運動能力の高さ=移動術の上手さ、というわけではないが、体の効率のよい動かし方を知っていればより移動術というのは際立つ。あの娘は将来スポーツの道を行くか魔法使いとしての道を行くか、どちらかは知らないがあれならばどちらへ行っても成功するだろう」
「へえ……」
 クライスのお墨付きか。やるな加々美さん。
「――ってだからそうじゃなくてだな」
「あの娘の魔法服、そこそこ短いスカートだったな。まあ移動術の練習をする際、注意深く見ていれば時折水色がチラリチラリとだな」
「何してんですかクライスさん!!」
 何処の盗撮野郎だ。
「そもそもはお前が琴理のパートナーになったから、あの娘の近くにも結果としてよく近くにいるようになってだな。条件反射だ」
「マジックワンドが条件反射で女子のスカートの中確認するなよ!?」
「ちなみにスリーサイズは服の厚さ等を考慮しての私の予測なので正確な値とは少々ずれるかもしれんが、上から八十四、五十九、八十三といった所」
 スタイルいいな加々美さん……じゃなくて!!
「よし、土倉恰来、もういいぞ」
 パッ、とハチが解放される。直ぐに武ノ塚に詰め寄るハチ。
「な、なあ、嘘だよな? 下着の色とかスリーサイズとか」
「いや、多分あれマジだぜ。理由も結構最もだったし。いやー、俺ちょっと加々美見る目変るわ」
「うおおおおおお何でだあああああ!!」
 大げさに悔しがるハチ。まあ正直ちょっとだけ俺も加々美さんを見る目が変るかも。良い意味で。――兎にも角にも、これで俺も同行しないことが決定。
「……ちなみにクライスは、流れ的に俺の同行には反対なんだな」
「ああ。主な理由は武ノ塚敏と同じだな。成功しないとは言わないが、失敗の可能性が比較的高い。――リアルでこれが理由で捕まるとか虚し過ぎるだろう」
「まあな」
 クライスとしてもハーレムキング所じゃないだろう。
「く……くそっ、くそおおおお!! 俺は、俺は諦めないぞ!! 絶対にみんな(女子)の風呂、覗いてやる!!」
「そんなに見たいものなのかしら?」
「当たり前だああ!! 俺は、俺は、本や映像だけじゃなく、一度でいいからこの目で肉眼で女子の裸が見たいんだああああ!!」
 大げさにポーズを決めて叫ぶハチ。――だが、その瞬間、この部屋には決定的な違いが生まれていた。
「俺は……俺は、一人でも行くっ!! この目に心にパッションを焼きつけてみせるぜ!!」
「…………」
「…………」
「…………」
「だから俺は――って、え?」
 まあその、何が変わったかって。
「甘いわね。何の為のメイド服だと思っているのかしら。裸よりメイド服を着ている方に萌えないとはまだまだ青いわ。フフフ」
「土倉……小日向……お前ら、いつからこの人いたか、わかるか……?」
「……いや」
「俺も……気付いたらいたぞ……」
 気付けばこの部屋の中には、何故か錫盛さんがいたりするのだ。――この人も気配消していきなり登場してくるタイプの人か。そうですか。……ちなみに、服装はノーマルのメイド服に戻っている。まあ、服装云々よりも。
「終わったな、ハチ」
「ノオオオオオオ!!」
 計画がばれた。ばれた以上、あのメンバー相手に覗きなど不可能もいい所だろう。
「第一、高溝君の考えは根本的に間違ってるわ。見たいならば堂々と混浴を希望すればいい」
「その希望が通るようならハチはここまで苦労も見つかったことに対する悲観もないと思いますが」
「後は男の子なら突貫」
「いやそれは何て言うか犯罪では」
 死亡フラグ過ぎる。
「でも、見られる――というより、誰かの視線を感じるということは大切なこと」
「? どういう意味です?」
「私は法條院家メイド課係長、及びメイド班第二班の班長であると同時に法條院家時期当主である法條院深羽様の従者。公式行事には側近として傍にいるし、いざとなったら一番に盾になって守らなくてはいけない。そういうアクシデントにいち早く反応するには、周囲の視線を感じる癖、感覚を身につけておくことが大事」
「まあ、よそ見しながら攻撃してくる人はいませんしね」
「それはそういった従者に限ったことではなく、戦闘に関わる全ての人間に必要な感覚。今で言えば、MAGICIAN'S MATCH出場選手にも十分必要なこと。メイド服も、視線を集め易い物だし」
「あ、じゃああの夏服バージョンもその為に」
「あれは私の趣味」
 やっぱりか。
「つまり、そういう視線を感じる練習という公言を掲げて行けば、混浴可能の可能性はあると私は思うわね。――ちょっと交渉してくるわ」
「え」
「監督さんに事情を説明してくるわ。『お宅のチームの総大将の高溝君が今日合宿所の裏で浴場の覗き穴を発見して女子の入浴を覗こうとしていたけど他の男子メンバーが乗り気じゃなくてでも女子の裸が見たいって叫んでいたから視線を感じるという訓練にもなるし一度混浴させてみてはどうかしらいやむしろさせないとあれは夜中に女子を襲うかもしれないそんな獣の目をしていた』って。我ながら良いアイデア、フフフ」
「いやあのそれは」
「では早速」
 ヒュン!
「あっ――」
 気付けば、一陣の風を残し、錫盛さんはこの部屋から消えていた。止める暇もない。――まあその、それつまり。
「……ハチ、マジで終わったな」
「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁ!!」
 何があれって、結果としてハチがこっそり覗きをしようとしていた事実が主に先生と女子に伝わるということで。
「さて、晩飯まで軽く寛ぐかな。晩飯って何が出るんだろ?」
「俺の……俺の全てが……壊れるぅぅぅぅぅ」
「晩飯……そういえば特別に香澄さんが作りに来るとか言ってた」
「女の子に……そんな変態的な目で見られるなんて……耐えられんぞおぉぉぉぉ」
「香澄さんってあのOasisのお姉さんだよな? マジでか、やった!」
「女子の裸は見れない、女子に避けられる……折角の、折角の合宿があああぁぁぁ」
「ああ土倉、お前教室に忘れものがあったんじゃなかったのか?」
「どう考えても俺、先生に説教だろうなあ……あああぁぁぁぁ」
「……ああ、そうだった。取って来る」
「ハッ、待てよ、もしかしてみんな俺と混浴ってこっそり喜んでくれたりするんじゃないか!?」
「それはないだろ」「それはないな」「……それはないんじゃないのか?」
「否定する時だけ反応するんじゃねえ貴様らあああああ!!」
 そして、数時間後、女子の入浴時間がやって来て――


 どうしてこうなった。――それが今の俺の心境だった。この展開は考えてなかった。
「ま、それこそFeel the passion、という所じゃないか?」
「綺麗なまとめどうもですよクライスさん……」
 さて、現状の説明をせねばなるまい。――今、俺がいるのは脱衣所。一般的に浴場へ続く部屋だ。普通は風呂に入る為に服を脱いだり、風呂上がり服を着たりする場所である。
 無論今の俺も例外ではない。俺は今、風呂に入る為に服を脱いでいた。服を脱いだらバスタオルを腰に巻いて、そのまま浴場に行く。――至極最もなことをしようとしている。
 だが向かう先の浴場が至極最もな環境ではなかった。――そう、現在浴場は、小日向雄真魔術師団が誇る美少女で一杯なのである。
 つまり俺は――これから、混浴タイムに突入するのだ。
 あれだけのやり取りをしておきながら、何故に俺が混浴タイムに突入しなくてはいけないのか。事の発端は当然ハチの覗き穴発見からだ。――あれから錫盛さんは本当に成梓先生に混浴案を提案しに行った。「見られる、視線を感じるという技術を高めるのは良いことだ」を主に錫盛さんは成梓先生を何と説き伏せ(!)、そのまま女子メンバーに提案に持ち込んだ。
 で、話し合いの結果無記名投票で上位一名のみが混浴することになり――結果として俺が選ばれたというわけだ。姫瑠、琴理辺りは確実に俺に入れそうだし、春姫も俺を他の女子と混浴はさせたくないけどでも他の男子と混浴する位なら俺、みたいな感じで俺に入れてそうだし。
 結果として、ハチは泣いていた。色々な意味で泣いていた。泣きながら俺を見送っていた。黄色いハンカチを振っていた。せめてお前それ干せよ、とは見ていたら哀れだったので言えなかった。
 そんなことを思い起こしつつ、ついに俺はバスタオル一枚になる。――いざ出陣だ。
「…………」
「どうした? 行かないのか?」
 と、そこで思い付いたことが。
「なあクライス、最近お前風呂入ってないだろ」
「いや、最近も何も普通ワンドは風呂には入らないだろう」
「偶には洗ってやろう。錆びるような素材じゃないよな? 見た目綺麗な方がお前も嬉しいだろ?」
「……お前、私へのツッコミで理性をキープするつもりだな」
 まあその、何だ。
「頼む、ついて来てくれ。少しでも高い位置で理性をキープしたい。今後の為に」
「ふむ。……個人的にはお前が慌てふためく方が面白いんだが、まあ私個人も興味深いシチュエーションではあるな。いいだろう、持っていけ」
「助かりますよ……」
 というわけで、前半の言葉こそ気になるものの俺は背中にクライスをつけ、いざ浴場の扉を前に。心臓がバクバク言っている。既に風呂に入る前から汗をかいている俺。
「ええい!」
 意を決して俺はその扉を開いた。直ぐに感じる風呂特有の湯気、温度。そして――


<次回予告>

「いいか姫瑠、入浴中は俺の視界に入らないように」
「? どして?」
「どうしても」

ついにスタート、魅惑の混浴タイム!
男は雄真一人、見渡す限り回りは美女、美女、美女!!

「アアアアアンタ何考えてるわけ!? こっこの変態っ!!」
「違うんだ、事故だっ!!」

勿論我らがハーレムキング、普通の混浴じゃ終わらないぜ!
ハプニング満載、イベント満載の夢の入浴!

「これ以上下を向いたらどうなると思う?」
「はいすいません」

果たして雄真は理性を保ち続けることが出来るのか!?
ハーレムキングの明日はどっちだ!?

次回、「ハチと小日向雄真魔術師団」
SCENE 68 「KING OF HAREM -3rd Stage-」

「私、こういうこと、初めてなの。だから、雄真くんがリードしてね。――宜しくお願いします」
「こ、こちらこそ宜しくお願いします」


お楽しみに。



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