「でも、恋ってやっぱり素敵ですよね」
 さてこちら、試合開始直後の小日向雄真魔術師団最後方、つまり総大将地点。今回ハチの護衛についている二年生三人組の一人、粂藍沙がそう切り出す。
「藍沙っち?」
「さっきの……相沢先輩に告白してきた人のこと?」
 ほぼ同時に、残りの二人、法條院深羽、月邑雫が反応。
「はい、憧れますよね。数年ぶりの再会で、いきなり告白されて。私もあんな風に断ってみたいです」
「……いや、告白されたいじゃなくてその先の断ってみたい、なんだ藍沙っち」
 相変わらず微妙に天然な藍沙に、苦笑するしかない深羽と雫である。
「でも、格好良く断るにしても、まずは告白されないと無理ですよね……」
「いや、落ち込む必要ないっしょ藍沙っち。藍沙っち自覚ないだけで人気あるんだって」
 事実、藍沙は魔法科二年女子の中では男子に結構な人気を持っていた。深羽のようにスタイルが良い……とは少々言えないのだが、愛くるしい顔立ち、誰にでも分け隔てなく見せる優しさ、微笑ましい程度の天然加減。どちらかと言えば癒し系に属する彼女のファンは親友の深羽と並び中々の数を誇っていた。深羽の言う通り、本人が気付いていないだけである。
「この前もさ、C組の竹山(たけやま)に藍沙っちのこと聞かれたもん。あれは近い内に告白しにいくと見た」
「C組竹山さん……ああ、そういえばこの前お話があるって言われまして」
「えっ、本当に!?」
 深羽だけじゃなく、雫も食い付く。
「ちょ、初耳なんだけど藍沙っち! それで!? 竹山は何て!?」
「はい、「僕と一緒にお医者さんごっこしてくれませんか」と」
「ぶっ」
 瞬間、深羽と雫が滑りこけそうになる。どんな趣味だ。
「……で、藍沙っちは何と答えたの?」
「偶々なんですが、式守さんが近くにいたんです。で、私が何て答えようかって考える暇もなく竹山さんを攻撃魔法で吹き飛ばしていました。「よいか粂、以後同じことを言われるようなら男など遠慮なく吹き飛ばすのだぞ」と言って式守さんはいなくなりました。どういう意味なのでしょうか?」
「あー、うん。その……知らなくていいよ藍沙っち。知らないから藍沙っちは藍沙っちなんだし。あとグッジョブ伊吹。私が伊吹でもそうする」
「流石に攻撃はあれだけど……気持ちはわかるかな……」
 やはり苦笑するしかない深羽と雫。
「――あっ、お医者さんごっこってとりあえず吹き飛ばしてダメージを与えてそれを治療するという意味合いだったんでしょうか!? どうしましょう、竹山さん吹き飛ばして終わりにしてしまいました! 衛生兵的なあれですよね!?」
「藍沙っち、とりあえずお医者さんごっこは忘れようか。後これから藍沙っちは男子に何かそういうこと言われたらひとまず私に報告するように」
「深羽ちゃんがいない時は、私でもいいからね?」
「? ? はい、わかりました」
 ――やはり苦笑というか何と言うか、といった感じの深羽と雫である。
「にしても恋、か。――そういえば雫はどうなのよ?」
「えっ?」
「んー、ほら、高溝センパイと結局どうするのかな、と」
 ちなみに当のハチだが、当然近くにいるのだが深羽の魔法により深羽が許可するまで三人の会話は聞こえないようにしており、今の会話もまったく届いていない。――「女性同士の会話など、そう軽々と殿方に聞かせるものではありません」という美風の計らいによるものだったりするのだが。
「うん……えっと、その」
 口ごもる雫は照れ半分、困り半分と言った所。それを見て深羽もふーむ、といった感じに。
「微妙な所、か。まあ落ち着いたし、ゆっくり考えるといいよ。相談があれば乗ってあげられるし」
「うん、ありがとう」
 穏やかな笑顔で、そう返す雫。女子の深羽、藍沙から見ても、とても魅力的な笑顔であった。……と、そこで気付いた、というよりも思い出したことが深羽には一つ。
「そういえば、雫ももてるんだよねー、今更ながら」
「え? 私なんて、深羽ちゃんに比べたら全然――」
「そーれーはーうーそーだ。告白されたことないとか言わないっしょ? しかも一度や二度じゃないはず」
「うん……それはまあ、あるけど……」
 クリスマス前の騒動でハチと雫が付き合っている、という話を伊吹が初めて聞いた時「この世の全てが信じられなくなった」という評価は普段のハチからすると大げさではない。見た目中身成績、どれも二年生でトップクラスの雫、人気があって当然であった。
 そのことを考えつつ、深羽はハチをチラリ、と見て言葉を続ける。
「ごめん、こういう言い方するのあれなんだけどさー、高溝センパイの何が良かったわけ?」
「え?」
「いや、別に私も高溝センパイが駄目ってわけじゃないけどさ、ウチの美風がここまで嫌う人って今までいなかったしさ、それにほら雄真センパイと比べちゃったりするとさ」
 と、その言葉にいち早く反応したのは藍沙である。くすくす、と笑う。
「藍沙ちゃん?」
「深羽さん、深羽さんが高溝さんと雄真さんを比べちゃ駄目ですよ。深羽さんが比べたら雄真さんが贔屓されるに決まってるじゃないですか」
「え?」
「ちょ、そんなことないって藍沙っち、私はただ客観的意見を」
「憧れの先輩ですもんね、深羽さんにとって」
 雫にとっては初耳の話で、興味津々で深羽を見る。――その深羽は、少し顔を赤くしていた。
「い、いやほら、私が憧れてるとかそういうことじゃなくて、雄真センパイってチームの中心人物だし、みんなの為に色々動いたり頑張ったりしてるし、藍沙っちとのこともあったし、相談とか何でも聞いてくれるし、私のクッキー美味しいって言ってくれたし、私のこと……その、可愛いって言ってくれたし、「深羽ちゃん」って何となく自分には合わないって思ってたんだけど雄真センパイに呼ばれると何か違って嬉しいっていうか」
「深羽さん深羽さん、後半は深羽さんの個人的な話になってますよ」
「え? あ……それは、ほら……とっ、兎に角、そういうことなんだって!」
 先ほどよりも更に顔を赤くする深羽に、藍沙も雫も笑う。
「今度、試合とか練習がない時、雄真さんを誘って遊びに行きましょうか?」
「え……でも、迷惑じゃないかな……」
 急にしおらしくなる深羽に、藍沙も雫も笑いをこらえる。
「聞く位なら構わないんじゃないかな、深羽ちゃん。普通に遊びに行くだけだし」
「私と、深羽さんと、雫さんと……そうです、高溝さんも誘えば来てくれますよ、きっと!」
「そっか、ナイスアイデア藍沙っち! その手があった! 雫にもプラスになるし、それで行こう!」
 すっかり春姫の存在が頭から消えている三人である。――と、その時だった。
「――!!」
 バッ、と三人ともフォーメーションを組み、身構える。同時に深羽はハチの聴力を復活させる。――敵の気配を、感じたのだ。ある程度の範囲に感知魔法を使っておいたので、一定以上接近する前に気付いたのである。
「深羽さん、雫さん、恐らく敵は二名だと思います」
 察知魔法が得意な藍沙が素早く調査、報告する。
「二人……か。数だけで考えるならこちらが有利だけど」
「最後尾のここまで来れているということは、何か特別な力があるのかもしれない。――雫、藍沙っち、とりあえずは基本通り」
「うん」「おっけーです」
 この状態の三人の基本は深羽が攻め、藍沙が深羽のフォロー、雫がハチの護衛、というのが主である。三人の特徴を生かした結果のスタイルであった。
 徐々に、でも確実に近づいてくる敵の気配。そして―― 



ハチと小日向雄真魔術師団
SCENE 58  「目指すべきは愛と勝利」




「私達の前で入れ替えをするのは、芽口くんが最後……?」
 姿を見せ、そう告げてくる芽口則雄に、大小あれど友香も恰来も反応する。芽口則雄の言葉の意味。つまり、
「私達が違和感を感じていた敵の動きは、そちらの作戦、何かのトリックによるもの……ということかしら」
「ああ。正確には僕の魔法だ。僕は政苞学園に入学して間もなく、斎派間輔さんに弟子入りしたんだ。その師匠に教えてもらった魔法。マーキングした一定の人数を、一定の範囲内で瞬間的に入れ替える魔法。マーキング出来る数には限りがあるしマーキング出来る時間も限りがあるし入れ替えが出来る範囲にも限りがあるが、それでもそのルールさえ守ればモーション無しで入れ替えることが可能なんだ。後はチームで練習して、信号弾を上げるタイミング、入れ替えるタイミングを決めておけばいい」
「それを利用したから、今回のような……?」
「ああ。上手くいけば僕らの主力がもうそちらの総大将の所に辿り着いているはずさ。――僕は正直、これは使いたくなかったんだ」
「使いたく……なかった?」
「こんな学生同士の戦いで使うような魔法じゃないってことさ。正直、こんなトリックな勝ち方をしても僕は嬉しくなかった。でも、チームのみんなの為だから。……だから僕は、使うことに条件を出した。一、大会中使う試合は一試合のみ。二、瑞穂坂学園と戦う時は友香さんと真正面から対峙したい」
「――芽口くん」
「僕は本気なんだ、友香さん。君と離れてからも、自らを磨き続けた。もう一度会う日の為にね。――そして僕らは再会した。MAGICIAN'S MATCHという大きなイベントの準決勝で。神様は僕を見捨ててはいなかった! 僕は、ずっと君を追いかけて、それから――」
「それ以上何か言いたいことがあるなら戦いながらにしてもらえるか」
 冷静に、でも抉るように厳しい口調で、則雄の言葉を途中で止める。――恰来である。
「ライヴァル。――悪いが黙っていてもらえないか。今とても大切な――」
「俺にとっては何の必要もない話だ」
「だが、これは――」
「俺にとって大切なことは、チームが試合に勝つことだ。友香とお前の関係じゃない。――俺はMAGICIAN'S MATCH、前向きに真面目に参加すると約束している。だから俺は勝つ為の戦いをする。友香と話がしたいのなら、試合が終わった後でゆっくりやってくれ」
「――っ!!」
 ザザッ、と則雄が身構えつつ数歩後退。どれもほぼ無意識の内の行動であった。――要は、恰来の威圧に圧されたのである。
「……確かに、君の言う通りかもしれないな」
 背中を一筋の汗が流れても、則雄は表情には出さない。そのまま視線のぶつけ合いが始まる。
「話は後だ。確かに僕も、チームのみんなには勝って欲しいと思っている。まずは……決着を、付けよう!」
 ズバァン!!――激しい攻撃魔法の真正面からのぶつけ合いで、その戦いの火ぶたは切って落とされたのだった。


「恋ねえ……」
 さてこちらは、ツートップ二組より少しだけ下、センター、攻撃ミッドフィルダー的な位置の武ノ塚敏・梨巳可菜美ペア。
「相沢さんも大変だな。あんなのにいつまでも想われてちゃ」
「ある意味自業自得よ。確かにそういう点が彼女の良い所なのかもしれないけどその気がないならハッキリしていっそのことどん底にでも落としてあげるべき。変に優しく接してるからああなるのよ」
「まあ、そうなんだけどな」
 お前らしい意見だよ、とは思っても口には出さず、敏は苦笑する。
「そういやお前はどうなんだ? 誰か好きですとか誰かに告白されましたとか」
「誰が好き好んで私に告白してくるのよ。知ってるでしょう、私の生徒の間での評価。それにそんな評価をわかって作ってる私が誰かに恋をしてるとでも?」
「そんなもんか……」
 敏が違和感を感じるのは可菜美がその評判通りの人間ではないことは知っていてそれが当たり前になっているからだろうか。――可菜美はただ単に厳しいだけの人間ではない。優しさと厳しさ、両方を持ち、必要な時にちゃんと使い分けているだけなのだ。それは敏だけでなく、小日向雄真魔術師団の仲間達も今では知る所である。……でも逆に言えば、やはり知っているのは一部のみ。
 顔もスタイルも学年ではトップクラスでも、やっぱりな、と敬遠してしまう男子がいることも、敏は知らないわけでもなかった。……勿体無いな、とどうしても思ってしまうのだが。
「じゃ、この学園に上がる前は?」
「あなた、私が中学の頃どんな生活送ってたか知ってるわよね?」
「あ……そか。悪い」
 苛められ、その苛めを突破して、中学時代の可菜美は孤独の強者であった。
「そうね。――苛めていたグループが男子をけしかけて、私を襲わせてきたことはあったけど」
「お前それ告白とかと全然違う――っておい!? 何それ!? ちょ、大丈夫だったのか!?」
「言ったでしょう、正攻法で何でも応対していたって。流石にそれなら正当防衛が効く。――魔法、会得しておいて良かったってあの時は本気で思ったわ」
「返り討ちにしたのか……」
 ふぅ、と敏は息をつく。過去のこととは言え気分の良い話ではない。
「随分そこに食いついてくるのね。そういう性癖?」
「あのな……俺は普通に」
「わかってる。――ありがと、心配してくれて」
「…………」
 そうやって素直に少しだけ嬉しそうにお礼を言われてしまうと何も言えなくなる敏である。――落ち着いた気分が違う意味でちょっと落ち着かなくなる。……いかんな俺。もう直ぐ戦闘開始だぞ。
「お前さ、その」
「?」
「……「う」、入れる気ねえの?」
「は? 何の話?」
 やっぱり無意識か、と敏は軽くため息。――相変わらずそのピンポイントの可愛らしさがずるい、とつい思ってしまう。その可愛さが常にあれば全然違うはずなのに、と言いかけて止める。そんなことを言っても、今の可菜美には届かないであろう。
 焦ることはない。彼女は、決して冷たいだけの人間ではないのだから――と言い聞かせる。やがて試合開始。二人も徐々に前進を始める。そのまま数分後、
「可菜美、来るぞ!」
「ええ。――先制するわ」
「任せておけ!」
 得意の察知魔法でいち早く敏が敵を察知、
「ニュービリス・イベウト・リオンド!」
「メルギ・メルト・イズ・ジスディア・リステルト!」
 一時的に可菜美の攻撃魔法の射程を伸ばし、そのフォローを貰った可菜美による先制攻撃、強力な魔法波動が突き抜ける。
「っ……危なっ……」
 ガードしつつ、姿を見せたのは――
「あ……彼女確か」
「ああ、雄真に遊ばれた人」
「うっ」
「いや、その言い方はどうだよお前……」
「なら言い方を変えるわ。雄真に騙された人」
「ううっ」
「いや……だからだな……」
「雄真に逃げられた人」
「うわーん!!」
「泣いちゃったぞ……」
 ――立花結羽里である。
「やっぱり離れる前に既成事実作っておけばよかったよ……あの頃はどうすればいいか全然わからなかったし……」
「今じゃその程度じゃ揺るがないし」
「いやお前それはお前の勝手なイメージじゃないのか……?」
「あなたは? 雄真って呼んでるけど何処までの関係?」
「安心なさい。私は肉体関係はないわ」
「ハチとは?」
「あれに抱かれる位なら雄真に一日好きなだけ抱かせてあげるわよ」
「何の会話なんだ二人共……」
「まあ冗談はこの位にして」「まあ冗談はこの位にして」
「いきなりその切り替えですか二人共……」
 ザッ、とあらためて身構える。
「私一人じゃ強引な突破は無理かなー。――仕方ない。芽口に頼るか」
 ドン、と結羽里が信号弾を一発上空に素早く打ち上げる。
「メルギ・ジスディア・デリア!」
 バシュン!!――可菜美はその一瞬の隙すら見逃さない。素早く攻撃魔法を連続で放つ。
「っ……!!」
 当然、信号弾を撃つというモーションを使ってしまっていた結羽里は反応が遅れ、ガードしつつの後退を余儀なくされる。可菜美も敏もそのまま攻撃を畳掛けようとするが、
「!?」
 バッ、と突然のフラッシュ。一瞬視界を奪われ、再び視界が元に戻った時には、
「え……?」
 そこに結羽里の姿はなく、別の女子の姿が。先ほどまで気配など微塵も感じなかった。そして逆に今は結羽里の気配を感じ取れなくなっていた。
「え? あれ? さっきの――」
「フォロー!!――ジスディア・イルモンド!」
「!!」
 一瞬混乱しかけた敏だったが、可菜美の一言で気持ちを取り戻し、素早くフォローに入る。――実力の高い可菜美、その可菜美とのコンビネーション力が大分上がっている敏、そもそも一人で結羽里よりも実力が低い相手。……アウトにするのに、そう時間は掛からなかった。
「……どうなってんだ……? 明らかに、人が変わったよな……?」
 が、疑問は残る。
「さ、前進するわよ」
「可菜美!?」
 でも、その敏の残った疑問を、可菜美は無理矢理追い払う。
「例えばこれが敵の策略だとして、相手の目的は何だと思うの?」
「えーと……俺達を混乱させることとか」
「なら混乱したら負けじゃない。――当初の作戦通り、攻めるわよ。私達のポジションはそれが役目。ガードは後方に任せればいいわ」
 芽口則雄の魔法により一方的有利かと思われた政苞学園だったが――意外なところから、展開は五分になり始めていたのだった。
 そして――展開を左右しようとしているペアが、もう一組。


「ああっもう、何なのよさっきから入れ替わり立ち替わり!! 正々堂々と戦いなさいよっ!!」
 苛立ちから来る叫び。――最前線二組の内の一組、杏璃・沙耶ペアより、杏璃である。最前線である彼女達も当然芽口則雄の特殊転送魔法トリックに惑わされている――のだが、真正面からほとんどまともに戦わせて貰えない杏璃は苛立ちが溜まっていたのである。
「柊さん、気持ちはわかりますけど、ここは冷静に……」
「なれるわけないじゃないのよっ! 冷静になって大人しく入れ替わり立ち替わりで見過ごせって言うわけ!? 何なのよあいつら!! あんなんで勝って嬉しいわけ!?」
 押しが弱い沙耶の宥めでは、到底落ち着けない程まで杏璃の苛立ちは来ていた。――沙耶はふぅ、と息をつき、一つの決断をする。
「柊さん、一つ提案があります」
「何? 何か対策があるの!?」
「相手のあの読めない入れ替わり、どなたがか一人で転送魔法を一定の条件の範囲内で駆使しているものだと思います。転送のタイミングは、あの信号弾。つまり転送魔法はあの信号弾の直後、このフィールドの何処かにいる術者によって行われている」
「前置きはいいわ! で? どうにか出来るの?」
「あれだけ多数の方にマーキングしているということは、転送魔法そのもののレベルはそこまで高いものではないはず。魔力の流れを妨害して、転送魔法をブロックしてみたいと思います。信号弾というタイミングがある以上、やってみる価値はあります。ですが、この魔法を使っている間、どうしても私は無防備になってしまいますので……」
「成る程、沙耶の分まであたしがガード、アタック、両方やればいいわけね? ふっふーん、面白いじゃない! 任せて、あいつらに目に物見せてやりましょ!」
 沙耶は簡単に述べているが、実際そんなに簡単な話ではない。いくら転送魔法が簡単なレベルのものだったとはいえ、それをはいそうですか、で防ぐのはその転送魔法よりも遥かに高いレベルの妨害が必要である。言ってしまえば、沙耶のレベルの高さがあってこそのこと。
 兄である信哉、その他仲間達に比べて目立たぬ彼女だが、才能は一流、実力も確実に付けて来ていたのだ。
「っ、敵よ!」
 直後、あらたな敵と遭遇。相手も二人だったが、レベルは杏璃と沙耶が確実に上。
「今度こそっ!!」
「く……」
 杏璃の攻撃力一つで相手もそれを感じ取る。――すぐさま、信号弾が上がった。
「沙耶っ、お願いね!」
「柊さんもお願いします!」
 二人は瞬時にフォーメーションチェンジ。横に並んでいたのが杏璃が前、守られるように沙耶が後に。
「幻想詩・第八楽章・幻影の滝……」
 その詠唱直後、不思議な魔力の波が、辺りを覆う。そして、
「っ!? どうして、転送されない!?」
「芽口の奴、気付いてないのか!?」
 沙耶の妨害魔法は、見事に成功していた。うろたえる敵二人。それつまり、
「いっけえええええーーーっ!!」
 全力投球の杏璃の餌食、であった。――瞬く間に二人ともアウトに持ち込む。
「よしっ! この調子で行くわよ、沙耶!」
「はい!」
 パン、と軽くハイタッチをする二人。――転送魔法を妨害し、突き進み始める杏璃と沙耶。転送魔法に惑わされず、前進を続ける可菜美と敏。転送魔法の結果、小日向雄真魔術師団最後方に辿り着こうとしている政苞学園主力。
 試合は、意外な展開で、五分になり始めていたのだった。


<次回予告>

「瑞波楓奈。楓奈でいいよ」
「ありがと。ウチ楓奈ちゃんに負けるんなら本望やわ。――ほな、行っくでええええ!!」

試合は後半戦へ。
優勢な個所、不利な個所、それぞれの戦いが収束に向かって行く。

「東雅家当主、東雅昌豊(まさとよ)が娘、東雅真霧、義永実夏様、立花結羽里様、
両者の救援が為に只今参上! いざ尋常に勝負っ!!」

芽口則雄の転送魔法で何処までも奇襲を仕掛けていくブレイブナイツ。
果たして準決勝の勝利チームはどちらか。

「お前、一人で戦えなかった時期があったのか?」
「ああ、昔はね。だからこそ――」
「一人で戦えない頃、お前本当に一人だったのか?」

それぞれが、胸の奥に秘めていた、想い。
それらがぶつかり合った時、試合が動く――!?

次回、「ハチと小日向雄真魔術師団」
SCENE 59 「届かぬ愛よ、届け」

「約束する。――これが正真正銘、最後の君への告白だ」
「……芽口くん」
「これ以上は、君を困らせない。――だから、友香さんも、嘘偽りのない、今自分の中にある気持ちを、
正直に僕に教えて欲しい。――僕の言いたいこと、わかるかな?」


お楽しみに。



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