「うーん」
 出場選手がゲートにて移動直後、つまり試合開始直前。小日向雄真魔術師団監督・成梓茜は腕を組んで唸っていた。
「? 先生、どうかなさったんですか?」
 それに気付いたのは、メンバーを見送り、応援席に戻ろうとしていた小雪であった。
「何て言うか……何か引っかかるのよね」
「引っかかる……?」
「そ。成梓の血がね」
 弟ほどではないが、第六感は良い方だった。
「それは、小日向雄真魔術師団にですか? それとも相手チームに?」
「相手チーム」
 バサッ、と手元にあった相手チームの資料を茜は手に取る。
「確かに全体的に優秀なんだけど、今まで戦ってきた相手と比べてここへ来てずば抜けてレベルアップしてるわけじゃない。寧ろ前回のように飛び抜けた実力者がいない分、楽と考えてもいい位。確かに毎回ポジションも行動内容もまるで違うものに変えてきていたけど、落ち着いて対応すればそれ程問題ないレベルだった。だから瑞波さんと一緒に一番オールマイティな布陣を考えて組んだんだけど」
「完璧にしておいたのに、胸騒ぎがするんですね?」
「そうなのよ……これなら高峰さんに前もって占って貰っておけばよかったかも」
 そう言いつつ、茜は再度相手チームの資料と睨めっこ。小雪も横から覗いて見ることに。――茜が見ているページには、主力選手の評価が書かれていた。
 義永実夏(三年)、単独攻撃力B+、範囲攻撃力B+、補助攻撃力B+、単身防御力A-、補助防御力B+、判断力A、機動力B。
 立花結羽里(三年)、単独攻撃力B+、範囲攻撃力A、補助攻撃力B-、単身防御力B、補助防御力B、判断力B、機動力A-。
 涼陽奈(三年)、単独攻撃力B-、範囲攻撃力B、補助攻撃力B+、単身防御力B-、補助防御力C+、判断力B、機動力A+。
 世戸川恵(三年)、単独攻撃力B、範囲攻撃力B-、補助攻撃力A-、単身防御力B、補助防御力B+、判断力C+、機動力C+。
 本間早季(三年)、単独攻撃力A-、範囲攻撃力C+、補助攻撃力B+、単身防御力B+、補助防御力C+、判断力B+、機動力B+。
 弐句沙雪(三年)、単独攻撃力C+、範囲攻撃力B、補助攻撃力B、単身防御力A、補助防御力A-、判断力A-、機動力B。
 芽口則雄(三年)、単独攻撃力B、範囲攻撃力B、補助攻撃力A、単身防御力B、補助防御力B+、判断力B、機動力B+。
 東雅真霧(二年)、単独攻撃力A、範囲攻撃力A、補助攻撃力B-、単身防御力B、補助防御力B、判断力B+、機動力A-。
「確かに優秀所ばっかやな〜」
「そうですね……でも確かにこれだけでは、成梓先生の疑問の理由が……?」
 小雪の言葉が、途中で止まった。
「……高峰さん?」
「そう言えば……この方のお名前、見かけたことがあります。あちらで騒ぎになっていた時は気付きませんでしたが」
 小雪が指で指摘したのは、芽口則雄の名前。
「確か……そう、斎派間輔(さいは かんすけ)さんのお弟子だったと思います。母と斎派さんが交流がありまして、その関係でお名前だけ」
「高峰さん、その斎派さんっていう魔法使い、凄いの?」
「私も直接お会いしたことがあるので詳しいことは知らないのですが、何でも一つ、独特の魔法を編み出した人とかで」
「その魔法って?」
「確か――」 



ハチと小日向雄真魔術師団
SCENE 57  「ただ愛した人の為に」




「ふぅ……」
 試合フィールドに転送完了。俺は無意識の内にため息。
「気持ちの切り替えは出来そうか?」
「あー、うん、何とか」
 一足先に転送されていた俺のMAGICIAN'S MATCH相棒である琴理がそう聞いてきた。……切り替えも慣れたとはいえ大変だ。何せ慣れてしまっても困る。何故俺は毎回毎回色々な女子に弁解したり翻弄されたりしなければならんのだ。
「――ふふっ」
「?」
 と、そんな俺を見て、琴理が軽く笑う。
「あ、いや、すまない。――結局、お前が慕われてる証拠だな、と思ったら」
「前向きな考えどうもですよ……」
 確かにそうではあるのだが、もうちょっとみんな考えて欲しいものだ。
「散々弄っておいて言うのもあれだが、本当に困った時はいつでも言って欲しい。楓奈とは違う形でお前を守れるし、お前の為になりたいと思ってる」
「――琴理」
 嘘や冗談ではなさそうだ。以前も同じような言葉を貰ってるし。
「……ありがとうな、琴理」
「うん。――色々あるが、私はこうしてお前の近くで一緒に戦っていられるだけで、十分幸せだから」
「っ」
 その穏やかな笑みに透き通った笑みに、吸い込まれそうになった。――ああもう、その台詞にその顔はずるいぜ琴理さんよぅ。
「そうだ。その……一つ、頼みがあるんだが」
「? 俺にか? 何だ?」
「えっと……私も、名前で呼んでいいか?」
 名前? 名前って……
「俺のこと? 雄真、ってこと?」
「うん。――今まで小日向って呼んでいて、別に当たり前になってたし、違和感があったわけじゃないんだが、最近可菜美がお前のことを名前で呼ぶようになってただろう?」
「ああ、うん」
 勢いで始まったが、結局俺と可菜美は名前で呼ぶようになっていた。
「あれ見てたら、仲間ってやっぱりそういうものかな、とか少し羨ましいな、とか……思って」
「……っ」
 そう言ってくる琴理は、手を後ろに組んで、少しモジモジして、少し頬を赤くして、でも視線は俺を外すことはなくて。
「お前さあ……」
「あ、違和感があるならいいんだ。無理にってわけじゃない」
「いや、そうじゃなくて……」
 何でそんなに可愛いこと言ってくるのよ。新しい第三のモードでも作ったんですか琴理さんよ。
「――別に俺は構わないよ。というか俺が名前、お前が苗字って考えてみたらちょっと変だしな」
 以前の俺と杏璃の関係の如く。
「そっか、よかった。――ありがとう、雄真」
「……うん」
 そして名前で呼ばれてちょっとドキリとする俺がいたり。
「雄真サン、もうあの娘で良くないッスか? 恋走らせちゃっていいんじゃないッスか?」
「なんスか俺の後ろのクライスさんその口調!?」
 そんな会話をしている間に、試合開始。周囲を警戒しつつ、徐々に移動。
「……前線、動きないみたいだな」
 戦闘が開始されているのは何となくここからでもわかるのだが、最前線の位置が動いている様子もないし、敵味方含めて誰かがアウトになったというアナウンスもない。
「おかしいな……」
「そうか? 相手のレベルも高いし、真正面からぶつかってれば、そう簡単に――」
「普通のチームだったらな。でも相手は毎回違う作戦、違うポジションを選んでくるチームだろう? 今更正面衝突か?」
「……あ」
 確かに琴理の言う通りでもあった。何か策を練られているなら、正面衝突は少々疑問だ。
「でも今この状態じゃ、相手がどんな作戦だかわからないよな?」
「そうだな。私達は警戒を解くことなく、徐々に進むしかない」
 警戒をさらに濃くし、俺達は徐々に前進。――そして数分後。
「雄真っ、左四十五度C!」
「!!」
 琴理のその言葉に、自然と体が反応する。琴理とのツーマンセルフォーメーションは随分と練習してきたおかげだ。
 要は――琴理が、敵を察知したのだ。
「ベルス・ギロス・アルクェスト!」
「エル・アダムス・チャイル!」
 ズバァァン!!――琴理のストレートな攻撃魔法に、俺の援護が加わり、一気に敵へ。
「っ……!!」
 直後、爆発音と共に二人の敵が姿を現した。対峙する形になる。
「……主力級じゃない……?」
 琴理の呟き。――確かに、相手二人は弱いとは言わないが、主力級のレベルではないことは何となくわかった。
 ここは最前線じゃない。俺達のポジションは右サイドの中盤から少し前辺り。……何故こんな所で、主力級じゃない敵と遭遇するんだ?
「まあいい、アウトにすれば同じこと。――行くぞ雄真!」
「おう!」
 そのまま二対二のぶつかり合いが開始される。
「くっ……相手の女子、レベル高いぞ……!! それにコンビネーションが上手い……!!」
 相手チームの男子の呟きの通り、この四人で実力が飛び抜けていたのは琴理だった。その琴理のリードもあり、理想的な形で俺と琴理は敵を追い詰めていく。
「やっぱり駄目か……!!」
「迷ってる場合じゃないわ、「あれ」使いましょう!」
 直後、相手チームの女子が信号弾を二発、空へ打ち上げる。
「!?」
 そして男子の方が、魔法による煙幕を放った。――って救援依頼出して逃げるつもりか!?
「待て、このまま逃がすか――!!」
「!! 駄目だ、止まれ雄真!!」
 追撃に入ろうとした俺を止めたのは他でもない、琴理だった。放っておいたらそのまま走り出そうとしていた俺を、
「っ……!!」
 琴理は掴むように抱きつき、強引に転がり倒す。……直後、
「ビエコ・ビスコ・アムトスト」
 バァァァン!!――俺が追撃しようとしていたルートに、激しい魔法波動が通る。俺は琴理と一緒に転がるようにして避けた形となった。
「っ……サンキュ琴理、助かった」
「お礼は後だ。……来るぞ」
 徐々に視界が晴れてくる。……そこには。
「……残念。外した……」
 先ほどの二人とは別の、一人の女子がいた。
「ここへ来て主力の登場か……!!」
 先ほどの攻撃魔法、かなりの威力だった。あの子がそれを放ったとして、敵の主力の一人と考えていいだろう。
「琴理、どうする? こっちが不利になったぜ」
「わかってる。――簡単に負けるわけじゃない、状況を見て戦闘位置をずらす」
 これで三対二になってしまった。相手二人が主力じゃないが、救援に来た女子は恐らく主力。完全にこちらが不利だ。
「……違うよ。……不利なのは、こっち」
「? 何言って――」
「待て雄真」
「琴理?」
「さっきの二人が――いない」
「……え?」
 言われて気付く。――俺達の周囲に敵は救援で来た女子一人。先ほどまで戦っていた二人の姿が完全に消えていた。
「どういうことだ……? 三対二にして俺達をアウトにした方が有利だろ……?」
「普通ならな。――もしかしたら、これが相手の作戦の一部なのかもしれない」
「え……?」
 琴理の言葉。――そう、既に俺達小日向雄真魔術師団は、相手の作戦にこの時嵌り始めていたのだった……


「ふぅ……」
 試合フィールド転送直後。春姫は無意識の内にため息をついていた。
「気持ちの切り替えは出来そうか、神坂殿」
「あ……上条くん。ごめんなさい、大丈夫」
 パートナーである信哉に言われ、今は試合中であると再認識、春姫は気持ちを切り替える。――この辺りの精神力は瑞穂坂の才女として、高レベルをキープしていた。……反動は、やや大めにあるが。
「精神……神坂殿、基礎的な辺りで座禅、または滝行などを俺は勧めるが」
「結構です……」
 パートナーに気遣われる、という点では恋人である雄真と同じだったのだが、雄真のパートナーである琴理とは少々方向性の違う気の使い方に、春姫はため息。決して信哉に悪気があるわけでもないので困る春姫である。
「しかし、相変わらず俺にはよくわからぬが……結局の所雄真殿は神坂殿を見放したり裏切ったりするわけではないのだから、構わぬのではないのか?」
「確かにそうなんだけど……でも女の子としては、自分の彼氏が他の女の子にデレデレしたり仲良くしたりすると嫌なものなんです!」
「ふむ……」
 うーん、とやけに考え込む信哉。そして、
「そうだ神坂殿! 良い案を思い付いたぞ!」
「良い案……?」
「うむ。――どうだろう神坂殿、高溝殿と交際するというのは」
 出て来た案はそんな案だった。その場で滑りこけそうになる春姫。
「話によれば高溝殿は雄真殿のように女子から沢山好意を寄せられているとは聞かぬ。つまり神坂殿が裏切られる心配もないぞ」
「あの、そうかもしれないけど、私が好きなのは雄真くんで」
「わかっている。今の状態で神坂殿が高溝殿と交際すると宣言したとしてだ、周囲も流石に今までやり過ぎたと雄真殿に手を出そうとしなくなるのではないか? 想像してみるといい」

『えっ、春姫ハチと付き合うの!? 嘘っ!? やったやったやったー!! これで遠慮なく私雄真くんとお付き合い出来る!!』

「…………」
 想像開始三秒で姫瑠は雄真獲得に動いていた。全然遠慮してくれなかった。
「更にだな、逆の立場になることで、雄真殿もあらためて神坂殿の大切さというものに気付いてだな」

『春姫……そんな、ハチと……!?』
『……雄真くん』
『楓奈……俺、間違ってたのかな……』
『ううん。――そんなこと、ないよ』
 ぎゅっ。
『あ……』
『雄真くんは、何も悪くない。私が大好きな、雄真くんのままだから。だから、大丈夫。私はいつだって雄真くんの味方だし……寂しい時や辛い時は、傍にいるから』
『楓奈……俺、俺……っ』

「…………」
 傷心のまま楓奈に雄真は流れていた。ある意味楓奈はここ最近では姫瑠よりもリアルに怖い存在でもあった。
「あの……上条くん、一応想像してみたんだけど、悪化の一途を辿ってるんだけど……」
「――すまない神坂殿、俺の言葉は忘れてくれ」
「え?」
「俺も一応想像してみたんだが、最終的に沙耶と結婚する雄真殿の姿しか見えなかった」
 何をどう展開させたらそうなるんだ、と春姫は心の中でツッコミ。――そんな時だった。
「!?」
 ザッ、と二人とも警戒態勢を自然と取った。――敵の気配を感じ取ったのだ。今までの緩い空気は消え、張りつめた空気が辺りを包む。直後、
「っ、アカン、ここでもか」
「流石ですね瑞穂坂……布陣に隙がありませぬ」
 現れる敵二名。――その姿に、信哉も春姫も同時に同じ疑問を持つ。
「主力級……」
「柊殿と沙耶が抜かれたのか……? いや放送はなかったが……」
 何処からかアウトになったというアナウンスはなかった。恐らく杏璃も沙耶も戦闘中のはず。だが目の前には無傷の二人。
「まあよい。何にしろ、ここで俺達が通さなければ済むだけのこと」
 信哉の結論は当然の結論である。アクシデントがありこの二人が抜けて来たとしてもここで遭遇した以上、ここを抜かさなければ問題ない。敵を視界に収め、風神雷神を構える。
「神坂春姫と上条信哉……やったっけね」
「ええ。上条信哉は私の前半の『担当』ですが」
「神坂春姫はウチの『担当』やない。――行くで、真霧ちゃん」
「御意に」
 ドン、と東雅真霧が信号弾を一つ、打ち上げる。そのまま身構え、涼陽奈もその横で身構える。――そして、
「――どん!」
 バッ、と二人同時に走り出した。
(!! この者達、早い……!!)
 簡易移動術でも会得していたか、二人の加速力はかなりの物だった。
「だが……通すかあああぁぁ!!」
 だがその速度に反応するに十分な身体能力を持つ信哉が先に動く。相手は二人とも早かったが、あえて比べた時により速いのは陽奈の方だった。身体能力が高い自分の方がより早い方を抑えるべきだ。そう考えた信哉は自らは陽奈を抑えに、更に真霧のルートを春姫が反応し易いように上手く誘導する。
「風神の太刀ィィィィィ!!」
「ぐ……っ!!」
 先制攻撃は信哉。その瞬発力、また範囲こそ狭いものの高威力の攻撃に、陽奈も足を止めざるを得ない。
 信哉の判断は間違いではなかった。――その間違いのない判断こそ、相手の狙いだとは知らずに。
「ヘイジ・アンヘイ・ラナ・ミヤコ!」
「ディ・アムレスト!」
 一方の真霧。先制攻撃を春姫に真正面から放つ。――防御に秀でている春姫、これを難なくガード。……だが。
「!?」
 そのガードしていた時間の隙をついて、真霧、戦線離脱。その足で一気に奥へ。
「っ――!」
「無理だ神坂殿! 今追っても陣形が崩れる、奥の者に任せるべきだ! それにあのかく乱、俊足の者、我々で言うならば葉汐殿程の者が二名はいないと不可能! あの者一名ではこれ以上のかく乱は出来ぬ、つまり別れた以上こちらが有利と見ても構わぬ!」
 これも信哉の判断は正しかった。足のみで強引に突破するには当然一人では無理。今ここで信哉が陽奈を止めた以上ここから先真霧がかく乱で進むのは難しい。というよりも真霧は単独になってしまった。まだ小日向雄真魔術師団にはこの後方に楓奈、姫瑠、屑葉が控えている。その三人の何処かに引っ掻かってしまえばそこまで。更に現状の敵は陽奈一人。ここを落ち着かせてしまえばあらたな行動に出れる。
「確かに、あんたの言う通りや。ウチのチームで一番足が速いのはウチ、次が今の真霧ちゃん。ウチら二人で組まないとあの作戦は出来へん。しかもそう何度も通じる技でもないしなあ」
「自分達の本当の作戦はあれではない……そう言いたいのかしら?」
「ま、そういうこっちゃ。――ほれ、その証拠に」
 バッ、と一人小走りで姿を見せ、陽奈の横に並ぶ。――主力の一人、弐句沙雪である。
「沙雪ちゃん、神坂春姫は沙雪ちゃんの『担当』やったよな?」
「ああ。ここは何とかする。あんたは」
「うん。ウチは先に進ませてもらうで」
 ドン、と陽奈は信号弾を一つ打ち上げる。直後、
「ほな、行っくでえええ!!」
 先ほどと同じく、加速力任せで突貫。
「抜かせるとでも思ったかぁぁぁ!!」
 当然反応するのは信哉。風神雷神を振りぬきつつ、左右から抜かせないことを警戒しつつこちらも突貫。
 だがここで、信哉、そして春姫にも予想外の展開が起こる。――パァン!
「!?」
 目の前の陽奈が一瞬光ったか、と思うと、
「東雅式棒術参の式、風車刃斬(ふうしゃはざん)!!」
 既に目の前の陽奈は陽奈でなく、真霧に代わっていた。真霧はそのまま接近戦可能の棒型ワンドを振りかざし、信哉に真正面から突貫。
「ぐ……っ!?」
 突然のことに頭の反応も体の反応も信哉は一歩遅れる。ギリギリの所でガードはするものの、勢いのまま後退。
「馬鹿な……どういうことだ……!?」
 信哉の疑問は最もである。――信号弾を打ち上げた直後、突貫してきた陽奈。だが一瞬光ったかと思うと、突貫してきたのが陽奈ではなく、先ほど単身先に進んだはずの真霧に代わっており、そのまま攻撃してきた。そして肝心の陽奈は姿を消している。
「まるで……さっきの人と、今の人が、入れ替わったみたい……!?」
 その疑問は、直ぐ近くで信哉と陽奈――と直前で入れ替わった真霧のぶつかり合いを見た春姫も同じであった。今の現象は、正に「入れ替わった」としか表現が出来ないのである。
「それで、合っていらっしゃいますよ」
「……え?」
「要は、陽奈先輩と、私が入れ替わった。そういうことです」


「一体……どうなってるの……!?」
「……っ」
 敵の不可思議な動きに混乱しているのは雄真達や春姫達だけではなかった。というよりも、何処よりも混乱していたのは最前線である。――こちらその内の一組、土倉恰来、相沢友香ペア。
 二人が混乱するのも無理はなかった。先ほどから敵が現れては消え、入れ替わり、消え、現われ、の繰り返しである。戦闘時間は短くダメージも少なかったが、それでも精神的に少々ダメージが重なっていた。
「……賭けに出るしか、ないか」
「恰来?」
「このままだと敵の策略に溺れて思う壺かもしれない。強引な方向の行動に移そう。そうでないと抜けられない」
「……そうね。そうしましょう」
 ふーっ、と息をつき、気持ちを入れ替えた――その時だった。
「大丈夫だよ、友香さん。――君達の前で入れ替えをするのは、僕が最後だから」
 そう言いながら、二人の前に、芽口則雄が姿を見せたのであった。


<次回予告>

「ああっもう、何なのよさっきから入れ替わり立ち替わり!! 正々堂々と戦いなさいよっ!!」
「柊さん、気持ちはわかりますけど、ここは冷静に……」
「なれるわけないじゃないのよっ! 冷静になって大人しく入れ替わり立ち替わりで見過ごせって言うわけ!? 何なのよあいつら!! あんなんで勝って嬉しいわけ!?」

人が入れ替わる――!?
予想外の奇抜な作戦に、小日向雄真魔術師団は見事に嵌ってしまう。

「例えばこれが敵の策略だとして、相手の目的は何だと思うの?」
「えーと……俺達を混乱させることとか」

各所、各々で遭遇する現象、そして考察、対策。
果たして勝利の鍵を握っているのは誰なのか!?

「それ以上何か言いたいことがあるなら戦いながらにしてもらえるか」
「ライヴァル。――悪いが黙っていてもらえないか。今とても大切な――」
「俺にとっては何の必要もない話だ」

そして、大切な物を懸けた決戦が、幕を開ける――

次回、「ハチと小日向雄真魔術師団」
SCENE 58 「目指すべきは愛と勝利」

「そういえば、雫ももてるんだよねー、今更ながら」
「え? 私なんて、深羽ちゃんに比べたら全然――」
「そーれーはーうーそーだ。告白されたことないとか言わないっしょ? しかも一度や二度じゃないはず」


お楽しみに。



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