「〜♪」
 朝、相沢家、台所にて。――制服にエプロン姿の友香が、鼻歌混じりに弁当の用意をしていた。
「で、後は……っと」
「ちゃかちゃっかちゃちゃちゃ♪ ちゃかちゃっかちゃちゃちゃ♪ ちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃちゃちゃ♪」
「……兄さん、具体的過ぎるのは宜しくないと思うけど?」
「お前が具体的って言わなきゃわからないっての」
「それは屁理屈よ、まったく」
 兄が台所に入って来る。冷蔵庫を開け、冷えた麦茶をコップに入れていく。
「なあ友香、最近お前よく朝弁当作ってるよな」
 兄が麦茶を飲みつつ、弁当を作っている友香の方に視線を向ける。
「ええ。――私も女の子なのよ? お弁当位作ります」
「いや弁当作ってることに文句があるわけじゃねえんだ。俺もいいことだと思う。――顔は可愛い、スタイルもいい、性格も良い所も悪い所も人間味溢れて魅力的、そんな女が弁当作ってるんだ。我が妹じゃなかったら俺は間違いなく口説いてる」
「それはどうも。――褒めても兄さんの分はないわよ?」
「いや、それも別にいいんだ。――ただ友香、一つ尋ねてもいいか?」
「ええ、どうぞ」
 そのまま兄は友香の横に立ち、軽くポン、と友香の肩に手を乗せる。そして、
「なあ友香。――どうして君は最近、弁当を必ず二個作っているんだい?」
 口調が物凄く優しくなり、そう尋ねてきた。
「いやわかるよ友香。お前も女の子だ。好きな男の子には自作の弁当を作って食べさせてあげたいと思うものだからな。どうだ? 土倉くんは喜んでくれてるだろう?」
 友香はため息をつく。――だが隙は見せない。弁当を二つ作っている時点で、このツッコミはいつか必ず来るだろうとは思っていたからだ。
「残念ですけど、兄さんが考えているような目的のお弁当じゃありませんから」
 微塵の動揺も見せず、澄まし顔でそう答えた。
「本当にか?」
「ええ」
「じゃあ何故二個?」
「友達同士で自作のお弁当を試食し合うのが流行ってるのよ。お互い評価して、更なる向上を目指そうってわけ。そこそこの人数で分け合うから、もう一個作ってるのよ」
「本当に?」
「ええ」
「……マジで?」
「ええ」
 動揺をまったく見せない友香を見て、兄は「何だつまらん」とため息。
「まあ確かに、いつか好きな男の子がちゃんと出来たら美味しいって言って貰いたいからその為に今こうしてる、っていうのもあるから、兄さんの考えはあながち間違いでもないけど?」
「ほう、いつかは土倉くんに食べて貰いたい、と」
「さ、どうでしょう?」
 今までにない形でのスル―に、兄は「む……」といった感じになる。――友香は心の中でガッツポーズ。勝った。ばれなかった。
「ま、いいわ。――あ、この切れ端貰っていいか?」
「ええ、その位だったらどうぞ」
 パクリ。
「ふむ。――ちょい味薄くないか?」
「……そうかしら?」
「これが副菜だってんならいいけどな、メインだろ? 土倉くんも男の子なんだから、メインは比較的濃い目でがっつりいきたいと思うものだろうよ」
「やっぱり……ちょっと思ってたのよね……じゃあ明日、から……?」
 …………。
「…………」
 …………。
「ちゃかちゃっかちゃちゃちゃ♪ ちゃかちゃっかちゃちゃちゃ♪ ちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃちゃちゃ♪」
「ちょっ、待ちなさいよっ!」
 何食わぬ顔で三分間的なテーマソングを再び口ずさみつつ去ろうとする兄を急いで引き止める。
「いやーあれだな。友香は好きな男の子が出来たらお弁当を食べて貰いたいんだったっけか、うん、確か何処かで耳にしたぞ?」
「さっきよさっき、確かにさっきそんなようなこと言ったけど!!」
「友香、もう手紙は書いたか? 食べ終わった後に渡すんだ。「一緒に私も食べて♪」的な」
「何処の変態なのよ!!」
 失態を犯した。――冷静さをキープしていた友香の精神がぐらつく。
「別にいいじゃないか、そんなに隠さなくても。あまりひた隠しにするのは逆に土倉くんに失礼だぞ?」
「う……それは」
「何だ、結局土倉くんに食べて貰うんじゃないか」
「ちっ、違うのよ、確かに恰来にも食べて貰うけど、あくまで友達として、評価して貰う為に食べて貰うの」
「友香、友達に食べて貰うのにその後「一緒に私も食べて♪」はないだろ」
「それは兄さんの妄想!!」
 はあ、とため息が出た。――ツッコミを入れていると、徐々に冷静さが戻って来る。
 しかし友香としても辛い所である。事実この弁当、友人大勢ではなく、恰来一人に食べて貰う為に作っている。あまり必要以上に嘘を重ねるのは確かに恰来に失礼かもしれない。とは言っても恰来のことが男女として好き、と断言出来るわけでもない。
「しかし友香も罪な女になったねえ」
「どういう意味よ?」
「だってお前、普通女の子に弁当作って来て貰うって言ったらあれだぞ? 普通男は色々期待するぞ? 子供の名前考えるぞ?」
「朝から何の話してるのよ!!」
「明るい家族計画の話」
「言わなくていい!!」
 お前が言えって言ったんじゃん、と兄はツッコミを入れつつ、コップを流しに置く。
「まったく……」
 そうは言いつつも――少々引っかかる個所もあった。

『だってお前、普通女の子に弁当作って来て貰うって言ったらあれだぞ? 普通男は色々期待するぞ?』

「…………」
 確かに、そうかもしれない。――勢いだけで作り始めた恰来の弁当。恰来はどう思っているんだろうか。迷惑なんだろうか。それとも――
「友香」
「……何?」
「顔が恋する乙女になってるぞ」
「ぶっ! げほっ、げほっ!」
 むせた。何か食べていたわけでも飲んでいたわけでもないのにむせた。
「ああっ、もう! 時間無くなっちゃったじゃない!」
 そう文句を言いつつ、急いで作った弁当二つを、ナプキンで包む。
(顔が恋する乙女になってる、か……)
 自分は、どう思ってるんだろう。――もしかして、私は……



ハチと小日向雄真魔術師団
SCENE 52  「総菜パンは微かに恋の香り」




「……なんつーか、普通っていいよな」
 柚賀さんの騒動が落ち着いた翌日の学園、現在三時間目と四時間目の間の休み時間。ふっと俺はそう呟いていた。
「まあ確かに雄真は既に色々なプレイを体験したからな、普通に戻るのもいいだろうな」
「クライスさんそれ全然意味違いますから」
 頼むから真っ昼間の教室でそれは止めて欲しい。
 まあその、何があれって、分かり易い心配事がなくなったのだ。柚賀さんは無事元に戻り、普通に学園に通えるようになった。ここ数日は柚賀さんのことで一杯一杯な個所もあったような気がするので、余計にそう思う。
「ま、これで心おきなくMAGICIAN'S MATCHに前向きに取り組める、か?」
「そうだな。柚賀さんもそういう意味じゃ全然前よりも戦力的にアップだし」
 流石に暴走時程はいかないだろうが、それでもあれをコントロール出来るならかなりのレベルになるだろう。ますます優勝が近くなる。――ちなみに次はついに準決勝。ちょっと次の試合まで間が空くが、残りは順調に行けば二試合になった。
「……しかし」
 ここ数日は柚賀さんのことに集中していたせいか、周囲で話題になっていることがわからなくなっていたりした。どうも近くに何か新しく出来るらしく、教室の各地でその話題が挙がっているのだが何のことだかさっぱりだ。
「近くに、アスレチック系統のテーマパークが出来るんだって」
「へえ」
 春姫の声だ。俺がその話をしている男子グループの一つに視線が行っていたのに気付いたか。
「今度の日曜日、オープン記念でイベントがあるみたい。――今度の日曜日は試合ないし、一緒に行ってみる? デートも兼ねて」
「イベントか……」
 確かに、そういう体を動かすデートも新鮮だ。面白いかもしれない。
「そうだな、じゃ今度の日曜日、そこに行くか」
 俺が承諾すると、
「やったー! やったやった、ついに雄真くんと日曜日デート!!」
 いきなり物凄いはしゃぎだした。……喜んでくれるのはいいが、実にらしくない。
「おいおい、どうしたんだよ、春――」
 苦笑しつつ春姫の席に視線を動かすと、
「あーっ、何着ていこうかなー? アスレチック系統の場所なら着替える場所あるから、外用は可愛い格好で大丈夫だよね?」
「…………」
「あんまり派手にはしないけど、でもやっぱりお気に入りの――ってどしたの雄真くん? 幻を見るような目しちゃって」
 いや、まあ、その、何だ。
「……姫瑠さん、そこ春姫の席だよね? 何で姫瑠さんが座ってるのかな?」
「あっ、間違えちゃった、テヘッ♪」
「もしかして、最初から全部姫瑠さんでした?」
「うん、そうだよ?」
「春姫に声そっくりだったのは何故?」
「最近気付いたんだけど、声優さんでさ、サカキバラ……なんとかさんっているじゃん、あの人の真似すると春姫に声が似てることに気付いたの」
 いやそりゃ似てる……いやいやそうじゃなくて。
「つーか何してんのお前!? 何がテヘッ、だよ!? 最初から全部狙ってたなこの野郎!?」
「それはそうだよ、だって雄真くんとデートしたかったんだもん」
「正直で宜しい」
「はい俺の後ろ余計な一言いらないぞ!」
 正直過ぎるんだよこの人は!
「でもさ、いくら何でも気付かない? 普通は。きっと心の何処かで私とデートしたいっていう願望があったから、誤魔化したかっただけなんだよ」
「違う、断じて違う!」
「でも、何にしろ雄真くんと約束出来たもんね。日曜日決定!」
「だからそれは――」
「雄真くん。――どうしても、駄目? 一瞬でも期待しちゃった私が、百パーセント、悪い?」
「……う」
 そうちょっとだけ真面目に穏やかに言われてしまうと少々考えてしまう。――確かに、いくら春姫の物真似をしてたとはいえ、気付かなかった俺がまったく悪くなかったと言えば違うだろう。姫瑠が俺に好意を持っているのを知っているのなら尚更だ。
「……今度、埋め合わせするよ。お互い様ってことで、それでいいか?」
「いいの?」
「ああ。丸一日デート、ってわけにはいかないけど、でも何処か軽く行く位なら」
 それでいて姫瑠は俺にとっては大切な仲間であり友人である。――この位だったら、構わないだろう。偶には、な。
「雄真くん」
「うん?」
 俺が返事をすると、姫瑠はそのまま顔を寄せてきて、軽く俺の頬にキスをした。
「――っておいお前!?」
「私の方が我が侭だってわかってるんだ、ホントは。――ごめんね。だから、そのお詫びの印」
「あのなあ……」
「でもそこで埋め合わせを提案してくれる雄真くんだから、大好きなんだよ?」
「…………」
 ちょっと、久しぶりに、姫瑠にドキッとした――いや待て俺。
「それじゃ、埋め合わせ楽しみにしてるからね!」
 そのままちょっとだけ頬を染めて、笑顔で自分の席に戻っていく姫瑠。……畜生、可愛いとか思う俺がいるじゃんかよ。
「……どうしたの? ボーっとしちゃって」
「え? あ、本物春姫か」
「本物……?」
「いやその、なんでもない」
 他のクラスに用事でもあったのか、春姫が席に戻ってきた。――いかん、気持ちを切り替えねば。
「まあ気持ちを切り替えるとは言っても、結局どちらも美女なんだがな」
「だからそういう言い方で表現するんじゃねえええ!!」
 つーか毎回言うけど俺の心読むな。


 さてそんな一汗かいた休み時間も終わり、四時間目の授業が始まり、無事終わり、昼休みになり、昼食の時間になり。
「――というわけだ、どうだ? 日曜日」
「うん、私は大丈夫。そういう体を動かすデートっていうのも、面白そう」
 ……バッチリ春姫をアスレチックテーマパークのイベントに誘っている俺がいたり。
「るーるるるーるーるー♪」
「……雄真くん、さっきからクライスが何か歌ってるけど……?」
「あー、うん、その」
 あからさまに流れで春姫を誘っている俺に対しての嫌味だろう。
「クライス、わかってる、俺が悪かったんだってば」
「ならいいがな。――気をつけろよ、こういう方向は後々ロクなことにならんぞ。その謝罪、私じゃなくて他の女にするはめにならないようにな。格好悪いぞ、ベッドに裸の女を残して自分も全裸の状態で土下座とか。縞模様のトランクスが泣ける」
「何で抱いた抱かれた後とかシチュエーション細かいんだよ!? パンツの模様まで指定してんじゃねえよ!?」
 まあそのシチュエーションはともかく確かに言われるとそんな気はする。埋め合わせは十分に吟味、注意した方がよさそうだ。
 と、そんな俺達が教室を出て、B組の教室の前を通りかかった時だった。
「ちょっ、屑葉、だから違うって――」
「いいよ、友ちゃん、私なら他の人と食べるから。楽しんで来てって」
「だからそんなんじゃないって――あっ、もう!」
 相沢さんと柚賀さんだ。そのまま柚賀さんは笑顔で手を振って小走りで廊下を走っていく。対する相沢さんはため息混じりで見送る形に。
「柚賀さん、全然大丈夫みたいだね」
「小日向くんに神坂さん。……ええ、元気に来てくれるのは嬉しいんだけど」
 気になったので流れでそのまま話しかけてみることに。
「何かあったの?」
「屑葉が休んでる間、私お昼はいつも恰来と一緒だったのよ。色々話し合うのに丁度良かったりもしたし。あの子、何だかそれを変な風に受け取っちゃったみたいで、気を使って他の人と食べてくるって。違うって言ってるのに」
「成る程な……」
「でも、私も柚賀さんの立場だったら、同じことするかも」
 確かに春姫の言う通りではある。というか二人の関係は正直既に怪しいと思っているのだが。ショッピングモールの時とか手繋いでたし。
「うん、俺も春姫に同意見。今の相沢さんと土倉ならそうする」
「ちょっ、二人まで……」
 ふぅ、と相沢さんは再びため息。
「恰来は恰来で、屑葉が戻ってきたからでしょうけど、直ぐにいなくなっちゃったし」
 まあ土倉のやりそうなことではある。
「……あれ?」
「まったく、どうして二人共……って、小日向くん、どうかしたかしら?」
「相沢さんさ、何で弁当箱二つ持ってるの?」
 そう、相沢さんの手には二つの弁当箱が。赤いナプキンと青いナプキンにそれぞれ包まれている。
「これ? これは……その、最近、恰来に作ってきてたのよ」
「相沢さんが?」
「ええ」
 俺と春姫はつい目を見合わせてしまう。――当然だが、同じ結論に達したらしい。
「相沢さん、本当に土倉くんとは何もないの……? 普通そこまでするってことは」
「好きってことだよなあ。俺だったら間違いなく期待する」
「その……やっぱり、そうかしら」
「まあね」
 女の子の手作り弁当だ。毎日作ってくれたら期待しないでいる方が無理。
「俺はお似合いだと思うけどな、相沢さんと土倉。土倉も相沢さんには特別な想いでいるとは思う」
「小日向くん……えっと、その」
 少しだけ頬を染めると、相沢さんは言葉を選ぶようにしながら口を開く。
「……正直、私、わからないの」
「わからない……?」
「私、恋愛経験、ないから。――恰来のことは好きよ? でもそれは、信頼すべき仲間として、友達としてだって思ってた。でも周囲はそういう目で見てくる。私も……もしかしたら、って思わないこともない。でも、断言出来ないの」
 嘘を言っているようには見えなかった。……断言出来ない、か。気持ちはわかる気もする。俺も春姫に対して最初はそんなんだったし。春姫に告白されて初めてそうなんだって思うようになったし。
「……ってことは」
 どっちかが告白すれば結ばれるんじゃないのかこの二人?
「でも」
 相手はあの土倉だ。――いくら相沢さんに対して信頼が生まれたといえど告白するかと言われたら自信がない。というかあいつ恋愛感情とか持ってるのかという疑問も。
「つまり」
 相沢さんが頑張るしかない。いや待て、相沢さんは断言出来ない状態なんだぞ。
「だから」
 お互いが恋愛感情を持っているということを確認しなくちゃいけないわけだ。告白しました、駄目でしたとなると土倉のことだ、疎遠になってしまう可能性は大。
「結局は」
「雄真くん……? さっきから、何ぶつぶつ言ってるの……?」
「人間ツイッター雄真」
「いやお前それツイッターじゃないだろ人間の時点で」
 ハッとして見ると、相沢さんと春姫がこっちを訝しげに見ていた。いかん、少々怪しかったか。……まあ、それはともかく。
「相沢さん、その土倉の分の弁当、ちょっといい?」
「? どうするの?」
「男が一人で飯食う場所なんて、大体決まってるんだよ。――春姫、悪いけど今日相沢さんと一緒に飯食ってくれ」
「うん、わかった。こっちは任せて」
 俺のやろうとしたことが春姫にも伝わったらしい。俺は半ば強引に土倉の分の弁当を受け取ると、校舎を後にした。


 瑞穂坂学園の敷地というのは他の学園に比べるととても広い。普通科と魔法科で校舎は別れているし、裏には自然が一杯だし、一般客も利用可能なファミレスまであるし。
 というわけで、一人になろうと思えば、案外簡単に一人にはなれる。――が、今は昼休み、そう遠くに行くことなく、更に男子だけが行きそうな個所となると、そこそこ限られてはくる。そんな場所を一つ一つ当たっていくと、
「おっ、発見発見」
 時間もそんなにはかからずに、土倉の姿を見つけることが出来た。
「……小日向?」
「よう、届け物だ」
 俺はそのまま、相沢さん作の弁当箱を、土倉に差し出す。
「……これって」
「相沢さん、探してたぜ? 何で今日に限って受け取らないんだよ?」
「そう、か。……柚賀さんが戻ってきたから、もう終わったんだと思ってた」
「お前なあ……何で相沢さんがお前に弁当作って来てくれてたか、考えたことないか?」
「何で、って……柚賀さんがいない間、一緒に昼飯食べてて、俺がパンだったから」
「…………」
 マジか。そんな理由だと思ってたのかこいつ。色々覚悟はしていたがこれはハードル高いぞ。
「とにかく、これ食えって。――時間もないから、俺も横で一緒するぞ」
 そのまま土倉に弁当を持たすと、俺も隣に座り、自分の分の弁当を広げる。
「なあ、土倉」
「……何だ?」
「お前さ……ぶっちゃけ、相沢さんのこと、好きか?」
 土倉には遠回しは意味がないと察した俺は、いきなりストレートに本題に入った。
「……どうしてそんなこと、聞くんだ?」
「いや、ただ何となく」
「そうか」
 …………。
「…………」
 ――そのまま無言でお互い弁当を食べる時間が流れる。……答えてくれないのかな、と思っていると。
「……好きだと、思う」
「……え?」
 不意に、漏らすようにその声は聞こえた。
「……好きに、なるだろ。俺みたいな人間に対して、あそこまでしてくれる人だ。好きになるに、決まってるだろ」
「土倉……そうか」
 これは少々意外だった。土倉のことだから、わからないとか言うのかと思っていた。でも――それでも、この答えを何処かで期待していた俺がいたから、正直嬉しい。
「今更それを確認して、どうするつもりだったんだ?」
「さっきも言ったけど何となく、な。――お前、本当に変わったよな」
 他人を寄せ付けず、誰かを信用することのなかった奴が、異性に好意を持つようになった。当然俺がそこまで何かをしたわけじゃなく、相沢さんの成果なんだろうが、それでも頑張って良かったと思う。
 後は相沢さんの気持ちがハッキリすれば。――土倉の方が先というのはまあ意外かもしれないが、逆に土倉だからこそ、想いが固まるのが早かったというのもあるかもしれない。相沢さんだって、この調子なら……
「……小日向、一つ確認していいか?」
「え? ああ、うん、何だ?」
 相沢さん対策を練っていた所で、土倉が再び口を開いた。
「さっきの質問……俺が友香のことを好きかどうか」
「ああ。――まさか撤回するとか」
「そうじゃないんだが……もしかしてお前、恋愛対象として、っていう意味合いだったか?」
「……え」
 俺はつい言葉に詰まった。――この質問をしてくるということは。
「……もしかして、お前」
「てっきり仲間や友人として、という意味合いだと思ってた」
「…………」
 えええええええ。マジですか。滅茶苦茶悩んだじゃないですか。引っ張ったじゃないですか。決意の上で答え言ったじゃないですか。
「……何てこった」
 油断していた。土倉は変わり始めていた……が、されど土倉。侮れない。
「まあ世の中お前のように美女を見る度に愛してると言えるわけでもなくてだな」
「言ってねえ!?」
「ああ、すれ違いざまに抱きしめてキスだったか」
「もっとねえ!?」
 どんなキザ野郎だよ俺。……まあ俺はともかく。
「じゃあ……じゃあさ、恋愛対象としては」
「……考えたこと、なかった。そんなことまで、考える余裕は俺にはなかった」
「そうか……」
 結論。――ハードルは、予想通り高かった。相沢さんは土倉のことを(恋愛対象として)好きかどうかは断言出来ない。土倉は相沢さんのことを(恋愛対象として)考えたこともなかった。
 もしかして、この二人がくっつくんじゃないかと思っていた俺や春姫が間違っていたんじゃないか、という結論に辿り着きそうになった、その時だった。……ピリリリ。
「メールか」
 俺の携帯にメールが。差出人を確認すると、柚賀さんだった。
「……って、これって」
 そのメールに書かれていたこと。それは――


<次回予告>

「これが少しでも友ちゃんと土倉くんへのお礼になれればいいな、って思って。
……ごめんね、その、私の我が侭も入ってるけど」

突然やって来た屑葉からのメール。
果たしてその内容とは?

「むむむむ無理無理無理無理絶対無理!! 恋の魔法とかあたし無理っ!!」
「ちょっと待て、一体お前何を想像したんだ」

そして(何故か)始まる雄真のハーレムライフ!
色々な女の子と入れ替わり立ち替わり、雄真は仲を深めていく!?

「春姫の、か。良いとこ悪いとこ色々あるけど、全てをひっくるめて春姫だから、
全部好きでいるつもりだよ。優しい春姫も嫉妬深い春姫も」
「そう。――それじゃ、私みたいな……女は?」
「……えっ?」

深まることで気付くこと、深まることで見えるもの。
それは新たなハーレムのフラグなのか、それとも!?

次回、「ハチと小日向雄真魔術師団」
SCENE 53 「KING OF HAREM -2nd Stage-」

「あー、幸せだー、僕ぁ君といるだけで幸せなんだー」
「もう、大げさだなあ雄真くんは」


お楽しみに。



NEXT (Scene 53)  

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