「いくぞー」
 放課後、シミュレーションホール、小日向雄真魔術師団練習時刻。各々がウォーミングアップ中、気付けば当たり前のように練習する俺も当然ウォーミングアップ中。琴理と簡単な魔法球の撃ち合いだ(気付けば当たり前のように琴理と組んでいる俺がいたりする)。
 柚賀さんのことで色々あるが、それを理由に練習を休んだり手を抜いたりするわけにはいかない。柚賀さんだって小日向雄真魔術師団の一員だ。自分のことにメンバーが集中して結果試合に負けました、何てことになったら辛いだろう。それじゃ意味がない。
 試合に勝つ。優勝する。皆と――柚賀さんと、一緒に。それが俺達の目標なのだから。
「……よしっ!」
 自然と気合も入る。……入るのは、良かったんだけど。
「っ!? おい、小日向っ!」
「――あ、やばっ!」
 気合が入り力み過ぎたか、ウォーミングアップで撃っていた魔法球が、琴理の方じゃなく、明後日の方向に飛んで行ってしまった。――バァン!
「……え?」
 マズイ、誰かに当たったか――とも思ったのだが、
「もう、随分と手荒い歓迎なのね、雄真くん」
「母さん……?」
 偶々俺の魔法球が飛んだ先には母さんがいて、まあほぼノーアクションでかき消してくれた。ある意味母さんで良かった……って、
「あれ? 母さん、どうして?」
 何だかんだで母さんはほとんど練習を見に来るようなことはなかった。監督の成梓先生、指揮官の楓奈に一任していた。なのでここに姿を見せる、というのは予想外だったのだ。
「ええ、偶には体を動かさないとね。あまり研究室にばっかり籠ってたら老けちゃうもの」
 そう言ってくる母さんは、俺と男女用の違いこそあるものの、お揃いのあの朱色の魔法服を着ていた。特に普通にそこにいるだけなのに、魔法服を着ているだけで独特の存在感がある。流石は御薙鈴莉と言った所なのだろうか。――スタスタスタ。
「うん?」
 と、そんな俺に近づいてくる人が。――梨巳さんだ。
「母親と同じ魔法服。ペアルック。――マザコン」
「はいそこちょっと待った」
 つーかそれだけ言いにきたんですか梨巳さん。どれだけ俺を陥れたいんだ。この人もSか。
「梨巳さんの言いたいことはわからないでもない。でもこの魔法服は、御薙の系統が関係しているから、決してペアルックでは――」
「あら、違うわよ?」
 ……え?
「そもそもは、私が学生の頃、趣味で色とデザインを選んだんだもの。御薙とか関係ないわ」
「……はい? えーと……クライス?」
「事実だな。正確には音羽も一緒に考えていたが」
 ということは、あれですよ。つまりですね、
「普通にディス・イズ・ペアルック!?」
「訳・僕はマザコンです」
「その訳違うクライス!!」
 何てこった。てっきり御薙が関係してるんだと思ってたら違ったのか。普通にペアルックだよ本当にこれ。
「いいじゃない、少し位マザコンな方が。雄真くん、女の子にモテモテで取っ換え引っ換え可愛い女の子と遊ぶのはいいけど、偶には母さんも構って欲しいわ〜」
「いやいや気持ちはわかりますが俺はマザコンじゃないしそもそも何その俺が毎日違う女の子と遊んでますフラグ!?」
「雄真。――まあ世の中、絶対に折れないフラグというものがあってだな」
「ねえよ!?」
 微妙に俺のマザコン疑惑が流れ始めた――その時。
「……一体何しに来てるつもりなんですか、先生」
 呆れ顔で登場は、成梓先生だ。
「あら、親子のスキンシップよ?」
「馬鹿言ってないでさっさと始めましょう」
「もう、釣れないわね茜ちゃん。――それじゃ雄真くん、また後でね〜」
 その会話から察するに、母さんのウォーミングアップの相手は成梓先生が務めるようだ。……まあ、成梓先生位じゃないと務まらないだろう。
「……って」
 もしかして、母さんはただ運動に来たんじゃなく――もしもの為に、体を温めておきたかったんじゃないだろうか。……もう直ぐ七日目、何が起こるかわからないから。
「……母さん」
 母さんが、本気を出そうとしている。――その背中は遠く、でも逞しく、頼りがいがあった。……そんな時だった。
「成梓先生っ!!」
 駆け足でシミュレーションホールに入ってきたのは――相沢さんだった。全力で走って来たようで、息が完全にあがってしまっている。
「? 相沢さん、どうしたの?」
「屑葉が……屑葉が、いないんです……!! 何処にも……!!」
「え……?」



ハチと小日向雄真魔術師団
SCENE 47  「命が空へ還る瞬間(とき)」




「放課後になって、一緒にシミュレーションホールに行こうと思ったら、いつの間にか教室にいなくて、探したけど見つからなくて、携帯に電話しても連絡着かなくて……!!」
 俺達の間に、一気に緊張が走る。――成梓先生、母さんを中心に、柚賀さんの事柄を知っている人間だけが集められている。
「学園に不審な外部の人間が近づいてきた形跡はないわ。警戒は強くしておいたから、見逃すとは考え難い」
「なら、柚賀さんは」
 自ら単独教室を離れ、何処かに行ってしまったということになる。――どうしてだ? どんな理由にしろ……
「――急がないとマズイわね」
 あまり、いい予感はしない。
「ここに集まった全員で、学園の外を探しましょう。何かあったら、直ぐに私か茜ちゃんに連絡、それ以外にも定期的に連絡するようにして」
「単独行動は私と御薙先生、瑞波さんのみ、後はグループ分けして万が一の為に三人ずつで動くように。――神坂さん、柊さん、小日向くんで一組、相沢さん、土倉くん、葉汐さんで一組、真沢さん、梨巳さん、武ノ塚くんで一組、上条くんと上条さんは――」
「伊吹様に連絡を取ります。今なら直ぐに合流出来ますから、俺達は二人でも」
「わかったわ。――皆、くれぐれも気をつけて!」
「はい!」
 直後、俺達は走り出した。――この先に何があるかは、考える暇もない位に。


 屑葉と庵司の視線がぶつかり合う。――十数秒後、庵司がため息をつく。
「本気みたいだな」
「はい」
 髪の毛を軽く掻きながら、庵司は少しだけ緊張を解く。
「どういう心境の変化だ? 俺としては好都合だが、完全に予想外の展開だ」
「……わかるようになっちゃったんです」
「わかるように……なった?」
「自分の体の中で――自分の意志とは別に、黒い魔力が、日に日に増幅していくのが」
 屑葉はゆっくりと、自らの右手の掌を、自分の胸に当てる。
「多分、完全に制御出来なくなるまで、そんなに時間は残っていません。そして――どんな方法を使ったとしても、正式な儀式を通さない限り、この力は制御出来ない。それも、わかります」
「…………」
 庵司は無言で先を促す。
「結果――私はきっと、沢山の人を傷つけることになる。私が大好きな人達も、きっと傷つけることになる。……そんなの、耐えられません」
「大切な人を傷つけるのが耐えられない――そんなことは、最初からわかってたことだろ」
「勿論です。でも――この数日で、あらためて実感し直しました。それがどれだけ辛いことか、そして私の周りにいる人達が、どれだけ素敵な人達なのかを。……これ以上、迷惑は掛けられないから」
 ここ数日の屑葉を想う仲間の気持ちが、行動が、雄真の行動が――結果、屑葉にこの決意をさせてしまったのである。……皮肉なことに。
「七日目を迎えたら、先生達は間違いなく警戒し、完全なる防壁を敷き、間違いなく松永さんは行動し辛くなると思います。――なので、今日……今、お願いしたいんです」
「成る程、な」
 その言葉を発した時には既に、庵司の左手には黒刀が握られていた。
「殺すっつっても、普通にこれを刺して殺すとかじゃねえ。そこまで魔力が増幅してると何があるかわかんねえからな。肉体に触れず、魔力の刃で直接心臓を貫く、普通の人間には出来ない暗殺術の一種を使う。――痛いとか苦しいとか考える暇はねえ」
「はい。――ありがとうございます」
 その屑葉のお礼に、庵司は苦笑する。
「お礼とか止めてくれ。俺は悪者なんだって。夢とか希望とか持たず、現実だけを見て、君を殺そうとしてる駄目な人間だ」
「そんなことありません。――お父さんが、認めた人ですから」
「そう来るか」
 ははっ、と今度は軽く声に出して笑う。
「――おやっさんに、似てるよ、お前」
「そう……ですか?」
「ああ。そういう所がな。表面上は違っても、根っこの部分っての? そんな気がするよ」
「初めて言われました。お父さんに似てる、って」
「そっか」
 会話が途切れ、ふーっ、と庵司が大きく息を吹く。
「あの世で、おやっさんが待ってる。何も心配することはない。――掛け替えのない親子の時間、取り戻してこい」
「はい」
「それから――最後にお願いだ」
「……?」
「俺もお前を殺した後、残った虫けら共を処分したら、死ぬつもりだ。俺はおやっさんやお前とは違う。色々罪を犯してきた。だからきっと地獄行きだ。でも」
「……でも?」
「その……地獄に行く前に、おやっさんの顔、見に行ってもいいか?」
 そのまるで純粋な少年のような問いかけに、屑葉は優しく笑う。
「お父さんと二人で、待ってます。――三人で、色々お話しましょう?」
「――サンキュ」
 これから殺す、殺されるの間柄とは思えない、優しい空気が、時間が流れた。
「よし。――それじゃ、行くぞ」
「はい」
 屑葉、ゆっくりと目を閉じる。庵司がそれに合わせて、ゆっくりと黒刀を身構える。――その時だった。
「屑葉っ!!」


「クソッ……柚賀さん、間に合ってくれよ……!!」
 俺は春姫、杏璃と一緒に瑞穂坂の街を駆け抜けていた。――数組に別れての柚賀さんの捜索。どれだけ時間が経過したかわからないが、未だ何処の組からも連絡はない。
 柚賀さんが連絡を無しに、姿を消した理由。馬鹿な俺でもわかる。――松永さんに会っているんだろう。そして、自ら終わりにして欲しいと依頼しているんだろう。それ以外には考えられない。――これ以上、俺達に迷惑を掛けない為に。
「違うのに……あたし達、迷惑だなんてこれっぽっちも思ってないのに……!!」
 杏璃の呟きの通りだ。俺達は、誰も迷惑だなんて思ってない。でも、柚賀さんは……
「これ以上は闇雲に探しても無理だ、雄真」
「クライス、ならどうしたら」
「既に松永庵司に会っていると仮定し、奴が遂行するとしたら人目の着き辛い所。賭けで、そういう個所を一つ一つ当たっていくんだ」
「わかった!」
「そういえば……近くに工事中の空き地があったわ!」
「雄真くん、杏璃ちゃん、行ってみよう!」
 俺達は一気に方向転換。その杏璃が知っている工事中の空き地へダッシュ。
「? 小日向達……!?」
「っ、土倉に相沢さんに琴理!」
 違う方角へ向かっていた三人だ。空き地を目指す為に方角を変えたせいで合流になったか。――俺達が向かっている場所、事情を手短に三人に俺は説明。
「ひとまずそこに行ってみるか。そこが駄目ならまた別れればいい」
 土倉のその提案を呑み、合流し俺達はその空き地へ。
「そこの角を曲がれば……!!」
 走り続けでも疲れるのも忘れ俺達は角を曲がる。
「いた!! 見つけた!!」
 直後、先頭にいた杏璃が叫ぶ。
「残りへの連絡は任せろ!!」
 バシュッ!!――そのまま琴理がワンドである銃の銃口を空に向け、連絡用と思われる魔法弾を発射。これで残りのメンバー、それに先生達も気付くはず。
「屑葉っ!!」
「――っ!!」
 いち早く駆け寄ろうとする相沢さん。俺達も続く――が。
「っ!?」
 パァァン!!――空き地の敷地内まで後一歩、といった所で空き地に結界が張られてしまい、俺達は入れなくなる。
「黒い波動……松永さんか……!!」
 当然、柚賀さんの前には松永さんがいる。結界を作ったのも――
「あー、言っておくけど俺じゃねえぞ、これ」
「……え?」
 松永さんが、軽く顎で柚賀さんを促す。――これを、柚賀さんが? 一目見ただけでわかる、高レベルでこの広範囲の結界。柚賀さんの実力を詳細に知ってるわけじゃないけど、でもここまでの物はなかった気がする。
「……こんなことが、詠唱破棄で出来る位、私の中で魔力が増幅し始めてるんです。やっぱり、時間の問題」
 柚賀さんの、魔力が増幅している。――その黒い魔力に飲み込まれている証拠なのか……!?
「っ!? 何だよこれ……!?」
 直後、比較的近くにいたか、梨巳さん、武ノ塚、姫瑠が合流した。そして……俺達の姿を確認した柚賀さんが、ゆっくりとこちらへ近付いてくる。
「辛いから、お別れしないで行こうと思ってたけど……やっぱり、見つかっちゃった。敵わないな、みんなには」
「柚賀さん!! どういうことだよ!!」
「これ以上は、耐えられない。今こうして表に出ている私もいつ消えるかわからない。そして、何をやったとしてもそれを食い止めることはもう出来ない。――わかるんだ。私の体のことだから。自分自身のこと、だから」
「決め付けるなよ!! 諦めるなよ!! 一人で勝手に思い込むなよ!! そんなに……そんなに俺達のこと、信じられないかよ!?」
「信じてる。信じてるから……その信頼を裏切るのが、辛いんだ」
 俺の必死の言葉は、柚賀さんには届かない。
「屑葉!!」
「……友ちゃん」
「どうしてなの……!? まだ、まだ終わらせないで!! 私達、あなたの為に頑張れる、戦える!! その為に集まってるのよ!?」
「ありがとう。――その気持ちだけで、私はお腹一杯」
 相沢さんの言葉も――届かない。
 柚賀さんは一歩下がり、ここにいるメンバーに思い思いの言葉をかけていく。
「梨巳さん」
「柚賀さん……」
「私はもう、頑張れないけど……梨巳さんは、きっと頑張れる。私とは違って強いから。だから、私の分も、みんなと一緒に仲良くね」
「……っ……!!」
 梨巳さん。――耐えられなくなったか、最後の一言の後、サッと下を向いて、視線を逸らした。
「柊さん。――私も、友ちゃんみたいに直ぐにもっと仲良くなって、名前で呼びたかったな。杏璃ちゃん、って」
「そんなの……そんなの、生きてればいくらだって呼べるじゃないのよっ……!! これからだって、今からだって呼んであげるわよ、屑葉!! だからっ……!!」
「ありがとう。――杏璃ちゃん」
 杏璃。――その顔は、既に涙でボロボロだった。でも顔を背けることなく、必死の想いで結界の破壊を試みていた。
「土倉くん。――友ちゃんのこと、宜しくね。友ちゃんは強いから、だからこそ……支えてあげなきゃいけない時が、あると思うから」
「俺なんかじゃ、無理に決まってるだろ……そういう時に、柚賀さんが必要なんだろ……俺だって、その位わかる……!!」
「大丈夫。土倉くんは、友ちゃんを見ていてくれてた。親友の私だから、わかるんだ。私の分まで支えてあげられる。……親友の私だから、わかるんだ」
「っ……」
 土倉。――あまり表情を変えない奴だが、今の土倉はハッキリと悔しそうにしているのがわかった。
「小日向くん。――小日向雄真魔術師団って、最初正直戸惑っちゃったけど、でも直ぐにわかった。私達に相応しい名前だったって」
「その小日向雄真魔術師団に、柚賀さんが必要だって、何度言えばわかるんだよっ!!」
「ありがとう。――小日向くんは、応援団長なのにいつだって格好よかった。小日向くんと一緒に戦えたこと、仲間だって言ってくれたこと、光栄だったよ」
「柚賀さん……っ!!」
 俺。――自分のことだからわからないが、必死な表情をしていただろう。
「友ちゃん」
「屑葉……!!」
「友ちゃんはね――友ちゃんにね、私はずっと憧れてた」
「え……?」
「強くて優しくて格好よくていつでも私を助けてくれて。私の理想だったの。私もいつか友ちゃんみたいになりたい、ってずっと思ってた」
「屑葉……そんなこと、今まで一度も――」
「そんな友ちゃんの親友でいられたこと、誇りだったな。友ちゃんが私に何でも話してくれるの、嬉しかった」
「私だって……私だって、屑葉の親友でいられたこと……!!」
「私の、親友でいてくれて、ありがとう。――私きっと、生まれ変わったら、友ちゃんみたいな女の子になれるように、頑張るから」
「……屑葉……っ!!」
 最後に――相沢さん。目に涙を溜めつつ、でもしっかりとした面持ちを保ったままだった。
「みんな、最後までありがとう。本当にありがとう。そしてごめんなさい。――大好き、だったよ。みんなみんな、大好きだから」
「柚賀さん!!」
「屑葉っ!!」
 柚賀さんは俺達にそう笑顔で告げると、ゆっくりと背中を向け、松永さんの方へと歩いていく。――俺達は、その背中に触れることはもう出来ず。
「クソッ……何でだよ、何でぶち破れないんだよ……!!」
 俺達が必死になって結界を破壊しようとしている間に、もう気付けば柚賀さんは松永さんの真正面に。
「……もう、いいのか」
「はい、お待たせしまして」
「いや、何度も言ったけど明日までは待つつもりだったからな。――いい奴らだな、あいつら」
「はい。自慢のお友達です」
「うん、あそこまでいけば誇っていいと思うぜ。――じゃ、行くぞ」
「はい、お願いします」
 柚賀さんが、ゆっくりと瞼を閉じるのが、ここからでもわかった。

 松永さんが、黒い刀を構えるのが、物凄くゆっくりに見えた。

 やけに、回りが静かになった気がした。俺達の必死の叫びも、何故か耳には届かなくて。

 夢を見ているみたいだった。

 これが現実だなんて、思いたくなかった。

「屑葉――!!」

 相沢さんが、再びその名前を叫んだ時、

 既に、柚賀さんの体を、黒い魔法波動が――貫いていた。

 柚賀さんの体が、ゆっくりと地面に落ちていく。

 その体が、完全に地面についたその時、

「あ……」

 あれ程手こずった、結界がスッ、と消えた。

 そしてその体が、完全に地面についたその時――


 一つの命が、空へ還っていった。


 空は青かった。

 風は穏やかだった。

 まるで、そこに横たわる、彼女の暖かい優しさのように、

 静かな草花の擦れる音が、俺達を包んでいた。

 ――柚賀さん。

 これが君が残した、最後の優しさだって言うなら、

 こんなに悲しい優しさは、ないよ。

 なあ、柚賀さん。

 これが君とのお別れだなんて、冗談にしては酷すぎるよ。

 なあ、柚賀さん。

 俺達はこれから――どうしたらいい?

 君の願いを、俺達は叶えてみせるから、

 君の想いを、俺達は受け継ぎたいから、

 だから、柚賀さん。

 頼むから――その声を、聞かせてくれよ。

 目を覚まして、いつもの笑顔で、伝えてくれないか、俺達に。

 もう死んじゃったなんて、嘘だよって、言ってくれよ、俺達に。

 柚賀さん――


<次回予告>

「……母さん……柚賀さんは……どうなったのさ……?」

屑葉、死す――
「何も出来なかった」現実が、現実だけが、徐々に確実に圧し掛かっていく。

「目を覚ましてよ、屑葉!! お願いだから、嘘だって言ってよ!! 
目を覚まして、いつもの声で、友ちゃんって呼んでよ……!! お願い、屑葉……!!」

響き渡る、悲しみの咆哮。
圧倒的な悲しみは、彼らの心を押し潰していく。

「そんな……何でだ……何でだよ、雄真!」
「そんなこと……俺に、聞くなよ……!!」

広がる、現実。
それを前に、果たして雄真は――

次回、「ハチと小日向雄真魔術師団」
SCENE 48 「涙に意味があるのなら」

「悲しいことがあるなら、泣いていいと思う。辛いことがあるなら、泣いていいと思う。
格好悪いとかそういうの、別によくない? その涙に意味があるなら、流していいと思うよ」


お楽しみに。



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