「柚賀さん」
 夕焼けの川原の土手で松永庵司と話をした帰り道。家まであと少し、といった所で呼びかけられた。――振り返ってみると、
「――梨巳さん」
 私服姿の梨巳可菜美だった。
「梨巳さん、買い物?」
 可菜美の手には、スーパーのビニール袋が。
「ええ。ウチは両親が共働きだから、週に二回位は私が晩御飯は支度してる」
「そうなんだ……凄いね」
「成り行きよ。私は長女で下に弟と妹がいるから、世話をするの延長線」
 照れ隠しとかではなく実際にそう思っているようで、屑葉は当たり前にそう告げられる可菜美に感心した。
「柚賀さんは……散歩?」
「あ……うん。気晴らしに」
「そう。――学園には来ないの? メンバーと一緒にいた方が気晴らしにならない?」
「そうなんだけど……でも、きっと必要以上に気を使わせちゃうんだろうな、って。……ちょっと、辛いから」
「……そう」
 可菜美がチラリ、と屑葉の表情を確認すると、本当に悲しそうに笑っていた。
「……ここから先は、私の勝手な想像の話になるわ。先に謝っておく。――ごめんなさい」
「梨巳さん……?」
「柚賀さんと私、立ち位置は違えど、メンバーからの距離は同じだと思ってた」
「メンバーからの……距離?」
「溶け込むのが苦手、もしくは溶け込み方が今一歩わからない」
「あ……」
 思い当たる節は、確かに――あった。
「だから……というのもおかしな話だけど、私はあなたには、頑張って欲しいと思ってる。――あなたが頑張ってくれたら、私も頑張れそうな気がするから」
「梨巳さん……」
「きっと、相沢さんや小日向だったら、柚賀さんが「必要以上に気を使わせるのが辛い」って考えて来ないことの方が辛いんじゃないかしら。今の状態、お互いどちら側にしても良い傾向とは言えないわ。――こんな私が言うのもあれだけど、それなら」
「うおおおおおおおおお!!」
 ズダダダダダダダダ!!
「…………」
「…………」
 会話の途中で、巨大な横断幕が、叫び声を挙げながら、横を走り去って行った。――突然のことに、屑葉も可菜美も言葉を失ってしまう。しかも、
「今……多分、「頑張れ!! 柚賀屑葉さん」って書いてあったよね……?」
「ああ、柚賀さんの目にもそう見えたのね。――私だけかと思った」
 明らかに屑葉向けへのメッセージが書かれていたものであった。――二人が戸惑っていると、
「うおおおおおおおおお!!」
 ズダダダダダダダダ!!
「…………」
 恐らく一周して来たのだろう、また横断幕が叫び声を挙げながら走り去って行った。やはり意味がわからない、といった感じの屑葉に対し、
「……はぁ」
「……梨巳さん?」
 可菜美は何かを察したように、ため息をつく。
「柚賀さん、ごめんなさい。――これ少し、持っていて貰える? 重くないから」
「う、うん、それは構わないんだけど……え?」
「多分今の感じからして、もう一周は来ると思うから」
 屑葉の疑問に対する回答はせず、可菜美は屑葉に自らが持っていたスーパーの買い物袋を渡すと、何処からともなく紐を取り出し、直ぐ近くにあった電柱に結びつけた。――そして、
「うおおおおおおおおお!!」
 ズダダダダダダダダ――ピン。
「ぎゃああああああああ!!」
 ゴロゴロゴロゴロゴロ。――横断幕に巻かれるように何者かがその場を転がっていく。……要は、横断幕が来た瞬間、可菜美が電柱に結んであった紐を引っ張り、故意に横断幕を持って走っている人間を転ばせたのである。
「どうもありがとう」
「え、えっと……」
 戸惑い続ける屑葉から、預けていた買い物袋を受け取ると、横断幕にぐるぐる巻きにされ視界すら奪われてゴロゴロしている人間の所へ行き、
「――で? 人が真面目な話をしているのに何のつもり?」
 ゲシゲシゲシ。――足蹴にし始めた。
「痛い! まま待ってくれ、俺高溝八輔、ただ柚賀さんに元気になって欲しくて」
「あんなんでなったら苦労しないわよ。――いいのよ? 私のことが嫌いで邪魔したいならしたいで。正々堂々と来なさいよ、男なら」
 ゲシゲシゲシ。
「梨巳さんのことが嫌いだなんてそんな!! 実を言えばこうして蹴られている間も何処か快感が……ぎゃああ!!」
 可菜美、そのまま横断幕の塊を道路脇の溝に無理矢理落とし、完。
「お待たせ」
「あの……今の……もしかして」
 流石の屑葉も察したらしい。――可菜美がため息をつく。
「馬鹿の考え付きそうな方法ね。――それでも、あんな馬鹿でも責任を感じて、そしてあなたに元気になって欲しいと考えている。大小あれ、気持ちはメンバー全員同じなんじゃないかって思う」
「梨巳さん……」
「それじゃ、私こっちだから。――また会いましょう。今度は、学園で」
 そう言い残し、屑葉の表情を見ることなく、可菜美は去っていく。――屑葉はその後姿を、いつまでも見送り続けていたのだった。



ハチと小日向雄真魔術師団
SCENE 45  「彼らの七日間戦争・中編」




「……はあ」
 可菜美の口から、自然とため息が出る。――屑葉と別れた後の一人の帰り道。
「随分と出しゃばった真似をするわね、私も。――らしくもない」
 更に出ていく、独り言。――以前の自分だったら、こんな風に励ましになどは来なかっただろう。出来事を出来るだけ遠ざけ、関わり合いにならないようにしてきたはずだった。
 それが今はどうか。――確かに買い物の為に外に出ていたのは事実。でも気がつけば、こうしてわざわざ様子を見に、足を運んでいた。それが当たり前かのように。
「まったく、何に毒されてるんだか」
 そう再度呟いた――直後。
「別にいいじゃんか。間違っちゃいねえよ、お前」
 そんな声がした。背後からだ。……振り返ってみれば、
「……敏?」
「よう」
 武ノ塚敏がそこにいた。――そのまま敏は速度を上げ、可菜美の隣に並ぶ。
「いつからいたの? あの言葉からして、私の独り言がそこそこ聞こえていたようだけど」
「あー……その、柚賀さんと一緒にいる時から、実は」
「……は?」
「いや、声かけようと思ったら柚賀さんと合流して、ちょっと入り辛くなってさ、その」
 …………。
「――ストーカー疑惑あり」
「言われると思ったけど違えよ!」
 相変わらず本気で疑っている目なのが怖い敏であった。
「で、本題に戻るんだけどさ、間違っちゃいねえって、お前」
「……どういう意味?」
「らしくもない、そう呟いてたよな?――らしいとからしくないとか、どうでもよくね? 今のお前がお前自身なんだからさ。友達を励ましに来た、それだけでいいじゃん」
「…………」
「第一、友達を励ましに来ただけにらしいもらしくないもあるかっての」
「ま、そうなんでしょうけど。――それでも以前の私と比べると」
「わかったわかった、そこまで言うならあれだ。今日の今から、それが当たり前の梨巳可菜美になりゃいい。そうしたららしくないとか考えないで済むぜ」
 …………。
「――調教癖あり」
「その発想はなかったわ」
 敏としては最早苦笑するしかなかった。
「今日からそれが当たり前の梨巳可菜美、ね。――相変わらずの発想ね」
「いいじゃん、それで。――友達沢山出来ただろ?」
「小学生じゃあるまいし」
 でも――確かに、MAGICIAN'S MATCHが始まり、可菜美には友達、仲間が出来た。確実にそう思える人間が何人も出来た。……今まで、そんな風に思える人間なんて誰もいなかったのに。
 誰のおかげ?――色々思い当たることはあるが、でも……
「あれならさ、お前も今の柚賀さんの事件が落ち着いたらさ、皆で遊ぶ会、開けよ。皆喜んで参加するぜ、お前の会なら」
「流石にそこまではいいわ。そういう段取り組める自信ないし。……それに」
「うん?」
「またそういう機会があったら、ちゃんとあなたが私のことは誘ってくれるんでしょう?」
「――っ!」
 ドクン。――敏の顔を覗き込みながらそう切り出す可菜美の顔は、信じて疑わない純粋そのもので、敏が時折見てきた、普段とは違う可愛い女の子の可菜美の顔で。……急激に鼓動が早くなる理由には、十分過ぎる程魅力的で。
「……敏?」
 様子がおかしいのが気になったか、更に顔を覗き込んでくる。――つまり、更に顔が近くなり、更にその魅力的な顔を視界に入れることになり……鼓動は早くなる一方で。
「――ああ、誘うよ。俺が、お前のこと」
「ええ。楽しみにしてる」
 そう答えるのが、精一杯だった。それ以外の答えなんて、出てこなかった。
(ちぇっ、何が「らしくない」だよ……それだったらその顔のお前の方がよっぽど「らしくない」になるっての……)
 さり気なく深呼吸し、さり気なく気持ちを落ち着かせる。
「それじゃ、私こっちだから。――また明日、学園で」
「ああ、じゃあな」
 ばいばい、と軽く手を振りながら最後まで笑顔だった可菜美を、敏は姿が見えなくなるまで見送る。
「お前、気付いてねえだろうけどさ……絶えずその笑顔だったら、友達なんて死ぬほど出来るぜ」
 最後にそう一人呟くと、敏も家路に着くのであった。


「二人のお弁当ってさ、沙耶が毎朝作ってるの?」
 瑞穂坂学園昼休み、三年C組教室にて。姫瑠が琴理と一緒にご飯を食べる為に教室にやって来る→他にも誰か誘いたくなる→C組には信哉と沙耶が→一緒に食べよう……といった流れの中、弁当箱を取りだした上条兄妹を見て発した姫瑠の一言である。
「ええ、そうですけど……?」
「ああほら、凄いなー、って思って。私もさあ、日本に来てそういうの特訓してるけどさ、まだ毎朝作る技術も気力もないもん」
「そうですね……わたしも姫瑠ちゃんと一緒に色々やってみてはいますけど、毎日お弁当を用意まではまだ……」
「いえ……そんな、凄いものを作ってるわけでもないので……」
 感心の眼差しの姫瑠、琴理。褒められて照れる沙耶。
「うむ、沙耶の凄い所は何も弁当作りだけではないぞ、二人とも」
 そして――微妙に会話の流れを間違えている信哉。
「よいか二人とも、沙耶の朝はまずゴフギャハァ!!」
「決して滝に打たれての修行などからは始まりません、兄様」
 いやまだ信哉何も言ってなかったじゃん、とはツッコミを入れられない二人である。
「信哉くんってさ……本当に、修行好きだよね」
「好き……とはまた違うな。必要不可欠なことだと思っている。己を鍛えることで自己の成長に繋がり、自己の成長は主や家族、友を支えることに繋がる」
「大切な人の為……素敵な心持ですね」
「うむ。お勧めは熊狩りだな。己の肉体のみであの巨大な存在に立ち向かい、力をぶつけ合う高揚感は中々味わえるものではない」
 それって結局好きで修行してるってことじゃ――とは、一応ツッコミを入れないであげる二人であった。
「どうだろう? 二人も休みに熊狩りでも行かぬか?」
「兄様、お二人とも日々兄様のように修行をしているわけでもないですし、それに女性なのですから、熊狩りに誘うなどと……」
「む……そうか、つい自分の感覚のみで語ってしまった、失礼した。――ということは二人には沙耶が幼少のころ辿った順番にまずは巨大イノシシからゲホグファ!?」
「兄様、そういう意味合いではなく、修行そのものに誘うのを懸念して下さいと申し上げているのです」
 いやその前に沙耶は昔巨大イノシシ狩りで修行してたの?――ということもやっぱり二人には聞けなかったりした。
「しかし――雄真殿と出会ってからは、人には修行だけでは越えられない、得られない物が多々あるのだということを改めて認識させて貰ってはいる」
「雄真くん、か。――今は柚賀さんのことで毎日走りまわってる」
「私や兄様はその症状を直接見たわけではありませんが……並大抵のことではないとのことで」
「そうですね……わたし達は見守る位しか出来なくなりつつあります」
 空気が、少し重くなりかけた。――が、
「だが、心配はいらぬだろう。――雄真殿が動いているのだからな」
「……兄様」
 信哉のその一言で、重くなりかけていた空気の流れが、また変わる。
「雄真殿はこれまでもいくつも難題を切り抜けて参られたのだ。月邑殿の件、瑞波殿の件、そして真沢殿、葉汐殿の件もそうだ。一見不可能ではないかと思われるようなことも、諦めずに立ち向かい、そして勝利してきた。その雄真殿が動いているのだ。今回の柚賀殿の件も、必ずや解決に導いてくれるであろう。――無論、その為に力が必要ならば、俺はいつでも手助けをするつもりでいる。今までと同じくな」
「そっか……そうだね、今回は、私達も一緒になって助けてあげる番なんだよね!」
「そうですね。わたしも微力ながら、精一杯お手伝い出来たらと思います」
「うむ、その意気だな!――ハッ、そうだ沙耶、俺達も来るべき事態に備え、修行の内容の見直しをゲホフフォウ!?」
「兄様……ですから私は兄様と一緒に修行をするつもりはありません。素振りを五百回から七百回とか階段五百段の上り下りの際に背負う重みを十キロ増やすとかそんな案はいりません」
 いやにしては内容が具体的過ぎるんだけど……とも、やっぱり怖くて言えない二人なのであった。
「兄様も小日向さんを尊敬するのはいいのですが、尊敬するのでしたら修行を他人や私に勧めるのは控えてもらいたいです……」
 ふぅ、とため息をつきつつ、沙耶が軽く愚痴る。――と、そんな些細な一言から、姫瑠はとある点に気付く。
「そういえばさ、どうして雄真くんって沙耶のことは「上条さん」なんだろ」
「え?」
「いやほら、その頃からのメンバーって、雄真くんみんな名前で呼んでるじゃん? 結構雄真くんって名前で呼ぶ方だと思うんだ。私は……無理矢理最初は私が呼ばせた所から始まったけどさ、琴理なんか」
「そうですね、最初から琴理ちゃん、でした。今はあの事件で色々あったので呼び捨てです」
「ほら。――なのに何で沙耶だけいつまでも苗字なのかなあ、って。――何かあるの?」
「いえ……特には……というよりも、深く考えたこともありませんでした」
 事実心外だったようで、沙耶は軽くだが驚きの表情を見せた。
「呼んで貰いなよ。信哉くんは名前なのに沙耶が苗字って変だって。呼び捨てが駄目ならちゃん付けとか。沙耶ちゃん、とか可愛いし」
「そう……でしょうか」
 ちょっと照れくさそうに、でも嬉しそうに前向きに考える沙耶。
「よし、ならば手筈は俺に任せるがいい、沙耶」
「兄様?」
「まずは雄真殿を放課後、矢文で呼び出す所からだ」
「えっ、ちょっ、信哉くん何それ」
「疑問を感じつつも雄真殿はその矢文に従い、校舎裏へ。なんとそこにはゲヒャブルオゥ!?」
「兄様、そんなに都合よくならず者がいて小日向さんと対決になって二、三人は倒したけど物量に負けてピンチになった所で私が偶然にも登場、小日向さんを助けて傷の治療をして差し上げて小日向さんが「俺、君に迷惑ばかりかけてるな」と申しあげた所で私が「いえ、そんなことはありません、私と小日向さんの間柄です」といった風にお返事をし、そこからの流れでお互い名前で呼び合うようになったりはしません」
 いや先読みし過ぎだよね沙耶?――とも、やっぱりどうしてもツッコミを入れられない二人なのであった。


 ――最近は、目覚まし時計のアラームを用意しなくなった。
「……ふぅ」
 理由は簡単。ただでさえ深く眠れないこの家、今の私の精神状態では、落ち着いて睡眠など取れるような心境じゃなかった。
「朝……か」
 友ちゃんが松永さんと取り付けてきた約束の七日間、もうどれだけ経過しただろうか。――いや、そんなことはわかっている。でも……考えたくないから、わかっていない振りをしたいだけだ。それもわかっている。
 わかってる。わかってる。何もかもわかってる。……だから、どうしていいか、わからない。
 何がしたいのか――わからない。
「…………」
 ハンガーにかかりっぱなしになっている、学園の制服を見る。――梨巳さんは、学園に来たらいい、と誘ってくれた。純粋に嬉しかった。私も、学園に行きたい。みんなに会いたい。みんなと一緒に過ごしたい。大切な人達と、一緒にいたい。
 だからこそ――学園には、行けない。……その結論にたどり着くと、わかっていたけど、涙が零れそうになる。
「……朝ご飯でも、食べようかな」
 独り言を、呟く。――食欲もないが、何かしていないとおかしくなりそうだ。――最近は母も母の再婚相手も家で見ないので、その点の心配がないのが唯一の救いだった。
 パジャマを着替え、カーテンを開ける為に手をかけた――その時だった。
「柚賀さーん!! 一緒に、学園行かないかー?」
 そんな声が――聞こえてきた。……急いでカーテンを開けると、そこには――


「――しかし、発案した俺が言うのもあれだが、まさかここまでの勢いになるとは思わなかった」
 朝、登校時、いつもよりちょっとだけ早い時間。場所――柚賀さん家の前。
「いいじゃないですか、兄さん。大勢の方が、賑やかで楽しいですよ」
「まあそうなんだけどな」
 何をしてるかって、柚賀さんを学園の登校に誘いに来たのだ。――家に引きこもっていては大丈夫なものも大丈夫にならない。恐らく柚賀さんのことだ、周りに迷惑をかけたくないとか考えて学園に来ていないんだろう。――その考えは間違いであると伝えたくて、こうして大げさに誘いに来たのだ。学園に来て、仲間達に囲まれたら、気持ちも前向きになる。
「そうよ雄真、逆に人数少なくしちゃったらハチが目立って屑葉ちゃん、出てこなくなるわ」
「待てい準! それはどういう意味だか――わかるぞ!」
「お前日本語変だぞ……」
 登校時なので、強制的にすもも、準、ハチも同行。更に、
「これだけ集まれば屑葉も出てきてくれるわよね。――ううん、無理矢理でも連れていくわ」
 このことを相談したら、相沢さんも喜んで参加してくれた。ついでにその時一緒にいた土倉も来ている。……変わったなあ、土倉も。
「にしても――杏璃、よくこんなに朝早く起きれたな、お前」
「雄真……? それはアンタの考えに同意、更に友達の為に動いているあたしに対する挑戦状と見ても構わないのよね……?」
「いやしかしだな」
「ふふっ、杏璃ちゃん、言われても仕方ないかも。普段はギリギリだし」
「ちょっ、春姫!」
「イベントに強いって所が杏璃っぽいよねー」
「そうですね、勝負に強いというのは利点だと思います」
「む……姫瑠に琴理まで……」
 更に更に、女子寮からわざわざ出向いて来た春姫、杏璃、姫瑠、琴理。
「ふむ……つまり、柚賀殿の家は、式守家の屋敷の三軒隣ということに」
「兄様、全然違いますから……もしもそうだとしたらもっとお屋敷が見えているはずです」
 更に更に更に、式守家屋敷より方向音痴爆発中の信哉と沙耶ちゃん(と、先日名前で呼べと何故か姫瑠に迫られた)。
「こんなに多いと、近所迷惑とかにならないかしら? 高溝とか消した方がいいんじゃない?」
「いやお前それ個人的に高溝を消したいだけじゃん……」
 更に更に更に更に、梨巳さんに武ノ塚。
「雄真さん。――私を迎えに来る時は、雄真さんお一人でお願いしますね?」
「何故でしょうかって言うか迎えに行く要件がありませんが」
「愛の逃避行」
「しません!! そういう愛は小雪さんには俺ありません!!」
「そんな……肉体だけの関係だったなんて」
「そういう意味でもねええええ!!」
 ――何故か小雪さん。
「はい、ほらほら人数沢山いて楽しいのはわかるけど、道路に必要以上に広がらない、早朝なんだから騒ぎ過ぎない」
 更に何故か成梓先生。――以上のメンバーが、柚賀さんの家の前に集まって来ていた。柚賀さんと一緒に登校するが為に。言葉にすれば些細だが、今の俺達には、柚賀さんにはとても重要なことだ。
「さて。――柚賀さーん!! 一緒に、学園行かないかー?」
 代表して、俺が二階にある柚賀さんの部屋に向かって声を出す。――数秒後、カーテンが開き……
「小日向くん……それに、みんな……!?」
 驚きの表情で、柚賀さんが顔を見せてくれた。
「どうして……!? 一体、何が――」
「何が、って言った通り。学園行くのに迎えに来たんだぜ、俺達」
「え……?」
「友達が学園に一緒に行くのに迎えに行くのって、普通だって」
 当たり前の顔で、俺は告げる。――皆も、笑顔で柚賀さんのことを見ていた。
「屑葉、ここまで皆で来てるのよ? 一緒に行かないなんて、許さないからね!」
 そして、相沢さんの後押し。……柚賀さんは、少しの間唖然とした様子で俺達を見ていたが、
「ありがと……ありがとう、みんな……!!」
 涙を零し、それを腕で拭いながら、お礼を言った。
「ほら、早くしないと遅刻になるわよ? 教師として、それを見逃すわけにはいかないかな」
「まあその場合、先生も遅刻ですよね」
「小日向くん。――教師も人間なのよ?」
 満面の笑みの成梓先生が、ちょっと怖い。――そんなやり取りをしていると、
「みんな、これから支度する! 急いで支度するから、待ってて!!」
 柚賀さんは涙を零しつつも、笑顔で俺達にそう言って、一旦窓とカーテンを閉めたのだった。


<次回予告>

「にしても――雄真か。我が息子ながら羨ましいな」
「? どういう意味?」

ただひたすらに、仲間の為に諦めずに動く雄真の姿は、
仲間だけに留まらず、色々な人達に一つの光として、影響を及ぼしていく。

「その辺りは万が一、ということにしておきましょう。
――「誰と」戦うかもまだわからないから、戦力は出来る限り確保しておきたいものね」
「……「誰と」、か」

奇跡を信じる者、現実を見据えている者。
それぞれの七日間が、徐々に終わりに近づいてきていた。

「さっき相談に乗ってやったあの子にも言ったけどさ、後悔を恐れるんじゃないよ」
「後悔を……恐れない?」

選んだ答えを、雄真は後悔せずに進めるのか、それとも――

次回、「ハチと小日向雄真魔術師団」
SCENE 46 「彼らの七日間戦争・後編」

「松永さんに、お願いがあるんです」
「お願い?」


お楽しみに。



NEXT (Scene 46)  

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