「あの……準さん」
 こちら再び、MAGICIAN'S MATCH小日向雄真魔術師団応援席。
「? どうしたの、すももちゃん」
 少しだけ声のトーンを抑え、申し訳なさそうに尋ねてくるすももに、準は違和感を覚える。
「話し辛いこと? あれなら少し場所移そうか」
「いえ、ここで大丈夫です。……その、ハチさんのこと、聞いてますか?」
 その問いかけに、何故すももが申し訳なさそうに尋ねてくるのか合点がいく。
「聞いたわ。雄真から」
「え、兄さん、話してくれたんですか?」
「無理矢理聞きだしたのよ。様子おかしいの一発だったから。最初は聞いても何でもない、で誤魔化そうとしてたけど、無理があるわよね。あたしだって一応親友なんだから、で説得して聞きだした。……その言い方からするに、すももちゃんは」
「わたしが聞いても、兄さん答えてくれませんでした。……わたしは、伊吹ちゃんから」
「そっか。……相変わらずね、雄真も。他人に迷惑かけたくないってのはわかるけど、そうやってとりあえず一人で何とかしよう何とかしようってするんだから」
 それに慣れたからこそ、簡単に気付き、聞き出せるように準はなったわけだが。
「それで、準さん、どう思ってますか?」
「どうもこうも、聞いて呆れたわ。流石はハチって所かしら。あたしも現場にいたら、パトリオットミサイルキックじゃ済まないわよ。……まあでも、大丈夫でしょ」
「? どうして、ですか?」
「あの雄真が、いつまでもハチを放っておけるわけないし、ハチだっていつまでもそのままじゃいないでしょうし、万が一二人がそのままだったとしたら、あたしが多分我慢出来ないから。……そういう関係なのよ、あたし達。何故かね」
 笑ってそう言う準の姿に、すももの心も落ち着いていく。
「ま、多分あたしの出番は無いとは思うけどね。……もうしばらくしたら、動き出すんじゃない? 色々と。そんな気がする」



ハチと小日向雄真魔術師団
SCENE 40  「力有りし者の覚悟」




「この戦い、千縞さんがこのまま残り続ければ、私達の勝率はかなり低くなります。最悪私と信哉さん、両者がアウトになったとしても、千縞さんだけはアウトにしないといけません。――後方に控えている梨巳さん、武ノ塚さんでは恐らく千縞さんには勝てませんから」
 根津陽由香という増援が来た青芭、尊氏組から間合いを取り、小雪は説明を始める。
「具体的にはどうすれば?」
「チャンスは恐らく一回のみ。――信哉さん、二分間、私を千縞さんと一対一になるような形にしてくれませんか?」
「あの二人を、俺が抑えるわけですね」
「恐らく千縞さんは私と一対一になったとしても、隙あらば信哉さんを狙ってくるでしょう。二分間、厳しい戦いになると思いますが、逆に言えばその二分さえ持ちこたえてくれれば、私に策があります」
「承知した。――お任せあれ、小雪殿」
 ザッ、と少しだけ間を空けて、小雪と信哉が身構える。二対三の対峙。
「ディ・アムイシア・ミザ・ノ・クェロ・ラグ・シルティア・アガナトス・アムクロス!」
 先制攻撃は小雪。まるでスーパーボールのように地面を跳ねる挙動の読み辛い、尚且つ高出力の魔法球を連続で青芭に放つ。
(何とかして、私を一対一で抑えるつもり……か)
 対する青芭も、魔法球を連続で放ち、激しいぶつかり合いが始める。――その間も、周囲の状況の確認は怠らない。隙あらば信哉に一撃を加える。相手が一人になればもう負けは無い。
 一方、その信哉は。
(まだ訓練中の技だから、使うつもりはなかったが……致し方あるまいか)
 身構えた状態から、一気に風神雷神を振り抜く。
「雷神の太刀ィィィィ!!」
「根津、気をつけるがよい! あの木刀、範囲は狭いが威力も高く、防御効果も兼ね備えているぞ!!」
「わかった!」
 何度か信哉と既にぶつかっていた尊氏は、すぐさま陽由香にアドバイスを出す。――が、ここからの動きは、先ほどまでのぶつかり合いにはなかったものに変わる。
「風神の太刀ィィィィ!!」
「!?」
 信哉、移動を開始すると共に、再び風神雷神を振り抜く。雷神の太刀の効果は切れていない状態での、風神の太刀。
「秘技、風雷神の太刀ィィィィ!! 参る!!」
 信哉のワンド「風神雷神」は風神の力、雷神の力をそれぞれ秘めており、状況に応じてどちらかの力を呼び覚まし放つもの。状況に合わせて使い分けることが出来たし、交互に使うことで魔力の消費を抑えることも出来る。何より片方だけで十分戦える技である。その風神雷神を、両方とも呼び覚ます。それが、信哉が極秘に鍛錬を重ねていた秘技「風雷神の太刀」であった。両方を同時に呼び覚ますことで、爆発的な威力を持つことが出来る。
 当然、使うのを避けていただけのデメリットはある。両方を同時に呼び覚ますということは、その分大量に魔力を消費する。ワンド自身の消費も激しく、長期戦には向かない。属性の異なる二つの魔法を同時に扱う為、一つコントロールを失えば自爆同然の結果になりかねない。使用者本人の負担もかなりのものであった。
 二分間。――小雪が提示した時間内が、ほぼ限界時間であろうことを、使用者である信哉が一番悟っていた。
(だが……逆に言うのならば、二分間なら、耐えられる……!!)
 精一杯の精神統一の中、信哉は決死の思いでの突貫。実力者との二対一、その状況下、接近戦タイプという不利な材料しか持ち合わせていなかった信哉が、互角の戦いを見せる。
「……そう生ぬるい世界だけで生きてきたわけではないんですね。少し、誤解していました」
 チラリ、と信哉の戦いを見た青芭が、漏らすように呟く。
「式守も高峰も、協会に守られ、平和ボケしているものだとてっきり。――あの気迫は、平和ボケの人間が出せるものじゃない」
「そうですね、あなた程ではないでしょうけど、私達も、色々あったんですよ?」
「それを笑顔で告げるあなたがあちらで戦っている式守の従者よりも余程怖いですけどね」
 ザッ、とお互い再び身構える。
「ばれているとは思いますが、信哉さんのあの技、長くは持ちません。なので、仕掛けさせてもらいますね?――タマちゃん、ゴー♪」
「はいな〜」
 小雪の後方から、奇襲を仕掛けるが如く、タマちゃんが突貫を開始する。
(あの技は見切った……が、先ほどのようにまだ何か隠している可能性はある。警戒すべき)
 ズバァン!!――青芭、微塵の隙も見せずに、タマちゃんを撃墜。
(大切なのは素早く確実に、敵を倒すこと)
 そしてそのまま、カウンターに入る。
「シス・ガルトネア・ネコル」
 その相変わらず短い詠唱の後、精密な魔法陣が、小雪の「真横から」生まれた。
「っ……!!」
 バァァァン!!――詠唱者との位置から考えて、中々簡単に魔法陣を組み上げられるような場所ではなく、ましてや高威力の攻撃など放てるような距離でもない。だがそこから生じる青芭の攻撃は何の遜色もない威力の攻撃魔法。
 ダメージを喰らうものの紙一重で小雪はガードし、体制を立て直す。――学生レベルが放てる攻撃ではないし、また学生レベルであればあっさりと防げずに終わっていただろう。
 学生レベル、イベントでのレベルを越えた二人の戦いが、そこにあったのだ。
「タマちゃん、ゴー♪」
 小雪、タマちゃん射出。
「シス・クロウ」
 青芭、やはり的確な判断で確実にでも早く相殺。――ヒュン!
「!?」
 そしてその相殺の時に巻き起こった爆発の煙、光に紛れて――タマちゃんが、飛んでくる。
(一発目はあえて相殺させ、カモフラージュを作り二発目……か。だが)
 ズバァン!!――この二発目も確実に青芭は相殺……した所で。
「必殺、タマちゃんズイレブン♪」
「はいな〜!」
「――!!」
 十一体のタマちゃんが、やはり相殺の爆発の煙、光に紛れて、戦闘体制に入っていた。
(この数……相当の魔力を使うはず……勝負に来たか)
 ここが、勝負所。――そう受け取った青芭は、自分もかなりの魔力の放出を覚悟で、相殺準備に入る。
「タマちゃん・オールレンジアタック♪」
「小雪姉さんも見えるで〜!」
 「フレッツ・タマちゃん」程ではないものの、十一体のタマちゃんが、各々加速を開始。
「シス・ミッドウィル・バーム」
 青芭、集中を途切らせることなく相殺を開始。一体、二体……とヒットさせていくものの、半数の六体が、青芭の横を通過する。……通過?
(やはり……狙いはあちらの二人――!!)
 これが青芭を狙っていたのなら、全てのタマちゃんは青芭に向かって来るはずなので、そう簡単に相殺を外すことは青芭の実力ならない。青芭が半数をも外した理由。それは――タマちゃんの標的が青芭ではなかった為、軌道を読みきれなかった、と考えるのが最もであった。
 青芭は最初から警戒していた。直ぐさま、尊氏、陽由香の援護に入ろうとする。――その行動こそが、小雪の狙いとは知らずに。
「いいえ、狙いは千縞さんですよ?――エスティオラ・ミザ・ノ・クェロ・アガナトス」
「!?」
 バリバリ、という音と共に、硬直する体。見れば、目前に小雪。注意がそれた一瞬を狙い、接近。拘束魔法を使ったのである。
 直後、他へ向かっていた六体のタマちゃんの内、先頭のタマちゃんが爆発、その爆風で無理矢理残り五体のタマちゃんの方向が変わり――再び、青芭に向く。
 その瞬間、青芭は全てを察した。――既に手遅れであったが。
「最初から……相撃ちで私をアウトにするつもりだったんですね」
「私達のチーム、千縞さんに真正面から対抗出来る人間は、いません。ここを越えられたら、私達に勝ち目はなかったんです。――私がアウトになってでも、喰い止めるべきだと判断しました」
 そう。小雪の狙いは、最初から相撃ちだったのである。タマちゃんでの連続でのフェイントを利用し、青芭を撹乱。生半可な拘束魔法など簡単に解いてしまうであろう青芭に対し、自らも犠牲になる程強力な拘束魔法で動きを封じる。――ズバババババァァァン!!
『小日向雄真魔術師団、特別枠・高峰小雪さん、アウト。聖・華能生魔道士軍、三年生・千縞青芭さん、アウト。両者フィールドから退場します』
 その状態で、残り五体のタマちゃんでの一斉アタック。自らを犠牲に、青芭をアウトにする。……小雪の作戦は、見事に成功する。――更に、
「フハハハハハ!! 敵ながら見事であったぞ、上条信哉殿!!」
「お主も、見事な腕であったぞ、華能生殿」
 ズバァァン!!
『小日向雄真魔術師団、三年生・上条信哉くん、アウト。聖・華能生魔道士軍、三年生・華能生尊氏くん、アウト。両者フィールドから退場します』
 信哉と尊氏が相撃ちとなる。――フィールドから、一気に四名の選手が消えた。
「……レベル、違い過ぎるだろ。生き残ったのはいいけど、どうしていいかわからないじゃないか」
 根津陽由香がそう漏らしてしまうのも、無理はない、ハイレベルな戦いであった。
 ――その後、春姫、杏璃の増援を加えた雄真達が華能生空、山本元のペアを撃破。小日向雄真魔術師団側も一部総大将まで攻められるものの防ぎ切り、雄真達が聖・華能生魔道士軍の総大将を倒すことで、試合の幕は閉じることとなった。
 小日向雄真魔術師団、第六回戦――勝利。


「お疲れ様です、雄真さん」
「あ、小雪さん、お疲れ様です」
 試合終了後のミーティング終了後。各々が労いの時間に入ると、小雪さんが挨拶をしてきた。
「驚きましたよ。小雪さんと信哉と相手二人が同時にアウトとか」
「あれが精一杯でした。まさか神道の人間と戦うことになるとは思ってもいませんでしたから。――雄真さん達の活躍を信じて、相撃ちにするしかなかったんです」
「神道……?」
「雄真さんはご存知ないでしょうけど……そうですね、クライスさんなら」
「――確かに知ってはいるが……まさか」
「いえ、恐らく本物の血筋の方だと思います。あの実力、浮かび上がった紋章からしても」
「そうか……こんな所で出会うとはな。その前に生存者が普通に存在していることに驚きだ。――成る程。華能生弟の従者が一番強い、の意味がそれならわかるな。確かに神道の人間ならばその人間が最強だろう」
「有名なのか?」
「まあな。細かいことは知らなくてもいいが、とにかく強い」
 俺達は春姫・杏璃の増援で上手い具合に勝利に持ち込めたが、考えていたよりも小雪さん達の戦闘は厳しかったんだろう。結構ギリギリの試合だったのか、今回も。
「残念ながら、タマちゃんのストックもほとんどなくなってしまいました。つきましては雄真さんにお願いが」
「こねる人出が欲しいなら他をあたって下さい。俺あれ正直好きじゃないです」
 すももとか楽しくやってたりするが何故だろうか。未だに謎が解けない。
「いえ、こねるのをお願いしたいんじゃないんです」
「? じゃあ何を」
「今度、新型のタマちゃんを開発しようと思いまして、タマちゃんの素にぜひ雄真さんのエキスをですね」
「もっとお断りします!! 何ですか俺のエキスって!?」
 というかそれ入りタマちゃんとか嫌だ。どんな風になるのか興味あるけど見たくない。
「雄真さん、そんな……そのお歳で既に機能しないとは」
「何がですかっていうか機能しますよっていうかエキスってそんなストレートな成分なんですねやっぱり!?」
「高峰小雪。――止めておけ、我が主のは活力が濃すぎて逆にだな」
「お前も黙れええええ!!」
 そんないつもの(?)やり取りをしていると。
「高峰小雪さん」
 小雪さんを呼ぶ声。見てみれば、
「あ――千縞さん」
 そこには、華能生空さん、華能生尊氏、そしてその尊氏の従者で、今回小雪さんと相撃ちになったという千縞青芭さんの姿が。
「……え?」
 千縞さんは、小雪さんに近づくと、ゆっくりと右手を差し出した。
「戦闘中、あなたに言いましたよね? 名前は捨てても、その血は捨てていないと。――純粋なる強者を認めよ。……神道の、教えです」
「千縞さん……」
 その言葉を汲み取った小雪さんも、右手を差し出して、二人はお互いを称えあう握手を交わした。
「小日向雄真魔術師団の、これからの健闘を祈っています」
「フフフ、でしたら握手をこちらの雄真さんにも」
「え?」
「小雪さん、俺は別に――」
「小日向雄真魔術師団は、雄真さん無しでは成り立ちませんから。雄真さんがいたからこそ、私高峰小雪も他の皆さんも集まって、ここまでの戦果を挙げられているんですよ♪」
 その言葉に促された千縞さんと目が合う。――なんつーか、恥ずかしい。今あらためて見ると凄い可愛い女の子だし。
「選ばれし者――そういうことですか」
「いやその、そんな大層な人間じゃないから」
「謙遜しなくていいのに小日向くん! 私に御薙の覚悟を語った時の目、素敵だったわよ! お姉さんもウットリする位!」
 と、空さんの援護射撃が。……おいおい。
「御薙の覚悟……? あなた、御薙の人間なんですか?」
「えっと、まあその、母親が御薙鈴莉さんでして」
 誤魔化しようがないので、正直に話す。……すると千縞さんは俺の右手を取り、
「――え」
 握手――ではなく、そのまま俺の手を自分の胸元へ引き寄せ、両手で優しく包む。
「ってちょっ、あの」
「小日向雄真さん……でしたよね。――御薙の力、巨大なのはご存知ですか?」
「あ、ああ、それはまあ」
「そうですか」
「いやそうですかって、その」
 俺が戸惑っていると、更に千縞さんは俺の右手を包んだ両手を引き寄せ、抱きしめるようにすると、
「あなたの心が、いつまでも――その力に、押し潰されませんように」
 そう祈るように告げる。――瞬間、時が止まったような気がした。……見惚れてしまう程、美しい姿だった。
(あなたの心が……力に、押し潰されませんように、か)
 ゆっくりと、千縞さんが手を離し、俺の手も自由になる。
「何て言うか……ありがとう。心に染みた気がする」
「いいえ、お気になさらず。自己満足ですから。……それじゃ」
 そのままクルリ、と振り返ると、千縞さんはその場を後にする。――俺はその後ろ姿を、いつまでも見送って――
「……姉上」
「ええ。まさか、ここまでとは」
 ……見送って? あれ? 華能生姉弟が帰らないぞ?
「フハハハハ!! 決まりだ!! 小日向殿、青芭と結納を交わすのだ!!」
「……は?」
 結納って、あれだよな。その、結婚?
「って何だいきなり何の話だ!?」
「初めてなのよ、青芭ちゃんがそこまで気に入った男の子って!! ありえないわ、もうこれを逃す手はないの!! 小日向くんならお姉さん許しちゃう!!」
「いや別に許してくれなくて結構ですよ!?」
「つーか話飛び過ぎですこの馬鹿姉弟。なんでそんな話にしてるんですか。私の意志とか考えるでしょう普通」
「青芭、これ以上の相手はいないぞ!! 人間として愛されており、更には御薙の力を受け継ぐ魔法使い!! 更に更にお前も気に入ったのだろう!!」
「気に入った人間と全て結婚してたら空様なんて凄いことになってますけど」
「青芭、これは命令だ! 主の命令だ!」
「そうですか。――なら従います」
 従ってる!?
「フハハハハ!! よしこうしよう!! 小日向雄真魔術師団が優勝をして、その優勝した直後に二人の披露宴を開こう!!」
「尊氏にしてはいいアイデアね!!」
「いや俺認めてませんて!!」
「この馬鹿二人の暴走は基本止められません。諦めて下さい」
「なんで君そんな冷静に諦めてるの!? 俺と結婚していいわけ!?」
「雄真さん、私という者がありながら……」
「絶対言うと思ってましたよそれ!!」
「姉上、ひとまず父上と母上に紹介だな!!」
「そうね!! さ、小日向くん、今夜家へいらっしゃいね!」
「行かねええええええ!!」
 そんなこんなで、第六回戦も、無事……じゃないが、とにかく幕を閉じたのだった。


「高溝八輔さん」
 その声は、小日向雄真魔術師団MAGICIAN'S MATCH第六回戦終了後、一人トイレに向かった帰りにハチの耳に届いた。
「……?」
 見ればそこには――ハチは誰だかわからないのだが――千縞青芭の姿が。
「あの……俺に、何か?」
「少し気になったので、尋ねてみたいことがあります。構いませんか?」
「はあ……」
 本来のハチであれば、美少女からこのような突然の訪問をされたら、飛び上がって喜び、さまざまな期待をしただろう。……だが今の彼は廃人状態から抜け出せておらず、まったくもって覇気のない返事をする。
「どうしてあなたは、その様な死んだようなオーラを纏っているんですか?」
「あの……どういう意味――」
「あれだけの人間に、輝くべき人間に囲まれていながら、何故あなた一人それ程までに絶望を感じているのか、少し気になったもので」
 絶望を感じている理由。……思い出したくも、なかった。
「……君に、何の関係があるんだよ」
「ですから興味本位だと言ったはずですが。――私も昔は夢も希望も持ち合わせていない人生を送っていましたが、ある日素敵な人達に助けられ、新しい道を歩けるようになりました」
「……はあ」
「私が当時そんな状態だったのは、周囲に輝いている人達がいなかったから。……でも今のあなたは周囲に輝いている人達がいるのにその状態。あの人達は簡単にあなたのようなオーラを持つ人間を放っておくような人達ではないはず。なのにあなたはその状態。……それが気になりました」
「……どうだっていいだろ、別に。もういいんだよ」
 ハチの答えを聞くと、青芭はじっ、とハチの目を見る。その間約十秒。
「――成る程、結局あなたが救いようがない人間だ、ということですか」
 納得したと言わんばかりに、クルリと振り返り、背中を見せる。
「私からしたら信じられませんけどね。手を伸ばせばそこに夢も希望もあるはずなのに、自分から手を出さないままだなんて。まだ触れられる距離にいるのに、試すことすらしないなんて。何もしないまま、もう諦めてるだなんて」
「……え?」
「小日向雄真さんに興味が出来たので色々調べてみようと思いましたが、あなたのことはどうでもよさそうですね。……それでは」
 そのまま青芭は振り返ることなく、その場を後にする。
「…………」
 そして、その場に取り残された、ハチは――


<次回予告>

「雄真、私は何か喋ってもいいのか?」
「クライス。……そうだな、悪いけどハチの件に関しては俺が自分で決めたい。
柚賀さんの件に関しては何か考えが出てきたら聞かせてくれ」
「わかった、そうしよう」

第六回戦も無事勝利し、目先の問題はやはり屑葉のこと。
あらためて考察し、これからのことを決めようとする雄真。

「あの、手伝ってあげよう、頼ってくれ、って言ってくれるのは凄い嬉しいんです。
でもなんて言うか、今回色々経緯とか事情とかあって、とりあえず一人で考えたいっていうか」
「ふむ……」

そんな雄真の前にビックチャンス到来?
その助力、吉と出るか凶と出るか?

「……ごめんなさい」
「……何が?」
「心配して、来てくれたのでしょう? 私の様子が違うから」

そして時を同じくして、動き出す人が――

次回、「ハチと小日向雄真魔術師団」
SCENE 41 「フラグとチャンスは逃さずに」

「……俺が、守ってみせるから」
「え……?」
「もしも、何か危険な状態になったとしても――友香のことは、友香だけは、俺が守ってみせるから」


お楽しみに。



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