「なあ可菜美、ちょっといいか?」
 少々時間は巻き戻り、第六回戦、フィールド転送直後。……梨巳可菜美、武ノ塚敏の二人。敏の呼びかけに、可菜美が返事こそしないものの振り向く。
「今さらな気もするんだけどさ、お前その、小日向のこと、どう思う?」
 その問いかけに、可菜美はため息。
「……可菜美?」
「知らなかったわ。あなたそういう趣味があるのね」
 そういう趣味……
「――いやそういう意味に聞こえる聞き方をした俺が万が一悪かったとしてもそういう意味じゃなくてだ」
 その弁解に、再び可菜美はため息。
「別に、どうもこうも思ってないわ。小日向のワンドの言葉を借りれば、御薙先生の息子さんだから、だろうし」
 要は、先日の屑葉暴走時のマインド・シェア時と普段の実力のギャップ云々についての話である。以前の事件の時からの仲間達なら疑問には思わないが、やはり新規の仲間達である彼らにしてみればこうして聞いてみてしまうのも無理はない話。
「小日向のあの力があったから、私達助かってる。文句なんて無いわ」
「まあ俺も文句があるわけじゃねえけどさ。ただなんつーか、驚きっていうか」
「いいんじゃない? よくわからない辺りが小日向らしくて。根本的な驚きは当然あるけど、小日向だから、の一言で何となく納得がいく気がするもの」
「何処となく褒めてないけど……まあ、わかる気もするや」
 その説明で納得してしまう自分が可笑しくて、つい敏は軽く笑ってしまう。
「私は私に出来ることをするだけ。小日向に裏があろうが何があろうが、小日向がやろうとしていることが間違いじゃなくて、手を貸しても構わない時、小日向が必要としている時、手を貸してあげるだけよ。……小日向曰く、私も「仲間」らしいから」
 表情を変えずに続ける可菜美のその言葉を聞き終えると、敏は再び軽く笑う。
「……敏?」
「お前、変わったよな。最初の頃は高溝と同じ位小日向のこと嫌いだったのに、今じゃバッチリ仲間ですか」
「似たようなこと、小日向にも言われたわね。……私が変わったんじゃないわよ。MAGICIAN(S MATCHのメンバーが私の狭い心を潜ってくる人達ばかりだったってこと」
 ここで少しでも照れくさそうにしていたら「ツンデレ」と称されそうなものの、照れの表情を見せない辺りが、実に彼女らしい、と敏はよく思う。実際どう思っているのか読めない。
「まあ……万が一変わったんだとしたら、「誰かさん達」のせいなんでしょうけどね」
 だが、最後のその言葉の後、少しだけ――可菜美は、嬉しそうな笑みを零したのだった。



ハチと小日向雄真魔術師団
SCENE 39  「その名を背に、戦う者」




「バースト・アイラ・アルクェスト!」
「カルティエ・エル・アダファルス!」
 バァァン!!――俺のサポートに乗っかり、琴理の攻撃魔法が華能生空さんへ向かって行く。
「はあああああっ!!」
 その俺達二人相手に、互角、場合によってはそれ以上の動きを見せる華能生空さん。華能生の家柄の力らしい気功と普通の魔法をバランスよく織り交ぜてくるのでその辺りも凄い戦い辛い。――でも。
「ニア・チュレイル・アウト・ラウト!」
「っ……キャッチャー・イレーザ!」
 俺と琴理が何とか華能生空さんを抑え込むことにより、姫瑠が残った元、と呼ばれている男子と一対一の状態に持ち込み、かなり有利な状態になりつつあった。相手の男子もレベルは高いが、姫瑠のClassはA。学生レベルの「高い」では勝てる相手じゃない。一般レベルにしたってAならかなりの高さなのだから。
 俺達がここを勝つにはこの状態をキープし、姫瑠が勝利し、完全に三対一に持ち込むしかない。――バァン!
「っ……ふぅ」
 攻撃のぶつかり合いの後、俺達と空さんの間合いが開く。相手も俺達の狙い位わかっているだろう。でもギリギリ動き切れない感じか。
「さっきの……上条沙耶さん? あなた達の主力……よね?」
 不意にそんなことを尋ねられた。――そう、先ほどの衝撃のアナウンス。小雪さん、信哉と共に行動しているはずの上条さんのアウト。
「それが、どうかしたか?」
「そんなに強気に出てこないでいいのに、葉汐さん。横の子みたいに、軽くリアクションする位が可愛いのに」
 …………。
「……琴理さん、戦闘中によそ見は厳禁の方向で」
「私も好きでしたいんじゃない」
 怖いっす。物凄い睨まれました。敵の空さんの方がある意味全然怖くないです。信じられますか? 普段この人滅茶苦茶淑女なんですよ?
「雄真、こんな時こそ妄想パワーだ! 美女とベッドの上でもつれ合うシーンを思い浮かべるんだ!」
「すいませんクライスさん、俺プライド崩れてもいいんで動揺してる方がいいですそれなら」
 ――何だかんだで、主力組がアウトになることは今までの試合、なかった。精々第三回戦で敵の策略で柏崎が楓奈をアウトにした位だ。三年生が純粋なぶつかり合いでアウトになる。覚悟はしていたはずだが、俺としては焦りを感じるなという方が無理だ。上条さんは前述通り小雪さん、信哉と行動を共にしており、メンバー的にも問題はなかったはずなのに。
「多分、青芭ちゃんとぶつかったのね。あなた達の実力を考えた上で、本気出したんだわ。――私も負けてられないわね!」
「こちらも同じこと! 小日向、行くぞ! 負けなければいいなんて思いは捨てろ! 勝つぞ!」
「おう!」
 軽く身構えた後、空さんがこちらに向かってくる。俺達も身構え、有効な間合いに入った瞬間行動に移せるようにする。
「ビルゲッツ・ウィン・アックス!」
 そして空さんが気功ではなく、魔法の詠唱。自分の真横に魔法陣を繰り出して――真横?
「っ!! 姫瑠、済まない! 攻撃がそっちに行く!」
「!!」
 一瞬の隙をつき、空さんがあえて姫瑠に攻撃を仕掛けてきた。その間にも、俺達に大きな隙は見せない。
 ズバァン、バァン!!――小さな爆発がいくつも起き、それぞれが間合いを開く。姫瑠もいい感じで追い詰めていたのに今ので相手に立て直す余裕を与えてしまった。つまり、空さんが俺達を相手にしつつ、更に自分の仲間を援護、助けた形なのだ。……客観的に言えば、見事だとしか言い様がない。
「華能生は小さいって言っても、それでも家系、血筋のある家だからね。この位やってみせないと。元ちゃんのお姉さん度もアップ!」
「それはねえよボケ」
「もう、元ちゃんツンデレなんだから〜!」
「……本当に姉弟揃って反論するのもウザイ血筋だぜお前ら」
 そんなやり取りはあるが――空さんの覚悟というか気持ちというか、そういうのは凄い伝わってきていた。……家柄、血筋、か。
「…………」
 俺も、いつまでも言い訳ばかりしていちゃいけない。――俺はあの、御薙鈴莉の息子なんだ。いつまでも、頼らないと戦えない存在でいるわけにはいかない。
 俺だって――やってみせる。
「……ふーっ」
 気持ちを落ち着かせ、今まで以上に精神を統一。
「ディ・アムレスト」
 一旦目の前にレジストを展開させると、
「……ふうっ!!」
 そのレジストを、そのまま右腕に、纏う。――ダイレクトアタック用のレジストだ。無論、簡易版じゃない。この状態をキープし続ける、完全版だ。
 無論、今の俺では他のことが制限されてしまうし、何より右腕にしか纏えないが……クライスとの波長が合い始めている昨今、試してみる価値はあると思ったのだ。
「小日向……お前」
「大丈夫。……やれる」
 逆に言えば、キープ出来てる。右手一本なら、キープ出来てる。……俺が対等に渡り合うには、こういう技を使うしかない。
 華能生空さんも、この力は流石に少々驚きなようで、その表情を隠さない。
「不思議な力を持ってるのね、あなたも……あなたも家柄の人間かしら? でもあなた、小日向っていうのよね? 耳にしたことないけど」
「それはそうだと思います。そっちの苗字は特に魔法関係ない普通の家ですから」
「……「そっち」の苗字、は?」
「はい。……御薙鈴莉っていう名前、ご存知ですか」
「知ってるに決まってるじゃない、御薙って言ったら……ってもしかして」
「俺の、実の母親です。……俺自身は魔法始めて一年ちょいなんでこんなもんしか出来ないですけど。でもあの人の息子であること、誇りに思ってます」
「御薙の……そう」
 俺と空さんの視線が、数秒間ぶつかり合う。
「成る程、小日向雄真魔術師団、か。……この名前、決してあなたが御薙鈴莉さんの息子さんだからつけられた、ってわけじゃないのね」
「……?」
「素敵な目をしてるわ。魅力的な、ね。あまり敵には回したくない目。これがイベントの戦いでよかったわ。命のやり取りならとてもじゃないけど戦えないから。……はああああっ!!」
 気合。――来るっ!
「走れ、小日向!」
 琴理が囮になるような形で、俺をフォローする。その隙をつき、俺は全力ダッシュ。衝撃波の風圧を横に受けつつ、走る。
「行けえええええ!!」
 ズバァン!!――ダイレクトアタック、発動。ギリギリで反応した空さんの相殺とぶつかり合い、お互いが激しい衝突と共にスライドする。
「っ……凄い技ね、それ……そういう削り方をしてくるんだ……」
 効いた。ある程度までは相殺されたが、それでも残りのある程度は届いた。……行ける。これなら、行ける。
「ディ・アムレスト!」
 俺は再びレジストを展開、二発目のダイレクトアタックの為にレジストを右腕に纏う。
「まあ、そう来るわよね……ふぅ。――はああああっ!!」
 衝撃波。対応するのは琴理。俺は再びダッシュ。琴理のフォローのお陰で俺はかなり自由に移動が可能になり、空さんへの接近も容易かった。
「小日向くん、その技凄いけど、あなた自身がその技に慣れてないんじゃない?」
 そして今まさに先ほどと同じように衝突、という所で……不意にそんな言葉。……そして、
「!?」
 素早いステップで、一歩後退された。……言ってしまえば、ダイレクトアタックと言っても動作そのものは「パンチ」。間合いがあればある程威力はガタ落ちするわけで、俺は隙だらけになってしまう。
 華能生はそもそも武道の家。……その言葉が、痛い程に身に染みる瞬間だった。俺のパンチなど、簡単に読み切られて当然だったのだ。確かに、俺は武道の心得などない。平凡なパンチしか繰り出せない。
「ビルゲッツ・アプル・トッシュ!」
「く……!!」
 バァン!!――空さんのカウンター攻撃で、俺は呆気なく吹き飛ばされる。一応ダイレクトアタック用のレジストがあったからある程度ダメージは防げたが、それでも攻撃は重い。一気にダメージ加算となる。
「小日向っ!」
 琴理が急いで牽制の魔法を空さんに放つ。……が、
「はあああああっ!!」
「!?」
 気功による、移動術か。……ステップのみでそれを空さんは全てかわした。更に、
「ビルゲッツ・ウィン・アックス!」
「……っ!!」
 カウンター攻撃。琴理がガードするものの、その衝撃で間合いが開く。――ってまずい、これだけ琴理と俺の距離が空いたらお互いのフォローが出来ない!! 今まで二対一だったから時折有利な状況にも持ち込めたのに、一対一に少しでもなったら――!!
「はああああっ!!」
「くそっ……!!」
 狙われたのは、俺。体制を立て直したばかりで、回避する方法がない。レジストを展開させガードするしかないのだが、今の俺で何処まで持ちこたえられるか……!?
「ディ・アムレスト!」
「!?」
 レジスト、発動。……でも、「俺のじゃない」。この詠唱で、俺のじゃないとしたら、結論は一つだけ。
 ババババァン!!――見事に衝撃波を防ぎきる、俺の前のレジスト。ゆっくりと、後ろを振り返れば……
「春姫!!」
 そこには、ソプラノを構えている、春姫の姿が。
「雄真くん、私だけじゃないよ?」
「……ってことは」
「エスタリアス・アウク・エルートラス・レオラ!!」
 数発の光弾が、カウンターのように空さんに向かって飛んでいく。
「おっとっと……っと!」
 回避はされたが、上手い牽制にはなったようで、俺も琴理も体制を立て直す。――あの詠唱、あの光弾、そして春姫の言葉。……つまり、
「杏璃か!」
「何よ、随分苦戦してんじゃない、アンタ達」
 杏璃はそのまま春姫の横に並んで身構える。……って、
「二人とも、どうしてここに!?」
 二人のポジションは、距離的に俺達の後方センター二年生三人組の更に後方。ここまで前進して俺達に合流という話はなかったはず。
「上条さんが、アウトになっちゃったでしょう? 相手チームをアウトにしたアナウンスはまだない。つまり、高峰先輩達も雄真くん達も明らかに苦戦してる」
「確かにあたし達の役目は戦力を集中している今回のポジション、最前線をかわしてくる敵を漏らさずに倒すことだけど、でも今回はそれに集中するのはヤバいかもって思ったわけ」
「多少敵を漏らすのを覚悟の上で、敵の主力を叩く為……?」
「うん。賭けでもあるし」
「時間との勝負でもあるな」
 琴理が合流した。更に直後、一旦間合いを広げた姫瑠も合流。
「俺達がここで先に進まない限り、この試合の勝ちはないかもしれない。――行こう!」
 俺の一言で、あらためて俺達は戦闘態勢に入る。
「元ちゃん、どうしよう、相手五人になっちゃったよ?」
「流石にどうにもなんねえよ。俺達に出来るのはどれだけここで時間を稼ぐかだ。あれだけ戦力を集めれば他の個所に隙が出来る。他のメンバーに期待するしかねえ」
「元ちゃん、お姉さんにパワーを! 元ちゃんの頑張っての一言で頑張れるから」
「頑張らなくていいわボケ」
「元ちゃん〜!!」
 はあ、と元と呼ばれている男子がため息をつく。……まあわかる気もするが。
「あんたの弟とその従者がどれだけあとやれるのか。……それにかかってるぜ、この試合」


「風神の太刀ィィィィィ!!」
「おおおおおおおっ!!」
 小雪、信哉組と尊氏、青芭組。――戦闘は熾烈を極めつつあった。信哉と尊氏の一対一ならば比較的信哉が優勢に立てる、という点は大きくは変わらないのだが、
「シス・レミト・ネコル」
「エル・アムイシア・ミザ・ノ・クェロ・レム・トゥーナ・カルヌス!」
 ズバァァァン、バァン、ドォォォン!!
「っ……!!」
 小雪が青芭に対し、確実に苦戦を強いられていたのである。ガードこそするものの、押され気味の状態は、徐々に小雪の魔力を減らしていく。
「シス・クロウ!」
「っ、信哉さん!」
「く……っ!」
 青芭が魔法球を連続で信哉に放つ。信哉は風神雷神で防ぎつつ、行動をキャンセルし後退。――青芭はその小雪とのぶつかり合いの中、確実に一瞬の隙を突いて信哉を狙ってきていた。信哉としてもこの状態では尊氏に決め手を放つことも出来ず、どうしても防戦気味。
(やはり……真正面から普通に戦っていたのでは、勝ち目はなさそうですね)
 防戦気味の中でも、小雪は分析を続けていた。自分が得意なのは攻撃魔法よりも補助系統の魔法。それを上手く利用するしかない。
「やはり、タマちゃんにお願いするしかなさそうですね。……タマちゃん、お願いします!」
「任せて〜な〜!!」
 ギュワン、とタマちゃんが青芭に向かって突進。
「確かにそれは攻撃力はありますが、先ほど一度見させて頂きました。対処法は――」
「必殺、フレッツ・タマちゃん♪」
「光ファイバーもびっくりの速度やで〜!!」
「……!!」
 青芭がオーソドックスな対処をしようとした所で、その小雪の掛け声と共に、タマちゃんの速度が一気に上がる。
(馬鹿な……あのレベルの魔法に、更に二段重ねで魔法をかけた……!?)
 自らの攻撃魔法に、自ら補助魔法で速度を上げる。タマちゃんという独特な攻撃方法と、小雪の実力があってこその技であった。
 その速度、青芭の目測を超えており、相殺の魔法を光るタマちゃんは潜りぬけていく。そして、
「っ!! 尊氏様、防御を!!」
 そのまま青芭すらすり抜けて――尊氏の元へ。……ズドォォォン!!
「雷神の太刀ィィィィィ!!」
 更に、既に信哉は走り出していた。風神雷神を振りかざし、突貫。
「やらせは……しない!!」
 直後、小雪の視界から――青芭が、消える。
「な――!?」
「ああああああああああぁぁぁ!!」
 既に青芭は、尊氏を庇うかの如く、尊氏の前に立っていた。
(っ……これ程までの気迫が……!?)
 バァン、バァン、バァァン!!――風神雷神を振りかざす信哉と、激しい接近戦。青芭のワンドは決して接近戦用の品ではなかったが、魔力を込め、真っ向から接近戦で渡り合う。
「ぐっ……!?」
 ズバァン!!――結果、押し切ったのは青芭。深いダメージではないが、信哉は吹き飛ばされ、間合いが開く。
「シス・クロイス・ジャム!」
「――っ!!」
 そして青芭の手は止まらない。信哉に間合いを広げる一撃を与えた後、迷いなく攻撃対象を切り替え、小雪に牽制攻撃。――信哉との連携を狙っていた小雪の思惑は、見事なまでに外される。
 神道の力を、あらためて青芭が見せつける形となった瞬間であった。――だが。
「っ……はあっ、はあっ……」
 青芭とて、無傷ではない。信哉との接近戦でダメージは多少重なり、更に強引かつ強力な魔法は必要以上に魔力を消費。冷静な面持ちだった今までとは違い、呼吸を荒くし、それでも二人に対する警戒を怠らないといった状態になる。
「ふ……フハハハハハ!! 世界は広いな青芭!! お前でもダメージを喰らうとはな!!」
「この状況下でもまだ笑いますかこの笑い魔」
「青芭!!」
「普通の音量で呼んで下さい、隣にいるんですから」
「――私に気を使うな。お前一人ならば十分二人相手でも戦えるのだろう?」
「お断りします。私は従者、主を盾に使うつもりはありません」
「その主の命令だぞ?」
「例え主の命令でも聞けません。あなたを守ることが私の役目。例えそれが模擬戦だったとしても」
 事実、今の状況、もしも青芭が尊氏を見殺しにし、小雪もしくは信哉に攻撃を仕掛けていたら、また違う展開になっていただろう。あくまで「もしも」の話であるが。そして――青芭は、その「もしも」を選ばない。
「久々だったので、少し油断していたかもしれません。――もう、ミスはしません」
 青芭が改めて自らのワンドを構え直す。荒々しくむき出しだった気迫があらためて整い、研ぎ澄まされた空気が辺りを包む。
「千縞青芭殿……だったか。――同じ従者として、その心意気、敬意を表する」
 信哉である。
「……同じ従者として?」
「俺は上条信哉。妹の沙耶と共に、式守伊吹様の従者を務めている」
「式守の……そうですか、どうりで珍しいワンドをお二人ともお持ちだと思いました。にしても……式守の従者に褒められるとなると、私の従者も随分と板についてきた、ということかもしれませんね。――現状で敵に敬意を表するあなたに、私は敬意を表します」
 お互い戦闘態勢を取りつつも、その言葉に嘘偽りはない。それぞれ従者という立場に誇りを持つ者同士である。――と、そこに。
「青芭、華能生弟! 援護する!」
「!?」
 後方から、一人女子が走ってきて、そのまま青芭と尊氏の隣でストップする。
「おお、根津ではないか!」
 聖・華能生魔道士軍陣営、主力組の一人、根津陽由香である。
「陽由香さん、何故ここに?」
「少し考えたんだが、敵をアウトにしているのはお前達だけだろう? ただあのアウト以降、お前達が優勢なはずなのにアウトのアナウンスがない。だからお前達に加勢して、力押しで攻めるべきだと判断した」
「成る程。――そうですね、助かります」
 直ぐに三人は少しだけ立ち位置をずらし、スリーマンセルの体制を取る。
「これは……少々困りましたね……」
 一方、これで断然辛くなるのは当然小雪と信哉である。沙耶をアウトにされ二対二になり、トリッキーな戦法でやっと互角のいい空気になってきたのに、ここへ来て相手の増援。空気云々の前に、かなり勝ち目が薄くなる。
 精一杯頭を回転させ――小雪は、ひとつの結論を導き出す。
「信哉さん」
「はっ、何か案でも」
「はい。一つ、お願いがあります」
 小雪が導き出した作戦、それは――


<次回予告>

「この戦い、千縞さんがこのまま残り続ければ、私達の勝率はかなり低くなります。
最悪私と信哉さん、両者がアウトになったとしても、千縞さんだけはアウトにしないといけません。
――後方に控えている梨巳さん、武ノ塚さんでは恐らく千縞さんには勝てませんから」

窮地の中、小雪が信哉に提示する、最後の作戦。
果たしてその内容とは?

「あなたに言いましたよね? 名前は捨てても、その血は捨てていないと。――純粋なる強者を認めよ。
……神道の、教えです」
「千縞さん……」

いつしかお互いの実力を認めあう者同士となった戦い。
戦いの行方は、そしてその先にあるものとは。

「御薙の覚悟……? あなた、御薙の人間なんですか?」
「えっと、まあその、母親が御薙鈴莉さんでして」

そしてついに、あらためて雄真と青芭が対峙する――!?

次回、「ハチと小日向雄真魔術師団」
SCENE 40 「力有りし者の覚悟」

「……どうだっていいだろ、別に。もういいんだよ」
「――成る程、結局あなたが救いようがない人間だ、ということですか」


お楽しみに。



NEXT (Scene 40)

BACK (SS index)