「フレエエェェェ!! フレエエェェェ!! みぃぃずほざぁぁかぁああ!!」
 メイド集団によるそんな応援が相変わらず響き渡るこちら、MAGICIAN'S MATCH観客席、瑞穂坂側。いつものメンバーで必死の応援をしていたのだが、
「……舞依?」
 いつもならば一緒になって騒いでいる、沖永舞依がいないことに、七瀬香澄は気づいた。キョロキョロを辺りを見回してみると、一人離れた所でポツン、と試合の様子を映し出すモニターを見ているのを発見する。
「どうしたんだい? こんな所で一人で、珍しい」
「あ……香澄さん」
 気になったので、香澄も移動、隣に改めて腰を下ろす。
「……ほら、あの子。高峰のお嬢と上条兄妹と戦ってる、あの子」
「? あの、右腕と右目の回りに……タトゥー? がある子かい?」
 舞依が指摘したのは、小雪、信哉、沙耶と戦っている、千縞青芭。彼女の右腕と右目の回りに、試合前、試合開始当初にはなかった紋章らしき物が描かれていた。
「そう。あれはタトゥーじゃなくて、普段抑えこんでる魔力を解放しているから自然と浮かび上がってきてるもの」
「へえ……そんなことあるんだ」
「特殊な力だよ。多分、神道(しんどう)の血を持ってる子だと思う」
「神道?」
「こっちの地方じゃあまり有名じゃないけどね、知ってる人は知ってる、有名な家柄。ほとんど戦闘専用の家系でね、魔法協会の暗部的な役割を背負ってたけど、その戦闘専用ってのが色々問題を生じて神道の家は協会と決裂。結果、協会の手によって家柄ごと消された」
「……それって」
「うん。――希煉(きれん)の家と、ほぼ同じ性質、運命を辿ってる。……まあ、希煉の方が色々と大きかったけど、ね」
 舞依は、完全に正体を隠しているが、希煉、という家柄の魔法使いである。その事実は香澄だけが知っていた。香澄も深い事情は何も知らない状態でもある。
「あの子は……どんな気持ちで、あそこに立ってるのかな」
「舞依……?」
「私は、希煉の名前もプライドも捨てて、普通の人として、何もなかったことにして今生きてる。でもあの子は違う。神道のプライドを捨てず、魔法使いとして、あの場に立って、あの力を使ってる。並大抵の覚悟じゃないよ、きっと。――どんな気持ちで、あそこに立ってるのかな」
 呟くように言葉を続ける舞依の表情は、悲しげな、儚げな笑顔。
「希煉を捨てた、あんたが駄目ってわけじゃない」
「――香澄さん」
「あの子はあの子、あんたはあんた。魔法を捨てたあんただって、並大抵じゃない覚悟が必要だったはずさ。あんた今、その過去を乗り越えて立派に生きてるだろ? 十分だよ、あたしに言わせれば」
「うん。……そうだね」
 その言葉を最後に、舞依は試合終了まで、一言も喋らなかった。儚げな笑顔が消えることも、なかったのだった。



ハチと小日向雄真魔術師団
SCENE 38  「プライド」




 神道の家が、潰れる。――当時の私は、特にショックではなかった。ここ数ヶ月の動きからして、そうなることは予測していたし、覚悟も出来ていた。
 家系の人達は、罰せられ、監獄に収容されるなり何処か遠くへ搬送されるなりで処遇はまったくわからない状態になった。――これも別にショックではなかった。一般的な家族団らん、なんてものはこの家にはなかったから、父と母がいようがいまいが、私にはそれほど大きな影響はなかったから。
 家の中で唯一、私だけが罪に問われることはなかった。私はまだ子供、訓練中の身、実戦に出ることなく騒動は終わりを告げたからだ。
 だからといって私は自由になれるわけではなかった。ひとまず私の身柄は魔法協会に預けられ、その後何処かの家に引き取られることになった。子供だから代わりに育ててくれるとか面倒を見てくれるとかそんなものじゃない。要は危険因子として、監視をしてくれる家に引き取られる、ということだ。罪のない私を協会がいつまでも置いておくわけにもいかないが、神道の血を持った人間を自由にさせるわけにもいかない。だから協会の息がかかっている家で監視をする、というわけだ。
 無論、そんな面倒な役割を立候補する家などなく、私は何日も協会で拘留されたまま過ごしていた。……そして、
「出なさい。君の引き取り手が見つかった」
 拘留されて一週間後、私はやっと表に出された。面会所で私の引き取り手だという人と初めて対面。
「華能生家当主、華能生頼家(よりいえ)だ。これから宜しく頼むよ、千縞青芭君」
 笑顔でそう挨拶してきた、四十代位の男。華能生……協会に加盟してはいるがあまり大きな家ではない。ああ、誰も引き取り手がいないから無理矢理協会に押し付けられて小さな家だから断り切れなかったな、というのが直ぐにわかった。
 そう思うと、その笑顔も実に胡散臭い。
「さ、乗りたまえ」
 待たされていた車の後部座席に、華能生頼家と共に乗る。ゆっくりと車が動き出す。
「それで、私をどう使うつもりですか」
「? どう使う……とは?」
「押し付けられたとはいえ、使い道の選択肢はある程度考えてあるのでしょう? 奴隷とか実験体とか性欲処理の道具とか」
 当然、まともな環境で暮らせるなんて思って居なかったので、手っ取り早くそう切り出した。――が、その私の問いに、頼家は大きく笑った。
「……何が可笑しいんですか」
「安心したまえ。私は君をそんなものの目的の為に引き取ったんじゃないよ」
 彼は笑顔のまま、それ以上は説明しようとはしなかった。――やがて車は華能生の屋敷へ。私はそのまま屋敷の中に通された。
「おお父上、戻られましたか!」
 最初に姿を見せたのは、随分と体格の良い男。私と同じ位の年齢だろうか。言葉からするに、頼家の息子か。
「そして父上の横にいるのが?」
「ああ。――青芭君、紹介しよう。息子の尊氏だ」
「フハハハハ、宜しく頼む!!」
「……どうも」
 私としては息子の紹介よりも、これから私をどうするつもりなのかを早く説明して欲しかった。……が、
「青芭君。――実は君に、尊氏の従者になって貰いたいんだ」
「……は?」
 答えは、意外な所からやって来た。……従者?
「従者って……」
「ああ。君の才能を買って、尊氏の右腕となって頑張って欲しい」
「……正気ですか?」
 可笑しな話だった。協会から危険因子と見なされている私を息子の従者になどしたら、間違いなく協会から白い目で見られ、場合によっては立場もまずくなるだろう。そんなことがわからないはずもないだろうに。
「ああ、至って私は正気だよ」
 でも頼家は、笑顔でそう答えた。……何を考えているのか、一層読めなくなる。
「父上、お帰りなさいませ」
 と、そこで新たな人影が。
「青芭君、これは私の娘で空だ。……空、こちら千縞青芭君」
「じゃあ、この子が……」
「ああ、今日から尊氏の従者になってくれる娘さんだ」
 空、と呼ばれた頼家の娘は、ゆっくりとこちらに近付いてくる。
「……か」
「……か?」
「可愛い〜〜〜!!」
 ……抱き付かれた。
「嬉しい、妹が出来たみたい! これから宜しくね、青芭ちゃん! 困ったことがあったら、何でも私に言ってね!」
 ならとりあえず今離して欲しい。……何だろう、この人も。全然読めない。
「はは、空、青芭君も疲れているんだ、離してあげなさい」
「あっ、ごめんごめん! つい」
 パッ、と離された。
「さ、とりあえず君の部屋まで案内しよう。落ち着いたら夕食にしようじゃないか」
「夕食に……しようじゃ、ない……か? 私が同席する、ということですか?」
「当たり前だろう? 尊氏の従者になったんだ、家族も同然だ」
 本当に当たり前の顔をして、そう言われた。……ますます、読めない。
 彼らの目的は、何なのだろう。……そのことだけが、頭を駆け巡る。余程のことを企んでいるんだろうか。でなければ、ここまでのことはしてこないはず。


 翌日から、従者としての生活が始まった。
「フハハハ、行ってくる!」
「…………」
 ――何故この男、いちいち高らかに笑うのだろうか。横にいて本当にうざい。
 尊氏は学園生。当然私も同じ学園に編入。――勉学は自宅でずっとしてきたので、慣れない。制服などに袖を通すのも初めてだ。挙句の果てに初めて制服が届いた日、
「記念写真撮りましょうよ!」
 と、空に押し切られ、華能生家の面々と一緒に写真を撮る羽目になった。流石にこの写真で脅迫……は考え辛かったが、やっぱり目的は見えてこない。
 尊氏の従者になったとはいえ、尊氏は学生の身。特に何か華能生の人間として動く、ということはほとんどなく、結果従者の役目などほとんどない。一緒に学園に通い、食事時等に席を共にするだけ。
 結果、やたらと自由時間が多かった。……普通の人間は、こんなにも自由時間が多いのか。正直、何をしていいのかわからない。魔法の訓練でもしておけばいいのか。
 困ったことと言えば、もう一つ。――コンコン。
「……はい」
 ノックを無視するわけにも流石にいかない。返事をして、ドアを開ける。
「青芭ちゃん、お風呂まだでしょ? 一緒に入らない?」
 そう。写真の件もそうだが、この一家、目の前にいる空を筆頭にやけに私とコミュニティを取りたがる。――私は神道の血筋、家柄だが重要な機密等は何も握っていないので、親しくなっても何のメリットもないのに。
「……お断りします」
 そのままドアを閉める。
「残念。じゃ、先に入るから、終わったら呼ぶからね〜」
 この屋敷の風呂は大浴場が大きく一つだけ。――私は大きくため息をついた。何が楽しくて一緒に風呂に入らないといけないのか。裸なら隙が出来るとでも思っているのだろうか。
 三十分後、空から風呂空いたことの報告。――念の為私はそこから三十分待ち、大浴場へ。
「ふぅ……」
 湯船に浸かり、息を吹く。――肉体的には疲れないが、精神的に疲れる日々。従者になって一週間が経過していたが、相変わらず華能生の目的は見えない。
 もしかしたら私がこれで壊れるのが目的なのだろうか……と思った、その時。
「はーい青芭ちゃん、入るわねー」
「ぶっ」
 思わず吹いた。……見れば、
「空様……それに、奥様まで……」
 空に続き、頼家の妻、朝子(あさこ)まで入ってきた。
「……入浴は既に済まされたのでは?」
「ど〜しても青芭ちゃんと一緒に一回入りたかったから、嘘つきました♪」
 そのまま私は空と朝子に挟まれる形になる。
「青芭さん、このお屋敷、慣れてくれたかしら?」
「建物の構造は覚えましたが」
「んー、そういうことじゃなくて、青芭ちゃんいつでも何処か力んでるから、もっとこうリラックスして」
 ポン、と空が私の肩に手を置く。……リラックスなど出来るものか。こいつらの目的もわからないのに、隙を見せるわけには――
「――わっ、青芭ちゃん、肌スベスベ! ほらお母様!」
「あら本当! どうしたらこんなにスベスベになれるのかしら? 若いって羨ましいわ」
 ……隙を見せるわけには、いかないのだ。べたべた触られてはいるが。
 風呂を一足早く上がり、自室へ向かう。
「おお青芭君、丁度良い所に」
 廊下で頼家とすれ違った所で、声をかけられた。
「? 頼家様、何か」
「今日皆で大富豪(トランプ)大会を開くんだが、参加しないかね? 明日は学園も休みだ、少し位夜更かししても大丈夫だろう」
 …………。
「……お断りします」
 今ならわかる。この家が一定以上大きくなれない理由が。
「そうか、残念だ……おお尊氏、大富豪の準備はいいか?」
「フハハハ、勿論ですぞ父上!――おお青芭、今日は大富豪だ!」
「……先ほどお断りしました」
「遠慮をするな! 私の従者として思う存分その腕を奮うがよい!!」
 ……頭が、痛くなった。


 従者になって一カ月が経過した。
「…………」
 丁度一ヶ月目のその日――私は、この屋敷を抜け出して逃げることにした。
 この一ヶ月、色々探ってみたが、結局この家が私を引き取った理由は見えなかった。まるで本当にただ私を従者として必要としていたかの如くだ。……逆に、恐怖だった。
 これ以上は、耐えられない。……私は逃げる決意をした。真夜中の屋敷も庭も、信じられない位警備が甘かった。音を立てぬよう、庭を駆け抜ける。門が見えてきた――その時だった。
「何処へ行くのだ、青芭」
「!?」
 声がした。……足を止め、声のした方を振り返る。
「尊氏……様」
 尊氏だった。何食わぬ顔で、そこに立っていた。
「……尊氏様こそ、何をなされているのです? もう夜中の三時になりますが」
「今日で、丁度一ヶ月だな」
「ええ」
「逃げだすには、区切りがよいだろうと思ってな」
「…………」
 嫌な緊張が走る。……やっと、本性を見せるのか。私をここまでして引き取った意味を。逃げられたら困る理由があるのだ。
 尊氏はそのまま私に近づくと、私に無理やり、一つの少々分厚い封筒を手渡す。――私は尊氏の表情を確認しつつ、その封筒を開ける。
「……え?」
 中身は――お金だった。一万円札の、束。
「……これは……一体……?」
「社会というのは不憫だ。表で何に困るかと言えば、まずは金だろう。無一文では辛いであろう? 餞別だ、持っていくがよい。私のポケットマネーだから、そう多くは入れられなかったがな」
「……!?」
 意味が、わからない。――私が逃げるのを、容認しているかの言葉。そしてその言葉が、ついに私の感情を爆発させた。一ヶ月の間の靄を、爆発させた。
「何なんですか……何の真似なんですか……何が目的なんですか!? 一体私をどうしたいんですか!? どうしたかったんですか!? 危険因子を引き取っておいて何の計らいもせず、ただ普通に接してくるだけ!! 挙句の果てには逃げるのを目を瞑り、餞別まで!? 私に何をやらせたいんですか!? こんなわけのわからない方法を選んでないで、ハッキリと言えばいいじゃないですか、やればいいじゃないですか!! どうせ私に選択肢なんて……人間として生きる権利なんてもうなかったんだから!! 何か目的があるなら、実行すればいいじゃないですか!!」
「だから、実行しているではないか」
「実行しているって、何を――」
「目的は、青芭を自由の身にしてやること。――そうなのでしょう、父上!」
 その尊氏の言葉を受けて、姿を見せたのは、
「頼家……それに朝子に空まで……!?」
 華能生家の、家族全員だった。
「青芭君、君はまだ若い。――神道などに囚われず、一人の女性として、自由な人生を歩んで欲しかったんだよ。――今まで、色々大変だっただろう? 生きる選択肢も選べない。もうそんなものに、縛られる必要はない」
 まさか。……まさか。
「そんな……ことの為に、私を引き取ったとでも……? 協会からどんな評価を受けると思ってるんですか!? 逃がしただなんてことになったら――」
「まあ、構わんよ。人一人救えないのならどれだけ権力を持っていても無意味だ。それに華能生は元々協会では小さな家柄さ。今さら制裁を受けた所で持つ権力も変わらない。――この為に、一週間待ったわけだし」
「……一週間、待った?」
「協会がいい加減、君に嫌気が指すように。更にその状況下において華能生のような協会での影響力の小さな家柄が引き取ったとなれば、監視や注目は著しく低くなるだろう」
 その言葉を聞いて、唖然とする。……その為に、わざと一週間という期間を設け、引き取りを名乗り出たというのだ。その時点で、彼らの計画は始まっていたというのだ。……ただ、私を自由にする、という嘘のような計画が。
「さ、行きなさい、青芭君。……最も、我々としては君がいなくなってしまうのは寂しいが。君が居てくれたお陰で、この一ヶ月、我が家はとても華やかだったよ」
 いつもの笑顔で、頼家は私にそう告げる。……一ヶ月間のことが、思い起こされる。
 当たり前のように接触してくる彼らを疑った。
 彼らの裏の目的が、まるで掴めなかった。
 何処かで監視されていると警戒を怠ったことなどなかった。
 ――警戒に、引っかかるものは何もなかった。何の監視も、私にはなかった。
 ――裏の目的など、掴めるはずがなかった。彼らにそんなもの、なかったのだから。
 ――当たり前のように接触してくる彼らを……疑っては、いけなかったのだ。
「…………」
 門の外へ、自由の世界へ続く道を歩く私の足が……やけに、重かった。動かそうと思っても、その足は重く、中々思うように動いてくれない。
「青芭さん。……何か困ったことがあったら、いつでも連絡して下さいね? 寂しくなったら、いつでもいらして下さいね? 私達は、いつでも待っていますから」
「……っ!!」
 ついに、私の足が……動かなく、なった。
「青芭ちゃん」
 そのままそこで立ち尽くしていると、気付けば私は、空に抱きしめられていた。――思えばこの一ヶ月、初日から何度もこの人には抱きしめられてきたが……人の抱擁とは、こんなにも暖かいものだったのだろうか。
「泣きたい時は、泣いていいんだよ?」
「……っ!!」
 ああ、やけに視界が滲むと思ったら……私は、泣いていたのか。そんな感情、訓練のお陰ですっかり無くなっていたと思っていたのに。
「青芭ちゃんは、もう普通の女の子なんだから。泣きたい時は泣いていいし、笑いたい時は笑っていいの。――今まで、辛かったよね? だから、これからは普通でいいじゃない。……普通の女の子になったって、いいじゃない」
 視界が、どんどんと滲んでくる。こんなもの、訓練でいくらでも調節出来たはずなのに……涙は、止まることを知らない。
「ね、青芭ちゃん」
 再び私を呼ぶ、空。……曖昧な視界のまま抱きしめられたまま彼女の顔を見れば、裏も表もまい、満面なる笑顔で。
「よかったら、もしよかったら……一緒に、帰ろう? 青芭ちゃんの、部屋。私達の、家」
 私は――泣き顔を隠すかのように、その誘いに、頷いたのだった。


 地面が揺れるような感覚。痛い程に重く圧し掛かる威圧感。気を抜いたらそれだけで倒れてしまいそうな程の。
「あなたは……その紋章は、神道の……!?」
「成る程。地方が離れていても、あなた位になるとやはり把握しているんですね、高峰小雪さん。――仰る通り、私は旧姓神道。苗字は名乗ると不便なので捨てましたが、力は捨てていません」
 驚きを隠せない小雪の問いかけに、青芭は冷静な面持ちのまま、答える。
「小雪様……その、神道、というのは……」
 信哉、沙耶は知らなかったようで、青芭に警戒しつつもその質問を切り出した。
「訳あって、歴史から葬られてしまった家柄です。圧倒的戦闘能力を持ち、一定以上魔力を解放すると体に特有の紋章が現れるとか。……私も、初めてみましたが」
「ではあの者は、その神道の生き残りである、と……?」
「事情は掴めませんが、間違いないと思います。……まさか、このような所で遭遇するとは思ってもいませんでしたが」
 三人が、あらためて身構える。
「どれだけの人にどう思われたとしても、こんな私を愛してくれる人達がいるから、その人達の為なら、私は幾らでもこの力を使います。……容赦は、しません」
「フハハハハ、青芭よ、フォローは任せるがよい!」
「はい、お願いします。……行きます」
 威圧感をむき出しにしたまま、青芭が身構える。
「シス・アットミール」
 青芭の目の前に鮮麗された魔法陣が浮かび上がった……と思った直後、
「!?」
 ほとんど感覚もなしに、その魔法陣から溢れんばかりの魔法波動が射出される。レーザーと称するには生ぬるく、まるで例えれば波動砲、と言う方が正しいか、位の威力。……短い間隔で、無論簡単に放てるような威力ではなかった。
「信哉さん、沙耶さん!」
 小雪が、二人の名前を呼ぶ。慣れた二人には、この状況下それだけで小雪が何を求め、何を指示しているのかが直ぐにわかった。
「風神の太刀ィィィィィ!!」
「幻想詩・第一楽章・混迷の森……!!」
 そもそも個人防御力に関してはかなりのレベルを誇る上条兄妹。その独特な力で、二人掛りでの波動砲に対するガード開始。
「タマちゃん、お願いします!」
「お任せやで〜!!」
 その二人の後ろ、守られるように位置している小雪が、タマちゃんアタック。――弾数制限こそあるものの小回り、コントロール、威力、全てが高レベルのタマちゃんアタック。位置的にこうして守られながらでも放てる、というメリットもある。
 三人の判断、反応は完璧であった。――ズドオオォォォン!!
「やった……!?」
 激しい爆発音。無論タマちゃんによる。明らかなるクリーンヒット、沙耶がそう感じるのも無理はなかった。……だが。
「気を抜くな、沙耶! 気配を感じ取れ、まだだ!」
「おおおおおおおっ!!」
 信哉の注意と、尊氏の気合は、ほぼ同時だった。
「っ!!」
 突き進む、気功による衝撃波。三人は各々のセンスにより、回避。
「あえてあの場に残って……カウンター、ですか……!!」
「無駄なことを!! カウンター覚悟で小雪殿の攻撃を喰らうとなれば、相当ダメージはあるはず! せめて今ので一人は倒さねば貴様らに勝機など――」
「仰る通り。……ですから、確実に一人」
 最後の青芭の声は――「上から」聞こえてきた。
「そう来ましたか……!!」
 尊氏、青芭の目的は、何も尊氏の攻撃によるカウンターでのダメージ狙いではなかった。尊氏のカウンターは、あくまで相手の体制を崩すことのみ。本命は既にかく乱、上空からの攻撃態勢に入っている青芭であった。
 三人の立ち位置は先ほどの回避行動により微妙にずれていた。攻撃がくれば各々でガードするしかない。
「沙耶さん!!」
 小雪が叫ぶ。青芭の位置、放出されようとしている魔力の流れから、瞬時にターゲットにされている人間を読み切り、名前を呼ぶ。
「高峰小雪……流石ですね、この動きだけでそれを読みますか」
 対する青芭は、その小雪の判断力に驚きつつも、行動を変更しない。
「幻想詩・第一楽章・混迷の森……!!」
 小雪に呼ばれたことで、いち早く沙耶も反応。万全の状態で青芭の奇襲を迎え撃とうとする。
「その独特な防壁魔法は見事ですが……そのレベルの魔法が何度も通じる程、神道は甘くはない」
「!?」
 が――直後、沙耶の作りだした防壁は……音もなく、消えた。
(そんな……混迷の森が、こうも容易くキャンセルされる……!?)
「シス・デジェン」
 その攻撃魔法は、万全の状態をゼロにされた沙耶に、容赦なく降り注いだ。
「きゃあああああっ!!」
「っ!! 沙耶ーーーっ!!」
 ズバババババァァァン!!――再び、激しい爆発音が響き渡る。
『小日向雄真魔術師団、三年生・上条沙耶さん、アウト。フィールドから退場します』
 視界が開けた時――既に、そこに沙耶の姿は、なかったのだった。


<次回予告>

「華能生は小さいって言っても、それでも家系、血筋のある家だからね。この位やってみせないと。
元ちゃんのお姉さん度もアップ!」
「それはねえよボケ」
「もう、元ちゃんツンデレなんだから〜!」

最前線二組、両組とも苦戦か!?
お姉さん度のアップは……ないが、華能生空の実力も確かな物。

「小日向くん、その技凄いけど、あなた自身がその技に慣れてないんじゃない?」
「!?」

ハイレベルな戦いに、否応なしに巻き込まれていく雄真。
果たして雄真の存在が勝負にどう左右されていくのか?

「シス・クロウ!」
「っ、信哉さん!」
「く……っ!」

一方で、沙耶がアウトになり、追い詰められていく小雪達。
更なる窮地の中、勝機はあるのか?

次回、「ハチと小日向雄真魔術師団」
SCENE 39 「その名を背に、戦う者」

「素敵な目をしてるわ。魅力的な、ね。あまり敵には回したくない目。これがイベントの戦いでよかったわ。
命のやり取りならとてもじゃないけど戦えないから」


お楽しみに。



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