MAGICIAN'S MATCH第六回戦、試合開始三十分前。――色々あり、ベストとは言えないが、俺達のモチベーションは大分戻っており、各々最後のウォーミングアップをしていた。
「いくよー、琴理。よっと」
「んっ……と」
 目の前では、姫瑠と琴理が柔軟体操中。今回俺は、この二人とスリーマンセルで正式に選手として出場。頼りになる二人だが、頼ってばかりもいられない。選ばれている以上、精一杯頑張らねばならない。――何だかんだで三試合連続出場だったりするわけだが。
「雄真さん、調子はいかがです?」
「あ、小雪さん」
 と、やって来たのは今回楓奈の代わりに特別枠で出場の小雪さん。
「今日だけは、夜の営みの分のエネルギーを試合に回して全力でお願いしますね?」
「ちょっと待って下さい小雪さん、その言い方だとまるで俺は夜の営みが日課みたいに聞こえてくるんですが」
「高峰小雪、あの日の雄真さんとのタマちゃんプレイが今でも忘れられず」
「またそうスラスラとよくも事実無根な話が出て来ますね!?」
 というかタマちゃんプレイってどんなだ。こねるだけじゃあるまいな。
「それでは雄真さん、また後で」
 そう言うと小雪さんは他の選手の所へ。――何だかんだでああやって全員の様子を見て回ってるんだろう。……小雪さんは特別枠で出場が決定して以来、影ながらメンバーに溶け込む為に、試合に勝つ為に色々頑張ってきていた。その頑張りも、無駄にするわけにはいかない。
「よし」
 気持ちを改め、俺も体をほぐしていると、
「フハハハハハハハハ!!」
 チーム内に、そんな高らかな笑い声が響く。何事だ、と思いそっちを見てみると。
「高溝殿! 高溝八輔殿とやらは何処に!! この華能生尊氏(かのう たかうじ)が直々に挨拶に参ったぞ!!」
 笑い声の後は、そんなことを大声で言いながら練り歩く奴(男子)が。……って、ハチを探してる……?
「フハハハ、まさかこの私の存在感に圧倒され、恐れをなしたか! そのようなことでこの私に勝てるとでも思っているのか!? さあ姿を見せよ、男として、戦士として、その心をぶつけグフオォ!?」
「恐れをなしてるんじゃなくて、うざいか面倒かキモイかのどれかを感じて出てこないんだと思いますが」
 よくわからないが、女の子の飛び蹴りで、沈んだ。……何だこれ。
「フ……フハハハ、相変わらず磨かれた蹴りだな、青芭(あおば)! それでこそ我が従者!」
「あなたのしぶとさには負けます」
 何もなかったように立ち上がる男と、すまし顔で答える女の子。……いやだから、何だこれ。
「あのー……」
 とりあえず、ここは小日向雄真魔術師団の待機場所なので、何者なのかを代表して俺が尋ねてみることにした。
「ム……おおおお!! オーラだ、神々しいオーラを感じるぞ!! 貴殿からは、私と同じく選ばれし者だけが持つオーラを感じ取れる!! わかったぞ、貴殿が高溝八輔であろう!!」
「あ、いや……俺、小日向雄真っていうんだけど」
 つい勢いのまま自己紹介してしまった。
「小日向雄真……おお、瑞穂坂のチーム名になっているあの小日向雄真か!! 成る程、これ程のオーラを持つからこそチーム名にまでなっているのだな!! あらためて挨拶しよう、私の名前は華能生尊氏、そしてこっちが私の従者の」
「千縞(ちしま)青芭」
「えーっと……お二人共、ここへは何をしに」
「うむ、私は高溝八輔殿に挨拶に参ったのだ!」
「私はこのやかましい人を始末しに」
「……えーと」
 とりあえず、テンションという意味で正反対の位置にいる二人組だった。……挨拶によれば主君と従者の関係らしいが。本当だろうか、と疑う程だ。
「小日向雄真魔術師団、流石本大会の大本命と言われるだけあって、素晴らしい快進撃である! だが今までの試合、闇雲に戦うだけで快進撃を成し得る程楽な大会ではなかったはず! それ程までに快進撃を続けるには、実力以外の何かがチームに備わっているに違いない、即ち総大将に何か特別な力があるに違いないと思い、試合前に一度高溝殿に挨拶をしておきたかったのだ!! フハハハハ!!」
「私はこのキチガイの従者なので、監視役として致し方なく」
 まあ、その、言いたいことはわかった。……わかった、のだが。
「というわけで、高溝殿はどちらに?」
「えーっと……あそこに」
 わかった、のだが、今のハチは……その。
「あそこ? あそこには……どこぞの人生の敗者のようなオーラを持つ薄そうな人間しかおらぬが」
「その……それがその、お探しの高溝殿でして」
 今のハチは、まあその、廃人化している。後一歩チームのテンションがベストにならない理由として、ハチの状態にある。誰も話しかけないし、話しかけられる空気ではない。俺も色々考えてはいたのだが、具体的な案が見つからず、試合当日になってしまったのだ。――ハチに自力で解決させる、という俺の中のコンセプトは未だ変更無しなので、その辺りも難しいのである。
「あれが高溝殿? フハハハハ、面白い冗談だな!! 高溝殿はここまで快進撃を続けている小日向雄真魔術師団の総大将であろう? あんなに薄っぺらくて救いようが無いオーラ丸出しの人として存在価値があるのかどうかもわからないような人間ではあるまい」
 うわあ、凄い言われ様だな……
「いやその……実際、彼が高溝殿なもんで」
 まあでもしかし、誤魔化すわけにもいかないので、俺はそのまま主張。
「フハハハ、まだ言うか! あれが高溝殿?」
「そう」
「あの居ても居なくてもどうでもよさそうなのが?」
「そう」
「そのままシュレッダーにかけてしまいそうな程薄そうなのが?」
「そう」
「……あれが?」
「そう」
 …………。
「なんとおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」
 やっと通じたらしい。余程信じられなかったらしく、かなりのリアクションだった。
「その逃げ回ったら死にはしないとか言いそうなリアクション、五月蝿いだけです尊氏様」
 そのクールな従者さんのツッコミも何のその、華能生は相当なショックを見事に体で表現している。
「どういうことだ……総大将があれでここまで快進撃を続けてきただと……? ありえん!!」
「いやあ、まあ」
 ぶっちゃけハチがあの状態じゃなくても総大将ありきのチームじゃなかったです、とはもう言えない状態だった。
「最強の敵だと睨んだのは私の思い違いだったか……小日向雄真魔術師団の諸君! 邪魔をしたな、後は試合で合い間見えよう! 最も、勝つのは我々、聖・華能生魔道士軍だがな!――帰るぞ、青芭!」
「そのチーム名大声で名乗るのは止めて下さいと何度言えばわかるんですか。というか私は好きでここに来たわけじゃないですから」
 唖然とした俺達を残し、その二人はその場を後にした。
「……何、あれ?」
 杏璃の呟き。――杏璃だけじゃない、誰しもが何とも言えない表情で華能生と従者さんの後姿を見送っていた。
「あれが……今回の敵の主力、か?」
「確かに、ミーティングの時に名前に出てたけど……」
 姫瑠と琴理のその会話で思い出す。……確かに、先日のミーティングで、敵の主力の名前が華能生、だった気がする。
「何だか、違う意味で警戒するよな……」
 何処か緊張感が抜けてしまった。……ある意味、プラスの出会いだったのかもしれない。



ハチと小日向雄真魔術師団
SCENE 37  「その気になれば紙より人は薄くなる」




「――で? わざわざその総大将さんとやらに挨拶に行ってたってか?」
 さてこちら、第六回戦、小日向雄真魔術師団の試合相手、聖・華能生魔道士軍陣営、試合前最終ミーティング中。
「フハハハハ、元(げん)が何を警戒しているか知らんが、あの様子なら我々の圧勝間違いなしだ! 悟ったぞ!!」
「んなこと悟る前にもっと違うモン悟れやボケ。テメエは余計なことし過ぎなんだよ」
 元、と呼ばれた男子――フルネームは山本(やまもと)元といった――が呆れ顔で華能生尊氏を見る。
「どういう勢いで悟ったか知らねえがな、今回の敵は今までとは格が違え。決勝戦だと思え」
 また彼は、このチームの作戦参謀役であった。
「んー、元ちゃんがそう言うんだから、本当に凄いのね」
「あんたはあんたで何度その呼び方を止めろって言えばわかんだよ……ったく、姉弟揃ってロクなもんじゃねえ」
 華能生空(そら)。尊氏の姉で、学生ではないがOGの為、特別枠で出場していた。
「山本さん、この二名はどうでもいいので、最終説明を」
「青芭ちゃん、冷たい〜」
「私から冷たさを取ったら何も残りませんが」
「ふふっ、ほら、青芭ちゃんも、空さんも、尊氏くんも、そろそろ本当にちゃんとしないと、元くんに怒られるよ?」
 樹原愛子(きはら あいこ)。チームのまとめ役的な存在。
「やっと始まるのか。まったく待ちくたびれたぞ」
 根津陽由香(ねづ ひゆか)。愛子とは違うベクトルでのチームのまとめ役。
「そうです、皆さんで仲良く、一生懸命頑張りましょう! 大切なのは、みんなで頑張るということですから! 喧嘩はダメですよ?」
 惠川伊予(えがわ いよ)。チームのマスコット的存在(本人曰くまとめ役)。
「伊予ちゃん……可愛い〜♪」
「ひゃっ! そそ空さん、何で抱きついてくるんですか〜!?」
「伊予ちゃん可愛過ぎ。家で飼いたい」
「わわ私ペットじゃありませんよぅ」
「……伊予、お前もう面倒だから喋るな」
「そうですね、私も陽由香さんの意見に賛成です」
「陽由香ちゃんも青芭ちゃんもそんなこと言ってないで助けてください〜!!」
 ……全体的にレベルの高いチームだが、この七名がその中でも特に主力と呼べる実力の持ち主であった。
「いいか、一回しか言わねえからよく聞けよ」
 埒が明かないと判断したか、強制的に元が話を始めた。
「今回奴らの変更点で一番デカイのが、特別枠が変更になってる」
「特別枠が……? 普通、そこは換えないよね……」
「樹原の言う通りだ。出場してくるのは、高嶺小雪」
 その高峰小雪、の名前を出した時に、ピクリと反応を見せたのは華能生姉弟、青芭の三人。
「高峰……ってことは」
「あの高峰ゆずはの娘――ということで間違いないでしょうね」
「青芭ちゃん! その高峰さんっていう方、有名なのでしょうか?」
「家柄は協会に結構な威力で口出し出来る程。魔法はどれだけ戦闘に適しているかまでは知りませんが、かなり独特なものを多様すると聞いています」
「フハハハ、成る程わかったぞ、我らの強さに恐れをなしてついに隠し玉登場というわけだな!!」
「うぬぼれんな、そうじゃねえ」
 その元の言葉に、今度は全員がピクリ、と反応する。
「ウチのお馬鹿な弟をフォローするわけじゃないけど……そうじゃないの? 私もそう思ってたけど」
「前の試合まで特別枠で出てた瑞波って奴も、交戦回数は少なかったけど見る限り尋常じゃねえ使い手だった。明らかに戦闘専門のな。あれを外して高峰小雪に換えても、奴らにそこまでのメリットはねえ。場合によっては戦力ダウンだろうな」
「理由があって、その瑞波が出場出来なくて、代わりに高峰小雪とやらが出てきた?」
「根津の説が恐らく正しい。奴らの中で高峰小雪の出場は多分この一試合のみ。――これがどういう意味かわかるか?」
「折角なので記念に出てきたんですね!」
「お前一回死んどけ」
「ひゃんっ! 元くんが、元くんが怖いです〜〜!」
「よしよし、大丈夫よ伊予ちゃん。……元ちゃんは、高峰小雪が最前線で出てくるって言いたいのよね?」
「その通り。この一試合なら、後方で実力を隠しておく必要はねえ。それに合わせて、全体も力攻めしてくる可能性が強い」
「そっか……元くん、それじゃ何か特別な作戦とかフォーメーションとか」
「いや、下手な小細工は多分見抜かれて逆にこっちが危なくなる。奴らそういうチームだ。――相手が正攻法で力攻めなら、こっちもそれで行く」
「フハハハハ、真正面からのぶつかり合いというわけか! それでこそ戦いよ!」
「フォーメーションは基本で決めたツートップ。樹原、根津、惠川は状況を見て動け」
「うん!」「わかった」「任せて下さい!」
「フハハハハ! 勝つぞ、皆の者! その為に、我らはここにいるのだからな!」


「よっ……と。――フィールド転送も段々慣れてきたな」
 これで三回目。景色も微妙に違うとはいえ、フィールドの雰囲気にも慣れてきた。先に転送されていた姫瑠と琴理に合流完了だ。
「で、ついでに言えばまた最前線、と。――頑張るは頑張るけど、本当にいいのかな?」
「安心しろ。私達がいる」
「うん、いざって時は守ってあげるからね、雄真くん」
「ははは……って」
 何でしょうこの情けない話。女の子二人に守ってあげると言われて安心する俺。
「まあ二人にはお礼にお前の愛と子種をだな」
「おいいい!! 愛の時点でツッコミ所なのに子種って!!」
「成る程、避妊器具はしっかりつけましょう、と。流石は我が主」
「意味違うし褒められても嬉しくねえ!?」
 ……まあ、頼りになるんだから仕方ないって言ったら仕方ない。頑張るぞ俺。
「しかし、俺達最前線ってことは、あの華能生とかいう奴にぶつかる可能性高いのかな? 敵の主力みたいだし」
 思い出してもインパクト絶大な奴だった。あれは一度会ったら忘れられない。
「読めないよねー、正直。チーム名に使われてる位だから注意なんだろうけどさ」
「まあ、チーム名になっている、という所は小日向と同じなんだがな」
「いやあ琴理さん、正直あれと俺一緒にされても困るんですが」

『フハハハハ!! 私はハーレムキングを目指す者なり!! よいではないかよいではないか!!』

「案外合ってるぞ」
「いやあクライスさん、その想像もどうかと思いますがね俺は!!」
 結局ハーレムキング目指してるし。明らかに江戸時代のエロい殿様だし最後。違うから。――そんな会話を挟みつつ、試合開始。俺達は周囲に気を配りつつ、前進する。
「フフフフッ、よくぞここまでたどり着いたわね、諸君!」
 すると、少し進んだ所でそんな高らかな女性の声が。――俺達は足を止め、直ぐに臨戦態勢へ。
「私の名前は華能生空! 華能生家長女にして聖・華能生魔道士軍特別枠! さあ、何処からでもかかってらっしゃ――」
「小日向、姫瑠、C!」
「おう!」「うん!」
 琴理のその一言で、俺達は散開、攻撃開始。練習の甲斐あってか、琴理の言葉に何の躊躇いもなく反応出来た。フォーメーションという意味合いでは完璧だ。
「って、三人? え? あ、ちょっ……きゃあああ!!」
 ズババババァン!!
「くっ! 突然襲ってくるとは卑怯な手を!!」
 ……えー。
「でも、私は負けないわ! 華能生の女は、この程度に屈する女じゃないの! 今に、今にきっと助けが――」
「面倒臭え、そのまま死んじまえ、一回」
「元ちゃん、冷たい〜〜!!」
 まあ、その、何だ。……敵は二人だった。
「俺達、悪?」
「おい、負けるな小日向」
「私、その悪の妻?」
「ややこしくなるから黙らっしゃい姫瑠さん」
 お互いそんな会話を挟みつつ、あらためて対峙。――華能生って名乗ってたな。特別枠ってことは、あいつのお姉さんか。
「ったく、あんたが俺より弱かったら絶対に使わねえのにな……」
「元ちゃん、どうする? フォーメーションはそこそこ、能力もあの女の子二人は危ないレベルだよ、相手」
「本気出せって言っただろうが。「あれ」使え」
「いいの?」
「決勝戦だと思えって言っただろうが」
「オッケー、それじゃ遠慮なく」
 スッ、と空気が変わるのがわかった。砕けてはいたが、あの二人、特に華能生姉の方はかなり強い気がする。
「ふーっ……」
 華能生姉が大きく息を吹いた――次の瞬間。
「っ! 三人共、横へ跳べ!」
「!?」
 クライスが叫んだ。言われるがままに、俺達は左右に精一杯のジャンプ。
「はああああっ!!」
 ズザザザザァッ!!――クライスが叫ぶのと、華能生姉が気合を入れたのが同時。そしてその直後――俺達が立っていた辺りを激しい衝撃波が通り過ぎる。
「ビッツ・キャッチャー」
 体制を立て直す暇もなく、避けた先に、もう一人の元、と呼ばれていた男子の攻撃魔法。
「ディ・アムレスト!!」
 それに俺が何とかレジストを展開し、
「サンズ・ニア・プレイル・レイニア!」
「ベルス・イラ・ユーキ・アルクェスト!」
 姫瑠、琴理がそれぞれに牽制攻撃。――ギリギリセーフといった所か。……というか、
「何、最初の……まったく波動が見えなかった……?」
 姫瑠の疑問は、俺達三人の疑問だった。――最初の華能生姉の気合の攻撃。明らかに普通の魔法攻撃じゃなかった。そう、魔法波動が見えなかったのだ。細かいことを言えば、魔法陣も見ていない。
「それが、華能生の力。――華能生の家はね、そもそもは武道の家だったの。気功を用いたね。気功ってさ、普通見えないでしょ? 中国の凄い人のとかさ。その気功を体内で魔法で増幅。魔法を使ってるのは体内だけだから、表に出すのは気功だけ。――つまり、あの衝撃波も気功だから、魔法みたいに波動になって見えたりはしないわけ。敵チームにはばれないように今まで封印してたんだけど」
「テメエらには使わないと勝ち目はねえ、ってことだ」
 対応出来るかどうかはわからないが、言いたいことはわかった。――家柄の力か。
「雄真、姫瑠、琴理。あの華能生空の動きを注意して見ているんだ」
「クライス?」
「確かにあの気功はやっかいだ。だが先ほどのように一定以上の威力で放出するには、恐らく最初に見せた気合を入れたりといった動作をしないと放てまい。気功ならな」
「つまり、動きを注視していれば、放つタイミングがある程度はわかる?」
「原理としてはな。無論それだけに集中していると他の攻撃であっさりとやられてしまうレベルだがな、相手は」
 原理はわかる。これが一対一ならいいが……中々厳しそうだ。
「私達も、三人いる、ってことを上手く利用するしかないね」
 姫瑠の言葉。――そうだな、その為にフォーメーションを色々練習してきたんだ。それを使わない手はない。
 それぞれ改めて身構えて、交戦開始。
「サンズ・ニア・プレイジャム・アウト!」
 バァン、バァン、ズバァン!!
「く……そったれが……っ!!」
 俺が姫瑠のフォローに入り、姫瑠と元という男子の一対一のような形を作り上げる。流石は姫瑠、一対一なら実力は上らしく、相手を徐々に追い詰めていく。
「元ちゃん!――はああああっ!!」
 直後、華能生姉の気合。
「来るぞっ!」
 その華能生姉に牽制をしていた琴理がいち早く反応、そう叫ぶ。――バン!
「……え?」
「あら、気功で出来る技が衝撃波だけだなんて、いつ言ったかしら?」
 が、気付けば華能生姉は、俺達のすぐ目の前に――って移動術か! そうか、気功を足に溜めて……!!
「いっけーっ!」
 バァン、という大きな衝撃波。俺達のフォーメーションは崩れ、三人バラバラに。
「まずは一人、貰ったわよ!」
 そのまま華能生姉はターゲットを一人に絞り、更に移動。狙われたのは、
「琴理っ!」
 琴理だった。――まずい、この位置、体制からじゃフォローも出来ない!!
「っ……!」
 琴理に接近する華能生姉。――だがここからは、予想外の展開になる。
「……え?」
 琴理、愛用の拳銃式マジックワンドを真上に放り投げると、
「ちょっ……ええ!?」
「ふっ!!」
 接近してくる華能生姉に対し、自らも接近。懐に入り込み、襟を掴んで――背負い投げ。華能生姉も武術の家だからか綺麗な受け身を取ったが、つい一本、と言ってしまいたくなるような光景。
「ベルス・イラ・ユーキ・アルクェスト!」
 更に琴理、そのまま空中から落ちてきた自分のワンドをキャッチ、牽制魔法。
「っ……!!」
 距離を測り、完全に体制を立て直した。その隙に俺達も体制を立て直す。
「琴理、大丈夫か?」
「ああ、私は。一歩間違えたらアウトだったけどな」
「危なかったよね……でも格好よかったよ、琴理!」
 確かに、凄い光景だった。――間一髪。
「凄い……凄いじゃない、あなた! 柔術の心得があるのね!」
 それは相手側も同じなようで、華能生姉が目をキラキラさせていた。
「ね、ね、お名前、聞いていいかしら?」
「? 葉汐琴理」
「葉汐さん、今度ウチの道場来ない? あなた、才能あるわ! 色々あなたの技を見てみた――痛っ!」
「何敵のテクニックに喜んでんだボケ。仕留められなかったことを反省しやがれ」
「わかってるわよ、元ちゃん! 同じミスはもうしないって」
 パン、と拳と掌を合わせ、気合を入れなおす華能生姉。――見ていて思うのは、
(あの人……まだ、余裕がある……)
 こっちは間一髪だった。何か一つタイミングを間違えれば琴理がアウトだったし、この状況下琴理がアウトになったら俺と姫瑠では勝てない。だが相手のあの様子、まだ戦いを楽しむ余裕が見える。
 今まで戦ってきた学園の中で、一番の強者。そしてこの華能生空さんが、相手チームで多分一番強い。――認めざるを得ない、事実だった。
「姫瑠、琴理。――ここ、正念場だ。絶対に勝つぞ」
 逆に言えば、ここで俺達がこの二人に勝てれば、この試合、勝機が見えてくる。そんな気がしたので、声をかけ、改めて気合を入れ直す。
「雄真くん。――そうだね、ここが見せ場だね、私達の!」
「ここを乗り切れば、後はどうにかなる。――やろう」
 姫瑠も琴理も汲み取ってくれた。……が、
「おいテメエら、何か勘違いしてねえか?」
「勘違い……?」
「言っておくが、俺達の中で一番強いのは、コイツじゃねえぞ」
 ……え?
「元ちゃん、名前で呼んでよ〜! 空お姉さんって呼んで〜!」
「一生呼ばねえ」
 まさか。特別枠だし、ここまで強い人なのに……この人が一番じゃ、ない?
「ハッタリのつもりか?」
「そんなんじゃねえよ。事実だ。隠しておきたくても何処かしらでコイツが喋っちまうだろうしな」
 嘘を言っているようには……見えない。……まさか。
「じゃあ、誰なんだ? 華能生の……弟の方?」
「それも違う。あいつも華能生の血は引いてるから強えは強えがな。俺達ん中で一番強いのは――その華能生弟の、従者だ」
「え……?」


「雷神の太刀ィィィィ!!」
 ズババババァン!!
「ぐっ……!!」
 こちら、小雪、信哉、沙耶組と華能生尊氏、千縞青芭組。雄真達と同じく三対二、そして尊氏が華能生の力を解放、というパターンまでは同じだったのだが、
「何ということだ……わずか数回で私の気功を読み切るとはな……」
「その気功、確かに素晴らしいものだ。恐らくは相当の鍛錬を積んで会得したものだろう、見ればわかる。――日々の鍛錬を欠かさぬ俺ならば、見ればわかるのだ。波動など見えずとも、心の目で見抜けばよいだけのこと」
 そう、既に何処か似たような力を会得していそうな(!)信哉によって尊氏の気功は見破られ、徐々に信哉が尊氏を追い詰める形になりつつあった。尊氏は気功は無論、実力も空には一歩及ばないという点もある。更に尊氏の性格から、気功に頼り気味になる、というのも今の信哉を相手にしていてはマイナスにしかならない。
 そして、一方の青芭を小雪、沙耶の二人掛りで抑え込む。慌てず、信哉が尊氏を制すのを待つ形なので青芭も負けはしていなかったが、まったく自由には動けない状態が続いていた。
 ズバァン!――衝突音と共に青芭が小雪、沙耶と間合いを開け、尊氏の隣に。
「尊氏様」
「青芭か。無事か?」
「今のところは。ですが、時間の問題かもしれません」
「そうか。これが瑞穂坂の力ということか」
 ふーっ、と大きく息を吹き、尊氏が体制を立て直す。
「……本気を、出します」
「……青芭?」
「その報告に来ました。――勝つには、私が本気を出すしかありませんから」
「しかし……よいのか?」
「仰ってたでしょう、優勝したいと。――主の願いを叶えるのは、従者の役目。山本さんには自分の好きな時に使え、と言われているので、その辺りも問題ありません」
「そうか。――わかった」
 数歩、青芭が前に出る。――直後、
「!?」
「な……!?」
「っ……!?」
 ズドォン、という勢いで、信じられない程の気迫が辺りを走る。伊吹、鈴莉クラスか……もしかしたら、それ以上かもしれないと思う程の。
「――悪く思わないで下さい」
 試合は、更に過酷さを増していく――


<次回予告>

「あなたは……その紋章は、神道の……!?」
「成る程。地方が離れていても、あなた位になるとやはり把握しているんですね、高峰小雪さん」

最強の敵、現る――!?
敵チーム、一番の強者は華能生ではなく、その従者、千縞青芭。

「その独特な防壁魔法は見事ですが……そのレベルの魔法が何度も通じる程、神道は甘くはない」
「!?」

彼女の持つ「神道」の力。
果たしてその圧倒的な力の前に、小雪達はどうするのか?

「従者って……」
「ああ。君の才能を買って、尊氏の右腕となって頑張って欲しい」
「……正気ですか?」

そして――「神道」の名とは、一体何なのか。
彼女の隠された過去とは――

次回、「ハチと小日向雄真魔術師団」
SCENE 38 「プライド」

「あの子は……どんな気持ちで、あそこに立ってるのかな」
「舞依……?」


お楽しみに。



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