「本当は、こんなことを話して、不安を煽りたくはなかったけれど」
 昼休み。――その日の朝、母さん……御薙先生に話があるから、昼休みに研究室に来て欲しい、と頼まれ、言われるがままに足を運ぶと、そんな風に話を切り出された。
 正直、俺は緊張しているし、嫌な予感もしていた。――研究室にいたのは母さんだけじゃなく、成梓先生に、聖さんまで。――いくらOGとはいえ、学園で働いているわけではない聖さんが昼休みにわざわざ母さんの研究室にいるというのはおかしい。余程のことだ。
「でもやっぱり、雄真くんには知っていて欲しかったし、知った上での行動を、取って欲しかったの。――落ち着いて、聞いてくれるかしら」
「……はい」
 母さんの口調は穏やかなままだったが、それでも俺を緊張が襲う。――そして。
「……え……?」
 その母さんの話の内容は、俺のまた斜め上を行くものだった。
「柚賀さんが……殺される……?」
 話の具体的内容は、柚賀さんに昨日降りかかった、発覚した事件。
 やる気と元気を取り戻し、魔力の暴走のコントロールの練習をしようとした柚賀さん。
 それに付き合った相沢さん、杏璃、姫瑠、琴理。
 いざ――という所で、姿を見せたのは、以前行った魔法関連の小物のお店「Rainbow Color」の隣で魔法具修繕の店を経営している松永さん。
 松永さんは、柚賀さんの黒い魔力に関して何かを知っている。
 それを知った上で、自分の目的は柚賀さんの殺害だと公言。
 結果、柚賀さんを守ろうとした相沢さん達四人と戦闘。――四人は、苦戦を強いられ、撤退。
 撤退中、最初から合流予定があった雫ちゃん、そして聖さんと遭遇。事情を飲み込んだ聖さんは自分が囮となり、六人を逃がす。
 そして、囮となった聖さんと松永さんの戦闘。
 結果、決定打こそ打たれなかったものの……聖さんが、ほぼ負けた。話によると、聖さんの学生当時の友人、仲間が救援に駆けつけたようだ。
 そこで昨日は松永さんが帰ったので一旦終了。
「――あのまま続けてたら、美由紀とさつきが来てくれなかったら、私も今ここに立っていなかったかもしれません」
 聖さんは冷静に、少しだけ悔しさを滲ませながらそう言った。
「――茜ちゃん、その後、彼の様子は」
「店に普通に戻っているようです。特に姿を隠す様子もこちらを警戒する様子もまったく見られません。……逆に、不気味ですね。余程の自信があるのか、覚悟があるのか」
「多分、後者だと思います。何かを悟ったような、そういう目をした人でしたから」
 冷静に話し合う三人に対し、俺は話を聞くだけになる。――頭がついてこない。情報を整理するだけで精一杯なのだ。
 柚賀さんの殺害が目的とか言われても……現実味が、湧かない。
「雄真くん」
「――あ、はい、その」
 その母さんの呼びかけで、色々考え込んでいた意識が正面に戻りハッとする。
「ごめんなさい、どうしていいかわからないでしょう? あなたをここへ呼んだのは、一緒になって対策を練って欲しいから、ではないの。対策はこちらで練る。その辺りの心配は、しないでいいわ」
「それじゃ――」
「どうしても、その対策に時間を要する可能性もあるわ。そのまま次の試合の日になってしまう可能性は否定出来ない。今回、何人か直接事件に関わっている。そういう子達の指揮の低下、更にその低下の伝染を、防いで欲しいの」
「あ……」
 成る程。――俺が呼ばれた理由が、わかった。今回、相沢さん、杏璃、姫瑠、琴理、雫ちゃんが小日向雄真魔術師団のメンバーとして事件に関わってしまっている。単身不安になるな、というのは無理な話であろう。
「わかりました。――精一杯やってみます、応援団長として」
「お願いね。――雄真くんがいてくれて、良かったわ」
「ははっ、大げさですよ。……それじゃ、失礼します」
「ええ」
 母さんの笑顔に見送られ、俺は研究室を後にした。――頑張ろう。応援団長だしな。
 

「ふーっ」
 バタン、と雄真が研究室から去って直ぐ、困ったような顔で鈴莉はため息をつく。
「これでしばらくの間、指揮の低下は防げそうだけど」
「怖いのは、その誤魔化しすら効かなくなる程、時間が経過してしまった場合……ですか」
「話を聞く限り、ただ彼をどうにかすればいいだけの話じゃないのよね? B組の柚賀さんの症状も解決させなければならない。そして短期間でそれを解決させるのは、その柚賀さんの力に関して把握している彼の力が恐らくは必要。――単純に潰せば終わる話じゃないんだもの。ため息も出ちゃうわ」
「ですね……聖ちゃん、しばらくの間、協力してもらえる?」
「それは勿論、私もここで引き下がるわけには。戦力として数えて下さい。――ただ私も、気になることが」
「彼が言っていた……「五番目」のことかしら」
「嘘やはったりで言っているようには見えませんでしたし、何より嘘やはったりで出てくるような言葉じゃないと思います」
 この件だけは、雄真達の耳に触れさせるわけにはいかない、という意思は三人とも言葉なくとも同じなようで、厳しい面持ちになる。
「――行動あるのみ、かもしれませんね」
「聖ちゃん?」
「こういう時、蒼也だったら、多少は考えるでしょうけど、考えが及ばなかったら、きっと及ばないまま、動くと思います。足りない分は、気持ちで何とかする、とか言いながら。ずっとそうやって、私達色々解決してきましたから。……ですよね、茜さん?」
 その問い掛けに、茜は笑う。
「そうね。私と冬子ちゃんはいつだって頭を悩ませる側だったけど、結局着いて行くしかなかったものね。聖ちゃんは一見中立なようでいつでもあいつの味方だったし」
「そういう立場ですから」
 その茜の反論に、聖も笑う。
「そうね、蒼也くんや……雄真くんを、見習わないとね。――もう歳かしらね、頭でばかりああだこうだ考えちゃうのは。あー嫌だわ、歳取るって」
「それじゃ、これ以上老いを防ぐ為に」
「……否定はしてくれないのね、茜ちゃん」
 そのやり取りに、三人とも今度は笑う。
「小日向くん達、新しい世代に主権は移っていますけど、私達が黙っている必要もありませんよね。出来ることから、やっていきましょう、茜さん、先生」
「ええ、お願いね二人共。――私も、それじゃ十歳は若返ろうかしら」
 やばい、本気で気にしてるこの人。――茜はこれ以上、年齢ネタのジョークは控えようと思った。自分の立場というものもある。
 こうして、力強い足取りで、茜と聖は鈴莉の研究室を後にするのだった。 



ハチと小日向雄真魔術師団
SCENE 36  「託された想い」



 その日の小日向雄真魔術師団の練習は、ミーティングから開始とのことで、メンバー全員が多目的教室に集まっていた。……のだが。
「…………」
 空気が重い。――ここ数日間で、色々あり過ぎた。ついこの前までの集まったら明るくなる雰囲気が嘘のようだ。色々を体験してしまった人は当然未解決なので何処か暗いし、体験していなくて理由がわからない人も、この空気に押され気味だ。
(母さん達が、頼んできたの、わかるなこれ)
 このままこれが悪化してしまっては、本当にまずいことになる。瀬戸際だ。……何とかせねば。
「……でもなあ」
 具体的にどうしたらいいだろう。――つい俺もふーむ、と考えこんでしまい、全然空気が軽くならない。
「とりあえず成梓茜が来るまで教卓で踊っておく、というのはどうだ?」
「いやそれ空気が悪くない状態でやっても悪くなるだろ多分」
「安心しろ雄真、お盆の使用は許可する。両手でな」
「ちょっと待てお前それ俺裸になってるよな!? 何処が安心なんだよ!?」
 とりあえず俺連行されるから。……とまあ、クライスとのやり取りも俺だけがツッコミでヒートアップするだけでどうにもならない。
「あのなあクライス、俺も真面目に考えてだな」
「やれることをやるだけ。――違うか?」
「……え?」
 声のトーンが微妙に違う。……真面目な話を、する時の声だ。
「お前一人がやれることなど、言ってしまえばたかが知れている。限界がある。でも選択肢はあるだろう? お前が少しでもためになる、と思ったことを一つ一つやっていけばいいじゃないか。悩む暇があったら何でもいい、行動に移せ。――お前なら、結果は後からついてくるさ。仲間を想える、お前ならな」
「クライス……そうだな」
 頭でああだこうだ考えても仕方ない。俺に出来ること、一つ一つこなしていこう。仲間の為に。
「はい、皆集まってるわね」
 と、そこで監督の成梓先生が到着。教壇に立つ。
「さて今日練習前に集まって貰ったのは、次の第六回戦について、いくつか報告しなければいけないことがあるから。――まず第六回戦、事情により瑞波さん、柚賀さんが欠場します」
 二人とも、日曜日の騒動の怪我のことを考えて、大事を取ってだ。――柚賀さんに至っては恐らく昨日のことでショックを引きずっている、というのもあるだろう。
「柚賀さんは一般選手だからフォローが普通に出来るけど、瑞波さんは特別枠、ここにいる皆の中から……というわけにはいかない。なので、次回戦のみ「彼女」に特別枠をお願いしようと思います。――どうぞ、入って」
「失礼します」
 聞き覚えのある、柔らかい声。――直後、教室に姿を見せたのは。
「あ……」
 魔法服姿の、小雪さんだった。そのまま成梓先生の横に並ぶ。
「皆、多分知っているとは思うけど、一応紹介。理事長の秘書の、高峰小雪さん。Oasisの占いでも御馴染みかな。第六回戦は、彼女に特別枠をお願いすることにしました」
「皆さん、宜しくお願いしますね」
 穏やかな笑みのまま、小雪さんは全員に向かってお辞儀。
「楓奈さんの状態は、今回大事を取って、程度ですので、次回戦には問題なく復帰出来ると思います。ですので、私の役目は次の第六回戦において、皆さんを勝利させ、次に繋げること」
 成梓先生はそのまま教壇の中央を小雪さんに譲ると、小雪さんはそう切り出す。
「私は応援席において皆さんの試合は観戦してきてある程度のことは把握していますが、それでも皆さんと一緒に練習してきたわけじゃなく、試合に出場をしてきたわけではない。コミュニケーション不足、という点は否めません」
 確かにそうだろう。応援には毎回来ていたが、練習に顔を出していたわけでもないしな。
「ですので、次の第六回戦、成梓先生との相談の結果、あえて「私が戦い易いように」ポジションをセッティングさせて頂くことにしました。不満も出るかとは思いますが、必ず勝利させ、次の試合に繋げます。駄目だった場合、それ相応の責任を取るつもりでいます。ですので、次の試合のみ、これから発表するポジションでお願いします」
 穏やかな表情のまま語るが、小雪さんからは覚悟が伝わってきていた。他のメンバーにも伝わっているようで、この時点で反論をしてくる人はいない。
「それでは発表してきますね。まず最前線は、ツートップ」
 小雪さんはペンを持ち、ホワイトボードに書き込む準備をする。
「一組目。――私、高峰小雪、上条信哉さん、上条沙耶さん」
「はっ」
「はい」
 返事をする信哉、上条さん。――って、小雪さんと三人組……!?
「……成る程、そう来たか」
 クライスの呟き。流石の俺でも意味はわかる。――確かに一つのブロックに初期配置で三人まで可能だが、人数を固めると他のバランスが悪くなってしまう可能性がある為、今までウチのチームはやってこなかった。個々のレベルが高かったから、というのもあるだろう。
 それをあえてやる小雪さんの策略。その最前線に自分を置き、残り二人を自分がよく能力を把握している信哉、上条さんに。――出来る限り、自分が戦ってどうにかするつもりなのだ。小雪さんは予定ではこの一試合のみ。どれだけ実力がばれても構わないから。
(必ず勝利させ、次の試合に繋げる……か)
 小雪さんの熱い想いが改めて伝わり、こちらの気持ちも高ぶってくる。――が、ここから先は更に俺の予想外の展開が待ち受けていた。
「ツートップ、二組目。――真沢姫瑠さん、葉汐琴理さん」
「はい」
「はい」
 名前を呼ばれ、続けて返事をする二人。
「そして――小日向雄真さん」
「はい」
 更に続けて、返事をする俺。ホワイトボードには、三人の名前が並んで書かれ――
「――って小雪さん!? 俺!? 俺そこなんですか!? というか試合に出る!?」
「はい。柚賀さんの枠で、雄真さんには出場して貰おうかと。一緒のブロックではなく、初めての共同作業が出来ないのはとても寂しいですが」
「いやいや後半の理由ともかく俺試合に出て最前線って! もっと他に適任者が」
 確かに第四回戦で最前線で出たが、あれは杏璃と琴理のことがあったからだし、第五回戦で試合に出たのはハプニングがあったからだ。
「――雄真さんの試合は、出場している第四回戦、第五回戦、両方見させて頂きました」
 でも小雪さんは止めることなく、理由の説明に入る。
「葉汐さん、梨巳さんとのコンビネーション、見事だったと思います。特に第四回戦向けへの葉汐さんとの練習は、体にまだ残っているはずです。その適応力の高さ、独特の魔法、最前線で今回使いたいんです。更に葉汐さんとのツーマンセルに一人加えるとしたら、相性、実力、踏まえた上で真沢さんが適任」
「…………」
 真面目な説明に、俺は一瞬言葉を失う。――小雪さんが、俺の実力を認めている。
「雄真さん。――お願い、出来ますか?」
 そこまで言われて断る程、俺は駄目な男じゃない。――覚悟が出来る。
「はい。――精一杯、やります」
 俺に出来ることを、精一杯やろう。クライスにも言われたしな。
「あ……」
 そこで、姫瑠と琴理、二人と目が合う。――二人は俺を見ると、力強く頷いた。
(二人共……)
 普段の姫瑠辺りだったら、俺と組む、ということで大はしゃぎしていたかもしれない。でも姫瑠は今のこの空気で、そんなことをする奴じゃない。友達想い仲間想いの姫瑠は、俺と組む云々より、チームの勝利のことを考えている。そういう目をしていた。そういう奴だ。それは無論、琴理も同じだろう。……だって、俺の仲間だしな。
「トップ下に、法條院深羽さん、粂藍沙さん、月邑雫さん」
 続いてツートップより少しだけ下がった所、センターに一年生主力。またしても三人。
「右サイド、神坂春姫さん、柊杏璃さん」
 中央右サイドに、それぞれ信哉、上条さんと元々組んでいた二人が。この二人は練習なしでもコンビネーション率が高いから問題ないだろう。
「左サイド、梨巳可菜美さん、武ノ塚敏さん」
 中央左サイドに、ここに来てやっと既存のペア、梨巳さん武ノ塚ペア。
「……にしても」
 物凄い攻撃型のポジション配置だ。最前線、次点が一ブロックに三人、中央両サイドも主力。――この五ブロックだけで、主力は使い切ってしまっている。
 小雪さんのポジション説明は続くが、後方になれば成る程人はまばらになっていく。最前線を抜かれたら、完全にアウトの陣形だ。最前線のメンバーがどれだけ敵を抜かれずに、そして人数の多さを利用してどれだけ早く敵の総大将を倒すか、という速攻型のフォーメーションだ。
「最後に、総大将の護衛に、土倉恰来さん、相沢友香さん」
 小雪さんは、ハチの護衛に今回土倉と相沢さんを選んだ。一見最後の要にここだけ主力を残したようにも見えるが……
(多分……小雪さん、見抜いてるな)
 もしくは成梓先生からの説明があったか。――士気が低下気味の現チーム、その中でも飛びぬけて士気が落ちているのが、柚賀さんの親友である相沢さんだった。試合までにどれだけ回復するかわからないが、あの様子を見る限り、今までの試合と同じ動きをしてくれるとは思えない。土倉は問題ないだろうが、土倉は土倉で今他の人と組ませても果たしてどれだけコンビネーションが上手くいくか、という疑問がある。……それを踏まえた上で、あの二人がハチの護衛なのだろう。
「ポジションの説明は以上です。皆さん仰りたいことは多々あると思いますが……私は、皆さんが全力を尽くせば、一試合だけならこのポジションは通用すると思います。無論私も全力を尽くすつもりです。……それでは実際の練習に移りましょう」
 その言葉を封切りに、全員がシミュレーションホールへ移動を開始する。当然俺も移動をするのだが、
「姫瑠、琴理。ちょっと話が」
 その間に、考えていた「俺に出来ること」の提案をする。
「? どしたの雄真くん」
「本当だったら応援団長らしいありきたりな方法でどうにかしようか、と思ってたんだけど、出場選手として正式に練習に参加する以上、二人にも協力して欲しい。俺としては、こっちの方が効果はある気がするんだ」
「どういう……意味だ?」
「全員の士気が微妙に下がり気味なのは、感じてるよな? それを真っ向からどうにかしたいと思ってる」
 俺のその言葉に、二人は数秒間考えた後、納得がいったような顔になる。
「成る程。口で伝えるよりも空気で、ってことか」
「ああ。練習って、そういうもんじゃないかと」
「うん、そういうことなら喜んで協力するよ。っていうか雄真くんの言う通りそもそも練習ってそういうものだしね」


 ということで、シミュレーションホールに到着。まずは各々、そして各ブロックごとのチームでのウォーミングアップから。準備運動をした後、軽い魔法の撃ち合いから開始。
 そして同時に、俺の考えた実にシンプルな作戦、開始。
「行くよー! 雄真くん、琴理!」
「よし小日向、こっちだ!」
「おう!」
 一生懸命声を出して、運動部さながらの雰囲気でウォーミングアップをする俺達。――これこそが俺の考えた作戦。元気良く練習することで、他のグループにも感化させ、士気の向上を計る。シンプルにも程がある位シンプルだが、こういうのは、徐々に伝わっていくものだし、口で頑張ろう、って言うよりも分かり易い。
 今の士気が落ちかけているチームに必要なのは、この元気なんだと、俺は全員になんとかして伝えたかった。だから姫瑠と琴理に協力を依頼し、ウォーミングアップからちょっとわざとらしい位に声を出して、活気付けて貰ったのだ。
「雄真……それに、姫瑠と琴理まで……」
「……杏璃ちゃん?」
「成る程、ね。――春姫、あたし達も負けてられないわよ! 声出して行くわよ!」
「杏璃ちゃん……うん、そうだね。頑張ろう!」
 ほら、言い方は悪いが、単純に感化され易い杏璃辺りは絶対に乗ってくれると思ってたし、
「よーし藍沙っち、雫、私達も声出そう!」
「弾幕薄いですよ! 何やってんのです!」
「藍沙ちゃん、声出すのはいいけどそれ何か違う……」
 二ブロックで声を出し始めれば、深羽ちゃん辺りは絶対に乗ってくると思ったし、更に三ブロックになれば、
「よし可菜美、俺達も声出すか!」
「私に構わず一人で出していいわよ。安心しなさい、私別にテンション落ちてないから」
「……お前なあ」
 ――まあその、梨巳さんには期待してなかったけどさ。ノリノリだったら逆にちょっと心配になるかもしれないし。
 兎にも角にも、俺の声出して行こう作戦は徐々に浸透していき、少しずつではあったが、チームに活気が戻ってくる。全体練習に入り、内容も中盤に差し掛かった頃には、大分雰囲気も元に戻ってきている気がした。
「はい、それじゃ一旦休憩!」
 成梓先生のその一言で、各々が休憩に入る。――何だかんだで、かなり身に入る練習だった。
「よ、流石ね、応援団長件最前線主力くん」
「あ、先生」
 休憩に入ると直ぐに、成梓先生が俺の所へ。
「ああいうの声出して行こう! みたいなのは私達教師が促しても効果が薄くなる可能性があるけど、上手い具合に自然に持っていったわね。シンプルだけど効果的面よ」
「ありがとうございます。――っていうか、あれしか思いつかなかったというか」
「いいのいいの、十分だから。――真沢さん、葉汐さんとのコンビネーションも見てたけど中々良かったわよ。試合までの日数はそんなにないけど、この調子なら期待出来るわ。頑張って」
「はい!」
 成梓先生は俺に軽くウインクをすると、他のチームの所へ。――元気付けるのが本当に上手い人だ。
「雄真くーん、どしたの? そんな所でボーっとしてないで、休憩なんだから座ろう?」
「ん? ああ、そうだな」
 成梓先生の後姿をしばらく見ていたが、姫瑠に促され、俺も木陰で座ることにする。――木の下で、俺を真ん中に左に姫瑠、右に琴理といった感じで座ることに。
「成梓先生、褒めてくれたぜ。俺達、動きいいって」
「ホント?」
「ああ、この調子なら期待出来るってさ」
「そうか。三人一組、というのは未体験だったが、確かにこの調子なら何とかなりそうだ」
 小雪さんの言う通り、俺と琴理はそもそも第四回戦前に練習していたし、立ち位置的に姫瑠から琴理の相性というのは良いに決まってるから、自然とコンビネーションは良くなるだろう、俺達三人は。
「……なんか、不思議」
「うん?」
「ちょっと前の私なら、こうして雄真くんと琴理と毎日一緒に学校行って、こんな風に一緒に魔法の練習して、休憩して一緒に並んで座るなんて思ってもみなかったから」
「姫瑠……」
 自然と、姫瑠が来た時のこと、あの頃の騒動が思い出された。
「そう……だな。私も、こんな風になるなんて、思ってもいなかった」
 琴理もまた、感慨深げに、空を見上げる。――大変だったが、乗り越えられて本当に良かったと思う。あの事件があったからこそ、今の二人がいるのだ。
「雄真くん。雄真くんのおかげで、私今、とっても幸せだよ」
 姫瑠はそう言うと、俺の左肩にコテン、と頭を乗せてくる。
「――っておいお前」
「お願い、少しだけ」
 先ほどよりちょっとだけ近付き、腕を組むように手を取ってくるが……そんな穏やかな顔で頭乗せて、そんな話の流れで乗せられてきたら、振りほどき難いじゃんかよ、もう。
「ほら琴理、琴理も右側、空いてるよ?」
「馬鹿、お前と一緒にするな」
 少しだけ呆れるようにでも笑ってそういう琴理も、頭こそ乗せてこないものの、先ほどよりも密着し、その左手で俺の右手とゆっくりと手を繋ぐ。
「――私達は、どうしても何処か人の温もりに飢えている節があるかもしれない。だから、こうして大切な人の温もりを感じられるだけで、幸せなんだ。姫瑠じゃないが、少しだけ――こうしていて、欲しい」
「琴理……」
 だから、そんなことをそんな穏やかな顔で言われたら――振りほどけ、ないじゃんかよ。
 左に俺の肩に頭を乗せて腕を組んでくる姫瑠、右に肩を寄せ合って手を繋いでいる琴理。――何とも言えない光景だが、でも心地良い時間が、流れている。そして、
「それでは私は、雄真さんのお膝上をお借りするということで」
「はいそこ待ちましょうか特別枠代理」
 ――そして休憩時間も間もなく終わりかという所で、小雪さん乱入。というか速攻で食い止めないとマジで座りそうですよこの人。
「成る程、昼は真沢さんと葉汐さん、夜は私ということで」
「いや時間帯云々の話じゃなくてですね!」
 というか夜なのか。
「クスン……では私も仕方ないのであちらで神坂さんと一緒に並んで嫉妬に狂おいますね」
「そうそう、そうして下さい」
 そして小雪さんは俺達の所から離れ、嫉妬に狂う春姫の横に……
「……あれ?」
 ……嫉妬に狂う、春姫の横に?
「…………」
 左に腕を組んで頭を肩に乗せてくる姫瑠、右に密着して手を繋いでいる琴理。
「…………」
 まあその、それを見て、それをやり続けられて、嫉妬しない春姫じゃないわけで……って、
「ノオオオォォォォ!!」
 ――その日の練習は、その後模擬戦になって、やけに狙われたとかそうでないだとか。……ははっ、いいんだ、もう!


 そんな感じで練習は続き、数日後、第六回戦、本番を迎えた。


<次回予告>

「小日向、姫瑠、C!」
「おう!」「うん!」

迎えるMAGICIAN'S MATCH第六回戦!
姫瑠、琴理とスリーマンセルで出場の雄真、果たして上手くいくのか?

「高溝殿! 高溝八輔殿とやらは何処に!! この華能生尊氏が直々に挨拶に参ったぞ!!」

ここまで来たら敵も只者ではない!?
相手チームもキャラと実力は一級品!

「元ちゃん、名前で呼んでよ〜! 空お姉さんって呼んで〜!」
「一生呼ばねえ」

小日向雄真魔術師団にとって、覚悟の第六回戦!
果たして試合展開は――

次回、「ハチと小日向雄真魔術師団」
SCENE 37 「その気になれば紙より人は薄くなる」

「俺達、悪?」
「おい、負けるな小日向」


お楽しみに。



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