「…………」
「…………」
「…………」
 こちら、MAGICIAN'S MATCH試合会場応援席。無言の三名、順番に伊吹、準、すもも。
「なんや〜、辛気臭いでんなお三方とも〜」
「あの、辛気臭いっていうか……ねえ?」
 タマちゃんの問いかけに、準は苦笑する。……視線の先では。
「小日向雄真魔術師団、ファイトォォォォ!!」
「フレェェェ、フレェェェ、こーひーなーたーぁ!!」
 全身全霊をかけ、小日向雄真魔術師団を応援する――メイドの一小隊が。
「皆さん、あれを見習って、私達も応援しましょう♪」
「お主の神経と一緒にするな、小雪……」
 確かに応援に来ているのだが――その格好にまったく似つかない熱い応援は会場の注目を浴びて浴びて浴びまくっており、三人は恥ずかしさから少々縮こまっていたのである。
 何だあの本格的な応援は。そしてその本格的な応援をしている集団が何故全員メイドなのか。……種を明かせば皆、錫盛美月の同僚なのだが、そんな事情を他の人間がわかるわけもなく、兎に角注目を集めていたのである。
 そもそもの仲間達で縮こまっていないのは小雪と、
「なんだいだらしないね、若いんだからもっと弾けなよ、もっと」
 そ知らぬ顔でビールを飲み続ける香澄、
「フレー! フレー! こーひーなーたー!」
 一緒になって応援をしている舞依の三名。
「確かに、応援の為にわたし達、来てるんですけど……」
 恥かしがるすももを他所に、応援はエスカレート。
「応援歌、斉唱」
「あーあー♪ 我らーのー♪ こひなーたーゆーうーまー♪」
 一体いつの間にか作られた応援歌を全員で歌い上げ、
「続きまして、チアリーディングによる応援」
 応援団風味だったのがいきなりチアリーダー風味にかわり、それはそれで全員が迫真の動きを見せ、
「有志による演奏」
 何処からともなくドラムとキーボードとギターとマイクが運ばれてきてロック風味の応援ソングを一曲。
「マジックショー」
 何故か手品が始まり、
「ドキュメント、これが小日向雄真魔術師団応援団の全てだ!」
 何処からともなくモニターを用意し、何故か小日向雄真魔術師団ではなく応援団のドキュメントが放送され、
「メイド実演、誰でも出来る五分でクッキング」
 料理講座が始まり、
「ダンスタイム・スタート!」
 少々露出が多いセクシーな衣装に着替え、ダンスが始まり、
「フレェェェ、フレェェェ、こーひーなーたーぁ!!」
 そんな衣装のまま、再び応援に戻り。――いつしか会場中の違和感の視線は、惹き付けられた観客の視線へとかわっていた。
「これがね、私達のやり方なのよ」
「あ、錫盛さん」
 と、中心にいた美月がちょっと離れてきて、すももに話しかけてきた。
「私がいる係は法條院の使用人の中でもイベントが大好きなグループでね、何でも徹底的にやらないと気が済まないのよ。フフフ」
 そう言う美月の顔は、実に満足気であった。
「確かに、皆さん楽しそうです。特に錫盛さんが」
「楽しまないと。楽しめる時に楽しんでおかないと損じゃない?――それじゃ、私は戻るから」
 そう笑顔を見せ、すぐにクルリと背中を見せ、美月は中心に戻っていく。――その背中越しの美月の呟きが、すももに届くことはなかった。
「そう。今だけは……今だけは、まだ、楽しんでいても、構わないわよね? まだ、今だけは――」 



ハチと小日向雄真魔術師団
SCENE 22  「変わらぬ温もりと共に」



「――カルティエ・エル・アダファルス・ラズム!」
「あまーい! リンプス・ソーイ!」
 バシュッ!――またしても、俺の攻撃魔法は防がれた。
「レベル、高いな……」
「そうだな。今のお前では闇雲に攻撃した所で魔力の無駄遣いだろう」
 気付けばそれぞれが一対一での戦いになっていた。それ即ち、俺も一対一で敵と対峙しなくてはいけないということで。誰かに頼るわけにもいかない状況になる。
 先程、琴理と一緒に戦った相手とは、今の相手はレベルが違う。喋り方こそ何処か抜けていたが、実力は抜けておらず、俺は苦戦していた。……いや俺の実力が単純にまだまだってのがあるんだけどな。琴理辺りだったら全然優勢にもっていけた可能性は否定出来ない。
「仕方ない。「あれ」試してみるか」
「まあ、普通の力のぶつけ合いじゃ厳しいからな。やってみて損はないだろう」
 俺はクライスを左手に持ち変える。――やっぱり、「あれ」は利き腕の方がやり易い。
「うーん、君と戦ってるとそんなに疲れないから、楽でいいんだけどねー、一応頑張らないと流石にみんなに迷惑だから、本気出して倒すからねー、いくよー!」
 相手が集中し、魔力を溜め始める。俺はそれを何もせずに、様子を伺う。――タイミングを、計る。
「んふふー、もしかして観念したのかなー? いくぞー!」
(……今だ!)
 相手が詠唱を終え、今正に魔法を射出するかしないか、という所で――
「……って、はい!? ちょ、気でも狂ったー!?」
 ――俺は、相手に、相手が放った攻撃魔法に向かい、ダッシュを開始。まあ相手からしたら俺が気が狂ったと思われても仕方ないだろう。自ら敵の攻撃に突っ込んで行っているのだから。
 勿論――俺が、気が狂ったわけじゃない。
「ディ・アムレスト!」
 敵の攻撃魔法に衝突寸前、前方にレジストを展開。
「エル・チャイル・ディ・カルテ!」
 全神経をそのレジストに集中し、詠唱。同時に突き出すように右手を前に。――直後、展開させたレジストが収縮され、俺の右腕を包む。
「うおおおおおっ!!」
 レジストを纏った右腕で、敵の攻撃魔法にパンチ。一瞬、俺の右手に衝撃を与え――相手の攻撃魔法は俺のレジストと共に消える。
「な――っ」
 一連の行動中、移動を止めたわけじゃない。なので、呆気に取られている敵の死角、近距離へ一気にダッシュ。
「カルティエ・エル・カーズ・チャイル!」
 そこで再び全力を込め、攻撃魔法を放つ。
「ちょ、待っ、ひゃあああ!!」
 ズバァァン、という爆発音と共に、相手が後退する。――ダメージは与えられた。成功だ。
「な、何今の……? ずるい、ずるくなーい!? 走りながら敵の攻撃をパンチで消すって何ー!?」
「悪い。今のが俺の必殺技その一。この前覚えたてほやほや」
 事実、これに初めて成功したのは琴理との訓練中だ。――結論を言えば、今のは「レジスト・ダイレクトアタック・簡易版」。今の俺ではダイレクトアタック用のレジストのキープなど到底出来ないのだが、一瞬、ほんの一瞬なら作り出せることがわかった。
 無論、ほんの一瞬なので、実際にダイレクトアタックを仕掛けるのは無理。だが圧縮されたレジストは普段のレジストよりも範囲が狭くなる代わりに遥かに防御力が高くなる。それを利用した奇襲だ。移動しながら使うことで、相手の意表をつく。応対が遅れた敵に攻撃が出来る、というわけだ。……実を言えば、成功率はあまり今の俺じゃ高くなかったりはするが。難しいんだよ、一瞬しか作れないから、敵の攻撃に合わせるのが。成功して心の中で大きく息をついているのは余談。
「く……くっそー、同じ手は食わない、食べない、頂かないからねー!」
 一度成功してしまえば、相手に警戒させることが出来る。それ即ち、相手の行動パターンをある程度限定させられるということ。相手は恐らく、一発の威力重視の攻撃は避け、出来る限り間合いを取っておきたいと考えるはず。
 そこで――必殺技その二の出番。時間がかかるので、先程から間髪入れずに開始、発動。
「アルスレイ・スヴェイグ・エル・ディヨンド・ディ・ラティル・アムレスト・レイ!」
 俺が出したレジストと、ぶつかり合う敵のレーザー式攻撃魔法数本。
「――って、ええええええ!?」
 直後、バァン、とう音を立てて、俺のレジストが、敵のレーザーをそのままの威力で跳ね返す。――必殺技その二、徐々に御馴染みになりつつある、カウンターレジストだ。
「っ……ずるーいずるーいずるずるー!! さっきからそんなんばっかじゃーん!」
「まあ、言われても仕方がないけどさ、俺まだまだだから、こういう手を選ばないと勝てないんだよ。他のみんなが頑張ってるのに、俺だけはいそうですか、で簡単に負けるわけにはいかない」
「むー……」
 相手は結構な不満顔だ。――恐らくダメージも結構重なっているはず。あと一歩、決定打を撃てればアウトに出来ると思う。
「わたしだって、負けられないんだからねー!! もう必殺技その一もその二もやらせなーい!!」
 相手の攻撃で戦闘再開。――相手の実力は俺よりも確実に高い。事実警戒されたが最後、簡易版ダイレクトアタックもカウンターレジストもとてもじゃないが今の俺じゃ使えなくなる。
「俺も、なら勝負に出るよ。――必殺技、その三」
「な……ま、まだあるわけー!?」
「ああ。っていうか必殺技その三が、俺が一番得意とする必殺技」
 正確には得意というか、その、何だ。……まあ、いいか。
「く……何にしたって、余計なことは何もさせないやらせないよー!」
 敵の攻撃が激しくなる。確かにこれでは余計な技は使えない。……でも。
「必殺技その三は使うとか撃つとか、そういう類の技じゃない」
「え?」
「必殺技、その三。――仲間を頼る」
 俺はそのまま後ろ歩きで素早く数歩歩く。すると直ぐに背中に人の温もりを感じる。背中が合わさった証拠だ。
「深羽ちゃん、後は宜しく!」
「オッケーですよ! センパイも、レジストお願いしますね!」
「おう!」
 直後、背中を合わせた深羽ちゃんと、ぐるりと同時に百八十度回転し、完全にお互いの立ち位置をチェンジ。
「ディ・アムレスト!」
 直ぐに俺はレジストを展開、先程まで深羽ちゃんが戦っていた相手からの攻撃に備える。
「サージュタス・ミッツ・ナルガ・ドーエ!」
 そして深羽ちゃんが、先程まで俺が戦っていた相手に攻撃魔法を放つ。――相手の攻撃は、明らかに俺の簡易版レジストダイレクトアタック、カウンターレジストを警戒した攻撃。普通の威力重視の攻撃への応対には甘くなる。更に突然のポジションチェンジから来る動揺。迷いのない強力な深羽ちゃんの攻撃。――それら全てが上手い具合に重なれば、
「きゃああああっ!!」
 ズバァァァン!
『アイウォッシュ・フロム・セカンドフロアーズ、三年生・手越千佳さん、アウト。フィールドから退場します』
 見事に、敵の撃破に繋がるのだった。
「よしっ!」
 そのまま俺と深羽ちゃんは残った敵(=そもそも深羽ちゃんが相手にしていた敵)から少し間合いを取り、体制を立て直す。
「センパイ」
「ん?――ああ」
 体制を立て直した所で、横の深羽ちゃんと軽く拳を合わせ、お互いの行動を褒め合う。――今の作戦、細かい打ち合わせをしていたわけじゃなかった。でも、自然と体が動いた。そして深羽ちゃんも動いてくれた。――何より、これが俺が持つ必殺技、「仲間を頼る」なんだ。仲間を信じ、動くこと。それが未だ実力が覚束ない俺が出来る、最大の必殺技だ。
「千佳さんが、やられてしまいましたか……」
 深羽ちゃんが相手をしていた敵が、表情を曇らせる。――これで俺達が断然有利になった。いくら俺が実力不足とは言え、深羽ちゃんと二対一なら、ここも撃破は時間の問題。そしてここを撃破して、更に他の所へ援護に行けば――という手順を踏めば、俺達の勝率は上がる一方だ。
 体制を作り、気合を入れ直し、さて――と思った矢先。
『アイウォッシュ・フロム・セカンドフロアーズ、総大将がアウトになりました。小日向雄真魔術師団の勝利になります。フィールドに残っている選手は、三十秒後にそのまま退出となります。繰り返します、アイウォッシュ・フロム・セカンドフロアーズ、総大将がアウトになりました――』
「あ」
「おっ」
「……ふぅ」
 各々が各々のリアクション。俺達の主力ペアの何処かが、上手い具合に敵総大将を見つけたか。
 小日向雄真魔術師団――第四回戦、勝利。


「藍沙っち!!」
 試合終了し、フィールドから戻ってきて早々、深羽ちゃんが走り出す。向かう先は――
「深羽さん、お疲れ様でした――って、ひゃあ!?」
 アウトになって先に戻ってきていた藍沙ちゃんの所だった。……気になるので俺も小走りで後を追う。
「藍沙っち、大丈夫だった!? 怪我とかしてない!?」
「深羽さん……大丈夫ですよ、アウトになったとはいえ、ちゃんとバリアストーンがあったわけで、そのバリアがなくなったからアウトになっただけですから」
「でもでも、何だか藍沙っち背が縮んだような気がするし、胸もこんなに薄くなかった気がするし!」
「深羽さん……? 流石にそれは私への挑発と受け取っていいんでしょうか……? 確かに私は深羽さんに比べたら背も胸も全然ですけど……」
 大丈夫藍沙ちゃん、伊吹に比べたら――という発言はあらゆる方向から非難を受けそうなので言わないでおいた。
「藍沙っち。――ごめん」
 と、そこで深羽ちゃんが藍沙ちゃんに、真面目な表情になって謝罪をした。
「大丈夫ですよ深羽さん、深羽さんのこの手の冗談は慣れてますから、今更――」
「ううん、そのことじゃなくて――試合中、守ってあげられなくて、ごめん」
「――深羽さん」
「約束したのに。きっと何処かで油断してたんだと思う。私は、藍沙っちを守るだけの力があったのに。……だから、ごめん」
「深羽さん……私は、謝罪なんて」
「藍沙ちゃん」
 どうしようか迷ったが――俺は、間に入ることにした。
「センパイ?」「雄真さん?」
「深羽ちゃんの謝罪、受けてあげられないかな」
「でも、何も謝罪してもらうようなことじゃ……それに、私が弱いのも駄目なんですし……」
「ケジメをつけたい時って、あるよ。この謝罪をいつまでも引っ張るんじゃなくて、ここでキッパリさっぱりして、二人で次のステップに進めばいいんだと思う。深羽ちゃんのことを想うなら、謝罪は受けてあげて」
「雄真さん。――わかりました。……深羽さん」
「うん」
 あらためて、藍沙ちゃんと深羽ちゃんが向き合う。
「藍沙っち。――約束、守れなくて、ごめん」
「はい。――私も、いつも頼ってばかりでごめんなさい。私も深羽さんみたいに強くなる為に頑張ります。一緒に、頑張りましょう」
「うん!」
 満面の笑みで、二人は握手した。――お互い、タイプは全然違うが、硬い友情の絆があることが、あらためてわかる光景だった。
「雄真さんも、ありがとうございました」
「うん。ま、矛盾した発言になるけどそれこそあまり気にしないで。実力不足の俺が出来ることなんてこの位だし」
「何言ってるんですか、アウトになってからモニターで見てましたけど、雄真さんの戦い、凄い格好良かったですよ!」
「あ、本当に?」
 そう言われると嬉しいような恥ずかしいような。
「それに深羽さんとの抱擁シーンも素敵でした! 硬く抱きしめあう二人はまるでドラマのワンシーンを見ているみたいで!」
「ぶっ」
「な……あ、あれモニターに映ってたの!?」
 横の深羽ちゃんもいきなりの発言に思いっきり吹いていた。――何であんなのまでしっかり映すかな!?
「雄真くん、法條院さんとの熱い抱擁シーンって、何なのかな?」
「う」
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。――いやあ、相変わらず素晴らしい反応と威圧感ですな春姫さん。……でも流石に俺もわかってきた。ここで俺がうろたえるから怪しいんだ。何も春姫に知られて困ることをしていたわけじゃない。堂々と説明すればいい。
「いや、違うよ春姫。深羽ちゃん、藍沙ちゃんが先にやられて興奮状態でさ、少し落ち着いてもらいたかったんだ。パニックになってる時、そういうのって安心するだろ? まあ確かに軽率な行動だったとは思うけど。……な、深羽ちゃん」
「え……あ、その、あれは……えっと、何ていうか……ごにょごにょ」
「…………」
 ええええええ!? こっちが駄目なの!? 照れてる、顔真っ赤にして照れてるよ!? 俺の毅然とした態度台無し!?
「大丈夫ですか深羽さん!? 私、ここまで深羽さんが照れてるの、初めて見ました!?」
 援護射撃入ります。
「ち、違うんだって藍沙っち! あの時のセンパイ凄い格好良かったなんて少ししか思ってないし!」
 自爆入りました。
「っ……そうだ、琴理、お前あの時近くにいたよな? お前耳よかっただろ、俺達が何もそんなことをしていたわけじゃないと証言してくれ!」
「あの時は敵の方に集中をしていたから、細かくは聞いてなかったが……確か、惚れただの何だの」
「そんなワンポイントだけ拾ってるんですか琴理さん!?」
 確かに深羽ちゃんがそんなフレーズを言いましたが全然違いますよね全体で聞いたら!?
「雄真くん、言い訳は以上?」
「言い訳っていうかその、だから……待て、春姫――ぎゃあああああ!!」
 春姫の嫉妬アタックに、ノックアウト寸前の俺には――その光景を眺めている二人の会話は、耳に届くことはなかった。
「――随分と穏やかな表情で見てるじゃない、琴理。そういう風に見るもんじゃないんじゃないの?」
「柊か。――私にはまだ新鮮なんでな。お前達にとっては日常茶飯事でも」
「そう」
「私は随分と人生を損してきたんだな。何か一つ代わっていれば、もっと以前から多くの時間をお前達と共有出来たのかもしれない、と思うと」
「後悔したって、何も始まらないわよ。そんな根暗なことじゃ、あたし達と一緒になんてやっていけないわよ?」
「ははっ、そうかもな。――そういえば、勝負は」
「あたしは前線でちょっと戦闘して、直ぐにあそこに戻ってきて時祢とやり合って終わっちゃったわよ」
「お互い似たようなものか。――引き分けか?」
「悔しいけどそうね。……どうせこの先も試合に出るんでしょう? 面倒だから決勝戦までの間にどれだけ活躍したか、でいいんじゃない?」
「成る程な。私もそれでいい」
 そうは言うものの、お互いいがみ合うような表情ではなく、何処かお互いを認め合うような表情の二人が、そこにはいたのだった。
 こうして、中々濃い内容だった、第四回戦が幕を閉じた。


「杏璃」
 さて帰り支度も終わり、試合会場も後に――といった所で、杏璃はその声に呼び止められる。振り返れば――
「時祢、達幸」
 見送るような形で、そこには時祢、達幸の姿が。
「おめでとう。俺達の負けだ」
「言っておくけど、個別の勝敗はついてないからね? チームとしては私達が負けたけど、個人として杏璃には負けてないわ。勝負つける前に終わっちゃったし」
「その言葉、ソックリ返すわよ。あたしだってチームは勝ってもアンタに勝った気も負けた気もしてない」
 そんな強気の発言をするが――緊張の糸が切れたように、二人でふっと笑う。
「楽しかったわ、杏璃。あの頃に戻れたみたいで」
「あたしも」
「それは俺もだな。――久々のような、そうでもないような、不思議な感覚だ。……俺達三人のチームワークはあの頃は最強だと思ってたが、お前はお前でいい仲間、見つけたみたいだな、杏璃」
「まあね。全員個性タップリだけど、チームワークは完璧よ」
「私達も、チームワークは何だかんだでいいはずなんだけどね」
「勝負は時の運、色々あるさ。――今度会うときはまた味方がいいな。お前と仲良くなれる奴らとじっくり話もしてみたい」
「大丈夫、達幸も時祢も個性タップリだから、直ぐに溶け込めるわ」
「悔しいけど、否定はしないわ」
 あははっ、と三人で笑う。
「杏璃。私達に勝った以上、他のチームに負けるなんて、許さないから」
「ああ、そうだな。――応援してるぜ。優勝しろよ」
「当たり前でしょ。優勝以外なんて考えてないわよ」
 その言葉の後、達幸が手を差し出す。――迷うことなく、二人もそこに手を合わせる。
 それは、あの卒業前、手を合わせたあの日のようで、でも違っていて。
 でもその手から伝わる温もりは、変わっていなくて。
 そしてその手で掴まれた誓いも、あの日のままで。
 言葉なくとも――三人の絆は、あの頃のままで。
 長いようで短い時間が過ぎ、三人は手を離す。
「じゃあね、二人とも! また今度、落ち着いたら」
「ああ、三人で何処か遊びに行くか」
「その時は、優勝の報告だからね、杏璃!」
 途切れることのない友情を胸に――三人は、帰路につくのだった。


<次回予告>

「……チケット?」
「そ。隣町に大きなレジャーランドあるでしょ。
ショッピングモールとか映画館とか色々ある所。そこの室内プールの無料チケット」

無事第四回戦を勝利で収めた雄真達に訪れるとある休息の日。
ひょんなことから手に入るその品は、素敵なイベントへのプロローグ?

「雄真、それを考える前に先に決めなければならんことがあるだろう」
「? 何かあったっけ?」
「お前自身の相手を誰にするか、だ」

気付けばハーレム一直線(?)な我らが応援団長。
果てさて、雄真が選ぶ相手とは一体?

「何か勘違いしてない? いつからあなたと私、そんな間柄になったの?」
「いやだから、一応経緯を聞いてくれ」

そしてそして、そんなイベントの開始は、色々と飛び火を巻き起こす!?

次回、「ハチと小日向雄真魔術師団」
SCENE 23 「あなたとなら、きっと」

「土倉、テメエ、やるのか!?」
「何をだ? 喧嘩か、殺し合いか? 俺は何でも構わない。何人でも相手になってやるよ。
五人でも十人でも百人でも連れて来い。全員、まとめて相手にしてやる」


お楽しみに。



NEXT (Scene 23)

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