「つまんないー♪ つまんないー♪ ハチと一緒じゃつまんないー♪」
 作詞、作曲……真沢姫瑠。――こちら、小日向雄真魔術師団最後方、総大将ハチと、今回護衛についた姫瑠の二人。
「琴理はいいなー、雄真くんと一緒で。雄真くんはいいなー、琴理と一緒で」
 特にその二人が大好きな姫瑠としては、漏れても仕方のない愚痴かもしれない。今回彼女の近くにいるのはハチのみなのだ。
「あの、姫瑠ちゃんさあ、一つ聞いていい?」
「? 何、ハチ、三文字以内ならいいよ」
「無茶言うなあああ!!――琴理ちゃん、あんな風に変わっちゃったけど、今でも仲良くしてるのか?」
「当ったり前だよ。琴理は私の親友だもん。口調変わったって優しい琴理のまんまだもん」
 と、そんな言葉を自分で言ってから姫瑠はふと疑問に思うことが。
「何でさ、ハチって雄真くんと準と親友なの?」
「へ?」
「雄真くんも準もハチのこと良く言っていること聞いたことないんだけど、でも関係を聞くと二人ともハチのこと親友って言うんだよね。何でかなー、って思って」
「ああ……多分、それは」
「やっぱいいや。雄真くんと準に聞くから。ハチに聞くとセクハラされそうだし」
「流石にそこまで変態じゃないやい!」
 微妙に変態だと自覚はしていたハチであった。
「みんな俺の本当の魅力に気付いていないだけなのさ!」
「ハチの本当の魅力かー……まあ、確かに雄真くんが親友って認める位だから、何かあってもおかしくはないかもね」
「そうだそうだ、そうなんだよ姫瑠ちゃん!」
「よーし。……それじゃハチ、何か芸見せて。面白いの」
「何故そんな話に!?」
「ハチの魅力を探してあげるんじゃん。ハチっぽい辺りから探していくから」
「芸……芸……芸……!?」
 ぶっちゃけ芸など何もないハチであった。
「それじゃお題出してあげる。――お題、「しげる」」
「美しい人生よ〜♪ 限りない喜びよ〜♪」
「何それ、歌ってるだけじゃん。まずはペンキで顔を真っ黒にする辺りからやってくれないと面白くない」
「無茶だああ!!」
「じゃ、次のお題。――「ひろし」」
「ハチです。先日、可愛い女の子を見かけたんですが、振られてしまいました」
「面白くない。日常茶飯事じゃんそれ。一日五回は起きてるじゃん」
「んなに起きるかああああ!!」
「第一お題を「ひろし」にしてそこに流れ着く時点でイマイチ。当たり前過ぎるよ」
「じゃあ、どうしたら」
「ちょっと束子持ってて。ダーツでハチのおでこ貫通させるから」
「その「ひろし」!? っていうかダーツで狙う所間違ってるぞそれえええ!!」



ハチと小日向雄真魔術師団
SCENE 21  「負けられない試合、負けられない相手」



「よくよく考えれば、アンタが正攻法で来る確率の方が低いのよね」
 体制を立て直す相手チームを前に、杏璃が口を開く。
「アンタの強みは実力以上にその頭の良さ。絶対に何か仕組んであると見るべき。いつまで経っても敵の主力とぶつからなかったから、裏をかかれたと思って戻ってきたってわけ」
「成る程な。伊達に三年間俺らと一緒に行動とってねえ、か」
「まあ、たとえ貴様と三年間行動を共にしていなくても、少し考えれば違和感から大よその予測はつく。――他の主力メンバーにも伝達するようにしておいた。今頃守備の薄い総大将を探しているはずだ。ここで私達が貴様らを食い止めれば食い止める程、私達の勝率は上がる一方だ」
 と、杏璃に続くのは琴理。直後、話していた敵さんがため息をついた。
「……ったく、ズリーよな。頭のいい人間までしっかり揃ってるのかよ」
「タツユキ、どうするの?」
「もう真正面からやる、しか残ってねえよ、選択肢」
「いいじゃないそれで。真正面から戦って負けるって決まったわけじゃないんだし」
「作戦決まったの? 別に逃げたっていいんだけど、時祢?」
「……誰が逃げるですって? あなた相手に逃げる必要なんて何処にもないわよ、杏璃」
「そう? 魔法実技での勝率、あたしの方が高かったわよね?」
「む……模擬戦での勝率は私の方が高かったわよ」
「ぐ……魔法弾での攻撃力はあたしの方が高かったわ」
「う……魔法弾のバリエーションは私の方が豊富だったじゃない」
「足はあたしの方が早かったわ!」
「何言ってるの、それ短距離だけでしょ!? マラソンは私の方が早かった!」
「走り高跳びはあたしが上よね!」
「幅跳びは私だった!」
「ソフトボールはあたしの方が打率高かった!」
「野球にしたら私の方が打ったじゃない! ●ァミスタも私の方が上手かったし!」
「それゲームでしょ!? そんなんだったら●イニングイレブンはあたしが上手かったわよ!」
「カラオケで先に百点出したの私!」
「ボーリングでストライク多かったのあたし!」
「川で石が跳ねる回数が多かったの私!」
「おみくじで先に大吉出したのあたし!」
「高田(たかだ)さん家のポチ(犬)がなついてたのは私!」
「山崎(やまざき)さん家のタマ(猫)がなついてたのはあたし!」
 …………。
「――時祢さんも、相手の方も、負けず嫌いなんですね」
「達幸くーん、中学の頃二人に挟まれてたんだよね? 二人ともソックリのタイプだよ? 好きだねえ達幸くんも」
「……悔しいが、この光景の前では反論の余地がない」
 …………。
「むぎぎぎぎ……何よ、達幸に告白するって決めた時、顔真っ赤にして半べそで相談に来たくせに!」
「むぐぐぐぐ……そっちだって初めて男子にラブレター貰った時顔真っ赤にして支離滅裂だったじゃない!」
 …………。
「……おい小日向、あれはコントロール出来ないのか?」
「多分無理……」
 杏璃はハチと同じで単純だが、ハチと違って猪突猛進だから一度熱くなると止めるのは難しいっての。
「私も……ここまで走ってきて、やっと柊さんが後退した意味がわかりました」
「ああ、やっぱ説明抜きで走らされたんだ……」
 大変だな、上条さんも。
「セン……パイ……?」
 と、唖然として、状況がつかめていないのは深羽ちゃんだ。
「間に合ってよかったよ、深羽ちゃん。一人でよくここまで」
 そう優しく笑いかけると、徐々に現状を把握し始めたか――表情が、悔しい、といった感じのものに変わっていく。
「雄真センパイ……でも私、藍沙っちを守ってあげられなくて――」
「……藍沙ちゃんがやられたのは、何も」
「違うんですセンパイ! 私、約束したのに、守ってあげるって約束したのに、守ってあげるだけの力があったのに、その為の法條院の力だったのに、なのに油断とか、だから私っ――!」
 深羽ちゃんは少々パニックというか追い詰められているというか、そんな興奮状態だった。どうも藍沙ちゃんがやられたことに責任を感じているらしい。
「私があいつらを倒さないと、何の意味も――」
「深羽ちゃん。――少し、落ち着こう」
「え?――あっ」
 俺はそのまま深羽ちゃんを軽く抱き寄せ、あやすように背中を軽くポンポン、と叩く。――昔から会得している、誰かを宥めたり、落ち着かせる為の方法だ。人の温もりは、否応無しに安心感をもたらしてくれる。俺にそのことを教えてくれた人がいるから、俺もこうして誰かに出来る。
「藍沙ちゃんがやられたのは、君の責任じゃない。君の責任だって言うなら、それは俺達の責任でもある。――俺達、仲間だろ?」
「……センパイ」
「メンバー一人の責任は皆の責任。メンバー一人の喜びは皆の喜び。だから、自分だけが悪いなんて思わないで。――まだ大丈夫。だから、一緒に頑張ろう。一緒に戦おう。……それで、いいかな?」
 少しずつ、俺の腕の中の深羽ちゃんが落ち着いていくのがわかる。ふーっ、と大きく息を吹くと、深羽ちゃんは軽く笑った。
「成る程。――センパイが女たらしになれる理由、わかる気がします」
「へ?」
「私はもうセンパイには彼女がいるって知ってるんで割り切れますけど――センパイにもしも彼女がいなかったら、私間違いなくここでセンパイに惚れてますよ?」
「うん。――それだけの軽口が叩けるならもう大丈夫だ」
「冗談じゃなかったんですけどねー……ま、そういうことにしときましょっか」
 ゆっくりと、深羽ちゃんが俺から離れる。表情はすっかりいつもの元気な彼女だ。
「ありがとうございました雄真センパイ。法條院深羽、復活します!」
「よし! 疲れてるだろうけど、もうひと踏ん張りだ」
「任せて下さい! この程度でバテてたら法條院の女じゃありませんから!」
 深羽ちゃんはあらためてワンドを握り直し、大きく深呼吸をし、気持ちを整えていた。
「……ゼンレイン殿」
「美風か。……どうした?」
「先代に引き続き、素敵な主をお持ちですね」
「まあな。――貴行の主も十分素敵な主だぞ? 自らの友の為にあそこまで感情的になれる人間もそうはいまい。……先代に引き続き、な」
「ええ。自慢の主です」
 深羽ちゃんと軽く目が合う。二人でちょっと恥ずかしそうに笑った。……お互いのワンドで褒めあっているのを耳にしてたらそりゃ恥ずかしいわな。――俺も深羽ちゃんも、クライスと美風の期待を裏切らないように頑張らねばならない。
 気付けば杏璃と矢鞘さんの言い合いも一段落ついたようで、俺達は五対五で対峙していた。五対五。無論授業等でもあまりやらない、未体験ゾーンだ。
 でも……不思議と緊張はなかった。……仲間が、近くに居てくれるからだろうか。
「よし」
 覚悟を決める。五人の真ん中に位置していた俺は、一歩前に出る。向こうの中心になっている達幸と呼ばれている男子も、一歩前に出た。そして、
「いくぞ、みんな!」「いくぞ、お前ら!」
「やってやるわよ!」「ええ、いくわよ!」
「任せておけ」「正念場ね!」
「はい!」「頑張りましょう」
「オッケーですよ、センパイ!」「やーってやるぞー!」
 激しいぶつかり合いが、開始された。


「オン・エルメサス・ルク・ゼオートラス・アルクサス・ディオーラ・ギガントス・イオラ!」
「キルリア・マルケイル・エレ・ビーノ・タイム・ブレイルド・レヴォン!」
 ズバァァァン!!――高レベルの魔法波動が真正面からぶつかり合い、数秒間押し引きをキープした後、相打ちとなって両方とも消える。
「ディ・エスタリアス・アウク・エルートラス・レオラ・ディ・アストゥム!」
「レスト・エレ・タイム・ロッカスト・カーン!」
 ズバァン、ズバァン、ズバァン!――相手が攻撃タイプを変えれば勿論それに合わせ、真正面からの力比べ。――杏璃と時祢の攻防は、正に一進一退の激しさを見せていた。
 時祢は無論、瑞穂坂の生徒ではないので鈴莉や茜の評価はないが、もしもあるとしたら、以下のような評価の魔法使いになる。
 矢鞘時祢(三年)、単独攻撃力A-、範囲攻撃力A-、補助攻撃力B、単身防御力B、補助防御力C+、判断力B、機動力B+。オールマイティの一歩上をいく、アタッカーである。洋弓式のワンドから繰り出される攻撃は威力も射程も広く、かなりの実力であった。
「流石は瑞穂坂学園ってところかしら? 相変わらずの攻撃っぷりね、杏璃!」
「そっちこそ、井波川なんかに行って腕が落ちたかと思ってたけど、やってくれるじゃない!」
 二人はお互いの実力を認める者同士。本気でのいがみ合いなどはなく、いつしか二人の戦いは、MAGICIAN'S MATCHという概念を外れ、再会を懐かしむようなただ純粋なる一戦に変わりつつあった。……レベルがそれで落ちるわけでは無論ないが。
「でも、私は負けないわ。――キルリア・ジャスト・エレ・タイム・イアム!」
「それはあたしの台詞!――エスタリアス・アウク・エルートラス・レオラ!」
 ギュワン、と再びお互いのワンドから放たれる攻撃魔法。一直線にぶつかり合うと思われた、それは……
「パンジャ・アウト!」
「っ!!」
 時祢の追加詠唱により、変化を見せる。時祢の放った魔法弾がその詠唱により変化、杏璃の魔法弾をかわし、杏璃目掛けて飛んでいく。
「うっ……!!」
 予想外の展開に少々応対が遅れ、ダメージを増やす杏璃。一方の時祢はしっかりと杏璃の攻撃をガードしていた。
「本当に猪突猛進よね。良くも悪くも、あの頃のままじゃない」
「……うるさいわね! そこまで言うなら、見せてあげるわよ!」
 バッ、と再び身構える二人。
「レア・フレイメル・オース・セイフェス・ウィミル・エイラス・ディ・フェア・ラ・フォーラスト・フェイム・エフス!」
「キルリア・マルケイル・エレ・ビーノ・タイム・ブレイルド・レヴォン!」
 ほぼ同時に詠唱を開始したにも関わらず、明らかに先に詠唱を終えたのは時祢。つまり、先に魔法を発動させたのは時祢である。
「詠唱に時間かけすぎよ杏璃! これなら――」
「いっけええええーっ!!」
 これが、同じ威力同士の魔法だったら、先に詠唱を終えた時祢の方が断然有利だった。大概の魔法は発動してある程度で威力のピークを迎える。そのピーク前に杏璃の魔法は、既にピークである時祢の魔法と衝突している。理由は無論、詠唱に時間が掛かりすぎたせいだ。……だが。
「嘘……私の方が、押されて――っ!?」
 直後、バァァン、という音に、時祢の攻撃魔法が消える。――杏璃の攻撃魔法に完全に飲み込まれたのだ。
「くっ……!!」
 急いで応対するものの、完全なるガードには間に合わず、今度は時祢がダメージを重ねる。
「そうよ、アンタの言う通り、あたしは猪突猛進。だったら、その道を究めてあげるわよ!」
「っ……どんな攻撃力なのよ、これ……!」
 テクニックでは時祢が上。そして時にその差を埋める攻撃力を醸し出す杏璃。――五分の戦いを、二人は続けていた。
「ったく、凄えな杏璃の奴、あんな攻撃魔法普通俺達の年齢じゃ撃てないっての」
 それを何処か嬉しそうに感じているのは――嘉田達幸である。中学卒業後、時祢とは一緒に過ごしてきたが、こうして杏璃の魔法を近くで感じるのは久々。二人の戦いを近くで感じるのは久々。想い耽ることがあっても仕方が無いかもしれなかった。
「――随分と余裕だな、敵を目の前にして」
「っ!?」
 だが、その隙を見逃さなかったのは――琴理である。
「バースト・アイラ・アルクェスト!」
「チッ……!」
 ズバァン、という衝突音と共に、達幸が後退。――レジストは出したが、一部防ぎきれず、ダメージになってしまう。
「おかしいな、気配は感じてなかったんだが」
「悪いな。そういうトリッキーな戦い方が専門なんでな」
 達幸も気を抜き過ぎていたわけではない。その辺りは琴理の動きの良さを客観的に言えば誉めるべきであろう。
「トリッキーな戦い方、か」
 達幸も杏璃、時祢への意識を捨て、目の前の琴理に集中する。――そもそも、レベルは高い男である。
 嘉田達幸(三年)、単独攻撃力B、範囲攻撃力C+、補助攻撃力A-、単身防御力A-、補助防御力B-、判断力A+、機動力B+。補助攻撃力、単身防御力、そして何より判断力の高さが特徴である。
「私はあいつらのように貴様と話をする必要もないしな。――いくぞ」
 一方の琴理は、既に完全なる臨戦態勢で、その言葉通り、バッ、と動き出す。
 葉汐琴理(三年)、単独攻撃力C+、範囲攻撃力B+、補助攻撃力A-、単身防御力B-、補助防御力C+、判断力A、機動力A+。自分でも言っている通り補助攻撃力、機動力を利用したトリッキーな戦闘に向いている、クセはあるがやはりレベルの高い魔法使いである。
「テムス・ギーナ・アルクェスト・ジ・サナ!」
 琴理がワンドから魔法波動を数発連射。雰囲気からして威力はさほどではないように見えたが、
「――!?」
 動きがまったく掴み取れない不規則な動きに一気に変わる。まるで魚が海を泳ぐかの如く動く魔法波動は、不規則に達幸の周囲を動く。
「バースト・アイラ・アルクェスト!」
「サマール・リバス・ガンマ・ハンマ!」
 直後、琴理が新たに放った威力重視の魔法波動と、達幸が放ったこちらも威力重視の魔法波動が真正面からぶつかり合い、相殺された。
「……っ……!」
 ピクリ、と少しだけ表情を動かす琴理。……その理由は。
「おいおい、甘く見てもらっちゃ困るぜ。――悪いが、俺も比較的トリッキー専門なんでな。この手の攻撃方法は比較的自分でも編み出してるんだよ。……最初のは、全部フェイクだろ?」
 最初に琴理が放った不規則な魔法波動に意識が少しでも向いていれば、威力重視の魔法波動に全力では相殺にこれない。一つに全力を注げば、背後を取られてしまう可能性があるからだ。……だが達幸は今の琴理の攻撃に対し、最後の威力重視の魔法波動の相殺に全力を注いだ。結果、その魔法波動を相殺して終わった。――それはつまり、最初のはただ達幸に注意を散漫させ、応対を遅らせる為のフェイクだ、ということで、それを達幸が見抜いた、ということである。
「俺にフェイクで戦いを挑むのは止めておくんだな。悪いがそれじゃそっちには勝ち目はないぜ」
「…………」
 琴理は無言のまま、達幸に視線をぶつける。
「ベルス・カイン・ハイウィ・ホルロアヌク・イラ・ノラン!」
 直後、琴理は再び数発の魔法波動を連射。今度はまるで何かに操作されているかのように、角ばった動きを達幸の周囲で展開させる。
(違うな。こいつもフェイクだ)
 それに気付いた時、既に琴理の姿が達幸の視界から消えていた。
「成る程、機動力でかく乱か。――だが甘いぜ、どれだけ姿を消しても、最後には気配を出さないと攻撃なんて出来やしないんだからな!」
 挑発するように、達幸が多少大きな声で言う。
「バースト・アイラ・アルクェスト!」
 響く琴理の詠唱、不意に走る気配、現れる魔法波動。
「タイミングは見事だが、コースが甘いぜ!」
 だが達幸の動きが一歩上を行き、必要以上の魔力、体力を使うことなく、回避。――が、
「!?」
 その魔法波動を避けた先の足元に、いきなり魔方陣が描かれる。無論、達幸のではない。
(まさか、コースが甘いのは、ここへ誘導させる為のフェイクか……!)
 更に瞬時に反応し、バッとその魔方陣の上から離れ、同時にキャンセル魔法。構築が甘かったか、その魔方陣はあっさりと消えてしまう。……と言うよりも、
(構築が、甘過ぎる……)
 あまりにも簡単に消えてしまった魔法陣。それはつまり、
「ったく、こいつもフェイクかよ! 面倒臭えな、次が本物か?」
「本物?――そんなもの、「最初から」出しているさ」
 不意に聞こえる琴理の言葉。――気付いた時には、既に後手であった。
(まさか――最初の数発、全部がフェイクじゃないのかよ!?)
 連続でフェイクを仕掛けられ、達幸は更なるフェイクを警戒した。あらたな琴理のアクションに集中してしまった。――それは、一番最初に出された何気ない魔法波動への集中が途切れてしまう程に。
「くっ……!!」
 ズバァン、ズバァン、バァァン!――空中で角ばった動きを見せていた魔法波動の内、半分が一気に達幸を襲う。レジストで応対するものの、一部は応対が遅れ、ダメージとなって重なる。
「さて、どうしたものかな。確か私は先程誰かにトリッキーな戦法では勝ち目がない、と進言された気がするんだが」
「……くくっ……あはははっ! 面白いじゃねえか! お前みたいな自分の戦闘スタイルを不利なのを知ってるのに捨てない奴ってのが一番手強いし、戦ってて楽しいんだよな! 久々だぜ、こんなにやりがいのある相手とぶつかるのは! 負けられねえ、いくぜ!」
 あらためて体制を立て直した達幸と琴理のぶつかり合いが始まる。杏璃・時祢の戦闘とは違い、お互い要所要所でトリッキーな戦法を選び、相手の裏を裏を取ろうとする、頭脳戦も入り混じりつつ、二人は五分の戦いを展開させた。
「しかし、凄えんだな、小日向雄真魔術師団ってのは。杏璃といい、お前といい、レベルが高過ぎだぜ。その小日向雄真って奴はもっと凄いんだろ? 見てみたいぜ」
「? 何を言ってる、既に見ただろう」
「既に見た?――って今あっちで千佳と戦ってる奴がそうか?」
 大っぴらに確認するのは危険だったが、気配で誰と誰が戦っているのかは大よそ把握出来た。
「おい、マジか? あいつここの五人の中で一番ピンと来なかったぜ? 真正面からだったら千佳で普通に勝てるぞ? 何でそんな奴がチーム名なんだよ?」
「実力以上に大切なものがある。実力がなくても中心にいて当たり前の人間が、中心にいるのが相応しい人間がいる。……それだけさ」
「……成る程、な」
 琴理の言葉に、達幸も何となく察したようで、直ぐに疑問顔を消す。
「それに、私を褒めてくれるのはいいが――私はその実力的に冴えない小日向雄真に、一度負けたことがあるんだぞ」
「ほー。……成る程、それじゃ実力的にも油断出来ないな」
 そんな風に話題に挙げられているともいざ知らず、雄真は――


<次回予告>

「レベル、高いな……」
「そうだな。今のお前では闇雲に攻撃した所で魔力の無駄遣いだろう」

雄真、実戦デビューの次は、ソロデビュー!?
相手の主力を前に、やはり苦戦をしてしまう。

「必殺技その三は使うとか撃つとか、そういう類の技じゃない」
「え?」

でも、負けるわけにはいかない雄真。
結果、編み出した「必殺技」とは、一体!?

「――随分と穏やかな表情で見てるじゃない、琴理。そういう風に見るもんじゃないんじゃないの?」

そして濃かった第四回戦も幕を閉じる。
果たして勝敗の行方は? そして、その先にあるものとは――

次回、「ハチと小日向雄真魔術師団」
SCENE 22 「変わらぬ温もりと共に」

「楽しかったわ、杏璃。あの頃に戻れたみたいで」
「あたしも」

――試合の勝ち負けよりも、大切なものがある。
何気なくとも、本当に大切なものが、そこに。


お楽しみに。



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