「藍沙っち! っ……そっ!!」
 名前を呼んでも、既にその相手はフィールドから退場した後。代わりに明後日の方向から現れる、敵二名。――油断していた。今までの試合からして、何処かに余裕を持ってしまっていた。そんな中、今回ポジションが下がった。ここへ来て、仲の良い藍沙と組んだ。そんな一つ一つは細かいものが全て重なり、ほんの些細な隙を生み、奇襲に対応しそこねた。
 藍沙は、自分が守る。――その言葉を裏切った自分自身に、深羽は怒りを覚える。
「悪く思うなよ。俺達だって必死なんだぜ。普通にやったって勝ち目なんてありゃしねえんだ」
 そんな達幸の言葉も、今の深羽の耳には届かない。複雑な感情が、心の中で渦巻く。
「それじゃ達幸くーん、後一人もさっさと倒して、ガンガンいこー」
 が――運が良いのか悪いのか、その言葉は、しっかりと深羽の耳に届く。
「……な」
「? 何か言っ――」
「法條院……舐めるなああああああ!!」
 直後――深羽の中で、何かが弾けた。
「ふぇ?……え、え、ええええええ!?」
「っ、千佳ーっ!!」
「シェリア!!」
「わかってるわ!!」
 信じられない位の短い時間の間に、信じられない位の威力、速度の攻撃魔法が、千佳と呼ばれる相手チームの少女――本名を手越(てごし)千佳という――を襲う。あまりのことに、体が反応出来ない千佳。
 代わりに反応していたのは彼女の仲間達。嘉田達幸はその手を掴み、抱きかかえるように転がり、ギリギリの所でかわす。更に矢鞘時祢、シェリアと呼ばれた少女――こちらは本名をシェリア=マリンといった――がそれぞれ深羽に牽制、深羽の魔法に相殺を試みていた。瞬時のことに相殺こそ無理だったものの、一瞬だけ速度を落とすことには成功し、無事千佳を救出する。
「っと……あっぶねえな、おい」
「た、達幸くーん、ありがと……わ、わかった気がする、わたしや南ちゃんが一人じゃ勝てない相手がいるっての」
「というか俺もこのパターンは予想外だ……」
 会話中にも感じる、ビリビリという威圧感。――無論深羽である。
「あと一人もさっさと倒す? だったら――さっさとなんて、絶対に倒させない。私一人ででも、五人を食い止める」
 伊吹程ではないが、やはり伝統の家系の血筋をもろに受け継いだ深羽。未だ成長段階の彼女は、ふとしたきっかけでその才能を暴走、覚醒させるのである。現状の彼女は、鈴莉と茜が用意した評価などまったく参考にならない状態でもある。
「法條院の名――その胸に、とくと刻みつけてみせる」
 つい先程もほぼ同じ台詞を言ったが――その時とは、段違いの気迫だった。



ハチと小日向雄真魔術師団
SCENE 20  「愛すべき友の為に」



 試合開始後、二、三分位経過しただろうか。――不意に、琴理の足が止まる。
「琴理、どうした?」
「小日向、来るぞ。相手も二人だ」
「――!」
 琴理の指摘から十秒後、敵の姿を確認。視界のいい所だったので相手も俺達を確認、十数メートルの距離をおき、俺達は対峙する。
「焦るなよ。――練習通りにな」
「わかってる」
 これでも何度か修羅場を体験したせいか、一度試合が開始すれば、俺の体から緊張は消えていた。
「行くぞ、琴理!――カルティエ・エル・アダファルス!」
 俺達が編み出した、基本パターンその一。――まず魔法を使うのは俺。基本的な攻撃魔法を俺が撃ち、それを援護に、琴理が機動力のみで相手に接近。
「ベルス・イラ・ユーキ・アルクェスト!」
 相手との距離が少々近付いた所で、琴理が一人に向かって攻撃魔法を放つ。無論その間も足は止めない。――琴理のワンドの特有として、移動しつつでも遜色のない攻撃魔法が撃てる所にあった。それを最大限に利用する。
「っ!!」
 移動しつつ、威力も十分な攻撃魔法に、相手が一瞬怯み、琴理の攻撃魔法に意識が集中する。その隙に、俺も移動を開始。
 更に、相手は琴理の「攻撃魔法」を警戒している。それを利用するのだ。――琴理はその後は攻撃魔法を使うように見せかけて、使わないまま、今度は先程攻撃魔法を使わなかった方に接近。
「ふっ!」
「え?――ぐわっ!?」
 そのまま完全に接近し、魔法は使わず、体術で相手を投げる。相手は魔法で攻撃してくるとばかり思って琴理のそんな行動は完全に予想外。
「カルティエ・エル・アダファルス!」
 で、既に合わせて移動していた俺が、倒れている相手に避けられない距離まで接近し、そのまま攻撃魔法。投げられた痛みとショックで反応出来ない間に確実に仕留める。――ズバァン!
『アイウォッシュ・フロム・セカンドフロアーズ、三年生・伊藤義弘(いとう よしひろ)くん、アウト。フィールドから退場します』
 二対二なら、この戦法で相手を一人消せば、琴理がいればまず負けはなくなる。――これが俺達が編み出した戦法その一だった。案の定、何度かのぶつかり合いで、もう一人もアウトに持ち込む。
「ふぅ。順調……でいいのか?」
「そうだな」
 琴理は息一つ乱していない。あの体術といい、流石だ。……しかし。
「何度もしつこいけど、本当にお前、俺とでよかったのか? 俺、やっぱりお前の足を引っ張ってるだけの気がして仕方ないんだけど」
 結局この戦法だって、俺の魔法を知ってる知らないとかじゃない。誰でも大丈夫だ。
「この前屋上で話した主な理由の他に、個人的な理由はいくつかある。一つ、実力云々の他にお前と一緒に戦ってみたかった。二つ、姫瑠と組んだ所で、確実性は上がるが勝負という意味合いでの面白味は欠ける。三つ、お前へのお礼の一つ」
「? 三つ目がよくわからないんだけど」
「お前、純粋に魔法使いとしてこの試合に出てみたい、と思ってはいなかったのか?」
「…………」
 指摘され、言葉を失う。――確かに、あった。俺も魔法使い、日々魔法に対して精進している身、自分の実力を試してみたいというのは、何処かにあった。
「……ありがとうな、琴理」
「気にするな。この程度で喜んでもらえるなら、いくらでも」
 俺のお礼を、当たり前のように笑顔で返して来る琴理。
「お前、俺の仲間ではまた新しいパターンだよ。ここまで純粋に俺を持ち上げてくれる奴はいない」
 信哉辺りが似てるが、あいつのは客観的に見るとネタに見えてしまう程無駄に臭いからな。それに比べると琴理は自然だ。
「私がお前に感謝してるだけさ。――というかそんなに扱い酷いのかお前」
「今頃小雪さんなんか「クスン……私も精一杯朝も昼も夜も夜も夜も雄真さんを持ち上げていますのに」とか言ってるに違いない。夜だけ何故か三連呼で俺にツッコミを貰う気満々だ」
「ははっ、言ってそうだな、確かに。――まあ、私は私がやりたいからやっているだけだから、そんなに気にしないでくれ。それから困った時は遠慮なく話をしてくれると嬉しい。私で出来ることならいくらでも力を貸すから」
 ジーン。何ていい子なんでしょう琴理さんは。ありがとう琴理さん。ありがとうアメリカから戻ってきてくれて。
「ゆうまは はーれむレベルが おおはばに あがった!」
「何でしょうクライスさんその昔のロープレみたいなアナウンスは」
 しかも何でしょうその最終的に琴理も俺のものだぜみたいな勢い。違う。
「ま、リアルに考えるとこれは姫瑠と同時にいけるパターンと見た」
「見るな!! そもそもそういう路線は全然リアルじゃない!!」
 そんな話をしつつ、俺達は再び前進を開始。
「それに、戦術面でもそこまで気にするな。確かに基本パターンその一はお前じゃなくても大丈夫だが、その二からはお前じゃないと無理だろう?」
「まあ……な」
 その二からはカウンター・レジストだったり、先日俺が「覚えた」技だったりを使ったりするので、確かに俺じゃないと無理な作戦にはなっている。一応だけど。
「雄真。もう少し、もう少しだけなら、自信を持っても構わんのだぞ?」
「クライス?」
「お前が本当にまだ駄目だったら、鈴莉は出場の許可など出さんさ。少なからずお前の成長を認めて試合に出しても大丈夫と見込んだから出しているに決まってるだろう。自分の息子だ、その位のケジメはしっかりするさ。あまり自信を持たぬのも、実力の低下に繋がるからな」
「……そうだな。母さんが許可してくれたんだ、精一杯頑張らないとな」
「その意気だ」
 あらためて気合を入れて、次なる戦闘に備える。備えた……のだが。
「……あれ以来、敵いないな」
 最初の戦闘以来、敵に遭遇しない。俺達は杏璃組とのツートップだから、余程のことがない限り前進している限り敵に遭遇しない、ということはないはずなんだが。
「小日向の言うことは最もだな……」
 琴理も足を止め、周囲に気を巡らせる。
「二人とも、思い出せ。相手チームの特徴を」
「相手チームの特徴?」
 クライスからヒントが出た。相手チームの特徴。相手チームの特徴? はて。
「杏璃の昔の友達が、頭のいい奴だってこと位しか俺知らないな。何て言ってたっけ、えーと」
「嘉田達幸、という名前だったな。――そうか」
「琴理、何かわかったのか?」
「最前線の私達が敵に遭遇しない可能性として、考えられる線を考えれば、後は奴らがどう動いているかは予測がつく。――小日向、後退しよう」
「後退? いいのか?」
「相手チームの主力と誰一人として遭遇しないということは、何らかの方法で既に私達最前線を回避していると考えていい。更に頭のいい奴なら、主力を激戦地から外しておいて総大将をそのまま最後方に残しておくとも考え辛い。倒してくださいと言っているようなものだからな」
「つまり、このまま進んでも何もない」
「相手の思う壺の可能性がある、ということだ。――試合開始してそこまで時間も経過していない、敵主力も総大将もそこまで分かり辛い箇所までは移動していないだろう」
「だから今から後退すればまだ間に合う、と」
「ああ」
 結論が出た所で後退を俺達は開始する。何処に誰が隠れているかわからないので、周囲を警戒しつつ、徐々に後退。
「え? 小日向くんに、葉汐さん?」
 で、しばらく後退すると、当然だが俺達の後ろのポジションだった相沢さんと土倉と遭遇する。――俺と琴理は事情と俺達の仮説を説明する。
「成る程ね……わかったわ、私達もその路線で動いてみるわ」
「ひとまずこの辺りを重点的に調べた方がいいかもしれないな。いくら前線の小日向達を抜けたとはいえこのライン辺りからは俺達の主力がほとんどいる。誰かしらとぶつかっていてもおかしくない」
「よし、俺と琴理はもう少し下がってみるか。土倉と相沢さんは」
「二人が前後なら、私達は左右に動いてみるわ」
「今なら少し動けば神坂さんと上条の二人と遭遇出来るだろう。あいつらにも事情を俺達から事情を話しておく」
 全員、話の早いメンバーで助かる。……あれ? 俺だけが普通なの? とかはやっぱりちょっと思ったりもするが、まあ今は後回しだ。
「小日向、何してるんだ、行くぞ」
「あ、ああ、悪い」
 琴理に呼ばれ、俺は直ぐに意識を元に戻し、琴理と共に移動を再開したのだった。


「…………」
「…………」
 何も険悪な二人組のシーンに突入したわけではない。――こちら、主力組の一つ、春姫、信哉ペア。
「…………」
「…………」
 お互い嫌いというわけでは無論ないのだが、実に必要以上の会話が生まれないペアなのだ(主なる原因は信哉にある)。ハプニング等が起きない限り、会話が生まれない。――流石に春姫に修行の話をしようとは信哉も思わなかったらしい。じゃあ何故ハチに……とは、考えたら負けの話である(特にハチは)。
 というわけで、現在特別戦闘等は起きず、二人とも前進中。――最初こそ戸惑ったが、気付けば春姫も慣れていた。
「――雄真殿のことが、気がかりか?」
「えっ!?」
 と思ったら、不意にそんな風に話しかけられた。――戦闘時等、必要な時以外に信哉から話しかけてくるのは試合中では初であった。
「わずかであるが、歩行速度に憂いが見られる。今回の試合で神坂殿がそうなる原因は、やはり雄真殿のことであろう」
 恐ろしい程の分析力である。歩く速度で判断された。春姫としては驚く他ない。
「気持ちはわからぬでもないが、葉汐殿の実力は本物。あの拳銃のワンドで俺との接近戦を数合こなせるのだ。信頼しても構わぬであろう。――それに、雄真殿もいつまでも俺達が守ってやらねばならん程の男ではない。先程説明した葉汐殿を倒せるだけの実力を持っているのだ」
「うん、そうなんだけど……」
 やはり春姫としては不安であった。MAGICIAN'S MATCH初参戦。確かに雄真のレベルは上がっている。尋常ではない速度で実力をつけてはいるが、流石に主力としてはまだ数えられない。
「相性という分でも問題ないだろう。葉汐殿は随分と雄真殿を立てている節があったからな。雄真殿の実力を飲み込んだ上での行動がしっかりと取れるはずだ。あの短期間にしては目を見張るものがある組み合わせだと俺は思う」
「うん……」
 一旦会話は終了し、二人はまた無言のまま歩き出す。――が、更に十歩程お互い歩いた後。
「――俺はこの歳になっても、妹や生涯命を掛けて仕えると決めた主にまで説教を喰らう程、恋愛沙汰のことはわからぬ」
「……えっ?」
 再び、前触れ無しでの会話が信哉から始まった。
「だから、神坂殿が抱いている雄真殿の実力に関して「以外」の心配事に関しては、俺はいまいちわからないが」
「……上条くん」
「雄真殿は、俺が一人の「男」として、認め、尊敬している存在だ。友として認めている存在は多数いる。高溝殿もそうであるし、神坂殿もそうだ。また尊敬すべき存在も数名いる。伊吹様もそうであるし、我が父もそうだ。――だが、友として、尚且つ一人の男として尊敬している存在は、俺の中では雄真殿しかおらぬ。俺が認めたから……という理由で納得しろ、というのは無理があるかもしれぬが、それでも雄真殿は神坂殿を悲しませるようなことはせぬだろう。もしも雄真殿が神坂殿を悲しませるのであれば、俺は雄真殿の友として、神坂殿の友として、この剣を振るうつもりでいる」
 信哉の真っ直ぐな言葉を受け、春姫は一度大きく深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。
「わかってるし、信じてるんだけど……どうしても、不安になっちゃって……みんな雄真くんのこと、好きだし、雄真くんはみんなに優しいし」
「昔から英雄は女を好むものであるぞ、神坂殿」
 そんなこと言われてどう安心しろというのだろうか。――信哉らしい、とは春姫としても思うが。
「それに、逆の立場で考えてみるといい。――これも俺は詳しいことは知らぬが、神坂殿も学園ではかなりの人気を誇ると耳にしている。雄真殿としても、気が気でない時があるはずだ」
「えっ……雄真くんから、そういう話を聞いたことが」
「いや、ないが」
 ないんかい、と大阪弁でツッコミを入れたくなる春姫であった。
「俺が英雄になれず、英雄を支える立場に重んじているのもその為……ん? 待てよ、そうなると高溝殿も英雄ということになるな……いかんな、このままでは高溝殿は何の所業もせずに英雄になってしまうではないか。そのような英雄は歴史上長続きはせぬ……これは、何としてでも高溝殿には強くなってもらわねば」
 何故かハチの修行プランの構築が始まっていた。……春姫は横で苦笑するしかない。同時に雄真に修行を最近薦めなくなったのは既に英雄として認めているからである、という理由が一応わかった。
 結局いい話をしてくれたが何処か天然のままの信哉との会話は、春姫の気持ちを落ち着けるには十分であった。……と、そこに。
「おっ、見つけた見つけた」
 後方からそんな無警戒な声。……振り返ってみると、
「梨巳さんに……武ノ塚くん?」
 主力ペアの一つ、可菜美と敏の二人だった。……そう離れた位置ではなかったとはいえ、ここで合流というのは作戦にはなかった。
「異変か? 何があったのだ?」
「それがよ、最前線の二人が全力ダッシュで後退してきてさ」
「柊殿と……沙耶が?」
「通りすがりに言われたわ。「あたし達にまかせて! 後はよろしく!」って柊さんに。何がどうまかせられて宜しくされたんだかこっちとしてはサッパリよ。上条さんは全力で走る柊さんに着いていくだけで精一杯みたいだったし」
「杏璃ちゃん……」
 春姫がため息をつく。相変わらずの猪突猛進っぷりである。
 柊杏璃(三年)、単独攻撃力A、範囲攻撃力B+、補助攻撃力C+、単身防御力B、補助防御力B-、判断力C+、機動力A。その攻撃力はかなりのものであるが、今回最前線組で唯一判断力がBを下回っていた。
「沙耶も……恐らく勢いに流されてしまったのだろうな」
 上条沙耶(三年)、単独攻撃力C+、範囲攻撃力A-、補助攻撃力B+、単身防御力A-、補助防御力A-、判断力B+、機動力B。少々単独攻撃力が低いが、それ以外は平均して高い、優秀なステータスの持ち主である。……流石に押しの弱さまではステータスには書かれなかったようで。
「そうなると、何であの二人が全力で後退してきたか、って話になるんだけど」
「杏璃ちゃんの性格からして、敵の攻撃が厳しくて、っていうのは多分ないと思う。それ以外のハプニングが起きたと考えるべきかも」
「確かに、柊さんはそんな感じね。……でもそれ以外の理由で、全力ダッシュで後退してくる理由となると」
「多分、葉汐さんと小日向が考えた理由と同じなんじゃないか?」
 と、そこでそんな四人以外の声が。――そっちを見てみれば、
「相沢殿に土倉殿まで……?」
 友香、恰来の二人がやってきていた。
「土倉の言葉から察するに、二人も後退してくる葉汐さんと小日向と遭遇したのね?」
「ええ。――二人が後退してきた理由は」
 そこで友香が琴理と雄真の仮説を四人に説明する。
「成る程な、一理あるや」
「ふむ。では我々もその方向性で動くべきか」
「三組が連合して動けるなら、一組は念の為に前進した方がいいかもしれない」
「神坂さんの意見も最もね。なら、前進するのは私と恰来が受け持つわ」
「お願いするわね。それじゃ私達は西の方角を、神坂さんと上条は東を」
「承知した。――行こう、神坂殿」
「ええ!」
 あれよあれよという間に話が決まり、三組が再び解散する。果たしてこの選択が、吉と出るのか凶と出るのか――


「っおおおおぉぉぉぉ!!」
「はあああああぁぁぁ!!」
 ズバァン、ズバァン、ズバァァン!!――叫び声にも近い掛け声と共に、激しい攻撃魔法がぶつかり合う。……ちなみに、男同士の掛け声のように聞こえるが、両者とも女子。
「深羽、攻撃にアラを出さないように! 気を一瞬でも抜いたら負けます!」
「言われなくたってわかってる!!」
 一人は藍沙を倒され、怒りで実力をオーバーし更にその代償で少々冷静さを失っている深羽。
「トキネ、落ち着いて!! ここで真正面からぶつかってたらタツユキの作戦が台無しだし、何より相手の思う壺!!」
「かといって放っておくわけにいかないでしょ!? 私達の中で一番攻撃力があるのは私、あの攻撃に真正面から応対出来るのは私だけ!!」
 一方はその暴走気味の深羽の攻撃に刺激され、こちらも少々暴走気味の矢鞘時祢。
「達幸さん、何とか時祢さんを止められませんか?」
「無理。ああなったあいつは俺でも止められんねえよ。……しかも下手に動いたらあの異様な攻撃力の魔法に俺達がターゲットになっちまう。……ここは冷静に動かないとまずいぜ」
「クールに決めるんだねー、達幸くーん」
「ああ。次回作は王子様だ……何てやり取りをしてる暇も流石に惜しいか。――シェリア、南」
「どうするの?」「どうしましょう?」
「俺達の中で一番攻撃力があるのは確かに時祢だが、一番防御力があるのは恐らく俺だ。――囮になる。あれを引き付けるからその間にどうにかしてくれ」
「大丈夫なの?」
「長時間は持たないが、お前らが倒す間位は持ちこたえるさ」
「達幸くーん、わたしは?」
「時祢のフォローを頼む。俺の登場で気を取られて隙が出来たりしたら困るからな。万が一だが」
「おっけー」
「よし、いくぜ。――出る!」
 一足先にダッシュで達幸が深羽の射程範囲内に入る。
「へっ、何時までも一対一でやれると思うな! 俺達は――」
「ナッツ・ミッツ・ジウヤス!」
 ズバァァン!!
「っておいいいい!! せめて登場の台詞位最後まで言わせろよな!?」
 射程範囲内に入って一、二秒たらずで深羽の攻撃が達幸を襲う。レジストを展開しガードするが、勢いのあったダッシュは一瞬にして強制ストップ。
「達幸! ここは私が何とかするから下がってて!」
「馬鹿野郎、自分の女一人で戦わせておいて自分一人何もしねえなんてやってられるかっての!」
「っ……達幸――」
「サージュタス・ミッツ・ナルガ・ドーエ!」
 ズバァァン!!
「きゃあああっ!?」
「頼むから数秒間位空気読んでくれ空気ぃ!! ってか千佳、お前時祢のフォローに回れって言ったろうが、何してんだよ!?」
「あっ、時祢ちゃんと達幸くんのラブラブワールドに見惚れてた」
「阿呆かお前!? それが原因で負けとか洒落になんねえよ!?」
 叫びつつツッコミをいれつつ、体制を立て直す三人。
「くっそ……そろそろ疲れてもおかしくないだろ、敵さん……どんなスタミナだよ」
「距離があるとは言え、私達三対一でまったく引かないものね」
「でも、勢いのあまり、ちょっと注意力が足りなくなってるかなー?」
「ああ。――そろそろ来るぜ、二人が」
 間もなく、奇襲を仕掛ける南――本名を宇喜田(うきた)南といった――とシェリアのスタンバイが完了する。深羽は正面三人への攻撃で精一杯で気付いていない。完了次第、一斉攻撃を開始する。――そう、見込んでいたその時だった。
「エスタリアス・アウク・エルートラス・レオラ!」
「幻想詩・第三楽章・天命の矢……!」
 不意に聞こえてくる、別の人間の詠唱。
「!? くっ……」
 直後、三人を牽制の攻撃魔法が襲う。結果体制が乱れ、一斉攻撃への準備が崩れる。
「やっぱりこういう独特な作戦できてたわね、達幸!」
「杏璃か……!!」
 最前線から全力で後退してきた、杏璃・沙耶ペアである。
「どーする達幸くーん、敵の増援来ちゃったらまずいんじゃない?」
「まあな。――でもまだ、シェリアと南の二人が」
「ベルス・イラ・ユーキ・アルクェスト!」
「カルティエ・エル・アダファルス!」
 バァン、ズバァン!!
「っ!? 気付かれてた……!?」
「シェリアさん、駄目です! 後退しましょう」
 南、シェリアの二人が姿を見せ、安全確保の為に後退。……そして、現れたのは。
「琴理、頼むからもうちょっと俺が安心するアドバイスをくれ……右斜め四十五度の方角に攻撃とかいきなり言われても」
「十分に反応出来たじゃないか。それに、法條院をまず助けたいと言ったのはお前だぞ。結果がこの作戦だ」
 やはり最前線から後退してきていた、雄真と琴理であった。
「さーて、いくわよ時祢、達幸! こっからが本当の勝負なんだから!!」
 杏璃の威勢のいい声が、その場に堂々と響き渡った。


<次回予告>

「アンタの強みは実力以上にその頭の良さ。絶対に何か仕組んであると見るべき。
いつまで経っても敵の主力とぶつからなかったから、裏をかかれたと思って戻ってきたってわけ」
「成る程な。伊達に三年間俺らと一緒に行動とってねえ、か」

ついに直接対峙、杏璃、そして雄真達と敵チーム主力!
ギリギリで間に合った雄真達、果たして彼らを食い止めることが出来るのか?

「違うんですセンパイ! 私、約束したのに、守ってあげるって約束したのに、
守ってあげるだけの力があったのに、その為の法條院の力だったのに、
なのに油断とか、だから私っ――!」

一方、単身残っていた深羽は、自らを攻める。
そんな彼女を前に、雄真が下した決断とは。

「……っ……!」
「おいおい、甘く見てもらっちゃ困るぜ。――悪いが、俺も比較的トリッキー専門なんでな。
この手の攻撃方法は比較的自分でも編み出してるんだよ。……最初のは、全部フェイクだろ?」

凄いのは頭の良さだけじゃない!?
実力も一級品の敵チーム、果たして勝敗の行方は!?

次回、「ハチと小日向雄真魔術師団」
SCENE 21 「負けられない試合、負けられない相手」

「山崎(やまざき)さん家のタマ(猫)がなついてたのはあたし!」


お楽しみに。



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