「――何だか、全然頭がついてこないんだけど」
 俺はシミュレーションホールの外、入り口前で只今待機中。何故に待機中かといえば、母さんから練習中に連絡があり、母さんが用意したエージェントがハチの奪還に成功し、今こちらに向かっているから、小日向雄真魔術師団の代表として話をして欲しい、とのことだからだった。
「というかついさっき誘拐が発覚して騒いだばかりなのにそのまま奪還に成功したエージェントに話をしてくれってのがな」
「まあ、そんなに焦るな。鈴莉のことだ、その辺りはしっかりしているだろうし、用意したエージェントも悪い人間ではあるまい」
 確かに、クライスの言う通りではある。母さんも成梓先生も朝、焦っていなかった訳は一応わかった。――というわけで、俺は先ほどから手持ち蓋さのまま落ち着かないのでウロウロと。
「小日向雄真魔術師団の代表というのは、お前か?」
 と、そんな声がした。――エージェントの人か。
「ええ、そうです……け……ど……」
 振り向いたその先に、エージェントの人はいた。――同時に、俺は一瞬言葉を無くしていた。
 エージェントの人は俺と視線が合うと、手を頭の後ろに持っていき、つけていたゴーグルを外し、素顔を俺に見せ、
「久しぶりだな、小日向」
 そう、軽く笑顔を見せて、俺に言ってきた。――久しぶり。それは俺と目の前のエージェントの人が知り合いであるということ。俺が一瞬言葉を無くしていたのも、それが理由だ。
 だって、こんな時に再会出来るだなんて、思ってもいなかったから。
「――琴理(ことり)!」
 現れたエージェントは――葉汐(はしお)琴理、その人だったのだ。



ハチと小日向雄真魔術師団
SCENE 17  「I meet you again」



 葉汐琴理。――姫瑠のアメリカ時代からの親友で、数ヶ月前の姫瑠の騒動の時は復讐という悲しい想いに囚われ俺達と対峙したが、和解し、姫瑠の親友だけでなく、現在は俺達の友人でもある。
 騒動の後、父親のことを整理する為に琴理はアメリカに戻っていた。姫瑠は無論定期的に連絡を取り合っていたようだが、こちらにまた来る、なんて話は耳にしていない。前もってわかっていたら姫瑠のことだ、飛び跳ねて喜んで俺に報告してくるだろうし。
「――というわけで、まさかお前がエージェントとして来るとは予想外だ」
「その辺りは私も予想外というか。お前の母親から来日の誘いを受けていて、来日したその日にいきなり仕事を依頼されてな。荷物を置いてそのまま高溝の救出に行った」
「強行スケジュールだな……お疲れ」
 思うに、ハチの誘拐なんて流石の母さんでも予測出来なかったから、偶々来日させるつもりだった琴理がフリーで敵のマークもないから救出を依頼したんだろう。ツキがある、か。確かにそういう意味ではこちらにツキがあったのかもしれない。
「って、そもそもは母さんに来日の誘いを受けてこっちに来たのか?」
「ああ。父様のことが落ち着いて、とりあえずClassを取得することにしたんだ。Aが欲しかったんだが、いきなりAの試験というのは受けられないらしくてな。ひとまずBを取得した」
「…………」
 ああ、こいつもか。とりあえずBって。Bでも俺達の年齢じゃかなり大変なレベルなんだぞ。本当に俺の周囲はレベルが高い。
「それで、そのBを取得した所で連絡を貰ってな。何の話だか知らないが、どうしても、と言うんでな。来日したってわけだ」
「成る程。それで姫瑠にも何も言ってないのか」
「うん。――ま、ちょっと驚く顔も見てみたかったしな」
 そう言う琴理の顔は、歳相応の女の子の笑顔だった。
「しかし、あの高溝が総大将のイベント、か。――どれだけ人材不足なんだ? それともあれか? 途中で一発芸でもしないといけないのか?」
「いやあ、そういう意味じゃなくてな」
 俺は琴理に簡単にMAGICIAN'S MATCHについての説明をする。――どうでもいいが既に琴理の中のハチのイメージも見事な程に酷そうだ。あの時はそんなに絡む機会はなかったはずなのに。
「それで、今はここで練習中なんだ」
「そうか。――わざわざ済まなかったな、練習中に。御薙鈴莉に会って話して、後は練習後でも私は構わなかったんだが」
「いやそれはいいよ。どうせ俺は練習してるわけじゃないし」
「?」
「あれ、言ってなかったか? 俺、応援団長だから、正確にはメンバーじゃないから、試合とかにも出れないんだよ」
 数秒の沈黙。琴理が俺から視線を外し、考え込む。
「チーム名、小日向雄真魔術師団だったよな?」
「うん、そう」
「応援団長? 試合に出てない?」
「うん、そう」
 再び数秒の沈黙。……の後に。
「……ぷっ……くくっ……あはははっ!」
 琴理が笑い出した。――っておい!
「ちょっ、お前っ」
「だって、大々的にチーム名にお前の名前がついてるのに、お前試合に出てないって、ありえないんだけど、よく考えると小日向らしいなって思ったら、笑いが……あははは!!」
「くぅ……」
 そういえば最近はすっかり慣れてしまったので忘れていたが――初めてこの事実を知れば違和感丸出しなんだよな、これ。
「しかし、何とも複雑だ。私、お前に負けてるんだよな、一度」
「ああ、でもあれは――」
「謙遜するな。あの負けがあったから、今の私があるんだ。お前が何と言おうと、あれは私がお前に負けた。認めてくれ」
「……まあ、お前がそう言うなら」
 あの勝ちは、そういう意味じゃ奇跡に近いのかもしれない。
「しかし……お前、応援団長だからって、本当に応援してるだけなのか?」
「まあ、基本は」
 色々動いた気もするが、基本は練習中も試合の時も応援がメインだった。――と、そこで琴理ははあ、とため息を一つつくと、
「ちょっと付いて来い」
 と、俺を促して、シミュレーションホール近くの歩道から続く、森の中へ。
「おい、こんな所まで、どうした?」
「まあ見てろ」
 そう言うと、琴理はワンドである青い装飾拳銃を上空に掲げ――バシュッ!
「なっ!?」
 その一発で、放った魔法波動周辺の木々が一気に揺れ、葉が動き、景色がずれる。どうも風を起こす為の一撃だったらしい。
「ひゃああああ!?」
 そして――そんな不意打ちに、驚きの声が……木の上から、挙がった。って、
「誰かが木の上にいる……?」
「他の学園の偵察要員だろうな。応援団長として応援する位なら、この位排除するしておいたらどうだ?」
「無茶言うな……」
 俺達が合流したシミュレーションホール前からここまでそれなりの距離があるのに察することなんて俺に出来るかっての。
「まあ、それはともかく」
 俺と琴理は問題の木の下へ移動。上を見上げると、確かに太めの枝に、人が。制服を着た女の子だ。出場選手だろうか。
「どうするつもりだ? 観念するか?」
 琴理が問いかけると、
「ふ……ふふっ、見つかっちゃったなら仕方ないわね。私も戦闘向け魔法使い、はいそうですか、で捕まるわけにはいかないの。――覚悟はいいかしら?」
 そんな言葉が返ってきた。――っておい、やばくないか、これ。
「挑発か……面白い、相手になってやる」
 うわああ、案の定琴理が挑発に乗っちゃったよ!!
「ちょっ、待て琴理、ひとまずだな」
「小日向は離れてろ。普段のお前じゃ危険かもしれない。私一人で十分だ」
「あら、私は二人同時が相手でも構わないけど?」
「ぬかせ」
「いいわ。後悔させてあげるから! はっ!」
 そう言い切ると、相手の女の子は颯爽と木から――
「いよっ!」
 颯爽と、木から――
「てやあっ!」
 ……颯爽と、その、木から……
「ほあちゃああ!!」
 ……木、から?
「ぬおおおおおおっ!!」
 …………。
「私のこの手が真っ赤に燃える!! お前を倒せと轟き叫ぶ!!」
「そこまで引っ張っておいて何の掛け声だよ!? それ必殺技じゃん!?」
「Gか」
「何気に詳しいな琴理!?」
 ……というか、その、一向に木から下りてこない……のは、多分。
「――降りられない〜〜!! 私高い所苦手なのに〜〜!!」
「ああ……」
 やっぱりだった。
「……なら何でそんな高い所上ったんだよ?」
「仕方ないじゃない! この大きなドームの中で練習してるのはわかってるんだけど、普通にしてたら何も見えないし! だから木に登ったら何かわかるかな、って思って!」
「でも苦手なんだろ?」
「その場の勢いってあるでしょ!?」
 半泣きでそう叫ぶ木の上の女の子。ドジっ子さんでしょうか。
「……琴理、どうする?」
「見なかったことにしよう」
「薄情者〜!! 化けて出てやるからね!!」
 死ぬのかよ。――俺と琴理はため息をほぼ同時につくと、降りるのを手伝ってやることになる。
「よっと……これでもう大丈夫だろ」
 結構な時間を要したが、何とか女の子を地面まで案内出来た。
「はあっ、はあっ、はあっ……助かった……もう駄目かと思った……だから偵察なんて嫌だったのよ……好きで来たんじゃないからね!? クジで偵察係を引いちゃったんだもん!! 嫌だって言ったのに!!」
「いや、何も聞いてないから」
 俺達に抗議されても。
「――それで? どうするんだ? 戦いたいなら私は構わないが?」
「流石にいいわよ……助けてくれた人に刃を向ける程落ちぶれちゃいないわ」
 息を整え、制服を軽く叩き、女の子はあらためて俺達と向き合う。
「私、井波川(いなみがわ)学園、三年の矢鞘時祢(やさや ときね)よ」
「井波川……ってことは」
「そう。次の試合で、あなた達と戦うことになってる」
 聞き覚えがあって当然だ。次の第四回戦で、戦うことになっている学園の名前だった。
「だから偵察に?」
「真面目な話、私はやっても無駄だって言ったのよ? 結局実力が物を言うに決まってるんだから。他の学園でも偵察要員をウロウロさせてる所がいくつかあるけど、そんなのやる暇があったら練習しなさいってのよね」
 少々呆れ顔でそう言う矢鞘さん。表情からするに、本当にそう思っているみたいだ。――サバサバしている感じ、好感が何処となく持てた。
「さっきの言動といい、今の言葉といい、随分と実力に自信があるみたいだな」
「まあね。――そうね、助けてくれたお礼に、少しだけ見せてあげるわ」
 直後、矢鞘さんが背中から取り出したのは――
「……弓?」
「正確にはアーチェリー、洋弓よ。私のワンド」
 ザッ、と上空目掛けて矢鞘さんは構える。
「タイム・ブレイルド・レヴォン!」
 詠唱と共に本当に矢を放つ動作を行うと、ズバシュッ! と上空に魔法波動の矢が勢いよく放たれた。
「私からのお礼はここまで。これで察せられるものも一応あるはずよ? 後は実際戦った後のお楽しみってことで」
 矢鞘さんは、洋弓式のワンドを再び背中へ。
「それじゃ。お互い、勝っても負けても、いい試合にしましょう。――後、杏璃に宜しくね」
「え?」
 俺達に笑顔でそう告げると、矢鞘さんはその場を後にした。色々思うことはあるが――
「……琴理」
「ああ。大きな口を叩くだけのことはある。相当な実力者だ」
「やっぱりか……」
 俺も流石にその程度はわかるようになってきた。
「あの洋弓式のワンドから放たれる矢、攻撃タイプが限定される代わりに、威力、射程等が大幅に一般の魔法よりも強化されてる。恐らく命中率も悪くないはずだ。一般的な弓と違い、近距離も戦えるだろうな、あれだと。長距離戦に持ち込まれたら私のシルヴァリアでは勝ち目はなさそうだ」
「いよいよ敵も強敵になってくるってことか……」
 今までは実力では断然俺達の方が上の場合しかなかったが、流石にここまで来るとそれもなくなってくるのかもしれない。
「――そろそろ練習時間も終わる頃だ、ホール前に戻るか」
 俺の予想通り、琴理と二人で戻ってみると、丁度ホールからメンバーが出てくる所だった。今日は早めに切り上げるって聞いてた。
「お疲れ、みんな」
「小日向くん。――隣の方は?」
「ああ、彼女は――」
「え……琴理!? 琴理だよね!!」
 相沢さんからの質問への返答を遮るように、その名を呼び、
「っと」
 勢いのまま琴理に抱きつくのは――まあ、姫瑠だった。
「どうしたの!? 全然こっち来るなんて言ってなかったじゃん!!」
「うん。色々あっての緊急来日かな。――連絡出来ないこともなかったけど、ちょっと驚かせたかったから」
「もう、本当にビックリだよ! でもそれ以上に嬉しい!」
 姫瑠が再会トークを満喫している間に、俺は他の初対面のメンバーに琴理のことを説明。姫瑠との様子を見ても悪い人間じゃないってことは一発でわかってもらえた。
 そんなこんなで、ハチ誘拐事件は、無事に解決したのであった。


 練習終了後、早めの解散だったので、旧メンバー(=MAGICIAN'S MATCH開催以前からの俺の近しい仲間達)と一緒にOasisに行くことになった。普通にお喋りを堪能するってのもあるのだが、
「おうハチ、生きてたか」
「待てい雄真! もうちょい心配そうな発言は出来ないのか!!」
 無事生還したハチがOasisに居るとのことで、一応顔を確認することになっていたのだ。
「それだけ元気なのに心配してもらおうって方が間違いよ、ハチ」
「ふふっ、でもいつもと同じ感じで安心したかな、高溝くん」
 仲間達も、思い思いの言葉をハチに伝えていく。――まあ、何だかんだで皆心配はしてたからな。
「でも、実際どうだったんだ? 杏璃じゃないけどそれだけ元気なら全然問題なく救出されたんだと思うけど」
「そんなことないぜ雄真……何が酷いって、俺を救出してくれたエージェントの人が酷過ぎたんだ!」
 ……あ。
「俺に厳しい言葉しか掛けてこないし俺に拳銃は向けてくるし蹴り飛ばしてくるし挙句の果てには魔法で攻撃までしてきたんだぞ!? あれは最早人間じゃない! 人の顔をした悪魔だ!!」
 直後、カチャリ、という音がしたかと思うと。
「高溝、貴様に言ったよな? 貴様に生きていてもらわないと困るのは、私の任務中のみだ、と。任務が終わったら好きなだけ死んでも構わない、と」
 ハチの後頭部にシルヴァリアを突きつけている、薄笑いの琴理がいた。
「悪魔、か。――今この場で貴様を殺せるのなら悪魔で構わない」
「ひいいいいい!! すすっすすすすいませんでしたああああ!?」
「謝らなくていい、殺させろ」
 ――とりあえず、俺と姫瑠で琴理を宥め、何とかその場は落ち着いた。
「アイスココアでよかったよね?」
「あ、うん。ありがとう」
 姫瑠が自分の隣の席にドリンクバーのアイスココアを置くと、琴理がそこに座る。
「って、ちょっと待ったあ!! 質問!!」
「すまんハチ、俺は修行のことはわからん」
「余計なフラグを立てるな雄真あああ!! 信哉、要らないぞ修行の話は!!」
「チッ……で、何だよ?」
「な、何で既にみんなエージェントの人と仲良しなんだよ!?」
「いや、何でってお前」
「姫瑠ちゃんも、呼ぶなら琴理ちゃんみたいな、可憐で繊細な可愛らしい女の子を呼んでくれよ……最近俺に冷たい人ばっか増えてくじゃないか〜!!」
 オイオイ泣き出すハチ。……そんなことは気にも留めず、俺達は全員、顔を見合わせてしまう。先ほどの発言からしても――まさか。
「……な、なあ、頼みがあるんだけど」
 俺は「名前を呼ばず」琴理に話しかける。
「嫌な予感がするんだが」
「多分、お前が考えてる通りの内容だと思う。――念の為に、一応な? どっちの顔も本当のお前なんだろ?」
 俺の頼みに、琴理はため息を一つつくと、席を離れる。――約二分後。
「高溝さん」
 優しく繊細な声が、ハチを呼ぶ。ハチが振り返れば。
「お……おおお!! 琴理ちゃんじゃないか!! いや〜、久しぶりだな〜!!」
「はい、お久しぶりですね」
「ぶっ」
 大小あれど、俺達は全員吹いた。――服装も同じままなのに、雰囲気だけ変えたら琴理と認識してくれた。何なんだハチよ。お前は一体何なんだ。最早馬鹿の一言では片付けられない。
「琴理ちゃん、アメリカに戻ってたって聞いてたんだけど、一体どうして?」
「はい。――実は、高溝さんに大切なお話があって、どうしても」
「え……俺に?」
「高溝さんに、です。……その、聞いて貰えますか? 嫌ならいいんです」
「そんなことないさ!! 俺、琴理ちゃんの頼みなら何でも聞くよ!!」
「え……本当、ですか?」
「ああ、任せてくれよ! 男高溝八輔、可愛い女の子の為なら何でも!」
「ありがとうございます。……それじゃ、その、一つだけ、お願いが」
 少し目を潤ませ、上目遣いの琴理。客観的に見れば(そもそもが可愛いので)滅茶苦茶可愛い。――つーかノリノリじゃんかよお前。
「ああ、何かな?」
 カチャリ。
「脳天にこの弾丸を喰らって、この場で死ね」
「☆▲×%$#@!?」
 瞬間石化。今までのベストスリーに入る速さだ。
「というか、マジで認識してなかったのか、琴理だってことに」
 本当に信哉辺りに修行をしてもらった方がいいかもしれない。――徐々に石化は溶けてきたが、「琴理ちゃんが……あの琴理ちゃんが……」と呟きながら遠い目をしているハチは、俺の経験からするに今日一日は再起不能と見た。
「ああ、そういえば……杏璃」
「? 何?」
「実はな――」
 俺は先ほど、森の中での出来事を話す。
「……で、その矢鞘さんが、杏璃に宜しくって言ってたんだけど……知り合いか?」
「矢鞘時祢……」
 杏璃の顔が、難しい顔になる。
「その様子からするに、知り合いか」
「中学時代の同級生よ。――次戦うのが井波川って聞いて予測と覚悟はしてたけど、やっぱり出てきたわね、時祢……となると、きっと達幸(たつゆき)も一緒だわ」
「杏璃ちゃん、その矢鞘さんって、実力は」
「本物。ここ最近のことはわからないけど、才能はあたし達と肩を並べてもなんの遜色もないわ」
「確かに、そんな感じだったな」
 俺はあらためて、少しだけ見た矢鞘さんの実力を全員に話す。
「そっかー、何だかんだで私達と同じレベルの人は見かけなかったもんね。そろそろ出てきてもおかしくない、か」
「ま、でも奴自身は対して問題なさそうだったけどな」
 琴理のその言葉に、杏璃が軽くため息をつく。
「そりゃ琴理はいいわよね、参加するわけじゃないんだから」
「何だ、お前はあの程度にも勝てないのか? 神坂春姫のライバルと聞いてたが、その程度なのか」
 その琴理の言葉に、勿論杏璃はカチン、と来るわけで。
「実際試合に出ない人は何とでも言えるわよ。第一、マインド・シェアを使わない雄真に負けたアンタに言われたくないわね!」
 その杏璃の言葉に、琴理がピクリ、と反応して……ああ、マズイな、これ……
「なら、ここでいっそのこと勝負でもするか?」
 ガタン、と立ち上がる琴理。
「面白いじゃない。話が早くて助かるわ」
 合わせてガタン、と立ち上がる杏璃。
「杏璃ちゃん、落ち着こう? こんな所でぶつかり合っても何の意味もないよ」
「琴理も落ち着けって。誰もお前が弱いなんて思ってない」
 そして、俺と春姫が制止に入ったその時。
「うーん、魔法科教師として生徒同士の対決、なんてのは認められないけど……あれなら葉汐さん、MAGICIAN'S MATCH、出場して、そこで勝負したらどうかしら?」
「え――母さん!?」
 何処からともなく笑顔で母さん――御薙先生が現れた。
「というか、MAGICIAN'S MATCHに出場してみないって、琴理は」
「明日から、瑞穂坂学園の生徒よ? 葉汐さんは」
 …………。
「はい!?」
 琴理が……明日から瑞穂坂の生徒って――
「琴理、そうなの!?」
「いや、当の私も何も聞いてないんだが……まさか、私への話って」
「そう、学園への転入話よ」
 笑顔でそう答える母さんに対し、琴理は……
「……何故に俺を見る?」
「親子揃って、何考えてるんだかサッパリだ、と思ったまでだ」
 うわー。言われたよ。
「だって、今まで色々汚い手を使われてきたじゃない? あれだけのことをしてくるんだから、純粋な戦力アップを少し位したっていいと思わない?」
「まあ……確かに、それはそうだけど」
「葉汐さん、どうかしら? 後はあなたの返事次第、という所までは準備しておいたわ」
 母さんは琴理に数枚の書類を手渡す。琴理はそれをしばらく眺めていたが、
「――面白い」
 そう呟くように口にすると、軽く笑う。
「受けてくれるのね? 転入話」
「ああ。喜んで受けさせて貰う」
「そう、ありがとう。――それじゃ、柊さんとの勝負は、次のMAGICIAN'S MATCHの試合でつけなさい。勿論味方同士として、どちらがより活躍したか、で」
 笑顔でそう促すと、琴理と杏璃の視線が再びぶつかる。
「琴理、それならアンタもパートナーを選びなさいよ」
「パートナー?」
「あたし、今試合では沙耶と組んで行動してるのよ。対等な勝負なんだから、アンタも」
「成る程、な……誰でもいいのか?」
「いいんじゃない? って言っても、どうせアンタが選ぶのは――」
「小日向でいい」
 …………。
「……はい?」
 今、小日向でいい、とか何とか。他のみんなも聞き間違いじゃないか、みたいな顔をしているが。
「聞こえなかったか? 小日向でいい、と言っているんだ」
「いや、あの、琴理さん、折角だから姫瑠を選べば」
「御薙鈴莉。――あなたの息子は、試合には出れないのか?」
「そんなことないわ。応援団長だけど、メンバーでもあるから」
「なら小日向だ。誰でもいいんだろう?」
「アンタねえ……いいわ、その替わり負けた時に言い訳にしないでよね」
「誰が」
「…………」
 というわけで、琴理の瑞穂坂学園転入、及び小日向雄真魔術師団参加、そして――ついに俺、小日向雄真の実戦デビューが、ものの数分であっという間に決まってしまったのであった。


<次回予告>

「ってちょっと待て待て待て待ていいぃぃぃ!! 何故に琴理が我が家にいる!?」
「美女が周囲に増えることに、理由など必要ないだろう、雄真」
「いやそういう問題じゃなくてだな!!」

ついに琴理が、あらためて雄真達の新しい仲間&友達に!
――が、勿論それは新たなハプニングのフラグが立つことを意味しているわけで。

「一つ、質問していいかしら? 正直に答えてくれる?」
「はい、何でしょう?」
「高溝を見て、どう思う?」

新旧の仲間達に少しずつ溶け込んでいく琴理。
そんな琴理と雄真の学園ライフは一体どうなるのか?

「……何で俺の横に座ってるわけ?」
「小日向さんとお昼ご飯を一緒に頂こうと思ったからですけど……」

そして、琴理が選ぶ、大胆な方法とは?

次回、「ハチと小日向雄真魔術師団」
SCENE 18  「雄真と琴理の素敵な学園ライフ」

「えーと、春姫はその、折角だから、琴理と話してみたいこととか、ないのか?」

お楽しみに。



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