「雄真、私は悲しい。実に悲しい」
 そんな台詞を呟きながら黄昏ているのは、俺の仲間でも友人でもなく、相棒でありワンドであるクライス。
「私はな雄真、マジックワンドとして存在していることを、恥じたことはない。鈴莉のワンドだった頃から、主を支え、主と共に戦い、主と共に生きるこの立場を、身分を、光栄に思い、また誇りに思っていたし、今でも当たり前のように思っている」
「……何だよ、急に」
「しかしだな雄真、私は時にマジックワンドである自分が憎い」
 何が言いたいのかさっぱりなので、俺は無言で先を促す。
「なあ雄真、私が学園の授業で、一番嫌いな授業は何だと思う?」
「クライスが嫌いな授業?」
 はて、何だろう。というか別にクライスは授業受けないのに好きも嫌いもあるんだろうか。――魔法の授業が嫌いってわけじゃないよな。俺の実力向上を何だかんだで一番喜んでくれるのはこいつだし。となると一般科目になるわけだが。
「正解は、体育だ」
「体育? お前一番関係ない授業だろ?」
 何せ流石に体育の時間はクライスを置いて外に出なくてはならない。――って、
「ああそうか、暇なんだろ」
 ワンドのくせに社交性が俺より高い奴だからな。
「いや、お前は知らないだろうけど、マジックワンドの交流というのも案外大切でな。人間がいなくなったワンドだけの教室は、ワンドの交流の場になるものだ。まあ口を利くワンド同士のみだがな」
「マジで?」
 それは知らなかった。でも言われてみると説得力がある。ワンド同士の魔法談義か。興味あるな。
「この前は山手線ゲームが随分盛り上がってな」
「魔法全然関係ないんだ!?」
 俺の高貴な想像が二秒で消えた。本当に普通に喋ってるだけだなおい。
「あとはソプラノに雄真の女たらしっぷりを相談されたりとかな。お前絶えず春姫以外の女が誰かしら周囲にいるだろう、以前から。本当に春姫のことを想ってくれているのか不安がってるぞ、ソプラノは」
「……いやあ、まあ、面目ない」
 傍から見るとそう見えてしまうというのは反省せねばならん。というかソプラノにまで心配されてるとは。
「――って、それだとお前が体育が嫌いな理由が見えてこないんだが」
「お前の考えは惜しい。お前に付いていけない、というのは大きな原因になる。――最近は暖かくなってきたからな」
 最近は暖かくなってきた……? 何だそれ?
「この位の気温になれば、流石にジャージを着て運動はないだろう」
「ジャージ……?」
 ジャージを着ない→脱いで体育の授業を受ける→女子の格好はブルマ――
「――って、まさかお前、そんな理由か!? 今までの話の流れ、全部この為の話か!? 物凄い真面目な話っぽく聞こえたのに所詮お前の趣味の話かよ!?」
 こういうワンドだって重々知っていたはずなのに油断していた。
「お前、あの格好を軽く見過ぎじゃないのか? あの露出具合、裸や水着よりもある意味かなりエロティシズムを感じるぞ」
「知るかよ!?」
 言われて、今日の五時間目が体育だったのを思い出す。――クライスと契約したのは冬だから、確かにシーズン的にクライスにしてみれば初体操着になるのか。
「お前、大丈夫か? 健全な男子なら絶対に反応する箇所だぞ? 今に見てろ、秋葉原に体操着喫茶が出来るぞ」
「そんなの出来るわけな――いと言い切れない所が日本文化の怖い所だよな」
 俺は無縁だけど、今色々あるみたいだしな。
「その路線だと、テニスウェア喫茶とか、バレーボールウェア喫茶とか出来ちゃうだろ」
「スポーツ路線だな。派生してやれそうだな。多分途中でチアリーダー喫茶に流れる気もするが」
「まあ、その路線だと行きそうだな」
「で、そのままコーチ喫茶、監督喫茶か」
「まあ、その路線だと――」
 ……うん? 監督喫茶?
「で、最終的にはジョビート君喫茶、と。――全然嬉しくないぞ雄真。気持ちが綯えてきた」
「お前が勝手に話してるんだろうが!! 何だジョビート君喫茶って!!」
 確かにそんな喫茶店萌えないし行きたくないけどな!!



ハチと小日向雄真魔術師団
SCENE 13  「人は彼を、身の程知らずと呼ぶ」



 というわけで、体育の時間がやって来た。――今頃クライスは教室でワンド同士で談義を開きつつ俺を羨んでいるんだろう。本当に真面目な時とそうでない時のギャップが激しすぎる奴だ。
 本日は魔法科三クラス合同体育。何でもクラス対抗でリレーをするんだとか。――いつもより大勢人がいるグラウンドを見渡してみる。
「……まあ確かに、クライスの言いたいこともわかるけど」
 ジャージと違い素足バッチリ、ボディラインも分かり易くなる辺り、嬉しくないと言えば嘘になるだろう。
「それで? 小日向の新しい獲物はどの子?」
「そうだなあ……俺としてはやっぱり……」
 周囲をさり気なく見渡し、俺好みの女子を探し――
「…………」
「…………」
 …………。
「――お早う梨巳さん。今日もいい天気だね」
「ええ、そうね」
 動揺を悟られないように、紳士に振舞うことにする。――いつの間に俺の横にいたんですか。小雪さん並の登場ですよ今の。
「そんな……雄真さん、私はそこまでの登場はしたことありませんよ?」
「今! まさに今! しかも人の心読んでるし!」
 最早テレポーテーションの魔法でも覚えたんじゃないか位の勢いだよこっちの人は。
「……まあ、梨巳さんがいるのは今日は三クラス合同の体育だから当然として、小雪さんは何故にグラウンドへ?」
「少々人手が足りないらしくて、魔法監察官の係をお願いされたんです」
 魔法科の体育の授業は、不正で魔法を使わないように、監察官の係の先生が必ず一人はついている。どうやら小雪さんはその係として呼ばれたらしい。まあ、仕事なら致し方ないか。
「ですが、雄真さんがどうしてもと仰るのであれば、体操着にエプロンの格好で監察官の係は勤める覚悟をしてきました」
「全然会話の流れに沿ってないですよね!? 何をどうしたら「ですが」でその提案が出るんですか!?」
 というかエプロンは外れないのか、やっぱり。かなりマニアな路線な気もした。
「――にしても、男子ってわからないわ。たかが体操着にブルマになっただけで、そんなに嬉しくなるものかしら」
 呆れ顔の梨巳さんの視線の先には、体操着姿の女子を前にやる気を滾らせている男子グループが何個も存在していた。
「まあ、あそこまで行くとあれだけど……でもさ、味気ないジャージよりか、全然可愛くなる、って考えたらわからなくもないんじゃないかな?」
「物は言い様ね」
「そうかな? 梨巳さんだって全然体操着の方が可愛く見えるよ」
「見え透いたお世辞は結構よ。それにどうせ普段は可愛くないんでしょうし」
 うわ、マイナス路線で受け取られた!?
「違うって違うって! 梨巳さん普段から魅力的なんだってば!」
「……え?」
「確かに時折口が悪いというか厳しくなる時もあるけど、でもそれは良く回りを見ていて尚且つ自分自身っていうのをしっかり持っている証拠だからそれって凄いことだと思うし、すももを助けてくれた時とか思ったんだけど凛とした雰囲気が格好いいしそれにちゃんと会話すれば人を凄い思いやってるのも汲み取れる優しい人だし何より見た目も彼女とかにしたら凄い自慢できる位の可愛さだしファッションセンスとかも変に着飾らない分――」
「小日向っ、周り見なさい、小日向っ!」
「だから、梨巳さんは……え? 周り?」
 言われた通り、周囲を見渡してみると――遠巻きに、かなりの数の視線を感じる。
(ついに、梨巳さんに手を出したのか、あいつ!)
 ジロジロ。
(まあ確かに、悔しいけど梨巳さんって顔とスタイルは凄いいいし)
 ジロジロジロ。
(えーっと、これであの野郎、何人目だっけ? もう覚えてねえよ)
 ジロジロジロジロ。
(くううう!! 俺も、俺も梨巳さんに厳しくされたいっ!)
 ジロジロジロジロジロ。――いやあ、なんでしょうこのデジャヴ。何回俺この体験をすれば宜しいんでしょう。
「――私、自分のクラスの所に行くから」
 梨巳さんはプイ、と顔を背け、スタスタと歩いていってしまった。心なしか顔も赤かった気がする。……ああ、何ていうか、その。
「残念です……また新しい恋のライバルが出現ですね……」
「小雪さんは一体何処をどの辺りからツッコミ入れて欲しいですか!? 最早リクエストに応えてツッコミ入れてあげますよ!!」
 折角こういう時弄るクライスが今はいないのに何故にこの人はそういう時に限ってピンポイントでいるんだろう。
「それでは雄真さん、また後で」
 と、直ぐにいつもの笑顔に戻り、小雪さんも去っていった。……ふぅ。慣れたけど慣れない(矛盾しているが何となく俺の心境を察して欲しい)。
「あら、小日向くん」
「相沢さんに、柚賀さんか」
 続いて、隣のクラスの二人に遭遇した。――というよりも、俺の立ち居地がどう考えても下駄箱からの通り道に当たるから必然的に色々な人と遭遇するんだろうな。
「MAGICIAN'S MATCH……とはまた違うけど、お互い精一杯全力を尽くして、勝敗を競いましょう?」
「ああ、うん」
 相変わらず相沢さんの心持ちは立派だった。爽やかな笑顔はとても魅力的だし、その、体操着も似合っているというか。これで人気が出ない方が無理だろう。
「小日向くんって、運動は出来る方?」
 と、聞いてくるのは柚賀さんだ。
「うーん、魔法とか筆記の授業よりかは多分出来ると思う」
「そっか……私、運動はあまり得意じゃないから、羨ましいかな」
 そんなこちらはこちらで相変わらず何処か控えめな柚賀さんだった。何となく守ってあげたくなるような可愛らしさ。で、この人はこの人でかなりのスタイルの良さ、と。――そりゃ隠れファンも増えるか。
「困りました……また二人、新たな恋のライバルが……」
「居なくなったんじゃないんですか小雪さん!?」
「また後で、と申し上げたじゃありませんか」
「感覚的に早すぎですから!!」
 頼む、この人の相変わらずを少しでいい、誰か止めてくれ。
「それじゃ小日向くん」
「お互い、頑張ろうね」
「うん、お互いにな」
「では雄真さん、私もそろそろ仕事に」
「ええ、さっさと戻って下さい」
「クスン……ベッドの上以外では冷たいんですね、雄真さん」
「俺あなたと一度もベッドの上で何もしてませんよね!?」
 そんなこんなで、再び俺の周りから一旦人がいなくなる。――リレー前にやけにエネルギーを消耗した気がする。
「どしたの雄真くん? やけに疲れた顔して」
「姫瑠と春姫か」
 と、またしてもやってくる女子は、我がクラスのツートッププリンセス二名。――俺はサッと周囲を見渡す。確かに小雪さんは仕事に戻ったようだ。もうこれで弄られないだろう。多分。
「まあ、色々な。――二人とも、これからウォーミングアップか?」
「うん。しっかり準備しておかないとね」
 そう笑顔で答える春姫は、我がクラスのアンカー。ちなみにその前が姫瑠。――二人の能力が高いせいなのか、そもそも魔法科は女子が上位的なイメージがあるのが悪いのか。
「しかし、二人の存在はそう考えると心強いな。結構ウチのクラスの圧勝かな?」
「そうでもないよ雄真くん。C組のアンカー、三津子だし」
「? 加々美さんって足、速いのか?」
「加々美さんはね、瑞穂坂に魔法科で入ろうか、それとも他の学園に陸上のスポーツ推薦で入ろうか迷った末に瑞穂坂に入ったんだよ。今でも瑞穂坂の陸上部のエースだって話」
「うわ、そうなのか」
 去年同じクラスだったとはいえ、あまり女子と一緒に体育をやる機会なんてないしな。
「他にもC組には信哉くんと沙耶もいるし。B組には杏璃がいるしね」
「成る程な……」
 そう考えると、上手い具合にMACICIAN'S MATCHの主力は各クラスに分散されているんだな、と改めて思う。
「それじゃ私達、ウォーミングアップしてくるから。雄真くんは?」
「ああ、俺ももうちょっとしたら行くよ」
「わかった。んじゃ、行こう春姫」
 俺に軽く手を振って、二人は軽くトラックを走り始める。――ちなみに言うまでもないが、外見は文句なしに決まっている二人組である。そりゃ体操着も似合うだろう。
「…………」
 再び警戒してみるが、流石に小雪さんはいなかった。――二人とは既に仲良くなっているからだろうか。
「――お」
 と、ここで初めて女子以外のMACIGIAN'S MATCHメンバーを発見した。折角なので横について走ってみることにする。
「よう、土倉」
「……小日向か」
 相変わらずリアクションが薄い。一歩「仲間」というカテゴリーに置いて前進はしたと思うのだが。
「お前はどうなんだ? リレー」
 走りながら聞いてみる。
「好きじゃない。体育祭でもないのに何故この時期やるのか疑問で仕方ない」
「……まあ、お前らしいご意見だけどな。……とはいいつつも真面目にアップはするんだな」
「――走ること自体は、嫌いじゃないんだ」
「そうなのか?」
 ちょっと意外だった。
「毎朝、ジョギングは欠かさない」
「へえ……」
 これは伏兵だ。B組もかなり強いかもしれない。
「体力をつけたくて走るわけじゃないが、自然と体も強くなるしな。季節にもよるが、早朝は気分がいい」
「成る程な……」
 感心はしてみるが、俺はやれない気がする。起きれないもん。
「結構重要かもな。MAGICIAN'S MATCHの練習にも取り入れるか」
「どうかな、この先一ヶ月先ならわかるが。――まあ、高溝辺りはすることないからひたすら走らせておけば何か違うかもな」
「ハチ、か」
 そういえば、ハチは練習中、魔法が使えるわけじゃないので特に何かするわけじゃないな。可愛い女の子達に声援を送って邪険にされているだけだし。成る程、筋トレとかさせていた方がずっと効率的だ。
「そこら辺、少し考えてみるかな」


 翌日の昼休み。ハチの筋トレの具体案を作る前に、根本的なハチの体力に関してチェックが必要なんじゃないか、という結論に達したので、本人を交えて色々話をしてみよう、ということになった。
 メンバーは俺、相沢さん、柚賀さん、土倉、杏璃、梨巳さんの六名。中々珍しいメンバー構成だが、優しさ、厳しさ、能力、客観的意見など、全ての項目が揃う最低限の人数ということで構成したらこのメンバーになった。――その内二名が「何故私(俺)が」という表情をしているのは余談だし、一応誰がそれを言っているのかは名言しないことにする(バレバレか)。
 俺達は今、普通科校舎を移動中。――携帯で呼べばいいだけの話なのだが、何故か今日この時間に限ってハチの携帯が繋がらないのだ。充電でもし忘れていたのだろうか。まあ理由はともかくわざわざ迎えに行っている、というわけだ。
「ね、ねえ、友ちゃん」
「? どうしたのよ、屑葉」
「何だか……物凄く、見られてない?」
 柚賀さんの指摘。俺もちょっと周囲に気を配ってみると、確かに視線が俺達に集まっている気がする。
「……まあ、無理もないんじゃないかな」
 生徒会長、風紀委員長、Oasis人気ウェイトレス、この三人の存在感はデカイ。しかもここは普通科、あまりこの光景はお目にかかれないだろう。
「気持ちはわかるけど、気にしなくていいのよ、屑葉」
「で、でも……携帯で写真とか撮ろうとしてるし……」
 柚賀さんが控えめに指摘した方角では、確かに男子の集団が、これ幸いにと携帯で写真を――
(ジロリ)
「ひいいいいい!?」
 ――撮ろうとして、梨巳さんに威圧され、速攻で携帯を仕舞っていた。久々に見たが流石だぜ梨巳さん。
「くだらないわね。普通科って、こんな生徒ばかりなのかしら」
「そうね。生徒会長としてじゃなくても、ちょっと幻滅かしら」
 ちょっと大げさに、少しだけ声を大きくして言う二人。――すると。
「……ね、ねえ、友ちゃん」
「? 今度はどうしたのよ、屑葉」
「ほ、ほら、後ろ」
 柚賀さんの指摘に、俺達は振り返ってみると。
「うおおおおお!!」
「てりゃあああ!!」
「どあああああ!!」
 威勢のいい掛け声。
「……小日向、普通科って昼休みに掃除するのか?」
「いや……違うだろ……」
 先程遠巻きに見ていた男子ほぼ全員が、何故か廊下を物凄い勢いで掃除していた。床を磨く奴、窓を磨く奴、水道場を磨く奴、etc...
「……もしかして梨巳さんと友香に言われたから汚名返上のつもり? 馬鹿じゃないの?」
 呆れ顔の杏璃。いや大小あれど俺達全員きっと呆れ顔だ。
「ぬおおおおお!!」
「あちょおおお!!」
 その間も、謎の掛け声と共に掃除は続く。
「……あ」
 と、その集団の一角に、スタスタと梨巳さんが近付いていく。どうするつもりだ?
「ねえ」
「は、はい! 何なりと!」
 どこぞの兵士だ――と思っていると、
「廊下は静かに。減点対象」
 最もな意見だった。一気に静まり返った。
「行きましょう」
「そうね。――屑葉、もう振り返っちゃ駄目よ」
「う、うん……」
 俺達は再び移動を開始。――どうしてもちょっとだけ気になったので軽く俺は振り返って見たら、先程の野郎共は全員ドリフのコントの泥棒のような抜き足差し足の動きに変わっていた。何と言うか哀れだ。
 そんなこんなで、ハチの所属するクラスがある階の廊下に辿り着く。
「ハチって何組だっけ?」
「えっと……ああ、確かここ」
 そういえば何で携帯繋がらないんだろう、とまた最初の疑問に辿り着きつつ、その教室を覗いてみると――
「おおっ、凄えな高溝! いい写真ばっかじゃん!」
「畜生、羨ましいな……何でお前が総大将なんだよ」
「ふははは、どうよどうよ! まあ総大将になれたのは俺の実力があってこそ、だけどな!」
 どうもハチが、練習中や試合の前後に自分で撮影した小日向雄真魔術師団メンバーの写真を見せているらしい。こっそり撮影していたのか。……ばれるのを恐れてもしかしたら今携帯の電源を切っているのかもしれない。
「……やれやれ」
 呆れ顔で、俺が止めようと思い、教室に入ろうとすると――
「待って雄真」
「? どうしたよ、杏璃」
「何か、嫌な予感がするのよね。ちょっと様子みましょ」
 という杏璃の提案により、俺達は廊下に隠れ、そのままハチの様子を見てみることに。……まあ正直俺もここで止めないとマズイ気がしたから入ろうとしたんだけどな。このパターンは、多分……
「おっ、これ杏璃ちゃんの写真じゃん! 相変わらず可愛いなあ」
「なあ高溝、柊さんとはどうなんだ?」
「杏璃ちゃんとの付き合いも俺はもう長いからな〜、お前らの知らない杏璃ちゃんを俺は色々知ってるぜ。俺は杏璃ちゃんのツンもデレも隅々まで堪能した男さ!」
「マジで!?」
「おうよ、二人っきりになった時の杏璃ちゃんの可愛さなんて格別だぜ? 「べ、別にハチにくっつきたいわけじゃないから! ただ今日寒いから、仕方なくくっついてるだけだからね!」って恥ずかしそうに言いながらピタリと寄り添う杏璃ちゃんの温もりなんて最高だ」
「うおおおおお!! お前それ羨ましいにも程があるぞ!?」
「まあ、俺総大将だし。アッハッハ!!」
 …………。
「なあ杏璃、一応事実確認――しなくてもいいよな、うん、悪い」
 俺の横の杏璃さんはとても言葉じゃ言い表せない程の怒りの表情でそこにいらっしゃいました。とりあえず全員さり気なく配置をチェンジし、いつでも誰でも杏璃を食い止められる布陣に変わった。――だから先に止めておきたかったんだってば俺。というかハチは何故に懲りないんだ。そんなことが発生するわけがないだろうに。
「あ、これ、風紀委員長の梨巳さんだよな」
 と、一人の男子が、どうも梨巳さんが写っている写真を手に取ったようだ。
「俺、この人怒ってるイメージしかないんだけど、こうして写真見ると凄い可愛いんだよなー」
「そういえば高溝、この前の試合はこの人と一緒だったんだよな? どうだったんだ?」
「おうよ、梨巳さんとはこの前の試合で急接近したぜ! 何せプロポーズされたからな!」
「マジかよ!?」
「言われたんだぜ〜? 「高溝、私に一生着いて来なさい。私があなたを守るから、あなたは一生を掛けて私を幸せにしなさい」ってな!」
「凄ぇ、確かにそれプロポーズじゃん! お前どうするんだよ!?」
「いやー、正直悩みどころだよな! アッハッハ!」
 …………。
「――理科室って、何階だったかしら」
「ストップ梨巳さん!! 凄いその質問怖いんだけど!? 何の薬品を取り出して何する気だよ!?」
 冷静な表情のままの梨巳さんは、杏璃とは違う意味でまた怖かった。とりあえず俺、相沢さん、土倉、柚賀さんは再びポジションチェンジ。杏璃担当が俺、梨巳さん担当が柚賀さんと土倉、丁度杏璃と梨巳さんの間に位置し、どちらでも対応出来る位置に動いたのが相沢さん。
「おおっ、相沢さんの写真まであるじゃん!」
 と、更に一人の男子が、どうも相沢さんが写っている写真を手に取ったようだ。……おい、待て。まさか。
「俺、この前整備委員の仕事してたら、声掛けて貰ったぜ。今でもあの笑顔が忘れられない」
「流石に高溝、相沢さんとは仲良くなってないだろ?」
「フフフ、甘いな! それこそびっくりする位親密になったぜ!」
「ええ、マジ!?」
「ああ、この前言われたもんね! 「高溝くんともっと早く出会えてたら、一緒に生徒会の仕事が出来たかもしれないし、もしそうなれてたら、今回のMAGICIAN'S MATCH、違う関係で、今以上の関係で参加出来たかもしれないのにね」ってな!」
「うわお前それ、告白されてるも同然じゃん!!」
「いやー、やっぱそうだと思うか? アッハッハ!」
 …………。
「……ふ……ふふ……ふふっ」
「友ちゃん!?」
 相沢さんが薄笑いを始めた。柚賀さんが驚くのも無理はない。正直――初めて相沢さんに、恐怖を覚えた。
「予定変更、本人のチェックとか確認とかいらないわね。――梨巳さん、杏璃、放課後Oasisに集合でいいかしら?」
「ええ、勿論」
「あたしも構わないわ」
 放課後の約束をすると、三人は笑顔で来た道を戻っていく。――今ここで俺がハチに伝えればそれでいいのかもしれないが、何となく伝えられない空気が流れていたので、大人しく一緒に戻ることに。
「ちなみに小日向、あなたも放課後一緒にOasis集合だから」
「え……俺も?」
「当たり前でしょ。何だかんだであたし達の中でハチの生態に一番詳しいのアンタなんだから」
「いや、詳しいとか言われても……それにさ、こういうのって、やっぱり三人で――」
「小日向くん。――来てくれるわ・よ・ね?」
「はい。ぜひ行かせて下さい」
 怖い。相沢さんが怖い。
「ちなみに、恰来も屑葉も手伝って貰うから、そのつもりでいてね」
「……う、うん」
「ああ……」
 二人も、何とも言えない表情で頷いていた。――こうして、ハチの死亡までのカウントダウン……じゃない、ハチの強化訓練企画が、スタートしたのであった。


<次回予告>

「小日向、黙ってないで意見を出しなさい」
「……あー」

始動する、ハチ強化訓練企画!
複雑な気分の雄真を他所に、三人の意思と結束は強く硬く。

「相沢さん、どうしたんだよ? ここ普通科の昇降口だし、そこ、俺の下駄箱――」
「なっ、なな何でもないの! 気に、気にしないでいいのよ? それじゃ!」

果たして三人が辿り着いたハチ強化訓練の為の道筋とは?
そしてそれは見事に成功となるのか?

「俺、よくわからないんだけど……何が起きたんだ?」
「いいんだハチ、お前はお前のまま生きていけ。あと一応すまん」

果たしてハチ、そして巻き込まれた雄真の運命や如何に!

次回、「ハチと小日向雄真魔術師団」
SCENE 14  「幼女と熟女と変態とカジキマグロな男」

「おい高溝、どうした? トイレか? 漏れそうなのか?」
「違うぜ武ノ塚、俺から漏れそうなのは愛だ! 溢れんばかりの愛情さ!」
「はあ?」

お楽しみに。



NEXT (Scene 14)

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