「うおっ、凄えなー! 前回と同じ布陣だから転送されたら同じ景色なんだと思ってたら結構違うな! 毎回毎回木の位置とか障害物の位置とか! これは面白いや!」
 フィールド転送直後、試合開始前、そうやって周囲を見渡しながら興奮気味なのはやはり武ノ塚敏。――彼の言う通り、周囲の風景は前回転送時とはまた違ったものになっていた。
「…………」
 一方のやはり無言でただその場に立って試合開始を待っているのは、同じブロックに転送された梨巳可菜美である。
「……どした梨巳? 体調でも悪いのか?」
「問題ないわよ武ノ塚敏。ただ二回目にも関わらず騒がしい武ノ塚敏がうざったいと思っただけだから」
「何でそんなに厳しいんだよお前……」
「安心しなさい。高溝よりも高評価してるつもりだから」
 あいつ梨巳に何したんだ、と敏は思った。――いや普段の態度から梨巳が嫌うのもわからないでもないけど。
「というかいつまで俺フルネーム?」
「あなたの名前が呼び辛くなるまで」
「改名しろと!?」
 表情一つ変えずに言うので、敏としては可菜美が何処まで本気なのかがわからなかった。――本気かもしれない、と思ってしまう時点で少々おかしいのだが。
「別にさ、俺を敏、って呼んだ所で特別関係が変わるわけじゃないんだからさ、いいじゃん」
「何でそんなに呼んで欲しいのよ」
「折角の機会だから、仲良くなりたい。男女問わず俺は仲良く出来る人間を沢山増やしたいと思う」
「おかしいんじゃないの? 私と仲良くしたいなんて。私がどんな風に呼ばれてるか知らないわけじゃないでしょう?」
「『鬼の風紀委員長 梨巳可菜美』だろ? 別に気にしない気にしない。人は人、俺は俺。俺から見たらお前、普通の可愛い女子だもん」
「…………」
 可菜美がため息をつく。――よし、こうなったら意地でも呼ばせてやる。
「梨巳、引き算の答えって何て言うか知ってるか?」
「差」
「ふすまに合わせて動かす和製のドアは?」
「戸」
「石川啄木が得意としていたものは?」
「モンハン」
「ねえよ!! 石川啄木の時代にモンハンねえよ!!」
 今度は敏がため息をつく番だった。――クールにノリがいいのは好感が持てるんだけどな。
「そんなに呼んで欲しいわけ?」
「ああ。っていうかマジで何かあったらその微妙な差が勝敗を別けると思わない?」
「あなたがもう少し信頼出来るようになって、その上で本当にそんな状況下になったら考えなくもないわ」
「お前それ本当に来るのか? というかひとまず俺何をしたらもう少し信頼してもらえんの?」
「名前で呼んでもらうのを諦める」
「本末転倒じゃん!!」
 そんなやり取りをしていると、試合開始のサイレンが、フィールドに響き渡るのであった。



ハチと小日向雄真魔術師団
SCENE 7  「一人じゃないから」



「基本布陣は、前回と同じか……」
 会場中央に設置されている大きなモニターで確認する。まあ前回もこの布陣で何の問題もなく勝てたからな。
 さて本日はMAGICIAN'S MATCH二回戦。再び応援組は特等席に近い場所で観戦&応援中。
「へえ、話には聞いてたけど凄い本格的なんだねえ。大したもんだよ」
 そうそう、今回は前回とは違い、香澄さんも仕事が休みらしく一緒に観戦に来ていた。パンフレットを見ながら既に片手にはビールが。――野球観戦か何かと勘違いしてませんか香澄さん。
 そんなこんなで試合開始。さて張り切って応援するか、と思っていると。
「――こちら、ご一緒しても構わないかしら?」
 と、何処か聞き覚えのある声で話しかけられた。誰だろう、と思い振り向くと――
「あ……確か、法條院さんの」
「錫盛美月です」
 そうそう、錫盛さんだ。――相変わらずのメイド服だった。目立つっての。
「兄さん、お知り合いですか?」
「ああ、うん。法條院さんの家のメイドさん兼従者の錫盛さん」
「小日向君とは、新宿のホテル街で出会ったの」
「行ってねえ!?」
「雄真さん……私というものがありながら」
「そのリアクションも間違ってますから小雪さん!」
 あああ、何故に俺の知り合いになる人はこんな人ばっかなんだ!
「っていうか錫盛さんって、プライベートでもその格好なんですか?」
「いいえ、今仕事中」
「……はい?」
「玄関先の掃除をしてきます、って言ってここまで来たのよ」
 しれっとした顔でそんなことを言ってきた。とんでもない人だ。こんな人がメイド係長でいいのか法條院家。
「メイドとは言え、一応法條院家に仕える身。この大会の結果が法條院家にも少なからず影響してくると思えば、ね。無論お嬢様の応援ってのもあるけど」
「法條院家にも影響してくる……んですか?」
 まさか負けて罰ゲームがあるわけでもないだろうし。
「優勝した学園、及びその地域にもたらされる名声、功績は大きいはずよ。前回優勝したのは瑞穂坂だから、式守を中心に高峰、御薙、法條院らの権力は結構のものになってるけど、今回別が優勝すれば、その大きな権力が少なからずある程度は動くことになる。名家にしてみれば喉から手が出るほど優勝が欲しいはず。――そうよね? 式守の次期当主さん」
「ふん、要は勝てばいいだけのことだろう。私がおらぬとはいえ、簡単に負けるような構成にはなっておらぬ」
 伊吹も知っていたみたいだ。この様子じゃ小雪さんも知ってただろう。――何だか知れば知るほどどんどん重い感じがしてくる大会だな、これ……
「第一、視線とか感じない?」
「……え?」
 錫盛さんに指摘され、周囲を見渡してみると、確かに視線を感じる。他の学園の関係者だろうか。警戒、場合によっては敵意というか何というか。
「……普通に応援しにきてるあたし達が場違いなのかしら」
 準も指摘されるまで気付いてなかったようだ。――まあ、ついそう考える気持ちはわからなくもないが、
「いいよ、いっそのこと無視して精一杯応援してやろうぜ」
 そんなのに怯んでいてはいけない気がしたので、俺は笑ってそう言ってやる。
「雄真……そうね、みんなの為に、精一杯応援しないとね!」
「頑張りましょう、兄さん!」
「おう!」
 俺達は先ほどの勢いのまま、応援を再開。
「――ま、最悪外野でドンパチしたいってんなら、あたしは喜んで相手してあげるけどねえ」
「そうね。つまらないことを考える輩はとりあえず力で抑えるのが簡単。フフフ」
「おっ、気が合うじゃないのさ」
「こちらこそ」
 よくわからない勢いで生まれた香澄さんと錫盛さんの友情の方が、ある意味よっぽど怖かった、というのは余談だ。というかマジでやりかねんなこの二人。実力もやれるだけのものを持ってるし。
 ――そんなこんなで、順調に試合は進んでいった。優勢なのは我らが小日向雄真魔術師団。ツートップで土倉と相沢さんペア、杏璃と上条さんペア。一歩後ろに梨巳さんと武ノ塚ペア。その三組を後押しするようにシチュエーションに合わせ組んだり離れたりの春姫、姫瑠、法條院さん。
「みんな、格好いいわね」
「ああ」
 ついそんな感想が漏れてしまう準の気持ちは良くわかる。確かにモニターに写る仲間達の雄姿は非常に格好よかった。――と。
「うおぅ!?」
 いきなりモニターにハチのどアップ姿が! 確かに一応総大将だから写ってもおかしくはないのだが、何故かハチはオイオイ泣いていた。
「ハチさん、何が悲しいんでしょう?」
「うーんと……あ」
 思い出した。今回の第二回戦、布陣は前回と同じ。それはつまり、ハチの護衛にいるのも前回と同じく信哉一人なわけで。
「確かにウハウハを求めているハチには辛いかも……ってあれ?」
 いきなりフッとモニターが真っ黒になる。故障か?
『只今、運営側の不手際により不適切な映像が流れましたこと、お詫び申しあげます。復旧まで少々お待ち下さい。繰り返します、只今運営側の不手際により――』
「…………」
「……えーと」
 ハチのどアップ(しかも泣き顔)は、一般常識で見て不適切な映像らしい。なんだかなあ。
「……とりあえず、以後高溝さんの顔にはモザイク、声には変声機をつけましょうか」
「真面目な顔で言うのやめましょうよ小雪さん……」
 ジョークはいつも笑顔で言うだけに、真剣な面持ちで言われると本気のようで怖い。……冗談、ですよね?
「式守の屋敷の倉庫を探せば、おそらく全面を隠せる仮面みたいな品があるとは思うが……」
「いや伊吹さんも真剣な顔でそんなこと言うのやめましょうよ……」
 ジョーク、ですよね? ねえ? 俺もなんか怖いからやめようぜホントに。
「あたしも、流石に整形にいくらかかるか、までは知らないねえ……」
「あの、香澄さん……?」
 香澄さんの頭では既に整形の方向で話がまとまっていました。いや、だから、その。
「兄さん、この試合が終わったら、最後の記念にハチさんと一緒に写真を撮りませんか?」
「もう終わってるって確定してるんですね、すももさんの中では」
 写真を撮っておいてビフォーアフター、みたいな。
 ――俺達のそんな心配を他所に、試合は順調に進み、小日向雄真魔術師団は、見事第二回戦も勝利を収めた。……ハチの顔という、新たな問題点を残して。


『放課後、「Rainbow Color」に一緒に行きませんか?』
 本日はMAGICIAN'S MATCH二回戦の翌日。その日の昼休み、春姫と一緒に廊下を歩いていると、そんなメールが届いた。差出人は柚賀さん。今日は小日向雄真魔術師団の練習は休みなので、誘ってくるのはまあいいのだが、
「誰からのメールだったの?」
 当然こんなメールを柚賀さんに貰えばどうしたもんか、と考えてしまうし、メール貰って考えてしまえば横の春姫が疑問に思うのは当然だった。――どう考えても誤魔化せそうにないので、正直に話す。
「いや、決してやましい気持ちも怪しい関係も変な下心等諸々は何も所持してないんだけど、柚賀さんから放課後「Rainbow Color」に行きませんか、っていうメール貰った」
「ふふっ、なんでそんなに前置きが沢山あるのかな? 私の知らない所で、柚賀さんと何かしてるのかな?」
「あ」
 ゴゴゴゴゴゴゴ。――満面の笑みから洗い浚い正直に話さないと殺す、みたいなオーラが(流石に実際には殺さないだろうけど)。しまった、逆に怪しかったか!
「い、いや待ってくれ春姫、俺としてもこんなメール貰うなんて思ってなかったし、その」
「なんて、ね」
「……え?」
 スッ、と春姫の殺気が消える。……あれ? 冗談、だったのか?
「確かに気にならないって嘘になるけど、でも雄真くんをちゃんと信じるから。雄真くんの彼女として、ちゃんと信じなきゃ駄目だって、思ってるから。好きって、大切に思うって、そういうことだもん」
「春姫……」
 姫瑠とのことがあったおかげだろうか。そう俺に告げてくる春姫は、少し大人になった、そんな気がした。
「だからといって、浮気がいいなんて言ってないからね?」
「わかってる。――そういうカテゴリーにおいて俺が好きなのは、春姫だけだから」
「うん」
 嬉しそうに頬を染めて頷く春姫を見て、ああやっぱり俺はこの女の子が好きなんだな、と再確認していると、再びメール。
「……今度は相沢さんからだ」
 しかも、件名は「補足」。――察するに、先ほどの柚賀さんのメールについて、だろう。二人は仲の良い幼馴染、一緒にお昼ご飯を食べていて、その時に柚賀さんの方がメールを送ってみて、みたいな感じだったのだろう。
「相沢さんは、なんて言ってきてるの?」
「うん。――何でも今、柚賀さんは仲の良い人を増やそうキャンペーンを実践中らしい」
 つまりあれはデートのお誘いではないので勘違いしないで欲しい、ということと、俺に連絡を取れば他にも色々な人に話が飛んで、そこそこの人が一緒に来てくれるんじゃないかという柚賀さんの勝手な思惑による結果からだ、ということが相沢さんのメールには記してあった。彼女は今回のようなことにまだ慣れていないので伝わってないと思うのでごめんなさい、とも書いてあった。
「でも、仲の良い人を増やそうキャンペーン、か」
 先日のやり取りで何かを感じ取った上での行動ならば嬉しい。ならばぜひ協力せねば。
「春姫も当然来るだろ?」
「うん。私もまだ柚賀さんとはあまりお話する機会がなかったから、丁度いいかも」
 これでとりあえず春姫は決定。後は誰を呼ぶか。
「――あ、梨巳さん」
 と、程よく廊下を梨巳さんが通りかかる。――この人は毎回上手いタイミングで会うな。
「梨巳さん、放課後空いてない? 何人かで駅前のRainbow Colorに行くんだけど」
 そう告げると、梨巳さんはスタスタ、と俺の目前まで迫り、
「……え?」
 指で俺の顎をクイッ、と持ち上げ、ふっと笑みを見せ、更にギリギリまで顔を俺に近づけ、
「私、あなたと出かける時は、二人きりじゃないと嫌って言ったじゃない」
 そう言うとパッと指を離し、俺の横をすり抜け、そのままスタスタと歩いていった。――って、俺が嫌いだからってこういう悪戯をするのかよ!!
「ふふっ、雄真くん、私の知らない所で、梨巳さんと何してるのかな?」
 ゴゴゴゴゴゴゴ。――満面の笑みから以下省略。……ああ、でもこれは。
「はははっ、梨巳さんにも困っちゃうよな」
 ゴゴゴゴゴゴゴ。
「ははは、ははは……」
 ゴゴゴゴゴゴゴ。
「……あ、あれ?」
 ゴゴゴゴゴゴゴ。――おかしい、そろそろさっきみたいに「なんて、ね」がきてもいい頃なんだが。
「…………」
 ゴゴゴゴゴゴゴ。
「――って、今回はもしかしてジョークじゃない!?」
 結論。――まだまだ一定以上になると、駄目みたいです。チーン。


 というわけで放課後になった。俺、春姫、柚賀さん、相沢さんに加え、杏璃、上条さんを加えた総勢六名にて駅前のRainbow Colorへ向かうことになる。
 さて、ここでRainbow Colorとは何か、を説明しておくべきだろう。Rainbow Colorとは駅前商店街の一角にある魔法関連の小物を扱う店で、実用性が求められる魔法関連の小物というカテゴリーの中で、女の子向けの可愛らしいデザインの品が豊富に取り揃えられている、という魔法科女子にとても人気のあるお店らしい(俺は春姫から話を聞いただけで行ったことがないので断言は出来ず)。
「…………」
 で、移動中になってやっと気付いたのだが、俺このメンバーに含まれて一緒に行っていいんでしょうか、ということになるわけで。可愛い女の子五人に対し男一人。際どい。非常に際どい。
「相変わらずお前はいちいち細かいことを気にするな」
「いやあ細かい問題点なんでしょうかクライスさん」
 そりゃこの手のシチュエーションはクライスが大好きだけどさ。
「まあ、確かにあまり慣れられるようなシチュエーションでもないがな。だがこの程度に気後れしていてはいざという時困るだろう? 将来、国に関わるような魔法使いになって、女性ばかりの名家と関わることになった時とかな。直属の配下が女性ばかり、というのもありえるぞ」
「そんなもんなのか……」
 いや別に俺も可愛い女の子に囲まれるのが嫌とかそういうことを言ってるんじゃないんだけどな。
「それによく考えてもみろ。あの五人中、既に四人は手篭めにしただろう?」
「してねえ!?」
 どんな解決策だよお前。――と、そんなやり取りをしている間に、目的の店、Rainbow Colorに辿り着く。成る程、店自体はそう大きくはないが、綺麗で可愛らしい作りは確かに女の子向けだ。
 自動ドアが開き、俺達は店に入った。
「でね、それが――あ、いらっしゃいませー♪」
 と、店に入るとレジの近くで話をしている三人の女の人が。レジの向こうにいて今いらっしゃいませ、といった人がお店の人で、残る二人はその人の友達だろうか。
「おっと、お客さんか」
「さつき、邪魔にならないように」
「おっけおっけ」
 案の定、そんな会話をして、端にその二人は移動した。
「……あれ?」
 そんな得に疑問を感じるはずのない光景に、何か引っかかるものを感じた。何だろう? 確か――
「あの……もしかして、三人とも、五年前のMAGICIAN'S MATCHに、参加していませんでしたか?」
 最初にそう切り出したのは相沢さんだった。――そうかこの人達、最初の集まりの時に成梓先生が見せてくれた拡大写真に写ってた。だから覚えてたんだ。
「おおっ、凄い凄い〜! よく知ってるね♪」
「いやいや、私の知名度も馬鹿に出来ませんね〜、四天王の夕菜や冬子はともかく、私まで知ってるなんて」
「大方、茜さんが写真を拡大してこれが前回の、みたいな感じで見せたんでしょ」
 三者三様のリアクション。まあどちらにしろ間違いではなかったようだ。
「おおっと、質問に答えなきゃね。――うん、そうだよ。わたし達、瑞穂坂学園のOGで、五年前のMAGICIAN'S MATCHに出てたの」
「いやー、思い出すね、五年前」
「そうね。夕菜が試合直前におやつ食べ過ぎてお腹壊して欠場とかさつきが前の晩騒ぎ過ぎたせいで寝坊して欠場とか、色々あったわ」
「うっ」「うっ」
 …………。
「よ、よく覚えてるね、冬子ちゃん」
「さ、流石の記憶力ですな、乙姫殿」
「覚えてるわよ、茜さんと即興で陣形組み直すの大変だったから。というか乙姫って呼ぶな」
 とりあえず、五年前は五年前で色々あったであろうことは何となく察せた。
「え、えっと……とにかく、みんな今年のMAGICIAN'S MATCHに出場してるのかな?」
「はい」
 俺は応援団長だけど。
「そっかそっかー、何だか嬉しいねえ。――ようしっ、それじゃ頑張ってるみんなへの応援も兼ねて、色々サービスしてあげよう!」
「何でそれを店の関係者じゃないさつきが決めるのよ」
「大丈夫だよ、さつきちゃん、冬子ちゃん。さつきちゃんが言わなくても、わたしは今そうしようって思ってたんだ。――というわけで、頑張ってる可愛い後輩のみんなの為にも色々サービスしてあげちゃうからね。何かわからないことがあったら、遠慮なく冬子ちゃんに聞いてね」
「……何で店の関係者じゃないあたしに店のことを質問させるのよ」
 まあ、確かに今までのやり取りを見ているとお店の人よりもそこにいる冬子、と呼ばれている女の人の方に聞いた方がいい気もしてきてしまう。――とりあえずそんなこんなで、俺達は各自色々見てみることになる。
「あの……ちょっとお尋ねしたいんですけど……」
「はい、なんでしょう? どんなのをお探しかな?」
 と、お店の人に質問に向かっていたのは柚賀さんだった。
「私、総魔力が少ないわけじゃなくて、事実レジストとか防御関連の魔法は普通に使えるんですけど、攻撃魔法になるとほとんど魔力が使えないというか、注げなくなるんです。なので、少しでもそういうのをサポート出来るような品ってないですか?」
「ふむふむ、成る程。――ちょっとどんな感じだか、魔法見せてもらっていい?」
「はい」
 柚賀さんが詠唱を開始する。目の前に魔法球を作り出すだけの簡単なやつだ。直後、柚賀さんの前に、黒い魔法球が生まれる。
「へー、珍しい子だね。闇属性って珍しいんでしょ?」
「さつきがそう考えるのもわからないでもないけど……違わない? あれは」
「うーん、冬子ちゃんの言う通り、違うかも。何となく、普通の魔法球に何かの力が加わって、あの色になってるんじゃないかなあ?」
 確かに、細かいことはわからないが、柚賀さんの魔法球は、独特な感じが伝わってきていた。
「えっと……これで、攻撃の時だけ上手く注げないんだっけ?」
「はい、そうなんです」
「ふーむ、それじゃね……」
 店員さんが、いくつか用意してみて、色々試してみる。
「――うーん、難しいねえ」
 ――が、どうもしっくりこないようで、足踏み状態になり始めていた。そんな時。
「そうだ、松永さんに聞いてみよう。――ちょっと待ってて、直ぐに戻るから」
 何か思い当たる案が出てきたか、店員さんは一度お店の外へ。その松永さんに聞いてくるんだろうか?
「ただいまー」
 戻ってきた。
「で、こちらがお隣で絶賛営業中の松永さん。松永さんのお店は魔法具修繕屋で、修理したり改造したり出来るから、わたしよりも何かわかるかもしれない」
 連れて来ていた。いや確かに説明を聞く限りでは適任な人かもしれないが。
「……いや、来て言うのもあれなんだけどさ、俺滅茶苦茶営業中だったんだけど、店」
 案の定無理矢理店ほったらかしにされていた。――えー。
「硬いこと言いっこなしですよ、松永さん。松永さんの仕事にもなるかもしれませんから♪」
「……なんなかったらどうなんの?」
「わたしが似顔絵書いてあげます」
 意味がわからない。――連れて来られた松永さんも呆れと苦笑が入り混じっていた。
「まあいいや。――んで? 何がどうなってるわけ……って、この間のお嬢さん?」
「あ……」

『それに、世の中どうにもならない連中で溢れてても、ほんの一握り、わかってくれる人間はいるんだぜ? 君のことを、わかってくれる人がいる。だから、頑張れ』

「この前の、川原の……」
「? 屑葉、知り合いの方なの?」
「友ちゃん。――知り合いっていう程でもないんだけど、この前偶然ちょっと話す機会があって」
「こうして再会出来たのはかなりの偶然、っていう位の間柄かな。にしても……何だ、ちゃんといい友達に囲まれてるじゃないの」
「あ……その、わざわざ心配していただいて」
「大したことじゃない。気にするな」
 そう言って松永さんは笑う。――傍らから見てる俺としてはさっぱりなのだが、多分悪い話ではないんだろう。
「っと、本題に戻るか。で? なして俺は呼ばれたわけ、野々村さん」
「えっとですね――」
 …………。
「成る程ね。――ちょい俺にも見せてくれる? 君の魔法」
「あ、はい」
 再び柚賀さんは詠唱、黒い魔法球が生まれる。
「――成る程。で、野々村さんが選んだ候補は?」
「えっと、この辺りかな、と」
 松永さんはお店の人が選んだ候補の中から一つ、チョーカーを選ぶ。
「ちょい待ってて」
 続いてポケットからペンのような道具を取り出し、そのチョーカーの裏側に何かを書くような仕草。――俺も初めてみるが、あれが多分魔法具修繕、と呼ばれる作業の一環なんだろう。
「――こんなもんだろ」
「え? もう出来たんですか?」
 松永さんの作業は、恐らく時間にして三分程度だったと思う。確かにわからない俺達にしてみれば疑問の時間だ。
「うん。つけて試してみ?」
 促されるまま柚賀さんはそのチョーカーをつけ、再び詠唱。
「あ……凄い、コントロールし易くなりました!」
 直後、少し興奮したような柚賀さんの言葉で、魔法具修繕は成功していたことが実証された。同時にこの松永さんの実力も。
「へえ……魔法具修繕って、凄いんだ……」
「私も、初めて見ましたが、驚きですね……」
 杏璃や上条さんの驚きはわかる。無論俺も驚いている。今まで知らなかったジャンルだし。
 俺も何か、やってもらおうかな? なんて思いつつ、色々見て回ったのだが、よくよく考えたらこの店女の子向けのデザインばっかりだったのでどうにもならなかったりするのだった。


「へえ……魔法具修繕って、凄いんだ……」
「私も、初めて見ましたが、驚きですね……」
 杏璃や沙耶を始め、今回Rainbow Colorに一緒に来ているメンバーが全員松永庵司の腕に驚いている最中、一人だけ、違う感情でその光景を見ている者がいた。
(奴は……何者だ……?)
 雄真の背中にいるクライスである。――根本的なことを言えば、クライスとしては屑葉の魔法の時点で少々困惑していた。御薙鈴莉と共に過ごしていた時間は、彼に絶大な経験と知識をもたらしている。――が、その彼の知識や経験の中に、屑葉の黒い波動はなかったのである。
 そして黒い波動の時点で疑問な中、その黒い波動の性質を読みきり、あっさりと魔法具修繕してみせた松永庵司。何気ないその光景は、クライスにとってみれば異様な光景だったのだ。
(……考え過ぎ、か)
 いちいち深読みするのは悪い癖だ、と心の中でクライスは苦笑する。――だが、そうは思っても、心の端に、その違和感と疑問が残った。
(今後も何もなければいいが、な)
 今はそう結論し、とりあえずはそのことに関して考えるのを止めるのであった。


<次回予告>

「ぬおおおおお!!」
「うううううう!!――あ、お早う!」

素敵な素敵な(?)朝のスキンシップタイム。
そんな暖かい時間で見つかる、ほんの些細なこと。

「第一回戦、第二回戦を終え、今後は段々と強豪チームとぶつかるようになっていくと思います。
なので、ここまでの試合を通じて感じたこと、思うこと、
意見を集めて少し話し合いの場を持ちたいと思います」

順調に勝ちを重ねる小日向雄真魔術師団。
更なる向上の為に、そんな話し合いの場を設けたのだが……

「この……っ!!」
「相沢さん、落ち着け!!」
「友ちゃん、待って、お願い!」

そこで発生してしまう綻びが、彼らの快進撃を崩す――!?

次回、「ハチと小日向雄真魔術師団」
SCENE 8  「正義と悪とプライドと」

「私、この学園に進学する前――中学生の時、軽い苛めにあっていた頃があるのよ」
「え……?」

お楽しみに。


NEXT (Scene 8)

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